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シナリオ詳細

破棄された研究。或いは、さよなら倫理…。

完了

参加者 : 5 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●破棄された研究
 練達。 
 とある山岳地帯。
 苔に覆われた鉄の扉のすぐ前で……眼鏡をかけた女性がビシっとポーズを決めた。
『 Opa! エントマ・ヴィーヴィーの~! エントマ! チャンネル~!!』
「あれ? そういう趣旨なのだわ?」
 眼鏡の女性、エントマ・ヴィーヴィー(p3n000255)の言葉に「おや?」と首を傾げて華蓮・ナーサリー・瑞稀 (p3p004864)が問うた。
「あ、違うや。そう言う趣旨じゃなかった。えっとね……今日、2人に来てもらったのは、ここの調査をしてもらうためなんだよね」
 口に当てていたハンドスピーカーを降ろして、エントマは背後の扉を指さす。
 華蓮と、そしてトール=アシェンプテル(p3p010816) の2人は口を閉じ、エントマの話に耳を傾けるのだった。

 事の起こりは2週間前。
 練達のとある山の麓付近で奇妙な遺体が発見された。
 遺体はすでに墓地に埋葬されているが、実物を見たエントマ曰く、その遺体は実に奇妙なものだったという。
 まず、遺体は一切の衣服を身に付けていなかった。
 頭髪を含む体毛は無く、性別さえも判然としない。
 背丈は成人男性程度。けれど肌は老人のように皺だらけ。
 そして何より、その遺体の形状はまるで胎児をそのまま大きくしたかのように歪で奇怪なものだったという。
 遺体は何もしゃべらない。
 だが、遺体に付着していた花粉や、足の裏にこびり付いた土を調べて“それがどこからやって来たのか”を突き止めることには成功したそうだ。

「そうしてこの扉……まぁ、研究所の跡地みたいなんだけど……を発見したってわけ」
 1週間前、エントマは実際に研究所の内部へ足を踏み入れたらしい。
 だが、調査は思うように進まなかった。
「入口付近に転がっていた書類から、この研究所が“デザイナーズベビー”の開発を行っていたのは分かったよ」
 デザイナーベビー。
 遺伝子操作により、人為的に作り出された子どものことだ。優秀な遺伝子を掛け合わせること……そして、受精卵の段階で科学の手を入れ、より優秀な人間を作る研究を倫理に反していると言うものもいるだろう。
 当然、この研究所も上のような非難を受けた。そうして、閉鎖に追い込まれた。
 だが、しかし……。
「どうも、まだ稼働している風なんだよね。その証拠に、扉を抜けた先の廊下には非常灯が付きっぱなし出し、武装したガードロボットはひしめいてるし。もう、調査のしようなんて無いよね」
「つまり、私たちに求められているのは武力……ということでしょうか?」
 胸の前で手を握り、トールは不安げに問うた。
 
●人造人間
 ガードロボット。
 エントマがそう呼んだのは、4本の脚と4本の腕を持つ、鋼の人型兵器である。
 赤く光る単眼には、高性能カメラと熱感知センサーが搭載されているらしい。
 武装は2本のレーザーブレードと、2対のレーザー兵器である。
 ガードロボットが研究所内でそれらを行使することが前提とされているのだろう。
 横幅30メートルを超える通路の壁は、ちょっとやそっとじゃ傷の1つも付かないほどに頑丈らしい。
「レーザー兵器には【紅焔】【雷陣】が、レーザーブレードには【絶凍】【退化】が付与されているみたいだね」
 ガードロボットは基本的にはスリープモードで待機している。
 そのためか、稼動は入り口付近のものから順番に……ということになるらしい。
「時間が経過すればするほど、ガードロボットの数が増える……そういうことですね?」
「なるべくさっさと奥まで進みたいけれど、無視していくのも悪手なのだわ」
 エントマが地面に描いた研究所内の見取り図を、華蓮とトールが見下ろしている。
 入口を入ってまっすぐ進む。
 最奥まで進むと右へ曲がる。
 曲がって、まっすぐ進むとまた右へ。
 その次も、そのまた次も右である。
「通路で四角形を描くみたいな感じね。何回か曲がると、中心部にある研究施設に到着するよ」
 研究施設。
 件の遺体……きっと、施設から逃げ出して来たデザイナーベビーだろう……は、きっとそこからやって来た。
「果たしてそこに何があるのか。2人にはそれを確認して来てほしいんだよね。ほら、このカメラを貸してあげるから」
「? エントマさんは一緒に来ないんですか?」
「え? 行かないよ。危ないでしょ? 知ってる、トールちゃん。危ないところに行くとね……危ない目に合うんだよ」
 多少の危険は気にしないが、命に関わるとなれば話は別である。
 イレギュラーズと何度か共に仕事をしているエントマは「自分では生きて帰れないような危険がこの世界には多く存在している」ことを、十分に理解しているのだ。
「危ないところに行くと危ない。なるほど、真理なのだわ」

GMコメント

●ミッション
研究所跡地、最奥まで辿り着くこと

●ターゲット
・ガードロボット×多数
4本の脚と4本の腕を持つ、鋼の人型兵器。
赤く光る単眼には、高性能カメラと熱感知センサーが搭載されている。
武装はレーザーブレードと、レーザー兵器。
レーザー兵器には【紅焔】【雷陣】が、レーザーブレードには【絶凍】【退化】の効果が備わっている。

●フィールド
練達。
とある山岳地帯にある研究所。
研究所内の通路は広く、幅は30メートルほど。
壁や天井は分厚く頑丈で、ちょっとやそっとでは傷もつかない。
壁のところどころにある格納庫から、順次、再起動したガードロボットが湧きだしてくる。
通路は四角形を描くように展開されており、最奥部には研究施設があるようだ。
研究施設では、デザイナーベビーの研究、開発がおこなわれていたようだ。

●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • 破棄された研究。或いは、さよなら倫理…。完了
  • GM名病み月
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2023年04月02日 22時05分
  • 参加人数5/5人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 5 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(5人)

エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
ココロの大好きな人
※参加確定済み※
セレナ・夜月(p3p010688)
夜守の魔女
玄野 壱和(p3p010806)
ねこ
トール=アシェンプテル(p3p010816)
ココロズ・プリンス
※参加確定済み※

リプレイ

●奇妙な研究所
 重厚な金属扉を押し開ける。
 ひやりとした空気に、油の臭いが混じっていた。
 床も壁も天井も、すべてが鋼で出来ている。ためしにコツン、と『愛娘』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)が壁を叩いた。
「ふむ……」
 分厚い壁だ。とてもじゃないが、壊せそうにない。
「デザイナーベビーの研究だなんて……どこの世界でも業の深い事を考える人間は居るものね」
 腰に手を当て『夜守の魔女』セレナ・夜月(p3p010688)が鼻を鳴らした。
 ここは練達の山岳地帯。ひっそりと隠れるように用意された研究所だ。
 詳細は現在不明だが、どうやらこの廃棄された研究所ではデザイナーベビーが造られていたようだ。人がいなくなってしばらく経つようだが、驚くことに研究所は今も稼働しているらしい。
 今も研究所では、デザイナーベビーの開発が進められている。つい先だって、山の麓で発見された奇妙な遺体がそれである。
「デザイナーベビー、完全な人を造るってデケェ考えだが大抵は私欲にまみれたロクでもねぇ奴らが造るもんダ」
 非常灯に照らされた、薄暗い廊下に『黒のイツワ』玄野 壱和(p3p010806)の足音が響いた。金属壁に反響しながら、小さな足音は廊下の奥へ、遠くの方の闇の中へと吸い込まれていく。
 と、その直後だ。
 廊下全体が、地震みたいに揺れ始めた。
「来ましたね。4本の脚と4本の腕……鋼の人型……聞いていた特徴と一致します」
 薄暗がりに、赤い光がポツンと灯った。ガードロボットの頭部に付いた単眼である。高精度カメラと熱感知センサーの機能が付いた優れものだ。
 数は1体。
 だが、地響きは続いている。今も長い廊下のどこかで、ガードロボットは次々に機動を始めているはずだ。『女装バレは死活問題』トール=アシェンプテル(p3p010816)はチラと視線を右へと向ける。
 トールの視線を受け、『蒼剣の秘書』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)は目を閉じた。先行させたネズミやカラスの目を通し、廊下の奥の様子を確認しているようだ。
「……うぅん? このままだと、1分以内に1体……その後は立て続けに数体と接敵することになるのだわ」
 研究所の廊下はそれなりに長い。
 最奥の研究施設に辿り着くまでに、何体ものガードロボットと相対することになるだろう。機械的に侵入者の排除を行うだけのガードロボットだが、恐怖や痛みを感じないというのはなかなか厄介だ。1体、2体はどうにかなっても、数が増えれば物量で圧倒されかねない。
 足を止めている間にも、ガードロボットはゆっくり、けれど確実に距離を縮めて来る。それを見やって、エクスマリアは顎に手を触れ、思案する。
「トールに作戦があるんだった、か? それで、ガードロボットのセンサーを潰せるか試してみよう」
 
●デザイナーベビー研究所
「どうやら機械のセンサー類は強烈な光を浴びせると一時的に機能不全を起こすらしいです。練達で調べました!」
 それがトールの考案した、ガードロボット対策である。
「ふむふむ……目が眩んじゃうのかしら…? トールさんはとっても物知りなのだわ!!」
 華蓮は賛同の意を示す。ガードロボットは、頭部のカメラを頼りに周囲の様子を確認しているのだから、閃光なりでそれを潰せば、十全に行動できなくなるのは明白だ。

 まずは、1体。
 ガードロボットの眼前へ、エクスマリアとセレナが飛び出す。
「こいつは、早々に潰してしまおう……星夜ボンバーで、ロボットの目と耳を、潰す」
「上手くセンサーを焼けるといいんだけど」
 2人が腕を振りかぶる。
 その手に握られているのは小さな爆弾だ。迎撃のためか、ガードロボットが2門のレーザー兵器を構えた。
 きゅいい、と奇妙な音を立てて、兵器に光が集まっていく。
 レーザーの発射まで、必要な時間は数秒程度か。僅かな時間だ。だが、2人が爆弾……聖夜ボンバーを投擲するには十分すぎる時間である。
 爆弾はゆるやかな弧を描き、ガードロボットの頭上へ飛んだ。
 刹那、ロボットの頭上で爆弾が弾けた。響く爆発音。同時にきらきらとした星が飛び散る。爆発時の音と衝撃、熱に注意を引かれたのかガードロボットは2門のレーザー兵器を頭上へ向けた。
 がら空きになったガードロボットの足元を、壱和が駆け抜ける。
 猫のように俊敏、そしてしなやか。
 足音もなく跳躍すると、ガードロボットの後頭部へと跳び移る。
「お、あからさまに意識が逸れたナ。それじゃ、派手にブッ壊すとしますカ!」
 そうして、一閃。手にした箒を振り抜けば、ガードロボットの首が軋んだ。
 外れかけた首の部分で火花が散った。
「よシ! こいつはオレに任せて、2人はさっさと先に進みナ!」
 壱和が声を上げると同時に、トールと華蓮が駆け出した。
 2人が抱えて運ぶのは、2つの半球状の物質を組み合わせた奇妙なオブジェクト。球と球が触れ合わないよう、間にスプーンが挟まれている。
 名を愉快玉。
 スプーンを引き抜き、半球同士が接触すると強烈な青い閃光が溢れ出すという代物だ。なお、青い光を浴びても何ら問題は無い。
「……トール? それはちょっと危ない奴じゃ……」
「へ、平気ですよ。無害です」
「無害? ホント?」
 箒に乗ったセレナがトールから距離を取る。一方、トールは顔を赤くしてワタワタしていた。どうやら華蓮と密着状態なのが恥ずかしいらしい。

 デーm……愉快玉は重たいようだ。
 そして、取り扱いには繊細にならなければいけない類の代物でもある。
 えっちらおっちらと愉快玉を抱えた2人が、最初の曲がり角へと差し掛かる。先行していたエクスマリアとセレナ、壱和の3人がガードロボットを押さえていた。
 ガードロボットの数は3体。
 そのうち、撃破されたのが1体。
 今しがた、追加されたのが2体だ。
「気を付けて持ってくださいね、華蓮さん……あの、何だか近くないですか? もう少し離れてもらえると~……スプーンが外れてしまっては……」
「え? このスプーンがなんて? ってあっあっ危ないのだわー!」
 バランスを崩して華蓮がこけた。
 その拍子に、愉快玉からスプーンが外れる。
 そうして、半球同士が接触したのだ。
 これまで封じられていた、その悪魔的な性能が十全に発揮されたのである。
「ままっ! くっ……皆、目を閉じ、ろ!」
 エクスマリアが華蓮へ向かって手を伸ばす。だが、間に合わない。
 咄嗟に目を閉じるように告げ、自身も顔を両手で覆って硬い床へと転がった。

 世界が終わる瞬間とは、きっとこのようなものだろう。
 そう思えるほどに幻想的かつ鮮烈に、青き光が……否、それは炎と呼ぶべきか……廊下へ溢れ出したのである。
「さぁどうだ!? 上手く行けばこれで一網打尽、少なくともカメラは封じられるはず!」
「目がぁーなのだわ! 目がぁーなのだわぁ!」
 目を閉じていても、瞼を貫き青い光は華蓮の網膜を焼いた。顔を押さえて、床に転がる華蓮の元へ、エクスマリアが慌てて駆け寄る。
「ままっ!? 大丈夫、か、まま! なんてこと……誰がこんなひどいこと、を!」
 華蓮を助け起こし、そのまま引き摺って行く。
「次の角まで直進しましょう。ガードロボットが、今の音と光でしばらく満足に動けないでしょうし」
「あぁ。了解、した。が……セレナは平気、か?」
 心配そうにエクスマリアがセレナを見た。
 箒に乗って先導しているセレナの腹部から、だらだらと血が溢れている。金属の床に、ぽたぽたと血の雫が零れた。
 レーザービームが脇腹を掠めたのだろう。
「無事カ? まだ先は長そうだが、バックアップなら任せナ」
 セレナたちを先に行かせて、壱和は最後尾へと回る。ガードロボットたちのカメラは、強烈な光を浴びて機能を麻痺させたようだ。
 熱センサーを頼りに武器を振り回すが、同士討ちを繰り返すばかり。
 この調子なら、研究所を踏破するのにさほどの苦労はかかるまい。

 苦労はかかるまい……と、そう思っていた。
「次から次へと……愉快玉を弾けさせる余裕もないわね!」
 箒に跨り飛び回りながら、セレナが手から魔力の砲を解き放つ。閃光が虚空を駆け抜けた。ガードロボットのカメラを撃ち抜き、一時的に動きを止めた。
 その隙に、壱和とトールが前へ出る。
 ガードロボットの体は大きい。加えて、レーザー兵器による長距離攻撃手段も油断ならない。1体だけならなんとでもなるが、数が増えれば混戦に持ち込んだ方が被害が少ない。
「とはいえ……っ! これだけ数がいると」
「ジリ貧だナ」
 レーザーブレードが振るわれるたび、2人の体から血が跳んだ。
「大丈夫なのだわ! 必ず護り切るから、攻撃に集中してしまって!」
 微かな歌声。
 それから、淡い燐光が散った。
 華蓮の治癒が、トールと壱和の傷を癒す。
 まずは1体。
「はぁっ!」
 トールの振るった輝剣が、ガードロボットの首を落とした。
 
 4つ目の曲がり角には大量のガードロボットが待ちかまえていた。だが、そこを抜ければ研究施設はすぐそこだ。
「際限無く湧き出てこられては、厄介、だ」
 エクスマリアが歌を奏でる。
 鋼の廊下に反響した歌声が、ガードロボットの体を軋ませる。否、ガードロボットだけではない。ギシ、と重たい音を立てて壁や天井が歪んだのだ。
 だが、その代償は大きかった。
 発射されたレーザー光線が、エクスマリアの腹部を射貫いたのである。
「ぐっ……格納庫の扉は歪ませ、た、ぞ」
「よシ。それじゃあ、ここはオレに任せときナ!」
 両腕をだらりと下げた壱和が前へ。
 右腕にや火傷、左腕には氷が張り付いている。
 眼前にはレーザーブレードを振り上げたガードロボットの姿があった。数瞬後には、レーザーブレードが壱和の体を裂くだろう。
 だが、壱和は笑った。
 震える手で壱和が放り投げたのは艦艇用発炎筒だ。それはガードロボットの頭部と体の隙間に突き刺さり、膨大な量の煙と炎を噴き上げた。
 斬、と。
 壱和の胸部をレーザーブレードが引き裂いて、その意識を刈り取った。

「駆け抜けるわよ!」
 セレナが飛んだ。
 片手で箒を握りしめ、もう片手で意識を失った壱和の身体を引き摺っている。【パンドラ】を消費し、もうじきに意識を取り戻すだろう。
 ガードロボットたちは、追いかけて来る様子は無い。発炎筒の炎に引き寄せられているのだ。
「っ……避けるのだわ!」
 先行していた華蓮が叫ぶ。
 セレナの背後で、空気の爆ぜる音がした。
「受け取って!」
 壱和の体をセレナが投げる。
 華蓮がそれを受け取ると同時に、レーザービームが放たれる。
 空気の焼けるいやな臭い。
 次いで、セレナの背中に走る痛みと熱。
「きゃぁっ……!?」
 箒から転がり落ちたセレナは、そのまま動かない。
 ダメージが大きいのだ。
「平気ですか! あと少しです!」
 セレナの前へ駆け寄って、トールが手を差し伸べる。
 その手を取って、セレナは笑った。

 警戒解除のボタンを押した。
 それだけで、ガードロボットたちは機能を止めていた。破損したガードロボットはその場に残し、無事なガードロボットたちは格納庫へと帰還していく。
「これで本来の目的を果たせる、な。研究内容が少しでもわかるものがあると、助かる、が」
 額に滲んだ汗を拭って、エクスマリアは研究室をぐるりと見渡す。
 ずらりと並ぶ幾つものモニター。壁際の本棚や、デスクの上に積み上げられた大量の書類。
 その1つを手に取って、エクスマリアは眉を顰める。
「有効活用のし甲斐があるネェ! 予想以上ダ……[ねこ]もねぇし、うちの技術には到底及ばねぇがそれでも利用価値があル……ウヒヒ♪」
「壱和には読めているの、か?」
 書類を捲る壱和を見やって、エクスマリアは目を丸くした。

●デザイナーベビー研究所
 薄暗い部屋の奥の方には、幾つもの機械が並べられていた。
 10か20か、管のつながったガラスカプセル。そのうちの半分ほどは割れていて、中には何も残っていない。
 残る10のカプセルのうち、4つは機能停止している。
 そして、残る6つの中には青白い液体と、人の胎児が浮いていた。
「沢山のモニターと見た事ない機械……初めて来た場所なのに懐かしい……」
 培養カプセルの前に立って、トールは茫然とそれを見ていた。
 この部屋に似た空間に見覚えがある。
「トール……懐かしい? あなたの世界の事も気になってくるわね」
 カプセルの中の胎児と、トールの様子を交互に見やってセレナは問う。カプセルの中に浮かんでいる胎児は、たしかに“人の赤ん坊”の形をしていた。
 だが、そういう形をしているだけだ。
 血液は巡っている。心臓は鼓動を刻んでいる。
 だが、魂が無い。
 生きながらにして、死んでいる。そんな不完全な人型だ。限りなく、人間に近い形をしているだけの人型だ。
「ううん……? デザイナーズベビー……っていうのは、そもそも何なのだわ?」
 首を傾げて華蓮は問うた。
 見慣れない機器も、資料に書かれたデータの数々も、さっぱり理解できないからだ。そもそもからして“デザイナーベビー”という言葉に聞き覚えが無い。
「理想の子供を造る技術です」
 ガラスカプセルの中に浮かんだ胎児を見つめて、トールは言った。
「性別、容姿、声、才能といったヒトの要素を生まれる前に自由に決める事が出来てしまう神様のような所業。そんな技術が確立したら軍事利用は免れないでしょう」
 それから、トールは視線を後ろへ……エクスマリアと壱和を見やる。
 2人が手に持っているのは、人の骨だ。
 奇妙なほどに長い骨。密度が低いのだ。子供のうちに、無理矢理、大人の体格にまで人を成長させたなら、きっとあのようになるだろう。
「それに件の遺体を見る限り、あながち夢物語とは言い切れない所まで来ているとしか思えません……或いは、ヒト以外の何かを造ろうとしているのかも」
「成功したとして……気分の良くなる内容は、期待できそうもない、が」
 肩を竦めて、エクスマリアは溜め息を零す。
 人が、人を造るなどして、きっと碌な結果に至ることは無い。自然の摂理から外れた代償だ。
「それで、止められるのだわ、これ?」
「難しいでしょうね。生体認証を突破しないと、機械の類は動かせません」
 研究所の責任者や、ここでデザイナーベビーの研究をしていた研究者たちは、既にどこかへ去っている。ともすると、既にこの世にいない可能性さえあるのだ。
 名簿の類は残っていないし、資料にも製作者の名は記されていない。後ろ暗いことをしていたのだから、身元を暴かれるような下手を打つことはしないだろう。
「それより、『生きている完成体が残っていた場合』……どうしたものかしらね?」
 セレナは言った。
 割れた培養カプセルの数は10。
 先だって発見された奇怪な遺体は、ともするとこのカプセルから出て来たものではないだろうか。
 残った6つのカプセル内に残っていたのは胎児だけ。
 カプセルを割って、外に出られるようになるのはまだ先だろう。
「どうしようもできないですよ。どこにいるかも……分からないんですから」
 資料の束を1つにまとめ、トールはそれを背嚢へ仕舞った。

 資料の1つ。
 人工的に造られた胎児へ、意思を与える実験についての資料だけを壱和はそっと懐へ仕舞う。それから壱和はくっくと肩を揺らしながら、培養カプセルへと目を向ける。
(後でここまた来るカ……そっちの方が調べやすそうだナ)



成否

成功

MVP

華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
ココロの大好きな人

状態異常

セレナ・夜月(p3p010688)[重傷]
夜守の魔女

あとがき

お疲れ様です。
研究所の最奥へ到達し、そこがデザイナーベビーの研究所であることが確認されました。
依頼は成功となります。

この度はシナリオのリクエストおよびご参加、ありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。

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