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シナリオ詳細

<帰らずの森>『竜骨』の守護者

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 覇竜領域――その中でも特筆して巨大な集落として知られているのが亜竜集落フリアノンである。
 フリアノンは嘗て存在したとされる『巨竜』フリアノンの骨と洞穴が組み合わさって出来た集落である。
 古くから里長を担う『珱家』と、その珱の家系に連なる者達が里長の補佐をし、代々続いてきた。
 今代の珱家の娘は未だ年若く、10にも満たぬ頃に里長になった。
 珱・琉珂。
 父に良く似た彼女は珱家をよく顕す桃色の髪を有している。
 母に良く似た彼女は明るく無鉄砲なところがある。
 そう、彼女は里長であるが未だ年若く好奇心旺盛で無鉄砲な娘なのだ。

「だからこそ、里長代行が『里長』の代理を務めながら彼女に外を見て回るように教え込むことになったのですけれど」
 肩を竦めたのは里長代行である瓏家の夫人、瓏・麗依であった。
「あたくし達は珱を支える者。フリアノンをよく導く為に尽力して参りましたの。
 ええ、だからこそ姫の性格は良く分かっているわ。あの娘が貴方達を死の森へと送り出して黙っているわけがない事位」
 里長達が集う集会場の片隅で麗依は嘆息した。
 現在のローレットは『帰らずの森』と称されたピュニシオンの森の探索を行って居る。
 探索結果は蓄積され、行く先が定まれば規模を改めての森を越える為の攻略戦が展開されることになるだろう。
 そうした情報を収集し、次の指示を行なうのが麗依の仕事であり、我先にと森へと向かう琉珂の代わりにフリアノンを収めるのが彼女の夫である瓏・雨轟の仕事なのだ。
「『死の森』は危険であろうが、確かにイレギュラーズが居ればその死亡率は低下するだろう。
 だが……あの森に人が立ち入ることで周辺亜竜達もその影響を受けている事は確かなようだ。フリアノンや周辺集落にも亜竜の影が見えている」
 嘆息する雨轟に「いつかは来ることだった筈よ」と麗依が苦々しげに言った。
 そうだ。いつかはあの森を越え、その先に存在している『竜王の居所』に至らねばならないと彼等は認識していたのだ。
「……真逆、里おじさまがあのような、ね」
「誰も予測はして居ないことだった。琉珂が信頼しているようにフリアノンの誰もが信じていた」
 二人は憂いを吐出す。里おじさま――ベルゼー・グラトニオスはフリアノンにとっては素晴らしき存在であったのは間違いが無かった。
 彼はフリアノンに対して深い思い入れがあり亜竜種を慈しんでいたのだから。
「……里おじ――いいえ、ベルゼーが悪しき存在であることが判明した以上は進まねばならなかった。
 来るべき破滅に立ち向かわねば、ならなかった。フリアノンの傍でそれを起こさぬ為には、彼を追わねばならないのよ」
「ああ……手を拱き、民を巻込む事は防ぎたい。フリアノンの――我らの守り神を傷付けたくもないのだ」
 故に、ピュニシオンの森の攻略を考えたのだと改めて『フリアノンの里長代行』達はイレギュラーズに伝えたかったのだろう。

 喧噪の声に麗依が顔を上げた。「旦那様」と呼び掛ける女の瞳には強い決意が宿っている。
「イレギュラーズ、申し訳ないがフリアノンの近郊にピュニシオンより何らかの敵勢対象がやって来た。
 人が立ち入ることにより亜竜種達もこれまでに無い行動を起こしていることは確かなのだ」
「フリアノンはあたくしたちにとっても大切な存在なの。戦士と見込んで貴方達にお願いするわ。どうか、あたくしたちの里を護って――」

 ピュニシオンの森での活動はその地に棲まう者にも影響を与えていた。
 飛来するワイバーン達は普段は森上空で獲物を狙っている者だったのだろう。それらが、イレギュラーズの活動を察知し、人の気配を辿るようにフリアノン周辺にまでやって来た。
「麗依、里の者達には中に入るように指示を」
「旦那様は?」
「……イレギュラーズ殿を見定めてくるとしよう」
 無数のワイバーンの群れを眺めていた雨轟はイレギュラーズをじろりと眺め遣った。
 事実、フリアノンの中にはイレギュラーズ達を快く思って居ない者も居る。人心を容易に変えることが難しいと知っているからだろう。
 敢て、イレギュラーズを認めては居ないという姿勢を貫く雨轟は田宮イレギュラーズに対して厳しく当たったのだろう。
「イレギュラーズよ。これは我の独り言として聞いてくれ。
 ……巨竜フリアノンはこの地では広大な竜であった。故に、この骨を害する者は少なかったのだ。
 ベルゼーが守護して居たからこそ、というのも確かだったのであろう。その護りが抜けた今、我らは新たな岐路に立たされだのだろう」
 フリアノンの伝承は男も語り聞かせることが出来る。
 巨竜フリアノンが亜竜種を愛していたことも、その力が強大だったことも。
 イレギュラーズが望むならば、答えることも出来よう。
 ああ、だが――昔話の前に障害を取り払わなければならないか。
 飛翔するあれらは全て、この地を蹂躙する事のみを考えたけだものなのだから。

GMコメント

夏あかねです。里長代行達もフリアノンを頑張って支えてるみたいです。

●目的
 ワイバーン達の撃退
 及び、フリアノン近郊で逃げ遅れた民(後述)を守り切ること

●場所情報
 フリアノン近郊、畑がぽつぽつと存在する所謂安全区域です。
 琉珂に言わせれば「ここまでなら亜竜の襲撃もないから安心できる場所」とのことでしたが、其処まで亜竜がやって来てしまっているようです。
 周辺はぽつぽつと木々も存在しますが基本は荒野といった様子。田畑はワイバーン達に蹂躙される可能性もありますが、今は人命を優先しましょう。

●護衛対象 逃げ遅れた亜竜種(3名)
 フリアノンで田畑の担当をして居る亜竜種達のようです。雨轟の知り合いです。
 一人は瓏・優季(ろう・ゆうじ-)と名乗る少女です。雨轟と麗依の娘にあたります。
 彼女達はワイバーンの接近に気付き、外に出ていた他の者達を逃がしたようですが、それ故に逃げ遅れた様子でもあります。

●敵勢対象
 ・『小跳竜』ドラビット 2体
 ワイバーンを扇動するように大地を跳ね回っているやたらデカ目のウサギのような亜竜(モンスター)です。
 気性がとても荒く、鋭い蹴撃が特徴です。小さな頃から育てればペットにもなるようです。有袋類でもあり、一体は腹に赤ん坊を入れています。
 腹が空いたので亜竜種を食べに来ました。ぴょんぴょん。

 ・ワイバーン(固有名不明) 5体
 ピュニシオンの森からやって来たワイバーン達です。常に飛行状態。
 鋭い爪と牙を有し、行動阻害を行なうBSを付与する吐息で攻撃を行ないます。

●同行NPC『瓏・雨轟』
 亜竜集落に古くから存在する瓏家の現当主。亜竜集落フリアノンでは妻の麗依と共に里長代行を務めています。
 里長代行の筆頭でもあり、イレギュラーズを見定めると言っていますが、彼自身は琉珂とフリアノンが認めた者達を受け入れているようです。
 フリアノンの伝承や森について知っていることを教えて呉れます。また、ベルゼーとも面識があるようです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <帰らずの森>『竜骨』の守護者完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年04月03日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)
優穏の聲
ジェック・アーロン(p3p004755)
冠位狙撃者
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
小金井・正純(p3p008000)
ただの女
マッチョ ☆ プリン(p3p008503)
彼女(ほし)を掴めば
ハリエット(p3p009025)
暖かな記憶
ライオリット・ベンダバール(p3p010380)
青の疾風譚
煉・朱華(p3p010458)
未来を背負う者

リプレイ


 蝶が羽ばたけば、その刹那に変化が訪れる。小鳥の囀りも、朝に吹いた風の一つでさえも世界を大きく変革させる可能性さえある。
 それがやがては大きな渦を作るように、一発の弾丸がいずれは世界に穴を開けるように。変化は自ずと訪れる。
 だからこそ、自らの行動には責任を。そして結果が必要とされるのだと『天空の勇者』ジェック・アーロン(p3p004755)は認識していた。
「俺達が調査を開始してからこっち、どうにも亜竜の動きが活発になっている気がするな」
 進まねばならないと決めたのはフリアノンの亜竜種達の決定もある。だが、先を目指すのはイレギュラーズ達が『居た』からだ。
『竜撃』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)は知っている。イレギュラーズと出会ったから、イレギュラーズが領域(クニ)に踏み入れたからこそ、その変化が訪れた。
『暖かな記憶』ハリエット(p3p009025)は「今までは安全地帯だったこの場所に、亜竜が来るようになってしまった」と呟く。
 ローレットが切欠だったのか、それとも。仔細は分からずともイレギュラーズが森を荒らすつもりはなくともモンスター達がそう捉えてくれるとは限らない。
「……森を荒らされて出てきたか、それとも誰かの意図か。どちらにしても責任は俺達にある。一人の犠牲も出させやしねえよ」
 ルカが堂々と告げればジェックは静かに頷いた。目の前に立っている『里長代行』を見てから背筋をぴんと伸ばした『煉獄の剣』朱華(p3p010458)は小さく息を吐く。
「イレギュラーズになったからってフリアノンの戦士であることは変わりないもの。里に危害を加えようとする敵は全力で打ち破る。ただそれだけよっ!」
「勿論っス。しかし……お腹が空いたから亜竜種を食べに来たって話っスけど、他にもっとうまいものがあると思うんっスよね」
 呟く『青の疾風譚』ライオリット・ベンダバール(p3p010380)も洞穴に棲んでいたからこそ見舞われることのなかった亜竜による襲来をその身を以て感じている。亜竜種って大変だと呟けば瓏・麗依は「静かな共存が求められて居ましたもの」と冷ややかな声音で言った。
 女の冷たさがイレギュラーズを未だ信頼していない『ポーズ』だと言う事に『明けの明星』小金井・正純(p3p008000)は気付いて居る。夫人がそうであるように、里長代行である瓏・雨轟もイレギュラーズを確認し冷ややかな視線を送っていた。
 自らを守護していた存在が世界の敵だった。フリアノンを守護していたのは冠位暴食、その人だ。彼が『亜竜種達の安寧の地』より去った後、若き里長は酷く狼狽したことだろう。未だ受け入れられぬ現実に直面し、困惑しながらも里を治めるべく尽力する若き里長を支え、混乱を鎮めた里長代行であるその人はフリアノンにはなくてはならないものだろう。
「……雨轟さん、いえ、里長代行。この里にとってのなくてはならない方にお認め頂けるのであれば……それは私達にとっても良きものとなる。
 そしてこのフリアノンのことを教えて頂けるのであれば、より強大な困難にも立ち向かえるはずだと、そう強く認識しております」
 姿勢を正し、穏やかな口調で確かにそう言った正純に雨轟は「ふむ」と小さく呟いた。若き里長――珱家の跡取り娘は朗らかで天真爛漫だが、あれで居てある程度は『弁えて』いる。本能的なものだろうが、警戒すべき相手には牙を剥き出す子猫のような少女だ――が懐いているのだからそれ程警戒する空いてでは無いが、彼女達の側がそう言うのであれば『見定める』価値もあろう。
「おー、畑が荒らされそうになってるのか? それは大変だな!
 好きな食べ物が無くなるのは、ダメだ! すごくしょんぼりする! イレギュラーズとしても調査? 話? が必要だし、何とかしてやらないとな!」
 胸を張った『ラド・バウA級闘士』マッチョ ☆ プリン(p3p008503)は「任せろ!」と笑う。
「覇竜領域で活動するようになってから暫く経つが、言われてみれば、フリアノンの事については話を聞いた事は無かったな。
 ……折角の機会だし話を聞きたいところだが、まずは逃げ遅れている亜竜種達を助けなければな」
 そこからだと『優穏の聲』ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)はゆっくりと頷いて『課題』に向き合うことと決めた。


「命が最優先な事は当然だけど、こんな場所だもの。
 田畑だって朱華達にとっては大切なもの。守り切れるなら守ってみせるわっ!」
 領域では食料は貴重だ。何せ、亜竜種の生存域は領域(クニ)の広さと比べればちっぽけなものである。故に、田畑も守り切ることを意識し、保護のまじないを施した。
「逃げ遅れた人たちの安全を確保しなきゃ。亜竜やワイバーンの対処は任せる」
 ハリエットは視界を広く確保し、田畑を護るべく尽力する亜竜種の姿を探す。雨轟は何も口にはしないが、彼の娘である瓏・優季がその地では避難誘導に当たっていたらしい。あくまでも『娘を護ってくれ』と頼まぬのはそれが里長代行としての在り方だったのだろう。
「うん、三人固まってくれてる。避難誘導をしてくれた人は優秀だね」
 スコープを覗くハリエットに頷き、一度前線へと飛び出したのはライオリット。共に走るジェックが放つのは嵐の如き銃弾。痛みもなく吹き荒ぶ春一番は敵対する者達の視線を奪う。
「三人の安全確保が最優先っすね!」
 構えたライオリットは軍刀を握り、ジェックの元に牙を剥きだし飛び込んでくるドラビットを真っ向から睨め付けた。素早く、前線へと走り込んだライオリットとジェックに引き続き、マッチョ ☆ プリンが「プリンだ!!!!」と叫ぶ。その咆哮と共に、ジェックを庇うべく堂々と立ちはだかった。
「逃げ遅れた……と言うよりも他の者の安全確保をしたか。素晴らしい心がけだ」
 頷きサングラスの位置を只したゲオルグは己が体をしなやかに滑り込ませ、ワイバーンへと向けて鉛の掃射を放つ。ゲオルグが掌を皿にし、その上をルカが蹴り上げ跳ね上がる。手にしていた剣を力任せに振り下ろす。叩きつけた刃により、大地が僅かに罅割れた。
「こいつはほんの挨拶がわりだ!」
 唇を吊り上げ、膝を付く。腕に走った痛みなど、この際どうでも良いことだ。「ルカさん」と静かに呼んだ正純に青年は頷いた。その頭上を矢が降る。漆黒の雨、そう呼ぶしかあるまい黒き泥はワイバーン達を包み込む。
 彼女等の背に、護られるようにして佇んでいた三人の亜竜種は呆然とその様子を見守っていた。
「あれ、あなた……」
 朱華は『頭の固い連中』に良く似た娘を見付けぱちくりと瞬いた。里長代行達は頭が固く、イレギュラーズを受け入れる事を渋っていた。特にその筆頭が瓏夫妻だったのだが――フリアノンの煉家の生まれである朱華は『彼等が受け入れてくれること』の難しさを知ると共に、其処に佇む少女が何者なのかも直ぐに理解した。
「優季ね。……よく頑張ってくれたわ。此処から先は戦士の仕事、貴方達も早くここを離れなさいっ!」
「煉家の娘さんでしょう。貴女を置いてはいけないわ」
 凜と言い放った優季は流石は『瓏』の娘なのだろうか。朱華は「朱華はイレギュラーズよ」と悪戯めかして笑い、片手剣を手に前線へと走り征く。
「待っ――」
「大丈夫。私達は『負けない』から」
 留めたハリエットは静かに言った。優季は途惑いと躊躇いの双方をその顔面に貼り付けている。
「ここは俺らに任せてアンタらは安全な場所に避難しな。頼んだぜハリエット」
 ルカは片腕では担ぎ上げることも難しいであろう大剣を容易く振り上げてからゆっくりと振り向く。
「……必ず、勝利なさいますか」
「ああ」
 その言葉に、信を置くと優季はハリエットの手を取った。逃げれるかと問うた彼女に優季は「私ならば一人でも、ですが」と共連れの二人を見詰める。凜としている優季に励まされているが、明らかに怯え竦んで居る二人は自らの足では難しいだろう。
「一緒に、下がろう」
「はい。タオ、雨汐、彼女の指示に従って」
 三人を連れて下がるハリエットにジェックは頷いた。三人が安全地帯に逃れてくれた事が確認出来たならば――此処からは徹底交戦だ。
「お前ら、お腹が空いてるならおれを食べに来い! ぶにぶにの子供なプリンだ! 絶対食いつくに違いないぞ! だってプリンだもの!
 亜竜種よりも畑の作物よりも、絶対におれの方が美味い!」
 叫ぶマッチョ ☆ プリンがドラビットの顎を掴んだ。勢い良く押し止めるマッチョ ☆ プリンの傍らより飛び出したのはライオリット。
「食いしん坊っすね!」
 軍刀は海色の煌めきと共に、鋭く叩き降ろされた。大きく跳ね上がることも出来ないドラビットを『好きにさせる』ように宙へと跳ね上げたライオリットは勢い良く大地へとその体を叩き落とす。
 腹から何かが溢れたことにゲオルグは気付いた。逃げるように草陰へと逃れた小さな生き物を見逃すことはしない。
「朱華達から逃れられないわよ!」
 灼炎は鋭く薙ぎ払う。手にした剱は『煉』の象徴兵装。自らが支配する猛き炎を纏う一閃はワイバーンを逃すことも許さない。
 此処でワイバーンを下手に逃せばフリアノンへと接近する可能性がある。それを許してはなるものか。
「そこ、逃がさないんだから!」
 声を上げた朱華の傍らをゲオルグは走り抜けた。
「任せてくれ」
 ワイバーンへの至近距離に近づき、ゲオルグは拳銃で勢い良くワイバーンを殴りつける。『本命』はその動きを留めることに他ならない。
 この場から逃れられぬならば、いっそその腹を満たすべく――ワイバーンがあんぐりと口を開き接近してくるがライオリットは「食べられるつもりはないっスよ!」よ勢い良く飛び上がり、田畑から離れるように距離を取ってから一気に一刀を振り下ろした。
 体勢を崩すワイバーンへと向けて放たれたのはハリエットの放った鋼の驟雨。その激しさの中を裂くのは正純の鋭き一射であった。
「ベルゼーの守護の消失、我々が死の森へ踏み込んだこと、色々な要因があるのでしょう。
 しかし、ここを荒らされるのは困ります――おかえり願います」
 静やかな声音で告げる。死の森より現れた其れ等は腹を空かせていることは確かだ。背負うのは『フリアノン』の安全だ。自ら達の招いた悲劇か、それとも、来るべきものであったのかは定かでなくとも『護るべきもの』だけは確かなものだ。
 空を踊るように飛んでいたワイバーン達は鋭く振る鋼の雨に確かな疲弊を感じていた。
「飛んでいれば当たらないとでも? 残念だったね──そこもアタシの射程だよ」
 首弦が吊り上がった。逃れたいというならばジェックを喰い殺すしかない。だが――彼女には『守護者』が居た。
 肉体を壁に、堂々と立ちはだかったマッチョ ☆ プリンは「ズガドンッ」と殴り飛ばす。
「コッチだぜ!」
 ルカの唇が吊り上がった。叩きつけたのは邪道の極み。命を奪うためにのみ特化した剣戟が鋭く、叩きつけられる。
「ジェック!」
 呼ばれた名前に、短くなった髪が頬を擽り、ジェックは「言われなくとも」と囁いた。
 命を蔑む散弾銃は、ばらばらと音を立てた。無数に、弾丸が降り注いでいく。その下を楽しげに走るマッチョ ☆ プリンは「なぐるぞ! たおすぞ!」と単調ながらも確かな攻撃を繰返していた。
 ゲオルグが視線に追った先にはドラビットの子供が居た。振り向く青年に小さく頷いた正純は「それ」を見ない振りをした。雨轟達が殺せというならば非情な判断を下さねばならないが、少なくとも今は構わないだろう。
「どうして、この様な場所に来たのかは分かりませんが――此処は『人』の領域。……貴方方にはお帰り頂かねばならないのです」
 ドラビットの、親は、その大きな体を横たえた。逃げ果せていくワイバーン達を眺めながら朱華は「帰ったわね」とほっと胸を撫で下ろす。
 田畑は未だ荒されて居らず、食物の味を覚えた者達が居るとは思えない。退くつもりのなかったドラビットは恵みの糧にすると隠れていた優季が呟くのを聞き、里長代行の血筋の亜竜種ともなれば強かな者なのだとライオリットは舌を巻いたのだった。


「父上様」
 驚愕をその顔に貼り付けた優季は雨轟へとゆっくりと歩み寄る麗依を見付け「母上様」と目を瞠る。
「優季さん。貴女達が頑張ったから、この村の人たちは安全に避難ができた。お疲れさまだね」
「いえ、これも瓏の娘としての勤め。皆様がいらっしゃらなければ私は一人では彼等を喪うところでした。
 ……それに、ドラビットの子達を救出して下さったことも、喜ばしい限りです」
 ドラビットとて生き残る為には必要だったのだろうと渋い表情を見せる優季に、1m程の巨大なドラビットの赤子の胴に腕を回していたゲオルグは緩やかに首を振る。
「……活かすにしても殺すにしても、結局は己の罪悪感を誤魔化すためでしかなかった。
 どうせ誤魔化すのならば、私は行かす方が良かった。それが、偽善だと言われる事も覚悟はしていたが……」
 首を振った優季の傍に走り寄ってきたマッチョ ☆ プリンはドラビットに気付き手を振る。
「お! 何か赤ちゃんもいたとおもったけど、そいつおっことしてなかったか! 大丈夫か? 元気か?」
 マッチョ ☆ プリンはにんまりと微笑みを貼り付けたようなカラメルたっぷり笑顔でドラビットの前に腰を下ろした。
「とりあえずプリン食べさせれば良いか! プリン食べたら良い子に育つだろ!
 ……あ、亜竜種のみんなもプリン食べるか? プリン丼とかおすすめだぞ! ……ん? なんか忘れてるよーな……まぁいいか!」
 プリン丼と呟く優季の得も言いがたい表情にハリエットは肩を竦める。ライオリットは「それって美味しいッスかね……」と首を捻った。
「それで、ドラビットやこのワイバーンは今まで何を食べていたの?
『安全地帯』が存在するほど強い縄張り意識を持つ獣が行動範囲を変えるのって、相当な理由があるはずだよ。
 食べ物がなくなったのか、ストッパーがなくなったのか、『外』の臭いに過敏に反応したのか……」
 ジェックが悩ましげに呟けばルカは「ベルゼーか?」と雨轟に問うた。渋い表情をした男は唇を閉ざす。
「ベルゼーとピュニシオンの森について聞きてえ。ピュニシオンの森に入っちゃいけねえって決まりがあるのはわかる。
 ……だが『ピュニシオンの森から竜が出てこない』って前提があって意味がある掟だ。
 竜種が境界線なんてものを守ってるのは守る理由があるからだ――それはベルゼーを置いて他にはねえだろう?」
 そこまで言われてしまえば、雨轟は頭を抱えるほかにない。聴ける範囲で詳細を聞かせて欲しいと提案する正純の傍で朱華は「ベルゼーが?」と問うた。
「里長代行」
 朱華は厳しい声音で雨轟に教えて欲しいと問うた。「その表情、真朱に良く似てる」と麗依が呟けば娘は渋い表情をスルしか亡い。
「『境界』を亜竜達が破ってきてるってのは……デカい問題なんじゃねえのか?
 そりゃあベルゼーが境界を守るって力を弱めたって事じゃねえのか。アイツの覇竜に対する愛は間違いなく本物だった。違うか?」
「……いいや、里おじさま――ベルゼーはフリアノンと『誓い』を結んでいた。巨骨となったこのフリアノンの生きていた時代に、この巨竜と結んだ約束だ。
 彼がフリアノンと共に在ったが故に、この周辺に竜達が寄り着かなかったことは確かだ。彼が守護を弱めたのではなく――」
 正純は、続く言葉に気がつきはっとしたように雨轟の顔を見た。彼とてベルゼーの事は切り捨てたような口を利くが、幼い頃は『里おじさま』として彼を慕ってきたはずだろう。
「――もし、イレギュラーズが『此処』に踏み入れてなかったら?」
 ジェックは静かに問うた。弾丸が、世界に穴を開けた。水槽から溢れ出た水は、もう戻ることはない。
 麗依は首を振る。『彼がそう』だったのならば、いつかは『そう』なったであろう、と。
「……遅かれ早かれ、分かったことだった。あのお人はフリアノンから立ち去ることで自らの『存在』をそうであると示したのでしょう。
 あのお方は、それでもお優しいわ。知っていますもの、ええ、あのお方はそう言う人だから」
 ――フリアノンとの誓いを、護るはずだろう。
 ゲオルグはどう言うことだと乾いた声音で問うた。
 ベルゼー・グラトニオスは『己の権能がフリアノンに及ばぬように』、何処かで世界を滅ぼす可能性がある。その時が近付いただけに過ぎない。
 その被害が大きくなる前に、彼が何かを為してしまう前に止めなくては、男は自らの力で愛しき子の場所をも滅ぼす可能性がある。
 故に、『大切にしていた里長の娘』に行く先を示したのではないか、と。其処まで告げてから雨轟は「語りすぎた」と妻の肩を抱いた。
 振り仰げばピュニシオン。その森は『ベルゼーの守護があったフリアノン』に近づけぬ者達が燻り、そして作り上げられた魔窟だったという。
 そして、その先には――目も瞠るような光景が広がっていると、あの男はそう語った、というのは雨轟の独り言であった。

 ――あの人は、この場所を巻込みたくなかったのでしょう。

 その言葉だけが頭を廻る。ルカは「それでも、覚悟の時が来たんだな」と確かめるように呟いてから目を伏せた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした。森の向こうには、何が広がっているのでしょうね。

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