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シナリオ詳細

<帰らずの森>怨毒の足跡

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●怨毒の一族
 彼らは、死をつかさどる一族であった。
 竜の種別において存在するひとつ、天帝種『バシレウス』。それは高位の竜であり、いうなれば『貴族』とでもいうべきものを指す。
 実力の高さみならず、特異なる一族もまたその種に名を連ねており、怨毒をつかさどる地属性の竜が末裔の一つ――代々にして『ザビアボロス』の名を受け継ぐ『それ』もまた、バシレウスの名を冠するものである。
 ザビアボロス。死をつかさどりし一族に、代々受け継がれる名であった。
 
 ピュニシオンの森が、一部。人知れず、なにものも近づかぬようなそのエリアに、ひっそりとたたずむのは石造りの館である。
 人がすむスケールではなかった。ヒトよりも、はるかに巨大な生命体が、その体を休めるために作られた館であることは間違いようもなかった。その巨大な建物の中を、一人の女が歩いていた。まるで喪服のようないでたちの黒き淑女。彼女こそが、今代の『ザビアボロス』であった。
 竜にしては、些か若い。彼の『金嶺竜』ほどとは言わないが、人間に換算すれば20にも満たぬ乙女と言おうか。無論、竜の精神性に人間のそれを求められても無益ではあるが。
「ご召喚に応じました」
 『ザビアボロス』が言う。礼はない。この一族にそういった儀礼は必要ないし、今代のザビアボロスはすでに彼女である。
 それでも、『ザビアボロス』が多少は謙譲を現したのは、目の前にいる『黒くて、骸骨のような黒竜』が、
「先代様」
 ――先代のザビアボロスであったことに所以する。
『来たか、今代』
 大地を震わせるような声で、『先代』は言った。
『話は聞いている。失態を演じたと』
「それは――」
 『今代』は僅かに言いよどむと、しかし、ふ、と息を吐いた。
「申し開きできません」
『我らは圧倒的な『死』であらねばならぬ』
 『先代』が言う。今代が、わずかにめまいを覚えるような気がした。先代は、老いた竜である。長らく『ザビアボロス』には新たなる子が生まれなかったが故に、先代は長らくの間『ザビアボロス』でい続けた。今代がその名を受け継いだのは、竜の感覚でいえば、本当に全く、つい最近のことであった。経験の差、年齢の差。あらゆる差が二頭の間にはあったが、その最たるものが、今代ですら近づくだけで消耗を余儀なくされるほどの、強烈な『怨毒』の発露と言えようか。それはもはや、毒というよりは呪詛に近い。
『若き貴様には、やはり荷が重いか』
「いえ――」
 今代は頭を垂れた。
「慢心がございました。人の可能性とやら、甘く見ていたことは事実――」
『お前は何を言っている?』
 ざわり、あたりの空気が揺れるような気がした。ぶじゅぶじゅと音を立てて、石造りの床が溶けていた。腐り落ちているのだ。先代の毒素によって。
『慢心などというものは存在せず、竜以外の生物に可能性も存在価値もない。
 お前はそもそも思い違いをしている。
 およそこの世の生命において、竜こそが頂点である。
 それであるがゆえに、我々は死を管理することを許された』
 それは、頂点生物であるが故の傲慢であるといえた。だが、頂点生物であり、驕れるだけの力があることもまた事実である。
『我々は死を管理する。竜以外のすべての生物は脆い。儚い。弱い。
 それ故に、生命は苦しみ、絶望の生を生きなければならぬ。
 ゆえに、我々が静寂なる死をもたらさねばならぬのだ。
 理解しておると思っていたがな、今代』
「それは――」
 ぐ、と口元を抑えた。強烈な毒素、呪詛の類が、今代の腹の中を焼けた鉄串でかき混ぜるような激痛を与えるような気がした。
「おっしゃる通り――に――」
『まぁ、よい』
 毒素が消えた。まるで何もなかったかのように、激痛も刹那のうちに消えた。だが、わずかに腐った内の肉が、あれが幻術の類でないことを主張していた。
『ヒトどもがピュニシオンの森に侵入したようだな。愚かなことだ』
「ヒト――ローレットですか?」
『ヒトはヒトだ。それ以上でも以下でもない』
 先代はそう答えた。
『奴らが何をしようと、何も変えられん。何も残せん。
 ただあるがままに、無益な死を積み重ねるだけだ』
 そうだろう、と今代は――いや、自らをザビーネとたわむれに名乗った竜は思った。そうだとも、このピュニシオンにて、人が生存することはできまい。ましてや、ザビアボロスの地へと踏み入れて生きて帰ることなどは。
 だが――自分は何を考えているのか、と奥歯を噛みしめる。一度目の戦い。そして、あの炎の嘆きと呼ばれた精霊との対話と協働……それが、ザビーネ=ザビアボロスの心中に何らかの変化を残していたことは間違いなかった。
 それが、何をもたらすのかは、現時点では不明瞭であったとしても。

●怨毒の沼地
「ひどい場所だな……」
 そういったのは、イレギュラーズの一人だ。あなたは同意する。ピュニシオンの森の一角には、毒素によって汚染された地があった。ほとんど現地の生物ですら寄り付かず、亜竜であったとしても、『ザビアボロス』なる一族の眷属でなければ、住み着くことなど困難であるという、特異な地である――。
「そのザビアボロスっていうのは……たしか毒の竜だったかな?」
「そうですね。怨毒と呼ばれる強力な毒素は、たたかえないイレギュラーズでは耐えられないと思います」
 報告によれば、練達にザビアボロスを名乗る竜が現れた際には、付近にいた一般人を瞬く間に溶解するように殺害したとされている。
「この先に、それがいるとして」
 イレギュラーズの一人が言う。
「倒すのか、対話するのか、それとも――」
 何を、すべきか。あなたには、まだそれはわからない。
 ただ確実なのは、このピュニシオンの森の踏破を行わなければならないことであり、そのルートの一つはこの毒素のエリアであるということだった。
「行きましょう」
 仲間が言う。
「くれぐれも、気を付けて――」
 その言葉に、あなたはうなづいた――。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 ピュニシオンの森の調査を行いましょう。

●成功条件
 すべての『亜竜・ディザルネイア』の撃破

●情報精度
 このシナリオの情報精度はDです。
 多くの情報は断片的であるか、あてにならないものです。
 様々な情報を疑い、不測の事態に備えて下さい。

●状況
 ピュニシオンの森。覇竜領域に存在する前人未到の地です。
 内部には数多の怪物、亜竜、竜種すら存在するとされており、常に死と隣り合わせのエリアとなります。
 皆さんは、このたびピュニシオンの森の踏破を目指すこととなりました。その目標エリアの一つであるこのエリアは、『ザビアボロス』という強力な天帝種『バシレウス』の一族によって統べられた地であるとされています。
 実際、あたりには強力な毒素がまき散らされており、何の対策もなければ瞬く間に毒に体を蝕まれるでしょう。
 今回、皆さんはそんなエリアの調査を行うこととなります。
 あたりは、腰くらいの深さの毒の沼が広がっています。低木があちこちに映えており、上空にはザビアボロスの眷属とされる亜竜、ディザルネイアたちが、迷い込み、毒に弱った生物の肉をあさらんと徘徊しています。
 ひとまずは、この亜竜、ディザルネイアを倒し、この辺りの安全を確保しなければなりません。
 ですが注意してください。ここにいるのは、亜竜だけではないのですから。

●フィールドギミック
 戦場は、一般成人男性の腰くらいの深さの毒の沼地になります。
 この毒の沼に使っている限り、毎ターンの初めにBSとして『毒』系列を付与する特殊抵抗判定を行います。(命中度はライトヒットと同様のものとします)。
 飛行をしてみたり、水上移動などで水につからないなどを行うことで、これを回避できるでしょう。

●エネミーデータ
 腐毒亜竜ディザルネイア ×10
  強力な亜竜です。近接物理攻撃として爪や牙などを扱うことはもちろん、強烈な毒のブレスを吐いてきます。
  ブレスには『毒』系列、『痺れ』系列、呪い、などのBSを付与する力があり、じわじわとこちらの体力を削ってくるでしょう。
  比較的、防御面では弱いです。接近することを恐れず、強烈な一撃で確実に仕留めてやるのがいいでしょう。
  また、可能ならば、回復スキルは持ち込んだ方がいいです。被害が減らせ、余裕も出てくるでしょう。

 怨毒竜嬢・サビーネ=ザビアボロス ×1
  天帝種『バシレウス』の六竜がひとつ。多分出てきません……もし皆さんが凄い頑張って可能性を示せたら、顔見せには出てくるかもしれません。そうしたら一言二言くらい、なにか話せるかもしれません。
  今回は戦う気がないみたいなので、皆さんにも特に攻撃せずに見逃してくれます。仮に遭遇しても、絶対に戦おうとしないでください。本来ならVH難易度クラスの敵です。ディザルネイアを相手にしてさらにこいつと戦う、となるとまず勝てません。無理です。逃げてください。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • <帰らずの森>怨毒の足跡完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年03月31日 22時06分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

マルク・シリング(p3p001309)
軍師
イルミナ・ガードルーン(p3p001475)
まずは、お話から。
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
ソア(p3p007025)
無尽虎爪
アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)
航空指揮
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
ムサシ・セルブライト(p3p010126)
宇宙の保安官

リプレイ

●毒の地
「これは」
 さすがの『独立島の司令』マルク・シリング(p3p001309)も、これにはあっけにとられたようである。
「ひどいな。本当に、こんなところに生命が住めるのかな……?」
 話によれば、ここは怨毒地竜たる『ザビアボロス』のテリトリーであるということだった。
「確か、シェームさんの所にもいたやつですよね」
 『宇宙の保安官』ムサシ・セルブライト(p3p010126)が、言った。
「あの時は、ザビーネとか名乗ってましたっけ。とにかく、あの、竜」
「話によれば、ザビアボロス、というのは一族というか、受け継がる名前のようだね」
 マルクが言った。
「では、ザビーネ=ザビアボロスは、今のザビアボロス、ということになるわけでありますか。先代、みたいなのもいる、と?」
「……あれの先代がいる可能性があるのかよ」
 あきれたように、『航空猟兵』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)が言った。僅かに、その手が震えるのを自覚する。あの、練達で相対したとき。その圧倒的な力に、アルヴァたちは勝利することはできなかった。追い返した、だけだ。いや、それでも、竜と相対した結果であるならば、充分な結果であったといえるだろう。全滅せずに、命を拾ったのだ。それだけでも、伝説に語られるほどの価値もある。
「くそっ。あのクソトカゲが、馬鹿にするように『自分は若輩だ』とか言ってた理由がそれか……」
「厄介ですね。最悪は、二体の『ザビアボロス』を相手にする必要が出てくるかもしれません」
 冷静に、『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)がそういった。
「もちろん、今この場で、ではありませんが。そうなると、まだ話が通じそうな『ザビーネ』の方から何とかしたいものですね」
「話し合い、とかッスか?」
 『蒼騎雷電』イルミナ・ガードルーン(p3p001475)が、似つかわしくない、些か暗い瞳を向けた。くだらない冗談だ、とでも言いたげに。冷静ではあったが、しかしその胸の内に怒りが渦巻いているのは事実だろう。練達の惨劇を、イルミナは忘れていない。もちろん、寛治も。
「倒すにしても、です。情報を引き出す、必要はあるでしょう。
 無論、竜が我々人間を歯牙にかけるとは思えませんから、そこは悩みどころですが」
「大丈夫ッスよ。見かけていきなり襲い掛かる、なんてことはしないつもりッス」
 イルミナが言った。ふぅむ、と『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)がうなづく。
「ひとまず今回は、ザビアボロスに接触することはないだろう。ないよな?」
 苦笑する。
「今回のミッションは、あくまでこの地の調査と、眷属である亜竜の撃破、だよ。
 皆がザビアボロスに縁を感じているのは、理解した。
 それはそれとして、この地を突破する必要があるし、それは容易じゃないだろう?」
「ええ。のんびりピクニック、という感じではなさそうだものね?」
 『風そよぎ』ゼファー(p3p007625)が言った。
「とにかく今回は――この地の確保。それには、ゼフィラの言った通り、ここを根城にしている亜竜『ディザルネイア』をまとめてやっつける。
 まずはそれだけ考えましょ?」
「そだねー。それで運が良ければ、ザビアボロスにアピールできるかもね?」
 『雷虎』ソア(p3p007025)が、うんうんとうなづいた。
「ボクも天帝種(バシレウス)っていうの見てみたいから、頑張らないと!」
「ふ――では、まずはあいさつと行きましょうか」
 寛治が笑った。
「いずれにしても、ここで亜竜にてこずるようでは、ザビアボロスも我々を歯牙にはかけないでしょう。となれば、狙うはいわば、コールド勝ち」
「全滅させる、ということでありますか? パーフェクトに?」
 ムサシが尋ねるのへ、マルクがうなづく。
「なるほど、こちらの圧倒的な力を見せつければ、あるいは、竜を交渉のテーブルに引きずり出せるかもしれないわけだ」
「可能性、あんのか?」
 アルヴァが尋ねるのへ、ムサシが「うーん」とうなづいた。
「あの人……人って言っちゃいますけど。
 シェームさんが何かを伝えようとしていた人ならば、きっと、可能性があると思うのでありますよ」
「全体方針としては、イルミナは問題ないッス」
 イルミナが言った。
「いずれにせよ……亜竜を散らすことに意義はないッスから」
「はい。じゃあ、決まりね?」
 ゼファーが笑う。
「問題は、この毒の沼だね」
 ゼフィラが言う。
「私は……どうもこういうのは苦手だが。さておき、おそらくはこの水に溶け込んでいるタイプの毒だろう。あそこの木は毒に影響されていないから、生物に影響のある毒で、組成は……と、学術柄的なことは後だね。
 とにかく、皮膚の接触、口からの摂取、が問題なりそうだ。つまり、沼につかると、まずい」
「となると、跳んだり、水の上を歩いたり。シンプルに、毒を無効にできる技とかを使えばいいのかな?」
 ソアの言葉に、ゼファーがうなづく。
「そうね。その準備はしてきたから、たぶん問題ないと思います。後は――」
 そういって、ゼファーが空を見上げた。曇り空から、紫色の、奇怪な爬虫類が翼をはためかせて降りてくる、その瞬間だった。
「あいつらを、速やかにやっつけちゃいましょうか」
 まるで、骨と皮だけのような、奇妙な怪物たちだった。それが、爬虫類的な特徴を持っているのが、近づくにつれてわかる。鋭い爪と牙。そこから、粘性の液体がしとどに零れ落ちている。おそらく、毒だろう。かなり強烈な。
 亜竜、ディザルネイアだ! 彼らは、なわばりを侵す愚かなヒトに、まるで嘲笑するように咆哮を上げた。威嚇ではない。愚かな、とあざけっているのだ。
「トカゲにバカにされるのは、生まれて初めてですね」
 寛治が眼鏡を直す。マルクがうなづいた。
「それじゃ、コールド勝ちを狙おう」
「おう。
 ……今は、大人しくしていてくれよ」
 アルヴァが、古傷の痛みに耐えるようにつぶやいた。今は。抑えろ。
「行くッスよ!」
 イルミナが、叫んだ。かくして、戦いの火ぶたは切って落とされた――。

●竜の主観
 人がいる。
 そのようにザビーネが先代から聞いたときに、真っ先に浮かんだのは、やはりローレットのメンバー。とりわけ、練達にて『一矢報いた』(といってもいいだろう。少なくとも、その時のザビーネ=ザビアボロスに撤退などはあり得ぬ状況であったからだ)彼らである。
 竜の視力は人の知覚の外にある。ザビーネが視ていることに気付けるものは存在しないだろう。果たしてその眼が視た限りでは、やはりそこにいたのは、あのローレットの者たち。
 練達で相対したもの。あるいは、あの焔を受け継いだらしいもの。そうでなくても、人としては充分以上に動ける者たち。ザビーネ=ザビアボロスは竜ゆえの傲慢さゆえに『個体のことは覚えていなかった』としても、『あの時あそこにいた群れ』程度の記憶は持ち合わせていた。要するに、アルヴァとか、寛治とか、イルミナとか。そういう『個としての名前』は現在のザビーネは全く意識していなかったのだ。つまり『ああ、あの人間』といった程度のことで、人間が『この間餌を上げた野良猫』と語るのと大差はない。
「見てみれば」
 澄んだ声は、人間の女のような声である。ベルゼーに供するにあたって、問題なのは亜竜種と接触する場合であり、そういった場合に備えての『人の姿』と『ザビーネ』という名前であったが、しかし何の因果か、いまだにこの姿をしているのは。
「……もっと動けるでしょう。あなたたちは」
 そういって、愛おし気に焼けただれた右目を撫でた。
 結局の所。
 その竜は、まだ人間を観ようという迷いがあったわけである。

「てーい、やーーっ!」
 ソアが跳躍する。跳ぶ。飛ぶ。跳ぶ!!
「翼のない人間がちょっとだけ飛べても怖くない、そう思ったでしょう?」
 にっこりと笑ってみせるのは、ネコ科動物の笑み。狩りの獲物を見つけターゲットとした、狩猟者の笑みである。
 ディザルネイアはこの時、はじめて『自分が狩られる可能性があるのだ』と自覚したのだ。だが、既にそれはもう遅い。自覚したとて、その爪牙から逃れられるわけがないのだ。
 思いっきり接近して、『ずたずたにする』。シンプル。だが、それ故に圧倒的な、狩猟者の乱撃!
 ぎぎゃ、と悲鳴を上げて、ディザルネイアのうち一匹が、沼に落着した。バシャバシャと音を立ててもがき、すぐに絶命する――。
「雑魚蜥蜴共に用はねぇ、さっさと片を付けるぞ」
 アルヴァがそうつぶやいた。呟きで、良い。問題なのは、魂の咆哮だ。言葉は小さくとも、魂が吠え声を上げるのならば、それでよい。それで、伝わる。こちらの、戦意は!
「来い――クソトカゲの前哨戦だ。それ以下のお前らに、負けるわけがねぇ」
 航空猟兵が水面すれすれを飛んだ。上空から、ディザルネイアたちが次々と追いかける。さながら、ドッグファイト。航空戦力の空中戦。
「やれ」
「了解――」
 隙をさらしたディザルネイアのうち一匹に、水上を駆けてイルミナがとびかかる! その手は刃。テールム・アルムム・ルークス。エネルギーを刃に変えて、放つは残影の百手。
「切り裂くッス!」
 言葉とともに、イルミナは、その手を大上段から思いっきり振り下ろした! 斬。あるいは、断。ディザルネイアは、攻撃に特化した個体であり、防御面では些かにもろい。ゆえに、イルミナの一撃は、亜竜のうろこを粉砕しながら進み、筋繊維を断裂させ、その骨を切り落とした。
 ずばぁ、とでも書こうか。そのような音を出しながら、ディザルネイアの長い首が半ばから切り裂かれた。ばずっ、と音を置き去りにしながら、死亡したディザルネイアが毒の沼地に落着する。
「ぎゅうい!!」
 此処にいたり、なるほど、こいつらはただの獲物ではないぞ、と彼らなりに自覚したらしい。そのあたりが、ただの猛獣とは違う所か。ディザルネイアたちは、アルヴァを追う数体と、周囲のイレギュラーズを狙う数体へと即座に隊列を変えた。
「なるほど、トカゲにしては、しっかり狩りのやり方がわかるみたいだ」
 マルクがそういう。だが、その表情には焦りは見られない。当然だ。こちらの頭脳は亜竜等比べ物にならぬほどに、切れる。
「回復は引き続き任せて。ムサシさん、分離した群れを引き付けてほしい。アルヴァさんは、今引き付けてるやつらをそのまま。ゼフィラさんはアルヴァさんの援護を。
 残りのメンバーは、今動いてるやつらを、確実にいったい一体潰していこう」
「任せてほしい」
 ゼフィラが言った。
「水上移動というやつはどうもむず痒いけれど――ああ、ヒーラーとしてなら、抜群に動けるとも」
 統べるように進むゼフィラが、アルヴァに援護術式を展開する。後方から迫るディザルネイアの毒のブレスを巧みに回避しつつ、
「一気に引き付ける、遅れるな、ゼフィラ!」
 アルヴァの言葉に、うなづき、進む。
 一方、残るディザルネイアに対して、ゼファーは槍を構え、
「狙いを多少集めても構わずに。巧遅よりも拙速で行きましょう。
 だって、早く帰ってシャワーでも浴びたいしね?」
 涼やかに、そういってみせた。たん、と羽のように軽やかに跳躍。地を這うように飛行していたディザルネイアの上を取り、
「生憎だけど、今日喰われるのはそっちってコトで。
 覚悟して頂戴な?」
 落下の速度をのせた一撃! 脳天を貫く槍が、そのままディザルネイアを沼地に縫い付けた! ぐしゃり、と折れるように、ディザルネイアが沼地に突っ込んで絶命する。ゼファーは寸前で槍を引き抜くと、跳躍して退避。
「最初から全力で行かせてもらうわね?」
 風のように、涼やかに笑う。さて、別れたディザルネイア達は、ムサシを狙い、その鋭い爪を振りぬいていた。まるで超音速で迫るナイフ。ムサシはレーザーブレードでそれを受け止め、受け流す――。
「くっ……! 確かに、強烈な一撃でありますが!」
 ムサシは吠える。
「自分は、シェームさんに可能性を託された身! ならば、ここで、この地で、人が通用するという可能性を、見せつけなければならないのであります!」
 炎をまとい、ムサシはそのレーザーブレードを振るう!
「二天一流・宙の奥義……お借りしますッ!
 焔閃抜刀・交ッ!」
 炎と、光。二つの刃が、Xの字にディザルネイアを斬りぬいた。可能性の光。彼らの叫び。
 残されたディザルネイアが、雄たけびとともに突撃を敢行した。その眉間を、一筋の銃弾が貫く。ぎゅあ、と悲鳴を上げて、ディザルネイアが地面に落下した。その本の僅かの位置に、銃弾の主が立っていた。寛治が立っていた。
「……良いペースではありますが」
 ふむ、と嘆息する。
「私たちなら、もっとすばやくできたのでは?」
 うぬぼれや過信ではない――まだまだ詰められる、という自信と自覚があった。まぁ、それは今のところはいい。寛治はアルヴァを追っていたディザルネイアのうち一体に、銃弾を放った。それは、翼を貫き、と血を流させた。
 ぎゅあ、と悲鳴を上げて、ディザルネイアが上空へ逃れる。寛治は声を上げた。
「帰ってザビアボロスに伝えると良い。我々はこの森を踏破する、とね」
 そう、挑発するように言ってみせる。ディザルネイアは、忌々し気な呻きを上げると、上空へと飛びあがる。プライドを、粉々にされていた。ディザルネイアは怒りの咆哮を上げると、いずこかへと飛び立とうとし――その身が、突如としてずぶずぶと煙を上げ――ばしゃり、と、得体のしれない液体へと変貌していた。それが、雨のように、沼地に落ちていく。
「あれは」
 アルヴァが声を上げた。続いたのは、イルミナだった。
「あの、時の」
 怨毒とまさしく、同じだった。
「いるッスか……ザビアボロス!」
 イルミナが叫ぶのへ――ゆっくりと、それは降りてきた。
「理解できかねますね」
 それが言う。
 見れば、20かそこらの乙女の姿である。
 だが、その身にまとう圧力は、間違いなく、人のそれではなかった。
「その程度の実力で、ここを踏破しようと?」
 天帝種『バシレウス』。ザビーネ・ザビアボロス。それが、そのものの名である。

●わずかの邂逅
(こちらに興味を抱いている……のは、間違いないけれど)
 マルクのつぶやきに、ゼフィラがうなづいた。
(だが、完璧、というわけではなさそうだね)
 つまり、最上位の興味ではない、ということだ。最適ではない。だが、それでも、かろうじてでも、つないだラインである。
(イルミナ、抑えてくれよ)
 アルヴァが言う。イルミナはうなづいた。
(大丈夫。大丈夫、ッス)
 ぐ、と奥歯を噛みしめながら、イルミナはいう。戦うわけにはいかない。消耗した今の状態では、瞬く間に殺されて終わりになるだろう。
「そちらの――」
 ザビーネが指をさす。
「その、人間」
「ボク?」
 ソアが自分を指さした。ザビーネがうなづく。
「ボクという個体なのですか?」
「……ソア。ソアが、名前」
 ぶぅ、とソアが口を膨らませた。なるほど、とうなづく。
「あなたの動きはなかなか。そちらの、ええ、前にも頭を担っていた個体」
 寛治を指さす。
「羽虫にしてはよく切れる。隣の人間も。そちらの……骨格に身を包んだ個体は、シェームの焔を使っているようですが? あなたも嘆きですか?」
 隣の人間、でマルクを指さし、シェームのお気に入り、でムサシを指さした。寛治が苦笑する。シェーム、の名に、ムサシは反応した。
「自分は人間です。覚えているのですか……あの人を?」
「あれは」
 ザビーネが、わずかに眉を潜ませた。
「ヒトの可能性なるものを謳い、私に教えるなどと言っていましたが。それがあなたですか」
 ふぅん、と鼻を鳴らす。
(興味は持たれているみたいよ。ただ、長々とお話はできなさそうね)
 ゼファーが言う。
「何か言いたそうですね。銀色の」
「銀色の」
 ゼファーが思わず息を吐いた。まぁ、しょうがない。猫を見つけて「クロネコ」と呼ぶようなものだろう。
「ゼファーよ。あなたがその姿を取ってくれてうれしいわ。コミュニケーションをとるという気があるってことでしょう?」
「コミュニケーション? 私が?」
 不思議そうな顔を、ザビーネはした。
「なるほど? それは――興味深い」
(……妙ですね。何か、迷いとか、自分でもわかっていないことがある? 探っているのでしょうか?)
 寛治が胸中でぼやいた。ただ、それをこの場で探ることは不可能だろう。
「私は」
 ザビーネが声を上げた。
「無謀にも、ヒトがやってきたというので、確認しに来ただけです。それ以上でも、以下でも」
「なら」
 アルヴァが言った。
「なぜ、声を」
「気まぐれ、でしょう」
 ザビーネが、静かに言った。
「……その、はずです。人に、可能性など、そのようなものは」
 迷うように、ザビーネは言った。だから、アルヴァは、声を上げた。
「俺も強くなったつもりだが、お前との力の差はまだまだ埋まらないらしい。
 だが、見ていろ。可能性ってやつを、俺が、見せてやる」
 そう、宣言した。
「ええと、水色の」
「……アルヴァだ」
「水色の。せいぜい努力してください」
 ザビーネが、その翼をはためかせた、ふわり、と風が巻き起こり、それが飛翔する。それは、あっという間に、見えなくなるくらいの速度で、この場所から去っていった――。

成否

成功

MVP

ソア(p3p007025)
無尽虎爪

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 まずは、第一歩。

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