シナリオ詳細
ボス・ルッチの依頼。或いは、海のギャング討伐指令…。
オープニング
●名も無き島
海洋。
とある名も無き孤島にて。
トパアズ色の香気が漂う檸檬畑を抜けた先に、ひっそりと洋館が建っていた。
あなたを迎えたのは、いかにも肉体派といった様子の筋骨隆々とした黒スーツの男たちだ。男たちにより、あなたは洋館の主の前へと連れていかれた。
「よぉ、わざわざご足労いただいて悪ぃな。ちょいとしばらく身を隠してなきゃいけねぇ理由があるもんでよ」
葉巻の煙を吐き出しながら、顔に傷のある男が告げる。
男の名はルッチ。
海洋に長く住む者であれば、もしかするとその男の顔を見知っているかもしれない。
「身を隠してなきゃいけねぇが、とにかく生きていくには金が要り用だ。そこで俺ぁ、考えた……この島に自生していた檸檬を収獲して売れば、いい儲けになるんじゃねぇかってな」
実際、ルッチの目論見は上手くいったのだろう。
きっちりと手入れされた檸檬畑の様子や、男たちの住む洋館を見れば、相応以上の金銭を稼ぎ入れたことは一目瞭然。そもそもの話、男の咥えている葉巻も上等な品だ。
「ところが、だ……俺の大事な檸檬を積んだ、俺の大事な船を襲うやつがいる」
そう言ってルッチはテーブルの上に1枚の写真を置いた。
写真に写っているのは、白と黒の体色をした大きな体の生物のようだ。
「こいつだ。うちの用心棒が言うには“海のギャング”と呼ばれる生き物かもしれない……だとよ」
と、ここまで話を進められれば、あなたは当然、ルッチがあなたを呼んだ理由に察しがついた。
つまり、ルッチやルッチの仲間たちに代わって“海のギャング”とやらを討伐ないしは追い払えということなのだろう。
「詳しい話は、用心棒から聞いてくれ。あぁ、今や外で日課の鍛錬をしているはずだからよ」
黒服の1人に案内されて、あなたは屋敷の庭へ出た。
そこでは1匹のパンダが……否、正確にはパンダの獣種が虚空へ拳を突き出している。おそらくは拳法の鍛錬だろう。空気を切り裂く鋭い音が耳に届いた。どうやらかなりの実力者らしい。
「うん? あぁ……ボス・ルッチの言っていた追加戦力とやらか。まったく“海のギャング”の討伐程度、私1人で十分なのにな」
汗を拭った1匹のパンダが、のしのしとあなたの方へ近づいて来る。
パンダはずいっとあなたの顔を覗き込み、その口角をにぃと歪めた。
「なかなか“使う”な。どうだ、私と一戦やってみないか?」
そう言って差し出された、もふもふとした黒い手をあなたは取った。もふもふとした体毛に覆われているものの、鍛錬のほどがよく分かる硬い手だ。
「私の名前はP・P・D・ドロップ。さぁ、もたもたしている時間はないぞ。“海のギャング”とやらを実際にこの目で見たことは無いが、きっと強敵に違いない。何しろ、私でさえ破壊に苦労する鋼鉄輸送船を、そいつは破壊したらしいじゃないか」
なんて。
そう言ってP・P・D・ドロップは檸檬を齧る。
疲れを取るのには、檸檬がよく効くのである。
そんなP・P・D・ドロップを一瞥し、黒服の男はあなたにそっと耳打ちをした。
「ボスはあぁ言ったがな……このP・P・D・ドロップという女も容疑者だ。体の色は白と黒、鋼鉄輸送船を破壊する戦力を有し、檸檬を好む……怪しくないわけないだろう?」
- ボス・ルッチの依頼。或いは、海のギャング討伐指令…。完了
- GM名病み月
- 種別 通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年03月21日 22時05分
- 参加人数6/6人
- 相談0日
- 参加費100RC
参加者 : 6 人
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参加者一覧(6人)
リプレイ
●名前の無い孤島
柑橘類の香りを孕んだ、熱い風が吹き抜ける。
ここは海洋。
名も無き孤島。
島の側面にある洞窟へ、木箱を背負ったゴブリンが1体。
「おぉ、大した設備もねぇ割になかなか立派な船じゃぁねぇか」
額の汗を手の甲で拭い『社長!』キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)は“それ”を見上げた。そこにあるのは、黒鋼色の鋼鉄船。元は別の……例えば、赤い塗料でも塗られていたであろう痕跡がある。
ルッチファミリーは、これを檸檬の輸出に使っているそうだが、本来は海戦を前提に建造されたものだろう。
その証拠に、鋼鉄戦艦の側面や船尾には砲弾を浴びた痕跡があった。“海のギャング”と呼ばれる怪生物に襲われた痕跡ではない、最新の技術を用いてつけられた破壊痕である。
木箱を地面に降ろしたギドーは、にぃと口角を吊り上げた。
「ギャングに海の道理が分かるかよ。海の事なら海賊だ」
木箱を開けば簡単な工具と、書類……武器等のカタログが地面に散らばる。カタログの中から数冊をピックアップしたキドーは、目の前の鋼鉄戦艦と、掲載されている兵装の図案と見比べはじめた。
「よぉ、何やってんだ、あんた?」
キドーの背後で声がした。そこにいたのは、たった今、鋼鉄船から降りたばかりといった様子の女性である。背は高く、体はがっしりとした筋肉に覆われているのが特徴だ。見慣れぬゴブリンを警戒しているのか、肩には柄の長い鉄鎚を担いでいる。
「査定だよ、査定。何事も下調べが重要だ。そうだろ?」
「……それにしちゃ物騒なもんを見てるじゃねぇのよ。なんだ? 海賊でも襲うってか? それとも海賊に襲われる心配をしてんのかい?」
「どっちもだが……まぁ、こっちから喧嘩売っちまっても問題ねぇやな。とはいえ襲う事にかけても連中はよく心得てる。ならば逆もしかり」
カタログ数冊を素早く纏めて脇に挟むと、キドーは懐から1枚の名刺を取り出した。
鉄鎚の女……ヘルヴォルという名のルッチの部下だ……へ、名刺を手渡しキドーは笑った。
「てな訳で、ビジネスの話をしようじゃねぇか。鋼鉄輸送船強化案として我が社からの人員派遣の提案だ」
檸檬畑から海を見渡し、ルッチは葉巻を燻らせていた。
広く、青い海である。波は穏やか、風は静かで温かい。だが、湿気の多分に混じった風だ。きっとそのうち嵐になる。そんな予感を胸に抱いて、ふとルッチは背後を振り向いた。
「おぉ、来たか。まったく、ギャングの依頼を引き受けるなんざ、てめぇも随分と物好きだ」
呵々と笑ったルッチの視線は、『若木』寒櫻院・史之(p3p002233)へ向いている。史之とルッチは旧知であるが、最後に顔を合わせたのは随分と前のことである。
史之は肩を竦めると「仕方が無い」とでも言うように、わざとらしく困った笑みを浮かべて見せた。
「やあルッチ。元気そうで何よりだよ。心配していたんだ。顔が見れてうれしいよ」
「そうかい。俺も嬉しいぜ。俺の手紙が無事に届いたみてぇでよ」
そう言ってルッチは足元の籠から檸檬を1つ取り上げると、史之の隣に立つ褐色肌の女性へ向かって放り投げた。
褐色肌の女性……『Pantera Nera』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)は檸檬を受け取り、白い歯でその黄金にも似た皮を齧った。
カリリ、と小気味の良い音がして、トパアズ色の香気が散る。
「やれやれ……報酬は金と檸檬の購入権だ」
「おぉ、無事に依頼が達成できりゃ、ちったぁ割り引いて売ってやっても構わねぇ。友達(ツレ)は大事にしねぇとな……そうだろ、お嬢ちゃん」
お嬢ちゃん……その呼び方が気に障ったのか、モカの眉間に皺が寄る。だが、すぐにルッチが揶揄っているだけだと気付いた。
「……必要経費だ。貰っていくぞ」
と、そう言って。
檸檬の樹から果実を数個もぎ取ると、モカは海へと歩いて行った。
白い砂浜に、割れた木板が散らばっている。
分厚く、そして丈夫な木板だ。ちょっとやそっとの力では、こうも見事に2つに割ることは出来ないだろう。
「おーおー、酷い有様だな。こりゃ、船の一隻分ぐらいはあるか?」
『有翼の捕食者』カイト・シャルラハ(p3p000684)は、足元に転がる木板を手に取り、破壊の痕跡に目を向けた。
強い力が1点にかかったような痕跡だ。
例えば、鋭い打拳で穿たれたみたいにも見える。
「これは“海のギャング”とやらの仕業か?」
「どうだろうな。白黒で“海のギャング”ならシャチかと思っているよ」
『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)が、砂に埋もれていた木板を爪先で蹴飛ばす。長く潮風に晒されたとは思えないほどに硬い。
「噛み砕いたような痕跡も無いし、海獣に襲われてこうはならない」
「うん? じゃあ、イズマはP・P・D・ドロップを疑ってるってか?」
「そう言うわけでもないが……以前、ローレットで一悶着あった前科がある。信じ切ってもいないな」
そもそもの話、P・P・D・ドロップがルッチ・ファミリーに雇い入れられた経緯から物騒なものなのである。何でもP・P・D・ドロップが、ルッチ・ファミリーの輸送船を襲ったとか。
「なるほど。で、そのP・P・D・ドロップは?」
「そう言えば、少し前から姿が見えないね。一体どこに……」
イズマが視線を周囲に巡らす。
と、その時だ。
遠くの方で、地面が揺れる音がした。
時刻は少し巻き戻る。
イズマやカイトを先に行かせたドロップは、腕を組んで波打ち際に立っていた。
「それで、いつまでそうしているつもりだ?」
白い波に目を向けながら、P・P・D・ドロップはそう問うた。
暫くの沈黙。
それから、砂を踏む足音。
たった今、そこに現れたかのように。
或いは、最初からそこに立っていたかのように。
『納骨堂の神』シャーラッシュ=ホー(p3p009832)は、口元に薄い笑みを“貼り付け”、慇懃な仕草で一礼をしてみせた。
「はじめまして。シャーラッシュ=ホーと申します。P・P・D・ドロップ先生にご指導ご鞭撻を賜りたく、遠路遥々この檸檬畑へとやってきました」
ホーが纏うのは黒いスーツだ。
とてもでは無いが、ドロップの稽古を受けるような服装ではない。だが、ドロップはホーの服装を責めることはなかった。
常在戦場の心意気を感じ取ったからだ。例えば、豊穣の地にある“ジゲン”とかいう剣の龍はにおいては、ドレスやスーツで稽古を受けることが許可されている。
仕事や宴の最中でも、敵は容赦なく襲って来るから……と、そんな風な理由であった。
「目指すか、高みを」
「えぇ。最終目標は〝グール截拳道〟の体得です」
「修羅の道だぞ。いつまで歩く?」
「無論、死ぬまで」
ひとつ、深く頷くとP・P・D・ドロップは腕組を解いた。
そうして彼女はホーの方へと向き直ると、腰を低く落とし、拳を前へ。
「では、来るがいい」
と、告げると同時に。
ホーは地面を蹴って前へと駆け出した。
●海のギャング
グール截拳道。
それは、鉄帝国のアクション俳優にして武闘家であるアンデッド、ブルー・Ⅲがゼシュテル拳法を基盤に、海洋式ボクシング、ラサ奴隷格闘術、豊穣空手、山ン本部屋相撲の技術を取り入れて考案した格闘術である。
また、武術のみならず「武道を学び、心と胃を鍛え上げることで生まれた余裕で、死後の時間をおもしろおかしく過ごしてしまおう」というアンデッドとしての生き方を現す思想・哲学でもある。
グール截拳道は、特定の型やルールに縛られることはない。
強いて言うなら“相手の拳を截つ道”……つまり、カウンターを主体とした格闘術であることが特徴だろうか。
ホーの両手に夜の闇より黒い魔力が灯った。
伸ばされたホーの右手を、ドロップは左手で弾いて背後へと受け流す。そうしながら、ドロップの右腕はまっすぐ突き出すように前へと伸ばされた。
ズドン、と。
まるで自分から吸い込まれていくみたいに、ホーの顔面がドロップの拳にぶち当たる。
「……っ!?」
「グールは素早く動けない。ならば、相手の動きを利用するまで」
そう言ってドロップはホーの顔面を掴む。
そのまま彼女は、ホーの後頭部を地面に向かって全力で叩きつけたのだった。
モカと史之は、船を沖へと進ませていた。
島の入り江付近から、海中に罠を仕掛けながら少しずつ沖へと行動範囲を広げているのだ。
「さて、話によればこの辺りで“海のギャング”に襲われたとか」
沖で船を停止させ、モカは甲板から青い海を見下ろした。
出張店舗船ステラビアンカII号。形状は小型の屋形船に似ている。船としては決して大型とは言えないが、キッチンには強化コンロとオーブンを備え多種多様な料理を調理・提供が可能となっている。
「倒した海のギャングは島に持ち帰って料理するぞ。何が食べたい?」
「んー……そうだね」
細切れにした檸檬を海へ撒く手を止めて、史之は顎に手を触れた。“海のギャング”は、檸檬を積んだ鋼鉄輸送船を襲ったという。ならば、檸檬の味を覚えているはずだ。
つまり、細切れにした檸檬は撒き餌である。
「…………あぁ、そうだ」
しばしの思案の末、彼は答える。
「炒飯……とか?」
「では、それも作ろう。今夜は宴会だ」
なんて。
暖かな潮風を体一杯に受けながら、モカと史之は言葉を交わす。
それゆえ、2人は気づかない。
船の後方、2人の死角となる海の中に白と黒の体色をした巨大な何かが近づくことを。
ところは洞窟。
鋼鉄輸送船の甲板で、2人の男が対峙していた。
1人は顔に傷のある大男、ルッチ。
もう1人は、身なりの良いゴブリン、キドーである。
「遠距離武器を増やすのも、それを操るための海賊連中を雇い入れるのもいい」
キドーに渡された資料を見ながら、ルッチは顎に手を触れる。
それから彼は、資料に記載された図案と追加兵装の一覧を指さして問うた。
「だが、この気球ってのは何だ? 船にはマストがある。物見ならそれで充分じゃねぇのか?」
ルッチの問いにキドーは笑みを深くした。
そう訊かれることははじめからキドーも分かっていたのだ。
「ハッ! 甘ぇぞ、ルッチ! いいか、空だ!」
そう言ってキドーは、右手の指で空を指さす。
「空?」
「制空権の独占こそが、これから先を生き残るには重要だ! 高い位置から敵を見つけて、敵の攻撃が届かねぇ位置から、先に攻撃を仕掛けるんだ! なに、心配はいらねぇ、人材はうちが派遣してやるぜ!」
今回、キドーが提案した小型気球はそのための兵装だ。気球には、火矢や銃火器を装備した海賊が乗り込み、海上の敵を一方的に攻撃するというわけだ。
「マストじゃ駄目なのか?」
「高さが足りねぇ。例えばだ……うちにカイトって奴がいるんだが」
男2人の商談は、誰も知らぬところで進む。
「後方から何か来てるぞ! 入り江へ戻れ!」
空の高くでカイトが叫んだ。
その声を聞くなり、モカが操舵席へと跳び込んで行く。
すぐに船が動き始めた。
だが“海のギャング”は泳ぐのが早い。
「っ……当たらないか」
船尾に移動した史之が、海中に潜む影へ向かって斬撃を放った。無数の斬撃が海面を裂くが、海のギャングはすぐに水中深くへ潜って回避する。
「白と黒……こいつで間違いなさそうだね」
「だが、どうする? 逃げきれないぞ!」
罠を仕掛けた浅瀬の方へモカが船を進ませている。だが、浅瀬に辿り着く前に海のギャングに追いつかれそうだ。
海のギャングは鋼鉄輸送船を破壊する。一たび捕まれば、モカの船などひとたまりも無いだろう。
けれど、しかし……。
「任せとけ! 俺が時間を稼ぐ!」
翼を畳んだカイトがまるで、矢のような速度で降下した。
突風を纏い、三叉の槍を両手で構え、海のギャングの頭上からカイトは強襲をかけたのだ。
「最近は表立って名乗ってないが、鳥種勇者だとかそんな名前の前にな、『風読禽(カザミドリ)』っていう通り名があるんだぜ」
カイトが海に突っ込んだ。
否、海面にぶつかる寸前に体を捻って急上昇。槍の先で海のギャングの背中を引き裂き、距離を取る。
海のギャングが停止する。
その隙に船が離れていく。
海のギャングが再び泳ぎ始める前に、再びカイトは頭上からの強襲を仕掛ける。
「海の猛禽から逃げ切れると思うなよ? ギャングだろうがなんだろうが喰い付くしてやるぜ!」
一方、その頃。
イズマは海岸を駆けていた。
「おや? 海のギャングは見つかったのですか?」
「どこだ。私に戦わせてくれ」
そんなイズマを呼び止めたのは、砂に塗れたホーとドロップの2人である。
なんとも微妙な顔をして、イズマは2人へ視線を向けた。今までホーとドロップが海のギャングを探さずに、稽古に励んでいたことは明白。だが、そのことを責めている時間の余裕も無い。
「付いて来てくれ。ほら、アレだ。アレが海のギャング。白と黒の……パンダに似ているけれど」
と、そう言ってイズマは海のギャングとドロップを見比べた。
「……んー。海のギャング、ですか。あれはパンダではなく『鯱』ではないでしょうか」
「あぁ、俺もそうだと思うよ」
いいから急ごう。
イズマを先頭とした3人は、浅瀬へ向かって走り出す。
●嵐の前に
顎の下で手を組んで、キドーはくっくと肩を揺らした。
ゆっくりと鋼鉄輸送船の装甲……分厚く頑強な鋼の装甲に手を触れて、何度か拳で叩いて見せた。
「頑丈ないい船だ。だが、これじゃあちと遅すぎねぇか?」
「あぁ? だが、砲弾や海の化け物をやり過ごすにゃ、これぐらいでもまだ足りねぇぞ?」
「だろうな。ってことで、ニトロを積むか、帆を大きくするか、パドルを付けるか……どうだい? うちにはそう言う技術を持った奴もいる。今ならすこぉし割り引いておくぜ?」
男たちの商談は続く。
追い風を受けて、モカの船は加速した。
船だけではない。風を捉えたカイトもまた、海面を滑るようにしながら海のギャングを追いかける。
「罠のある位置まで船を乗り入れるのかい? こっちまで身動きが取れなくなるよ!?」
モカが罠を仕掛けた浅瀬まで後少し。
浅瀬には、イズマやホーが既に回り込み待機しているのが見える。
「いいや。船はここまでだ! 投げ出すから、カイトにキャッチしてもらってくれ!」
「……投げ出す?」
なんて? と、聞き返す暇もない。
モカは舵輪を右へと回し、操舵席横のレバーを引いた。
船の横から錨が落ちる。
海の底に錨が落ちて、ガクンと船は急減速。
海底の岩に食い込んだ錨を支柱にして、船体が横へ滑ったのである。その拍子に、史之の体が空へと投げ出された。
「っ! 帆船ドリフト!?」
「あまり多用はしたくない技だけどね」
胃の中身がひっくり返るような奇妙な浮遊感。
史之の体が宙を舞い、カイトがそれを受け止めた。
「このまま飛ぶぞ! 振り落とされんな!」
そして、浅瀬へ向かって急加速。
虚空を泳ぐ2人を追って、海のギャングが跳び上がる。
体にネットを巻きつけながら、白と黒の巨大な魚が……シャチが浅瀬へ乗り上げた。
その顔面、右目へ向かって史之が刀を振り下ろす。
斬撃がシャチの右目付近に幾つもの深い裂傷を刻む。
「勢いがあるな。少し減速させないと……何か手はあるかい?」
「生気玉というグール截拳道の奥義があります。周囲の生き物から生気を吸い取ってエネルギー弾を形成する技ですが……周囲の生物が死に絶えます」
「じゃあ駄目だ」
「それなら……」
カイトと史之を追いかけるシャチの体には、無数のワイヤーが巻き付いている。だが、いかんせんシャチの体が大きすぎる。2人の攻撃と、ワイヤートラップを浴びてなお、減速し切るにはまだ少し足りない。
「合わせてください」
砂に両足首までを埋め、ホーは低く腰を落とした。縦にした右拳を前へ、左半身は後方へ捩じる。
真似をしたイズマは、拳の代わりに細剣を構えた。
「もう少し、腰を落とすんだ」
「あぁ、はい」
P・P・D・ドロップからのアドバイス。
腰を低く落とし過ぎた姿勢だ。このまま、シャチが接近すれば回避は出来ない。
「まさか、迎え討つのか? 死んでしまうぞ?」
おそるおそる、と言った様子でイズマは問う。
だが、砂に塗れたいい笑顔でホーは答えた。
「死を必っすれば則ち生く。つまり、死ぬ気でやれば、割と生き残るということです」
「従うんじゃなかった!」
が、しかし後悔しても遅い。
既に目の前まで、シャチは迫っているのだから。
「止めてくれ! 一瞬でいい!」
頭上で史之の叫ぶ声。
カイトが腕を離したなら、史之の体は重力に引かれて落下をはじめた。
きっと、ホーとイズマがシャチを止めてくれると信じて。
ならば、もう、やるしかない。
シャチの顎が眼前に迫る。
ホーは拳を、イズマは細剣を真正面へと繰り出した。
ゼロ距離から放たれる、刹那の一撃。
それこそ、グール截拳道、死亡奥戯が壱の技・埋葬拳に他ならない。
墓穴を掘る、という言葉がある。
つまり、埋葬拳とはそういうことだ。対象が勢いに乗っていれば乗っているほど、その勢いはダメージとして自身へ返るカウンターの技だ。
衝撃がシャチの脳を揺らした。
シャチの体が停止して、その頭上に影が降る。
「チェストぉぉおおお!」
刹那、“斬!”と。
その太い首を史之の刀が断ち斬った。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様です。
海洋ギャングの依頼により、海のギャングを討伐しました。
ルッチも喜んでいます。
また、ルッチ・ファミリーの戦力が強化されました。
この度はご参加いただきありがとうございました。
縁があればまた別の依頼でお会いしましょう。
GMコメント
●ミッション
“海のギャング”の脅威を排し、檸檬の輸送航路を守る
●ターゲット
・海のギャング
海のギャングと呼ばれる生物。
不鮮明な写真から得られた情報しかないが、どうやら白と黒の体色をしており、鋼鉄輸送船を破壊するだけの戦力を有しているようだ。また、檸檬を好んで喰らうらしい。
●NPC
・P・P・D・ドロップ(獣種)×1
パンダ・パニッシュ・デス・ドロップ。
もちろん偽名。
一見すると2足歩行のパンダであるが、性別はどうやら女性のようだ。
体術を駆使し、素早く、力強い戦闘を熟す。
ボス・ルッチの配下である鉄槌使いと激闘を繰り広げ、実力を認められたことで用心棒として雇われた。ルッチの配下と揉めた理由は不明だが、どうやらルッチの鋼鉄輸送船を襲ったらしい。
・ボス・ルッチ
筋骨隆々とした大男。
短髪にいかつい顔立ち、額から頬にかけての裂傷が特徴。
本人は素性を明かさなかったが海洋ギャング“ルッチ・ファミリー”のボスに似ている。
現在は名も無き孤島に潜伏し、檸檬の輸出で資金を稼いでいるようだ。
●フィールド
海洋のとある孤島。
檸檬畑が広がっている。
海のギャングは、島の外周に出没するらしい。
小舟程度なら貸し出してもらえるだろう。
動機
当シナリオにおけるキャラクターの動機や意気込みを、以下のうち近いものからお選び下さい。
【1】ボス・ルッチからの手紙をもらった
何らかの理由によりボス・ルッチからの手紙を貰い孤島を訪れました。
【2】P・P・D・ドロップを追って来た
武闘家P・P・D・ドロップの噂を聞いて追ってきました。指導を受けたり、一戦交えたりするためです。
【3】偶然、孤島を訪れました。
海を旅している途中で島に立ち寄り、ボス・ルッチの依頼を受けました。巻き込まれたとも言います。
海のギャング討伐作戦
海のギャングの討伐にあたって、どのように行動するかの指標となります。
【1】海のギャングを捜索&討伐する
海岸線沿いに歩いたり、小舟で海に漕ぎ出したりして“海のギャング”を探します。発見したら、討伐するか、追い払うかしましょう。
【2】P・P・D・ドロップが怪しい
“海のギャング”なんか本当はいないのかもしれません。鋼鉄輸送船を襲ったのは、P・P・D・ドロップだと当たりを付けて彼女の監視を行います。
【3】鋼鉄輸送船を強化する
弱肉強食が世の常です。つまり、弱いから奪われるのです。であれば、鋼鉄輸送船に武器を積んだり、装甲を追加したりして“強く”すればいいのです。海洋ギャングに武器を与えることになる? 知らん知らん。
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