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シナリオ詳細

<海神鬼譚>セントエルモの火の帰還

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 一隻の船が、暗闇に揉まれていた。
 ぴかり。
 あたり一面を一瞬だけ照らす雷が洋上に落ちる。
 それから、衝撃。
 激しくしぶきを上げる波のぶつかり合いに、船乗りたちは声をはり上げていた。腕に覚えのある海種たちが海を恐れずに、ロープを張る。果敢に翼を広げ、マストを操っていた飛行種が降り立ち水滴をふるった。
 間一髪、船首に施された一角獣の像の角が雷を受けた。
 幾多の危機を潜り抜けてきた海の男たちだ。このくらいではびくともしない。それに、彼らはもう知っている、絶望の青を乗り越えた後には、静寂の青(Serenity Blue)がやってくる、と。
「見えたぞー! 島が、見えたぞーっ!」
 星のように瞬いているそれは、灯台にともされた明かりだ。 
 船乗りたちを見守っている明かりは「おかえり」を告げるように揺れる。
 セントエルモの火。
 それは、長きにわたって航海の無事を守りつづけてきた、このあたりの船乗りの守り神である。


――大海原を広く見渡す、灯台。
 船乗りたちが頼みにするその火は、とある精霊が残したものとされている。もっとも、それは気の遠くなるほどに昔のことで、当時のことを知るものもいないのだが……。
「きひひひっ。きひひひっ、ここから出たいノ?」
『ナイトライト』フィフィがけらけら笑い、誰かと何かを話している。……のだろうか?
 彼の前には小さな灯しかない。
 奇妙な笑い声を聞いた灯台守は不審に思ったが、しかし風の音か何かを聞き間違えたのだと思った。
 確認してみたが、誰も見当たらなかったのだ。首をかしげた灯台守が去っていくと、天井からぶら下がったフィフィがぷらっと戻ってきた。
「閉じ込められてるのなんて、ウンザリ、ッテ? わかってるよ。ここが嫌いになったんデショ! 違う? 島の人は大好き、だって? ふうん。……自分は、一度も出られなかったから、この島を見てみたいって? きひひひっ! フィフィも退屈が大っ嫌い。だから、イイヨ! 連れてったゲル!」
 行きはよいよい、帰りは怖い。
 帰り道は保証しないけどネ。
 暗闇に、ニイッと笑みが浮かんだ。カンテラの中に火が移っていった……。


「……こんなに静かな島じゃなかったはずなんだがな」
『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)は、島の様子に怪訝な顔を浮かべる。リゾートとはいわないまでも、そこそこににぎわっていたはずの島は、文字通り、火が消えたように静かだった。
 あの灯台の火がなければ、この島にたどり着くのはよほどのことがないと難しい。人々は深くフードをかぶり、目線も合わせずに去っていくのだった。海賊騒ぎか、それとも海魔の類か――その割には血の匂いもしない。
 とはいえ、海産物の多くを運びながらも、物資をよそに頼っている島でもある。交易を閉ざすのであれば、いずれは厳しいことになるだろう……。
「いったい何があった?」
 一人捕まえて事情を聴いてみようとすると、わなわなと震えだした。
「ああ、語るのも恐ろしい……っ! あの火が、いなくなってしまったのです!」
「盗まれた? 火種がってことか? 冗談だろ。まつられてるのは、一か所や二か所じゃないだろう?」
 合計で、32か所。すべてから消えていたという。
 その割には金目のものも盗まれてはおらず、ただちょっとおいてあったパイがなくなっていたと……。
「……」
 そういうことをしそうなやつは……。
 十夜 縁の脳裏に、一人が浮かんだ。
「ヒーッホー!」
 ざっぱん。
 フィフィが、船を走らせているのが見えた。
 大量の海魔を引き連れて……。
 頭を抱えたくなる光景だった。

 いっぺんに片づける羽目になりそうではあるが、不幸中の幸いにして、今は漁期の前であり、この機会に「掃除」ができれば少しくは平和が訪れるかもしれない。航路が開ければ人々も喜ぶことだろう。
「振り回してやがる……」

GMコメント

アサリの砂ぬきに毎回ビビっている布川です!

●目標
 フィフィが倒される前に、「デンキダイオウイカ」を倒す。

●敵&中立
「鬼さんコーチラ!」
『ナイトライト』フィフィ
チョウチンアンコウの海種。青白い光を灯すカンテラを常に持ち歩いています。今回はカンテラの中に「セントエルモの火」を入れ、モーターボートで疾駆しているようです。
 すばやく、また、結構手ごわいのですが、遊び好きでダメージを受けすぎると飽きて帰るかもしれません。「セントエルモの火」をほっぽりだして……。
 行き当たりばったりで面白そうなものがあると寄っていくような気もしますし、面白そうなら攻撃もしてくるかもしれません。

・海魔「デンキダイオウイカ」×1
 巨大なイカです。火に集まってきた海魔の中でもひときわに大きく、手ごわそうです。ボス格でしょう。
 触腕で敵を大きく薙ぎ払い、渦潮を発生させます。また、電撃を打ってくることもあります。
 そのほかイカらしい攻撃に注意です。

・小さな群れ「スイ・ミー」×3(群れが3つ)
 流れに乗って突撃してきた小魚のモンスターの群れ。一つ一つの力は小さくとも集まると厄介なようです。
……ちょっとおいしそうです。

・ホタテシェルト×5
 この海域に現れる海魔です。動きは鈍いものの、物理にやや頑丈です。かばうに注意。移動速度はあまりないので、振り切れるかもしれません。バターが合いそう。いやそんな。

 倒しておくに越したことはありませんが、ダイオウイカさえ何とかすれば何とかなると思われます。

●場所
 セントの島周辺海域
  普段は非常に穏やかな海域ですが、火が失われたためか、薄暗いです。フィフィは島をぐるっと一周するつもりのようです。

~障害物など~
 途中で、身動きのとりづらいサンゴ礁や霧深い場所があります。待ち構えることも可能ですし、追いかけても大丈夫です。フよい波もあります。

●セントの島の住民たち
「この世界は、もうおしまいだ……」
 住民たちは深くフードをかぶり、戸を閉ざしています。彼らは非常に迷信深いのです。火が戻ってこないことには笑顔もないでしょうが、何かフォローしてあげてもいいかもしれません。

●その他
 シレンツィオリゾートと近く、「竜宮城の加護効果範囲内」でもあります。よい船旅を!

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <海神鬼譚>セントエルモの火の帰還完了
  • GM名布川
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2023年04月01日 22時35分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
※参加確定済み※
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
十夜 蜻蛉(p3p002599)
暁月夜
エマ・ウィートラント(p3p005065)
Enigma
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
キルシェ=キルシュ(p3p009805)
光の聖女
エーレン・キリエ(p3p009844)
特異運命座標

リプレイ

●その名はフィフィ
 フィフィは飽き性である。
「ンー……」
 イタズラの準備は整ったものの、果たしてイレギュラーズはくるんだろうか。
 いっそ、火のことなど忘れて泳ごうかなと思ったときである。
 海に、自分そっくりの何かがいた。
「おーい、そこのお前、ここに居るのはだーれだ!?」
「エエッ? スゴイスゴイ!」
 それで、自分を追いかけているうちに……フィフィは縁らを見つけた。
 それは、桜狐神社の白狐がくれた、小さな奇跡だったかもしれない。

「やれやれ、やっぱりあいつの仕業か」
「イエーイ!」
『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)に、すべての元凶……フィフィは元気よく手を振っていた。
「やあ、フィフィ
二度目ましてかな
前回は遊んであげられなくてごめんね
今回はたっぷり遊んであげるよ」
 女王の珊瑚のネクタイピン。海洋王国にその名をとどろかせる『若木』寒櫻院・史之(p3p002233)。それから……。
「フィフィちゃんに逢うんは、二度目ましてかしら」
『暁月夜』蜻蛉(p3p002599)は波で揺れるのもものともせずに、立っている。
「元気しとった?
あんまりお遊びが過ぎると、痛い目におうてしまうよ。……って、言うても聞く耳は持ってくれなさそうやけど、んふふ」
「分かってるネ!」
 フィフィは、どうも大物を釣り上げてしまう運命にあるらしい。
 相手にとって不足なし、だ。
「でかいだけのイカなんかより、俺たちといっしょにあそんだほうが楽しいよ?」
「どうカナ? 試してみないと、コーッチだヨ! って……!」
「フィフィ、君と遊びたい人がたくさんいるみたいだ
とりあえずそちらへいってごらん、楽しいよ」
 史之の言葉には、なんだか説得力があった。
「ヒャッハー!」
『有翼の捕食者』カイト・シャルラハ(p3p000684)が捕食者のごとく後ろから迫っていた。岩礁をくぐり抜け、シャチのように飛び、フィフィの目の前に回り込む。
「船」で。
 紅鷹丸の動きはただ者ではない。
「そっから飛んでくるノ!?」
「鬼ごっこだろ? 鬼さんならぬ鳥さんが『全力』をもって追いかけてやろうじゃねえか」
「せ、戦略的撤退ー!」
 フィフィの持っているカンテラには火が揺れている。
「ああっ……危ない!」
『リチェと一緒』キルシェ=キルシュ(p3p009805)はわたわたとした。
「あの火がないと、困っちゃうわ」
「おんやまあ、灯台の灯泥棒
いえ、そーですね。なにか事情があるようでごぜーますが」
『Enigma』エマ・ウィートラント(p3p005065)は真意の読めない笑みを浮かべている。
「それにしても、扱いは随分とまあ
奔放と言うかなんと言うか……」
「お騒がせだな……だが放っておくわけにはいかないな」
『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)はため息をついた。
「セントエルモの火が失われでもしたら大変だ」
「フィフィお兄さんから火を返して貰って、島の人たちに笑顔取り戻して貰わなきゃ!
それと、フィフィお兄さん追いかけてるイカさんたち倒さなきゃ!
 そこへ、竜宮イルカが目の前に現れた。
『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)、イルカの名前を逆波という。
「俺はイレギュラーズ指折りの俊足、鳴神抜刀流の霧江詠蓮だ! なかなかいい船に乗ってるが、速さで俺に勝てるかな!? ひとつ島を一周の勝負と行かないか?」
「フィフィお兄さん! ルシェたちと競争よ!」
 キルシェがかわいらしく加勢する。
「終わったら美味しいマフィンあるからー!」
「ヤッター! ……海の底に沈んでなかったらネ!」
「あっこらマフィンで忘れるなよ、鳥さんを!」
 あーっちもこーっちも、面白いことがある。
 とにかく、刺激的(エキサイティング)だということだ。
「いくぞ、3、2、1」
 エーレンの合図は、フェアだった。
 こうして、戦いの火蓋は切って落とされたのだった。

●草の根
 どうしてだろう。史之の説得は本心だった。火が消えてしまっては困るから、というのももちろんあるけれども……。
(へたに巻きこんだらめんどうなことになるし
フィフィにはまだ死んでほしくないなあ、俺
なんでだろう、あのワダツミのやつなのに
……子供だからかな?)
 だからこそひねくれたフィフィも史之の言葉を聞くのかもしれない。「ぜーったいヤダ!」とか言って暴れまわることもなくはないし、つまんないから帰る、と言い出しかねなくもあった。でも、なぜか聞いたのだ。
「まあ、見た限りは
義理堅い性格ではないようでごぜーますし
今回の灯泥棒も面白そうだから、というのが
本音でごぜーましょう」
「そうだな。面白がってるってとこだろうな……」
 エマの分析に、縁は頷く。
「退屈すればすぐやめたって放り出すだろうな。そういう奴だ」
 とはいえ、退屈する暇もないだろう……。
(呑気に遊んでる辺り、アズマの指示じゃなさそうだが……)
 とはいえ、島民の気落ちっぷりを放っておける縁ではない。
 仲間たちがフィフィの興味を引きつけるのを見守ると、扉を一つ一つ叩いていった。
「……ま、そう悲観しなさんな。例の火は俺たちがちゃんと取り返してやるさね」
 海にも出られず、我々はここで干からびて死んでいくのだと暗い顔をしていた島民たち。
 ひそひそとなにかささやきかわす。
「火が戻ったら、仕留めた海魔連中を使ってバーベキューをする予定らしいんで、使っていい食材がありゃぁ持ち寄ってくれや。……ついでに、旨い酒も頼むぜ」
 待つだけというのもつらいものだ。なにかしていたほうが気が紛れるだろう。

 一方で……。

「何がモーターボートだ、こちとら最強小型船ぞ!」
 サーファーが波を捕まえるように、紅鷹丸は風を捕まえる。舵をひとつ、空を「飛んだ」のだ。漁船が。――性能もただならぬと言ってはいいが、カイトでこそなせる技だろう。海風が、これからどう動くかを教えてくれる。野生の勘だけではたりない。使い古された海洋海瀕船征誌にはその秘技が記されているというが――。
 三叉蒼槍がセントエルモの火で煌めいて、白き太陽の風布はなびく。海上の灯台のように輝いている。
「ム……」
 注目をとられたフィフィが不服そうに口をとがらせる。
「鬼ごっこの鬼だからな!」
 カイトもまた楽しそうだった。遊びたいのであった。
「ウワッ」
 追いかけっこの最中で、回り込んだイズマが進行方向を狭めていた。
「止まれ! 海魔だらけで危ないじゃないか!」
「海上警察ダ!」
 音を頼りにすればこそ、エーレンの逆波もまた聡くイズマの位置を把握していた。ちょうど、はさみうちのかたちになる。
「せ~のっと! あらよっ!」
 カイトが乗ったものがサーフボードならばまだ理解はできるが、それは船なのである。猛禽の群れのくちばしのごとく、カイトは鋭い攻撃を繰り出す。
 速い。こちらが。……フィフィもまあまあ捨て身の分だけ速くはあるが、そのぶん、危ない。
「しまった、ここはサンゴ礁か! さては誘い込んだな!?」
 エーレンはさしかかった岩場をジグザグに避け、距離をわざとかせぐことにした。
「いくぞっ!」
 接待プレイ……もやむなしである。倒れてもらうわけにはいかない。そのぶん、海魔はカイトのほうに向かっている。
(物理抵抗? 数の暴力? なら貫通範囲BS炎獄でしっかりと焼けばいいだけだな!)
 翼とともに、巻きあがる炎が。舞い落ちる火炎が。火の粉が。じゅう~と白い煙とともにおいしそうなにおいが漂ってきた。
「しっかりと焼き焼き炎狩祭り!」
 セントエルモに、新たな祭りが誕生した瞬間だった。

(ま、そうそう死にはしないよな)
 一部のホタテシェルトが、渦潮に静かに飲まれていった。派手な炎舞に飲まれたとは違う、静かに、静かに。まるで判断力を狂わされたように縁の前にあった。
「調子はどうだ?」
 操流術・引潮。サンゴ礁からのおびき寄せだった。エーレンも静かに一閃を走らせ、ホタテ貝の2枚を分かつ。
「速度を落とさせて、正解だったな。あいつはボートがぶっ壊れても面白ければやる」
「あの火を失わせるわけにはいかないからな」
 エーレンに答えるように、逆波が鳴いた。もうひと頑張りできるか、と尋ねると静かに尻尾で水をはね、こたえる。
「さて、海魔狩りだ」
 イズマの鬼灯に、静かにフィフィの持っている炎がきらめいたように思える。少し楽しそうな響きだったから、なんとなく「出てみたかったのか」とわかった。巨大なイカが触手を振り回すが、イズマは攻撃を正面から受け止めることはなく、受け流し、難なく耐えてみせる。
 返答は、海から響き渡った。
 響奏撃・波。広範囲が揺れる。それから海の上を跳ぶ石のように、小魚と貝が吹き飛んだ。両手をばってんにし、己をかばおうとしたイカは、明らかに怒っている。しかしイズマは海域を広く見渡していた。
 共に乗っている蜻蛉がイズマに向かってしずしずと頷いた。良く見えている。
(防御は、足りてそうだ。早さも……ここなら、いけるな)
 ディメンション・デス。
 一瞬にしてどこかへと飲み込まれた魚が、ぽんぽんとお刺身になっていた。
 あまりの光景に腹を抱えてげらげらと笑っているフィフィ。
「怒らせちゃった怒らせちゃった、アーアーア!」
 フィフィに割れものに気を使うという繊細さはなかった。水がはねて楽しそうにジャンプしているフィフィに、蜻蛉はさりげなく境界線を引く。護られたランタンはイカスミをはじいた。
「フィフィちゃん、あとで一緒に、お食事なんてどやろ?」
「エ?」
「お誘いしとるんよ?」
 かすかなにおい。不思議な匂いがする。一体どういう人物なのか、まだ掴み切れない。
 きっともっともっと――面白い。
「イイヨ! 無事に切り抜けられたら、カナ!」
「ルシェは、だいじょうぶっ」
 キルシェはきらきらとした桜色の慈雨を乞う。カンテラの火がまた物珍しそうに揺れる。もっとみせて、というようにキラキラ輝いて、海魔たちはそれに応じて牙を剥いた。炎は思わず困ったように静止するけれども……。
(ルシェも、戦えるわ)
 きらきらときらめいたフルルーンブラスターは、イカの注意を引いた。
(イカさん、イカさん、こっちを向いて。フィフィお兄さんを狙わないように)
「あーっ、当たるっ! 果たシテ!?」
「ありがとう」
 史之は先に言った。「ええ、どういたしまして」と蜻蛉は言った。そうなるからだ。
 損失はいくらか覚悟の上だ。淡々と、名乗りを上げていた。
 優し気な幻想福音が、史之の傷を癒していった。キルシェは頷き、攻撃に集中する。
 霧がいつしかじとじとと、雨に移り変わったかに思えた。海の上にぽつぽつと波紋が広がる。
 秘技「秋霖」。
 手元が見えぬ奥で、数多の斬撃が繰り出されている。衛府から繰り出される衝撃波が魚を、貝を、それから巨大な触腕の先を切り裂いていった。
「はい、これで大丈夫! もうひと頑張りしましょ」
 魅入っていたフィフィの後ろに水柱が立った。
「事情はなんとなくわからないでもないでありんすが
とりあえず返すものを返していただきんしょうか」
 シャンパンの光を、面白いきらめきだと思った。
 竜宮城はそういうきらきらした場所だと。フィフィの目がらんらんと好奇心に輝いている。
 こんどは、また、風が違う。雨でもなく炎でもなく音でもなく、それから、エマの戦いが面白かった。甚振る訳では決してないが、戦いに慣れていた。
 面白い。だから、イレギュラーズというのは面白い。
 敵の渦に逆らい、逆波に乗ったエーレンは、飛び上がり、掛け声とともに触手を一つもぎとった。
「……このイカさん、墨は吐いたりするんやろか?」
 蜻蛉の言葉にイレギュラーズたちは少し思った。やりそうだと。

●逆流の中で
「俺に目潰しは効かないぞ!」
 イズマはぴかぴかシャボンスプレーを振りかける。佐伯印の衛生スプレー。
「えっ、ナニソレ!?」
「これがあればあっという間に清潔にできるってわけだね」
 フィフィがアレが欲しいと言い出しそうだったのでCMを打ってみた。効いた。
 まあ、そもそも墨をかぶって見えなくとも、イズマであれば問題がないのである。
「あんまり気持ちの良いもんじゃないしね、墨も」
 史之の一手は、果敢に敵に切り込みながらも戦果をもぎとってゆく。
(ただでやられる心算はないのです)
 あの魔術の名を、フィフィもしらない。
 生きようとする海の生物の本能。そこにはきらめく意思があった。エマはわずかに黒く光る魔術を行使した。
「あとちょっとやね」
 蜻蛉の波と戯れるような声。後押しが、仲間たちに追い風となって吹き始めていた。

「そらっ!」
 ホタテ貝の堅さをものともせず、縁は青刀を振りぬいた。レプリカであるはずのそれはしかし、並みならぬ威力を持っている。まるでさっくりと身を切るように、貝は斬れたのだ。
「追いつけないだろ! 飛んでるからな! なーに俺には水竜さまの加護があるんだぜ? あ、電気は嫌だ!!」
 ばりばりと不穏な雷に、カイトはぐいっと舵を切った。読める。雷光も。船とは思えぬ曲がり方で、船は器用に曲がる。一方でイカの動きは精彩を欠いている。縁のなせる業によるものだ。
「いつから喰う側だと思っていたっ!?」
 転身し、近づいてくるカイトにイカは驚いて硬直する。鋭いくちばしが突っ込んでくる。
 触手の一本は見事な刺身になった。大きすぎるくらいの。
「焼いてスルメもいいよね。じゅりり」
 吐き散らかされたスミに向かって、カイトは慌てて羽ばたいた。風に乗り墨は散っていった。またイカは怒り狂い、渦を発生させるが……。
 縁の船は、ひょうひょうと渦を超えていく。逆凪に身を預け、ただ声にだけは目を閉じることも耳をふさぐこともせずに。
「っと!」
 泳いでいったエーレンがフィフィの前に飛び出した魚を薙ぎ払った。……進路を妨害されてやむなくの風を装っているが、しかし援護である。
 イズマが攻撃の前、ほんの一瞬。指揮者が指揮棒を構えるがごとくに静止した。
「知ってるか? こいつらはとても美味しいんだ。狩ったら島に持ち帰って食べるから、一緒に来るなら君にもご馳走するよ」
「さてはホンキダネ?」
 何度も何度も。何度も何度もその音は響き渡った。一音が重なり和音になり、またずれて旋律を奏でる。敵は最後とばかりに攻勢は激しくなるが、それを逃すイレギュラーズたちではなかった。
「ルシェも、えいっ!」
 キルシェが放った魔力は絶対零度となし、魚を船の上に持って行った。
 縁の食らいつくす一撃が、イカの半分を大きくえぐった。
 さいごに吐かれた墨は、なぜか軌道がありえない方向に曲がった。紅いプラズマが飛び散った。
「ふう……」
 史之のはたらきだ。

 渦潮に飲まれるフィフィはそのまま万歳をした。そして火が零れ落ちていく……。
「させるかっ!」
 カイトが素早く海に潜った。
「! 精霊さんたちっ……」
 じゅう、と消える前に、キルシェの願いを聞き届けた精霊が火を守った。なんとかカンテラに保護することができた。
「……大丈夫?」
 イズマの鬼灯に向かって、炎が揺れる。大丈夫だと。
 そして、フィフィはというと……。
「ヤー!」
 縁と、エーレンにとっ捕まったのだった。
「水がまとわりつくし! もっとのろまだったヨネ!?」
「ああ、さっきまでは手加減してたんだ。騙して悪いがこれも仕事でな」
「ネオンサインに惹かれるとはなあ……同族だからか?」
「イヤダ! 次は竜宮に行くんダ!」
「その前にやることがあるだろ。後は蜻蛉たちがうまいこと調理してくれるだろうさ
……生憎と俺は食えねぇがね」
 縁は寂しそうに、とも淡々として、ともとれるような様子でつぶやいた。

(さて、……獲物ですが。
こっちの領分は、お願いいたしんしょうか)
 エマは虚空に手を伸ばし、イカを仕留める。鮮度を保ったまま、イカはぐったりとうなだれた。

●おいしい料理
「……なるほど、外に出てみたかったのか」
「火さんが島を見たいって思って、それを叶えてあげるのはとっても素敵なことかもしれないけど……」
 キルシェはふっと目を伏せる。
 フィフィは「あ、そうダッケ」ときょとんとしている。
「いくら閉じ込められてる火が可哀想でもいきなり連れ出すのは、なぁ……」
 気持ちはわからんでもないんだが、と苦笑い交じりの武芸者エーレン。きゅるきゅるとイルカも鳴いていた。
「ってワケで、ムザイ!」
「だめだ。ワダツミだろうが関係ない。悪戯が過ぎる。悪気がないなら尚更謝るべきだ」
「ちゃっかりパイだけ食いやがって……」
 縁は予想していたが、イズマもなかなかぴしゃりと言う。
「エーン」

「偉い偉い、ちゃんと謝ったな」
 イズマはぽんぽんとフィフィの肩を叩いた。
「はー、負けた負けた! 見事だった。感服だ。……向こうで料理を作っているみたいだし、食べていかないか?」
「ヒュー!」
 速攻で気を取り直すフィフィだった。
「あのね、ルシェたちがんばって、火はもう大丈夫なのよ。
美味しい子魚とホタテはあるから、後はエビとかお肉、お野菜ないかしら? それでね、デザートは美味しいマフィン!」
「じゃーん、漁師めし! 土鍋で煮込み飯だぜ」
「骨までオイシイ!」
「チキンじゃないぞ!」
「レッドホットチキンは?」
「鳥さんは美味しくないからな!!!!」
 カイトはばっさばっさと羽ばたいて威嚇の構えである。
 このまま放っておくとまたフィフィが企みかねない。
(ただでさえ遊び回っておなかすいているだろうしね)
 史之がメニューに選んだのは、シーフードカレーだった。お子様に大人気。これなら、フィフィにとっても分かりやすいだろう。寄ってきては邪魔するなと戻されている。
「よお働いたし、お腹も空きました」
 蜻蛉とキルシェはキッチンに立っていた。
(島の人が沈んでいるなら、美味しいもの食べて元気になって貰わんとね)
「笑顔になってもらえるといいな」
「あら……このホタテさん、お醤油垂らしてバター乗せて焼いたら美味しそう」
「バターと醬油と、あと、焼き肉のタレでごぜーますね」
 エマはだいぶ用意が良かった。
「助かるわあ。ありがとね」

「しっかりと焼き焼き炎狩祭リ!」
 こうして、おいしいものをほおばりつつも、事件は一件落着となった。
「火はずっと同じ場所にいて窮屈だったらしい。だからこれからは、たまに散歩させてあげたらいいと思う」
 イズマの言葉に、島民はなるほど……とうなずいていた。
「ま、たまにはな」
 縁がふっと息を漏らした。
「ワダツミ? ツマンナかったら、ネ。報告して……あぶなかったと思うヨ!」
 暗い海は、獲物を虎視眈々と狙っている。史之は気を引き締める。
「そら、もう満足したろ。大人しくボスの所に帰って、子守唄でも歌って貰いな」
「フィフィ、どうだい?
いっぱい遊んでもらえたかな?」
 楽しかっタ! と、そこだけは無邪気な声だった。

成否

成功

MVP

カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽

状態異常

なし

あとがき

海のおいかけっこ、おつかれさまでした!
ゆっくりとお洋服を乾かして、またご縁がありましたら、一緒に冒険いたしましょうね。

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