シナリオ詳細
<カマルへの道程>血よりも愛せよアルクトス
オープニング
●北極星の指先
「無能が」
そう呟いて突き出した腕の先。白色の肘まで覆うガントレット。人差し指にだけ備えられた鋭い爪が素早く伸び、スキンヘッドの男の眉間を貫いた。
最後の、言葉とも悲鳴ともとれない呻きのような声をあげ、白目を剥いて崩れ落ちる男。
その様子を、壁際に座らされた幻想種の少年たちはただぼうっと見つめていた。
血を流し、それが床を広くよごし、ついには少年の足にまで触れるころになってさえ。ぼうっと見つめたまま動かない。その瞳に映る風景には、男の他に何人もの死体が転がっていた。
爪を元の長さへと瞬間的に戻し、取り出したハンカチで血に濡れた爪を拭う黒髪の美男子。病的なほど白い肌と血のように赤い瞳は、彼の尋常ならざる背景を嫌でも思わせる。
「例のイレギュラーズに感づかれました、か」
「いかが致しましょうか」
呟きに反応したのは灰色に脱色したような少年。傅き、頭を垂れている。魔法の杖を装備してこそいるが、その杖すらも色がない。
もしあなたがラサの現状に詳しいならば、これが『偽命体(ムーンチャイルド)』という種類の存在であると直感できただろう。
そしてその少年が傅く存在こそが、『吸血鬼(ヴァンピーア)』であると。
「我が花園に立ち入ろうというのであれば、殺すしかないでしょうね。またここが血に汚れるのは、正直御免被りたいのですが」
やれやれ、と首を振る。そして少年たちに命令を下すと、彼らは座り込んだ幻想種の少年たちを引っ張っていった。
部屋の隅に設置された転移陣へと、だ。
不思議な音をたて、どこかへと転移し送られていく少年たち。
吸血鬼は血のついたハンカチを汚らしそうに放り捨てると、かわりに渇いた血のついたハンカチを取り出した。
それを口元にあて、長く深く息を吸う。
恍惚と目を瞑り……そしてとろけたような表情で肩をおとした。
「美しい人が、来てくれるといいですね」
彼の名はアルクトス。
月の王国にすまう、吸血鬼だ。
●血色の黒幕
「幻想種の拉致事件を追っていったらこんなことになるなんて」
「吸血鬼や紅血晶は決して無関係じゃないと思ってたけど、ここまでとはね」
ヒィロ=エヒト(p3p002503)と美咲・マクスウェル(p3p005192)は派遣した情報屋からもたらされた情報に顔をしかめていた。
――古宮カーマルーマにて無数の転移陣を発見。奪取されたし。浚われた幻想種の奪還を求む。
調査の途中でラサ傭商連合から依頼という形で差し込まれたそれは、夜の祭祀という異名をもつラサの古代遺跡、古宮カーマルーマへ赴き適性存在を撃破あるいは撃退することで転移陣を奪取。後方の安全を確保したのち奪還作戦へ移るというものである。
ヒィロたちローレット・イレギュラーズに依頼されたのはこのうちの『転移陣の奪取』だ。
「古宮カーマルーマは物凄く広大でね、転移陣の場所や形状も様々。だからいくつものチームで手分けすることになってるわけだけど……私達が担当するのは、ココ」
美咲が資料を翳して見せたのは、薔薇の花が咲く庭園とその中央にに建つお屋敷であった。赤い煉瓦屋根の美しい屋敷で、よく手入れされているのか美しい。
古代遺跡に近代的なお屋敷が建っているというのもなかなか異様だが、おそらくはここに住まうという吸血鬼が建てさせたものだろう。
「吸血鬼の名はアルクトス。戦闘力は未知数だけど、拉致グループを調査員が追跡してることが発覚した途端全員殺してしまうくらいには強いみたい」
「ってことは、それなりに強敵だね。ボクたちのコンビネーションでも封殺できないくらい?」
「できないくらい、と見てあたらないと足元を掬われるだろうね。用心に越したことはないよ」
情報にあるのは白いガントレットから爪を伸ばすという攻撃方法を持っていることと、彼の召使いのようにムーンチャイルドが何人か配備されているということだ。
吸血鬼には『烙印』に関わる恐ろしい情報もある。注意してあたるべきだろう。
「……それに、浚われた幻想種も、きっとろくな目に遭ってないはず。早く助け出さないと手遅れになりかねない。急ごう!」
- <カマルへの道程>血よりも愛せよアルクトス完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2023年03月24日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●
古宮カーマルーマの広大さは筆舌に尽くしがたい。
一言に、様々な場所があるとしか言いようがないのだ。ここはそんなエリアのひとつ。やや雑然とした石畳の細い道。左右にはランダムに石柱がたち、そのどれもが途中で崩れている。道を横切る形で倒れた石柱もあるが、『合理的じゃない』佐藤 美咲(p3p009818)はそれを簡単に乗り越えて進む事が出来た。
「美少年と男の吸血鬼、これだけで漫画一本かけそうなテーマでスが……」
情報端末に表示された吸血鬼の情報を見返し、佐藤はぼそりと呟く。
自分はあいにく狩られる側なんでスよねえ、とその後に続く。
美しいものは戦いづらい。古来より人間とはそう言うものだ。
『玻璃の瞳』美咲・マクスウェル(p3p005192)はそのあたりの感覚を超越、あるいは逸脱しているらしく、むしろ現状にこそ焦点を当てていた。
「古代遺跡に近代屋敷かー
私らが言えたことじゃないけど、転移陣でやりたい放題ね。
強敵であるのは前提として、癖の強さも相当と見たわ」
マクスウェルの言葉通り、情報にあるアルクトスという吸血鬼はかなりの強敵、かつ癖の強い人物であるらしい。
「そろそろ身を潜めた方がいいかな」
「だね」
『瑠璃の刃』ヒィロ=エヒト(p3p002503)はその言葉を受けてスッと身を低くした。
「まさかあの件が吸血鬼に繋がってたなんて思わなかったけど、相手にとって不足無し!だよね!
皆の力を合せればきっとどんな強敵だってぶちのめして、囚われの幻想種達を助けてあげられるはずだよ!」
声を潜めつつ元気に声を出すというちょっと器用なことをするヒィロ。マクスウェルは微笑みでそれにこたえた。
倒れた石柱の影に身を潜め、剣をゆっくりと引き抜く『帝国軽騎兵隊客員軍医将校』ヨハン=レーム(p3p001117)。
「ふーむ、いよいよヴァンピーアとの対面ね。どうせなら美女が良かったのだけどねぇ。男に血を吸われるなんてごめんだぜ」
そう言いながらそっと顔を出し様子をうかがう。
近代的な屋敷の周りに花畑があり、そこを晶獣サン・エクラがふわふわと浮遊するかたちで巡回している。遠目には大きな薔薇の花が庭園に浮かんでいるようで非常に幻想的だが、古代遺跡に屋敷どころか『庭園』までもを持ち込んだ時点でこの場所を守る吸血鬼の異常さと強引さが知れようというものだ。
「サン・エクラは適当に倒せるとして……あのムーンチャイルドはどう見る? まともな人間じゃあないよなあ」
「アルベドと同種だったら厄介だよねえ」
『魔法騎士』セララ(p3p000273)が妖精郷でおこしたアルベドたちとの戦いを思い出し、その表情に少しばかりの陰りを見せた。
「けど、浚われた幻想種達が心配だしね。早く助け出してあげたい」
「同感」
『友人ハイン/死神』フロイント ハイン(p3p010570)はそうとだけ呟き、武器を手に取る。
(紳士を気取っているようだけど、ハンカチを血で汚す紳士なんてね。
大人しくお茶でも啜って暮らすことを約束するなら、見逃してあげなくもないけど?
まぁ、聞くわけないよね。なら、血じゃなく破滅を味わって貰おうか、ゲス野郎)
『リゲネラツィオン』の機能を発動させ、更に『クリークシェルト』『アポティオーゼ』と各種機能をアクティブにし、最後に偉大なる力を自らの身へと降ろした。戦闘準備は万端だ。
一方で、『氷狼の誓い』リーディア・ノイ・ヴォルク(p3p008298)は自らがアルクトスと同じものに少しずつ近づいているのだという実感に背筋を冷たくしていた。
あまりの傲慢。あまりの冷酷。しかしてそれは、月の王国の民として主に忠誠を誓った吸血鬼の慣れはてであるという。
ほんのわずか……本当に僅かであるが、理解ができてしまうのが、恐ろしい。
リーディアは握った自らの手に、更に力を込めた。
「さて、そろそろいいか?」
『Stargazer』ファニー(p3p010255)もまた自らを高めるケツイを固めると、広域俯瞰状態を発動。
敵となるサン・エクラとムーンチャイルドは屋敷を囲むように配置されているので、まずは正面の一人に集中砲火を浴びせて数を減らすのが妥当となるだろう。
「単独で囲まれると厄介だ。両側面を押さえつけたい。二手に分かれるか? オレは美咲……あー、『佐藤』と一緒に片側を抑えるつもりだが」
「概ね賛成。そこは動ける人からアドリブでいいんじゃないかな」
ハインがそう締めると、まずは佐藤がおもむろに立ち上がった。
巡回中のムーンチャイルドの一人がこちらに気付く。
その一瞬が、引き延ばされた。
●
『あっ』と声をあげようとした筈だ。そんな風に唇が動いた。
しかし声が出た時には既に、美咲は義手に備えたリパルサーパネルを用いて急加速をかけ、一回転しつつ相手に急接近。一秒たらずの時間でムーンチャイルドの顔面に膝を叩き込んでいた。
「あーあ、美少年の顔蹴っちゃった」
敵が巡回し、そして密集していない状態では広域にわたる攻撃は効果が薄い。集中砲火で倒すなら、まずは単体攻撃や攻撃範囲を絞れるスキルによる集中がベストだろう。
それを察してくれたのだろう、ファニーは佐藤が飛び出すのと全く同じタイミングで指を天に掲げ、その指先を輝かせた。
石柱の影から身を乗り出す。チャージされた星の輝きを、ムーンチャイルドへとぴったり向ける。こちらの存在に気付いているであろうムーンチャイルドと、その周囲で警備していたムーンチャイルドやサン・エクラたちがこちらに気づき集まってこようとしている動きが察知できた。が、牽制はあとだ。
「まずは一人!」
ヨハンは同時に飛び出すと、剣によって直接ムーンチャイルドの腕を切り落とした。
落とされた腕がびたんと地面をはね、斬られたほうはきょとんとした後にヨハンを見て怒りに表情を歪めた。
「血が出ない、か。こいつだけの特性か? だとしてもマトモじゃないな。粘土人間かよ」
だったら首が弱点とも限らないか。とヨハンは一度飛び退きヒーラースタイルへとシフトした。
一方で素早く飛び出していたマクスウェルは相手の心臓部あたりを狙って包丁を突き立てる。
人間同様の身体構造をしてはいないようだが、急所ではあったらしい。
突然ムーンチャイルドの端整な顔立ちにビキリとヒビが走り、そのまま全身がぼろぼろと崩れ落ちていく。
「チャーリー! よくもやったな――!」
そう叫んだのは右側だけの髪を長く伸ばした少年の剣士だった。
マクスウェルめがけて斬りかかるが、割り込んだヒィロの盾がそれを受け流す。
「こいつらって、あの薔薇の花と同じだよ。
いくら綺麗でも、心がない。
だからさぁ……遠慮なく吹っ飛ばしていいよね。アハッ」
流したついでのようななめらかな動きで剣を叩きつけると、右長髪の少年は剣の衝撃で吹き飛んでいった。
花咲く庭園を、花びらを散らしながら転がる少年。ぶった切ったはずだけどなとヒィロがよく観察してみると、少年は片腕を亀の甲羅のように硬質の鱗でぴったり覆っていた。
「君にも盾はある、と。それで?」
リーディアの判断は素早かった。素早く『デッドエンドワン』の貫通弾をライフルに装填すると、構えると同時に高速で発砲する。
鱗の腕がばきんと破壊され、少年の腕から白い血が吹き出た。
「こっちは血が出るのか……」
「個体差がありそう」
ハインはそう言いながらも『シュトラーフェ』の術式を発動。浄化の光を少年へと叩き込む。胸に直撃した光によって、少年がパンッと水風船のようにふくらんで破裂した。
戦闘力はそこそこ。しかし連携すればそれなりの手軽さで倒せる相手のようだ。
サン・エクラたちが集まってくる。距離をあけて花弁を飛ばすような射撃を試みるつもりのようだが、団子状に固まったうえ棒立ち(棒浮き?)の状態でちくちくと射撃をくり返している。
セララは彼らに高い戦術知識はないなと察し、盾で花弁を防ぎながら接近。そして丁度良い距離まで詰めると――。
「ギガセララブレイクッ!」
カードを翳した聖剣に雷の力を宿し、横一文字の斬撃を放つ。当然、サン・エクラたちは纏めて吹き飛んでいった。
「力はセーブしておいて。APを使い尽くす程の敵じゃなさそう!」
セララは取り出したおやつのドーナツをもぐもぐ食べると、屋敷を迂回して走ってくるムーンチャイルドたちへと剣を向けたのだった。
●
一人がけのソファに腰掛け、足を組む。
ラフなシャツとベストという組み合わせに、赤いネクタイが血のように映えている。だがそれよりもよく映えたのは、その血赤の双眸であった。
どん、と扉を蹴破るように室内へと入るハイン。
「今度はお前が、血溜まりに跪いて赦しを請う番だ。
憎悪と共に侮辱に塗れろ。苦痛とは何かを思い知れ。
後悔の川に突き落として、恐怖に溺れさせてやる」
ハインの堂々たる口上に対して、吸血鬼アルクトスはまだ足を組みソファに腰掛けたままだ。
「もしも死が慈悲ならば、僕ほど慈悲深い者はいない。
お前の最期も無様な死に様も、全てが全て自業自得だ。
歓迎するよ、地獄へようこそ」
ハインはそこまで一気に言い切ると、『シュトラーフェ』の光を解き放った。
ムーンチャイルド相手なら必中の軌道を描き、あのときと同じようにアルクトスの胸へと吸い込まれた――かに見えた。
いや、実際そうなったはずだ。
しかし現実におきたのは、アルクトスが座っていたソファが破壊されるという事実のみ。
アルクトスは、ポンとハインの肩を叩いて隣に立っていた。
その血のように赤い瞳がハインを見つめる。
一瞬の判断の中で、『トラウアムジーク』を発動させるか飛び退くかで迷う。
そして後者を選ぼうとした所に、ファニーが思い切り殴りかかった。
手袋に指輪を隠したその拳が青く燃え上がり、アルクトスの頬を狙う。
直撃し相手がきりもみし吹き飛び更には壁際に並ぶ調度品を破壊するまでが見えた――気がしたが、しかし現実は異なる。ファニーの拳が空振りし、今度はまたファニーの肩にポンとアルクトスが手を置いている。
「なんだ、こいつ――!」
反撃に出ようと振り払うが、ファニーは不思議な痛みにがくりと身体をよろめかせる。
肩から胸にかけて何かが貫通した痛みだと気づき、思わず肩を押さえる。
対してアルクトスは既に数メートルの距離を開け、自らの人差し指をハンカチで拭っていた。
「気をつけて、実力差がありすぎる」
リーディアがライフルで狙いをつける。つけたが……途端に相手の姿がぼやけたように見えた。
目の錯覚かと凝視したその瞬間――ぱしりとリーディアのライフルの銃身がアルクトスの手によって掴まれていた。
「ッ――!」
『二度目』を受けるつもりはない。リーディアはライフルからあえて手を離し、相手を思いきり蹴りつけた。
その攻撃を回避し飛び退くアルクトス。
「これは返しましょう。私には不要なものです」
ライフルを放り投げてくるアルクトス。素早くキャッチし、リーディアは狙う間もなく発砲した。
弾を回避――するのは分かっている。もう三度見たのだ。マクスウェルは動きの先を予測し、包丁を滑り込ませる。
斬り付けるというより『置いておく』斬撃だ。
実際、それは効果を発揮した。
アルクトスは部屋の端へと姿を現し、脇腹を手で押さえている。
「どうやら、手品は明かされてしまったようですね」
「一応……ね」
マクスウェルが血のついた包丁を振り、再び構える。
ヨハンが『どういうことだ?』と囁くように問いかけてきた。
「相手は目の錯覚を利用して距離を詰めてきてる。小さな幻影を相手の眼球付近に発生させたり、爪を視界と重なるようにまっすぐ伸ばしたり。けど光が同じように当たらないから、微妙に色に違いが出る。よく見ればわかある手品だね」
「相手がよく見て立ち止まってくれればそれでもいいし、どっちに転んでも好都合ってこと?」
ヒィロが剣を突きつけ威圧をしかける。
さりげなくマクスウェルとの間に割り込むように位置を調節し、錯覚を使ったとしても距離を詰められないようにした。
「種が分かると雑魚だな。目くらましが強さの秘訣か?」
ヨハンが挑発するようにいいながら、ファニーとハインの傷を治療する。
が、それだけでこの吸血鬼が悠然と構えているなどとは、勿論思っていない。
一枚カードをきったからといって、もう相手がカードをもっていないなどと思い込むほど愚かではないのだ。
そして、ヨハンはそっとファニーたちに耳打ちした。
「固まれ。後衛に急接近したのは陣形を乱すのが狙いの筈だからな。こういう小細工をするやつは『注意を引く』のが好きなんだ」
ファニーとハインはそれぞれこくんと頷き、そしてヨハンを中心として固まる陣形をとった。
「もう一つ提案いいかな」
セララがそんな彼らに小声で混ざってきた。
「アルクトスを倒すのを諦めよう」
「なんでス?」
ちゃっかり聞いていた佐藤が二度見する。当然だ。戦っている最中で敵を倒すのを諦めるという選択は、ローレットのイレギュラーズとしてはそうそうない。
「思い出して。ボクたちの目的は転移陣の奪取。で、相手の勝利条件は?」
「あ、あー……」
つい『ゲス野郎をぶち殺す』という思考に傾きかけていたことで忘れがちになったが、アルクトスがやっているのは転移陣の防衛。こちらを殺す必要もなければ、最悪怪我をさせる必要すらない。適当に全員を傷つけ、安全な戦い方を続けこちらが消耗し撤退するまで粘ればアルクトスの勝利になるのだ。
「で、逆の立場だとしてやってほしくないことは?」
「なるほど?」
セララと佐藤は顔を見合わせ、そしてニッと笑い合った。
「というわけで全員散開!」
屋敷の中に散るようにしてセララと佐藤、そしてハインたちは駆け出していく。
対するアルクトスは、目元をひくりと動かした。
「虫が……」
初めて怒りの感情を露わにしたアルクトスが、階段を駆け上がり二階へ向かおうとした佐藤へ壁走りによって先周りする。
そして爪を伸ばし佐藤の首を切断――しようとした途端、佐藤は自らの背後に隠していた小柄なセララを引っ張り出し、そしてアルクトスめがけてシュートした。
「合体セララミサイル!」
行かず雷のカード、セラフィムのカード、ついでにバレー選手のカードをコンボインストールしたセララの剣が回転しながらアルクトスへと迫った。
籠手で剣を受けるアルクトス。
セララも無事ではなかったが、そこでヨハンは仕込んでいた治癒魔法を発動させる。
「ああ、『散開』ってのは嘘だ。僕も『注意を引く』のが好きになったみたいでね」
ヨハンがそう言うと、物質透過によって先周りしていたマクスウェルがアルクトスの背後から出現。思い切り蹴りつけるというまさかの方法でアルクトスを階段から転げ落とした。
「ぐお……!?」
今度こそ素をみせたアルクトス。リーディアの射撃に加え、ファニーとハインの射撃がどかどかと浴びせられる。
「おまえごときが星の名を冠するだなんて反吐が出るな。
美意識だけは高いようだが、長耳ばかり浚う理由はなんだ?
美しいものにしか興味ねぇってか?
そうして差別してる時点で、性根は醜悪だよおまえは」
「つっ……お前たちが知る必要はありません。死ね!」
走り出すアルクトス。が、その狙いはファニー……に見せかけて、マクスウェルだった。
素早いターンによって切り返すと、背から血色の翼をはやして跳びマクスウェルめがけ爪を繰り出す。
「美咲さん!」
ヒィロが素早く飛び出し、そして――彼女の首筋にヒュンと何かが描かれた。
ぞっとするような感覚に、ヒィロは思わず自らの首元を触る。
「またいずれお会いしましょう。その時まで、ヒトでいられれば敵として。そうでなければ……」
アルクトスは薄く笑い、壁を透過してどこかへと消えた。
暫し警戒したが、アルクトスの攻撃はそれ以上なかった。
後に一塊になって警戒しつつ屋敷の中を探索し、転移陣を発見。
どうやらアルクトスは逃げる時間を稼ぎたかったらしい。どこまでも裏をかいてくるやつだ。
が、それだけで終わりではなかったらしい。
「ヒィロ?」
美咲の呼びかけに、ヒィロは首元に当てていた手をはなす。
「やられたみたい」
ヒィロにはまざまざと赤い烙印が押されていた。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
――mission complete
●運営による追記
※ヒィロ=エヒト(p3p002503)さんは『烙印』状態となりました。(ステータスシートの反映には別途行われます)
※特殊判定『烙印』
時間経過によって何らかの状態変化に移行する事が見込まれるキャラクター状態です。
現時点で判明しているのは、
・傷口から溢れる血は花弁に変化している
・涙は水晶に変化する
・吸血衝動を有する
・身体のどこかに薔薇などの花の烙印が浮かび上がる。
またこの状態は徐々に顕現または強くなる事が推測されています。
GMコメント
吸血鬼アルクトスの屋敷へ突入し、転移陣を奪取しましょう。
●フィールド
アルクトスの屋敷は薔薇咲く庭と屋内に分かれています。
庭にはムーンチャイルドと晶獣サン・エクラによる警備がなされ、突入するには彼らを倒してから進む必要があるでしょう。
後に屋内で待ち構える吸血鬼アルクトスとの屋内戦となります。
屋外なら射程の長い武器やスキルが充分使えますが、屋内に入ると射程が遠~超あるとペナルティをうけがちになるのでスキル配分にはご注意ください。
●エネミー
・晶獣サン・エクラ
薔薇の精霊を変貌させてしまった存在です。
キラキラと光る結晶で作られた薔薇の花という見た目をしており、宙をふわふわと舞って至~近距離戦闘を行います。
数が多いですが、範囲攻撃に巻き込むなど対処は楽でしょう。ただし放っておくとチクチク削られて厄介です。
・偽命体(ムーンチャイルド)
それぞれが武装した少年たちです。みな美しい見た目をしており、耳の形からして幻想種だと思われます。
全身の色が脱色されたように灰色をしており、それがいつかのアルベドを想像させます。
・吸血鬼アルクトス
この屋敷を支配しているとおぼしき吸血鬼です。
あなたを待ち構え、殺してしまおうと企んでいます。
戦闘能力は未知数ですが、強敵であることは間違いないでしょう。
こちらの防御の突破、治癒の阻害、高いEXAや特殊抵抗など、強敵として備えているものは大抵備えているとみておきましょう。こちらの連携と作戦が勝利の鍵となるはずです。
●特殊判定『烙印』
当シナリオでは肉体に影響を及ぼす状態異常『烙印』が付与される場合があります。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
Tweet