シナリオ詳細
<蠢く蠍>おい、決闘しろよ
オープニング
●
『完璧なオペレーター』ミリタリア・シュトラーセ(p3n000037)は招集されたイレギュラーズに作戦の説明を始める。
「既に耳にしているかもしれませんが、あの『砂蠍』が動き出しました。
今回皆様に依頼するのは幻想に点在するカジノ施設を襲撃している賊一派の撃退、討伐です」
ラサ傭兵商会連合で起きた大討伐から逃げ延びた『砂蠍』のキング・スコルピオが幻想に潜伏している噂は事実だった。
武力、或いはそのカリスマによって平伏した小規模な盗賊集団は次々と『新生・砂蠍』の傘下に加わり、驚く程の勢いで勢力を拡大しているのだ。
各地で貴族達の目すら掻い潜る一派が続々と現れ。本拠地どころか中核メンバーの名すら知らぬ様な末端の盗賊を尻尾切りに、今もなお事件を起こしているという。
「盗賊団の上に盗賊団がある、と言った所でしょうか。他にも更に練度の高い幹部の一団が大都市へちょっかいをかけてるとか……
いずれにせよ自身の領を侵す賊に対して諸侯貴族は良い顔をしていません。今回の、彼等も顔を出すカジノとなれば。
話を戻しましょう。今回の標的となる賊は大都市こそ避けてはいるものの、町のカジノ施設を先日から三ヵ所襲っています」
その手口は強盗とは全く異なる。
先ず気付いた時には施設の中へ紛れ込んでいる。そして気付くのが遅ければ施設内の出入り口要所を封鎖、一時的に占拠して。事が発覚した時にはVIP(貴族)客の持ち込んだ金品含め売り上げ金を掠め取っているのである。
「幸いなのは三度目の襲撃時に警戒して貴族が配置した兵士と交戦した際、連中が早々に音を上げて逃走した事から、一部の敵の能力は高くないということでしょうか、
恐らくこれは新しく傘下に加わった者達と『新生・砂蠍』のメンバーに属する者達の違いでしょう。
これらを利用して、次の襲撃地点へ先回りし我々ローレットはこれを迎撃、討伐します」
「先回り? 次に襲う場所が分かっているのか」
「ええ。さる御方の協力により、とあるカジノで多額の賞金を懸けたイベントを開催する事にしているのです。
恐らくそれが餌となって『砂蠍』も姿を現すでしょう。主な作戦はカジノ経営者と連携して行われますが、皆様ならきっと上手く行くはずです」
期待の瞳でチラとイレギュラーズを見たミリタリアは、そう言って彼等へ一枚のパンフレットを配って行く。
受け取ったイレギュラーズは首を傾げた。
「これは?」
「『モンスターコロシアム』に関するパンフレット、これから皆様が仕掛ける作戦のメインテーマです。
……仮に半数が弱くとも、当然反対に強敵が混ざっている可能性は否定できません。
相手はあの大討伐から逃げ延びた『蠍』なのですから、油断して大きな怪我はしないで下さいね?」
彼女は最後にそう区切り、イレギュラーズへ詳細を説明し始めた。
●挑戦者達の幕間
金貨と宝石で埋め尽くした湯船に頭から飛び込んだ男はそのまま頭部を打った。
笑いが止まらない。彼にとってここ最近は良い事尽くしである。
「あの『キング』の傘下に加わって、俺らも遂に旗掲げるいっぱしのトーゾクってやつか……ながかったなぁ」
旅人の言葉には「人生には山と谷がある」という物があると言う。きっと自分はこれまで”谷”だったのだと男は頷いた。
田舎から出て来て苦節数年、無職のまま悪徳貴族に殺されかけ、盗賊堕ち。それでもなんとかやって来れたのは先代の首領から受け継いだ変装の技能によるものだ。
変装、偽装、侵入に関してはちょっとした自信がある一団だった。数日前に『新生・砂蠍』のメンバーが勧誘(好意的解釈)に来たのもきっとこれまでの努力が実った証だろう。と彼は鼻を鳴らした。
(今はどうだ──あの人が連れて来てくれた団員がウチに足りなかった戦力を補充してくれて、貴族の鼻面にデコピンくらわすような目に遭わせてやれた!
もう何もこわかねえ! 引き際さえ間違えなけりゃ、俺達はなんだって出来る!)
男はもう一度高笑いして、財宝の湯船から顔を出した。
目の前にアップで出て来る厳つい顔を見てもう一度沈んだ。
「いやふざけんな、出て来い出て来い」
顔全体に大きくジグザグに走る四本の傷跡。
全身に鞭で叩かれた痣が残っている筋骨隆々のその男は、『狂犬の』ポティ・クールマムという。『新生・砂蠍』から直接、一部の団員を連れてやって来た中核メンバーの一人である。
見た目に反して優しい彼が勧誘役だったのは、間違いなく変装盗賊団にとって幸運だっただろう。
「へっへっへ、どーもご無沙汰してやすぜ!」
「やすぜじゃねえよ……なに全裸で資金に埋もれてんだ。不潔だから服を着ろ、あとそれから──ボスからの指令だ。そしてお前の因縁の敵がいるカジノに行くぞ」
ポティから投げ渡された紙を見た男、ベルモンデは暫くぼんやりとその中を見てから目を見開いた。
「これは……まさか奴の!?」
「そうだ、お前の恨みを晴らす時が来た」
そこに記されていたのは『モンスターコロシアムで超高額賞金を懸けたイベント開催』の報せだった。
既定の金額を納める事でシード枠の獲得や、参加できる奴隷や使用人、傭兵の参加も可能。参加者は常に観客席の最前列で対戦相手やモンスターを観戦できるなどの優遇も。
……等々。イベントの概要が続いている。
「……上等だぜ、奴等のゲームを台無しにしてやる!!」
- <蠢く蠍>おい、決闘しろよ完了
- GM名ちくわブレード(休止中)
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年10月02日 21時35分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●
「勝者、赤! チーム御天道様、決勝進出ゥゥッ!!」
「「───きらめけ! ぼくらの! ────タント様!!」」
唸るマイクと巻き起こる拍手喝采、大歓声。
『きらめけ!ぼくらの』御天道・タント(p3p006204)を讃える声だ。
「す、凄い大歓声ィィ!! これがタント令嬢とその配下の持つ魅力だとでも言うのか──!?
その可憐な姿から繰り出される思い切りの良いポーズと、その後ろで同じくポーズを取って合わせて来る使用人の二人に観客達はメロメロだァ──!」
「オーッホッホッホッ! 当然ですわ! ノースポール様方にかかれば名の無いモブと貧相なゴブリンなんてスキルも使わずにワンキルは必至!
ダイスの出番も無し! 例え次に戦う相手がどんな強敵であろうとも敗北なんて有り得ないですわー!」
観客へ両手を振りながら退場して行くタント。
タントの小さな背中を追う『特異運命座標』シラス(p3p004421)と『白金のひとつ星』ノースポール(p3p004381)は擦れ違いに場内へ入って行った選手を振り返る。
「あの二人も決勝へ来そうだね」
「特定班から連絡の気配も無いし、まさかとは思うけど彼等しか来てない……なんてことは無いだろうなぁ。
向こうも俺達に気付いて実力を隠してる。途中から派手な動きを止めてこっちばかり探って来てるよ」
「やっぱり、『砂蠍』?」
シラスは無言で頷き、闘技場への入口に降りて行く鉄格子の向こうを見る。
貴族、つまりマスター役の者が立つのはコロシアムの両サイドに置かれた背丈程ある玉座だ。タント達から見て手前の玉座には如何にも裕福そうな太った貴族の男が座っている。
その足元にわんわんスタイルで座っているのがまた凄いインパクトあるのだが。
「でもなんであんな格好なんだろう……」
ノースポールはちょっと引き攣った顔で首を傾げる。
闘技者として座っているのは犬耳カチューシャとハードめ緊縛風のボンテージ衣装に身を包んだ大男だった。
鉄仮面で顔を隠している変態。大会登録闘技者名『ドマゾのポチ』が果たして砂蠍なのか。……実際に何か掴まなくては確信が持てる事は無いだろう。
●カジノにて
この日、カジノが賑わいを見せてから数時間。
事前に打ち合わせた通り、イレギュラーズは各々動き易い様にカジノ内に潜伏していた。
(砂蠍の思い通りにはさせない。その為に私が出来ることは……!)
カジノ支配人はイレギュラーズの立案した作戦の全てに協力してくれた。
そのおかげで『愛の吸血鬼』ユーリエ・シュトラール(p3p001160)を始めとした特定班はカジノ運営側からのサポートを受け、何の違和感も無く景色に溶け込む事が出来ていたのだ。
景色。それはつまり『客から見た風景』だ。
「ただ今、モンスターコロシアム開催中です! 優勝候補はあのイレギュラーズで間違いなし!
既に三つあったシード枠の内、チーム『薔薇賛歌』は『サディスティックファッションズ』に敗れ。残すは決勝のみ!
観覧チケット販売は当カジノの入口にて受け付けてるので是非ご購入を───」
トレイに乗ったカクテル、胸元で小さく揺れるリボン。彼女が着ている物はカジノ運営のシンボルである燕尾服に似た制服だ。
宣伝をして回るユーリエはホールスタッフとして振る舞いながら、視界の端から近付いて来た影と視線を合わせた。
「……8番卓の細い人、ちょっと良くない感情出してるよ♪」
「かしこまりました! ……私はさっきから後ろを尾けられてるみたいです。葵さんに視てて貰うよう伝えて下さい」
「はーい☆」
周りではゲームに花を咲かせ、一喜一憂する声が飛び交っている。彼女達の会話は読唇術でも無い限り読まれないだろう。
その場を別れた『見習いパティシエ』ミルキィ・クレム・シフォン(p3p006098)は愛らしいウサ耳を揺らして行く。
彼女はスロットマシンの後ろからウサ耳を出している『特異運命座標』エリザベス=桔梗院=ラブクラフト(p3p001774)と視線を交わす。
エリザベスは小さくウインクして見せた。
「思ったよりもあっさり始末できてしまいましたわ。恐らく彼は例の貧相な方の盗賊かと」
「でしょうね、多少体格を誤魔化してますがこの男の中身はスカスカですよ」
スロットの後ろへ回り込んで見れば。
エリザベスの足元では少なくない量の血の中でスーツの男が急所を『こそどろ』エマ(p3p000257)に貫かれて絶命していた。
馬乗りになっていたエマが男の上から降りる。
「『他』はどうなっていますか?」
「怪しい動きを見せて来てるよ。ユーリエちゃんとかストーキングされてるもん、すっごいえっちな感情ダダ漏れだね!」
「まあまあ、それはまたしばき甲斐がございますね」
近くを通り過ぎた客の男は女達が垣間見せたコワイオーラを見てそそくさと逃げて行く。
エマが一瞬ミルキィの方へ目で問うが、どうやら今の男はただの客らしい。ミルキィは首を振った。
「ふむ、それではまた何かありましたら軽く呼んで下さいね」
頷いて。エマは天井の開いた通気口らしき格子へと飛び掴むと、器用に体を持ち上げ天井へ滑り込み消えて行くのだった。
ここまでイレギュラーズが今の様に人知れず始末した砂蠍は三人目。見事な作戦と連携によって先制を取る事に成功していた。
だが少なくとも未だ、何処かに潜んでいるであろう主力となる賊達は見つかっていない。
或いは……
「まだ来てない事もあるのでしょうか」
エリザベスは多くの人間が行くカジノを見渡して言った。
●
直ぐに『布合わせ』那木口・葵(p3p000514)は違和感を覚えた。
それまで人の出入りはまばらとは言え決して多くは無かった。時間の経過と共に目が慣れた事も幸いしたのだろう、今は葵でも人の動きに異物感を覚える程度には気付けた。
出入口を右往左往している貴族らしき服装の男が……数人。脳裏を過ぎるのは砂蠍の存在だ。
(……最初に来てくれるのはユーリエさんとエマさんと言った所でしょうか)
葵は足元に待機させていた式神のぬいぐるみに指示を出し、仲間を呼びに行かせる。
ぽてぽて、っと駆けて行く姿を見送った彼女は受付カウンターから出て男達の方へ近付いて行った。
背が低い男が葵に気付き、襟を立てて顔を背けた。
(怪しいなぁ)
心の中で彼女は苦笑する。
「ようこそ当カジノへ、本日はありがとうございます。心配なさらずとも、例の『砂蠍』への対策はバッチリですよ!」
にこっと微笑む彼女へ男達の視線が刺さった。
葵はその場に漂っていた空気が一瞬にして濁ったのを感じ取る。
「え、えぇっ? 砂蠍がこんなシケた……じゃない、小さなカジノに来るのかい??」
「こわいなあ。砂蠍なんてすごい盗賊が来たらもうおしまいだぁ」
「それで? どんな対策なのかちょいと聞かせて貰えないですかい?」
ゆっくりとした歩みで詰め寄って来る。
いつの間にか背後に移動して来ていたのは、ホールスタッフの一人だった筈の青年や初老の男達。
彼等の手に持つナプキンからチラと見えたナイフの輝きを見て葵は確信する。この男達も砂蠍のメンバーであると。
直後。後方から鳴り響いた派手な騒音と同時に、葵は弾かれたように袖から振り抜いた紐を目の前の男へ絡み付かせた。
紐が毒蛇に、怒声が悲鳴に、娯楽の場が戦場へ変わる。
●ジャックポット──“凶当たり”──
天井を突き破って落ちて来た砂蠍の賊に続いて降り立つエマ。
「ッ……!」
「シィーッ!!」
瓦礫の下から繰り出された高速の突きに肩口を貫かれ、そのまま後方へ転がる。
しかしそれは半ば反射的に出た防御行動によるものだ。傷は浅い。エマは手の中でナイフを逆手に持ち替えると横合いに転がっていたワインボトルを蹴り飛ばし敵にぶつけた。
揺らぐ賊の首へ滑らされる冷たい刃。
背後で鮮血が飛沫を上げたのも見ずに彼女はカジノの中で起きている騒動の方へと駆けて行く。
どこからか聞こえて来る破壊の音に客達はどの人物もワクワクした様子を見せていた。
(なるほど、巻き添え歓迎ってそういう事ですか)
冷ややかな視線を客達へエマは向ける。
出入口付近へ着いたエマは一気に加速して、横倒しになったテーブルを踏み台に跳躍する。
「なッ、ぐぎゃぁあ!?」
刹那に響く断末魔。
葵へナイフを振り下ろそうとしていた賊がエマの華麗なナイフ捌きによる致命的な一撃を受け、床を転がり滑って行った。
「大丈夫ですか?」
「ちょっと苦戦してました、痛ぅ……」
「ホールスタッフ……まさかそもそも内部に潜り込まされていたとは」
懐から取り出した紐、布、針を無造作に握り構えた葵は背中に痛々しい傷を晒しながら頷く。
やはり出入口を確保せんとして賊達は特に集中していたようだ。
彼女達の前には二人が倒れ、残りの七人もの賊がその場に集まって来ていた。
「ごめんあそばせー!!」
「ほげぇぁアァ!?」
七人の中で一番屈強そうな賊が吹っ飛んで窓ガラスを破りダイナミック退場させられ、一同が動きを止めた。
何か凄い物を創って投げつけたエリザベスが脚の折れたテーブルに乗ってスケボーさながらに駆けこんで来た。
「変装していた賊はわたくしとユーリエ様達がしばいてきましたわ。恐らく残っている賊は彼等を含めても十を越えない程度でございましょう」
「ボク達も集まれば怖いものなんか無いね! 砂蠍なんかハバネロミストでやっつけちゃうぞ☆」
なにおう、と怒号が飛び交うも賊達が散開する前にミルキィが半ば不意打ち気味に真っ赤な霧を噴射する。
煙の向こうで上がる悲鳴。
そこへさらに追い打ちをかけたのは、後から駆け付けて来たユーリエだった。
「葵さん、このポーションを飲んで下さい!」
「ありがとうユ……これポーション!? サバ味噌の臭いが……」
凄い臭いに葵が一瞬手を止める。
しかしそうしている間にも砂蠍は周囲にバリケードを作りながら激しい交戦を繰り広げる。
霧を突き破って来た賊の凶刃を受け止めたユーリエの背後から放たれた鎖が別の賊を捕え、彼女のポーションを一息に飲み干した葵が瞬時に賊の背中へ巨大な縫い針を突き立てる。
後方から賊達が無数のナイフや火炎瓶を投擲して、同じく後方からエリザベスとミルキィの魔法が放たれ辺りを破壊して行く。
「くそ! 下がれ下がれ! どっか別の部屋へ……」
「逃っがさないよー☆」
ミルキィがぴこん! とマギシュートを撃ってバリケードを吹き飛ばす。
焦りに駆られた賊の一人が両手に斧を持って躍り出る。エマが応じて打ち合う最中を縫って、次々にエリザベスとユーリエが後方で背中を見せて逃げる賊達を撃ち抜いて行った。
……その後ろで、息を潜めていた男達が地下へと忍び込んで行く姿に気付いた者はいなかった。
●
遂に決勝が始まる時。突如地下闘技場の観客席へ飛び込んで来た若い男が叫ぶ。
「ボス……!! そいつら、イレギュラーズだーーー!!!」
「なんだとお……!?」
タント、ノースポール、シラスの目が驚愕に見開かれる。
それまでふてぶてしかった筈の貴族の男は報せを受け、その顔に手を掛けてベリベリと皮の様な物を剥がし取ったのだ。
まさかあの小太りな男が『新生・砂蠍』の幹部とは。と思った矢先、中年の男の前でドマゾのポチが立ち上がった。
「おいマジかよ、予定より早過ぎると思ってたら……ローレットの連中か」
「そっちなんですの!?」
ドマゾのポチという大柄な変態が顔のメイクを拭ってその素顔を露わにした事で発覚するボスの所在。
思わずタントが驚きの声を挙げるが、相手は意に介さない。
「この時間でか……作戦のミスとは思えないな、となるとテメェ等の仲間が一枚上手だったか。これはまんまとやられたなベルモンデ、悪いがフェルゼンハント卿への復讐はまた今度だな」
「言ってる場合かよ! やばいぜローレットってのは! 魔種も返り討ちにするくらいの化けモンだって話じゃねえか!!」
「心配ねェッて……強ェのはな、”八人揃ってるから”って話も聞いたぜ。『オレのボス』からな」
ノースポール達は思う。
何故そんな格好で強気でいられるのだろう。
そう思った瞬間、更に砂蠍の男が二人その場へ駆け付けて来て観客席を飛び越えタント達の前に降り立ったのだ。
「俺らが殿務めるんで、ボスに宜しく願いします」
「オウ、行くぞベルモンデ」
下っ端に任せてその場を去ろうとするポチとベルモンデという男。その先に見えるのは、支配人の手筈で即座に避難を始めていた観客達の集団。
咄嗟にマスター台から飛び降りたタントが声を張り叫んだ。
「────逃げる気ですの砂蠍っ!!」
……多くの観客席に居た者達が出口へと押し掛ける中へ、ベルモンデは消えてしまった。
だが、武闘派らしき賊を掻き分けて前へ出て来た男だけは。
「……モッペン、言ってみな嬢ちゃん」
ドマゾのポチの表情は変わらぬ無を表して、その声に明確な怒気を滾らせていた。
それまで穏やかだったノースポールが声を張り上げて応じた。
「女子供から逃げるの? 砂蠍ってダッサイ集団だね!」
既に男達はそれ以上口を開く事を許してはいなかった。
青筋を額に浮かべ、背筋に忍ばせていた曲刀を男達は火花を散らして抜き放ち距離を詰めて来る。
意外にも、その場の先手を取ったのはタントだった。
タント様が繰り出したエレガントなグリコポーズから迸る輝きに賊の一人が不意打ち判定を受けて、盛大に吹っ飛んだのである。
「!?」
「オーッホッホッホッ!! わたくしが居ればもう何もかもが大丈夫ですわー!!」
「さっすがタント様!」
駆けるノースポールと『新生・砂蠍団員』が正面から衝突する。腕力に物を言わせながらも鍛えられた下半身を軸にしたぶちかましは彼女に後退りさせる。
だが、かすり傷含めそれらのダメージは絶え間なく伸ばされるタントの癒しが覆い隠す。
息を合わせるのに、距離は関係ない。それを証明するとばかりにノースポールが拳銃を抜いて構えた横をシラスが小さく跳んで男達の視線に合わせる。
「ここまでは実力を隠していたけど」
音も無く、砂蠍達の眼前で『黒』が爆ぜる。視界を塗りつぶす闇に完全に受け身を損ねた男は続く魔術的ダメージが直撃し、喉の奥から血反吐を吐いて崩れ落ちようとする。
が、そこでシラスの体躯がまるで先ほどの巻き戻しの様にノースポールの隣を跳び抜けて行く。
「シラスさん!?」
「っ……!! 前!」
シラスを受け止めたタントが癒しの光を注ぐのと同時、今度はノースポールの足元へ踏み込んだポチと名乗る男の拳が唸る。
しかし間一髪でそれを躱したノースポールは手元の拳銃を振り下ろして。一気に地を蹴り舞う様に跳ぶ。
「良い一撃だ……もっと寄越せよ、嬢ちゃん」
静かな闘志が燃えているのをノースポールは見た。
「お望みなら幾らでも!」
四足歩行という異様さにも拘らず、恐るべき反応速度と機動力で距離を取るポチに後方からの遠術が通用しない。
しかし再び戦線を上がって来たシラスが横合いから先ほど放ったキルザライトを撃とうとする。
刹那に交差するのは下っ端達の怒号。
彼女達を狙って曲刀を投擲した瞬間、ノースポールがシラスへ背負っていた盾を押し付け突き飛ばす。
その場に鮮血が散る。目にも止まらぬ速度で薙ぎ払った銃身に打たれ、一閃した脚に吹き飛ばされ、ボンテージを着た変態が下っ端達共々その場に膝を着いて瞬きの間に受けた連撃に怯んだ。
途中で足首を払われたノースポールが地を滑るも、彼女を飛び越えたシラスが今度こそポチの眼前に手を翳して魔力を暴発させた。
「ッッ……!!」
ダメージによる物か、ポチの顔面に刻まれていた大きなM字傷から黒々とした血液が噴き出して仰け反り倒れた。
「はあ……はあ……!」
フラフラと立ち上がるノースポールが腕を振り上げた。
異様に硬く。そしてまるで効いている様子が見えない相手と戦うのは初めてだった。
───そこへ低い声が鳴る。
「……イマの、効いたぜ」
焦点の合っていない眼をぐるぐると回しながら、新生・砂蠍の幹部は立ち上がった。
拳銃のリロードを片手で行いながらノースポールは眉を潜めた。
「……まだ起き上がれるんだね」
「タフすぎるね……サーカスの時を思い出したよ」
シラスが苦々しく言う。
「悪いが配下もかなりやられちまった……ついでに頭も冷えたぜ、ありがとうよ。
ローレット、イレギュラーズ、特異運命座標。ノースポール、シラス、タント。お前らの事は覚えた、いずれこの借りは返させて貰うぜ」
「逃げるんですの!」
タントが駆け寄ろうとする。
「ああ、逃げる。知ってるだろう? 忘れちまったんなら……逃げられた時の方が怖い存在ってのを、思い出させてやるよ。『俺達』がな」
「待て!!」
ノースポールが声を挙げた。
放たれる銃撃。しかしそこに既にポチの姿は無く、あっという間に獣の如き動きで逃走を許してしまったのだった。
●奴等は未だ。
健在だ。
新生・砂蠍、結局捕える事の出来た団員の殆どは口を割らず。或いは何も知らされていない、傘下に加わったばかりの小物盗賊団でしかなかったのだ。
彼等の頭領、そして新生・砂蠍の幹部……
ドマゾのポチは生きている。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
捕えた数は十二人。その内、武闘派の団員は八人。
お疲れ様でしたイレギュラーズの皆様。
ちなみにドマゾのポチは偽名です。
GMコメント
どうもちくわブレードです。
砂蠍が動き出した中。皆様には敵を誘い出し、迎撃して頂きます。
●依頼成功条件
盗賊団に壊滅的ダメージを与える(半数以上撃破・撃退する)
●情報確度はBです。
敵幹部の詳細が不明です。
●二手に分かれる
本作戦では【闘技場組】と【特定班】に分かれて行動します。
リプレイ開始時はイベント開催して一時間後からとなります。
●コロシアム
とあるカジノの地下で行われるモンスターや使用人をマスター同士が直接命令して戦わせる裏闘技場。
今回はここで多額の賞金を懸けてトーナメント形式で戦います。しかもイレギュラーズも有事に備えて待機する名目でシード枠参加。
【闘技場組】はここで二人以上、誰か一人を貴族役として他が闘技場内で戦う形になります。
(この時、貴族役が味方に効果のあるエスプリ等だった場合距離関係なく適用されます)
戦う役、貴族役が如何に連携して戦いつつ周囲を警戒、索敵できるか。その他プレイングによって状況は変わるでしょう。
●カジノ・地下闘技場周辺
とあるカジノの内部。それほど大きな面積ではなく、根回しによってこの日訪れる客に怪我をして困るような客はいません。
皆様はリプレイ開始二日前から内部構造を把握している体なので、プレイング中の事前調査で探索等の内容は不要です。
件の盗賊団は上手く忍び込んで来る傾向があります。【特定班】にはこれを警戒、特定して速やかに撃退して頂きます。
プレイング、スキルで賊をどう探すか。内容次第で戦闘へ移行した際の状況も変わるでしょう。
●<新生・砂蠍>[約20人]
早期に発見できれば不意を打てるでしょう。
敵の半数は恐らく戦闘力が低いと予想され、【特定班】がまだ侵入したばかりの賊と戦闘に入れば強敵との戦闘を少なくして戦力を大幅に削れる事もある可能性があります。
逆に、これまで盗賊団が撤退する際は退却路を妙に手強い団員が手引きしていました。恐らく早期に発見できなければそれだけ敵の退路を作るでしょう。
「顔にMみたいな傷がある大男がいた」という目撃情報もあります。
以上。宜しくお願いします。
皆様のご参加をお待ちしております!
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