シナリオ詳細
<カマルへの道程>お前も吸血鬼にならないか?
オープニング
古宮カーマルーマ。
ラサの古代遺跡だ。
死と再生を司る『夜の祭祀』と呼ばれる儀式が行なわれていたと歴史上に残されている。
非常に広大とした場所であり、探索した者の話では、内部には行き場を無くした晶獣や晶人を始め、様々なモンスターが存在しているという情報が得られていた。
それだけでも放置できない場所だが、内部に多数存在する転移陣が問題に拍車を掛けている。
現在、ラサで問題となっている紅血晶の流通を行っている『吸血鬼』達が、この転移陣を使って訪れているようなのだ。
すでに先遣隊が転移陣から先に向かい情報を得ているが、どうやら転移陣の先には吸血鬼の本拠地、『月の王国』があるらしい。
そこにも様々なモンスターや、なによりも吸血鬼たちが多数存在しており、月の王国の中枢と思われる王宮への到達を阻んでいる。
当然、戦闘になるのだが、吸血鬼と相対した場合には、奇妙な提案をして来る者もいるという。
(吸血鬼にならないか、ねぇ……)
転移陣から月の王国へと跳ぶ直前、ファニー(p3p010255)はローレットで聞いた話を思い出していた。
(それが目的で、イレギュラーズを月の王国に招こうとしてるって話もあるみたいだが……)
吸血鬼と相対した者達の証言を総合して得た情報らしいが、転移陣をイレギュラーズが簡単に使えるのは、仲間に引き入れるためだと推測されている。
(烙印とかいうのを刻もうとしているみたいだが、問題は旅人だろうと関係ないってことだな)
吸血鬼たちの言によれば、月の王国に棲まう『偉大なる純血種(オルドヌング)』により烙印を得た者達の総称が吸血鬼であり、種族は問わないという。
烙印により吸血鬼となった者は、転化する前よりも強力な力を得る代わり、反動で強い吸血衝動を有するようになり、外に出る血液は全て花弁と化し、涙は水晶に変化するという。
言ってみれば擬似的な反転に近く、狂気と呼んで差し支えはない状態だと推測されている。
(となると、あの時のポンコツも、同じような状態ってことかね?)
思い浮かべたのは、少し前、ラサのサンドバザールを襲った晶獣に便乗していた吸血鬼の女。
名乗りを上げるのに噛んだり、晶獣の攻撃の巻き添えを食って吹っ飛ばされたり、明らかにポンコツだった。とはいえ――
(ポンコツだろうと、あっち側なのは確定だ。追わないわけにはいかないな)
そう思い、吸血鬼の本拠地である月の王国への偵察依頼を受け、転移陣を使いファニーは跳んだ。
その先にあったのは、ラサの砂漠を鏡で写し取ったかのような広大な砂漠と、その先に見える美しい王宮だった。
「ここが月の王国か……」
空を見上げれば太陽は無く、夜の闇で天蓋は覆われている。
「吸血鬼の王国らしい、常夜の世界ってことかね?」
考えを纏めるように呟きながら、周囲を警戒する。
見れば、あらちこちらにモンスターが徘徊しており、それだけでなく――
(吸血鬼、だろうな)
人型の姿もチラホラと見えた。
何人かはファニーに気付いている者もいるようだが、興味がないと言いたげに、それぞれてんでバラバラに動いている。
(全員が同じ目的で動いてるわけじゃないらしいって話だったが、どうやら正解みたいだな)
となれば探索は面倒なことになる。
(誰か吸血鬼を1人捕まえて全部喋らせれば良い、ってことにはなりそうにないな。だから可能なら、王宮に侵入して情報を得て来いって話だったが、1人じゃ無理だな)
チームを組んでモンスターたちを排除しながら進む必要があるだろう。
(何度か回数を重ねなきゃ難しそうだが……って、あれは――)
少し離れた場所に、男装の麗人といった風体の吸血鬼をファニーは見つける。
「――あの時のポンコツ」
「ん? カーラの知り合いか、お前さん」
「っ!!」
突如背後から聞こえてきた声に、ファニーは振り向きざまに星屑を降らせる。
「おー、活きが良いね、お前さん」
のんびりとした声を上げながら、背後から声を掛けてきた中年の男は、降り注ぐ星屑に向かって腕を振る。
途端、紅蓮の炎が星屑を飲み込み焼き尽くした。
警戒するファニーに男は――
「あぁ、警戒せんでもいいよ。ここまで来たなら、同胞になるかもしれん相手だ。烙印を受け入れてくれるなら歓迎するよ」
親しげとさえ言える声で言うと、男装の麗人に向け声を掛けた。
「おーい、カーラ。この人お前さんの知り合いかー?」
声を掛けられ男装の麗人、カーラは猛スピードで駆け寄ると――
「貴様ー、あの時のー」
「とりあえず指差すのは止めようぜ」
いつでも戦えるよう警戒しながら言葉を返すファニーに、カーラでは無く中年の男が応える。
「ごめんな~。こいつ見た目は育ってるけど中身は子供って言うか、中二病真っ盛りでさ~」
「誰がだー!」
ぽんぽんと頭を撫でるように軽く叩く中年男と、顔を真っ赤にして怒るカーラ。
緊張感のない状況ではあったが――
(さて、どう撤退するか?)
予想外の敵戦力に、ファニーは一時退避を選ぶ。すると――
「帰るのは良いけど、また来てくれよ。今度は、お仲間を連れてさ」
そう言うと中年男は、自分の掌を爪で切り裂く。
すると結晶の花が咲き、それを中年の男は握り砕くと、細かな粒子となったそれを宙に撒く。
それは風の流れに乗って飛んでいくと、その先にいたモンスターたちを引き寄せた。
「帰って良いって言う割には険呑だな」
向かってくるモンスターも含めてファニーが警戒しながら言うと、中年の男は応えた。
「次に来てくれた時に、どんな風にお出迎えするか教えときたかっただけだよ~。烙印を刻んで同胞になって欲しいけどさ~、その前に見極めないとダメだろ? どうせなら強いのに仲間になって欲しいし、仲良くできそうな相手の方が楽しそうでしょ」
「……勧誘のつもりか?」
「少なくとも、俺はそのつもりだよ~。カーラも、友達いた方が嬉しいだろ?」
「な、なに言ってんだバカーっ!」
「はいはい、照れない照れない。んじゃま、また来てくれるのを待ってるよ。って、お前さん、名前は?」
「人に聞く前に名乗るのが筋ってもんじゃないか?」
「あー、そだね~。俺はバレル・バレット。んで、こっちが――」
「カーラ・アストレイだ!」
名乗りを上げる2人に、ファニーは応えるか一瞬迷ったが、この場から安全に退避することも考え名乗り返した。
「ファニーだ」
応えると、ファニーは転移陣を使い撤退した。
その後、ファニーから得た情報を元に、新規の依頼が出される。
内容は、転移陣の確保と、可能な限り転移した先での敵の排除。
転移陣は、古宮カーマルーマの内部に多数存在するため、その内のひとつを抑えることになる。
転移先で敵の排除を行うのは、確保した転移陣を維持するため。
言ってみれば、ベースキャンプのひとつを確保するための依頼といった所だ。
依頼内容を聞き終わったイレギュラーズは、件の転移陣のある場所へと向かうことにした。
- <カマルへの道程>お前も吸血鬼にならないか?完了
- GM名春夏秋冬
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年03月20日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
月の王国へと皆は訪れた。
「よう、カーラ」
親しげに声を掛ける『Stargazer』ファニー(p3p010255)に、カーラは警戒する仔猫のような風情で返した。
「貴様、なんで今日は骨じゃない」
「折角お招き頂いたからな、ちょっと『おめかし』してきたのさ」
「そうか。礼儀を知っているのは偉いぞ」
納得するカーラにファニーは続ける。
「カーラの服装も同じなのか? だとしたら勿体ないな」
「?」
「カーラは結構可愛い顔してるのに、なんで男装してるんだ?」
「なっ」
「そう照れるなよ。なぁカーラ、オレと友達にならねぇか?」
「と、友達、だと」
狼狽えるように言いよどむカーラに話し掛けながら、ファニーはバレルに一瞬だけ視線を向けハイテレパスで話し掛ける。
『オレを気に入ってくれたら、アンタたちの仲間にしてくれ』
何故そんな提案をしたかといえば、烙印は月の王国への招待状ではないかと思っているからだ。
(ハイリスクではあるが、試してみる価値はある)
『度胸があるねぇ、アンタ』
「っ!」
バレルの声が脳裏に響き、ファニーはギリギリで驚きを飲み込み表情には出さない。
(思考が読めるのか?)
『アンタがテレパス使ってくれたからね。繋がった回線利用してんのよ』
(器用だな)
『そりゃどうも。にしても、それだけ度胸があるなら引き込みたい所だが、それで上に警戒されたら厄介だな』
(どういうことだ?)
『秘密だよ』
ファニーとやり取りしていることは欠片も見せず、バレルは笑顔で他のイレギュラーズに呼び掛ける。
「問答無用で殴って来ないってことは、少しは話をしてくれるってことだろ? だったらしようぜ」
「してもいいけど、もっと明るい所でしたいね」
応えを返したのは、『タコ助の母』岩倉・鈴音(p3p006119)。
「転移陣使ってはるばる来たけど、暗いね、ここ。思わず目薬差しちゃったよ」
「そいつは悪ぃな。何しろ月の王国だ。常夜の風情を楽しんでくれ」
「楽しめるの? ここ」
「吸血鬼になってみれば分かるさ。どうだい?」
「興味はあるよ」
好奇心を覗かせる鈴音。
「反転できない旅人の身ではジョブチェンできるチャンスかもしれないからね。でもリスクとリターン、天秤にかけてからでないと」
「リスクとリターンねぇ」
「例えば吸血衝動で一日どのくらいの血が必要か気になるね。大量に必要なら狩りに時間をとられたりするでしょ?」
訊きながら、バレルとカーラに視線を向ける鈴音。
(血に飢えてる気配はしないけど……)
少なくとも襲い掛かってくる気配はない。
鈴音が見極めようとする中、バレルは問いに応えた。
「吸血衝動は個体差があるな。俺やカーラは少ない方だ。何なら俺個人の伝手で輸血パックが手に入るから都合しても良いぜ」
「人によるってことか……質問、続けても良い?」
「もちろん」
「それなら聞きたいんだけど、種族としての弱点は無いの? 伝承ではいろいろ制約があるみたいだし。十字架とかニンニクとか」
「少なくとも俺とカーラは平気だぜ」
「リスクは、そんなに無いってこと?」
「今質問された範囲なら、個体差はあるが、そうだな」
含みを持たせるバレル。
(嘘は言ってないみたいだけど、全て話してるわけじゃないってとこかな?)
推測しつつ問いを続ける。
「それじゃ次はリターンも教えて。吸血鬼になれば能力アップ以外にオトクな種族スキルとか無いの?」
「そっちも個体差が大きいな。吸血鬼になって新しい能力身に着けるのもいるし、単純に強くなっただけって奴もいる。あえて種族スキルって言うなら、他人を吸血鬼に出来るってことかな」
「それだけ?」
「断定できるのは、それぐらいだ」
鈴音とバレットの話を聞いていた『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)が、何処か不機嫌そうに眉を寄せる。
気付いたバレルが声を掛けた。
「アンタは吸血鬼になる気はねぇか?」
「結論から言えばお断りっス」
しっかり断る葵。
「悪ぃけどオレには先約がいるんでね」
「先約ねぇ……ニィちゃん、アンタ旅人か?」
「だとしたら何スか」
「ひょっとして、この世界と同じで吸血鬼がいる世界の出身か?」
「一緒にすんな」
親しい人を侮辱されたかのように返す。
「オレんトコの吸血鬼は血が花びらにならねぇし、モンスターも呼ばねぇよ」
敵意を滲ませる葵の言葉にバレルは、むしろ好感を持ったかのように薄く笑みを浮かべ応えを返す。
「気に障ったんなら悪ぃ。俺も旅人で元の世界にゃ吸血鬼がいた口なんでな。まぁつっても、元居た世界の吸血鬼は呪いみたいなもんだけどよ」
「呪いデスカ……」
気になったのか、『不死呪』アオゾラ・フルーフ・エーヴィヒカイト(p3p009438)が話に加わる。
「貴方様はワタシ達を吸血鬼にして仲間にしたいということデスガ、どこまで効くのか気になるデス」
「どういうこったい?」
「ワタシに掛かっている不死の呪いが吸血鬼の刻印とどう反応するのか気になるデス。既にもう呪われていますワタシにも効果があるのでショウカ? ワタシとしてはお互いに反発して両方消えるのが理想デスガ」
「そいつは無理だと思うぜ」
「無理デスカ?」
「ああ。こいつは俺の推測だが、刺青と刺青シールの差みたいなもんだと思う」
「どういうことデスカ?」
「刺青は直接刻み込むもんだ。だから取り除こうと思ったら直接削らにゃならん。でもシールなら上にペタッと張るだけ。表から見たらシールしか見えなくても刺青は残ってる。この世界の吸血鬼ってのはそういうもんだと思うぜ。上書きじゃなくて上乗せ。だから旅人だろうと関係なく干渉できるが、元から刻まれてる特性や呪いが消えるわけじゃねぇ、と思う。あくまでも俺の推測だけどな」
「では可能性は無いのデスネ?」
「少なくとも俺らが知る範囲じゃ、な。その辺は、俺も知りたい所だけどな」
「……そうデスカ」
考え込むアオゾラ。
それを邪魔しないように、バレットは他のイレギュラーズに話を向ける。
「他に聞きたいことはねぇか?」
「月の王国のある場所について教えてほしいっス」
葵が問い掛ける。
「転移陣でここまで来たっスが、コレじゃなきゃ行けない理由がどっかにあるんスかね?」
「それを訊くってことは、何か推測でもあるのかい?」
「一つ可能性があるとしたら、何かを発生源とした混沌から隔離された特殊な空間とか?」
「生憎と新参者の俺らじゃ、そこまで詳しいことは知らされてないから教えられねぇ。ただ、俺らもここに帰って来るにゃ、転移陣を使わにゃ無理だ。昔馴染みの伝手を頼って調べて貰ったが、今の所外からここに直接来れる場所は見つかってねぇ。悪ぃが、この件で答えられるのはこれぐれぇだ」
「……ちゃんと応えてくれるのですね」
一連の問答を聞いていた『星に想いを』ネーヴェ(p3p007199)が言った。
「貴方たち吸血鬼と、わたくし達は言葉を交せるのですね。それはヒトも、吸血鬼も、……魔種だって変わりないことでしょうけれど」
一番に知りたいことは口には出来ず、心の中で呟く。
(わたくしたちは……分かり合える、余地がある、のでしょうか)
そうなって欲しいという思いはあるが、現実的ではないことをネーヴェは知っている。
(襲ってくる方達と、分かり合えるとは……現状、思えない。それに、吸血鬼を増やそうとする、目的も……話してくれそうには、ない気がします、し)
悩むように思っていると、バレットが提案する。
「気になってることがありゃ話せる範囲で答えるぜ」
ネーヴェは、迷うような間を開けて問い掛けた。
「……吸血鬼を増やそうとする目的は、何なんでしょう?」
「基本は上の、純血種と姫さんの命令を受けたからだ。それを上がさせてる理由は兵隊が欲しいのか、単純に月の王国の民を増やしたいのかは知らねぇ。ひょっとすると増えることで何かが……月の王国が外に広がるとか……この辺は俺の妄想だから与太話になるが、何かがあるかもしれねぇが、新参者の俺達にゃ、そこまで知る術ないんで悪ぃが教えられねぇ」
「増やそうとする目的は分かりました。けど――」
疑問に思った、『君の盾』水月・鏡禍(p3p008354)が話に加わる。
「なぜわざわざ勧誘するのでしょう? そもそも吸血鬼とは血を吸って仲間を増やす種族だと、元の世界からの知識で認識しているのですが……」
「どういうこったい?」
「だって勧誘しなくったってやろうと思えば増やせるんじゃないです? それとは別に同志として求めているのなら、こうやってやたらに増やすのも不便に思えますし」
「ここで勧誘してるのは俺達の都合だ。俺達は仲間にするなら仲良くできる相手の方が良い。他の吸血鬼の中にゃ増やしゃ良いだろって奴もいるけどな……そういう奴は気を付けな。死んでも構わないって無茶する奴らもいる……増やし過ぎて不便になるのは、俺も気になっちゃいる」
「どういうことです?」
「吸血鬼に成ったら体外に出た血は結晶になっちまう。だから血を吸うためにゃ吸血鬼以外の人間が必要だ。それなのに無駄に増やせば自滅する。上に何か対策があるかもだが……少なくとも俺は不要に増やさず相手を選びたい。だから勧誘しつつ見極めてる」
「あと一つ質問良いですか?」
「ああ」
「僕も旅人ですけど一応妖怪の端くれなんですよね。それでも吸血鬼になれるのかちょっと気になったりします。吸血鬼になったら鏡の世界に帰らなくてもいいのかなって、思うので」
「吸血鬼には成れる。ただそれで、元の特性やらが無くなったりするかは難しいと思うぜ」
思案する鏡禍。
少し沈黙が流れた所で、『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)が話に加わった。
「おふたりは 仲間が ほしいのでしょうか……」
応えたのはカーラ。
「仲間になるというのなら、その、やぶさかではないぞ!」
これにノリアは、芯の強さを秘めた声で返す。
「もし 吸血鬼になると この王国の住民に なってしまうのなら わたしは 大切なひとを おいてゆけませんの それに――」
「なんだ?」
「ここは 海から ちょっぴり とおすぎますから」
「海、海かぁ……」
どうしたものかと悩むカーラにノリアは言った。
「でも お友達くらいには なれますの」
「と、友達……」
さらに悩むカーラと、保護者のように見詰めるバレットに、ノリアは精一杯の提案をする。
「それに…… この場を ゆずってくださるのなら 血の ひと吸いくらい さしあげても かまいませんの」
「い、いいのか?」
「巨大魚に つるんとしたゼラチン質のしっぽを なかばから 噛みちぎられるのと くらべれば たいしたことは ありませんから もっとも……」
食われる者の意地を示すように、真っ直ぐな声でノリアは言った。
「やはり たたかいに なってしまうのだとしても けっきょく しっぽのおいしさを アピールすることには なるのですけれど!」
「そいつは魅力的だねぇ」
楽しげな笑みを浮かべバレットは言った。
「思わずなびきそうになっちまうが、俺らにも都合があるからねぇ。齧っちまわねぇためにも吸血鬼になって欲しいんだが、無理かい?」
これに自然な声で応えたのは、『雷虎』ソア(p3p007025)だった。
「ボクは吸血鬼に興味あるなあ、お花の烙印なんて綺麗だし」
それは虎の精霊だからこその感性。
(血が飲みたいというのも分からなくはないの)
仕留めたばかりの獲物から滴る赤色を考えるだけで口の中が涎でいっぱいになるのだから。
(あまりボクも変わらない気がする。今より強く綺麗になれるなら素敵なお話だと思うし)
自然なことだと言うように受け入れるソアに、バレットが言った。
「いける口だねぇ」
「うん、そうかもしれない。でも気になることもあるよ。吸血鬼って、悪いこと沢山してる人たちなんだっけ?」
「襲われる側からしたらそうだろうねぇ」
「違うの?」
「さて、どうだろうな?」
「なら、教えてよ。カーラさん、バレルさん?」
2人に視線を向けながら言った。
「皆は知らないけどボクはとっても気になるの。烙印を受け入れてもいいから貴方たちのこともっと教えて」
「吸血鬼になれば分かるさ。だからそろそろ試させてくれ」
バレットが応じるように言うと晶獣が多数駆けて来る。これに――
(ふんふんっ。仲間に相応しいかどうか力を見せれば良いのかな?)
ソアはギラリと爪を見せながら応えた。
「ボクは、強いよ? 見せてあげる」
髪を逆立たせ、パチパチと光る雷を纏い、爆ぜるような勢いで跳んだ。
瞬時に鋭い爪でバレルを捉え引き裂き――
「じゃ、始めようか」
バレルは引き裂かれると同時に霧と化し、文字通り霧散しながら戦いの開始を告げる。
その時には既に、皆は動いていた。
「さて、交渉も決裂したトコで歓迎会といくっスか」
早い段階から敵の殲滅を意識していた葵が、まずは数を減らすことを念頭に動く。
「数が多いっスね」
巧みなフットワークで駆け回り、蹴撃で次々砕いていく。
煌めくように破片が飛び散り、常夜の国を彩っていった。
仲間が砕かれ、けれど晶獣は恐れず勢いが増す。囲んで潰そうとするかのように動くが――
「兎とも、暫しお付き合い、頂きます!」
砂漠を駆ける疾風と化したネーヴェが斬り砕く。
「確実に、数を減らして、いきましょう! 不意打ちには、十分な、注意を!」
弱っている敵を逃さず、速さを糧に斬撃を生み出し切り砕いていった。
晶獣が次々砕かれ、霧から実体化したバレットが援護に動こうとしたが、そこに無数の星屑が降り注ぐ。
「遊ぼうぜ、オッサン!」
「ははっ、やんちゃ坊主だな!」
指先で流星をなぞるように。相手の死線を切り裂くように。
流れ落ちる星を操るファニーと、目まぐるしく動きながら攻防を繰り広げるバレット。
そこに晶獣が突っ込もうとするが、猛烈な熱砂が襲い掛かる。
鈴音が熱砂を操りながら、同時に好奇心を満たしていく。
「血は全部、結晶になるんだ」
結晶の花を咲かす晶獣を観察しながら、機を見て仲間の強化にも動いていた。
イレギュラーズに押されていく晶獣だったが、突如赤い輝きに包まれ勢いが増す。
それがカーラによる強化だと気付いた鏡禍は、召喚術を発動。
突如カーラの眼前に現れた鏡は、カーラの傷付いた姿を映し出し現実を侵食。
鏡の中と同じようにカーラを傷付けた。
「やってくれたなー!」
血の結晶を咲かせながら鏡禍に怒りを向けるカーラ。
(これでいい。このまま引き付ける)
敵の分断を意識し動く鏡禍と同じように、アオゾラは呪を操り敵を翻弄する。
「サア、ワタシが憎いでショウ」
あえて晶獣の群れに近付き、肌をざらつかせるような悪意をバラ撒く。
敏感に反応し晶獣が押し寄せるが、アオゾラは魔力を食わせ活性化した呪で迎撃。
視認できるほど濃密な呪は多頭の大蛇を象り、毒を撒き散らしながら敵を砕いていった。
イレギュラーズの勢いに、バレルは楽しげに笑う。
「好いねぇ! もっと戦り合おうや!」
ソアとファニーからの攻撃から態勢を整えるように距離を取り、反攻へと繋げようとした瞬間――
「なら わたしが 相手になりますの!」
ノリアは魅力的な尻尾を振り、自身を囮に欲を煽る。
堪えられず駆けてくる無数の晶獣と――
「はっ、美味そうだな嬢ちゃん!」
牙を剥き出しにして駆けてくるバレット。
「焼いたらもっと美味そうだ!」
目を爛々とさせ周囲一帯を炎の海へと変えた。けれど――
「わたしは 火には つよいので」
ノリアは炎の海を、身にまとった大いなる海の力で押し流し消し去った。
「ほのおの術は あんまり ききませんの!」
大海の波濤のようなノリアのカウンターに、押し寄せた晶獣たちは飲み込まれ砕け散り――
代わりにバレットの姿は掻き消えていた。
「気をつけて下さいの!」
警戒の声を上げるノリア。だがその時には既に――
「悪ぃな」
「!」
背後から聞こえてきた声に、ソアは雷を纏う爪を振う。
だが手ごたえは無く、代わりに霧散するバレットの姿と、ぞわりと浸蝕する烙印の感触だけがソアに残った。
「じゃあな。縁がありゃ、また会おうや」
バレットは晶獣達を壁にするような動きで素早く動くとカーラと合流。
腰に腕を回し自分だけでなくカーラも霧へと変え、同時に巻き起こった疾風に乗って逃げ去った。
追跡しようとするイレギュラーズ達。
しかし晶獣たちに阻まれ時間が取られ、追い付くことは叶わなかった。
その後、周囲の晶獣を一掃。
それ以上の探索は疲労と怪我を考慮し危険と判断。転移陣で移動する。
ベースキャンプ設置のための依頼は果たしつつ帰還するのだった。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でした!
吸血鬼2人には逃げられましたが、多数の晶獣を倒すことで、ベースキャンプの設置は完了しました。
逃げた吸血鬼の内、バレルと称する個体には何か思惑があるようですが、内容は不明です。
戦闘行為はありましたが、あまりイレギュラーズを傷つけようとする意思は無かったようです。
それでは、最後に重ねまして。
皆さま、お疲れ様でした。ご参加、ありがとうございました!
●運営による追記
※ソア (p3p007025)さんは『烙印』状態となりました。(ステータスシートの反映には別途行われます)
※特殊判定『烙印』
時間経過によって何らかの状態変化に移行する事が見込まれるキャラクター状態です。
現時点で判明しているのは、
・傷口から溢れる血は花弁に変化している
・涙は水晶に変化する
・吸血衝動を有する
・身体のどこかに薔薇などの花の烙印が浮かび上がる。
またこの状態は徐々に顕現または強くなる事が推測されています。
GMコメント
おはようございます。もしくはこんばんは。春夏秋冬と申します。
今回は、アフターアクションを元にしたシナリオになっています。
以下が詳細になります。
●成功条件
転移先の月の王国で、敵となるモンスターを可能な限り倒す。
●状況
以下の流れで進みます。
1 古宮カーマルーマ内部の転移陣から月の王国へと転移する。
複数存在する転移陣のひとつから、月の王国へと転移します。
月の王国への侵攻を目的とした、ベースキャンプのひとつとして
確保することが求められています。
転移陣には、ベースキャンプとして維持するための人員が居ます。
あくまでも転移陣を確保するための人員なので、PC達と共に転移はしません。
2 月の王国に転移後、待ち構えていた敵と戦闘する。
転移すると、2人の吸血鬼が待ち構えています。
いきなり襲って来ることは無く、吸血鬼への勧誘を行ってきます。
会話をすることは可能ですが、肝心なことは喋らないでしょう。
いきなり攻撃するなども可能です。
PC全員が転移し、ある程度時間が過ぎれば、モンスターを呼び寄せます。
3 本格戦闘。
モンスターと吸血鬼2人を相手にした戦闘を開始します。
モンスターは問答無用で襲い掛かってますが、吸血鬼2人の目的は
PC達を吸血鬼にするために烙印を付与することのため、殺しには来ません。
ただし、モンスターへの支援や、ある程度の戦闘は行うようです。
ある程度モンスターを倒すことが出来れば、吸血鬼2人は撤退します。
その後、帰還して以来達成となります。
●戦場
一面の砂漠。
砂で多少足場を取られますが、戦闘に支障が出るほどではありません。
●敵
サン・エクラ×?
小動物や小精霊などが、紅血晶に影響されて変貌してしまった小型の晶獣です。
鋭い水晶部分による物理至~近距離戦闘を行うことが多いです。
いわゆる雑魚敵です。
アマ・デトワール×?
生物が晶獣に変質する際、副産物的に生まれる小型の晶獣です。
神秘術式による神秘中距離~遠距離攻撃を多用します。
シャグラン・プーペ×?
紅血晶が、ラサの遺跡に眠っていたゴーレムに反応し、変質して生まれた晶獣です。
強力な物理近距離攻撃を行ってきます。
頑丈でタフなアタッカーです。
上記の3種類の敵の総数は、ご参加いただいたPCのレベル帯などを考慮し調整します。
あくまでも、難易度NORMALの範囲内の数しか出てきません。
吸血鬼×2
カーラ・アストレイ。
男装の麗人の姿をした吸血鬼。
サクッと死ぬかなと思ってたので名前とか考えてなかったんですが
前回のシナリオで名前を聞いて貰えたので今回から名前付きで出てます。
基本ポンコツな中二病。
性能は、強力なバッファー&ヒーラー。現状攻撃能力は、ほぼ無い模様。
バレル・バレット。
昼行灯っぽいオッサン吸血鬼。
自身の血の結晶を飛ばして晶獣などを呼び寄せたり、炎を使った攻撃が可能な模様。
呼び寄せた晶獣を操れるかは不明。その他の能力についても不明。
PC達に吸血鬼にならないか勧誘してきます。
吸血鬼にしても良い相手を見極めるために、晶獣をけしかけて戦闘をさせている模様。
●特殊判定『烙印』
当シナリオでは肉体に影響を及ぼす状態異常『烙印』が付与される場合があります。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
あくまでも付与される場合があるだけで、確実にされる訳ではありません。
場合によっては、誰も付与されない場合もあります。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
説明は以上になります。
それでは、少しでも楽しんでいただけるよう、判定にリプレイに頑張ります。
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