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シナリオ詳細

<カマルへの道程>商魂果てて血盟を為す

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ゴウトは壺職人である。商売への知見はほぼ無い。
 少なくとも彼に、何か、誰かをどうにかしてやろうなどと思った過去もなければ、今なお――奇妙な壺を作り続けている動機も生活とささやかな承認欲求を満たすためである。
 だから、彼にとっては壺が売れれば名前が広がる、以上の感動は無く、その壺が見る者に見せる価値観を図りきれていなかった。
 ゴウトという男は、只管に己の欲求以外に無関心であったがゆえに、己の行動の結果とその影響を鑑みることが無かった。
 つまり、彼は。広まりつつある騒ぎの先でローレット・イレギュラーズやラサの包囲網にかかる可能性も、それよりずっと先に訪れるであろう不幸(あるいは幸運)にも気付くことはなかった。
 強いて挙げるとすれば、彼の借金の管理をしていた男たちが先日の混乱で相次いで死亡したことぐらいであろう。
 尤も、それらの事実が耳に届くより早く、ゴウトはネフェルストから姿を消したのだが……。


「最悪あるね。例の壺職人の工房は見つかったけど壺と紅血晶だけ残してとんずらしてたあるよ。紅血晶は一般人の手に渡る前に回収したから、あの血みどろが現れることはないあるが……」
「あれだけデカデカと印章を残してるくらいだから警戒心皆無かと思ったが、なかなかどうして用心深いな。血の跡が残ってないところを見ると晶人にはなってねえみてぇだが」
 『尸解老仙』李 黒龍(p3p010263)と『侠骨の拳』亘理 義弘(p3p000398)が先日、商家で関わった事件――骨董商の末路とその処理を通して、仲買を通じて壺職人ゴウトの工房を見つけたまでは順調だった。
 だが、ゴウトの工房はその殆どを残して放置されており、彼等が訪れたころにはうっすらと埃をかぶってすらいた。逃げ足が速いのか、紅血晶に魅入られたのか、或いは別の理由なのか。
 生活の痕跡を残したまま忽然と姿を消した彼の消息を追うことは困難だ。
「……でも、やっぱりゴウトさんって人は職人だよね。自分の見聞きしたことを表現したくて堪らないって気質がある」
 と、途方に暮れる二人に対し、『陰性』回言 世界(p3p007315)は工房に隠されていた書類を探し出し、埃のかぶった食卓に叩きつけた。そして舞い上がった埃でせき込む三人。世界は即座に謝りつつ、文面を指でなぞった。
『素晴らしきものに従える光栄を』
 それだけ書かれただけでは何がなにやら分からぬが、イレギュラーズは一連の事件について集められた情報を知っていた。
 吸血鬼、そしてそれらの本拠地である『月の王国』へと続く『古宮カーマルーマ』。
 彼がその手中にあるとすれば、なんとしても早期に叩いておきたい。……次はもっと巧妙に、壺をばら撒く可能性だってあるのだから。


 果たして、カーマルーマに備えられた転移陣の排除に訪れた一同の前に現れたのは、数珠繋ぎにされたような小瓶を腰に提げた吸血鬼、そして彼の前に立ちはだかるように現れた歪な生命体たちであった。
 過去に妖精郷の一件に絡み、人造生命体たちを見た者であれば、それがアルべドやキトリニタスの類縁であることに気付くはずだ。違いは、彼らほど精巧ではなく、一部に明らかに人間の造形からかけ離れた個体がいることぐらいか。
「こんなところに、客人が来るとは……聞いていないが、有り得る話か。諸君を欲しているあの方のことだ、元よりこの為に仕込んだのか」
「おまえ、ゴウトで間違いないね。人相書きそのままよ。どころか、少し陰気になったね?」
「分かっちゃいたけど、人を捨てたか」
「君達のような、美を解せぬ様子の友人を持った気はなかったが。なかなかの手勢だ」
 一同はすぐに彼がゴウトであると見抜き、もう遅すぎたのか、と歯噛みする。正確には、彼が今からまき散らす外道の行いを阻止することは可能だろう。そして、哀しき生物の命を絶つことも。
「借り物の力で大きくなった気でいるなら、ここで止める。……その『作品』は誰にも届かないよ」
「自分の身についてしまえば、借り物とは言うまい。俺は俺のやりたいように、作品を広めさせてもらう」

GMコメント

 前回依頼からのスピード感がすごいことになっている。

●成功条件
・偽命体の殲滅
・ゴウトの撃退
・転移陣の占拠

●吸血鬼ゴウト
 拙作『<昏き紅血晶>欲得の壺』のきっかけになった「紅血晶を混ぜた壺」を悪気無く作り出してしまった職人。その後なんやかんやあって吸血鬼となった模様。
 行動原理は承認欲求と創作意欲の赴くままに生きること。基本的に戦闘は偽命体任せだが、妨害などを行ってくるし、場合によっては吸血衝動のままに噛みついてくる場合があります。
 噛みつき命中=危険とはいきませんが、何度も、深く、もしくは長時間噛みつかれたなどであれば話は別です。
 紅血晶の交じった小瓶を投げつけ中の薬剤によるBSの付与、強化された肉体による徒手空拳の攻撃などを用います。
 能力には不明点が多いですが、職人ゆえに器用なため命中やCTは比較的高めとみていいでしょう。総じて魔種に準じた能力値のため、撃破までを目指すのはお勧めしません。
 撤退ラインが比較的浅いので、作戦に齟齬が出るようなら素直に撤退に追い込むのが理想でしょう。

●偽命体:人獣型×10
 偽命体(ムーンチャイルド)の一種で、獣種よりもさらに歪に人と獣が混じり合っています。なかには複数の獣を想起させる、いわゆるキメラや鵺に近い姿も。
 獣ベースのため機動力が平均より高めです。誇張された爪や牙による【出血系列】のBSは脅威。
 代わりに神秘系統の攻撃が行えないため、物理ごり押し感があります。個体差があるため思わぬ攻撃が飛んでくる可能性も。

●偽命体:武装歪人×10
 偽命体(ムーンチャイルド)の一種で、こちらは各々の獲物を肉体に植え付けられたような姿になっています。
(例:両足が剣になっており突き刺すように地面を歩く、杖が腕と一体化している、頭部がハンマー、など)
 こちらは武器によりけりですが、神秘武器なら神秘攻撃の威力や範囲が上がっているとか、治癒術にたけている、または近接武器の基礎リーチやEXAが高いなどの特徴があります。
 いずれも高いといってもNORMALのちょっと強い数打ちの相手レベルですが、当然一人ひとりが強いだけで圧倒出来るわけではないです。お手軽に一掃……とはいかないでしょう。
 余談ですが、こちらは「もとになった命がある」「深いところの理性面で戦闘を忌避している」者達があえて選ばれた傾向にあります。くれぐれも容赦なく対応を。

●特殊判定『烙印』
 当シナリオでは肉体に影響を及ぼす状態異常『烙印』が付与される場合があります。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <カマルへの道程>商魂果てて血盟を為す完了
  • GM名ふみの
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年03月26日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

亘理 義弘(p3p000398)
侠骨の拳
クリム・T・マスクヴェール(p3p001831)
血吸い蜥蜴
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
グリーフ・ロス(p3p008615)
紅矢の守護者
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
ノア=サス=ネクリム(p3p009625)
春色の砲撃
李 黒龍(p3p010263)
二人は情侶?

リプレイ


「虎穴に入らずんば虎子を得ずと昔の人は言ったあるが、面妖な壺を追っていたらとんでもねぇものにぶち当たってしまったあるよ」
「迷惑職人をサクッと殺してお終いだと思ってたが……」
 『尸解老仙』李 黒龍(p3p010263)と『陰性』回言 世界(p3p007315)は共にゴウトを追っていた身として、よもや吸血鬼に出くわすとは想定していなかった。少なくとも、彼の工房に入るまでは。こうしてカーマルーマに辿り着いた以上、彼が邪魔するなら排除すべきであるし、その覚悟ができていない訳がない。何より、彼が従えている偽命体のおぞましさを見れば放置できない相手であることは明らかなのだ。
「職人と言うのはいつでも、誰にとっても、迷惑な代物だよ。私だって例外じゃないのさ。あれを見てしまっては――」
「お、来た来た! いらっしゃーい! 待ってたぞーぅ! よう来たのう、壺職人! 傑作作ったんだって?」
「……これは君達の仲間か? どうにも騒々しいが」
「あったりまえよー! 私ちゃんてば陽の者だからな!」
 ゴウトが自分の存在を言葉で定義づけようとしたまさにそのタイミングで、『音呂木の巫女見習い』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)の高らかな挑発がゴウトの鼓膜を打った。心底迷惑そうに秋奈を指差すその姿は、なるほど夜の住民となった彼が彼女のようなタイプを極めて苦手としていることが窺える。
「この偽命体たちは貴方の作品達かしら、芸術家なら作品を作るに至った動機を教えてもらえるかしら、ゴウト」
「残念ながら、違う。私はただの職人なのでね。研究家肌とは違うらしい」
「……だったら、そちらの『歪んだ』偽命体から感じられる絶望と敵意は、獣人から感じられる無色透明の殺意は、あなたが植え付けたものではないのですね?」
「半分、不正解だよ……成程、秘宝種とかいう代物だね、君は。『創ったのは私じゃないが、何体かは私が歪めた』。道具は己の都合の良いように手を加えて然るべきだろう?」
 『雪花の燐光』ノア=サス=ネクリム(p3p009625)と『紅矢の守護者』グリーフ・ロス(p3p008615)が矢継ぎ早にゴウトに問いかけると、彼は立て板に水とばかりにスラスラと応じる。通り一遍の定形回答ではなく、感情の籠もったそれ。心からの無念、そして手を加えたことに対する職人なりの誇りを思わせる……その言動は、そしてその目にうつる偽命体の感情の色合いは、グリーフにとってどれほどの重みがあろうか。
 獣人型のそれらは植え付けられた憤怒と敵意によってのみ動くことを運命づけられた。他の生き方を許されない。選択するという行為を知らない。
 歪んだ肉体を持つ偽命体は、人に戻ることすら許されない。選択する権利を奪われ歪められた。
 作られたものなれど、人としての選択権と意思を手にしたグリーフにとってそれらが意味するものは、あまりに単純明快だった、といえようか。
「どうしてこんなにかなしいことをするのですか?」
「求められたから、と言えば理解してもらえるかな。私はこの『芸術品』をより美しい有様にするのが仕事だ。そして、君達を引き込むのも仕事なのだろうね」
 『陽だまりに佇んで』ニル(p3p009185)は、グリーフ同様秘宝種ではあるが彼ほどに饒舌に物事を語ることはできない。が、直感的な物言いをする分、より真に迫る言葉を選びがちだ。ニルにとってゴウトの行為は『かなしいこと』で、彼の行動によって起きるであろう物事もすべて、悲しみを生むものである。おそらくゴウトは、ニルの目に宿った感情の意味を理解できまい。
「他人の命すら弄るようになった奴には、ケジメが必要だろう? ……どうやって吸血鬼になったのか知りてえところだが、まあ無理だろうよ」
「無価値なまま生きて、誰にも知られぬまま死ぬところだった私からすれば。生きたまま価値を生み出せるようになっただけ、幸福だと思うが。どうかな?」
「そういう手前勝手な言い分が気に食わねえってんだよ」
「というか吸血鬼が嫌いな私に喧嘩売ってますよね。吸血鬼なりたて風情のクソガキが」
 『侠骨の拳』亘理 義弘(p3p000398)は黒龍や世界とともに商人邸の地獄を見ただけに、無意識であれ自覚的であれ、人の命を歪めて眉一つ動かさないゴウトのような相手が許せない。仁義を欠く、と彼の生きてきた世界では言うだろう。『血吸い蜥蜴』クリム・T・マスクヴェール(p3p001831)からしてみれば、力を得たばかりの吸血鬼が訳知り顔で強者面をして闊歩することが許せないらしい。……が、彼女の好悪などおそらくゴウトは知ったことではない。向けられた強い敵意に、「恨まれるのも、無視よりはましだろうな」と鼻で笑うあたりがよりその怒気を誘った。
「貴方の壺に対する美意識のいくらかを、分けてあげられならよかったものを――」
「落ち着くあるよ。分かってると思うけど、ゴウトを無理して追う、よくないね。この哀れな連中を黙らせるが先ね」
「無理だな。私はこれから生まれてくるであろう『より素晴らしい作品』の完成に立ち会うという目標が出来た。義務といってもいい。失敗作にかかずらう位なら、より戦えるように手を加えてやるのが慈悲だろう」
 グリーフが知らず一歩前に進み出たのを、黒龍は制止するでもなく声をかけた。先陣を切る者を、後方で支援する彼が止める訳にはいかない。無感情なトーンに、しかし棘のある言葉を重ねたグリーフに対し、ゴウトはこれからくる歓喜を胸に笑みを浮かべた。
 そして、彼の手は流れるように腰に吊った壺……というよりは小瓶をイレギュラーズに向けて投げつける。偽命体と一同の間で爆ぜたそれから異臭が広がり、風とともに拡散させる。毒、しかもかなり強度の高い。
 獣人型はそれを飛び越え、あるいは突っ切って襲いかかってくる。武装歪人は様子を伺いつつ、といったところ……躊躇している余地は、どうやらもう無い。


「戦神が一騎、茶屋ヶ坂アキナ! 有象無象が赦しても、私の緋剣は赦しはしないわ!」
「名乗り上げか……鬱陶しいね。正面からの打ち合いがお望み、という訳か」
 秋奈の堂々たる名乗りに、ゴウトは呆れた様子で間合いに踏み込む。互いを間合いに捉えた状況で無視できようはずもなく、持ち上げた拳は秋奈の腹部に抉り込むように打ち込まれた。が、浅い。彼女の体捌きは、ゴウトの拳による衝撃を受け流してみせた。
「私が獣人を引き付けましょう。仮初の魂を持つ者を土に還すのは、私の役割かもしれませんから」
「全部は無理だろう、俺の方でも拾っていくぞ」
「助かります」
 グリーフと世界は互いに距離をとり、偽命体たちを引き付けにいく。先行して突っ込んできた獣人型はいきおい、グリーフに向かっていく。正面から次々と叩き込まれる爪牙は、並の威力では無いはずだ。それでも余裕を失わぬ立ち姿は、身に纏った魔術がゆえ。大槌を身に宿した個体や、大鋏を舌に備えた者らもグリーフを照準するが、そこは世界の術式が誘導を上書きする。あれらはきっと、グリーフに近づけてはならないものだ。
「勝手に作られて、あんな奴に引っ張ってこられたんじゃ浮かばれねえな」
「ニルは、躊躇しません。グリーフ様と世界様ばかりに負担をかけさせるわけにはいきません」
「二人に集中してないヤツがいたら、そいつらは自傷してればいいだけある。何もさせずに勝つ、これがヤツにとって一番の屈辱ね」
 義弘は世界にとりついた個体を薙ぎ払うように暴力を叩き込み、一網打尽にすべく立ち回る。ニルは打ち漏らしを一体ずつ狙って動きを鈍らせ、自由に立ち回ることを妨害、黒龍は正面に立った個体を狂気に引きずり込み、自傷による時間稼ぎを画策する。三者三様、確実に倒すための手段を積み上げる戦いぶりには只管に慈悲が垣間見える……死して終わらせるべし、という慈悲が。
「人間と武器の間の子、ね。利便性はどうか知らないけど、素材の味を完全に殺しているわ。美学というものがない。こんなものを連れて恥ずかしくないの?」
「一つの成功には幾百、幾万の失敗が積み重なるものだ。私の作品ではないからね、侮辱されても気にはならない……ならないが、君達がその『失敗作』に阻まれる様子は愉快かもしれないな」
 秋奈と正面から立会いつつ、ゴウトはノアから投げかけられた問いにくすりと笑って返す。秋奈が正面切って抑えている以上、範囲攻撃に優れた彼女がゴウトを狙う道理はない。抜けてきた一体ごと雷撃で押し返したノアは、身に受けた一撃の重みに小さく呻いた。雑魚は、雑魚なりに後退の選択を捨てた分厄介だ、と。
「ここまで密集してるなら、纏めて叩ける――」
 距離、密集状態、そして己の腕前。全ての要素が、クリムの一射が当たると告げていた――が、その予測は大きくはずれ、銃弾はあらぬ方へと飛んでいく。辛うじて当たった一発は、手隙の個体を彼女に向けることとなる。近づいてくるならば切り刻み、離れるなら蜂の巣にしてやる、と身構えた次の瞬間、異常なカーブを描いて魔力弾が向かってきた。カス当たりで済んだのは、幸運としかいえないキレだ。
「ちょいちょいちょい壺職人! ただ杖を体に仕込んだだけであんなのになるのズルくない?!」
「ああ、そうだな。『私が創った作品』ではないが、『私が弄った作品』はあったかもしれない。それか……さっきの毒に中てられたか」
 背後で起こった魔力光に視線をやり、秋奈は瞠目しつつゴウトを指弾した。だが彼は気にしたふうもなく肩をすくめる。牙をちらつかせつつ、しかし噛みつきにこないその姿に秋奈は焦れる思いを抱えつつ……しかし、攻撃は確実に彼女に届いていた。そう、その回避力すら貫く精度で届いていたのだ。『一輪の花を飾り付けた、赤い手で』。


「秋奈さん、無理があるならこっちでゴウトを引き付ける! あまり気負わないでくれよ……!」
「なーにこちとら高耐久がウリなのよ! 君達だけにいいカッコさせないぜー?」
 世界はゴウトの手、その赤く染まったさまに焦りを覚え、声を張る。自身も八方から打撃を受け、浅からぬ傷を負っているというのにそれだ。世界は自己評価を低めに見積もっているが、低いからこそより強い仲間を活かすことに死力を尽くす。そして彼の耐久力はどれだけ低く見積もっても、秋奈と同等。両者が無事である限りは、ゴウトが極端に自由に動くことはできまい。
「相手がたくさんたくさんなので、倒れないように……ゴウト様は無理に、追わないで……」
「ニルは秋奈を診てやってくれ。グリーフは余裕あったら近くのやつを癒やしてやってくれよ。……なあ黒龍、あとどれだけかかると思う?」
「義弘殿も意地悪言うね。あの不格好な連中だけならだいたいパターン覚えてきたところある。一分もらえるか」
「四十秒だな。次、秋奈の挑発が切れたらゴウトが突っ込んでくるぞ」
「……それなら、まー、八割ね」
 義弘は仲間達の状況を確認しつつ声を張る。おもわぬ形で水を向けられた黒龍は、少し考えてから応じた。無茶振りをされてもさくりと応じるそのやり取りは、打てば響くものを感じさせた。
「戦いを忌避してるのに激しく突っかかってくるアンバランスを崩すなら、時間は足りる。つくづく美的感覚がわからない連中ね」
「紅血晶に頼らないと壺を売れないようなヤツだよ。そんなのが上等なものを作れる筈がない」
 二人のやり取りを横に次々と雷撃を放つノアに、世界は猛攻を受け止めつつ不敵に笑う。見れば、彼を攻撃し続けた偽命体は明らかにその反動で損傷が増えており、しかも治癒術使いが欠けている。グリーフの側を見れば、あの猛攻の中で身動ぎひとつせぬまま攻撃を受け止め、そのまま治癒にリソースを割り振る余裕すらある。
 ――このままなら、黒龍の宣言も現実味を帯びてくる。
「まったく、甘くみられたものだ。けれど、余り長居するのも些か厄介そうだね」
「クソガキが。おイタはそこまでにしてとっとと帰れ」
「この少女が私を帰す気が薄くてね。そんなボロボロのなりで強い言葉を使って、無理はしていないかい?」
 ゴウトの軽口に敵意を向けるクリムであったが、治癒をうけてなお十全ではなかった。彼が逃げるならよし、向かってくるなら腹をくくるほかはない。秋奈への牙を警戒していたが、この距離で止められるかは……正直微妙か。
「逃げるなら追わないあるよ、再見、ゴウト。因果が巡り合えばまた相見えよう」
「えー、逃がすの? ちょっとくらい囲んで叩かないで?」
「状況がそれを許さないと思いますよ、残念ながら」
 黒龍の言葉に抗議を挟む秋奈だったが、グリーフは冷静に周囲を確認する。使い魔越しに俯瞰して、少しでもゴウトが妨害に回ればかなり手詰まりが生まれた可能性も否めない。いま彼を敢えて見逃すのも、道と判断したのだ。
「でも、偽命体のみなさまは倒しきります。その上で、弔ってあげます」
「人として、『失敗作があった意味』をここに刻む。最高の嫌味でしょう?」
「……つくづく、君達とは相容れないね」
 ニルとノアの言葉を聞いたゴウトは、心底不快そうに両者を一瞥し、自由になった意思と身でもって転移陣の向こうへと消えた。
 一同は頷き、残された者達を蹴散らしにかかる。もう、殺すことでしか救えない命を。

「……ところでこの花、壺職人とは違くない?」
 その後、秋奈は足元に転がった花をつまみ、『二種類』あることに気付くのだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

クリム・T・マスクヴェール(p3p001831)[重傷]
血吸い蜥蜴

あとがき

 大変遅くなり申し訳有りません。ひとまず撃退成功です。
 惹きつけていた相手が相手であれば、ゴウトが自由であれば、あるいはかなりギリギリの戦いだった……かもしれません。


※ 茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)さんは『烙印』状態となりました。(ステータスシートの反映には別途行われます)
※特殊判定『烙印』
 時間経過によって何らかの状態変化に移行する事が見込まれるキャラクター状態です。
 現時点で判明しているのは、
 ・傷口から溢れる血は花弁に変化している
 ・涙は水晶に変化する
 ・吸血衝動を有する
 ・身体のどこかに薔薇などの花の烙印が浮かび上がる。
 またこの状態は徐々に顕現または強くなる事が推測されています。

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