PandoraPartyProject

シナリオ詳細

マンドラゴラ、逃げる。或いは、元気がいいのは良いことです…。

完了

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●『ンマ””ア”ア”ア”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”!』
 幻想の空に絶叫が響く。
 高く、遠く、絶叫はいつまでも鳴りやまない。

「あぁ、待って! 怖く無いの! 何も怖いことなんて無いのよ!」
 ところは幻想、とある辺境の農地である。
 広い草原の真ん中にある粗末な小屋から、若い女性が飛び出して来た。
 女性は必死に声を張り上げてみるものの、絶叫は一向に鳴りやまない。
『ンマ””ア”ア”ア”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”!』
『イ”ヤ”ア”ア”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ!』
『マ””ア”ア”ア”ァ”!』
『ズ”ィ”ィ”ィ”ィ”ィ”!』
 絶叫は連鎖する。
 畑の土をばら撒きながら、次々と土中から飛び出して来たのは体長30センチほどの人に良く似た根菜だ。名をマンドラゴラという“動いて、叫ぶ野菜”である。
 冬の間、マンドラゴラは土中や屋内などの温かい場所で、大人しくして春が来るのを待っているのが常である。だが、どうにも今回、マンドラゴラは何かの理由で畑の中から飛び出した。
「あぁ、待って! マンドラゴラちゃんたち! 畑から出て行っては駄目よ! お外に出ては危ないの!」
 マンドラゴラは3つのグループに分かれ、別々の方向へ駆け去って行く。農場の主である女性……名をミントという……は、必死にマンドラゴラの後を追いかけるが、どうにも追いつける風ではなかった。
「あぁ、行ってしまった……どうしましょう。きっと新しい肥料がお口に合わなかったのね」
 マンドラゴラには悪いことをしてしまった。
 地面に倒れ込むようにして、項垂れているミントの肩を「ポン」と誰かが叩く。
 否、誰かではない。
 それは、ミントの家で長く一緒に暮らしている、体長1メートルはあろう巨大マンドラゴラだった。
『ァ”ァ”ァ!』
「そうね。落ち込んでいる暇は無いわ……一刻も早くマンドラゴラちゃんたちを見つけてあげなくっちゃ。きっと怖い思いをしているはずだもの」
 これは若き農場主と、無垢なるマンドラゴラたちの、ある冬の日の記録である。

GMコメント

●ミッション
逃げ出したマンドラゴラの捕獲

●ターゲット
・マンドラゴラ×20
人に似た姿をしている植物。
全体の形としては、人参か大根に近い。
サイズはおよそ30センチほどと、まだ幼い個体ばかりが逃げ出したようだ。
どうやら畑にまかれた肥料の味が気に入らなかったらしい。
幼い個体のため、絶叫を至近距離で聴いても目を回す程度で済むだろう。
現在は6~8体ずつのグループに分かれ、草原の各地を疾走している。
※人に慣れていない個体のため、警戒心が強めです。

●NPC
・ミント
マンドラゴラを愛する女性。
辺境の地で農場を建てて、日夜マンドラゴラの世話に精を出している。
“マンドラゴラ・エナジー”というマンドラゴラを原材料とした炭酸系エナジードリンクの製造、販売を行っており、ミントの農場では卸値で購入できる。

・老マンドラゴラ
体長1メートルほどの巨大マンドラゴラで、ミントのアシスタント役を務める。
『ァ”ァ”ァ!』と掠れた声で叫ぶ。
今回は、新肥料の調合やマンドラゴラの捜索を手伝ってくれるようだ。


動機
 当シナリオにおけるキャラクターの動機や意気込みを、以下のうち近いものからお選び下さい。

【1】“マンドラゴラ・エナジー”を買いに来た
一部界隈で話題沸騰中の栄養ドリンク“マンドラゴラ・エナジー”を買いに来たところ、今回の騒動に巻き込まれました。

【2】悲鳴を聞いて駆け付けた
『ンマ””ア”ア”ア”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”!』という絶叫を聞いて駆け付けたところ、項垂れているミントを発見しました。

【3】何かに呼ばれた
何かに呼ばれたような気がして、草原に足を運びました。何に呼ばれたかは不明ですが、老マンドラゴラがじっとあなたを見つめています。


マンドラゴラ農場での行動
ミントの頼みを引き受けることにしました。どのような方針で、彼女の手伝いをするかは皆さんに判断に任されています。

【1】誰かと一緒にマンドラゴラを捜索する
老マンドラゴラや、他の参加者と共にマンドラゴラの捜索に当たります。

【2】1人でマンドラゴラを捜索する
基本的には単独行動を取ります。マンドラゴラの発見、捕獲に際して他の参加者と連携を取る場合もあります。

【3】ミントの手伝いをする
ミントと共に荒れた畑の整備や、新肥料の調合などを行います。畑仕事は大変ですが、立派なマンドラゴラを育成するためには細かな手入れが欠かせません。

  • マンドラゴラ、逃げる。或いは、元気がいいのは良いことです…。完了
  • GM名病み月
  • 種別 通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年03月11日 22時05分
  • 参加人数6/6人
  • 相談0日
  • 参加費100RC

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(6人)

メイメイ・ルー(p3p004460)
約束の力
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
ココロの大好きな人
ハンナ・シャロン(p3p007137)
風のテルメンディル
襞々 もつ(p3p007352)
ザクロ
ルーキス・ファウン(p3p008870)
蒼光双閃
シャーラッシュ=ホー(p3p009832)
納骨堂の神

リプレイ

●『ンマ””ア”ア”ア”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”!』
 草原の真ん中に『同一奇譚』襞々 もつ(p3p007352)が倒れていた。
「……きゅう」
 白目を剥いて、口の端から泡を零して気絶しているのだ。
「な……なんてことなのだわ」
「惨い……少し離れていた間に、こんなことになるなんて」
 『蒼剣の秘書』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)と『風のテルメンディル』ハンナ・シャロン(p3p007137)は目を見開いて、口を手で覆っていた。
「ですが、この様子だとまだ近くにいるはずです。マンドラゴラを探しましょう」
 誰より先に気を取り直したのは『散華閃刀』ルーキス・ファウン(p3p008870)だ。もつの傍にしゃがみ込み、数秒ほどの黙祷を捧げた。
 そうして唇を噛み締めると、無言のままにその場を立ち去っていく。
 ルーキスの後に、華蓮とハンナも続いた。もつの体は草原の真ん中に置いていくが、想いだけは連れていく。
「……亡くなったのですか?」
「亡くなってないですね。でも、頭の奥でぐわんぐわん音が鳴ってるんで、もう暫く立てなさそうです」
 最後に残った『納骨堂の神』シャーラッシュ=ホー(p3p009832)が、もつへと問うた。もつは白目を剥いたまま、囁くように答えを返す。

 時刻は1時間ほど前まで遡る。
「めぇ……す、すごい声が……」
『ちいさな決意』メイメイ・ルー(p3p004460)が農場へ駆けつけたのは、遥か遠くまで響き渡った大絶叫を耳にしたからだ。
 そうして辿り着いた先で、メイメイはミントと出逢った。
「あぁ、どなたかしら? もしかして悲鳴を聞いて来たの? ごめんなさいね。私が、マンドラゴラちゃんたちに嫌なことをしてしまったから」
 憂いた表情を浮かべ、ミントはがくりと肩を落とした。そんなミントのすぐ隣には、体長1メートルほどの老マンドラゴラが付いており、慰めるようにミントの背中を撫でている。
「なるほど、マンドラゴラさん達、の」
 項垂れるミント。慰める老マンドラゴラ。空っぽになった畑と、掘り返された土の山。
 ミントの話を詳しく聞けば、畑で栽培していた幼いマンドラゴラの一部が逃げてしまったらしい。そうして逃げたマンドラゴラの身を案じて、ミントは哀しい思いをしているのであろう。
「わ、わたしも、手伝う、よ」
 目の前で哀しい思いをしている人がいるのなら、憂いを払う手伝いがしたい。そう考えて、ミントは手伝いを申し出た。
 と、その時だ。
『ン“マ”ア“ァ”ァ“』
 掠れた声で老マンドラゴラが叫ぶ。
 老マンドラゴラの視線の先には2つの人影。
「ひょっとして、あなたが?」
「そのようですね。なんとも奇妙な話ですが」
 ハンナとホーが老マンドラゴラを見つめている。
 老マンドラゴラが、ハンナとホーを見つめている。
 誰も言葉を発しない、静かな時間が暫く流れた。
 それから、やがて……。
「では、行きましょう。やるべきことが明らかなら、じっとしているのはもったいないもの」
「えぇ、そうですね。人やマンドラゴラにとって、時間というのはとても大事なものらしいですから」
 ハンナとホーと老マンドラゴラは、肩を並べてどこかへ向かって歩き去って行ったのだった。

 老マンドラゴラたちがその場を立ち去ってから暫く。
 土と肥料を混ぜ合わせていたメイメイとミントのもとへ、新たに3人が現れる。彼らの手には1枚のチラシ。
「あら、お客さんかしら?」
「めぇ……皆さまも、悲鳴を聞いてきた、の?」
 新たにやって来た3人は、ルーキスと華蓮、そしてもつだ。メイメイの言葉を聞いたルーキスが、目を丸くして首を傾げる。
「悲鳴? 何のことです?」
「ここに元気になる飲み物があるって聞いて、買いに来たのだわ!」
 華蓮の言う飲み物とは、ミントのマンドラゴラ農場の主力商品“マンドラゴラ・エナジー”である。「マンドラゴラも叫び出す」のキャッチコピーで絶賛売り出し中の栄養ドリンクなのだが、一部の界隈では有名だ。
 1本飲めば24時間戦える。
 マンドラゴラ・エナジーを愛飲する者が遺した言葉だ。つまり、飲みすぎは禁物ということである。栄養ドリンク、と耳障りの良い呼び方をするが、その実態は元気の前借り。そして、借りたのならば、返さなければいけないのが世の常である。
 では、借りた元気の場合はどうか? 決まっている、返すのだ。未来の自分が。
 試しに華蓮も1本飲んだが、確かに頭がシャキッと冴えた。
 と、マンドラゴラ・エナジーについての説明はそれぐらいにしておこう。
 マンドラゴラ・エナジーを買いに来たルーキスたち3人は、メイメイとミントから逃げたマンドラゴラたちの話を聞いた。
 困っている、と。
 悲しい思いをしている、と。
 ミントのそんな話を聞いて、黙っていられる3人では無かった。
「マンドラゴラ!!! それはつまりお肉と謂うワケです! おまかせください!」
 真っ先に協力を申し出たのはもつだった。
 ルーキスや華蓮も、もつに同意する。
「私がしっかりと皆さんを土に戻してあげます」
 誰にも聞こえないように、もつはそんなことを言っていたけれど。

●マンドラゴラ、走る
 マンドラゴラの捜索を開始してからおよそ1時間。
 広大な草原を歩き回った一行は、マンドラゴラの走り回った痕跡を発見していた。どうやらマンドラゴラは近くにいるらしい。だが、広大な草原を見回してみても、それらしい影は見当たらない。
「さて、そうは言ってもいないはずは無いんですよね」
 マンドラゴラの足跡があった位置を中心として、メイメイを除く5人は散開して捜索にあたっている。聞けばマンドラゴラの体長は30センチほどと小さい。脚の長さを考えても、そう遠くまでは逃げていないはずである。
 草の根元に隠れているのではないか。そう考えたもつが地面にしゃがみ込む。そうすると一気に視界が草に遮られて通らなくなった。
 この辺りの草は存外に背が高い。
「あぁ」
 にぃ、ともつが口角をあげた。
 草と草の間に、マンドラゴラの影が見えたのだ。
 視線に気が付いたのか、マンドラゴラがもつの方を振り返る。
『ァ“ァ“ァ“ァ“ァ“ァ“ア“!』
 見つかった! とでも言うかのようにマンドラゴラが大きく口を開く。
 もつは両手を前に伸ばして、敵意の無いことを示した。
「怖くないですよ」
『ァ“ァ“ァ“ァ“?』
 本当に怖く無いのだろうか?
 幼いマンドラゴラは人に慣れていない。その者が悪人なのか善人なのか。自分にとっての敵か味方か。そんなことも分からない。
 それどころか、まだ人の言葉さえ十全には理解できていないのだ。
「柔らかくなりたい子から私の傍に来てくださいね!!!」
『ナ“ァ“ァ“?』
 おそるおそる、と言った様子でマンドラゴラがもつの方へと近づいて来る。
 1匹、2匹、3匹と草の影から次々と小さなマンドラゴラが現れた。
 じりじりと距離を詰めて来る。もつは両手を大きく広げて、マンドラゴラを迎え入れる。
 1歩ずつ、けれど確実に、マンドラゴラとの距離が詰まる。
 そうして、手を伸ばせば指が届きそうなほどに互いの距離が近づき……。
『エ“ン”タ“ァ“ァ“ァ“ァ“ァ“ァ“ア“ィ”ヤ“ァ“ァ“ァ“ァ“!』
 何を想ったのだろう。
 突如としてマンドラゴラが両手を左右へ大きく広げて絶叫した。
「み。っ」
 まるで音の津波である。
 至近距離で絶叫を聞いたもつが、白目を剥いて泡を吹く。
 ゆらり、と糸の切れた人形みたいに上体が揺れて、もつは大地に転がった。
 
 かくして、物語は冒頭へと戻る。
 捜査を続けていたルーキスが、どことなく薬草のような甘い香りを嗅ぎつけた。
「この辺りに……っ!?」
 がさ、とルーキスの正面で草が揺れた。
 警戒心も顕わに、ルーキスは腰を落とす。一瞬、腰の刀へ手を伸ばしかけてやめた。刀を抜けば、マンドラゴラに恐怖心を与えかねないからだ。
 だからルーキスは中腰のまま、両手を前へと突き出す。
 同時に、草の中からマンドラゴラが飛び出した。その数は3体。一定の距離を取って、じりじりとルーキスとの距離を詰めて来る。
「ステイ! ステイ、ステイ!」
『キ“ィ”ア“ァ”ァ“!』
『マ””ア”ア”ア”ァ”!』
『シ“ュ”ラ“ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”!』
 マンドラゴラに、ルーキスの言葉は通じていない。
「他にも近くに3体……対話は難しそうか。連れ戻すには仲間の説得が必要なのだろうが」
 悲しいかな、老マンドラゴラとは別行動中だ。
 近い位置にはいるはずだが……この騒ぎに気付いて駆け付けて来てくれればいいのだが。

 マンドラゴラに囲まれているルーキスを、空から見下ろす者がいた。
 それは数羽の鳥たちだ。
 ガラス玉のような目で地上を見下ろしていた鳥たちが、一斉に鳴き声をあげる。
 使役主である華蓮へと、マンドラゴラの出現を知らせるためである。

「待ってください! その人はあなたたちの敵ではありません!」
 それからしばらく、対峙し睨み合っているマンドラゴラとルーキスの間に、鳥に連れられたハンナがやって来た。
『ァ”ァ”ァ”?』
『ナ“カ”マ“ァ”ァ”ァ”?』
「……いえ、仲間でもありませんが」
 曖昧ながら、ハンナはマンドラゴラたちと言葉を交わせているようだ。
 マンドラゴラの警戒が和らぐ。
 だが、決め手が足りない。ハンナもルーキスも、マンドラゴラにとっては初めて見る人間だ。
 土が合わず畑から逃げ出したとはいえ、マンドラゴラたちはミントの言葉をよく覚えている。
『人間はいい人ばかりじゃありません。悪い人もいるから、気を付けないと駄目ですよ』
 悪い大人に騙されないための知恵は必要だ。例え人であっても、マンドラゴラであっても。悪い奴というのは、こちらの事情など一切考慮してくれないのだ。
「くっ……ミントさんの教育の賜物か。どうします?」
 ルーキスが、マンドラゴラを刺激しないようゆっくりと額の汗を拭う。
 マンドラゴラは口を大きく開いたままだ。いざとなればすぐにでも絶叫出来る状態である。加えて、草むらの中には残る3体のマンドラゴラが伏兵として控えている。
「……意思は通じているのですから。後は誠心誠意、説得をするのが一番かと」
 ここは私に任せてくれ、と。
 ハンナは地面に膝を突き、そっと手を前へ差し伸べた。
 敵意は無い。
 あなた達に害を加えるつもりは無い。
 ミントに頼まれて、あなた達を迎えに来たのだ。
 そんな意思を何度も伝える。
 やがて、1体のマンドラゴラがハンナの方へ歩み寄って来た。そうして、おそるおそるといった様子で、手を前へ伸ばす。
 マンドラゴラに指先は無い。
 ハンナはそっと人差し指を突き出した。
 つん、とハンナの人差し指とマンドラゴラの手の先が触れる。
『イ“ィ”ィ“テ”ィ“ィ”ィ“ィ”ィ“ィ”ィ“!』
 どうやら、ハンナとマンドラゴラたちの心は通じ合ったらしい。

 同時刻。
 陽だまりの中で、華蓮は静かに微睡んでいた。
 華蓮の周りにはマンドラゴラたちが集まっている。
『マ”マ”ア”ア”ア”ァ”ァ”……』
 ママではないが。
 マンドラゴラたちは、華蓮の母性に惹かれて集まって来たらしい。
 暫くの間は警戒を続けていたようだが、それも長くは続かなかった。一緒に行動していたハンナが、ルーキスの補助へ向かった直後、1匹、2匹と近づいてきて今に至るのである。
 口を開けば絶叫しているマンドラゴラだが、眠っているうちは大して煩くもない。
 まるで何かの絵画みたいな光景だ。
 タイトルを付けるのなら「陽だまりのマンドラゴラ」といったところか。
「今なら狩るのも簡単そうですね」
 気持ちよさそうに眠る華蓮とマンドラゴラたちを眺めつつ、もつはそんなことを呟いた。
 それからもつは腰をかがめて、足音を立てないようにしながら少しずつ華蓮の方へ近づいていく。

『マ””ア”ア”ア”ァ”……』
『ズ”ィ”ィ”ィ”ィ”ィ”……』
 数匹のマンドラゴラたちが、土を掘り返して食べていた。
 器用に手で掴んだ土塊を口に運んで、もぐもぐと咀嚼する。
 しかし、数回ほど噛んだところで眉間に皺を寄せたマンドラゴラたちは、土の塊をぺっと吐き捨てた。
 どうやら土の味が口に合わなかったようだ。
 と、その直後。
「こらこら。食べ物の好き嫌いが多い子は、人間関係でも好き嫌いが激しい子に育ってしまいますよ」
 マンドラゴラの後頭部をホーが掴んだ。
『エ”マ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”!』
『シ”ェ”ン”!?』
 マンドラゴラは叫ぶ。だが、しかしホーに口を押さえこまれて、強制的に黙らされた。
 多少なり絶叫を聞いてしまった影響で、ホーの耳からは血が流れている。けれど、ホーの顔色はいつも通りのままだった。痛みなど感じていないのか、それとも表情が変わりづらい性質なのか。
「さあ、子供達。良い子ですから、おじさん達と一緒にマンドラゴラ農場に帰りましょうね」
 1匹、2匹と捕まえては蔦で縛って、容易していた籠へと放り込んで行く。
 強制的に回収されるマンドラゴラを、老マンドラゴラは哀愁と憐憫の入り混じった目で見つめている。
『ァ“ァ”ァ“』
 老マンドラゴラが鳴いた。
 きっと「お前たちが悪いんだ」とか、そんなことを言っている。

●マンドラゴラの冒険、終わり
 まるで畑に雪が降り積もったみたいだ。
 メイメイが畑に撒いたのは、植物の成長を促すという不思議な灰だ。
 それがよほどに美味しそうに見えたのだろう。
『ァ”ァ”ァ”?』
『ン“ア”ァ”ァ”ァ”?』
 他の畑から、マンドラゴラたちが次々と顔を覗かせた。気づけば、メイメイの周りはマンドラゴラにすっかり囲まれている。
 その様はまるでマンドラゴラの女王のようだ。
「 “その者、灰色の灰をまといて濃緑の野に降り立つべし。失われしマンドラゴラとの絆を結び、人々を健康な暮らしへ導かん”……古き言い伝えは本当だったんですね」
 古い言い伝えだ。
 かつては『月刊“ヌー”』というオカルト雑誌にも特集が組まれたほどに有名だったが、今となってはその言い伝えを知る者は少ない。
 だが、言い伝えは本当だったとミントは確信していた。
 マンドラゴラたちと友愛を結び、共に畑の土を耕すメイメイの姿はまさに言い伝えのそれではないか。背に夕暮れの太陽を背負い、光り輝くメイメイの姿を見て、ミントは思わず涙した。
「あぁ、マンドラゴラちゃんたちの未来は明るいわ。いつか……いつかこの地上が、マンドラゴラでいっぱいになる日がくればいいのに」
 泣いて、笑って、地面に膝を突いて祈りを捧げるミントへゆっくりとメイメイが近づいて来る。
 背に太陽の光を背負い、マンドラゴラを引き連れたその姿は、まさにマンドラゴラ神の使いのようだ。
「どうぞ、ご神託を」
「めぇ……畑を耕し終わったん、ですが……次はどうすれ、ば?」
 指示を仰ぎに来ただけだ。
 なにしろメイメイはマンドラゴラ栽培初心者なので、勝手なことは出来ないのである。何かをする時は、その道に詳しい人の指示を仰ぐのが鉄則である。
 それが気づけば祈りを捧げられているのだ。
 困っちゃっても仕方ないのである。

 かくして、マンドラゴラ農場の慌ただしい1日が終わりを迎えた。
『マ“マ”ア”ア”ア”ァ”ァ”ァ”ァ”!』
『マ“ァ”マ”ア”ア”ア”!』
 涙を流し、別れを惜しむマンドラゴラたちへ向かって華蓮は手を振り返した。
 目の端に涙が滲んでいる。
 だが、泣いてはいけない。
 さよならにほんの少しの涙さえもあってはいけない。
「皆! 元気でね! ミントさんの言うことをちゃんと聞くのだわ! いつか……いつか、また会いましょう!」
 だから、きっと。
 ほんの一滴、地面に零れた奇麗な雫は“雨粒”だろう。
「……雨が降ってきましたね」
 そっと華蓮から目を逸らし、空を見上げてホーは言う。
 雨雲なんて、どこにもないけど。
 空には奇麗な星の海が広がっている。
 

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様です。
逃げ出したマンドラゴラたちは無事に回収されました。
ミントも喜んでいます。
マンドラゴラたちはきっと大きく成長すると思います。

この度はご参加、ありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。

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