シナリオ詳細
<蠢く蠍>散毒の蠍姫
オープニング
●女幹部
幻想東部を根城にする盗賊団アルト・フライヤーの根城は混乱の直中にあった。
突然現れた侵入者達。
怒号と剣戟の音が広がる中、迎撃にでた部下達が尋常ならざる傷を負って這い戻ってくる。
頭領であるアルト・クラーデンは部下達からの報告に頭を抱えた。
――新生・砂蠍――。
盗賊をやっていて、今やその名を知らぬ者はいないだろう。
ラサの大盗賊キング・スコルピオ率いる大盗賊団の名だ。
自分などとは器が違う。とても敵わない大悪党。それがなぜ、ここに……。
「た、助けてくれぇぇ……」
一人の部下が大広間へと戻ってくると同時、乱暴に扉が破壊された。十数名の如何にもな盗賊達がなだれ込んでくる。
覚悟を決めるしかないのか。冷や汗を垂らすアルト・クラーデンは腰に携えた得物を振り抜いた。
そのとき、現れた盗賊達の奥から、一人の場違いな女が歩み寄ってきた。
長い黒髪を靡かせて、豊満な胸を揺らす。スリットの入った東洋めいたドレスから、目を見張る程の肉感的な長い足を覗かせる。妖艶な肢体を見せつけるような姿に、思わず目を見張ってしまう。
女は顔を歪ませながら室内を見渡して、吐き捨てるように言った。
「埃っぽいところだねぇ……居るだけで吐き気がしそうだわ」
「な、なんなんだてめぇは!」
内心の動揺を隠しながらアルトが叫ぶ。そんなアルトを扇で口元を隠す女が睨めつける。射殺すかのようなその瞳にアルトは心臓が掴まれる思いだった。
「部下から聞いてないのかねぇ?
新生・砂蠍、キングより部下を預かるのが私、『蠍姫』のスキラ・スロースさ」
「キ、キング……やはり、本当に――!」
「喜びな、アンタとアンタの部下達は私の、キングのお眼鏡に適ったのさ。
アンタ達も今日から新生・砂蠍の一員さ!」
女――スキラの言葉に、しかしアルトは動揺を隠せない。そんな上手い話があるのか? 盗賊としての用心深さが、アルトを踏みとどまらせていた。
「こ、断ったらどう――」
どうなる? 言葉を言いきるより早く、スキラの扇が動いた。腕に針が刺さり痛みが走ると同時、身体が動かなくなる。そこに、スキラが尋常ならざる速度で走り込んできてアルトの顎を蹴り上げた。
悶絶して倒れるアルトの頭を踏みつけるスキラが顔を歪ませ叫んだ。
「死ぬに決まってるだろぉ? 今すぐ死ぬか、キングの為に働くか、選びなよ!?」
圧倒的な威圧感と、自らの死が差し迫った状況に、頭領としてのプライドはなかった。
アルトは二つ返事で頷くと、新生・砂蠍の傘下に入ることを決めた。
「ふふ、良い子だ。
アンタ達は私の部下になるからねぇ。しっかり働けば良い目を見せてあげるよぉ」
アルトの顔を踏みつけるスキラは、そうして広間に響く大きな声で笑いを上げるのだった――。
●
ローレットに足を運んだイレギュラーズに『黒耀の夢』リリィ=クロハネ(p3n000023)が話を持ちかけた。
「ラサから落ち延びてきた『砂蠍』が本格的に動きを始めているようね」
これまでもそういった傾向はあったが、いよいよ幻想の盗賊達も彼(キング・スコルピオ)の傘下へと収まりつつあるようで、戦力は巨大化しているということだった。
「拡大スピードが異常だわ。金で傭兵を雇っているという話もあるの。どこからそんな資金があるのかしらね」
そんな『砂蠍』の今のターゲットは地方の村や街が中心であるという。幻想の貴族や権威主義が常に中央重視なのを逆手に取った動きと見られている。
「そんな中で今回はある盗賊団の根城に先手を打って欲しいの。
盗賊団アルト・フライヤー。
幻想東部では有名な盗賊団だったのだけれど、それが『新生・砂蠍』の傘下に入ったという情報を得たわ」
続々と拡大する勢力、その瞬間を押さえることができそうなのだ。先制攻撃で潰すことができれば、小さいが拡大を潰すことができるかもしれない。
「アルト・フライヤーには彼らを傘下に入れた砂蠍の幹部がいるようなの。
『蠍姫』スキラ・スロース。女だてらに砂蠍の幹部になった人物よ。妖艶な美女らしいけれど、恐怖や暴力で相手を陥れるのが得意なようね。毒の扱いにも長けてるらしいわ」
いまアルト・フライヤーの根城には、スキラとその直轄の部下十名、そしてアルト・フライヤーの盗賊達が十五名いるとの情報を得ている。
相手がまとまりきらないうちに叩ければ、戦果をあげることができるかもしれない。
「敵は戦闘経験も豊富な狡猾な奴らよ。数も多いから、大変だと思うけど、どうか無事に帰ってきて頂戴。それじゃ、よろしくね」
依頼書を渡したリリィは、そう言って席を立つと入れ替わるようにレオンが近づいてきて言った。
「火事場泥棒より堂々と姿を見せてきたって事は『何か』があるかもな。
ラサの『赤犬』が詫びてきたぜ。
面倒をかけるが宜しく、だとさ。まぁ、ウチは仕事をするだけだが――
くれぐれも油断はするなよ。あの蠍はディルクが討ち漏らしたような野郎だぜ。
きな臭い予感もするしな、オマエ達も気をつけろ」
ギルドマスター直々の言葉に気を引き締めると、イレギュラーズは依頼書片手に席を立つのだった――。
- <蠢く蠍>散毒の蠍姫完了
- GM名澤見夜行
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年10月01日 21時55分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●待ち受ける者
幻想東部に広がる鬱蒼とした森の中にその廃屋敷はあった。
盗賊団アルト・フライヤーの元根城にして、今は『蠍姫』率いる新生・砂蠍の拠点である。
依頼を受けたイレギュラーズは、油断なく辺りを観察しながら、屋敷の入口へと向かう。
「見張りが居ない……なんて、どういう心算なのやら」
『終焉語り』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)がぼそりと呟く。言葉通り廃屋敷周りには見張りがおらず、まるで警戒している様子がない。
それが逆に不気味さを持たせるが、本当に警戒が緩いのであれば、自分達の存在を嗅ぎ付けられるとは思っていない可能性が高いのではと、リースリットは思う。
「まあ、襲撃しやすいのは結構なことです」
「まあな。しかし暫く大人しくしてやがったと思ったが、ついに動きだしたか蠍共」
リースリットに相づちを打つ『黒キ幻影』シュバルツ=リッケンハルト(p3p000837)。
狡猾なキング・スコルピオのことだ。きっと何か思惑があるに違いないと思った。
「しかも今回の相手は女幹部と来た、一体どんな奴がのし上がったんだろうな。興味が湧くぜ」
シュバルツの言葉に『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)は微笑み長頷く。
「蠍姫ですか。こんな事案でも無ければ、商談のご提案に伺うところなのですが」
寛治の脳裏にはそれはそれは肌色な景色が広がっているが、友好的な間柄であったとしても中々に難しい提案だろう。
もしそれを可能とするのであれば、それは『ファンドマネージャ』として寛治が優秀であることの証左に他ならないが。
――ああ、でも、と寛治は戦闘前にいらぬ思考(妄想)を振り払うように頭を振り。
「この仕事をこなして、リリィ様の歓心を買った方が将来性のある投資ですね」
と、笑った。
「蠍の姫か。
盗賊同士の小競り合いならどうでも良いが――」
『バトロワ管理委員会』ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)は懐から薬瓶を取り出し、仲間へと渡す。抗毒剤だ。
服用を勧めながら思うことは、折角の実験場所を無用に荒らされるのは面白くないということだ。
ああ、でも――彼の蠍が何を考え、企んでいるか。ラルフの興味はそこへと向けられた。
「闇に潜んでいたかと思えば、再び姿を現してきたというのならば、今一度叩くしかあるまいな」
ラサ出身の傭兵である『砂狼の傭兵』ラノール・メルカノワ(p3p000045)はやはりラサで大きくなった砂蠍とは縁が深い。
一度は崩壊しかけた大盗賊団が、今一度再興するというのであれば、その蠍の尻尾、切り落として見せようと、意気込む。
そんなラノールを心配するのは『生誕の刻天使』リジア(p3p002864)だ。
「ラノール……お前が倒れるのは、困る。
……私は困らないが、夜鷹が困る故に」
それはラノールと恋仲にある者の名だ。リジアのその言葉にラノールは目を細め「ああ、そうだな」とその心配を受け入れる。
「手は貸す……壊れてくれるなよ」
言葉数少なげにぶっきらぼうに言うリジアだが、心配性気質な面が大きく見える。リジアとの付き合いが深ければ、それはよく見えるものだろう。
「まあ心配ないわよ。
蠍というより蚊の類いだし、これまで通り潰せばいいのよ!」
快活に笑う『芋掘りマスター』六車・焔珠(p3p002320)だが、決して油断しているわけではなく、その瞳はすでにこれから起こる戦いに向いている。
突如活発に活動を始めた砂蠍を怪しみつつも、その全てを叩き潰せばよいと、単純自明な解を導き出していた。
「動きがない。
警戒している様子もないのが、逆に怪しいが――」
聞き耳を立てて中の様子を窺っていた『尾花栗毛』ラダ・ジグリ(p3p000271)が口を開く。
すでに室内での戦闘に適するように、変化によって馬の足を隠し人の形を取っていた。
注意深く、中の様子を伺うが、いまこの入口からわかることはもうないだろう。
「なら、警戒しつつ、正面から行こうじゃねえか」
黒塗りのナイフを手に取りつつ、正面扉を開けて進むシュバルツ。警戒は厳に。トラップの類いに注意しながら、崩れかけた広い廊下を進む。
「まるでお化け屋敷ですね。
こんな所を根城にするなんて、盗賊団というのはそう言うものなのでしょうか」
「中には小さな洞窟を根城にする輩もいるからな。
廃屋敷とはいえ、雨風しのげるならマシというところだね」
リースリットの感想にラルフが肩を竦めながら答える。どちらにしてもあまり衛生的とは言えないだろう。
「破壊のあとか……。比較的新しいものだな」
リジアの観察眼は、特に破壊に類するものには敏感で、そのボロボロの廊下に広がる幾つもの破壊――武器による傷痕を見逃さなかった。
「ここを根城にしていたというアルト・フライヤーと、蠍姫率いる新生・砂蠍との戦いの傷痕でしょう。
と、すればそろそろ――」
寛治が奥へと視線を向ける。
「――衣擦れの音に金属音……どうやらお待ちかねのようだね」
聞き耳を立てていたラダが、人の存在を感知する。すでに襲撃されることを察知していたのだろうか、目標の連中は準備を整え待ち構えているようだった。
「ここで退く手はないわね。
いいわ、正面から行ってやろうじゃない」
焔珠が武器を構え一歩出る。
「なら、後は作戦通りに……だな」
ラノールも巨大な黒鉄のマトックを手に焔珠に続く。
警戒は続けている。
いつ、どんな奇襲が行われても対応できるように、各人が用心しながらその扉へと手を掛けた。
重く軋む音を立てながら、ゆっくりと扉を開くと、そこには『蠍姫』スキラ・スロースを中心に総勢二十五名の盗賊達が待ち構えていた。
「派手にやったからねぇ、騎士や警備兵の襲撃はあると予想していたけれど……少人数の精鋭――噂の特異運命座標ってやつかい?」
盗賊達の中心でイスに座りこれ見よがしに足を組んだ蠍姫がくくっと笑う。倣うように蠍姫の周囲に並ぶ、厳つい顔をした盗賊達が笑った。
「そう言う貴方は『蠍姫』スキラ・スロース様でお間違いないでしょうか?
私、『ファンドマネージャ』新田寛治と申します。どうぞお見知りおきを」
「ははっ、ビジネスマンってやつかい?
それで、そのビジネスマンとお仲間はどんな用件で来たんだい?」
「なに、砂に隠れていた蠍が表に出てきたっていうからな。
毒尾に刺される前に、ぶっ潰しに来たってわけだ」
シュバルツの敵意込めた言葉にも『蠍姫』は面白そうに含み笑いを零す。
「世界を救うって嘯いてる連中が、盗賊退治とはねぇ。
そんなことしてて本当に世界を救えるのかい? くくくっ……」
「そう言われると、なんとも返答しようがないが。
まあこれも必要なことなんでね――大人しく潰れて貰おうか」
「ふーん、まあいいさ。
正々堂々なんてのはガラじゃないけどね、丁度暇を持てあましてた所だ。相手してあげるよ」
蠍姫が腰を上げ立ち上げると手にした扇を広げ号令する。
「アンタ達、手ぇ抜いたら承知しないよ!
一人倒すごとにご褒美だ。踏まれたい奴は精々気張るんだねぇ!」
スリットからその長くしなやかな足を覗かせる蠍姫。周囲を取り巻く盗賊達が一斉に歓声をあげ気合いを入れる。
「踏まれて喜ぶなんて……気持ち悪いわね。
いいわ、揃って全員潰してあげる! 綺麗な血の華、咲かせましょう!」
「……悪く思うな。
取り巻きは全員、破壊する」
焔珠とリジアが武器を構え光翼を広げる。それを合図にイレギュラーズ全員が戦闘態勢を取った。
「はははっ!
全員毒に苦しみ悶えるがいいさね!!」
蠍姫の笑い声を合図に、盗賊達が一斉に走り出す。
廃屋敷の大広間と廊下の境界で、戦いが始まった――
●境界の攻防
アルト・フライヤー盗賊団、頭領アルト・クラーデンは内心泣きそうだった。
……これはなんだ。
砂蠍の幹部というスキラに頭を垂れながらも、どうにか平穏無事な盗賊生活を満喫できると思った矢先、特異運命座標を名乗る連中に襲撃される。
たった八名。だが、二十六名の盗賊を相手取って一歩も退かない戦いを見せている。
逃げ出すことも叶わない戦場で、アルトは無心で刃を振るうしかなかった。
――イレギュラーズの作戦は、罠を張り巡らせることのできなかった盗賊達に対しかなり効果的に機能していた。
廊下と大広間。
その境界で攻防が繰り広げられる。
大広間に出てしまえば、盗賊達の数に任せた突撃によってあっという間に踏みつぶされてしまうだろう。
だが、境界で戦うことによって、一度に相手をする盗賊達の数を制限し、少ない人数でありながら、一歩も退かない戦いを行うことができていた。
「はっ! 威勢のわりに消極的な戦いだねぇ!
こっちに来なよ! 可愛がってやるからさぁ!!」
「威勢がいいな、蠍姫。
君の方こそ、こちらへ来てみたらどうだ? それとも怖いか?」
蠍姫の挑発を受け流し、ラノールが誘いを返す。
「幻想の蠍は群れて尚、火事場泥棒専門のままか」
ラノールの挑発に合わせて、ラダが弾丸を放った。特別な力を持たない弾丸は、蠍姫側の机に当たるだけだったが、蠍姫は苛立たしげに顔を歪めた。
蠍姫が不快に感じるのは挑発によるものだけではない。
「どうしましたか? ご気分が優れないようですが――」
「キナ臭いビジネスマンだねぇ……人の思考を読み取ろうってのかい」
寛治が常に蠍姫へとアンテナを伸ばす。リーディングによる思考の走査は不快に思うレベルで精神的な負荷がかかった。
蠍姫が扇向ければ礫にもにた毒針が発射される。回避困難な一撃を受けて寛治がよろめく。蠍姫が嬉しそうに邪悪に笑うが、その真実に気づくことはなかった。
毒耐性を持つ寛治は仲間を庇いながら、毒を受けた演技をし、蠍姫の敵視を稼ぐ。この動きは境界で戦う作戦と共に、イレギュラーズの被害を十分に減らしたと言える見事なものだった。
残像のように影を展開しながら、敵を惑わし攻撃を加えるのはラノールだ。
「動きは悪くない……だが所詮は盗賊だな」
アルトをマークしながら、周囲を取り巻くアルト・フライヤーの盗賊達を手にした黒鉄の大戦槌で殴りつける。
戦いながら、ラノールは敵の動きに注視する。何か戦術的な作戦を考えていないか、その動きがないか。
大きな成果はなかったが、気になる点といえばアルト・フライヤー一味が消極的に見える部分か。逃走する気配はないものの、いまいち戦闘に集中できていないようにも見えた。
元よりアルト一味を狙う作戦でもある。敵の気が変わらないうちに撃破すべきだと、感じた。
「そちらにとっては不運続きかもしれないが、盗賊稼業ならいつかこんな日も来るかと思っていたろう、諦めろ」
蜂の集団攻撃を思わせる強烈な弾幕攻撃をしかけるラダ。敵前衛群を次々と撃ち倒していく。
「くそう、くそう!」
アルトが歪んだ顔のまま突撃し、手にした得物を振るう。強烈な一撃だが、致命打にはほど遠い。
ラダはアルトが前に出てきたのを好機ととって、集中砲火を浴びせる。大口径ライフルの一撃はそれだけで致命打となり得るが、アルトは肌が赤く染まろうと、苦痛に歪めた顔のままに攻撃を繰り返していた。
通路を塞ぐ壁となりながら、ラルフが義手を構える。内部の砲筒に全身の魔力が集中、集束する。
「君達に恨みはないが。これも仕事だ」
放たれる純粋な破壊エネルギーが、盗賊達を撃ち貫く。そうして蠍姫へ射線が通ると見れば、その魅惑的な脚を狙い、呪詛籠もる弾丸を撃ち放った。
大きく飛び退く蠍姫だが、掠めた弾丸によって、太ももが赤く染まった。
「掠ったか。だが朱に染まったことでより魅力的になったんじゃないか?」
「私の脚はそこらの女の物より高価なんだよ。
荒事に傷は付きもんだけどねぇ……傷物にしてくれた礼はたっぷりさせて貰うよ!」
扇から放たれるナイフの如き裂傷を生み出す毒針がイレギュラーズの肌を赤く染めていく。同時に盛られる毒は、しかしラルフの生み出した抗毒剤がうまく機能しているようだ。少しばかり気分が悪くなる程度で済んだ。
突撃してくる盗賊達を牽制するのはシュバルツだ。
幻惑の影を纏いながら、カウンター気味に衝撃波帯びる拳を放つ。
荒れた廊下だが、前衛四人ではやや隙間ができる広さがある。後衛へと抜けられないように、シュバルツは敵の注意を引くように言葉を走らせる。
「おいおい? お前らの実力はこんなもんか? こりゃ、蠍姫の実力もたかが知れてんじゃねぇの?」
この挑発に幾人かの蠍姫直属の盗賊達が沸き立つが、蠍姫は冷静だ。
「安い挑発に乗るんじゃないよ!
敵の思惑に乗るようなバカは後でキツい仕置きだからねぇ!」
それはご褒美なのでは? と一瞬頭をよぎるイレギュラーズだが、その意味は死すら生ぬるい拷問であることを盗賊達は知っている。
「結構しぶといけど――これで終わりよ」
後衛を狙い、イレギュラーズ前衛陣を抜けようとしたアルトに対し、焔珠が魔力を纏わせた武器で一閃する。
「が……あぁ……」
胸部を切り裂かれたアルトは、真っ赤な鮮血を吹き上げさせながら、ついに倒れた。アルト・フライヤー盗賊団の生き残りが、親を亡くしたかのように泣き叫んだ。
「ぴーぴー泣くんじゃないよ!
しかし、あまり役に立たなかったねぇ……いや、あれだけ攻撃を集中されたのによく持ったほうかしらねぇ?
見立ては悪くなかったけど、まあ運がないさね」
扇で口元を隠しながら分析する蠍姫に、恨みの視線を向けるアルト・フライヤー盗賊団の面々。だがそんな視線も一瞥し意にも介さない蠍姫は戦況をよく見ていた。
「敵討ちのつもりかもしれませんが、そんな突撃では通れませんよ」
泣きながら突撃してくる盗賊の死にものぐるいの一撃を受け流しながら、魔力籠もった一撃で追い返すリースリット。
距離が離れれば、そこを狙って飛ぶ斬撃でもって戦力を削いでいく。
弱っている者から優先的に、それは無慈悲にも見えるが、依頼達成を信条とするローレットの一員なれば当然の行動だ。
リースリットは幾重にも飛ぶ斬撃を放ちながら、大広間への突入タイミングを計っていた。
「……その位置、逃しはしない」
盗賊達が居並べば、そこを狙ってリジアが掌を振るう。切り裂かれた空間が、刻天使の力を持って破壊され崩壊する。空間は即座に修復されるが、巻き込まれた盗賊達の被害は甚大だ。
盗賊達の数が減り始め、蠍姫へと狙いを定められるようになれば、その周囲を守る盗賊達を弾き飛ばすように青い衝撃を放つ。生まれ出た機会を仲間達が狙い攻撃をしかけた。
一進一退の攻防は、境界に誘い込みながら各個撃破を続けたイレギュラーズに傾いていた。とはいえ、楽にその状況を作れたかと言われれば、必ずしもそうとは言えないだろう。
最初こそ範囲攻撃が有効であったが、盗賊達もバカではない。一度痛い目を見れば、同じ攻撃を食らわないように立ち回る。
一度に相対する数が減れば、それは持久戦の様相を呈し、お互いに消耗戦となった。
結果的にイレギュラーズに傾いた戦況だが、イレギュラーズの消耗も目に見えて明らかだった。倒れる者はいなかったが、壁役として立ち回った面々はパンドラに縋る場面もあったのだ。
そうして、戦況を見据えていた蠍姫が、パチリと手にした扇を閉じた――
●いずれまた
「ここまでだねぇ。
これ以上はまるで益になりゃしないよ」
蠍姫が奥の扉へ向け踵を返した。
「待て! 逃げるのか!」
臆病者と言いたげなイレギュラーズを一瞥し、邪悪に顔を歪める蠍姫。
「ダメダメ、そういう安い挑発は私には効かないよ。
今日の所は互いに痛み分けさね。アンタ達も十分な結果を残せただろう?」
倒れる盗賊達の数を数えながら言う蠍姫。それはまったく自分の部下だった者達を思っていない姿勢だ。
「五名はついてきな。残りは後始末いいね。
なに、亡骸はその内回収してやるさね。優しく踏んでやるから有り難くおもいな」
言うが早いか、蠍姫が去って行く。逃げる蠍姫の背中にラルフが言葉を投げかけた。
「君達が世界を混沌に乱してくれるのならば個人的には面白いのだが、
悲しいかな所詮は君も”蠍”も大いなる混乱の為の駒に過ぎぬ、蠍には精々足掻いてくれと伝えてくれ」
「……ふん。覚えていたらねぇ」
さらに言葉を投げかけようとするイレギュラーズの前を、塞ぐように立ちはだかる盗賊六名。もはや死を覚悟した者達を前に、隙を見せることなどできなかった。
蠍姫が、裏口のドアから姿を消す直前、扇で口元を隠し、朱に染まった脚を見せながら言葉を零した。
「――いずれ、また。
この傷の礼はたっぷりとさせてもらうよ」
襲い来る盗賊達の相手をしながら、その言葉がいつまでも脳裏にこびりついていた。
戦いは終わった。
居残った盗賊達を打ち倒すと、廃屋敷は静寂を奏でる。
何か得られる情報はないものかラノールが捜索するが、大きな情報は見つからなかった。
盗賊達の屍の中、リジアが言葉を零す。
「しかし、蠍……。
これだけの力を持つものが各地で暴れる。
何が本当の目的であるかもだが……一体それほどの力をどうやって蓄えたか。
次の刻までハッキリさせておきたいものだな……」
言葉が、静寂に飲まれ消えて行った――
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
澤見夜行です。
依頼成功となります。詳細はリプレイをご覧ください。
蠍姫は逃してしまいましたが、いずれ再戦の機会があることでしょう。
その時は――そう遠くないはずです。
MVPは悩みましたが、プレイングもさることながら、抗毒剤を用意し相談も意欲的だったラルフさんに贈ります。
全員が毒無効を持つのは無理だと思いきや、上手い手があったものですね。
とはいえ、蠍姫も毒の効き目が悪いことには気づいたはず。なにか改良を加えてくるかもしれませんね。
依頼お疲れ様でした。
次なる展開をお待ちください!
GMコメント
こんにちは。澤見夜行(さわみ・やこう)です。
砂蠍が策動しているようです。
幹部である『蠍姫』の出鼻を挫き、勢力の拡大を阻止しましょう。
●依頼達成条件
『蠍姫』の指揮する盗賊団員の半数(十三名)以上の撃破。
●情報確度
情報確度はAです。
想定外の事態は起こりません。
●『蠍姫』スキラ・スロースについて
長い黒髪を靡かせる妖艶な美女。女で有りながら砂蠍の幹部にまで上り詰めた。
毒の扱いに長け、扇から毒針を放つ攻撃を得意とする。
男を足蹴にして踏みつけるのが趣味。
蹴戦と精密射撃を得意とし、以下の特殊攻撃を使用します。
・猛毒針(物遠扇・猛毒)
・出血毒(物中範・出血・毒)
●『蠍姫』直轄の盗賊について
数は十名。
砂蠍に所属し、その戦闘能力は高い。
『蠍姫』に踏みつけられるのを至上の喜びにしている。
以下のスキルを使用します。
・一刀両断
・戦闘続行
・ブロッキングバッシュ
●盗賊団アルト・フライヤーについて
頭領アルト・クラーゲンを含め十五名。
『蠍姫』によって潰されその部下となった。
戦闘力はそこまで高くないが連携を得意としている。
以下のスキルを使用します。
・格闘
・射撃
・喧嘩殺法
・スーサイドアタック
●戦闘地域
アルト・フライヤーが根城にする廃屋敷になります。
時刻は朝五時。朝日が広がり出しています。
屋敷の個室はそのほとんどが崩れていて隠れるところはないでしょう。
廊下を抜けた大広間に盗賊達が集まっています。
そのほか、有用そうなスキルには色々なボーナスがつきます。
皆様の素晴らしいプレイングをお待ちしています。
宜しくお願いいたします。
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