PandoraPartyProject

シナリオ詳細

クラマ怪譚。或いは、ツムギ湊のパルクール…。

完了

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●春の催し
 豊穣。
 カムイグラのある港町。ツムギ湊というその町では、春になるとある催しが開かれる。
 曰く、その催しは女子の健やかな成長を祈り開催されるものだという。
 かくしてツムギ湊の外れに、巨大な雛段が築かれた。
 都合3段からなる巨大雛壇、その最下段には前年に採れた野菜や米、そしてこのために用意した海産物がずらりと並べられている。
 では、中段および最下段には何があるのか。
 答えは“何も無い”だ。その代わり、中段には3つ、上段には2つの上質な座布団だけが用意されている。
「とまぁ、要するに参加者たちには町をぐるりと一周、雛壇目指して競争してもらうというわけだ。1位と2位が最上段、3位から5位までが中段に座す栄誉を得るということになるな」
 そう告げたのは、ツムギ湊の有力者であるクラマという名の女性であった。
 豪奢な着物に、背中まで伸びた金の髪、頭頂部には尖った耳と、狐の獣種らしき特徴を備えている。クラマは扇で口元を隠し、くっくと肩を揺らして笑った。
「もちろんただ走るだけではない。走者に触れればご利益があると言われているゆえ、町の住人たちはこぞって走者に触れようと近づいて来るし、時には妨害することもある」
 住人たちの妨害を受けながら雛壇を目指すのは骨が折れる。何しろこの催しにおいては“走者に長く触れれば触れるほどにご利益は増す”とされているので、過激な者だと本当に走者の骨を折って、足を止めようとしてくるためだ。
「どこかの国では、ぱるくーるとかと、そんな風に呼ぶのだったか?」
 なんて言って、クラマは瞳を細めて見せた。
「まぁ、なんだ。少々危険な催しであるゆえ、年々走者が減っていてな。走者が少なくなれば催しも今一盛り上がらない。そこで、お主らにはぜひ走者として参加してほしい」
 ルールは簡単。
 町の北側からスタートし、3つのチェックポイントを回って、港手前の雛壇へと走り抜けるだけ。チェックポイントさえ経由すれば、ルートは自由だ。飛びさえしなければ、建物の上を走ることさえ許されている。
「ちぇっくぽいんとは3つ。1つ目は、町の西側にある食糧倉庫の門。2つ目は、町の東にある市場の門。そして最後に町の中央にある領主屋敷の門だな」
 それでは、スタート地点へ向かってくれ。
 そう言って、クラマは酒の瓶を手に取った。どうやらこの後、ゴール地点の雛壇で酒を飲みつつ催しを観覧するらしい。

GMコメント

●目的
催しに参加し、盛り上げること

●ルール
ツムギ湊の北からスタートし、3つのチェックポイントを経由した後、港の雛壇を目指します。
町の住人(とくに女児や母親)が走者に触れるべく妨害します。
飛行することはできません。ちょっと羽ばたいて高く跳ぶ程度なら見逃されます。
チェックポイントは以下の3つ。
・町の西側にある食糧倉庫の門
・町の東にある市場の門
・町の中央にある領主屋敷の門

●NPC
・クラマ
豪奢な着物に華奢な体、金の髪を長く伸ばした獣種(狐)の女性。
若いようにも見えるし、それなりの年齢にも見える。
酒を飲みつつ催しを観覧するようだ。


動機
 当シナリオにおけるキャラクターの動機や意気込みを、以下のうち近いものからお選び下さい。

【1】ローレットの依頼で来た
ローレット経由で依頼を受けてツムギ湊を訪れました。雛壇への登壇を目指し、頑張って走ります。

【2】クラマからの手紙をもらった
あなたとクラマは知り合いです。催しを盛り上げるため、クラマから呼びつけられました。ほどほどに頑張ります。

【3】何も分からないうちに参加することになっていた
ツムギ湊に立ち寄り、あれよあれよと言う間に催しに参加することが決まっていました。なんとなく周りに合わせて走ります。


走法選択
走り方です。なお、飛行することは出来ません。

【1】先行
常に先頭を心掛け、地上ルートを中心に走ります。地上ルートが最短距離となります。上位を目指します。

【2】追い込み
終盤にスパートをかけるべく、先頭より少し後ろを走ります。状況を見るために、時々は屋根の上などを走りますが、若干遠回りになります。雛壇への登壇を目指します。

【3】トリッキー
壁を擦り抜けたり、気配を消したり、屋根の上を走ったり、アクロバティックな魅せ技を使ったりしながら、順位にこだわらず自由に走ります。

  • クラマ怪譚。或いは、ツムギ湊のパルクール…。完了
  • GM名病み月
  • 種別 通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年03月04日 22時05分
  • 参加人数6/6人
  • 相談0日
  • 参加費100RC

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(6人)

日向 葵(p3p000366)
紅眼のエースストライカー
メイメイ・ルー(p3p004460)
祈りと誓いと
黒影 鬼灯(p3p007949)
やさしき愛妻家
不動 狂歌(p3p008820)
斬竜刀
ルーキス・ファウン(p3p008870)
蒼光双閃
物部 支佐手(p3p009422)
黒蛇

リプレイ

●ツムギ湊の祝い事
 真昼の空に花火が上がる。
 それと同時に都合20人ほどの男女が、一斉にツムギ湊の町へ向かって駆けだした。
「参加するからには上位目指すっスよ」
 先頭集団に混じる『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)は隣の走者と激しく肩をぶつけ合いながら、大通りへと駆け込んだ。各走者ごとに走る速さは異なるため、この先は次第に列が伸びて来るのだろうが、スタート直後ということもあって今のところは走者の位置に大きな差は無い。
「えっ、あの、わたし、お祭りの見物に……めぇ…!?」
 後ろの走者に背中を押される『あたたかい笑顔』メイメイ・ルー(p3p004460)も先頭集団の中央付近を走っていた。ひと塊になった集団の真ん中に取り込まれた結果、列を外れることも出来ずに、ただ必死に足を動かすほかないのである。
「なんだってこんな危ない催しに参加したんっスか?」
「めぇ……危ない? 参加? これ、なぁにぃ?」
「……マジっスか」
 葵は気づいた。
 メイメイが、何らかのアクシデントにより出走することになったのだと。そして、出走は彼女の意思ではないのだと。
 だが、どうすることも出来ない。すでにスタートの号砲は鳴った。そうなれば、後はゴールまで必死に走り抜けるしかない。
「無事にゴールに辿り着いたなら、一杯奢るっスよ」
「めぇ……」
 葵が視線を前へと向けた。
 走者が大通りに駆け込んで数十秒。ここからが“催し”の本番だ。
 わぁっ、と歓声を上げながら、町の住人たちが通りに雪崩れ込む。

 走者に触れればご利益が得られる。
 ツムギ湊、春の催しにはそんな風な謂れがあるのだ。元々は、女子の健康を願うだけの催事であったが、遥か昔のいつ頃かに誰かがそんなこと言いだし、今ではすっかり定着していた。今となっては女子は元より、老若男女がご利益を得ようと積極的に走者に触れるべく近づいて来るし、時には暴力沙汰にまで発展する始末。
 中には走者の骨を折ってまで、長く触れようとする輩もいる。それもまた、一種の風物詩であった。
「“走者の骨を折りに来る者もいる”って……祭りの趣旨に反して物騒過ぎませんか!?」
 地面を転がるようにして、『散華閃刀』ルーキス・ファウン(p3p008870)が悲鳴をあげた。ルーキスの頭上を通過したのは角材だ。全力で角材を振るった老人は、すぐ後ろに2人の女児を引き連れている。
「孫のためだ。悪く思うな」
「っ……!? 孫可愛さに血迷ったか!」
 大上段から角材が振り下ろされる。
 ルーキスはそれを回避して、建物の上へ向かって跳んだ。
 忌々し気に舌打ちを零す老爺。
 慌ててその場を逃げ出すルーキス。
「うぅん。物騒な。わしは南蛮物を見に来ただけじゃったんですが……」
 駆け去っていくルーキスを、住人たちが目で追っている。その隙に、と『黒蛇』物部 支佐手(p3p009422)は人混みの中に紛れ込んだ。
 支佐手に気付いた住人たちと軽快に手を打ち合わせながら、人混みの中を駆けていく。
「ほいほい、ご利益があると良いですな……っと。まあ、こうなってしまえば致し方ありません」
 催しはまだ始まったばかりだと言うのに、随分と熱狂している者が多いでは無いか。無事にゴールに辿り着けるか。支佐手は今から不安であった。

 一方、その頃。
 『鬼斬り快女』不動 狂歌(p3p008820)は、スタート地点からほど近い位置で両手に赤子を抱いていた。すっかり人の姿が消えた大通りの真ん中を、住人たちの声援を浴びながらゆっくりと走っているのだ。
 過激な住人が多いとはいえ、流石に赤子を抱いた走者に暴力を振るう者はいない。
「さて、次は誰だ。俺は順位にこだわっていないからな」
 2人の赤子を母親らしき女性へ返しつつ狂歌は言った。
 そんな狂歌のすぐ後ろには、何人もの女児が付いて来ている。

 ツムギ湊の空を翔ける影がある。
「あれは鳥か? それとも天狗か?」
 最初にそれに気が付いたのは誰だっただろう。空を見上げ、影を指さし住人たちが口々に声を上げていた。
「いや、あれは忍者だ!」
 忍んではいないが。
 けれど、それはまさしく忍者だ。黒衣の男の名は『やさしき愛妻家』黒影 鬼灯(p3p007949)。片腕に妻の章姫を抱いて、もう片方の手で気糸を虚空へ投げた。
 軒にかけた気糸を手繰って、空中を滑るように移動する鬼灯は眼下の住人たちへ手を振り、そしてあっという間に家屋の影へと消える。
「見て! みんなが蟻さんみたいなのだわ!」
 眼下に手を振る章姫を見て、鬼灯はいかにも嬉しそうに笑うのだった。

●パルクール
 町の西側、倉庫地帯。
 催しのコースから少し離れた畑の傍に、メイメイは1人、立っていた。
 人に押されるようにしながら、彼女はここまで必死に走って来たのである。先頭集団の輪の中から、やっとのことで這い出して、気が付けばすっかり道に迷っていた。
 めぇめぇ、と鳴くメイメイの声は、誰の耳にも届かない。
「ここはどこ……でしょう?」
 肩を落としてメイメイはそう呟いた。
 と、その時だ。
 カサリ、と彼女のすぐ後ろでほんの微かな物音がした。
「めぇ?」
 ビクリと肩を跳ねさせて、メイメイは視線を後ろへ向ける。
 身を竦ませて警戒心も顕わとしているメイメイの前に現れたのは……。

 住人たちが組んだバリケードの下を、葵はスライディングで抜けた。
「客との接触は最悪事故になりかねねぇ、サービスは終わってからっスよ」
 バリケードを抜けるなり、葵は地面を手で打った。反動で立ち上がりながら、葵は人混みの間を縫うようにして駆け抜けていく。
 ディフェンダーを抜き去るのには慣れている。
 そんな葵のすぐ後ろで、何人かの住人が悲鳴を零した。葵の真似をしようとして、住人たちに捕まったのだ。
 だが、葵の受難はまだ終わっていない。
 筋骨隆々とした男たちが、スクラムを組んで葵の行く手を阻んでいるからだ。彼らは倉庫地帯で働く農夫である。日々、農作業と荷物の運搬で鍛えられた肉体を見れば、彼らの力がいかに強いかが分かる。
 けれど、しかし……。
「上等っス! 捕まえられるもんなら捕まえてみろよ!」
 瞳に戦意の炎を灯し、葵は姿勢を低くした。
 地面を蹴って、疾走を開始。
 集中力が限界を超える。周囲の音さえ、ほんの少しも聞こえなくなる。
 時間の流れがゆっくりだ。
 ごつごつとした男の手が伸ばされる。そのすぐ下を掻い潜り、葵は穀物倉庫の門に手を触れた。

 催しの間、市場は普段以上の賑わいを見せている。
「さぁ、買った買った! 見物ばっかじゃ腹が減るだろ! うちの串焼きを喰ってくれ!」
「冷やした胡瓜はいらないかい! あぁ、ちょっとそこの兄さん、漬物はどう?」
 市場で店を営む者たちの商魂は逞しい。
 野菜売りの女性に腕を掴まれて、ルーキスは思わず足を止めた。
「あれ? 兄さん、走者かい? こんなところでモタモタしてていいのかい?」
「いや……あまり良くはないですね。参加するからには上位を目指します」
 先頭集団は、既に市場を抜けている。
 つい先ほどには、ふらりと支佐手がルーキスの隣を駆け抜けていった。
 ルーキスとて、市場の真ん中で足を止めている暇がないのは理解しているのだ。けれど、腕を取られては、それを無理に振り払うつもりにもなれず……。
 困ったような顔をしているルーキスを見て、野菜売りの女は「あぁ」と呟いた。
 それから彼女は、市場全域に響くような声で叫ぶ。
「おぉい、皆! 走者が通るよ! 道を開けておくれ!」
 その声を聞いて、住人たちが一斉に動き始めた。
 あっという間に、市場の真ん中に道が出来た。かつて、どこかの聖人は祈りで海を割ったというが、ルーキスの目の前に広がる光景はまさにそれを想起させるものである。
「頑張ってくれよ!」
「応援してるぜ!」
「まだ間に合う! さぁ、先頭を追ってくれ!」
 降り注ぐ声援に、ルーキスは手を挙げて応える。
 盛大な拍手に見送られ、ルーキスは市場を駆けていく。
 そんな彼のすぐ傍に、ひっそりと目立たぬようにして支佐手が付いていく。

 武家屋敷通りでの出来事だ。
 催しのコースとしては、既に終盤に近い。
 左右を高い塀に挟まれた武家屋敷通りに、住人の数は少なかった。代わりに、というべきか屋敷の門の辺りにはツムギ湊を守る武士たちが立ち並び、催しの見物としゃれこんでいた。彼らは決して、積極的に走者の邪魔をすることは無い。
 ただ、走者たちの走りを見届け、賞賛を送るためにそこで待っていた。
「……やりづらいな」
 なんて。
 突き刺さる幾つもの視線を浴びながら、狂歌は通りの真ん中に膝を突く。
 それから彼女は、駆け寄って来る女児に向かって、そっと両手を広げて見せた。
「えぇと一時のランデブー? 楽しんでくれよ……んん?」
「きゃー! 鬼灯君以外の人に抱き上げられるのは、何だか新鮮な気分なのだわ!」
 狂歌の胸に飛び込んで来たのは、金の髪をした洋装の女児……否、生き人形の章姫である。 
「あれ? たしかアンタ、鬼灯のところの?」
「えぇ、えぇ! 細かいことは後にして、今は先に進んでちょうだい! 鬼灯君は、後から迎えに来てくれるから!」
「んん?」
 事情はさっぱり呑み込めないが、通りの真ん中で足を止めていても仕方が無いのもの事実。解せない思いは拭いきれないという顔で、狂歌はしかし駆け出した。
「じゃあ、まぁ……改めて。一時のランデブー、楽しんでくれよ」
 なんて。
 お決まりの文句を口にして、狂歌は最後にもう1度、深く首を傾げるのだった。

 武家屋敷通りの大門の上に、黒衣の男が立っている。
 走者のほとんどが、既に先へと進んだ後のことである。走者の後ろを追いかけていた住人や、武家屋敷通りに住む武士たちが、男を見つけて足を止めた。
 空を仰ぎ見るようにして、人々は鬼灯の姿を見上げている。鬼灯は、覆面の下でくっくと笑うと、ゆっくりと右腕を前へ。
 歌舞伎役者のようなポーズと言えばいいのか。見栄を切った鬼灯の後ろで、カカンと拍子木が打ち鳴らされた。姿は見えぬが、鬼灯のアシストをするために部下の誰かが来ているのだろう。
「しばらく! あいや、しばらく!」
 カカン!
 と、タイミングよく拍子木が鳴った。
 やはり近くに誰かがいるのだ。けれど、決して姿は見えない。
 はらり、と少し時期の早い花吹雪が舞い散った。
 鬼灯はたっぷり間を取り、住人たちの視線を自身へ集めると声を大にして告げた。
「遠からん者は音に聞け。近くば寄って目にも見よ! 忍の御業、ぁとくと、とくと御覧じよ!」
 忍んでないが。
 エンターテイナーとしては一流だ。見物客がやんややんやと喝采をあげる。
 と、次の瞬間、門の上の鬼灯の姿が掻き消えた。まるで霞か幻のようだ。
 かと思えば、人々の間を吹き抜ける一陣の風。そしてふっと、頭の上を影がよぎった。
 何事か、と視線を挙げれば並み居る人の頭のうえを、軽々と飛び越す鬼灯がいた。

「ふぅむ? そろそろわしも仕掛け時か……」
 跳んで跳ねてと忍の御業のなんと目立つことだろう。
 人の視線が鬼灯に向いているうちに、と支佐手は後を付いていく。呆けたように上ばかり見る人の間を駆け抜ける程度、何の苦労もありはしないのだ。
 速度は鬼灯に劣るものの、進路選びが巧みなようで対して離されてもいない。一定の距離を保ったまま、最短距離で支佐手はここまで大した労なく走って来たのだ。
 その様を、ある者はきっと“蛇のようだ”と言うだろう。
 執念深く、辛抱強く、虎視眈々と好機を狙う。
「いやさ。もう少し、じっくり好機を待つことにしましょう」
 ほんの少しだけ思案して、支佐手は走る速度を少しだけ上げた。

●栄光の雛壇
 走者の姿が1人、2人と大通りへと現れる。雛壇の傍に設けられた物見櫓の一番上から、クラマはそれを、酒を片手に眺めていた。
「さて、誰が真っ先にここへ辿り着くのやら。異国の競技者か、はたまた忍か、それとも鬼の娘であろうか? 或いは、侍やもしれん。蛇と羊の姿は見えぬが、爪を隠した獣の類であるかもしれない」
 ぐい、っと酒を煽ったクラマは肩を揺らして呵々と笑った。
 細められた獣の瞳で大通りを睥睨し、彼女はいかにも愉快そうに呟くのである。
「あぁ、楽しみだ」
 
 先頭を走るのは葵だ。
 残るは直線、邪魔する住人の姿もない。エースストライカーの本領発揮と言ったところか。まるで矢のような勢いだ。
 けれど、葵の表情には僅かな焦りが滲んでいた。
 視界の端、家屋の屋根の上を走るルーキスの姿を捉えたのである。
「追いつかれた……いや、追い上げて来たっスね」
 汗を拭う余裕も無い。
「脚はしっかり溜めて来ました。さぁ、いざ尋常に勝負とまいりましょう」
 屋根の上から地上に降りたルーキスと、葵の肩が強くぶつかる。

「行け! 行け!」
「ここ一番の走り、期待してるぞ!」
「俺の晩飯がかかってるんだ! 勝ってくれよ、異国の人!」
「なにくそ! 山ン本部屋の意地を見せつけてやらぁな!」

 野次と喝采の比率は半々と言ったところか。
 両者1歩も譲らないまま、葵とルーキスは同時にラストスパートをかけた。
 
 狂歌の頭上を影がするりと跳び越える。
「あ、いた! ちょっとアンタ、遅かったじゃないか!」
 眼前に飛び降りた影は鬼灯だ。
 狂歌に抱かれた章姫が「やっと来たわ」と手を振っている。
「どこで、何をしてたんだ?」
 章姫を抱える役はここで狂歌から鬼灯に戻る。
「いや、なに。血気盛んな連中が多かったのでな、少し遠回りして撒いてきた」
 おかげですっかり疲労が蓄積しているものの、町の各地を十分過ぎるほどに湧かせられただろう。
「そうかい。そりゃご苦労さん」
「お疲れ様なのだわ」
 狂歌と章姫のねぎらいを受けて、鬼灯はふっと頬を緩める。
 と、次の瞬間、
 そんな鬼灯のすぐ横を、するりと支佐手がすり抜けていった。

 猫である。
 黒も、白も、三毛も、ぶちも、毛色も様々な猫の群れが先頭集団に合流していた。
「にゃぁ」
「みゃぉ」
「うなぁお!」
『ねっこ』
「うにゃんにゃ」
「……めぇ」
 大合唱の中心に、メイメイの姿があるではないか。

 先頭集団からはぐれたメイメイは、野良猫に先導される形で競走に復帰していた。
 当然、3つのチェックポイントは通過している。
 では、どうして今まで影も形も見えなかったのかと言えば……。
「や、やっと人の道に戻れ、ました」
 メイメイが走っていた道は、猫たちの使う道だったからだ。つまり、実際のところメイメイは、ずっと誰よりも先頭に居た。
 ふわふわの髪には蜘蛛の巣や枯れ葉が付いているし、もちもちとした頬は泥で汚れているが、こうして催しの終盤になってやっと彼女は人の走る道へと戻って来たのである。
「ぬ? これはやられましたな」
 先頭を走るメイメイを一瞥し、支佐手はにぃと笑って見せる。予想外の出来事が起きて楽しいのだろう。
 姿勢を低くし、支佐手は走る速度を上げる。
 その様はまるで、大地を這う黒蛇のようでさえあった。
 先頭にはメイメイ。そしてメイメイを囲む猫の群れ。
 そのすぐ後に葵とルーキス、支佐手が続く。こちらはほぼ横並びである。
 そこから少し遅れた位置には鬼灯と狂歌の姿があった。
「さぁ、ラストスパートだわ!」
 支佐手の肩で章姫が叫ぶ。
 追い越しの瞬間、鬼灯に押し付けられたのだ。
 章姫を振り落とす気にもなれず、結局こうして先頭まで運んでしまった。
 きっとこのまま、章姫をゴールへ運び込むことになるのだろう。
 なんて、自嘲して支佐手は足を右へ、左へ。
 猫の群れに遮られ、踏鞴を踏んだ葵とルーキス。そんな2人を追い越して支佐手は先頭へと迫った。猫の間を掻い潜るような走法で、先頭に迫る支佐手だが次の瞬間「しまった」と、囁くように呟きを零す。
 あと少しだけ、届かない。
 メイメイのふわふわとした髪に、あと数センチだけ手が届かない。
「えぇい、ままよ」
 なので、というわけでもないが。
 支佐手は章姫を投げた。
 ぽん、と花束でも放るように。
 けれど、それでも……。
「届きませんでしたな」
 誰よりも先にゴールラインを超えたのは、猫の群れとメイメイだった。

 催しの終わりを告げる花火が上がる。
 雛壇の最上部には、メイメイと章姫。
 中段には、支佐手と葵、ルーキスが座る。
「結局、これって……何だったんでしょう?」
 なんて。
 最上段のメイメイは、万雷の拍手が降り注ぐ中でしきりに首を傾げていた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様です。
ツムギ湊の催しは、無事に終了しました。
重傷者も出ずに催しが終わり、クラマも大変満足しています。

この度はご参加いただき、ありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。

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