PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ストレガの非常食生産作戦。或いは、完成した“アントマン”…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●“アントマン”
「さてお集まりの紳士淑女の皆々様方。私はね、以前から昆虫の持つ無限の可能性について探求を続けて来た。これまでは昆虫の持つ能力を機械に転用することばかりに着目していたが、昆虫そのものにも無限の可能性は備わっていると言わざるを得ない。マゴットセラピーなどその代表的なものだけれどね、何も壊死した患部を食べさせるだけじゃなくって、食用に適した昆虫もいる」
 練達。
 とある研究所の前で、顔色の悪い女性は語る。
 黒いドレスを身に纏い、その上から白衣を羽織った妙齢の女性だ。ウィッチハットの影に隠れて分かりづらいが、目の下には濃い隈が浮き上がっている。名をストレガという練達の発明家であり、昆虫をベースとした人々の生活に役立つ機械をこれまで多く発表している。
 例えば、アニサキスをベースとした安眠装置。
 例えば、ハリガネムシをベースとした水脈探査機械。
 例えば、セミをベースとした自立式移動スピーカー。
 当然、多くの成功作品を世に送り出す裏では、失敗作が数多のトラブルを引き起こしている。だが、彼女は決して研究を辞めることはない。なぜなら失敗は成功の母だからだ。失敗なくして成功はあり得ない。ゆえに彼女は、ただ己の研究に邁進するのである。
「以前に作製したこの“小さくなる機械”……人の背丈をおよそ10センチほどまで縮めるというもので、名を“アントマン”と仮称するが……こちらの機械がついに完成に至った」
 “アントマン”と名付けられた機械の完成には、イレギュラーズが手を貸している。彼女、リリー・シャルラハ(p3p000955)もその1人だ。
「完成したの? リリーはそんなに変わらないけど、他の皆は小さくなって大変そうだったけど?」
 以前は制御装置が紛失したことで“小さくなったまま元の大きさに戻れない”というトラブルに見舞われた。リリーはともかく、他の仲間たちは大変、危うい目に遭ったのだ。その時のことを思い出したのか、リリーは顔色を悪くしている。
 だが、ストレガはそんなリリーの様子に気付くこともなく、上機嫌に言葉を続けた。
「そういうこともあったかもしれない! 無かったかもしれない! だが、今度は問題ない! 何故なら“アントマン”は完成したのだから! つまり……1時間の時間制限を設けたんだよ!」
 1時間が経過すれば、元のサイズに戻れるということだ。
 万が一、危うい目に遭っても……例えば昆虫に餌として追い回されることになったとしても……1時間だけ逃げきれれば、無事に生還できるということである。
「だが、今回の主題は“アントマン”の性能じゃない。最近、新たなに発見された新種の昆虫の生態調査のために、皆を呼集されてもらったんだ」
 そう言ってエントマは背後の建物を指さした。
 その建物を一言で言うなら“白くて四角い箱”である。1辺のサイズは7メートルほどと、建物としては対して大きなものではない。そして、扉や窓さえ見当たらない。
「えぇっと、その白いのは何かの機械なの? それとも、何かの施設なの?」
 リリーは問う。
 得意げな様子でストレガは答えを口にした。
「施設だよ! 中に詰まっているのは、私が独自に開発した栄養価の高い土だ。これはね、所謂1つのプラント、養殖場なんだ」
「養殖場……?」
 つまり、何かを養殖しているということだ。
 そして、リリーは思い出す。はじめにストレガは何と言っていた? たしか「食用に適した昆虫もいる」というようなことを口にしたのではなかったか?
「まさか……と、思うんだけど」
「まさか? まさかって何かな? もちろんの間違いじゃないのかな? そう、このプラントでは食用に適した昆虫を養殖しているわけさ!」
「……えぇ」
 小さくなる機械“アントマン”と、食用昆虫の養殖を目的とした“プラント”。
 となれば、答えは1つしかない。
「プラント内の様子を確認して来てほしい。どれぐらい育ったか、君たちの目で見て来ておくれよ。なに“アントマン”の完成に協力してくれたことに対するほんのお礼だと思ってくれていいさ。そう気負わずに、地下探検だとでも思っておくれ」

●いざ、プラントへ
「えーっと、そういうわけでリリーたちはこれからプラントの中に入るよ」
 プラントの屋根の上、マンホールのような見た目の出入口に腰かけてリリーは語る。
 ストレガ曰く、プラント内部には昆虫の作った広大な巣が広がっているらしい。まるで迷宮のように枝別れたした昆虫の巣が、プラントの上から下まで伸びているのだ。
「プラント内部では、イナゴやコオロギに似た昆虫を養殖しているんだった。何でもプラント内部の土はとっても栄養価が高くて、触れているだけでじわじわと体力が回復していくほどだとか」
 正直な話、昆虫の養殖よりも土の方を世に送り出した方がいいのではないか……なんてことを思わずにはいられないリリーである。だが、それは依頼の趣旨から外れるため、また別の話ということになる。
 昆虫しかいないような土の中へ、誰が好き好んで立ち入りたいと思うのか。けれど、しかし、あろうことかストレガは、本気でそれが……地下探検と昆虫の視察が“お礼”になると考えているのだ。依頼という形で報酬を支払ってまで、彼女はイレギュラーズにお礼をしたかったのだ。
 そして、依頼であるのならそれは達成されなくてはいけない。
「現在、養殖している昆虫は2種類。イナゴとコオロギだね。イナゴの方は品種改良の結果、飴みたいな甘い香りと味がするんだそうだよ。それから、コオロギの方は栄養価が高くて、鳴き声もとってもきれいで大きくなってるんだって」
 なお、イナゴの方は食欲が旺盛で、噛まれれば【流血】【ブレイク】などの状態異常を受ける。コオロギの方は臆病らしく、人の気配を感じると鳴き声をあげながら逃走を図るそうだ。コオロギの鳴き声には【魅了】の状態異常が伴うとストレガから渡された資料に記載されている。
「ストレガさんは、地下探検だって言ってたよ。“アントマン”の制限時間は1時間。1時間経つと、自然と元の大きさに戻れるらしいから……リリーたちは、1時間の間、真っ暗な地下世界でどうにか生き延びなきゃいけないの」
 悲壮感に溢れている。
 だが、同時に少しだけ楽しみに感じている者もいた。何しろ体長10センチという小さな体で活動する機会など、そうそう巡って来るものではない。
 多少の危険は伴うものの……考えてみればいつものことだ。
「1時間以内に脱出しないとね。プラントの中で元のサイズに戻っちゃったら、きっと酷いことになるよね……」
 元々の背丈が低いリリーならともかく、そうでないなら土に圧迫されて大きな怪我を負う可能性もある。
「皆、生きて帰ろうね」
 胸の前で拳を握り、リリーはそう告げたのだった。

GMコメント

※こちらのシナリオは「昆虫生活。或いは、小人たちの視た景色…。」のアフターアクションシナリオとなります。
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/8989

●ミッション
“プラント”内で1時間活動し、地上へ帰還すること

●ターゲット
・イナゴ
プラント内に生息している品種改良済のイナゴ。
食欲が旺盛で、噛まれれば【流血】【ブレイク】などの状態異常を受ける。
飴のような甘い香りと味がするらしい。
食用に向いている。

・コオロギ
プラント内に生息している品種改良済のコオロギ。
臆病で人の気配を感じると鳴き声をあげながら逃走を図る。
鳴き声は非常にきれいで【魅了】の状態異常を伴う。
食用に向いている。

●フィールド
ストレガが作製した昆虫養殖プラント。
プラント内には栄養価の高い土が詰まっており、土に触れているとじわじわと体力が回復する。
プラント内は蟻の巣のようになっている。地下迷宮のようだ。
通路の幅は直径15センチほど。一部広い場所や狭い場所もある。
出入口はプラントの屋根の上にしかない。
※参加者は“アントマン”という名の小さくなる機械を使用したうえで、プラント内へ侵入する。
※身長がおよそ10センチまで縮むが、1時間で効果は切れる。そのため、1時間以内に地上へ帰還しなければいけない。

●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • ストレガの非常食生産作戦。或いは、完成した“アントマン”…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年03月17日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

リリー・シャルラハ(p3p000955)
自在の名手
ヨハン=レーム(p3p001117)
おチビの理解者
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
楊枝 茄子子(p3p008356)
虚飾
マッチョ ☆ プリン(p3p008503)
彼女(ほし)を掴めば
フィノアーシェ・M・ミラージュ(p3p010036)
彷徨いの巫
リリーベル・リボングラッセ(p3p010887)
おくすり
ルエル・ベスティオ(p3p010888)
虚飾の徒花

リプレイ

●10センチの世界
 アントマン。
 人の体長を10センチまで縮小せしめる、ドクター・ストレガの発明品だ。当然、人の体は10センチの背丈で活動できるようには出来ていない。
 昆虫、小鳥、魚に動物。外敵になり得る生物はこの世界に星の数ほど存在しており、人の体でそれに抗い生きるのは至難を極める。だが、ストレガはそんなこと考慮していない。
 昆虫サイズの大きさにまで縮むことが出来れば、きっと何かと便利な場面も出て来るはずだろう……と、そんな思いで“アントマン”を開発し、完成にまで漕ぎつけた。
 The・はた迷惑。
 そして、はた迷惑に付き合わされることになったイレギュラーズがここに8人。ストレガの用意した“食用昆虫培養プラント”の視察という体で、アントマンの体験会に招待されたのである。
 なぜなら、アントマンの完成にはイレギュラーズも関わっているから。つまり“依頼という形で報酬が用意された体験会”は、ストレガなりのお礼のつもりなのである。
 The・はた迷惑。
「お礼……お礼参り的な? ストレガくん会長が屋根裏吹っ飛ばしたの怒ってるの?」
「相も変わらず、才能の使い方が良くも悪くも凄いというか何というか。実に彼女らしくて、妙な安心感を感じるよ」
 一行がこれから向かう先は土の中にある食用昆虫たちの巣だ。座り込んだまま動こうとしない『嘘つきな少女』楊枝 茄子子(p3p008356)を、『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)が抱え上げた。
 茄子子が動かないのなら、背中に担いで進むつもりだ。
「……ああは言ってたけど、正直。……めっちゃ楽しみだったりするよっ」
 元々の背丈が小さいためか、『自在の名手』リリー・シャルラハ(p3p000955)は乗り気のようだ。ともすると、普段は見上げるばかりしか出来ない仲間たちと、同じ背丈で話が出来ることが嬉しいのかもしれない。
「小さくなって探索、なんて滅多に無い経験でしょうし、心躍りますわね~♡」
「でも、1時間で戻ってこれないと元に戻ってしまうのよね? と言うことは……やだ、髪やお洋服が汚れちゃうわ〜〜!」
 きゃっきゃっしている『虚飾の徒花』ルエル・ベスティオ(p3p010888)と『甘やかなる毒花』リリーベル・リボングラッセ(p3p010887)も地下探検に胸が躍っている風である。
 ドクター・ストレガは初めてか? 
 と、どこか遠い目をしている汰磨羈と茄子子だが、余計なことは言わない。楽しみに水を差すような真似はしないのだ。2人とも大人だから。

 それから少しして、地上部分に空いた穴から『彷徨いの巫』フィノアーシェ・M・ミラージュ(p3p010036)と、『リカちゃん認定の強者』マッチョ ☆ プリン(p3p008503)が顔を出す。先遣隊として、巣穴の入り口付近を探索していたのである。
「小さくなっての冒険、映画のようで憧れはしていたが……実際は大変なのだな」
 頬を汚す土を拭いつつフィノアーシュはため息を零した。
 ストレガが容易した食用昆虫培養プラントの土は白い。触れているだけで元気が出て来る栄養分を多分に含んだ特別な土だ。
「おー! 虫の巣ってこんな風になってるのかー」
 フィノアーシュに続いて出て来たのはマッチョ☆プリン(少年のすがた)である。マッチョとは? そして、何かを頬張っている。マッチョ☆プリンの口からは、バリバリと煎餅か何かを噛み砕くみたいな音がしている。
「え、なにを食べてるの? それ? 土じゃないよね?」
「なにってそんなの……決まってますよね」
 嫌な予感ほどよく当たるのだ。
 茄子子と『帝国軽騎兵隊客員軍医将校』ヨハン=レーム(p3p001117)は顔色を悪くして後ろに下がる。
 2人の方を振りかえったマッチョ☆プリンは、口をもごもごさせながら片手に持っていた“何か”を掲げた。
「ん? これ? 落ちてたイナゴの脚! 食べるか? まだ動いてて新鮮っぽいぞ!」
 何かというか、イナゴの脚だが。
 昆虫の脚というのは、神経節さえ生きていれば、本体から離れても少しの間は動くのだ。
「うん、わかった。わかったからやめようかプリンくん。会長が自我を保てない」
「僕は虫は食わないぞ」
 ヨハンは虫を喰わないだろうが、虫がヨハンを喰わないとは限らない。イナゴの食欲を舐めてはいけない。
 蝗害の被害は洒落にならない。
 なお、蝗害の“蝗”は「イナゴ」と読むが、実際に蝗害を起すのはトノサマバッタをはじめとした相変異を起こす一部のバッタ類である。イナゴじゃないじゃん。
「あ、食べるよ。甘いんだって?」
「まぁ、私は猫だからな。昆虫食に抵抗は無いが……む、甘くて美味いな」
 茄子子やヨハンの代わりというわけでもないが、リリーや汰磨羈はイナゴの脚を食べるようだ。10センチまで縮んだ背丈であれば、イナゴの脚の1本もあれば十分に食いでがあるらしい。
「味見も大事だろうし……それも報告しないとだし……」
 と、リリーはそう言っていた。

●センチの決死行
「練達の科学者が自信満々に完成させたと豪語する機械は暴走してイレギュラーズがどつきまわすか爆発するのが世の理と僕は思っているのだが、まぁ好きにしてくれ」
 懐中時計の文字盤に、じぃっと視線を送りながらヨハンがブツブツと言っている。そうしないと、正気を保てないのかもしれない。
 暗い地下道をカンテラの明かりで照らしながら一行は先へ進んでいる。そこかしこからガサゴソという音がしている。何かの影も視界を過る。
 何か……というか、イナゴかコオロギなのだろう。
「でも、小さい状態ならお腹を満たすのも容易いでしょうね?」
 くすくすと笑うルエルの視線は、ヨハンへと注がれている。
「……仕事はしっかりやる。やるが虫は食わんぞ」
「あぁ。虫達が非常食……として有効かはわからないが1時間、生き延びて……脱出しなければ」
 腰の刀へ手をかけたまま、フィノアーシェは声を潜めてそう言った。相手は虫だ。こちらが思っている以上に俊敏なのだ。人の身であれば虫の1匹程度、大した脅威にもなりはしない。けれど、10センチの背丈である現状、イナゴやコオロギの襲撃を受ければただでは済まない。
「絶対、無事に帰ってきましょうね〜!」
 最後尾を進むリリーベルが、視線を背後へと向ける。
 暗がりの中で何かの動く気配がしたのだ。
「あら~? 狙われているのかしら~?」
「……無視して進もう。あまり無闇に殺すような事はしたくない」
 背後を警戒するリリーベルを先へと進ませ、汰磨羈は背後の暗がりを睨んだ。
 ガサ、と大きな音がする。
 暗がりに潜む何かの虫がどこかへ逃げ出したようである。

 下へ、下へ。
 とにかく下へ。
 暗くて狭くて、どこかじっとりと湿った土中を一行は下へと進み続ける。
 ところどころ、空間が広くなっている場所が……つまりは、虫の巣穴の合流地点らしき広場が存在し、そこには幾つもの足跡が残っている。
 得てしてそういう場所にほど、虫の気配が多いのだ。
 そうして、幾つ目かの広場に差し掛かった時「コロコロコロコロ」と澄んだ、鈴を転がすみたいな音が鳴った。
 1匹ではない。2匹でもない。
 3匹か4匹、或いはそれ以上の数のコオロギが姿を見せずに鳴いているのだ。
「ふぅ……ふぅ。大丈夫大丈夫。会長は無敵会長は無敵」
 虫の気配を身近に感じて、茄子子の顔色が悪くなる。
「虫如きに魅了されてしまうだなんて、あまりにも愚かですもの! 私ちゃんは人を魅了する存在であるべきですわ~!」
 ふら、と覚束ない足取りでルエルは音の鳴る方向へと歩き始めた。まるで夢でも見ているみたいな、幸せいっぱいといった風な顔をしているが、その瞳は虚ろであった。
「ちょっとちょっと! あまり無計画に進まれると困りますよ! 帰り道のアテはあるんですか? 単純な曲がり角ですら同じ景色が……」
「アジ? えぇ、もちろん。虫の育成が非常食目的なら、味見も必要でしょう?」
「あ、あれ? 話が噛み合ってないです、これ?」
 ルエルをその場に引き留めながら、ヨハンは目を丸くする。ヨハンに手首を掴まれながらも、ルエルは先へ、音の鳴る方向へと進もうとしているのだ。
「BSを付与してくるのが困るわね〜」
 背中の翼を大きく打って、リリーベルが頬にそっと指を添わせた。
 それから、腕をゆっくりと一振り。
 ばら撒かれた淡い燐光が、周囲一帯をほんの一瞬、白色に照らした。
「こら〜! 佃煮やお煎餅にしちゃうわよ〜〜!」
 パン、と両手を打ち鳴らす。
 瞬間、燐光が泡のように弾け散った。
 リリーベルが手を叩いた音に驚いたのか、コオロギの鳴き声も止まっている。どうやら、コオロギたちは臆病な性質らしい。ほんの刹那のうちに、どこかへ逃げ去ってしまったようだ。

 培養プラントは、まるでアリの巣のようだ。
 ヨハンやリリーが、分かれ道の度に目印を書き込んでいるが、そうでもしなければきっとすぐに道に迷ってしまうだろう。
「結構進んだよね。時間の制限があるらしいし、安全に戻るのなら猶予が欲しいかも」
「えぇ、そうですよね。僕はアントマンをまず信頼していないので安全マージンとして10分は見たいです。ギリギリまで視察して帰り道にコオロギの大群でもいたらもう終わりですからね」
 リリーが壁に黒いインクで矢印を描いた。
 時計を見ながら、ヨハンは顎に手を触れる。
「そうかな? アントマン……動物の世話とか乗ってしやすそう。潜入の時も小さくなってさ、見えにくくなってさ。色々使えるよねっ。……買えたり借りたりできないかなぁ?」
「……本気で言っています?」
 リリーとヨハンで、アントマンに対する印象は正反対のようである。安全性や効力の持続に難があると考えるヨハンと、実用可能と判断したリリーのどちらが正しいとも言えないが、少なくとも今回のような調査任務には有用だろう。
 安全性に配慮されていないという事実に目を背ければ……ではあるが。
「何々を取ってこいだの膨大なサンプルデータを採取しろだの言われていないので浅い階層で満足してもいいくらいじゃないですかね」
 時間的には、そろそろ引き返し始めてもいいぐらいだ。
 そして、そんな時に限ってトラブルは襲って来るのである。

 暗闇で、カンテラの明かりは良く目立つ。
「あぁこっちこないで! 美味しくないから! キミよりは断然美味しくないから!!」
 カンテラの明かりに引き寄せられてか、それとも人の声か気配を察知してか。
 巣穴を進むイレギュラーズたちの前後から、合計10に近いイナゴが姿を現したのだ。
 そして、イナゴが獲物と定めたのは、事もあろうに茄子子であった。まずは2匹が跳躍し、茄子子の眼前に着地する。
 そうして前肢で茄子子を押さえつけようとした瞬間、真横からマッチョ☆プリンがイナゴの側頭部を蹴った。
 大きな眼球を蹴り飛ばされて、イナゴが絶叫をあげる。
「思ったより重いっ……!」
 イナゴを蹴り倒した反動で、マッチョ☆プリンが地面に倒れた。
 その足首が、齧り取られたかのように削れている。
 蹴りを叩き込んだ瞬間、イナゴに齧られたらしい。
「まずいな。こう狭くては刀も十分に振るえないぞ」
「そろそろ帰還を始めないと不味くないか?」
 燐光が舞い散る中、汰磨羈やフィノアーシュが刀を振るう。だが、道幅が狭く十全に加速を乗せられない。
 もっとも、イナゴの方も満足に跳躍出来ないようだ。
「それにしても、大きくて数が多い……見続けるのがつら、いや何でもない」
 刺突でイナゴを牽制しながら、フィノアーシュが1歩後ろへと下がる。
 
 前から迫るイナゴたちは、汰磨羈とフィノアーシュ、マッチョ☆プリンによって足止め出来ている。
 だが、後方にもイナゴはいるのだ。
 ヨハンやリリーベルの支援もあって、ダメージはほぼ0に抑えられてはいるものの、このまま足を止めているわけにはいかない。
 1時間が経過すれば、アントマンの効果が切れる。
 アントマンの効果が切れれば、この狭い土の中で元の背丈に戻るのだ。
 そうなっては、最低でも重症は避けられないだろう。
「逃げ道が……ない? えぇい、会長の役割はタンk……いや、会長はアタッカーです。はい!」
 最悪の事態が脳裏を過ったのかもしれない。
 茄子子は腕を振り回しながら、退路を塞ぐイナゴたちへ突撃を慣行。
「っ……!? さ、サポートします!」
「1匹、こっちにやって! 使役するから!」
 防衛ラインの崩壊を防ぐべく、ヨハンが腕を頭上へ掲げた。飛び散る燐光と魔力を孕んだ風が吹く。
 風に乗って、リリーが茄子子を追いかけた。

 暗闇に茄子子の悲鳴が木霊した。
「あ“あ”ぁ“~!」
 涙を流しながら突っ込んでくる茄子子の様子に驚いたのか、イナゴたちが道を開ける。
 空いた空間へ跳び込んで行ったのは、リリーとルエルだ。
 だが、ルエルが駆け抜けるより先に、その足首をイナゴが噛んだ。
「やぁん! 痛いですわぁ~助けてくださいまし~!」
 そのまま地面に押し倒されて、引きずられていくルエルの手がヨハンに向かって伸ばされる。放っておいても、イナゴの1匹程度を追い払うことは可能だろうか。
「使役できたよ!」
「重畳。撤収を急ごう!」
 リリーがイナゴを使役した。
 それと同時にフィノアーシュが刀を一閃。
 通路の天井部分を斬って、イナゴの群れの進行を止めた。
 これで、戦線を支える必要は無くなった。ヨハンとリリーベルが撤退を開始。
「帰るまでが遠足よ〜!」
 翼を広げたリリーベルのすぐ横を、風が一陣、吹き抜ける。
 否、風ではない。
「茄子子が限界だ。先に戦線を離……いや、一匹くらいは倒し、試食するのも手か?」
 姿勢を低くした汰磨羈だ。
 地面を滑るようにして、一目散に彼女は茄子子の後を追う。
 茄子子が道に迷う前に、身柄を拘束するためだ。

●地上への帰還
 ルエルは黄金の輝きを見た。
 それは、鎧のように輝光を身に纏ったマッチョ☆プリンだ。
「コオロギを追っかけて迷子になっちゃいけないからな! 戻ってこーい!」
 蹴りを一撃。
 イナゴの首が不自然な方向へと曲がる。
 それからマッチョ☆プリンは、倒れていたルエルを起す。ルエルを引き摺るようにして、仲間たちの後を追う。
 興奮しているのか、イナゴたちはルエルとマッチョ☆プリンを追いかけた。ともすると、マッチョ☆プリンが美味しそうに見えたのかもしれない。
 マッチョ☆プリンの右手はイナゴの脚を、左手はルエルの手首を掴んでいる。迎撃に回す余力は無い。
 代わりにルエルが、背後に迫るイナゴの顔へ魔力の弾丸を撃ち込んだ。

 “アントマン”を潜ってから54分。
 一行は地上部分へ帰還していた。
 立っているのは7人。地面に倒れ伏すのが1人。
 倒れているのは茄子子である。
 帰還中にも色々とあったのだ。とても、語り切れないほどに色々なことが。
「あらあら~?」
 リリーベルが頬を突くが、茄子子はピクリとも動かない。
 気絶しているわけではない。茫然自失としているだけだ。
「……今度は、何を食べているんだ?」
 フィノアーシュがマッチョ☆プリンへ問いかけた。
 マッチョ☆プリンが何かを食べていることに気付いたから。
「ん? 今口にあるの? 土ー!」
 マッチョ☆プリンが食べていたのは土である。
 培養プラントの虫たちは土を喰う。だが、その土を人も食えるとは限らない。
 マッチョ☆プリンが“人”かと言われると疑問は残るが。
「土……お味はどうだ?」
「美味しいけど飲み込み辛いなー! ……あ! それなら最初から噛むだけにすれば……これで凄いガムプリン作れるかも!」
「……食用に向いていても絶対に食わんぞ」
 イナゴも、土もだ。
 口元を手で覆い、ヨハンはそっとマッチョ☆プリンから視線を背けた。
 
 ヨハンが視線を背けた先には、イナゴを囲むリリーと汰磨羈、それからルエルの姿があった。
 3人はイナゴの遺体を検分しているようだ。
「ストレガさんって虫が好きなのかな?」
「ふむ……このイナゴ、市場に出回るのは何時だ?」
「すんすん……あら? あらあら、此方とても心惹かれますわね♡ いただいてもよろしいかしら?」
 ヨハンは咄嗟に目を閉じた。
 いただきまぁす♡ なんて、ルエルの声が聞こえた。
 それから、しばらく……。
 ばり、ばり、しゃく……と、何かを咀嚼する音がした。

成否

成功

MVP

ヨハン=レーム(p3p001117)
おチビの理解者

状態異常

楊枝 茄子子(p3p008356)[重傷]
虚飾

あとがき

お疲れ様です。
無事に培養プラントの視察を完了しました。
依頼は成功となります。
ドクター・ストレガも喜んでいます。やっぱりイレギュラーズに頼んで正解でしたね。

この度はご参加いただきありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。

※なお重症は精神的なものです。

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