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シナリオ詳細

旅立つ試練の白ウサギ

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●カラクサ・フロシキウサギ
 フロシキウサギは孤独を嫌い、巣穴を掘って常に群れで暮らしている。それは天敵の多い覇竜で生きる知恵であり、命綱であった。
 しかし大きな群れにはリスクも伴う。それはエサ資源の不足であったり、感染症の蔓延であったり。あるいは巣内の場所取りを巡る、喧嘩であったり。

 そうした問題が起こり始めると、自ら群れを離れていく個体が現れる。まだ若く、けれど幼すぎず、何より栄養状態の良い、強い個体が群れを離れていく。だがそれは群れを助けるため、群れに残るウサギたちのためを思った自己犠牲……などでは決してない。フロシキウサギたちはそれぞれ、自分のためにこそ生きている。
 群れを離れたフロシキウサギは、アルファ化を目指す。それはフロシキウサギにとって大きな賭け、そして大いなる野心であった。

 フロシキウサギのアルファ化。それは彼らが単独で生きていくために必要な、試練と成長である。
 満月の日にいずこかに生える、カラクサダケ。群れを離れたフロシキウサギたちは、匂いを頼りにそのキノコを目指す。その道のりはフロシキウサギにとって大変厳しく、道半ばで力尽きる個体も多い。けれども無事、カラクサダケを食べることができたなら。孤独に対する耐性、長寿、病気に強い身体、そしてフロシキの色に関わらず、白色の花を出す特別な力を授かることができるのである。
 こうしてアルファ化したフロシキウサギを、その外見から、カラクサ・フロシキウサギと呼ぶ。

 アルファ化によって得たこの力を以て、旅をし、他のカラクサ・フロシキウサギと出会い、2匹で新たな群れを作る。新しい群れ――すなわち何十何百という、山ほどの子孫たち!
 それはまさにウサギの夢。ウサちゃんドリームであった。

●旅立つウサギの護衛依頼
「こうしてまた来ていただき、き、恐縮です……」
 以前訪れた集落の、依頼人の家。その依頼人であるダグラスは、緊張した面持ちでイレギュラーズたちを迎えた。彼の後方には愛娘のリリィが、またもやご機嫌斜めといったふくれ面で控えている。
「えぇと、皆さんは、その、護衛の仕事も引き受けてくださると、聞いたものですから。……でも今回はその、ウサギの……」
 ウサギの護衛依頼。果たしてこのような仕事を頼んでも良いのだろうか。失礼に当たらないものか。ダグラスはおろおろしながら、イレギュラーズたちと、リリィの顔色を伺っていた。

「ただのウサちゃんじゃないって言ってるでしょ! みんなリリィの友だちなの! お父ちゃん、やっぱりなんにも分かってない!!」
 そうして要領を得ないダグラスの後方から、リリィが叫ぶ。そのままずんずんとイレギュラーズたちの前へ進み出ようとした彼女の肩を、ダグラスが慌てて引き寄せた。
「……ウサちゃんたち、このごろなんか、へんだったの。それでリリィ、ばあばに聞いたの。そしたら、ウサちゃんたち、旅にでて、あるはか? するんだって」
 ずずずっ、と鼻をすすりながら。リリィは訴える。

「あるはか、とってもあぶないんだって。し、死んじゃうかもしれないんだって……」
 ついにぼろぼろと泣き出すリリィ。ダグラスは娘をぎゅっと抱き上げて、頭をなでた。
「すみません、皆さんにこんなことを…… でもどうか、どうかおらのリリィのために、どうか、よろしくお願いします」
 そしてダグラスも、リリィを抱きしめておいおいと泣き始めた。

GMコメント

 こんにちは、キャッサバです。アフターアクションありがとうございます。
 元となったシナリオ「花を撒く白ウサギ」も読んでいただけると嬉しいです。

●目的
 アルファ化を試みるフロシキウサギをサポート、護衛してください。うまく信頼を得ることができれば、依頼達成後もついてきてくれるかも……?
 アルファ化を目指すフロシキウサギは多くないので、お一人につき一匹守っていただければ十分です。

●フロシキウサギ
 色とりどりのフロシキを背負った白ウサギ。嬉しいときや楽しいときにフロシキを振って、フロシキと同じ色の、タンポポくらいの花を出すことができます。花は1時間くらいで消えます。

●アルファ化
 本来単独では生きられないフロシキウサギが、群れを離れる際に行うものです。単にカラクサダケを食べるだけでなく、その工程も必須です。

●カラクサ・フロシキウサギ
 アルファ化して、フロシキに白いカラクサ模様が入ったフロシキウサギ。孤独に耐性がつき、病気に強くなり、寿命が数十年伸びます。そしてフロシキの色にプラスして、白色の花も出せるようになります。

●カラクサダケ
 フロシキウサギをアルファ化させる、カラクサっぽい見た目の白いキノコ。食べたウサギの寿命を数十年伸ばし、心身を強くします。そしてカラクサダケ自身はフロシキ部分に寄生して、自らも分布拡大を目指します。
 フロシキウサギを誘うため、できるだけ高所に子実体(キノコ部分)を生やしたがります。またアルファ化する準備の整ったフロシキウサギ以外にとっては、猛毒でもあります。

●試練の道と時間経過
1.巣穴を離れ、森の中を進む
 午前。出発したフロシキウサギは元気に走ります。イレギュラーズが近くにいてくれたほうが安全、とは思っているので多少は速度を緩めてくれますが、それでも速いです。
2.川を渡る
 川中の岩に跳び乗りながら、うまく進もうとします。しかし流れは激しく、ウサギ的に恐怖です。
 音もかなりうるさいし、行こうか止めようかと迷ってぐるぐるする子がいそうです。
3.休憩
 午後。草など食べて休憩します。ここでしっかり体力を回復させたいところです。
 しかし群れを離れた寂しさが、そろそろ募ってくる頃でもあります。ピィピィキュウキュウ鳴いて、しょんぼりし始めます。
4.崖上り
 夕方~夜。崖の割れ目に生えるカラクサダケを目指し、上ります。身体が小さいし軽いので、ほんの少しの足場があればちゃんと進めます。が、巣穴を掘るための爪と毛に覆われた足では、ゆっくりとしか進めません。
 そして崖の上はミニワイバーンの繁殖地となっており、上るにつれて襲いかかってきます。襲われた場合、フロシキウサギはキックで牽制しながら崖下にダイブして逃げます。ダイブによる怪我はありませんが、地上からやり直しとなるため体力はかなり消耗します。
 なお本日は満月のため、日没後もそれなりに明るいです。

※何色のフロシキの子を護衛したい、などご希望があれば書き添えてくださいませ。反映いたします。
(フロシキは白以外、そして単色でお願いいたします)

●ミニワイバーン
 カラクサダケの生える崖、の頂上で巣営中。とてもたくさんいます。上ってきたウサギたちを食べるつもりはありませんが、縄張りへの侵入者と見なして襲ってきます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 旅立つ試練の白ウサギ完了
  • GM名キャッサバ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年03月18日 22時15分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

リカナ=ブラッドヴァイン(p3p001804)
覇竜でモフモフ
ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)
優穏の聲
赤羽・大地(p3p004151)
彼岸と此岸の魔術師
ロウラン・アトゥイ・イコロ(p3p009153)
ムサシ・セルブライト(p3p010126)
宇宙の保安官
ユーフォニー(p3p010323)
竜域の娘
紫暮 竜胆(p3p010938)
守護なる者
ピリア(p3p010939)
欠けない月
セシル・アーネット(p3p010940)
雪花の星剣
高橋 龍(p3p010970)
名誉マッチョ・ネットワーク

リプレイ

「大丈夫でありますよ、二人とも。必ず彼等を守って見せるでありますから! この宇宙保安官、ムサシ・セルブライトが約束するであります!」
 泣きながら巣穴まで見送りに来た父子に、『宇宙の保安官』ムサシ・セルブライト(p3p010126)が力強く請け合った。ムサシの傍らには、青いフロシキのウサギ。ここでは仮に、この子を「コジロー」と呼ぼう。
「そうですよ、リリィさん。安心してください。僕達がかならずウサちゃんたちを守ってみせますから」
『雪玉運搬役』セシル・アーネット(p3p010940)はう膝をつき、リリィに誓う。リリィは片手で父にしがみついたまま、ゆびきりを求めてきた。セシルは立ち上がり、優しく微笑んで指をからめた。

「イレギュラーズは何だってお手伝いしますから、安心してくださいね!」
『相賀の弟子』ユーフォニー(p3p010323)は、いまだ不安そうなダグラスに笑いかけた。ダグラスは、ぐすんぐすんしながら頭を下げた。
「大丈夫だ、ウサちゃん達は必ず俺達がアルファ化させてくるから、待っててくれ!」
 そして高橋 龍(p3p010970)はニカッと歯を見せて笑い、勇ましくポーズを取った。そんな龍の傍らには、紫色のフロシキウサギ。龍に合わせるように足を踏みならし、すでに相性の良さとやる気を見せるこの子のことを、ここでは仮に「りゅう」と呼ぼう。

『欠けない月』ピリア(p3p010939)は海色のフロシキウサギを見つけ、近づいていった。
「はじめまして、ピリアなの! いっしょに、がんばろうなの!」
 元気よくあいさつしたピリアに、ウサギは鼻先を近づける。そして花を撒いて応えたこの子を、ここでは「うみちゃん」と呼ぼう。

『覇竜でモフモフ』リカナ=ブラッドヴァイン(p3p001804)は焦げ茶色のフロシキウサギを抱き上げ、さっそくモフモフしていた。白色の毛並みが艶々と輝く。
 リカナのモフモフトリートメントをうっとりしながら堪能しているこの子を、ここでは「みやびちゃん」と呼ぼう。

「よし、君のことは『茜』と呼ぼう。よろしくな」
『彼岸の魔術師』赤羽・大地(p3p004151)は赤色のフロシキウサギに話しかけ、そう名付けた。
「おイ、大地? その名前、赤羽様と若干被ってねぇカ?」
 すぐさま赤羽が異議をとなえるが、大地は取り合わない。
「大丈夫。茜の方が数百倍かわいいし」
 名前が気に入ったのか、茜は花を振り撒いた。

(ふわふわの命…っ!! この命に代えても守り通さねばならない……っ)
 決意のニギリコブシをぐぐっと。『かわいいもの大好き倶楽部』紫乃宮 竜胆(p3p010938)は固く誓った。そして辺りを見渡して、ふあぁ、と大あくびをしているウサギを見つけた。
 この薄灰色の子も、アルファ化するつもりなのか。一応旅立つっぽい雰囲気を出しているこの子を、ここでは「くもりちゃん」と呼ぼう。

 ユーフォニー巣穴のほうへ目を向けた。朱色のフロシキウサギが後ろ足で立ち上がって、じっと見つめていた。
「ユーフォニーです、今日はよろしくお願いします♪ あなたのお名前は何ですか?」
 話しかけたユーフォニーの言葉に、朱色の子は「プイプイ」と鳴いてみせた。それは個々の名ではなく、彼らが仲間を呼ぶときの発音であったけれど。
 ユーフォニーはこの子を「ぷいぷいさん」と呼ぶことにした。

 セシルは水色のフロシキウサギにと話しかけ、しばし悩んだ。
「名前が無いと呼びづらいですね…この冒険が終わるまで『フィア』と呼んでもいいですか?」
 フィアは花を撒いて、それに応えた。
「ふふ、よろしくお願いします! さあ、行きましょうか!」
 そうしてフィアも、他のウサギたちも。アルファ化を目指して走り出した。

●走るウサギ
(長く生きられるようにアルファ化する……。それが本能に刻まれているんですね)
 走り出したウサギたち。ロウラン・アトゥイ・イコロ(p3p009153)はそれを追いかけながら、彼らの生態について考えていた。
 そしてロウランが護衛することとなった、ピンク色のフロシキウサギ。ナデシコのような色のこの子を、ここでは「なでこちゃん」と呼ぶことにしよう。
 なでこちゃんはロウランを、ちらちら振り返って確認していた。

 走る『優穏の聲』ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)と、前を行く薄桃色のフロシキウサギ――「ももちゃん」。ももちゃんは出発前、ゲオルグから距離を取っていた。彼の厳めしい容貌が、ちょっとこわかったのかもしれない。
 しかし思いの外優しい声色で「ウサちゃん」と呼びかけられ、おや? と思ったようだ。ゲオルグがついてこられるのかどうか、ときどき試しでもするように速度を上げながら。ももちゃんは間違いなくゲオルグを気にしていた。

「ぷいぷいさん、もうちょっとだけゆっくりお願いします……!」
 ユーフォニーは周囲を俯瞰することにより、危険がないことを確認していた。と同時に走っていたので、少し速度が落ちていた。置いて行かれそうになるたび、ユーフォニーはぷいぷいさんに声をかける。
 ぷいぷいさんはユーフォニーが周囲を警戒してくれていることに、気づいているのかいないのか。立ち止まって待ち、プイプイ鳴いた。
 ユーフォニーたちを、茜と大地が並走しながら追い抜いていく。大地の跨がるサメっぽいものに茜はびっくりしていたが、走るうちに慣れてきたようだ。

 龍は出発前にりゅうと意思を疎通させ、カラクサダケのある方角を聞き取っていた。そしてカラスを使ってその道程を偵察し、皆にも伝えていた。
 おかげで龍にとって、ここは一度通ったも同然の道。しっかりとりゅうについていくことができた。
「…にしても、気張るのはわかるが急ぎ過ぎじゃねぇか?」
 それにしても速く走るりゅうに、龍は笑った。しかしりゅうは「まだまだ!」とでも言いたげに、さらに速度を上げてみせた。

 くもりちゃんが走り、その後を竜胆が追う。ぼんやりした印象の子だったがさすがウサギ、速いものだ。
 などと竜胆が感心している最中、くもりちゃんは急に向きを変えて脇道に逸れた。竜胆が慌てて追いかけると、くもりちゃんは何故かクモの巣まみれになっていた。
 竜胆はクモの巣を取ってやりながら、この子大丈夫だろうかと思った。
「どうしたでありますか!?」
 道を逸れた竜胆たちを心配して、コジローとムサシがふたりのもとへ駆けつけた。

 ピリアはうみちゃんについて行こうとしてつまずき、転んでしまった。走るのは苦手であった。ぺたんと倒れた彼女のもとへ、うみちゃんは引き返してきてくれた。
「ピリアさん、大丈夫ですかー?」
 そして後方から、セシルがトナカイのマーシーが引くソリに乗って、声をかけてきた。走りに自信がないというリカナも、そのソリに同乗していた。
 そうして3人が乗ったソリの前を、3匹のウサギが走り。試練の旅は続いた。

●跳ぶウサギ
「滑って落ちても大丈夫。自分が助けるでありますから、勇気を出して渡って!」
「きっと絶対大丈夫です。ためらいには勇気を……!」
 そうしてやってきた、川岸。ムサシは川中の岩のそばで、いつでも受け止められるように身構えていた。そしてユーフォニーは、一緒に跳んでみようと促した。
 意を決したコジローが、次いでぷいぷいさんが。ぴょんぴょんっと跳んだ。

「フロシキウサギ殿、ここは自分の力で乗り越えねば……」
 くもりちゃんは竜胆の尻尾にしがみついていた。竜胆はそれを断腸の思いで引きはがし、言い聞かせる。
 竜胆が先を行き、ついてくるよう呼びかけるが、くもりちゃんは来ない。
「安心してください。何かあればすぐに助けてあげられますよ」
 ソリに乗ったセシルに声をかけられ、フィアに先導されて、くもりちゃんもようやく跳んだ。

 リカナが、川中の岩の上から呼びかける。しかしみやびちゃんは迷っているようだ。
「仮に水に落ちても、また私がモフモフして綺麗にするだけよ」
 モフモフトリートメントで毛並みつやつやぴっかぴか。みやびちゃんはあのステキ体験を、いたく気に入ったらしい。川へ向かい、前のめりになる。
 そして両手を広げたリカナのもとへ、みやびちゃんは思い切り跳んだ。

「茜、そろそろ先に進まないか……?」
 大地はドリームシアターを活用して、茜に川渡りの手本を見せた。
 茜は最初とても驚いたようで、動きを止めてしまったが。しかし慣れると楽しくなってきたらしく、映像に合わせて軽やかに跳び、そして戻って、繰り返し何度も川を越えた。
「大地クンとハ、違うタイプみたいだナ」
 ノリの良い様子を見せる茜と、戸惑う大地。赤羽はおかしそうに両者を見比べた。

 ゲオルグは震えているももちゃんの姿に、胸が締め付けられるようだった。
 流れは急で、とても怖いのだろう。先に跳んで手本を見せたゲオルグに向かって、ももちゃんは「戻ってきてよ」と哀願するように鳴いた。駆け戻って抱きしめたくなる衝動に、ゲオルグは必死に抗った。
 やがてゲオルグの腕の中に、ももちゃんが飛び込んできた。

「あのね、ピリア、お水はとってもとくいなの♪ でもでも、まだはしったりはとくいじゃなくてね? ウサギさんは、はしるのがとってもじょうずだし、ジャンプだってすごいの! だから、きっとだいじょうぶなの~♪」
 先ほどは転んでしまったピリアだったが、川へ出ると自信のある様子を見せた。水の中なら、何かあってもすぐに助けてあげられる。先行し、ピリアさえへんと胸を張る。
 そして問題なく跳んだうみちゃんは、ピリアをいい子いい子した。
「大丈夫だ! お前らなら出来るって! ドラゴンたる俺が保証してやる! 漢は度胸だぜ!」
 そしてこちらも問題なく跳んだ、龍とりゅう。一人と一匹はそろって美々しくポーズをきめながら、皆を応援していた。

 残る一匹、なでこちゃん。なでこちゃんはロウランの腕に抱きついて、運んでもらう気満々であった。腕を振っても離れようとしない。
 川の音が、怖いのだろうか。考えたロウランはおもむろに、アシカールパンツァーを構えた。直後、派手な光と音が、川の音を塗りつぶす。どどどーん!
「どうです、この世には川の音より大きな音があるものですよ?」
 それはもう、なでこちゃんは目にもとまらぬ速さで川を越えていったけれど。ロウランさんはなかなかやるものである。

●鳴くウサギ
「どうかなフィア、美味しい?」
 つかの間の休憩。草を食むフィアの背を、セシルはそっとなでていた。巣を離れて寂しいのか、フィアは元気がない。
 近くではなでこちゃんが、ロウランにぎゅうぎゅうと抱きついていた。こちらは寂しさがどうというより、アシカールパンツァーのトラウマかもしれない……

 くもりちゃんは竜胆の膝のうえで丸くなり、しょんぼりしていた。薄灰色のフロシキと相まって、雪だるまのようである。
「……大丈夫、今は私がついている」
 そんなくもりちゃんをなでながら、竜胆にはくもりちゃんの気持ちが、我がことのように理解できた。
 一人は寂しい。寂しいは、つらい。
 竜胆はごく優しげに目を細め、くもりちゃんに食事を促した。

 ゲオルグはももちゃんを優しく抱きしめていた。
 よしよし、よしよしよし、と頬ずりしてくるゲオルグを、ももちゃんは「やめてよー」とでも言いたげにぺしぺし叩く。そのくせ腕から逃れる気配はない。薄桃色の花が、フロシキから飛び出していた。

「寂しいのはわかるぜ? けどお前らはアルファ化する為にここまで来たんだろ? 大丈夫、俺達が付いててやるから…立派になって群れの連中に見せてやろう」
 悲しみを堪えるようにじっとたたずむ、りゅう。龍はその横に立って、語りかけた。
 やがてりゅうは龍の肩に跳び乗り、ふたりは同じ景色を見つめる。その先には、崖。もはやふたりに言葉はいらなかった。

 ユーフォニーはぷいぷいさんをソーちゃんに乗せて飛び立った。ぷいぷいさんは興味津々といった様子で上空の景色を眺め始めた。
 仲間を想う寂しさも、大切な気持ち。でも同じくらい、楽しい気持ちになってくれたら。
 ユーフォニーはそう願いながら、ぷいぷいさんが落ちないよう、そっと支えた。

 リカナはみやびちゃんを、モフモフモフモフしていた。すでに美しいみやびちゃんの毛並みが、より一層輝く。もはや神々しいほどである。
 ただしみやびちゃんの顔は、完全にとろけきっている。みやびちゃんの周囲はお花畑になっていた。

「自分も…家族とは離れ離れでありますし、元の世界に帰れるか分からない。…二度と会えないかもしれない。そう思うと、とても怖くなるであります」
 ちょこんと座るコジローの横に、ムサシも三角座りで肩を並べて。ムサシは寂しがるコジローに、自らの心情を語った。
「でも、この世界で出会った人達に勇気を貰ったから、自分は今、勇気を出してヒーローになれている。今度は、自分が与える側になりたい」
 決意とともに、ムサシはコジローを見つめる。絶対に、君は一人じゃない。
 その思いが伝わったのか、コジローはフロシキを振り、花を撒いて応えた。

 歌うピリアの周りに、様々な景色が浮かんでは消える。それはピリアがこれまで見てきた、たくさんの素敵なもの。
 この旅の先、大変なことを乗り越えた先には、たくさんのわくわくが待ってるよ。そんなピリアの気持ちを受け取って、うみちゃんはたくさんの花を撒いた。

 茜が鳴いている。
 大地は茜のために、干し草の香りを調香していた。
「……」
 大地を見ながら、赤羽は考えていた。
 本来ならば、ウサギだけで辿るはずだったこの道中。過去には何匹ものウサギが、志半ばで命を落としたのかもしれない。赤羽は大地にそのことを伝えた。
「君達の無念は、ここで祓おう。だから」
 そしてふたりはウサギの霊魂に話しかける。
「茜ヲ、望む場所まで見守ってくれヨ」
 いくつもの透明な花が、空に溶けていった。

●登るウサギ
「今なら行けるぞ、茜!」
「テメェのその脚デ、目的の場所まで飛んで見せナ!」
 ミニワイバーンが群がってくる。大地はインク瓶から光と音を飛び出させ、囮と目くらましを行っていた。その隙に、茜は崖を上っていく。

 そして大地に襲いかかろうとしたミニワイバーンを、龍の炎が防いだ。
 飛行する龍の眼下には、崖を懸命に上ってくる、りゅうの姿。龍に激励されたりゅうは、見るからに闘志を燃やしていた。
「テメェらに恨みはねぇが、相棒たちのアルファ化の為に退いてもらうぜ! ヒャッハー!」
 龍は大喝し、ミニワイバーンたちを追い立てた。

「縄張りなのにごめんなさい、でも少しだけ見逃してくれませんか…!」
 ユーフォニーはぷいぷいさんへ近づこうとするミニワイバーンを、彩波揺籃の万華鏡で迎え撃った。次いで今井さんが書類を投げていく。
 そしてみやびちゃんは、優雅な足取りで崖を進んでいた。襲いかかろうとしたミニワイバーンは、リカナの奈落の呼び声によってすみやかに取り除かれた。美しすぎる毛並みをそよがせて、みやびちゃんは上っていく。
 なでこちゃんはロウランから離れようとしなかったが、他のウサギたちが上り始めると、しぶしぶ崖に取りついた。なでこちゃんには分からなかったが、ロウランの放つ不可視の刃が、行く手を遮る者を払い落としていった。

「こんなの痛くないよ。大丈夫。さあ、もう少しだよ、フィア!」
 セシルはフィアを、ミニワイバーンの攻撃から身を挺して守っていた。フィアに微笑みかけ、安心させる。再度襲いかかったミニワイバーンを、セシルは光撃によって退ける。
 一方竜胆は、大変な不安に襲われていた。くもりちゃんは……どう見ても、「鈍くさい」。うまく崖を上れていない。そのうち自滅しそうな予感がする。
 紫電でミニワイバーンを痺れさせ、押しとどめながら。竜胆は苦悩していた。

 そんなとき、くもりちゃんのもとへうみちゃんがやってきた。
 うみちゃんはくもりちゃんに身を寄せ、ふんふんした後。くもりちゃんを導くように、一緒に崖を上り始めた。覚束なかったくもりちゃんの足取りが、しっかりとしたものに変わる。
「フロシキウサギ殿……!」
 ちょっと感動した竜胆は、うみちゃんに謝意を示す。この2匹だけでなく、今ここにいるウサギたちは皆同じ巣穴の出身。同級生のようなものなのかもしれない。
「ウサギさん、がんばって、なの!」
 さらにうみちゃんは、崖下でハラハラしているピリアに向けて、花を一輪投げた。世話上手、気配り上手。うみちゃんはガッキュウイインチョウだった。

「輝勇閃光…ブライト・エグゼクションッ!」
 ムサシのレーザーブレードがミニワイバーンを追い払う。するとコジローは、それに共闘する姿勢を見せた。落ちていくミニワイバーンに、蹴りを加えただけではあったが、それでも。
 一緒に頑張る。
 そう決めたのは、ムサシだけでないようだ。

 カラクサダケまであと一歩。しかし近くに足場がない。どうしたものかと、ゲオルグはももちゃんを見つめる。
 するとももちゃんはゲオルグの身体を足場代わりに目一杯跳んで、カラクサダケを口でキャッチした。
 しかしそのまま落下しかけたところを、ゲオルグが抱きとめた。良かった。そして危なかった。
 心臓がバクバクいっているゲオルグの腕の中で、ももちゃんのアルファ化が始まる。

 日が沈み、月が輝きだしたとき。カラクサダケを食べたフロシキウサギたちが、燐光を纏う。

●カラクサ・フロシキウサギ
 キラキラキラと、燐光が輝き、そして消えると。うみちゃんのフロシキに、くっきりとした白いカラクサ模様が現れた。
 ピリアはうみちゃんを抱きしめ、それから歌い始めた。光が浮かび、そして海色の花と白色の花が辺りを彩る。
「怖かったかな? でも、わくわくしたでしょ? ねえ、僕と一緒に冒険に行こうフィア!」
 セシルは嬉しそうにフィアを抱きしめ、話しかけた。フィアのフロシキから、水色と白色の花が次々飛び出した。

 茜は大地の周りを走り回っていた。
「次はどこ行く?」とでも言いたげな様子の茜は、聞かれずとも大地と一緒に、どこまでも行くつもりのようだ。

「これで依頼は完了?」
 リカナはみやびちゃんをモフモフモフモフモフモフしていた。
「このウサカワはモフい。可能なら番でアルファ化したのを私の世界に持ち帰りたい。四組くらい」
 みやびちゃんはつやっつやのキラッキラ。
「でもカラクサダケが問題ねー」
 みやびちゃんはリカナの腕の中でとろけ果て、すっかり液体化していた。

 ロウランは採取したカラクサダケを解析していた。ゾンビ茸的な物の可能性も考えつつ。
 しかし解析の結果、少なくとも悪い物ではないようだ。カラクサダケとフロシキウサギは、共利共生しているのだろうか。
 ムサシはコジローを肩に乗せ、龍はりゅうと拳(と前足)を合わせ、それぞれの健闘を讃え合っていた。
 くもりちゃんは竜胆に抱えられ、安心しきったように寝息を立てていた。前足で竜胆の肩口にしがみついて、離れるつもりはないようだ。

 そして、依頼人の家へ戻り。
 ユーフォニーは今日の冒険をリリィに語り、アルファ化したぷいぷいさんを見せた。
 リリィはとても嬉しそうに跳ね回り、それからぷいぷいさんをそっと抱きしめた。ダグラスも何度も何度もお礼を言い、感極まった様子だ。

「お達者で? 沢山の群れができるといいですねぇ」
 依頼人への報告も済ませ、やがて帰路に着こうというとき。別れのあいさつなどしてきたロウランに、なでこちゃんは大ショックを受けた。確かにアルファ化して、ひとりでも生きていけるようになった。でも決して、ひとりで「生きたい」わけではないのです!
 去っていこうとするロウランの腕に、なでこちゃんは力一杯しがみついた。もう絶対、離さないぞ――!?

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

ご参加ありがとうございます。

皆様の冒険のお供にふさわしくなるよう、生態をいろいろ考えました。ぜひ様々なところへ連れていってあげてください。
そしてそのうち、いつの日か、私のシナリオにこの子たちがまた皆様と一緒にやって来るのかしら……?? という可能性を考えただけで、顔がにやけてしまいます。うふふうふ。

またよろしくお願いいたします。お疲れ様でした。

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