シナリオ詳細
<被象の正義>空砲は劣情を抱いた故に、まばらな言語の異界を制覇した。
オープニング
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テセラ・ニバスを侵食して現れた異言都市(リンバス・シティ)。その一区画に、カムイグラにのお祭りのような雰囲気になっている場所があるらしい。
「まぁ、あくまで雰囲気だけさ。そこにいる人たちは、元々そこに住んでいた人たちだからね」
そうイレギュラーズたちに伝えたのは、『黒猫の』ショウ(p3n000005)だ。
「それで、だ。このお祭り区画にいる人たちが、おかしいのさ。いや、どの区画にも異言を語る人たちがいるのだけれど……ここは、通じそうで通じない異言を語るのさ」
通じそうで通じない、というのはどういうことだろうか。イメージしづらいからか、ある者は首を傾げた。
「使ってる言葉はこの世界のものなんだけど、会話にならないというか……いや、異言を使っている人同士だと通じているような素振りは見せるんだけどね。まぁ、現地に行けば分かるさ」
成程、分からん。とりあえず、「行けば分かる」ということなので、現地に行くしかないのだろう。
「それで、私たちは底に行って何をすればいいの?」
「ああ、簡単さ。異言でおかしくなった原因を調べて、その原因を倒す。それだけさ。ああ、でも――」
ショウが真剣な顔つきでイレギュラーズたちに忠告する。
「ミイラ取りがミイラにならないように。異言を語る人たちは狂人となって、理性が一部飛んで襲い掛かってくるみたいだから。間違っても、自ら進んで異言を語る者にならないように、ね?」
同じ異言を語る者になれば、何か分かるかもしれない……なんて思った者もいたが、それは止めておけ、と釘を刺された。ならば、正攻法で行くしかない。
依頼を受けたイレギュラーズたちは、偵察を兼ねて現地へと向かった。
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その区画は文字通りお祭り騒ぎの真っ最中だった。これが何の異変もなければ、きっと楽しめただろう。しかし、ローレットに依頼が舞い込んでいる時点で察して頂けるだろう。――その区画は、文字通りお祭り騒ぎの真っ最中だった。
「層状のデルタに紺碧の合理化を図り、闇夜のセンテンスが感情を乗り越え……」
「いえいえ、これは鋳造機で濾した基礎の基礎ですよ」
「ああ、つまり焚火のサムズアップということですね!」
「そうです! これは有機化合物の故意なのです!」
「ははあ、ということは道中の各ご家庭による砲塔のバリアフリーですか」
「ええ、ええ。つまりは溶状ということです」
そこかしこにある屋台から聞こえる会話は、理解はできるが理解ができない言葉の集合体だった。ショウが「行けば分かる」と言ったことが、なんとなく分かった気がした。
隠れながら偵察を続ける。屋台が並ぶ道の先には、一つの大きな祠のような物があった。その祠の前に青年が拘束された状態で連れてこられた。
「さぁさぁ、東の友情を切に願う!」
「止めろ! 離せ! 何なんだよ、何を言って……っ」
必死に抵抗する青年。彼は急に変わった街並みに混乱している間に拘束され、周りの人たちの会話についていけず、ここまで連れてこられたらしい。
祠の扉が開き、黒い何かが現れた。そこに鎮座していたのは、黒い鳥のような形状をしたもの。それは明らかに異常なものだと青年は判断した。しかし、それが音のない声で鳴くと、青年の、頭の中が、何かが、破綻した。
「あ、ああ、あ?」
「こんにちは、理想論。さようなら、今生の議論」
青年を連れてきた者が、彼の拘束を解く。
「これが……これが、机上の空論? まるで、大団円を終えた観光地だ!」
戸惑いの感情が消えた青年は、彼を連れてきた者たちと共に、屋台の並ぶ道へと戻って行った。
「……これは、早く対処しないと」
イレギュラーズたちは、一度態勢を整えるためにローレットへと戻った。
- <被象の正義>空砲は劣情を抱いた故に、まばらな言語の異界を制覇した。完了
- GM名萩野千鳥
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年03月17日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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そこはカムイグラの縁日のような場所だった。周りにいるのは異言を語る人々。
「嗚呼、それは尚早な情操教育による、考古学的なタロイモですね」
「そうそう、ビリジアンによる総計が……」
そこかしこから聞こえる言葉は、知っている言葉で知らない言葉だ。普通ならば、こんな文は通じない。
「これだけの人数が意味の通らない言葉を話しているとなると、なかなか壮観だねぇ」
「だな。これでいて、こいつらの中では意思疎通ができてるってんだから面白い」
この区画に足を踏み入れてから少し経ったところで、『闇之雲』武器商人(p3p001107)がそう呟いた。仲間内である程度ハンドサインを共有しているが、祠から離れている今ならば大丈夫だろうと判断したのだ。武器商人のその言葉にケラケラと笑うのは『Stargazer』ファニー(p3p010255)だ。そんなファニーの後方で、「そうか?」と返される。
「まったく理解のできない異言で通じ合われるのも困るが、その異言が語彙だけは俺たちの語彙に近くなるのもそれはそれで嫌だな……」
「ああ。言葉が通じないのは、確かにおぞましいものだ」
渋い顔をした『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)がその隣にいた『含牙戴角』イルマ・クリムヒルト・リヒテンベルガー(p3p010125)と共に、彼らを、ゼノグロシアンを眺めながら小声で会話していた。まだこの区画に入ってすぐだからか、彼らが襲ってくる様子はない。
ゼノグロシアンはお祭りのようなそれを、楽しんでいるように見えた。
「……不気味だな。敵もだけど、街全体がそうだ」
「祭りのようですが……祭りといえば神へと捧げるのが一般的です。ここではその対象が違うのでしょう? 神ではなく、ワールドイーターを祀っているようですが」
「だとしても、ですよ。私、思うんですが、宗教って強制するものではありませんよねえ。なんだか、洗脳染みていて、異様、というか、なんという、か……」
『若木』寒櫻院・史之(p3p002233)、『しろがねのほむら』冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)、『肉壁バトラー』彼者誰(p3p004449)の三人が話していると、縁日を楽しんでいたであろうゼノグロシアンの一人が、イレギュラーズたちを指差しながら隣のゼノグロシアンに話しかけた。
「これは、悠久の技巧ではないか!」
「さぁ、高速の贅を尽くさねば!」
「……これは、祠に連れ去られてしまいそうですね」
こちらに気づいてしまったゼノグロシアンたちの様子を見ながら、『高速機動の戦乙女』ウルリカ(p3p007777)はそう呟いた。彼らは何やら叫びながら、その辺にあった物だろう。包丁と言った明確に武器と分かる物から、縄や竹串といった物などを持って、イレギュラーズたちを取り押さえようと近づいてくる。
「heh、こりゃあ随分と歓迎されてんな?」
「そうだねぇ。それなら、手筈通りにやるとしようか」
武器職人がそう言うと、彼を含めたウルリカ、睦月、エーレンの四人が祠へと続く道を真っ先に駆けていく。彼らを捕えようとゼノグロシアンたちも追いかけようとするが、それはファニーや史之、彼者誰、イルマの四人がそれを阻んだ。
「今宵のダンスパーティーの会場は此方と聞きました、私たちとも踊ってくださいませ!」
「まぁ、そのふざけたお遊びは今日限りでおしまいだがな」
その言葉に、ゼノグロシアンたちは振り向いた。
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「さぁ、天井を攪乱するんだ!」
「そうすれば、バイタルの傲慢さはある程度還元する!」
『ひょっとして、あいつらは俺様たちには聞こえない周波数の副音声が流れてたり、実はテレパス使ってたりするのかね? いや、今はそんなこと気にしている場合じゃねぇけど!』
『実際の所は分からない……けれど、何かあるんだろう、ね!』
前に立っている彼者誰がゼノグロシアンの足止めをしてくれている。それをファニーと史之が意識を刈り取っていく。ファニーがゼノグロシアンの位置と数を確認しながら、ハイテレパスを使って仲間に伝えた。
一人一人は弱い。しかし、数が多い上に、時々手持ちの何かしらを振り回す。
(……手に持っている物、あれは屋台から持ち出している。それなら、屋台を崩してしまえば、)
そうすれば、一時的に彼らを止められる。少なくとも武器が手に入りづらくなる。史之はそう考えた。イルマが、ゼノグロシアンから奪った武器を片っ端から壊してはいるが、このままでは埒が明かない。ならば、試してみるのも悪くない。史之は彼者誰たちにハンドサインで、屋台を崩す旨を伝えた。
『折角の縁日なのに、勿体ないとは思うけどな。まぁ、良いぜ。俺様たちで足止めしとくから、さくっと崩してくれ』
『任せて』
史之は一旦戦線から離脱すると、屋台を一つ、また一つ崩していく。屋台内にいるゼノグロシアンも史之へと襲い掛かるが、それは各屋台の近くにいた彼者誰、ファニー、イルマの三人が都度、気絶させていく。
壊れていく屋台。これで、凶器らしい凶器を持つことは無いだろう――。四人は皆そう思っていた。
「轟々と来たる事実の、なんと芳しきことか!」
「単純なデリカシーが聴こえる!」
「あ、ああ、これがポートフォリオの道楽か……!」
まだ動けるゼノグロシアンたちの表情は、嘆いているように見える。そして、一斉に項垂れたかと思うと、急にギロッと四人の方へと振り向いた。
(……これは、)
何を言っているかは分からない。だが、屋台が壊されたことが、何かしらを刺激したらしい。ゼノグロシアンたちは、壊れた屋台の残骸を手に取る。自らの手が怪我を負おうが、別の誰かに木材の角が当たろうが、全く気にも留めていない。その姿は、まさしく狂人。
ヒュンッと風を切る音がしたかと思うと、比較的後方にいたイルマに屋台の残骸が飛んできた。イルマは直撃こそしなかったものの傷を作る。
「さぁ、爪弾く強情さを!」
更に、まだ熱いのだろう。あるゼノグロシアンが火傷を負いながらも熱されていた鉄板を持ち、イルマに向けて投げた。
「っ、」
流石に避けきれなかったイルマは、鉄板をそのまま受けてしまう。しかし、すぐに彼者誰が治療をすると、ファニーと史之がゼノグロシアンを気絶をさせる。
『まさか、崩れた屋台その物を使うなんてな』
『……屋台を崩すのは早計だったかな』
『いや、明確に凶器とされる物は減りましたから、相手にしやすくはなりました』
『そうだな。それに、武器を取り上げて使えなくするのも容易い。さっきは油断したが……問題ない』
ちらっと祠へと続く道を見る。その空には黒い鳥のような何かが飛んでいる。向こうもまだ長引きそうだ。
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ゼノグロシアンたちは追ってこない。彼らは祠へと異言を語らない自分たちを連れて行こうとしていたが……どうやら、自主的に向かう分は良いらしい。難なく、祠へと到着した。
報告によると、この祠の中に例のワールドイーターがいるらしい。ハンドサインで「開ける」とウルリカが伝えると、皆互いに頷いた。
キィ、と扉がきしむ音がしたのと同時に、四人は確かに見た。祠の中で暗い何かが蠢いている。それが、ばさっと羽根を広げたかと思うと、祠から急に飛び出した。
「……っ、」
エーレンはいつもの癖で名乗り口上を上げようとしたが、ぐっと堪える。そんな彼の代わりに、武器商人がその視線で、その気配で、ワールドイーターを、あの黒い鳥を引き付ける。
『――かかったよ』
黒い鳥の視線が武器商人に向く。ハイテレパスで伝えられたそれを聞くと、エーレンが指笛を鳴らし、白いリトルワイバーンの風花を呼び出し飛んだ。そうしてエーレンが近づいている間に、ウルレカがワールドイーターに衝撃波のような物で狙撃する。
「文頭の盃は、かの心地よい夢幻に!」
黒い鳥のようなそれの嘴から、無数の声が響き渡る。それはどこかで聞いたことがあるような、ないような、そんな声の集合体。
(これは、彼らから奪った……いえ、食べた言葉、でしょうか)
だとするならば、とウルリカはちらりとゼノグロシアンたちがいるであろう道を見る。
(彼らが話しているのは、食べ残しの言葉……?)
ならば、このワールドイーターを倒せば、彼らの言葉も元に戻るのかもしれない。ならば、やることは一つだ。出来る限り早急に、アレを倒す。
睦月に視線を送る。それに気づいた睦月はこくんと頷くと、毒の魔石を放つ。
「幸せは、光源の裏側に! 嗚呼、あゝ、吁亜吾阿!!」
足元と思われる場所が、ぐにゃりと鉤爪のような形となる。変形するとすぐに、その爪で引き裂こうとしたのだろうか。武器職人に向けて突っ込む。
『なんだなんだ。変形も出来るのかい! けど、そう簡単にやられはしないさ!』
避ける素振りも見せずに、弾丸のような何かを撃ちこむ。しかし、ワールドイーターも傷を物ともせずに突っ込んでくる。武器商人も、避けることなくその身に攻撃を受けた。だが、ヒヒッと声にならない笑みを浮かべる。
『今の内に』
『勿論だ』
エーレンがワールドイーターの背後にいたのだ。武器職人が横に避けると、エーレンはそのまま黒い鳥を叩き落とした。
「これはこれは、該当者の演武を徹頭徹尾嗅ぎながら幾ばくか!」
『まだまだ元気そうだねぇ』
『……しーちゃんと「互いに生きて帰る」と約束しましたから、ここで倒れるわけにはいきません』
『それにしても、練達で起きていた異界や夜妖に類似している気がしますが……』
『否定はしないけどね。さてはて、今回は関係があるのかないのか』
『後々分かることだ。今は、倒すことに集中した方が良さそうだな』
謎の文言を告げながら、ワールドイーターは抵抗している。それを囲みながら、飛び立とうとすれば撃ち落とし、貫く。そうしている内に、徐々にワールドイーターの勢いはなくなっていく。しかし、
「嗚呼、嗚呼……! 空砲は劣情を抱いた故に、まばらな言語の異界を制覇したのだ! カァ、かぁ、嘎!」
そう叫んだ瞬間、ビリビリと鼓膜が震えた。刹那、音波が、衝撃波が、身体を鞭打つ。
「――っ!」
どうにか、声を抑えた。抑えきった。その場にどうにか立っていた武器職人が、一撃を入れる。
『さぁ、トドメだよ』
『ああ!』
その声を聞き、最初に動いたのはエーレンだった。持っていた海洋王国聖十字剣をぐっと握りしめると、羽根と銅を切り離すかのように、振り下ろした。
「可化華科吾亞阿!!」
もう、何も理解できない言葉を発しながら、それは霧散するように消えて行った。同時に、先程の剣技に巻き込まれたのだろうか。ワールドイーターがいた祠も、真っ二つに斬られていた。
●
「っ、あ、ああ、痛い、痛っ……!」
「連れて行かなきゃ……連れて行くって、どこに?」
ゼノグロシアンだった住人たちが、困惑しながらその場にたたずむ。ある者は武器として持っていた物の所為で出来た傷に悶え、ある者は先程まで頭を支配していた思考に困惑していた。
今までカムイグラの縁日のような場所だったそこが、ぱらぱらと、元の天義らしい姿へと戻っていく。屋台だった場所は出店であり、その道の先にあった祠は、小さな井戸だったらしい。
史之、彼者誰、イルマ、ファニーの四人は、ワールドイーターを倒しに向かった道の先を見た。先程までちらちらと見えていた黒い影は無い。しばらく待っていれば、残りの四人――武器商人、ウルリカ、睦月、エーレンと合流をした。
「無事そっちは片付いたみたいだな」
「そうだねぇ。しかし、こっちはなかなか被害が大きいみたいだ」
住人たちは道のそこかしこで倒れていたり、蹲っていたりしていた。先程までゼノグロシアンとして、イレギュラーズを襲っていたのだ。被害はゼロではない。
「がんばったね、カンちゃん。ありがとう。わるいけど、もう一仕事お願い」
「うん。しーちゃん、僕のこと気遣ってくれてありがとう。僕に任せて」
史之が心配しながらも睦月にお願いをすると、彼女は素直に頷いた。彼女自身もかなりの怪我を負っているが、目の前の人たちを助けないわけにもいかない。
「……何だか、胸騒ぎがしますね」
ウルリカは一人、ぽつりと呟いた。他の街区でも様々な騒動があった。きっとこれはまだ序章に過ぎない。そうウルリカの勘が告げている。しかし、今は目の前で苦しんでいる人たちを助けるのが先だ。少しでも手伝えることがないかと、ゼノグロシアンだった住人たちの元へと向かった。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様でした。
ワールドイーターは倒され、異言を語っていた街区が一つ救われました。
ご参加頂き、ありがとうございました!
GMコメント
初めまして、こんにちは、こんばんは。萩野千鳥です。
早速ですが簡単に説明致します。
●目的
『異言を話すもの』を生み出した原因を撃退する
●地形
カムイグラの縁日のような場所です。
屋台が沢山立ち並んでいます。その道の先には、神社ではなく大きな祠のような物が一つあります。
祠がある場所は開けているようです。
●敵等
『異言を話すもの(ゼノグロシアン)』×?
元々その区画に住んでいた人たちです。文章になっているようでなっていない言葉を喋ります。
狂人化しており、包丁、暖簾、看板、串、スナイパーライフルなど、屋台にある物で襲い掛かってきます。
『ワールドイーター』
祠の中にいる黒い鳥のようなもの、です。
『言葉の秩序』を食べるようです。
飛んで羽根を飛ばしたり、突いてきたり、音波を飛ばしたりします。
詠唱が必要なものは、食われないようにご注意を。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
以上です。どうぞ宜しくお願いします!
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