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シナリオ詳細

<蠢く蠍>砂蠍の軍勢

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●砂の城が崩れる日
 木々のざわめきと鳥の声。
 幻想北部に位置する山村は静かな丘の上にあった。
 春は茶畑の収穫で賑やかになるくらいで、夏と秋はがらんとした山肌を年老いた農夫や婦人たちがゆっくりと上り下りをするばかりである。
 統治している貴族もろくに税があがらぬと見て持て余すような、幻想のはずれ。
 小さな村、である。
 ある日畑の手入れをしていた農夫は、ふと遠くの人影に目を細めた。
 曲がった腰をすこしだけ伸ばしてみる。
 虫と鳥の声のずっと向こう。人の列がゆれている。
 お役人が見回りにでも来たのだろうか。それにしては頭数の多いこと。
「おーい」
 声をかけようと手を振った、農夫は……。

 茶畑が燃えている。
 倉にあった金品や、若い娘や、上等な茶葉や……農夫たちが細々と守ってきたものの全てが運び出されてゆく。
 やめてくれとすがりつこうにも、農夫の身体は槍に貫かれカカシのように茶畑のなかにある。
 ごうごうと燃える景色のなかで、全てが喪われてゆくのを、ただ見ることしかできなかった。
「略奪は悲しいよな」
 朦朧とする農夫の目の前に、男がひとり、立っている。
「積み上げたものが奪われ、努力が踏みにじられる。立ち向かえないと気づいた時、泣き寝入りする自分を想像したとき、人生ごと終わってしまいたくなる。
 『何でこんな目に?』と誰にでも無く問いかけるようになる。
 けれどなあ、仕方ないよな。お前たちは無力で、こつこつ貯金することでしか富を得られなくて、一方俺たちは力があって、それを後から奪えるんだから。
 それに、偶然ってわけでもないのさ。あんたらは貴族の手が届きづらくて、奪い安くて、そして弱かった。なあ聞いてるか」
 振り返れば、焦げ付くにおいと炎のはじける音。
 静かな村の有様は、もう残っていない。
「ああ、もう聞こえてないか」
 男は焦げ付いたまま動かなくなった農夫をこづいて、背を向けた。
 彼の肩には、砂蠍の入れ墨があった。

●手の届かぬサソリの群れは
「『新生・砂蠍』の噂は、そっちの耳にも届いてるかい?
 幻想のあちこちに現われては破壊と略奪を繰り返し、幻想の力を少しずつ奪っている『砂蠍(キング・スコルピオ)』の軍勢さ。
 幻想貴族はそのパワーで叩きつぶしたり王への貢献度にしようとしたりと躍起だけどね。奴ら、大規模な兵を差し向ければそれこそ砂漠のサソリみたいにサッとどこかへ消えてしまうのさ。砂を掘ったって見つかりはしないよ。むしろ掘った手をさされるくらいさ」
 『黒猫の』ショウ(p3n000005)はそんな風に噂話をした。
 裏の噂や表の噂。その二つをあわせれば、『新生・砂蠍』の現状が見えてくるだろう。
 あちこちで小さく活動していた盗賊たちが、砂蠍のもとへと集い巨大な軍勢となっていた。
 そうした巨悪の誕生に一種の希望を見たのだろう。幻想の悪党たちは砂蠍の旗本へ集まりより巨大な軍勢へと膨らませてゆく。
「もう彼らはただの盗賊じゃない。『盗賊団の上に盗賊団がある状態』といえばいいかな。複数の階層に分かれた軍隊だ。
 彼らを放置すれば幻想の町は外側から徐々に食い破られ、いずれは全てを奪われてしまうかもしれない。
 花は枯れ、空を煙が覆い、教会が鐘を鳴らさなくなり、人々は笑顔を忘れるだろう。
 それを止めることが、求められているんだ」
 ショウは「軍隊めいた装備、急速に人を増やしたやり方――資金源といい、疑問も多いけどね」と付け足す。

 求められている。
 それは想像だけの話ではない。ローレットにも明確な依頼として、複数の貴族から対砂蠍用の遊撃戦力としての依頼が舞い込んできているのだ。
「今回皆に受けて貰う依頼はね、砂蠍によるある村への襲撃を食い止めるってお仕事さ」
 ローズヒルという村は幻想の端にある小さな村だ。
 砂蠍たちは幻想貴族の力が中央に集中していることを逆手に取り、こうした小さな村の襲撃を頻繁に行なっているらしい。襲撃によって喪われるものは、村の全てだ。
 もはや盗賊による略奪どころではない。戦争の様相を呈しているとすら言えるだろう。
「襲撃チームを率いているのは『案山子屋』ジャリス・パーソン。
 彼はあちこちから集めた盗賊によるチームをつかって村の襲撃を計画している。
 村の外側で待ち構えて、それを追い払うんだ」
 『追い払う』というのが大事なところだ。
 ジャリスたちの目的はあくまで略奪であるため、チームが激しいダメージを受ければ撤退するだろう。しかし追いかけて完璧に潰すとなれば戦力差からして難しい。
 村を守るという側面と、戦力バランスという側面。その二つから、『追い払う』のが適切になるのだ。
「おっと、そうそう……ラサの『赤犬』さんがお詫びをいってきたそうだよ。『面倒をかけるがよろしく』だってさ。言われなくてもお仕事ならば、ってね。
 けど相手はあの砂蠍。潰したと思ってもより強大になって現われた連中だ。
 くれぐれも気をつけて。掘った手をさされないように」

GMコメント

 砂蠍の軍勢があちこちで動き出したようです。
 端っこが弱いという幻想の弱点をうまくついてちょこちょこと略奪をしかけ、叩きつぶそうにもうまく隠れて逃げおおせてしまうという厄介ぶりです。
 大規模な兵をしかけても感づかれてしまうため、今回はローレット少数精鋭による防衛作戦が依頼されました。

【戦場】
 OP冒頭にあった村と似た雰囲気の山村、ローズヒルです。
 茶畑を背にした丘。近くの小屋に身を隠しつつ、敵たちが現われたら道を塞ぐ形で展開します。
 敵の数は多いため、仮にこちらに気づいたとしても今更ひけはしないでしょう。一旦攻撃をしかけ、PCたちを倒すことがとても困難だと気づいたら(割に合わないため)引き上げる筈です。

【敵戦力】
 『案山子屋』ジャリス・パーソンとその手下たち20人です。
 手下はあちこちから集まってきた木っ端な盗賊たちなのですが、それを率いるジャリスが強力です。
 この襲撃チームが『ある程度まで消耗』した段階で撤退すると思われます。依頼成功条件もこの時点で満たされることになるでしょう。

・『案山子屋』ジャリス・パーソン
 熟練した槍使い。キングスコルピオが動き出すまで地下に潜って兵力を蓄えていたらしい。
 対人戦闘能力すぐれ、基礎スペックは勿論のことCT値の高い戦士です。純粋に強い、と思ってください。

・手下の盗賊たち
 あちらこちらから集まった盗賊のよせあつめ。
 使う武器はナイフから銃まで沢山ありますが、全体的に攻撃手が多くごり押し作戦が得意っぽい印象です。
 勢いで負けたらすりつぶされるので、こちらも勢いよく突っ込んで蹴散らすのが最適な戦い方となるでしょう。

【アドリブ度】
 ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
 プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用くださいませ。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <蠢く蠍>砂蠍の軍勢完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年09月24日 22時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

御幣島 戦神 奏(p3p000216)
黒陣白刃
ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
日向 葵(p3p000366)
紅眼のエースストライカー
亘理 義弘(p3p000398)
侠骨の拳
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
ケイティ・アーリフェルド(p3p004901)
トラッパーガール
エゼル(p3p005168)
Semibarbaro
津久見・弥恵(p3p005208)
薔薇の舞踏

リプレイ

●砂蠍が顔を出す
 見渡す坂に茶畑。遠い鳥の声。
 およそ犯罪に縁の無い小さな村に、いま村人たちはいない。
 砂蠍の襲撃予測を受け、中心部へ避難しているのだ。
 とはいってもはっきりとしない予測に対する緊急避難。多くの財産や、その根幹である茶畑はそのままだ。
 襲来するであろう砂蠍の軍勢を退け、この土地そのものを守るのがこたびローレットに依頼された内容であった。
「相手は数が多いようです。勢いに乗せてしまえばこっちは一気にすりつぶされるでしょう。出鼻をくじく必要がありますが……」
 腕組みをして農具倉庫の屋根に立つ『月影の舞姫』津久見・弥恵(p3p005208)。
 ふと振り返ると、『トラップ令嬢』ケイティ・アーリフェルド(p3p004901)たちがトラップ作りに勤しんでいた。
「幻想の貴族は何をやっているのから、目の届かない端にこそ戦力が必要ですのに。他国から本格的に攻められたらどうするのかしら。割を食うのは、いつだって力持たない人々ですわ」
 幻想が鉄帝の南下作戦を柔軟に回避し続けていたり意外と辺境貴族が強かったりすることについて解説してくれる人はここにはいないようだ。そのかわり、ケイティのトラップ作りを手伝う人は沢山いたらしい。
「世界が違っても、罠ってのはあまり変わらないものなんだね」
 立ち上がって汗をぬぐう『Semibarbaro』エゼル(p3p005168)。
 ケイティの用意したトラップは主に落とし穴だった。というか、それが彼女の主体である。穴の底になにかしらべたべたしたものを敷き詰め、初段階の脱出を困難にするのが狙いらしい。
 敵軍に対する足止め、戦線の攪乱、進行に対する牽制……といった所か。
 統率なき軍勢は混乱に弱く、トラップは混乱を伝染させやすい。これに対抗するのは敵の指揮官の統率力ということになるが、砂蠍の軍……もとい『案山子屋』ジャリス・パーソンの統率力とはいかなるものであろうか。
「働きもせずに、他者が働いた結果を奪い、傷つけ、命さえも奪うとは……まぁ、その罪はしっかりと償って貰おう」
 ぎゅっと拳を握りしめる『ポテト先生』ポテト チップ(p3p000294)。
「無辜の命が失われるというのであれば、見過ごすわけにはいきませんわね」
 『祈る暴走特急』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)もまた、祈るように拳を握った。
「主よ、どうかこの戦いにご加護を。私に勇気をお与え下さい。そして願わくば、貴方の元へと旅立つ魂にどうか慈悲を」

 横に広い落とし穴をそこそこ上手に隠しおえた所で、『黒陣白刃』御幣島 戦神 奏(p3p000216)はごろごろしていた。
「いやー、のどか! 畑を焼かれちゃう村人さんも困っちゃう、可愛そう……ま、どうでもいいよね終わったことだからね!!」
「でも、これからのことは別ッスよ」
 サッカーボールでリフティングをしていた『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)が険しい顔をした。
「人道外れた事をする奴はどこにでもいるもんスね。……ま、一方的な略奪を黙って見過ごす訳にはいかねぇだろ」
 す、と『義に篤く』亘理 義弘(p3p000398)の手が上がった。
「そろそろだ。聞こえるか?」
 彼の鋭い聴覚は既にとらえていた。
 この小さな村を占領すべく近づく盗賊たちの足音を。
「堅気の方々から飯を食わせてもらっているヤクザとしては耳の痛い話だがよ、人様の命や金を勝手な理屈で奪っていっていいわけがねえ。矛盾してると言われようが何だろうが、てめえらがその理屈を通すなら、俺の理屈を通すまでだぜ」
 拳をしっかりと握り、きたる軍勢に身構える。
 ここは既に、戦場だ。

●開戦ののろし
 あえて、『案山子屋』ジャリス・パーソンの視点を描こう。
 ジャリスは斥候によって村の避難が済んでいることを予め知っていた。
 代わりに八人ほどの兵士らしくない人間たちの存在があることも。
 ローレット側にとって幸運だったのは、ジャリスが彼らをローレットだと気づいていなかったことと、ファミリアー等をつかった斥候で罠設置の様子に気づいていなかったことである。気づかれていた場合は回り込んで罠を逆に利用する作戦をとられかねないので、とても危険だったとも言えた。
 しかし今回は幸運にも、ジャリスは『8人を勢いよくすりつぶすだけの作戦だ』と認識したまま、部下たちに勢いよく突撃を命じたのだった。

 走る盗賊の切り込み部隊。
 彼らが落とし穴を偽装した藁を踏んだ瞬間、深い落とし穴へと次々に転落していった。
「旦那、罠だ!」
「うるせえ見りゃわかる! 飛び越えていけ! 飛行できる奴はさっさと飛べ!」
 ジャリスは怒鳴り散らして盗賊たちを更にけしかけた。
 どうやら戦闘力こそ特出しているものの、統率力はそれほどではないらしい。
 盗賊の切り込み部隊は落とし穴から這い上がろうともがき、後続の部隊はさらなる罠を警戒して保守的な丸形陣形へと歪んでいく。
「今ですわー!」
 穴を掘りすぎてかなりハイになったケイティが小屋から飛び出し、ウリャーといいながらトリモチスライムを召喚しては投げ召喚しては投げ。
「いいマトッスね!」
 葵もそれにのっかる形でボールをシュート。
 穴の向こう側から銃撃を仕掛ける盗賊たちに対抗しはじめた。
 足をとめれば罠は関係ないぞとばかりにライフルの射撃をしかける盗賊たち。対する葵はジグザグなドリブルで銃撃をかわし、カミソリのようなシュートで次々と盗賊たちをノックアウトしていく。
「戦端が開いたッス!」
「戦神が一騎、御幣島カナデ! 陽が出ている間は倒せないと思え!」
 落とし穴を飛び越えてまっさきに切り込んでいったのは奏だった。
 自前の刀をふたふり抜いて、無理矢理盗賊たちの軍勢にダイブ。
 ぽこちゃかパーティで只管めちゃくちゃにしはじめる。
 落とし穴に落ちた盗賊たちとて黙って見てはいない。
 互いに引っ張り合って穴を脱する者や、射撃武器を持った者はその場から攻撃を始めている。
「この先、通すわけにはいかないんだよ。退散して貰えるなら嬉しいけど……無理、だよね」
 エゼルは落とし穴や敵の射撃部隊から距離をとって、味方の回復支援に集中しはじめた。
 敵部隊が『落とし穴からこっち側』へ滅多に来ないことがかなりの有利要素になっていた。
 それでも飛行可能な盗賊は落とし穴を飛び越えて接近してくる。
 見たところ少数ではあるが、開けた土地であることや落とし穴の他目に見えて罠が隠れていそうな場所が地面にしかないため、かなり平気で突っ込んできているらしい。
「同じ農家として、大切に育てて収穫した物を奪い、荒らすお前たちを許すことは出来ない。ましてやお前たちは、農家の命まで奪った。彼らの命は帰ってこないが、これ以上、お前たちに奪わせるものは何一つない」
 斬りかかってくる飛行盗賊を盾でガードしながら、ポテトはじわじわと後退していく。
 横を抜けようとしていく飛行盗賊にはマジックロープを投げ、胴体を引っ張って地面に引きずり落としていく。
 落ちてきた盗賊を、ヴァレーリヤがここぞとばかりにメイスで殴りつけた。
「一気呵成に畳み掛けますわよー!」
 今現在の状態を振り返ってみると……。
 盗賊側の『勢い』は飛行盗賊のみと言っていい。これを撃破しきれば今度はこちらの番だ。
 相手が落とし穴以外に罠がないと察するまでそう長くはないが、その間に敵部隊を盛大にそぎ落とすことができるだろう。
 こちらの勝利条件は敵部隊の数を減らすこと。
 敵部隊からみても、頭数が大きく減れば肝心の占領や略奪行動がとりづらくなる。この戦闘は彼らにとって入り口にすぎず、そこで頭数が大きく減ったなら引くほかないのだ。
「月影の舞、照覧あれ。徒となって散りなさい!」
 弥恵は舞うような軽やかさで穴を飛び越えると、うっかり前にでた射撃部隊の頭を足で挟み、ねじるように地面へと投げ落とした。
 しまったとばかりに距離をとろうとする射撃部隊。しかし部隊が円形に歪んでしまったために後ろがつまり、近接攻撃部隊との入れ替えが困難になっていた。
 好機中の好機。弥恵はその場でくるくると回転し、髪に仕込んだワイヤーで射撃部隊を次々に切りつけていく。
 こういった部分で、こちら側にとって都合の良い敵陣形の歪み。
 しかし義弘にとっては不都合な状態だった。
 敵の要注意人物ジャリスへたどり着くための壁密度が濃くなったという面をもつからだ。
「もしかしたらこちらを無視して村を襲いに行くかもしれねぇ」
 かなりなさそうな話ではあるが、万一そういう『自爆行為』に出た場合ジャリスは十中八九死ぬが村が急に焼かれたり井戸が汚されたりと致命的な被害が出ることがある。
 そういう奴が世の中にいないわけじゃあない……というのを肌で知っている義弘は、ジャリスを補足しておくべく盗賊たちを次々と殴り倒していった。
「ジャリス! どこだ! 勝負しやがれ!」

●案山子屋
「あら、穴の中にいるなんて、さすがは砂蠍ですのね、居心地はよろしくて?」
 ケイティはピアノ演奏でもはじめるように白い手袋をした手を振り上げると、五指から伸びた無数のワイヤートラップを次々に発動させた。
 穴から這い上がろうとする盗賊たちを、上から引っ張り上げようとする者たちを、次から次へとワイヤーにひっかけ、穴へと再び落としていく。
「おーーっほっほっほ! 蠍には穴がお似合いですわー!」
 戦闘の激化。
 盗賊の飛行部隊はエゼルやヴァレーリヤやポテトたちによってつぶし、射撃部隊は奏や弥恵や葵によってほぼ潰した。
 ケイティたちの仕掛けた落とし穴に落ちていた切り込み舞台は半数ほどが復帰したが、勢いよく切り込む段階をとうに過ぎているがゆえに彼らの能力はあまり活かされなかった。
 ここまではケイティたちの戦略勝ちなのだが、盗賊たちもケイティやポテトたちがかなり自由に動き回っていることから『他の罠はないな?』と気づき始め陣形を整えるようになっていく。
 故に、戦闘の激化である。
 前衛も後衛もまとめて盗賊に取り囲まれる状態が、ようやくにして訪れた。
「くっ……!」
 エゼルは自らの魔力を両手それぞれに集中させ、取り囲む盗賊たちの顔面や腹に非殺傷魔術衝撃を次々に放っていった。
 吹き飛ぶ盗賊たち。
 だがその一方で、盗賊の槍やナイフがエゼルの身体へと突き刺さっていく。
 手のひらを傷口にあて自らに良質治癒魔法を打ち込む。
 そもそもの身体の頑丈さもあいまって暫くはそれでしのげてはいたが……。
「危なくなったら引いてください! スタミナがきれれば……!」
 ヴァレーリヤがメイスに聖なる光を纏わせ、豪快にぐるぐると振り回しながら突っ込んできた。
 ボーリングのピンよろしく吹き飛ぶ盗賊たち。
「『前進せよ。恐れるなかれ。主は汝らを守り給わん』――!」
 突き込んだメイスから聖なる雷が放たれ、エゼルの後ろから襲いかかろうとしていた盗賊に直撃する。
 その一方で、奏が派手に刀を振り回して盗賊たちをオーバーキルしていった。
「まぁ所詮は悪党だ。刺激的にやろうぜー」
 耐久力の低い盗賊なら軽く2~3回は死ぬ威力で、ことによっては原型がわからなくなるまで破壊されたものもあった。
 一方で奏自身の耐久力もあって盗賊たちの波にのまれていく。
 それは弥恵も同じだった。一人一人は弱くとも、取り囲まれて次々に攻撃を受ければかわしづらく、ダメージも深刻な物になっていく。
 けれど弥恵は弱るどころか、逆にテンションを高めていった。
 全身を敵と自分の血で赤黒く染めながら、まるでステージにいるかのように大胆に踊り回った。
 盗賊を踏みつけ、髪を振り乱す弥恵。
 くいとめたナイフを獣のようにくわえ、ぎらぎらと目を光らせた。
「さあ、お次は――?」
 振り返る弥恵。
 その瞬間、盗賊たちの間を縫うように突き出た槍が彼女を貫いた。
 貫かれたと思った時には引き抜かれ、周囲の盗賊もろとも薙ぎ払われる。
「ただのダンサーにしちゃあ強いと思ったが……なんだ? 雇われ冒険者か?」
「名乗る義理はねえな。ポテト、そいつをたのむ!」
 薙ぎ払われて空白になったところにポテトが強引に飛び込み、弥恵を担いで急速離脱。踏み荒らされた茶畑を横目に、『あとでなおしてあげるからな』と言葉を呑んだ。
「彼女の回復は任せろ、そっちは――」
「任された」
 ファイティングポーズをとる義弘。
「ヤクザってのも、要は人との繋がりが大事でよ。まだ幻想に恩義や愛着が左程あるわけでもねえが、それでもこの国にいる人達には世話になっている。一宿一飯の恩義ってのは、大事なもんだぜ?」
 ジャリスはそんな義弘を前に首をこきりと鳴らし、手にした協力そうな槍を振り回した。
「知ってるかもしれないが、俺はジャリス。『案山子屋』ジャリス・パーソン。
 始末と見せしめが専業さ。殺した奴を案山子みたいに飾るもんであだ名がついた。
 こちとら盗賊のくせに盗むも忍ぶも苦手でなあ。戦い方もこうなもんで、急に増えた部下連中が邪魔で仕方なかったぜ。減らしてくれて感謝感激――」
 ジャリスの槍がまるで生き物のように舞い義弘を襲う。
 タフネスに自信のある彼といえど、ジャリスの恐ろしく鋭く絶妙な槍さばきに腕や足を次々とえぐられた。
 しかし。
「この背中の桜吹雪に賭けて」
 意地で踏み込んだ義弘の拳が、ジャリスの顔面にめりこんだ。
「一発はぶち込ませて貰う」
 衝撃で吹き飛ぶジャリス。
 ダメージ量でいえば義弘が圧倒的に負けているが、立っているのは義弘の方だった。
 そして勝敗も……。
「旦那! 仲間がやられすぎてる、引くしかねえぜ!」
 盗賊のひとりがかけより、ジャリスを抱え起こす。
「そういうことッス」
 葵の放ったサッカーボールがその盗賊の頭に激突し、彼はふぎゃあといって転倒した。
 不思議な軌道をえがいて足下にもどってきたボールを踏み止めて、葵は手のひらを水平に払う。
 コウモリ型のエネルギー弾が無数に放たれ、盗賊たちに着弾。爆発を繰り返す。
「このまま戦いを続けてもいいッスけど……」
 ぎらり、と葵の赤い瞳が怪しく光った。
「アンタは困るんじゃねぇのか?」
「……チッ」
 ジャリスは少なくなった部下たちに撤退の号令を出し、来た道をそのまま逃げ出した。
 撤退命令を出すタイミングが遅いのもまた、彼の統率力の乏しさであろうか。
 葵も逃げ出す彼らからあえて距離をとり、深追いせずに手のひらを翳すだけにとどめていた。
 まだやってもいいというのはあくまでブラフで、本当に続けていたら自分たちが完全にすりつぶされていたかもわからないのだ。だがジャリスたちとて部下をこれ以上失えばさらなる上層存在であるキングスコルピオンに面目が立たず、生きて帰っても何かしら処刑されてしまうだろう。
 ここが、彼らにとっての引き際であり、そして占領作戦失敗のラインなのだ。
 イレギュラーズたちは、村を見事守り切ることに成功したのだ。

 穴を埋め、ついでに死んだ盗賊たちもこっそり埋め、踏み荒らされてしまった作物はポテトの能力で育てなおし……と、村の被害もかなり少なくおさえることができた。
 だが追い払ったのは砂蠍の軍勢のごく一部にすぎない。
 幻想の各地ではこうした襲撃作戦が続き、場所によっては既に占領されている地域もあると聞く。
 軍隊と化した盗賊との戦争は、まだまだ続くのだろう。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete!

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