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シナリオ詳細

<被象の正義>熾燎の聖女

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 一夜にして失われた大都市『テセラ・ニバス』、そこは『異言を話すもの(ゼノグロシアン)』たちの住まう『異言都市(リンバス・シティ)』として名乗りを上げた。
 シェアキム六世の下に降った神託に曰く。

 ――白亜の都。その偽善的な正義はすべて偽りであり、その内部はシロアリに食い荒らされた虚妄の都である。
 であるならば、本来あるべき歴史のうちにある、正しき、強き、正義の都をここに顕現させよう。
 
 『正しき』天義。厳格なる神への、決して揺るがぬ忠誠と信仰とともに。
 絶対的正義と汚れなき『白』の都――『絶対正義圏(オリジナル・ジャスティス)』をここに顕現させる、と。

 それは混沌世界をシミュレートした練達の超技術『ROO』の中で発生したワールドイーターによる世界の侵食とも酷似する。
 それを体現するかのようにリンバス・シティを皮切りとしたワールドイーターたちの捕食は速度を増していく。
 リンバスシティを皮切りとして、近隣の都市にもその魔の手が伸びる様はなるほど、かつてパラディーゾ太刀の仕掛けてきた陣取合戦と呼ぶのもわかりやすい。
 辛うじてまだその流れに侵されずに済んでいるこの町でも人々は焦り、動揺し町を出ることを考えていた。
「あ、ふぅっ……」
 そんなただ中にあって、カフェテラスにて色のある欠伸を漏らした白装の美女がいた。
「ちゅるっ……はぁ……美味しかった」
 氷の無いグラスに刺さったストローをちゅるると吸い上げ酷く切なく目を伏せる。
 感嘆の吐息を漏らして指先で口元を拭い取ると、女――オルタンシアは立ち上がる。
「……でも、もう終わりなのね……もう少しだけ楽しんでいたかったのに」
 どこか切なく寂しそうな、それでいて心地よい響きを奏でる声色は天の祝福と言わんばかり。
「あーあ、嫌だわぁ。男ってどいつもこいつも。女の子の傲慢は、可愛らしいのにね……ん~!
 ――さてっ、そろそろ宴を始めましょうか」
 その場でくるりとターンを決めれば、町を包み込もうとするようにそっと手を広げ。
「さぁ、お食べなさい、ワールドイーター。
 ここからは貴方のランチタイムなのだから!」
 カツン、と足元を鳴らせば、じわり。
 それはまるで紙に一滴の墨汁を垂らしたように黒い染みが姿を見せ――瞬く間に現実を包み込んでいく。
 やがて影は大きな馬のような形状を為していく。


 降ろされた帳に鋏を入れるように『何か』は空を、地を駆け抜ける。
 それは空に瞬く彗星のように見えた。
 ――ああ、けれど、それが吉兆の証であるなどありない。
 それこそは凶兆の証。
 鋏の入った向こう側、薄皮のような『偽史』を塗り潰して『正史』が顔を出す。
 最初に感じたのは光だったろうか。或いは、熱であったか。
 馬蹄を響かせ駆け巡る『何か』は燎原を生み出した。
「なんだこれは」
 思わずそう呟いたのは誰だっただろうか。
 軛より解き放たれた者達――『異言を話すもの(ゼノグロシアン)』の声が鳴り始める。
「あはっ♪ 見つけちゃった、美味しそうな子達がいるわ!」
 鈴の音を転がすような声がした方向を見れば、ちょうど美貌の女性が『何か』の背から飛び降りたところだった。
 どことなく神聖な聖女のような類を思わせる、美しき女――そして。
 その隣には彼女を背に乗せていた――あれは――なんだ?
「ふふっ♪ それじゃあ、先に自己紹介しましょうか! 私はオルタンシア。
 真なる歴史の遂行者、この地を正史へと導く福音を奏でる者よ?」
 では、その隣の黒い何かは――?
 見た目は所謂一角獣(ユニコーン)を思わせるが、揺らめく姿は影のような黒であり、陽炎を思わせた。
「ねえ、この子(ワールドイーター)と遊んでいただける?」
 美貌に愛らしい笑みを浮かべ、オルタンシアは地面を蹴り飛ばす。
 ワールドイーターが棹立ちになって嘶き、零れ落ちるように姿を見せたのは――影の天使たち。
「さぁ、遊びましょう。少しだけ、少しだけね?」
 蕩けるような声が響いていた。

GMコメント

 そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
 早速始めましょう。

●オーダー
【1】ワールドイーターの撃破
【2】影の天使の撃破
【3】『熾燎の聖女』オルタンシアの撃退

●フィールドデータ
 第二の聖都『テセラ・ニバス』が近郊にある小さな町。
 テセラ・ニバスへ向かう行商や巡礼者が立ち寄る観光地――でした。
 現在は『帳』が降り浸食を受けている途中です。
 景色としては美しき街並みを盛んに燃えあがる野原が塗り潰していくような状態です。
 もしも浸食が終わってしまえば町は第二、第三の『異言都市(リンバス・シティ)』とでも呼べるものが生まれてしまいます。
 その時の光景はきっと、一面を覆いつくす燃え尽きることのない焼野原になるのでしょうね。

 周囲には逃げようとする人々や突然の状況に戸惑う人々が溢れています。
 また、『異言を話すもの(ゼノグロシアン)』と化した人の声もします。

●エネミーデータ
・『熾燎の聖女』オルタンシア
 『遂行者』と呼ばれる者達の1人。非常に強力な存在です。
 今回はお遊び感覚です。イレギュラーズの皆さんへご挨拶といった風情でしょうか。
 無理をすることなく撤退していくでしょう。
 爆炎を放った事や、周囲の景色が彼女の影響を受けていると仮定すれば炎を用いると思われます。

・ワールドイーター〔ユニコーン〕
 R.O.Oで観測されたモンスター。
 現実では終焉獣(ラグナヴァイス)と呼ばれています。
 滅びのアークから作り出された塊そのもの。
 今回の空間の核になります。

 この個体は影ないし真っ黒な何かで出来たユニコーンを思わせます。
 同時に揺らめいている姿は陽炎のようにも思えます。
 戦場を走り抜けることでその空間を塗り替えて浸食していくタイプの様子。
【火炎】系列のBSの他、【窒息】系列のBSが考えられます。

・影の天使×10
 ベアトリーチェ・ラ・レーテ(冠位強欲)の使用していた兵士にそっくりな存在――でしたがディテールが上がり『影で出来た天使』の姿をして居ます。
 ですが、これはベアトリーチェの断片ではないため不滅でもなく、倒す事で消滅をするようです。

・『異言を話すもの(ゼノグロシアン)』×???
 狂気に陥り『異言(ゼノグロシア)』を離すようになってしまった町の人々。
 戦場の性質上、長引けば長引くほど増えて行くでしょう。
 個体のスペックはほとんどが雑魚です。
 不殺属性の攻撃で正気に戻すことができます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <被象の正義>熾燎の聖女完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年02月28日 23時00分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)
灰雪に舞う翼
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
フルール プリュニエ(p3p002501)
夢語る李花
シュテルン(p3p006791)
ブルースターは枯れ果てて
楊枝 茄子子(p3p008356)
虚飾
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女
セシル・アーネット(p3p010940)
雪花の星剣

リプレイ


「正しい歴史かあ……イレギュラーズの干渉が間違った歴史なら、魔種が跳梁跋扈するのも間違った歴史じゃない? どっちも運命に関わる手段を持ってるんだし。」
「あはっ♪ それはどうかしら? 滅びの運命が正しい歴史、神託なのだから」
 そういう『灰雪に舞う翼』アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)にオルタンシアはそう返す。
「たとえ本当に正しくても……今ある世界を変にするものなら、それはやっぱり止めるべきことだよ」
「ふふっ、面白い事言うのね、貴方。私からすれば今の世界が変なのだけれど!」
「なんだかんだ言っても魔種の狂気に変わりはないね」
 擽るようなオルタンシアの言葉にアクセルは耳を傾けることをやめて影の天使へ視線を向ける。
「あはっ♪ それは否定できないわね♪」
 そういうオルタンシアはどこまでも楽しそうだった。
「……君は、遂行者だね……しかも終焉獣を手なづけているとは、ね」
「手なづけとは少し違うわ? まあ、似たようなものだけれど」
 ワールドリンカーを起こす『浮遊島の大使』マルク・シリング(p3p001309)にオルタンシアは小さく笑って答えた。
「聞きたいことは色々あるけれど、今はこの町を取り戻す事が先決だ。
 ゼノグラシアンは無力化するしか無いだろうけど、そうでない人は一人でも多く逃がす……!」
「あはっ♪ 素敵ね。そういうの大好きよ?
 ええ、まあ。その子達に興味なんて今ないから好きにしたらいいわ?
 その代わり退屈させないでちょうだいね?」
「熾燎の聖女、炎の使い手。
 オルタンシアおねーさんって言うのね。
 遂行者? 致命者とは異なる存在でしょうか?」
「全く違うわ? 致命者と一緒にされたらとっても困るわね。
 私達は神の使徒。『預言書』の通り正しき道に導く者だもの」
 そう語るオルタンシアに『夢語る李花』フルール プリュニエ(p3p002501)はちらりと視線を周囲へ向ける。
「炎、焔、焱……たくさん燃えてますね。果たしてこれは綺麗でしょうか?
 オルタンシアおねーさんの焔は、本当に濁りのない清炎なのでしょうか?
 同じ炎の使い手として、見極めさせていただきますね」
「あはっ♪ 素敵ね、ええ。面白そう。
 ――私は私の炎の事を『濁りのない清炎』だなんて思わないけれど!」
 そう言って、オルタンシアが間合いを開く。
「天義、また、不穏……する?
 皆の悲しい顔……シュテも、悲しい、するの……」
 そう小さくぽつぽつと話す『あなたへのうた』シュテルン(p3p006791)に、オルタンシアが微笑んだ。
 それは酷く憐憫を纏い、慈愛を持っている。
 オルタンシアが敵として立っていなければ、優しい人だと思えるほど。
「ふふ、可愛い子。あぁ――ゾクゾクする。
 貴女みたいな子が私を殺そうとするの――どうかそのままでいてね?」
 転がすように彼女は笑う。
「『遂行者』。異言都市。またおかしな輩が天義を狙いに来る。ほんと、辟易しますね」
 そう言った『嘘つきな少女』楊枝 茄子子(p3p008356)にオルタンシアは零すようにくすくすと小さく笑う。
「さてオルタンシア様。茄子子です。よろしくお願いしますね」
 多数の加護を張り巡らせた茄子子はオルタンシアの前に立つ。
「真なる歴史の遂行者とはなんでしょう。
 まるでこれまで積み重ねてきた歴史が嘘であり、間違ったものであるといいたげですが」
「この国は本来滅んでいるはずなのよ?
 本来の道から外れてるのなら道を戻してあげないとね」
「ああ、なるほど。頭のおかしい新興宗教みたいなものですね。理解しました」
「あはっ♪」
 茄子子がオルタンシアそう返せば、彼女からはどこまでも軽い笑い声が返ってくるのみ。
「R.O.Oのあの戦いを今度は混沌で、か。
 何もかも喰われて消えるあの光景は繰り返したくない……!」
 練達の出来事を振り返り、『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)はそういうものだ。
「そもそも時間は戻らないのだから、正史でも神託でも後から修正なんて往生際が悪い。
 ここは実験場じゃない。町に手を出すなら今すぐお帰り願おうか」
「あはっ♪ つれないのね。
 本当にこのまま帰ってもいいのだけど……
 貴女以外は私に興味があるみたいだから、遊んでくれる人とは遊びましょうか♪」
 夜空を抱く鋼の細剣を握り締め、視線をオルタンシアへと投げかければ、そう言って彼女は笑うのだ。
「仕方ないから付き合ってやるよ。好き勝手には遊ばせないが!」
 セシルに合わせ、イズマは細剣を振るう。
 独特な音色の波長が戦場を走り、注意を引きつけた。
(なんですか、これは……こんな状態に街が……何がどうやってこんなことに
 ……いえ、慌ててはいけません。今だからこそ、心を落ち着かせないと……)
 燃え盛る燎原に『未来への葬送』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)は目を瞠りつつも、ふるふると頭を振り、元凶の方へ目を向ける。
(見極めないといけません。ワールドイーター…この異形の存在の事。それに……)
 視線の先、一角獣を思わせる影はオルタンシアに甘え、彼女はそれを受け入れてソレを撫でてやっていた。
(オルタンシアを始めとする、真なる正しき歴史の『遂行者』という存在を)
 やがて一角獣からその主の如く振舞う白装の美女へ視線を向ける。
 その瞳が金色のヘリオドールを取る頃に、マリエッタの視線は既に一角獣へ注がれている。
「はじめまして、オルタンシアさん。僕はセシル・アーネットです。
 町の人を困らせているのはあなたの仕業ですか?」
「ええ、そうよ、可愛い坊や。これは私がやったことね。」
 『雪玉運搬役』セシル・アーネット(p3p010940)の問いかけにそう問うオルタンシアの目はシュテルンを見ていたのとも似た慈愛がある。
 本来ならば、優しいように見える。
 全てを許して、慈しんで、願いを受け入れてくれる。
 そう言った善性すら感じ取れる――のに。
(……オルタンシアさんの白い衣装は神秘的だけど、少し怖い。
 怖くて毛が逆立つ感じがするよ)
 セシルは思わずそう思っていた。
(でも、負けてられないよね! 幼馴染の事も、町の人の事も心配だから!)
 自らを奮い立たせるセシルを、一層の事オルタンシアが慈しんでいるように見えるのは――気のせいだろうか。


 戦端は開かれた。
 先手を取ったイレギュラーズはゼノグラシアンや影の天使への猛攻を始めていた。
「時間を掛けるわけにもいかないけど……」
 アクセルは雲海鯨の歌を握り締めた。
 空を行く銀鯨の髭を加工したというその魔法杖を手に、空へ星を描く。
 星海を渡る指揮者の音色は星の瞬きとなって狂乱の民衆を鎮めて行く。
「これ以上好きにはさせない……!
 ここは僕たちに任せて、逃げられる人はここから離れてください!」
 マルクはキューブ状の魔弾を一斉に空へと放ちながら、混乱する町人達へ声をあげる。
 魔弾は世界へと穴を開き、汚泥を零していく。
「精霊天花・焔、これは私が焔へと変じるもの。
 オルタンシアおねーさんにはできないでしょうか?」
 両腕両足、髪を、衣服を焔へと包み、休息な成長を遂げたフルールはくすくすと笑いながらといかけるものだ。
「ふふ、今日は玩具(えもの)は持ってきてないの。
 だからその答えには、そうと答える他ないわね?」
「そうですか。ならいずれは見せてもらえるのでしょうか?」
 楽しそうに笑ったオルタンシアにフルールが答えれば、今度はあちらからくすくすと笑みを零された。
「その時が来て、貴女が私の前にいたら――ね」
 そういうオルタンシアを差し置いて、フルールはその傍にある一角獣めがけて魔術を行使する。
 一角獣の足元から放たれた紅の棘が一斉にその身体を絡めとっていく。
 刹那、蒼き輝きは静かに揺らめき一角獣へと叩きつけられた。
「皆、シュテの歌、届く、するように……精いっぱい、歌う、するっ!」
 そう言えば、シュテルンは天使の歌を紡ぐ。
 暖かく優しい天使の歌声は仲間達の傷を癒していく。
「――素敵ね、とっても素敵な事だわ!」
 シュテルンが仲間の傷を癒すのを見たオルタンシアは優しい笑みで笑っている。
「……もうそろそろいいかな」
 アクセルは小さく呟いた。
 狂気に触れ、異言を語る者達の数はある程度減ってきている。
 とはいえ『普通の町と燃え上がる焼野原が入り混じる』場所で正気を保ち続けるというのは困難だろう。
「そのためにも早くあいつを倒さないと!」
 そう呟き、アクセルもまた一角獣に向けて駆け抜けていく。


「遂行者って何ですか? 歴史を正すってどういう事なんですか?
 オルタンシアさんは僕達を食べに来たんですか? それが本当の目的なんですか?
 ……それともオルタンシアさんには正したい過去があったんですか」
 セシルはグリムセイバーを手に影の天使目掛けて斬撃を払い、そのままオルタンシアへと問えば。
「ふふ、可愛い子。でも駄目よ? あんまり多くを聞かれても、私は答えてあげないわ」
 そう言って彼女は口元に人差し指を添えて「1つだけよ」と擽るように笑うのだ。
「浸食などさせるものか。一歩も走らせないぞ、俺の前で足踏みしてろ!」
 そう叫ぶイズマが一角獣へと告げるのと同時、影とも炎の塊とも取れるそれが棹立ちに身体を起こし、両の前足でイズマを蹴りつける。
 衝撃と共に炎がイズマの身体をちらついた。
 対抗するようにイズマは細剣を振り払う。
 鋭く伸びた剣は一角獣の胴部を貫くように連撃を撃っていく。
「ここからはオイラも参加するよ!」
 そう言って、アクセルは一気に一角獣目掛けて指揮杖を振るう。
 戦場を包むのは美しき空。
 一角獣とオルタンシアにのみ映し出された空奏結界は魔術の波長を叩きつける。
 2度にわたって響き渡る音色は穏やかでありながら邪悪には耐えがたい呪いとなる。
「これが君達の言う、『正義の都』の姿か……!?」
 マルクは蒼穹の剣をその手に抱き、オルタンシアへと叩き込む。
「ふふ、少なくともこの光景は『私にとっての』あるべき世界だわ?」
 確かに芯にあたるべき一撃は、何故か小さなほころびを見せた。
「オルタンシア。貴女の考える真なる歴史とは、いったいどこの歴史なのですか。
 私が……私達が生きている、紡いできたものは間違っていると、そう言いたいのですか?」
 飛ぶように駆け抜けたマリエッタは無数の血の武装を一角獣へと撃ち込みながらそう問いかける。
 真っすぐに見据えたマリエッタのヘリオドールを青色の目が微笑む。
「そうとでも言えるし、そうではないとでも言えるわね」
 柔らかく、それでいて愛おしそうに笑うオルタンシアに、マリエッタの望む回答はなかった。
「では――貴女の、貴女達の目的は!」
 無数の刃の1つを握り締め、構成された血鎌を一角獣へ思いっきり振り上げながら問いかければ。
「――ふふ、内緒よ。魔女さん。
 何でもかんでも全部を答えたら、この先がつまらないもの!」
 彼女は艶っぽく、楽しそうにそう笑うのだ。
「影の天使……ベアト、思い出す、する…
 こわい、だけど、人々守る、する、しなく、ちゃ……」
 あらん限りの声をあげて、シュテルンは術式を発動させた。
「遊びで、苦しめる、しないで! 皆、苦し、悲し、する!」
 放たれたのは白き魔弾。
 美しい軌跡を描いた魔弾はオルタンシアの身体を静かに撃ち抜いた。
「あはっ♪ そうね、そうよね。苦しいわね、悲しいわね! えぇ、ええ!」
 撃ち抜かれたオルタンシアは笑っている。
 それはまるで、『その事実が心の底から嬉しい』とばかりに。


 オルタンシアは本気ではない。
 いや、それ以前の問題だ――彼女は此方を『敵』とさえ見ていない。
 何かを探るわけでも、探られるのを恐れるわけでもなく、あぁ――正しく『遊びに来た』のだろう。
 だが、本当に『それだけ』なのだろうか。
 それを明かすためにも茄子子は前に出る。
「まだ遊んでられますか? そろそろ本気でも出されてはいかがです?」
 対するオルタンシアは微笑むばかり。
(ちょっとくらい無理をしてくれませんかね。
 少しでも『遂行者』の情報を手に入れられればいいんですけど)
 余裕、とばかりの女が心底に不愉快だった。
「私達は美味しそう、ですか。
 オルタンシア様はとっても酷い味がしそうですね。ふふ」
「あはっ♪ そうでしょうね。私はとびっきりに不味いと思うわ!
 ――ええ、でも。『私には貴女も随分と酷い味がしそうに見えるけれど』?」
 青色の眼が僅かに細められ、見透かされるような気がした。
「あはっ♪ なんてね。貴女みたいな人はとっても大好きだからついね?
 女の子は傲慢なぐらいでちょうどいいわ」
 そういうと、不意にオルタンシアが地面を蹴った。
「世界を壊し、人を狂わし、そうまでして実現させる君達の『正義』とは何だ。
 アドラステイアを『方舟』にするのも、君達の計画だったのか?!」
 それを追うように走ったマルクは、再度の剣閃を見舞い、障壁に防がれながらも重ねるように問い続ける。
「あはっ♪ 乙女にそうやって全部聞こうとするのは良くないわ?
 乙女の秘密は暴くにしてもゆっくり、じっくり、1つずつ、でしょう?」
 そういうと、オルタンシアが掌をマルクへ翳した。
「――ね?」
 刹那、爆炎がマルクを吹き飛ばす。
「……オルタンシアさんには正したい過去があったんですか」
 セシルは剣を構え、悩み抜いて選び取った問いをオルタンシアへ向けた。
 相対するオルタンシアはその微笑を絶やさない。
「私が正したいのは、えぇ。寧ろこの国がこれから先歩んでいく未来よ」
 それは虎の尾を踏んだかのように、オルタンシアの声色に感情が混じった。
「――これから先の未来を正したい、ですか?」
「ふふ、もうこれ以上は内緒♪ 私達と貴方達は長い関係になるのだから、全部答えても勿体ないわ?
 さて、可愛い坊やの為に立ち止まったけれど、もうそろそろ遊びは終わり」
 柔らかく笑って、オルタンシアが一気に後退していく。
「あら、もう帰ってしまうの? 『弱火の聖女』おねーさん?」
「ええ、そうよ。『可憐な火の花の』愛し子。また会いましょうね?」
 フルールの皮肉ともとれる挑発には同じくらいの挑発が返ってくるものだ。
「遊びは終わりだ。この町を返してもらうぞ!!」
 取り残された一角獣へ、そう告げたのはイズマである。
 夜空を抱く細剣は美しき音色を放ちながら雷光を爆ぜた。
 鮮やかに引かれた閃撃が影の幻想を首元から断ち切ってみせる。
 ――けれど、まだ僅かに足らない。
 姿こそ動物に近かろうと、性質は動物ではないからだろうか。
 再び棹立ちになった首なしの馬が蹴り飛ばしてくる。
 けれど、その程度の悪あがきでイレギュラーズを倒せようはずもない。
 もう1度と振り払ったイズマの剣がその息の根を止め――景色は移り変わる。
 代わり行く空を見上げ、マリエッタは己の魔術を停止させた。
 澄んだ空が戻っていく。
 空に何となく翳した手、死血の印が静かにそこにある。
(私は彼らの言う歴史について、何か知っているのでしょうか。
 死血の魔女が、私に教えてくれたら簡単なのに……)
 マリエッタのエメラルドの瞳が、静かに両の手を見下ろす。
 血の印はただ静かにそこにあるだけだ。

成否

成功

MVP

セシル・アーネット(p3p010940)
雪花の星剣

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした、イレギュラーズ。
『遂行者』オルタンシアとの初会合――とはいえ、まだまだお顔を合わせたり暗躍してたりするでしょう。お楽しみに。

MVPはオルタンシアの本音の一端を覗いた貴方へ。

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