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シナリオ詳細

密着! 境界案内人・水鏡透の一日

完了

参加者 : 5 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●境界図書館への密着取材(境界案内人・水鏡透について)

 境界図書館。
 それは、果ての迷宮第十層に位置する異空間である。
 まさしく図書館のような場所で、本の世界を護るため、あるいは単に異世界での冒険をイレギュラーズたちに楽しんでもらおうと、『境界案内人』と呼ばれる者たちが日々イレギュラーズに依頼を持ちかけてくるのだ。

 そこに所属している、とある境界案内人のひとり――水鏡透も、たびたびイレギュラーズに依頼を回してくる。
 彼は元いた世界で図書館の司書をしていた青年だ。本の修繕や手入れもお手の物。
 そして、特筆すべきは「とにかく物語が大好きな本の虫」であること。
 物語をこよなく愛する彼にとっては、本の世界の住人は友人・隣人のようなものであり、物語の世界の住人からどんなワガママを突きつけられようとも、それをたやすく受け入れてしまう。だって、実際に解決するのはイレギュラーズだから。

 さらに、彼の難点といえば、「本の世界の住人以外には無愛想で淡々としている」ことだろうか。
 つまるところ、イレギュラーズには依頼をするが、それはあくまで「非力な自分ひとりでは対応できないから力を借りる」、それだけの関係だ。結果的に『無垢なる混沌』の『可能性』に良い影響を与えてくれるのは確かなので、ビジネスライクな関係を望むイレギュラーズにとってはそれで構わないのだろう。しかし、もちろん、ビジネスパートナーであり、異世界との接続を可能にする水鏡ともっと打ち解けたい、と考える者も存在はするはずだ。

 そんな「水鏡と仲良くしたい」というイレギュラーズのために、混沌世界の新聞社がとある企画を立ち上げた。
 すなわち、「境界図書館、及び境界案内人の活動を世間にもっと周知したい」というものであった。
 境界図書館は、前述の通り果ての迷宮の奥深くにある。イレギュラーズ以外に誰でも辿り着けるような場所ではない。
 それでは、その『境界図書館』という施設はどのようなものなのか? 『境界案内人』と呼ばれている者は何者なのか?
 新聞社は、そんな一般の人々の素朴な疑問と好奇心に目をつけたのだ。
 具体的に何をするかと言えば、新聞社に依頼されたイレギュラーズが、境界案内人のひとり――水鏡に一日密着取材するというものだった。

 果たして、こんな企画で本当に水鏡と心を通わせることはできるのか……?
 イレギュラーズは、疑問を抱き、首をかしげながらも、境界図書館に向かうのであった。

●境界案内人・水鏡透の困惑

「何故、俺に密着取材などという話になったんだ」

 水鏡は新聞社に依頼されてやってきたイレギュラーズであるあなたから事情を聞き、眉根を寄せて困惑したような表情を浮かべた。

「俺なんぞ取材しても何も楽しいことなどない。そもそも異世界への干渉以外の用事で俺のもとに来るな。取材なら他の境界案内人にでも頼んで――ああ、みんな出払っていたんだった……」

 彼はこの状況をどうしたものかと、額に手を当てて考え込む。

「……本当にたった一日でいいんだな? それ以上は受け付けない。本来なら取材拒否でもしてやりたいところだが、そんなことでイレギュラーズに愛想を尽かされて本の世界の要望に応えられなくなるのも困るから、仕方なくだ」

 水鏡は「ハァ……」と大げさなほど深いため息をついた。これが彼なりの精一杯の譲歩なのだろう。

「ひとまず、現在の状況と今後することを簡潔に説明しておく。

 現在、異変が起きている物語はない。今日の予定は『本の世界の巡回』、『図書館での蔵書の整理や修繕』、あとは……『俺に取材をして、俺自身のことについて話す』くらいか? 別に面白くもない作業だし、新聞のネタになんぞ、ならないと思うんだがな……」

 水鏡は難しい顔をしている。
 このまま彼に密着するか、新聞社の依頼を断るかは、あなた次第である。

NMコメント

●ご挨拶
 はじめましての方ははじめまして。ご存知の方はこんにちは。NMの永久保セツナです。
 境界案内人の水鏡透さんの立ち絵を制作していただいたのですが、えっイケメン……と発注文を書いていたときのイメージの5000兆倍カッコいい水鏡さんをお出しされて、テンションがぶち上がった私です。よかったら私のプロフィールページから全身図見れるはずなので是非ご覧ください。
 で、ライブノベルを制作するときに選択肢の欄が表示されるようになったので、これってもしかして境界案内人との乙女ゲーみたいなライブノベルが作れる……ってこと!? と解釈しました。多分違うと思う。
 以下に目標や出来ること、注意事項などを記載しますので、水鏡さんと交流したい方がいらっしゃいましたらご参加お待ちしております。

 あ、言葉の綾で「乙女ゲー」と書いてしまいましたが、もちろん男性の方でも性別不明の方でも性別なしの方でも参加OKです。
 どのみち水鏡さんは恋愛とか友情とかそういう感情はないと思うので。

●目標・出来ること
 境界図書館か本の世界に巡回に行くか選べます。
 境界図書館では 蔵書の整理や壊れた本の修繕などの作業のお手伝い、水鏡への取材という名の雑談などが出来ます。
 本の世界は今まで水鏡が担当した世界(『神社しかない世界』、『死者の国』、『護法寺』)のどれかを選べます。
 本の世界に行く場合は、念のため水鏡の護衛という形ですが、今までのライブノベルでは敵らしきものはいなかったので、おそらく戦闘はありません。
 本の世界では本の住人との交流、本の住人のお手伝い、水鏡への取材という名の雑談などが出来ます。
 雑談では水鏡とお話したり、プレゼントなどのコミュニケーションを取ることが出来ます。
 なお、今までのライブノベルに参加していなくてもお話が楽しめるようにします(適宜説明は入れます)が、過去のライブノベルも読んでおくとさらに楽しめる内容になるかと思います。
 水鏡と一日過ごしたら終わりです。

●注意事項
 境界案内人・水鏡透は基本的に本の住人以外に対しては無愛想で塩対応です。
「塩対応でも大丈夫です!」「むしろご褒美です!」というメンタルが強い方のご参加を推奨いたします。
 ただし、「水鏡さんと交流したいけどメンタルの強さに自信ないです……」という方は、プレイングにその旨を記載してくだされば多少は態度が柔らかくなるように調整します。彼は淡々としてはいますが、社交的でないだけで非情なわけではないので。

●水鏡透について(あまり面識のない方向けに軽いご紹介)
もともといた世界で図書館の司書をしていた青年。
境界案内人に選ばれた彼は、物語の世界を守るという役割のもと、本の世界を見守り、ときにイレギュラーズを通して問題を解決させる。ひとつの世界にこだわらず、様々な世界の案内人を務めている。
冷静、冷徹、冷酷無慈悲というイメージを抱かれがちだが、本人の内面は社交的ではないが非情なわけでもない。
本の住人に対しては親しみと敬意を持って接しており、本の中の世界の危機に住人を心配したり、温かく優しい眼差しを向ける一面も。ただし、本の住人以外に対しては無愛想で淡々としている。
全身図URL:https://rev1.reversion.jp/illust/illust/76473
その他、実際にライブノベル内で質問すればある程度は教えてくれる、はず。

●サンプルプレイング1
 本の世界に異常がないなら、境界図書館で水鏡さんのお手伝いをしようかな。
 水鏡さんが蔵書の整理をするみたいだから、私も指示を受けながら手伝おう。ひとりだと大変だもんね。
 ……あ、この本、ページが外れかかってるから、水鏡さんに渡して修繕してもらおう。
 修繕の間に少し水鏡さんのお話を聞きたいな。元の世界でも図書館の司書をしてたんだよね? 水鏡さんのいた世界ってどんなところだったの?

●サンプルプレイング2
 僕は水鏡さんについていって、本の世界の巡回に行ってきます。
 行く世界は……『死者の国』ってなんですか? 興味あるから、そこにします。
 死者の国の住人と交流しながら、水鏡さんに話を聞こうかな。取材ですもんね。
 水鏡さんはいつ、どんなきっかけで本を好きになったんですか? どういう経緯で境界案内人になったんですか?

●サンプルプレイング3
 水鏡さんって、ちょっと近寄りがたい雰囲気あるな……。
 メンタルの強さに自信がないので、御手柔らかにお願いします。
 えっと、境界図書館でお手伝いしながら、何かプレゼントしたいな……でも、図書館って食べ物とかダメですよね……。
 本をプレゼントしても、もう読んでそうだし……。あ、そうだ、栞とかブックカバーとか……?
 取材、したほうがいいんですよね……? えっと……今まで読んだ本で、一番お気に入りはなんですか?


行動場所
水鏡透とどこへ行きますか?

【1】境界図書館
蔵書の整理や修繕のお手伝い、水鏡への質問や雑談、プレゼントなどが出来ます。

【2】神社しかない世界
ライブノベル『巫女さんの暇つぶし』の舞台となった世界です。
住人との交流やお手伝い、水鏡への質問や雑談、プレゼントなどが出来ます。

【3】死者の国
ライブノベル『【死者の国】死者の日の祭り』の舞台となった世界です。
住人との交流やお手伝い、水鏡への質問や雑談、プレゼントなどが出来ます。

【4】護法寺
ライブノベル『【護法寺】棲み家を追われた鬼たちの末路』の舞台となった世界です。
住人との交流やお手伝い、水鏡への質問や雑談、プレゼントなどが出来ます。


水鏡への質問
取材なので何か質問してみましょう。
一応選択肢は設置しておきますが、基本自由なので他にあれば『その他(自由)』を選択してください。

【1】水鏡が元いた世界について
水鏡がもともといた世界はどんなところだったのか?

【2】水鏡が境界案内人になったきっかけ
水鏡が境界案内人になった経緯とは?

【3】好きな子いる?
多分これ聞いたら冷たい目で見られます。

【4】その他(自由)
内容によっては答えてくれるかもしれないし答えてくれないかもしれない。

  • 密着! 境界案内人・水鏡透の一日完了
  • NM名永久保セツナ
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2023年03月01日 22時15分
  • 参加人数5/6人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 5 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(5人)

回言 世界(p3p007315)
狂言回し
冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)
秋縛
ルネ=エクス=アグニス(p3p008385)
書の静寂
レイン・レイン(p3p010586)
玉響
玄野 壱和(p3p010806)
ねこ

リプレイ

●境界図書館組の取材

「密着とか言われてもなー。俺も俺で割とビジネスライクだからそんなに境界案内人と親しくなりたいと思ってるわけでも無いし……」

『陰性』回言 世界(p3p007315)は、いかにも面倒臭そうに頭をボリボリ掻いていた。

「なら、何故取材を引き受けることにしたんだ?」

 本日の密着取材の相手――境界案内人・水鏡透は怪訝な目を向ける。

「そりゃ、取材するだけだし楽そうな仕事に思えたからさ。……なんて冗談だよ。ともかく、一日一緒に過ごすことになったのでよろしく頼むぜ水鏡君」

 回言の飄々とした態度に、水鏡はふっと小さくため息をついた。

「……まあ、お前は俺の今まで案内した三つの世界で皆勤賞だ。多少は借りを返さなければな」

 境界図書館に残って作業の手伝いや取材を申し出たのは、回言の他には、『書の静寂』ルネ=エクス=アグニス(p3p008385)と、『玉響』レイン・レイン(p3p010586)もいた。水鏡も含めて、この四人で境界図書館の蔵書の整理をすることになる。

「僕は境界図書館の整理から手伝わして貰おうかな」

 ルネは資料検索のスキルを使って、除籍するべき本や壊れた本、破れた本などをカウンターに運ぶ。これらはかなりの膨大な数だったが、ルネのギフト『移動図書館』で一度に運ぶことが出来た。
 これらの本を運び終えたあとは、水鏡が本の除籍や修繕を担当することになる。レインはそんな水鏡の修繕の手際の良さをじっと見ている。

「……水鏡の手って……もしかして、おっきい……?」

「なんだ、藪から棒に」

「他の人より指も長い気がする……? 気の所為かも……だけど……」

「そう……なのか……? 手の大きさなど興味もないし他人と比較したこともないからな……」

 その後、レインも本の修繕を手伝ったが、慣れない仕事ゆえに水鏡よりは時間がかかるようだ。
 それでも、レインは取材のために、こまめにメモを取った。
 自分の手の大きさや指の長さをメモする必要はあるのだろうか……? と思いつつ、水鏡はレインの好きなようにさせた。

「仕事……あんまり役に立たなかったかも……」

「気にするな、もともと本の扱いに慣れていない者には難しい作業だ。少し休憩するか?」

水鏡は手伝ってくれた三人を、カウンターの奥へ案内した。

「図書館は基本飲食厳禁だが、ここは控室のようなものだ。本さえ汚さないところにいれば、お茶くらいは入れてやる」

「じゃあ、休憩ついでに質疑応答もしておくか。黙って撮影だと完全にただの鑑賞会だからな、こっちは」と口を開いたのは回言である。

「しかし、俺は普段境界図書館に引きこもってるから、案内人が何するかなんてだいたい把握してる。なので、個人的な質問をするがいいか?」

「……内容による」

 水鏡は「嫌な予感がする」と言いたげに、眉間にシワを寄せた。

「仕事一筋って感じの君だが実は気になる相手とかいる? ひょっとして俺? いやそれは困っちゃうな、俺には幼いころから結婚を誓った許嫁が……まあいないんだけど」

「言い残すことはそれでいいか?」

「おっと、そんな情熱的とは真反対の目で見つめないでくれないか」

 水鏡の絶対零度の視線にも臆することなく、回言は肩をすくめる。

「見つめてもいいけどお互い時間の無駄だ。さくっと『いない』と答えて終わりでいいじゃないか。――いやよくねえんだよな。撮れ高がゼロで困ってるんだが。取り合えずなんかこう、個人情報をいくつか提供してくれ。好きな食べ物とか趣味とか無難なモノでいいから」

「……僕も……聞きたいこと、ある……」

 ここで口を挟んだのはレインだった。

「僕は……ずっと海に居たから……まだ陸の事……知らない事があるけど……水鏡も、そういう事ってあるの……? 水鏡の家って……他の所にもあるの……?」

「あ、それ、僕も興味あるな。境界案内人に『選ばれた』ってことは、もともと別の世界にいたんだよね?」

 ルネも水鏡の元いた世界に興味を惹かれたようだ。回言も、その話題で撮れ高が取れると踏んで、話を促す。

「話してもいいが、別に面白い話ではないぞ」

 水鏡は紅茶を口に含み、唇を潤してからポツポツと語り始めた。

「俺がもともと住んでいたところは、北国にある小さな町だ。四方を山に囲まれて、人口もほとんどいない、実質村とか集落みたいなものだな。それでも人の営みはあった。だいたいは畑仕事か狩猟がほとんどだな。俺はそこの小さな図書館で、司書をしていた」

 紅茶の入ったティーカップを見つめる水鏡が、紅茶の水面に映っている。

「本棚と本とカウンターをぎゅっと詰め込んだような窮屈な場所だったよ。それでも、本に囲まれる生活は、俺にとって幸せだった」

「だが、境界案内人に『選ばれた』というのは……」

 不穏な雰囲気を感じつつ、回言は取材のために尋ねざるを得ない。

「とある冬の日、町を取り囲んでいた四方の山が、一斉に雪崩を起こした。一つの山が崩れると、それに他の山も呼応するように。俺も含めて、町全体が雪に押しつぶされた」

 町は全滅だった。水鏡自身も雪の中に埋まったまま、意識を失った。

「――目が覚めたら、ここにいた。俺が死んだのかどうかは分からない。死ぬ直前にここに飛ばされてきたのかもしれないし、もしかしたら俺は既に幽霊なのかもしれない」

(境界案内人が混沌世界に受け入れられず、図書館から出られないのもこの辺りに原因が……? いや、案内人の全員がそういうわけじゃない。それにしても、想像以上にヘビーな話だった……)

 回言は撮れ高は取れたものの、複雑な気分になっていた。
 そんな空気を浄化したのはレインだった。

「じゃあ……縄張り争いとか、なかったんだね……」

「そうだな。町のみんなで手を取り合って助け合うような……そんな場所だった」

 水鏡の表情が一瞬和らいだような気がしたが、まばたきしたときには、既に元の無表情に戻っていた。

「さて、図書館の留守をしばらく預けてもいいか? 次は本の世界の巡回に行ってくる」

 水鏡は、からになったティーカップを流しに置いて、控室を出ていった。

●護法寺組の取材

「護法寺に行きたい」と水鏡に同行したのは、『ねこの料理人』玄野 壱和(p3p010806)と、『しろがねのほむら』冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)だった。この二人は、過去に水鏡の案内により、護法寺に行ったことのあるメンバーだ。
 護法寺は、節分の豆まきで家を追い出された鬼が消滅・転生の時を迎えるまで匿われる寺である。その時はイレギュラーズの活躍により、鬼たちはほとんどが転生していったが、二人は残った鬼たちのその後が気になっているようだった。

「よぉ、こないだはどーもナ。アレからどーダ? 鬼はまだ増えてる感じカ? こんな事になってアンタも大変だナ。まぁ、見回りがてら世間話でもいこうヤ」

「こういった機会を作ってくださってありがとうございます、透さん。思えば透さんへ初めてお会いしたのもこの依頼でしたね。まだ知り合って間もない僕たちですが、どうぞ今後とも宜しくお願いいたします」

 壱和と睦月は水鏡に声をかけ、ともに護法寺の本の世界に飛び込んだ。
 睦月はまず住職の木蓮に挨拶をする。

「ごきげんよう、その後いかがですか。寒い日が続きますが、お体の調子は大丈夫ですか?」

「ああ、お陰様でな。2月も終わった頃には、鬼はみんな転生してしもうた。じゃが、鬼たちと一緒に街に降りたら、最初は腰を抜かされたり陰口を叩かれたりと大変じゃったが、人助けをしているうちに人々の理解を得られてお布施もいただいてな。寺の修繕も出来たし、来年からは安心して鬼たちを迎えられるよ」

「ああ、よかった。皆さん、無事に転生できたのですね」

「アンタのアドバイスのお陰で、みんな救われたんじゃよ。本当にありがとう」

 木蓮は深々と頭を下げる。睦月は心から喜び、安心した。
 護法寺は特に異常もなく、むしろ改善の方向に向かっているようだ。訪問を終えて、睦月は水鏡を誘って街の甘味処へ向かった。もちろん、壱和もついていく。

「透さんは甘いもの、お好きですか? 僕は大好きです。甘いものを食べると、心が落ち着きますよね」

「そうだな、甘いものは俺も……嫌いじゃない。集中力や頭を使う仕事には、糖分補給は欠かせないからな」

 嫌いじゃない、と言う割には、水鏡は店で一番大きいLサイズのどら焼きをもぐもぐと食べていた。
 三人で甘味を食べながら、壱和は水鏡に質問をする。

「アンタ、本の中の人間についてはどう思うヨ。他の世界も掛け持ちしてるらしいが毎度毎度嫌気とか差さねぇのカ?」

「本にもよるが、現実の人間とそう変わらない。読者をほっこりさせたい、幸せな気持ちにさせたいという本の世界の住人は基本的に善意にあふれている。逆に、復讐譚や修羅場のあるような話の住人は吐き気を催すような悪意を持っている人間が多い。しかし、どちらも人間の一側面を切り取ったものだ。お前は人間が嫌いか?」

「そうさナ……。基本クソだと思うガ。勝手に縋るわ崇めるわ、かと思えば手のひら返して牙を剥くワ。まぁ、退屈しないって点では遊び相手のガキくらいには面白ぇ存在だナ」

「そうだな、それも人間の一つの側面だ。お前は神として奉られたと聞いているから、弱い人間が寄ってきやすい性質なのかもな。他人に縋りつき、理想と違う行動をすれば勝手に裏切られたと思い込んで逆恨みする。実に愚かで面倒な生き物だが、俺は人の温かさも知っているから、簡単に切り捨てられない。難儀なものだな」

「ふーん……なるほどナ。そういった考えもあるのカ」

「ところで、透さんは意中の方がいらっしゃいますか?」

 壱和が納得したところで、不意に睦月が別の質問を振ってくる。

「……他の奴にも聞かれたが、そんなに赤の他人の好きな相手に興味があるのか?」

「ええ、とても。ここでだけしか言えない話、してみませんか? 女には時に甘味より甘く感じる物があるのですよ。ご安心ください。秘密は厳守いたしますとも」

 水鏡は難しそうな顔をしながら、目を伏せてポツリとこぼす。

「実は、元いた世界に恋人を置いてきてしまった」

「嘘ですよね?」

「ああ、嘘だ」

 水鏡は速攻で嘘がバレて、肩をすくめた。

「悪いが、俺はただの本の虫で、読書に夢中で恋愛どころじゃなかったよ。だから、好きな人の話を聞かれても……困る」

 照れ隠しのように「この世界にはもう問題もないし、帰ろう」と、どら焼きを食べ終えた水鏡は会計に立ち上がるのだった。

●後日談

 こうして、イレギュラーズによる水鏡への取材は終わった。
 撮影された写真や取材メモなどは新聞社に持ち込まれたが、手の大きさや指の長さ、「好きな子いる?」などのかなりプライベートな内容だったので、新聞社の編集会議で審議をする必要があるという。
 この境界案内人の話題が記事になるには、少し時間がかかりそうだ。
 とはいえ、依頼をこなしたのには変わりない。イレギュラーズは問題なく報酬を受け取ったのだった。

成否

成功

状態異常

なし

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