PandoraPartyProject

シナリオ詳細

キューピッドイレギュラーズ!

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●逆恨みしナイツ!
 どんな世界にもキラキラしている奴というのは居るものだ。それが騎士団ならまず間違いなく存在する。
 腹立たしい、と。鳥種の貴族はせっかく被っていたカツラをワインの入っていたグラスへ投げ入れ、机の引き出しから出したパンツを深々と被ってそのまま引き千切って投げ捨てた。
 海洋には政治的事情というものが在る。
 幻想ほど暗く黒い物が渦巻いてはいないが、目に映る程度には女王派と飛行種の貴族派との間には火花が散っているのだ。
 何が言いたいかといえば。

「あんのキラキラしたいけ好かない生魚を!! 私は嫌っているのだ!!」
 話を軽く戻そう。鳥種の彼女は同じ騎士団内で人気の同僚がキラキラしている事に腹を立てているらしい。
 既に目の前で起きた変態行動にドン引きしているイレギュラーズは静かに真顔で頷くことしか出来ない。帰りたい。
「だぁがぁ! 他の者達も我慢していたりあからさまな嫌がらせをする者は多い!
 この私が、魚どもに煽られたからといって品格を欠く様な行為は、ンンンン!! 慎むべきでァル!!」
 もう欠いてる欠いてる、取り戻せない何かを彼女は失ってる。
 しかしイレギュラーズは皆視線が虚空を見つめているだけで、何も言いはしなかった。
「そこでだ……ふ、ふふふ。前金も兼ねて契約した通りだ、諸兄らにはこれから私が依頼する事も今見たものも含め全て他言無用!
 あのキザったい騎士に! 屈辱を与えて欲しい!! それはもう、無様な姿にしてやるのだぁ!」

 余りの剣幕に、遂にイレギュラーズの一人が立ち上がる。
「お任せを!!」
「ようし任せたァ!!」
 何となくこれで直ぐ帰れる気がした彼の勇気ある敬礼によって、本当にその場は解散となった。

GMコメント

 暑さすらも
 和らいでるのに
 荒ぶる依頼

 以下情報。

●依頼内容
 騎士に嫌がらせをする

●失敗条件
 イレギュラーズの素性がバレる
 著しい被害を与える

●注意事項
 この依頼は『悪属性依頼』です。
 成功した場合、『海洋』における名声がマイナスされます。
 又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。

●モテモテの騎士様に天罰を
 嫌がらせを依頼した騎士からのオーダーとしては、やり過ぎないようにフルボッコにして欲しいとの事。
 確かに相手は仮にも貴族。ここは依頼主の言う通りにローレットの存在を悟られぬように対象へ嫌がらせを遂行して下さい。
 ポイントとしては
 『なるべく人目についた方が恥をかきやすい』『なんとなく不運だなぁと思わせる』『怪我をさせたり、騎士である彼に関わる者に無用な被害が向くのは避ける』
 といった事を意識していればベストな結果になるでしょう。あくまでも海洋の爽やかなイメージで逆恨みのお手伝いをしましょう。

 【騎士アルス・ロイヤルサワー】
 モテモテ。サメの海種で、金髪碧眼の長身爽やか腹筋割れまくり趣味読書音楽鑑賞独身25歳。
 普段は町の巡回警備を一人で行い、宿舎の花壇の手入れを頼んでいる花屋に毎日ドーナツを持って行き、
 下町の学び舎へ赴いて子供達に挨拶をし、誰かが悪漢に絡まれていないか路地裏へ入る。そんな日々を送る好青年。

 【騎士エリカ・ホークアイ】
 嫉妬の魔種にでもなりそうなくらい同僚にもやっとしている依頼主。
 今回の嫌がらせ作戦において、彼女を作戦に入れても構いません。簡単な行動なら手伝ってくれるでしょう。
 最終的に彼女が満足する結果になれば成功です。

※本件に戦闘は発生しない為、非戦スキルやギフトを活用出来ます。

 以上。
 ちくわブレードです、皆様宜しくお願いします。

  • キューピッドイレギュラーズ!完了
  • GM名ちくわブレード(休止中)
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2018年09月29日 22時35分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
Lumière Stellaire
高千穂 天満(p3p001909)
アマツカミ
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)
氷雪の歌姫
イーフォ・ローデヴェイク(p3p006165)
水葬の誘い手
二次 元(p3p006297)
特異運命座標
ニミッツ・フォレスタル・ミッドウェー(p3p006564)
ウミウシメンタル

リプレイ

●わくわくする前日
「……では、私の力を見せるとしよう。なに、私はこう見えて少しばかり“悪戯”が得意でね。それなりに期待しておきたまえよ?」
 何処を見て言っているのだろうか。
 晴れ渡った晴天の下、『特異運命座標』ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)と『すぴかちゃん盛り上げ隊』二次 元(p3p006297)の二人は白昼堂々と貴族邸に忍び込んでいた。
 今日は他の仲間はいない。彼等二人だけのプランである。
 それはそれは見事な気配遮断を駆使したジジィの卓越したスニーキングスキルによって警備の眼を潜り抜け、そして何の苦も無く、容易く、中庭へと潜入に成功する。
 元はニヤリと深い陰を含んだ笑みを浮かべた。
 晴天の日でも勤勉に仕事をしている使用人の様子を物陰から観察した後、彼は同行しているメリルナートにサムズアップして見せる。
「もういいんでしょうかー?」
「いや、何となくやっただけぢゃ」
「えっ」
 暫くして。使用人がいなくなった隙に、彼等は素早く中庭に天日干しされている洗濯物へ駆け寄って行った。
 メリルナートはせっせと洗濯物の横で火を焚き。元は妙にキラキラしているシルクのハンカチと持ち込んだ白ブリーフをすり替える。
 カラフルな色彩のハンカチはその柄に近いステテコを、ハートが散りばめられたハンカチはハートまみれのステテコ。おまけのおまけに靴下も、どこぞのおっさん脱ぎたての靴下とすり替えておく。
 もくもく。もくもく。
 そうこうしている横ではうちわでパタパタと洗濯物を煙で燻しているメリルナートがくしゃみをする。

「きゃーー!!? なに!? 煙って……火事!?」
 犯行は即バレた。


 ところがケイオス、元の策略にぬかりはない。
 煙はその性質ゆえにこっそりしてても早期にバレる事は明白、とりあえず秘密の逃走経路を用意していた彼等は見つかる事無く脱出して来たのだった。
 屋敷の外には依頼主の姿があった。
「やるなぁ……見ろ見ろ、アルスの奴が燻された洗濯物を見て困っているぞ! ぺこぺこ謝ってる使用人は可哀想だが!
 だが、だが! はっははは! 美人な使用人なんぞ侍らせているからそうやって侵入者を許すのだマヌケがぁーー!」
 ゲラゲラと笑っている彼女は元達を親指を立てて褒め称えた。
 メリルナートは頃合いを見て切り出す。
「それでは早速イタズラの目撃者になってくれるよう、エリカさまにお願いいたしますわー。
 酷い目にあっているなぁ風に挨拶をして、見ていたぞ感をアピールしてもらえればいいと思いますわー」
「ほう? それで何か効果があると」
「恥ずかしいところを見られるのはー、きっと羞恥心もマシマシに違いありませんわー。
 エリカさまが時々でも現場へ居合わせたりすると効果的ですわー?」
「素晴らしい!! 行って来る! このまま共に出勤してやるのだァァぁあ!」
 即座に踵を返して疾走して去って行く。本当に彼女は貴族なのか。
 しかしこれで終わりではない。
 今日この日から全ては始まったのだ。まだ仕込みの段階の様な物である。

●始まる大作戦
 時間は少し進み、洗濯物への嫌がらせ作戦翌日の朝。
 イレギュラーズは海洋諸島にある首都から隣接した街に来ていた。
 首都とそう離れていない町中には海洋独特の活気が溢れ、雑踏の中でも潮風が流れている。
 そんな最中。街角に不自然な人だかりが生まれる。
 ぱんぱん! と叩かれる手の音。
「さぁさぁ先ずは一見!
 余は流れの占い師である。今日は皆に余の占いの素晴らしさを知らしめるため特別に無料で占おうぞ!
 既に何度かやっているのだが、余を疑う者もいるだろう。余興として余の透視能力を見せよう」
 誰か手伝ってくれる者はいないか、と問う『アマツカミ』高千穂 天満(p3p001909)は何やら小さな石を台の上に置く。
 なんだなんだと集まる者の中。面白そうだと前へ出て来たのは司祭(アコライト)らしき海種の女性だった。
「どうすればいいの?」
「くくく、主が余に分からぬように左右の手のどちらかに握り、どちらなのかを余が当てるだけだ。気楽に構えてよいぞ?」
 それに対して周囲から「なんだそんなもんか」といった声が挙がる。
 しかし、協力を申し出た女性は暫し何か考えて自身の手に何か魔法をかける。不正の類は通用しないらしい。
「はい、どっちでしょう?」
「右だ」
 即答。正解。
 その場を去ろうとした者達が足を止めて驚きの声を挙げた。
 続いてもう一度。左右右左左左。他の観衆も混ざって挑戦するが全て即答、正解だった。
 集まっていた者達は既に天満を疑わず、「占い師なら何か占ってくれ」という声が飛び交うようになっていった。
 彼女は袖で隠した後ろでニヤリと笑う。
「むむ、むむむむ、何やら今日はあちらの方角へ行くととても愉快なことがある、と出ている。
 信じるか信じないかは主達次第で有るが、余は行った方が良いと思うがの」
 その啓示の如き予告に観衆の一部は興味津々で移動して行く。
 まさかその先で目にする物が『悪戯』であるとも知らずに。

 細い路地が十字に交差しているそこには、ちょっとした観光でもよく知られる噴水広場がある。
 今日も少なくない規模の旅の行商や傭兵、旅人達がそこへ訪れていた。尤も、今日に限っては彼等は想定外の混雑に見舞われてしまうのだが。
「ら~♪ らら~~♪」
 その広場から少し離れた位置まで聞こえる程の大音量であるにもかかわらず、不思議と不快に思う者はいなかった。
 歌だ。詩に特別な含みは無くとも、聴く者に魅力を感じさせる声が辺り一帯に響いていた。
 『特異運命座標』ニミッツ・フォレスタル・ミッドウェー(p3p006564)は自身の持つハープを鳴らす。
 歌姫さながらに奏でられるその旋律は観光客のみならず、とある占い師に促されてやって来た『忙しい者達(暇人)』が群れを成していた。
 活気があるという点では良いかもしれないが、これでは本来なら有り得なかった筈のトラブルも呼び寄せてしまうかも知れない。
 ゆえにこの場を納める権限を持った者が呼び寄せられるのは当然の帰結だった。
「ミス・ホークアイ、君は彼女へ音量を下げる注意を。自分は観衆へ盗人の警戒と早期解散の注意を出す!」
「任せてくれアルス。美女の扱いには慣れているからね」
 キリッとした様相の騎士が二人、雑踏と群衆の中へ掻き分けて入って行く。
 既に事態は謎の方向へ動き出している。ニミッツと並んで他の歌姫な海種の女性が集まり歌い出していたのだ。

 騎士エリカは雑踏の奥に見える者達へ目配せで合図を出した。
 何やら混沌を極め始めている広場を見てダルそうに顔を顰めた『水底にて罰を待つ』十夜 縁(p3p000099)は『蒼海守護』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)と顔を見合わせてから溜息を吐いた。
「あの依頼主の感情、いわゆる嫉妬、ですね。わたしには人の気持ちがよくわからないから、なんでああいう気持ちになるのか……
 そしてなぜこんな依頼をするのかわからない……でも? 依頼を頑張れば何か見えてくるかも!」
「ま、これもある意味海洋「らしい」依頼かねぇ。
 ……にしても、種族も性別も違うやつに嫉妬したって仕方ねぇと思うんだが……若い嬢ちゃんの考える事はよくわからんモンだ」
 路地裏から様子を伺っていた彼等は動き出す。
 動きは上々。上手い具合に状況も混沌として来た所でそれぞれの思惑と作戦が同時進行で一人の騎士を襲う……!
「身分の高いヒトが相手の場合は気をつけなきゃいけないコトも多いからたいへんだネ、それでも期待には応えてみせるのがおれ達ローレットのイレギュラーズってものサ」
 縁と並行して群衆の中を避けて行く『水葬の誘い手』イーフォ・ローデヴェイク(p3p006165)、彼が狙うは一点のみ。
(ターゲットが人でごった返した街並みを歩くなら、すれ違いざま足をさっとかけて躓かせられたらイイよネ)
 そう、脚。
 イーフォの眼光が静かに揺れ、大きく迂回しながら標的の前方へと向かう。
 騎士。なるほど彼もこの国、領民を護る為に剣を提げている者の一人だ。恐らくはその反射神経と運動性能は生半可な悪戯も避けてしまうに違いない。
(けど重心がかかった足って、軽くものが当たったくらいですぐバランス崩してしまうものだからネ)
 イーフォが標的の前方へ位置に着いたのと同時。彼の視線の先では標的の後方で同じく待機している縁が映る。
 イーフォはクスリと静かに微笑んだ。縁はどう見ても清掃員……掃除係だ、ぼうっとニミッツの方を眺めている彼の正体を見破られる事は無い。
 もし彼の思考とリプレイを読んでいる者が居るならば、そう都合良く行くモノかと疑うだろう。
 勿論そうは行かない。普通にやれば失敗するだろう、そこで仲間の考案した作戦が光るのだった。

 そう────『蒼海守護』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)の『え? あの騎士様が!? ~海洋に轟く【文海砲】、遂に正統派騎士も大スキャンダルの波に揉まれ泡沫に消えるのか~』作戦である。

 騎士アルス・ロイヤルサワーは実に真面目な正義漢だ。
 しかしそれでも不慮の事故というものはこの混乱の中では付き物であり、遠目にニヤニヤとニミッツと肩を組んで眺めていた依頼人はその瞬間を正に目撃した。
 何故か視界に入りやすい位置で、建物の屋根上の隅へと向かうココロ。
 その格好は一瞬目にした際は海洋でも見慣れたセーラー服だが、正義漢のアルスは彼女へ注意をしようと直視した時に気付いてしまったのだ。
「君! そこはあぶな……なぁ!?」
(な、なんであんな破廉恥な……!)
 赤面する騎士様が視線を逸らそうとするも、最早遅すぎた。
 ベールで妖しく顔を隠した怪しい美少女は腰を揺らして。とても、それはもうとても短くしたスカートを風に靡かせて彼に見せつけていた。
「「見たな……」」
 その瞬間、その場に集結したイレギュラーズ達の鋭い視線が交差する。

「きゃーーー!! 助けてください! スカートの中を手鏡で盗撮されました! きゃああ! 男性雑誌に投稿されちゃう! お嫁にいけない!」
「おっとごめんヨ───」
「うおっと、大丈夫かい旦那!? すまねぇな、手が滑っちまってよ……」

 後に騎士アルスは語る。
 『ありとあらゆる不幸が襲いかかって来たかと思ったよ、ハハハ』、と。
 叫び声を上げられたターゲットはまず狼狽え、弁明あるいは真犯人を捕まえようと近付く前に完全にお留守となっていた脚部を引っ掛けられ。直後に広場の掃除係と思しき男性とぶつかってその身に水を浴びてしまったのだった。
 地面にベシャァッと倒れた彼は数秒間無言で起き上がれなかった程である。
 掃除人……に紛争した縁は片手で平謝りしながら水浸しの彼へ声をかけた。
「すまねぇなぁ……そのままじゃあ風邪を引いちまう。拭くモンを持ってくるから待っててくれ」
「…………」
 無言で手を振る彼の心境は如何に。
 そしてスムーズにその場を離脱する仕掛け人達、くすくすと辺りから聞こえて来る笑い声。
 トドメは騎士アルスが懐から出した布がブリーフだった事で辺りでは笑いの渦が巻き起こったのだった。
 彼等の作戦は見事に成功した。

●トラウマを植え付ける鬼達
 路地裏で響き渡る依頼人の高笑いを抑えようと『特異運命座標』秋宮・史之(p3p002233)は口を塞いだ。
「ぶっはっはっは! いやぁすまない。だって見たかさっきの広場のアイツ!
 いつも奴をチヤホヤしている女達にも笑われて気まずそうにしていたぞ! しかもその後で休憩に寄ったベンチで服を完全に駄目にしてこの私に着替えを渡される始末!
 流石は噂通りだなローレット! 今のところ完璧だ! この後にもまだこのレベルの地獄が奴を待っているかと思うと心が躍る!!」
「あはは……」
 狂喜乱舞する依頼人を前に苦笑する史之とメリルナートは顔を見合わせてコクコクと頷いた。
 暫しして落ち着いた所、史之が次の作戦について切り出した。
「さて、次は彼がドーナツを買う前に全部購入して売切れにしてしまおう。
 で、エリカさんは、ドーナツが入った箱をふたつ彼のところへ持っていってよ。ひとつは花屋へ送るためのもの。もうひとつは二人で食べておいで」
 スッと静かになった依頼人エリカは首を傾げた。
「待て、花屋への分は分かる。私も世話になっているからなあの店には、だが最後のはなぜだ?」
 その問いに対し裏方となって駆け回っていた縁がペンキ缶片手にやれやれと首を振る。
 史之も「ふっ」と意味ありげに肩を竦めて見せた。
「鳥種のあなたから施しを受けるなんて彼は悔しくてたまらないはずさ。
 ましてや並んで食べたりしたら、彼が真っ赤になって屈辱に震えるところが見れるよ。たぶんね」
 直後、またもや高笑いでドーナツ屋へ飛び出そうとした依頼主を史之達が止めるのだった。

 ドーナツ屋を出た騎士アルスは気落ちした様子で、ほう……と。静かに息を吐いた。
 肩を落として頭を掻いている彼は何度か頬を叩いて気を取り戻そうとするも、どうにも調子が出ない様だった。
 向かいの路地裏から覗いている史之とメリルナート達はドーナツをもぐりながら縁に頼み、別の通りで待っているエリカへ合図を伝えて貰う。
 暫しの間。
 ちょうどターゲットが移動しようとした頃、偶然を装って歩いて来たエリカが手を振って近付いて行った。
「やあ、奇遇だなアルス。ここで何を?」
「ミス・ホークアイ……あはは、さっきは着替えをありがとう。今日は君とよく顔を合わせられて嬉しいよ」
「フ、何か落ち込んでいる様だな。また何かあったのか? アンラッキーボウイ」
 とぼとぼ歩いて行く同僚について行くエリカは穏やかな笑みを浮かべてジョークを飛ばした。
 それを物陰から見て「なんだあの人……」と史之が眉を潜める。
「実はいつも兵舎の花壇を手入れしてくれてる花屋へドーナツを買って行ってるのだが、どうにも今日の僕は運が悪い。目の前で売り切れてしまったよ」
「アルスは人が好過ぎるのさ、常連なら店へ文句の一つでも出せばいい。ま……それをしないのが君なのだろう。
 そら、運が良い事もある。私は今こうしてドーナツの入った箱をなんと二つも持っている、アルスにこれをあげよう」
 隣を歩いていた落ち武者がぱっと聖騎士へとランクアップする。
「良いのかい?」
「その代わり、後でこっちのドーナツを一緒に食べて貰おうか?」

 小さく片目を閉じて箱を差し出して来た彼女を前にして、彼は顔を赤くして俯いてから「もちろん」と答えたのだった。
(なんだろう……この、なんだろう。ところでこの依頼、本当に嫉妬だけ?)
(わたくしは依頼者の女性がイタズラ対象の騎士にラブを感じているのではないかと嗅覚が働いています)
(でも、依頼人も、気落ちさせ過ぎるのは、嫌だと、思うんだよ、ね……このくらいがいい、のかも?)
 ひそひそと目を細め、またはあらあらと見守っているイレギュラーズ達。
 果たしてこの依頼はどこへ向かっているのだろうか。

 ドーナツを食べ終えた二人が行く方へイレギュラーズ達も並行して追って行く。
 そこへ、それまで姿を見せていなかったイーフォと元が合流した。
「ここまで予定通り、依頼主からの情報に沿ってターゲットが動いていたから次に向かう路地裏へ罠を作って来たヨ」
「ワシも手伝ってきたのぢゃ!」
「おかげで完成度は高いヨ。これがうまくいけば足元が滑って泥んこになるどころか、手をついたと思ったらまた泥んこだ!」
 嬉々として悪戯装置を設置した事を報告して来る二人に真剣な表情で頷く仲間達。
 そこで、史之が挙手する。
「今向かってるのは確かこの辺りにある学舎だったかな? そっちは元さんが何か仕掛けたんだよね」
「うむ! ……聞いて驚かないでくれたまえよ史之殿。私が仕掛けたのは昨夜、学び舎へと侵入して出入口である門扉の真下にちょっとした落とし穴を掘ったのだよ
 その穴は怪我をしない程度に浅くしてあるが、恐ろしいのは深さの問題ではない。『何があるか』だ……!」
 ごくり、とその話を聞いていた仲間達が喉を鳴らす。
「いったい……何が……!」
「犬のフンぢゃ」
 刹那。野太い悲鳴を始めとした幼い子供達の悲鳴が大通りにまで響き渡った。

「「 !? 」」

 何事か、とイレギュラーズが眼を向けた先。
 小さな海種や飛行種の子供達が泣きグズッている前で呆然と深々と頭を下げるかの様に四つん這いで固まっている騎士アルスと、依頼主エリカが唖然と立ち尽くしていた。
 まさか。そう思った元はグラサンの下で目を見開いた。
 恐らくは天上の主も彼の運値を賽で決めていたのだろう。騎士アルスは最悪のタイミングで一日の最初に痛めていた足をもつれさせ、顔から門扉に向かって転倒していたのである。
 それから数十分後、イケメンのお兄さんが凄惨な姿となった事に子供達が引いている横。無言で帰って行く騎士達の姿がその場に描かれた。
 依頼は、これを持って終了となるのだった。

●判定の結果
 最初に依頼について説明を受けた際に招待された館で、イレギュラーズはニコニコと目を輝かせている依頼主に注目した。

「私、彼と結婚するの!!!!!!」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様でしたイレギュラーズの皆様。
依頼は成功として依頼主からぐっじょぶサインが出されたそうです。

後日、海洋のとある町を歩いていると大変満足そうな女騎士と犬っぽい騎士が見かけられたとかなんとか。

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