PandoraPartyProject

シナリオ詳細

欲望パーティは夜を待つ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ある情報屋のはなし
 深いフードを被り、潮の香りがする町をゆく男。
 黒いネコが足下を通り過ぎ、裏路地へと消えていった。
 男は誰とも目を合わせることなく、同じように裏路地へと消える。
 出迎えたのは破廉恥なネオンサインたちだった。
 性風俗を思わせる明け広げな看板とボーイ服の客引きたち。
 ファーのマフラーをかけた衣薄なドレスの女たち。
 文化の裏側。世界の裏側。
 コインに表と裏があるように、町が見せるこの顔もまた、文化と社会にとて必要な側面であった。
 だがフードの男はどの客引きにも女たちにもまして紹介所の看板にすら立ち止まること無く、先へ先へと歩を進めた。
 まるで輝きから逃れるかのように、闇ある場所へと進んでゆく。
 裏路地の更に裏。
 いや、闇の路地とでも呼ぼうか。
 裏の裏は表ならず、その間に挟まれた闇である。
 奇怪な妖気とすえたにおい。
 光り輝く看板はおろか客引きすらない陰鬱な通り。
 その一角。路上に座り込むハンチング帽の男がいた。
 フードの男が立ち止まったのは、まさにそこだ。
 指を二本。口元に当てて煙草かなにかを吸う動作をする。
 ハンチング帽の男は僅かに顔を伏せ、足下の募金を求める箱を少しだけ突きだした。戦争で足を悪くしたという旨が書かれていたが、そこにコインを何枚か放り込むと男はなにくわぬ顔で立ち上がり、背後の扉を開いてみせた。
 裏の裏の、さらなる裏。
 そこに広がっていたのは、光り輝く世界であった。

●錬金麻薬『ルスト』
「とまあ、ここまでが情報屋から買った内容さ。フードの男? ははっ、僕じゃあないよ」
 からからと笑う『黒猫の』ショウ(p3n000005)。海洋港町の一角にある蟹鍋屋の個室席である。
 一風変わった畳座敷に土鍋がひとつ。甲を真っ赤にしたカニの足がぐつぐつと煮えている。
 襖からのぞき見えるは海洋の夜景。その端でわずかに光るのが、いま話した裏の裏のさらなる裏。通称――。
「『リリスガーデン』。欲望の渦巻く社会のアンダーグラウンドさ。
 僕らが依頼された仕事は、ここに潜入してある商品の売人を捕まえること」
 懐からショウが取り出したのは、小さなカプセルだった。
 カプセルを割ると、中から硬いゼリー状の物体が転がり出てくる。
 蛍光グリーンのグミとでもいおうか。どうにもまずそうな色をしているが……その内側に奇妙にうごめく結晶のようなものが見えていた。
「服用した人間に想像を絶する快楽を与える薬、『ルスト』さ。
 海洋の闇錬金術師が作り出した麻薬でね、それがこのリリスガーデンで広まっているらしい。
 おっと! 『麻薬の売人は死ぬべきだ』なんて言わないよ。麻薬は医学上大事な薬品だし、なによりこの件の依頼主がいわゆるところの麻薬王ってヤツだからね。二つの意味で余計な詮索や立ち入りはナシにしようってはなしさ」
 ここまで話せば裏にあるものは察しがつく。
 社会や人々を壊さない程度の『健全な麻薬』を売っていたさる依頼主にとって、破壊的な麻薬を売って荒稼ぎをする邪魔者の出現は困るのだろう。
「できるかぎり生かしてとらえること。最悪殺してしまってもいいけど、努力はしてくれ……てさ。
 どっちも悪党なんてヤボはいいこなしだよ。悪には悪のルールやマナーがあって、僕らはその一環として仕事を受けた。受けたからには、成功させなくてはならない。だろ?」
 カニも奢って貰ったしね、とショウはカニの足をつまみあげて笑った。

GMコメント

 ごきげんよう、アンダーグラウンドへようこそ。
 皆様にはこれより裏社会へ潜り込んでいただきまして、錬金麻薬『ルスト』の売人を捕まえていただきます。

【チームプレイかスタンドプレイか】
 売人は複数存在しており、顔や名前が分かっている者から噂程度までしかつかめていない者、そもそもいるかどうか分からない者まで様々です。
 このうち最低でも3名以上を捕まえることが成功条件となっております。
 ……よって、メンバーを3つ以上に分けて捜索や接近、逮捕を行なう必要があるでしょう。
 最低人数は1PC。方法は『おまかせ』します。
 色仕掛けが得意な方は自らの色香を武器に近づき隙を突いて拘束してしまえばいいですし、演技や交渉が得意な方は大口客になりすまして近づいてもいいででしょう。
 勿論腕っ節が自慢という方は堂々と相手の根城に乗り込んで用心棒を片っ端から倒しつつターゲットをとらえてもOKです。ただしこの場合は一人きりだと不安ですので、数名のチームを組んで屋内突入作戦を組みましょう。
 メンバーとその技能を見て、依頼主が『捕まえるべき相手』を指定してくれます。すごくメタ的にいうと得意な相手に当たれるということです。
 推奨されていないのは、深入りしすぎることと殺しすぎること。
 戦闘でケリをつけるにしてもなるべくなら不殺スキルを用意しておきたい所です。
 そして売人をとらえても拷問や尋問をせずにさらっと引き渡しましょう。そういうののプロが世の中にはいるようなのです。役割の分担ですね。

【相談のススメ】
 スタンドプレイを予定していても、案外自分の用意したスキルやプランに穴があったりするものです。
 プレイングを見せ合ってみたり、まわりに自分のスキル構成からできることを尋ねてみたり、逆に提案してみたりという交流をはかってみましょう。脳内だけで一巡したプレイングよりも洗練したものができあがるかもしれません。
 逆に、自分では気づかない穴にすぽっとはまってしまって思うようにいかないなんてこともあるので、そういった意味でも話し合いをお勧めします。

 それでも話すことないなーと思ったら、みんなでカニ鍋を食べるロールプレイを楽しみましょう。
 ショウくんは先に帰ってるし既に料金は支払われているので、うまいカニをお食べください。なぜなら、楽しいからです。

【アドリブ度】
 ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
 プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用くださいませ。

  • 欲望パーティは夜を待つ完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年09月28日 23時45分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ナーガ(p3p000225)
『アイ』する決別
リノ・ガルシア(p3p000675)
宵歩
豹藤 空牙(p3p001368)
忍豹
ルチアーノ・グレコ(p3p004260)
Calm Bringer
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き
サイモン レクター(p3p006329)
パイセン
ルツ・フェルド・ツェルヴァン(p3p006358)
暗黒竜王
龍宮・巫女(p3p006441)
龍神の巫女

リプレイ

●夜を待つ者たち
「カニ鍋……とは……」
 『暗黒竜王』ルツ・フェルド・ツェルヴァン(p3p006358)がカニの足とフォーク状のあのひっかき出すやつ(カニフォークっていうらしい)を両手に持って難しい顔をしていた。
 丁寧にカニの身をかきだすルツ。そこへ、からりと襖が開かれた。
 貫禄ある恰幅。妙に鋭い目。半端に歳を重ねた顔の皺。別の意味で豊かな胸。
 その女性は、黙ってルツの皿からカニをとりあげると芸術的な手さばきでカニの身をさらに盛りつけてから返した。
「アタシはスーザン。アンタたちに仕事を割り振る。……アンタ、どうやら最近になって演技のしかたを覚えたんじゃないかい?」
「……なぜわかる」
 小さく顔を上げるルツ。
 そばでお茶をすすっていた『メルティビター』ルチアーノ・グレコ(p3p004260)も無邪気な目を急速に鋭くした。
「観察するのがアタシの仕事でね。アンタと……そうだね、そこの闇の深そうなボク。こいつを持っていきな」
 ルツとルチアーノにそれぞれ真っ白なカードを渡すと、『あぶれ』というサインを出した。
 カニ鍋用のミニコンロに翳してみると、あぶり出しでガイド妖精がわき上がる。
「参ったね。確かにできるよ……それじゃ、お先に」
 一瞬で仕事の内容を伝達された二人は、カードをそのまま燃やして部屋を出て行った。
 続けて、スーザンは黒いカードを『忍豹』豹藤 空牙(p3p001368)と『黒耀の鴉』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)にそれぞれ投げた。
 キャッチした二人はカードの中身を確かめると……。
「拙者は、そもそも、忍者。潜入捜査や暗殺も、よく行うでござるが、まぁ、実際には魔物退治の経験が長いから、対人戦闘とか忘れてないと思いたいでござる」
「薬も毒も使い手の心しだい、という事でござろうか。やれやれ。旨いカニ鍋の恩があるとはいえ難儀な仕事を受けてしまったでござる」
 二人はすっくと立ち上がり、残るメンバーに手を振った。
 髪を手早く結い直す咲耶。ワンアクションで忍び装束に着替えると、カードを炎の中へと投げ込んだ。
「ここは忍びである拙者の腕の見せ所でござるな」
 そうして、空牙と咲耶は足音もたてずに部屋から出て行った。

「さっきの子たちにはそれぞれ単独で、そして同じ場所へ行って貰ったわ。スタンドプレイも噛み合えばチームプレイになるのよ」
 スーザンはころりと表情と口調を変えた。スラム街で幅を利かせるババアの印象から、海洋でスパゲッティゆでてるおばさんの雰囲気へと一瞬で変わる。素性がまるでわからない。
「さてと、それじゃそっちの可愛らしい子たちにもお仕事をあげようかしらね」
 ピンク色のカードを投げられて、『龍神の巫女』龍宮・巫女(p3p006441)はぱちりとまばたきした。
 カード表面をこすると甘い香りがした。香りが奇妙な伝達作用をもたらし、依頼内容が頭にすり込まれていく。
「麻薬、ねぇ。ま、正しく使ってる分には私は何も言わないわ。但し、間違えた使い方をしたらどうなるか。神のお説教が必要みたいね?」
 同じく依頼内容を確認した『宵歩』リノ・ガルシア(p3p000675)は、カードの先端に火をともした。
「どんなヒトでも快楽には弱いものよねぇ。もっともっと、って欲しがっちゃうのも仕方がないことなのかしら。業の深い話だわ」
 ゆれる炎をひとしきり眺めたあと、灰皿へ落としていく。
「ふふ。それじゃあまた後でね」
 手をグーパーさせながら出て行く二人の女。
 残されたのは『吸血鬼を狩る吸血鬼』サイモン レクター(p3p006329)と『アイのミカエラ』ナーガ(p3p000225)の二人だった。
「あぶないオクスリなんかより、アイしあったほうがタノシイよ? でもコンカイは、あんまりやりすぎちゃいけないみたいだから、サイゴまではアイさないであげるよ」
 ザンネンだなァといってカニの足をつまむナーガ。勢い余って握りつぶしてしまったようで、しかたないやと殻ごと口に放り込んだ。
 ナーガにカニの身を丁寧に出してやりながら、スーザンが赤いカードをそれぞれのトレーに乗せていく。
 カードの内容を確認して、サイモンはにやりと笑った。
「なるほど、確かにこいつは俺たち向きだ。だよなナーガ(相棒)」
 たちあがるサイモン。ナーガは皿に盛られたカニの身をひとくちで食べきると、彼に続いて立ち上がった。
「終わったらここに戻っておいで。うまくできたら、今度はウナギを喰わせてやるよ」
 スーザンひとりを部屋に残し、からりと襖が閉じられた。

 海洋が見せる夜の顔。裏社会リリスガーデン。
 流れ者疵物前科者。日の当たらぬ夜の世界。
 裏の裏まで入り込めば、そこは二度と日に当たらぬ闇の世界となる。
 これはリリスガーデン・アンダーグラウンドへと入り込んだ者たちのお話。

●クジラマスを捕まえたくば口から入れ(海洋のことわざ)
 木で出来た扉を叩く者がある。
 彼がルツであることを、視聴者諸兄は知っている。
 けれど彼を知る者からすれば、その薄ぼんやりとした泥のような顔つきや振る舞いが彼らしからぬことも、わかるだろう。
 扉の向こうから聞こえた言葉に合い言葉を返し、僅かに開いたのぞき窓に顔を寄せる。
「初めて見る顔だ」
「こちらにルストがあると聞いてな。アレはいい代物だ……」
 どこを見ているか分からない顔で言う。
 扉の向こうで、相手はしばし黙っていた。こちらを疑っているのだろう。
「私を疑うと? この顔が陽の当たるところにあるように見えるか?」
 ルツの、麻薬にどっぷりと浸かったような振る舞いは見る者の息を呑ませるほどだ。
 それが演技であることが、分かっていても分からないほど。そしてボロがでないよう感情にフタまでする徹底ぶりであった。
 やがてルツは狭い部屋へと招かれた。
 転売を防ぐ目的で、ルストの服用は売人の前で行なうのが常識だ。
 規定の金額を支払うと、売人が水煙草の要領で用意された吸引器を持ち出してくる。
 ふと見ると、壁際の椅子にルチアーノが腰掛けているのが分かった。
 ルチアーノは下を向いてぶつぶつと何かを唱えている。
「ルスト……あれがないと僕は……」
 そう言いながら手を震わせていた。
 ルツほど優秀な演技ではなかったものの、末端の売人を騙す程度には役立ったようだ。
 ルツのように警戒心の強い相手を騙すほどのことはできなくとも、ルツよりも多額の金を『常連客』に紹介料として支払いここへ連れてこさせることはできた。ルストの購入資金も紹介料も、この仕事をこなすためにスーザンから秘密裏に用意されたものである。勿論慈善事業で支払われたわけではない筈なので、きっとどこかの誰かが数百倍の得をするのだろう。
 吸引器を先に渡されたのはルチアーノのほうだった。
 ルチアーノはゆるやかに前髪をかき上げると、シャツの胸元をとめるボタンをどこか乱暴に開いていった。
「ねえ。口移しで飲ませて欲しいな」
 突然何を? ルツはそう考えたが、売人はその要求に喜んだようだ。
 ルチアーノのような歳の少年を喜ぶ趣向の人間だったらしい。勿論、それもスーザンが調べた上でのあてがいである。
 周到に用意されたルチアーノという罠に、売人は沼のように沈んでいく。
「優しくしてね……?」
 顎を押さえられたルチアーノが相手の手に触れる……ように見せかけて、装備していた攻撃媒体の指輪をかすめ取った。
「――!?」
 武器を奪われたことで危機感を覚える売人。
 だが次の行動を起こすより前に、ルチアーノの膝蹴りが売人の脇腹にめり込んだ。
 崩れ落ちる売人。
 奥から別の男が出てくるが、ルツがぬっと立ち上がって彼の下あごに掌底を叩き込んだ。
「ぐっ……!?」
 すかさずハイキック。
 側頭部にルツの靴が直撃した男は、目を回してその場に倒れた。
 首元をゆるめ、息をつくルツ。
 ルチアーノからパスされたロープをキャッチした。
「随分と、あやうい演技だったな」
「そっちこそ」

●ホタルイカは夜にとれ(海洋のことわざ)
 木の枝に乗った空牙が、じっと闇の中に目をこらしている。
 空牙に依頼されたのは売人とそれを購入した人間をそれぞれ捕まえることであった。
 しかし同時に二つの捕縛を行なうのは至難の業。それゆえ、売人の疑いがある者とその購入者らしき人物を別々に監視し、決定的瞬間を押さえた時点で捕まえるという計画がなされた。
 空牙が監視しているのは売人と思しき人物である。
 リリスガーデン・アンダーグラウンドの裏酒場。密造された酒が振る舞われるこの店……の、裏手にある小屋が売人のスポットがある。
 一方で咲耶は酒場のテーブルについていた。
 酒場に入って特定の商品を注文し、金額を多く支払う客。それがターゲットである。
 ナンパな声を受け流し、一人で酒を飲む風をよそおってその場でじっと時を待つ。
 騒がしい店内の中で、特定の注文ワードを聞き分けるのは難しいが……咲耶の耳でならそれが可能だった。
 すっくと立ち上がり、全く同じワードで注文をして後に続く。
 そこからの流れは簡単だった。
 先客に続くようにみせかけ、すぐさま静かに物陰に隠れる。先客も、そして小屋の売人も次なる客の存在など知りもしないだろう。
 小屋の扉が開いたその瞬間が、咲耶の仕掛け時だった。
 咲耶の呼び出した鴉たちが開いた扉から滑り込み、室内で暴れ始める。
 それを邪魔に思った売人が鴉を攻撃するが、そのショックで消滅したことで罠であることに気づくだろう。
 だが、気づいたときにはもう遅いのだ。
「見つけたでござる。その薬品、『ルスト』でござるな!」
 開いたままの扉から割り込んだ空牙が襲いかかり、売人を殴り倒す。
 一方で咲耶は、鴉の発生に驚いて下がった客を狙った。
 音も無くよじ登っていた酒場の屋根から跳躍し、ロープで一瞬にして縛り上げたのである。
「確かに麻薬が魅せる世界は魅力的でござるが、人生を振るほどの価値では無いでござるな。やはり拙者には無用の代物でござる」
 縛った客と倒れた売人を交互にみて、咲耶は深く息をついた。

●虎亀の足跡を追うな(海洋のことわざ)
 リノはいつも通りの服装で、巫女は少しばかり露出の多い格好で、二人は利リスガーデンの酒場へとやってきた。
 いわゆる歓楽街のバーである。
 広くて綺麗で、ムーディーなジャズが流れる店だ。
 リノたちに与えられたのはある売人の捕縛。
 女癖が悪いがそのかわり記憶力がよく、誰かを潜り込ませてもすぐに気づかれてしまう。
 そのために、これまで関わりの無かった二人が選ばれたのだった。
 二人であることにも理由がある。
 ターゲットは常に用心棒を従えており、二人を分断する必要があった。
 ターゲットを連れ出す役目と、感づいて用心棒が邪魔に張らないように足止めする係。そして双方を同じ罪で捕まえることが……それぞれにかせられた依頼内容だ。
 つまり、スタンドプレイが交差することによって生じるチームプレイ。

 円形のソファが置かれた半個室。うすいカーテンで仕切られた場所に、巫女がゆっくりと入ってきた。
 ソファに腰掛けて酒を飲んでいたのが、今回のターゲットである。
「ねぇ? そこの渋いオジサマ? 私とちょーっといいお話しない?」
 胸元を開いてターゲットに接触をはかる巫女。
 そういった直接的な誘い方を好むタイプなのか、ターゲットは用心棒をその場に待たせ、個室へと立った。
 ターゲットの手癖の悪さを誰よりも理解しているのが用心棒であり、その隙を突かれて二番目に困るのもまた用心棒だ。
 個室に立った彼を追いかけようとした所で、カーテンがサッと開いた。
「ねえ」
 リノの中指が用心棒の胸の中心をついた。
 すべるように首へ顔を近づけ、囁くリノ。
「ステキなものを売ってくれるっていうのは本当? とっても気持ちよくなれるって聞いたのだけど」
 用心棒の巨躯が、リノの比較的小柄な身体に押されていく。たったの中指一本で、半個室の中まで押し戻された。
 力ではなく、色気による圧力である。
「どうせなら使う前と後でどれくらい気持ちよさが違うか……」
 肩を下ろす動作だけで、リノの上着がするすると落ちていく
「試してみたくなってきちゃった」
 雇い主の手癖の悪さに困らされてきた用心棒の中に、自分も良い思いをするべきだという考えが浮かんだ。
 商品は手元にある。これを売りつけてついでにいい思いができれば……。
「サービスしたくなっちゃった。アナタとってもステキだもの」
 ソファに腰掛ける用心棒。身を乗り出してよりかかろうとするリノ。
 流れる蜜のように頭の後ろに伸びる指。
 両手がゆるく組まれた瞬間、リノの膝蹴りが用心棒の鼻を砕いた。
「ごめんなさいね、お仕事なの。気持ちイイことはスキだけど分別って大事よね」
 慌てて武器をとろうにも手を伸ばして届く距離にはない。
 中指をあてられたあの瞬間からもうハメられていたのだ。そう気づいた時には、二発目の膝蹴りが用心棒の意識を奪った。

 一方その頃。
「騙して悪いけど、仕事なのよねー。はー、やれやれ。私おっさん趣味はないのよねー。」
 トイレの個室でぐったりと横たわるターゲット。その襟首から手を離し、巫女は血の付いた拳をペーパーで拭き取った。
「どうせなら、可愛い男の子や女の子を誘惑したかったわ」
 ペーパーを投げ捨て、ターゲットに手錠をはめた。

●ヤスリウナギは頭を潰せ(海洋のことわざ)
「さーて、行こうか相棒」
 肩を回し、首をならし、サイモンは拳をこきりこきりと慣らした。
「みんなアイしてあげようね」
 スコップを担ぎ、おおきな口でにっこりと笑うナーガ。
 二人が見上げるは白夜の城。
 八角形の屋敷に提灯が下がり、美しくライトアップされている。
 庭にはプール。玄関には用心棒。
 しかし二人は、強行突破を試みる。
「なんだ貴様――」
 武器をとろうとした用心棒にダッシュで迫り、スコップを叩き付けるナーガ。
 倒れたところを踏みつけて気絶させると、玄関のドアノブをスコップでがしがしと殴りつけ始めた。
 どんな鍵も壊せば開く。
 そんな直接的な突入に、ターゲットが気づかないはずがない。
 慌ててパニックルームへ飛び込いんでいく。
 玄関からパニックルームまでは通路を迂回せねばならない。その間に用心棒を向かわせることができるだろう。
 そう考えていたが、家の裏側からサイモンが物質透過を使って突入してきたことには気づかなかった。
 銃を構えて慎重にナーガ迎撃をめざす用心棒に背後から飛びかかり、首を強制的に捻り回して気絶させた。
 が、それが用心棒のごく一部でしかないことは承知している。奥から大柄な男が現われ、ハンマーでサイモンを壁もろともぶち破ったのだ。
 咄嗟にはった理力障壁は破られ、あばらに酷い痛みが走る。
 だが作戦は正面突破。殴り合いは覚悟の上だ。
 次なる打ち下ろしハンマーアタックを転がって回避し、指を切って吹き出させた血をワイヤーのように伸ばして相手の腕に巻き付けた。
 引きちぎろうと引っ張る腕から血が吹き出る。
 一瞬の躊躇。
 その隙に、猛ダッシュしてきたナーガの跳び蹴りが炸裂した。
 男の顔面を潰す勢いで放たれた蹴りが、男を気絶させる。
「襲いぜ相棒」
 サイモンは笑って、ナーガの差し出した手につかまった。

 パニックルームの扉が殴られている。
 幾度も殴られている。
 頑丈さで知られる壁も、錠前も、いつしかがたがたと震え始めていた。
 ついに敵がすぐそこまで迫ってきた。用心棒たちはやられてしまったのだろう。
 なんとか生き延びるすべを……と外線連絡機を操作するも、どこにもつながりはしなかった。既にサイモンによってラインを切断されているのだ。
 だがここに籠もっていれば……。
 そう考えていた彼の目の前に、サイモンが壁を抜けてするりと入ってきた。
「悪いな」
 内側からガチャリと扉を開く。
 隙間から、ナーガが笑顔で覗き込んだ。
「おまたせ……アイしてあげるね」
 屋敷に絶叫が響いた。

●リリスガーデンの夜は続く
 夜の町からある麻薬の密売人が消えた日。
 料亭の襖が開かれる。
 恰幅のいい女、スーザンが膳の前に座っている。
「遅かったね。約束のウナギだよ」
 町の夜は、今日も続く。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete
 ――good night

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