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シナリオ詳細

<晶惑のアル・イスラー>月夜に照らす美しき薔薇のように

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「護衛してくれてありがとう、ユニスちゃん」
「いえ、先生にはとてもお世話になりましたから。
 お弟子さん……研究員の人達もご無事だったようで、なによりです」
 美しいサファイアのような青い瞳を細めたエルリアに、彼女よりやや幼く見えるレンジャーの少女ユニスが微笑する。
「ノエルも来る予定だったのですけど、どうやらやるべきことが終わってないらしくて」
「それなら仕方ないよ。この時期でもやっぱりラサは暑いね。
 そろそろお昼ご飯にしようか」
 そう言って陽の光を見上げたエルリアはユニスの方を向いてリラックスした様子を見せれば。
「あれ、もしかして?」
 そう2人にとって聞き覚えのある声がした。
 振り返れば、炎堂 焔(p3p004727)の姿がある。
「やっぱり、エルリアちゃんとユニスちゃん? どうしてここにいるの?」
 エルリアは深緑を出身とする研究者だ。
 砂漠の緑化に着いての研究を進める彼女は、普段であればラサと深緑を行き来している。
 そんな彼女は、冠位魔種カロンとの戦いの後、祖国の復興のために奔走しているはずだ。
 少なくとも焔が以前に顔を出した時は深緑にいたが。
「焔ちゃん!」
「お久し振りです。最近、この辺りで幻想種の誘拐事件が起こってるって話はご存知ですか?」
「うん。なんだか前と同じように眠りの砂? みたいな物も使われてるみたいだね。
 深緑にいた方が安全だと思うけど……」
「うん、そうなんだけどね。ラサの研究室に残ってる子達が心配で様子を見に来たんだよ。
 大丈夫そうであれば、このまま帰るつもり」
「私はウィルバーソン先生の護衛として同行してたんです。
 以前にお世話になった恩返しと……一応、レンジャーなので」
「そうなんだ! 2人の様子を見る限り、他の人達は無事なんだね」
「うん、なんとかね。
 今日は一日休んで、明日には研究室の子達も連れて深緑に戻るつもりだよ」
「それは良かった……ユニスちゃん、ノエル君は元気?」
「ええ、もうすぐ粗方の除去作業が終わるみたいです」
「そうだ、焔ちゃん。今からお昼ご飯を食べに行こうとしてたんだけどね。
 この後時間があるなら、お昼を一緒にどうかな?
 こんな暑いところで話すより、冷たい物でも飲みながらお話しようよ」
 焔の問いかけにユニスが答えた辺りで、エルリアが思いついたようにそう言った。
「え、いいの?」
「うん、ちょうど今日はグラオ・クローネで特別メニューがあるはずなんだ。
 ユニスちゃんも良いかな?」
「はい。もちろんです」
「それじゃあ、行こう!」
 そう言って先導するエルリアに続いて2人は歩き出す。


 ――日が暮れていく。
 美しき冬の夜、グラオクローネの伝承を準え人々が過ごす憩いの日。
 まるでまだ眠るには早いとばかりに活気に満ちた水の都・ネフェルスト。
 その空を、巨大なる影が飛翔する。
 それは竜ではない。亜竜種達が見れば一目で『竜種』ではないと口にするだろう。
 強大なる竜種を模した『ソレ』の名を、イレギュラーズやラサの上層部は『晶竜(キレスアッライル)』と呼んだ。
 ラサの市場へと流出した『魔性の宝石』――『紅血晶』に魅入られた人々が呼応するように『晶獣(キレスファルゥ)』、『晶人(キレスドゥムヤ)』に転じる中。
 晶竜はネフェルストへと踏みつぶすように襲い掛かってきた。
「た、助けてください! 先生が、エルリア先生が――!」
「お、落ち着いて! エルリアちゃんたちがどうかしたの?」
 突如として姿を見せた幻想種の女性が焔を見つけて縋る。
 焔がそれを宥めながら話を聞いてみれば。
 どうやらエルリアが誘拐事件に巻き込まれたらしい。
(お昼に別れた後で襲われたってこと?)
 攻め寄せる異形の軍勢を隠れ蓑にでもするかのようなタイミング。
 狙ったのか、偶然なのかは分からないが、この幻想種は這う這うの体で逃げ伸びた子なのだとか。
(……エルリアちゃんが、襲われる)
 ふと、ルビーにも似た昏い紅の瞳をした女性を思い出して。
「任せて、ボク行ってくる! 皆も集めないと……!」
 1人ではとても足るまい。焔は直ぐにローレットの仲間を集め始めた。


「……エルリアさんはご無事ですか?」
「ええ――あの子なら今は眠ってるわ」
 ユニスの問いにそう答えたのは、暗く、けれど綺麗な紅色の瞳。
「ユニスといったかしら? この子を守るために、少しだけ手を貸してくれるわね」
「……分かりました」
 紅色の瞳がほんの少しばかり細められた。
「アナタ、狙撃が主体よね? それなら、私が茨で傭兵達を抑えつける。
 その隙にそいつらを撃ち抜いてくれるかしら?」
「――はい」
 紅色の瞳にユニスが頷けば、彼女がその場に種を撒いた。
 刹那、それらは棘の生えた茨へと姿を変え、音を立てて闇を裂いた。
「っつぁ!? なんだこりゃあ!」
「ちぃ、茨だと? 何がどうなって!」
 聞こえてきた声に合わせて、ユニスが矢を放っていく。
「火、火を持ってこい! 自分の身体が焼けるってなったら中の幻想種だって茨をやめるだろ!
 というか、なんで『アンガラカ』が効いてねえんだ!」
(いつまでも持つとは思えないわね……約束、守ってもらうわよ?)
 叫ぶ声を聞きながら、紅色の瞳――ウェンディは音を感じながら、思いを馳せた。
「手間取ってるねえ……ふふ、手伝ってやってもいいが、その場合は分かってるね?」
 そう言って笑う声が敵の方から聞こえてくる。
 嫌に印象に残る声だった。

GMコメント

 こんばんは、春野紅葉です。
 早速始めましょう。

●オーダー
【1】傭兵の撃破または撃退
【2】幻想種の生存

●フィールドデータ
 ラサの内部にある建物の外部。
 建物はエルリア・ウィルバーソンの研究室です。
 敷地内には複数の植物のプランターらしき物がみえますが、基本は平坦な土地です。

 現在は建物の中から大量の茨が溢れだしています。
 また、時折ですが建物の中から矢が放たれてきています。

 建物の奥には研究室の長であり一時的に深緑から戻ってきていたエルリア、その護衛として同行していたユニス。

 加えて研究室にてエルリアの研究を手伝っている研究員や弟子の幻想種が何人か残っています。
 幻想種達の多くは『アンガラカ』なる薬で眠らされているようです。

●エネミーデータ
・『砂穴の苺狗』ディアーナ
 『砂穴の鬣犬』なる傭兵団の女主人。幻想種のように見えます。
 ストロベリームーンのような赤色の瞳と髪が特徴的です。

 部下が建物の攻略に手間取っているのをやや後ろから眺めています。
 詳細は不明ですが、その手間取っている姿を愉しんでいます。
 基本的には動きませんが、部下があまりに手間取るようなら動く心算の様子。
 まるで『あの程度の2人、動けば捻り潰せる』と確信しているかのようです。

・傭兵×20
 『砂穴の鬣犬』と呼ばれる傭兵団のメンバー。
 全員が狂気を孕んだ瞳をしています。
 剣兵が10、槌兵が5、魔術師が5。

 通常での戦闘の他、彼らはフィールドギミックに対して以下の効果を持ちます。

 剣兵は茨を断つ効果を持ちます。
 槌兵は建物への破壊効果を持ちます。
 魔術師は建物や茨を放火する効果を持ちます。

・『アンガラカ』
 小瓶にはいった白い粉です。
 意識をぼんやりとさせたり気絶させたりする作用があります。
 幻想種の拉致を容易にするため他、拉致した後で倉庫などに隠しておくにも役立つ代物です。

 ザントマン事件で用いられた『眠りの砂』に似ていますが、
 眠りの砂は青、アンガラカは白という違いがあります。
 戦闘では使われません。

●フィールドギミック
・エルリア・ウィルバーソン研究室
 当シナリオ中、エルリア・ウィルバーソン研究室にはHPが存在するものとします。
 槌兵が研究室に到達した場合、研究室へと攻撃が行われます。
 壁や窓などが壊され、研究室内に敵が突入すると当シナリオは失敗となる可能性がかなり高くなります。

・捕縛の茨
 建物の中から大量に溢れだした茨。
 意思を持った挙動をしており、ターンの開始時にエネミーの2~3体を捕縛します。
 捕縛されたエネミーはそのターン、【封殺】状態となります。
 ただし、この茨が剣兵の斬撃、または魔術師の放火を受けるとその状態は解除されます。

・茨の毒
 捕縛の茨を受けているエネミーはランダムで【毒】系列のBSを付与されます。

・飛翔する弾丸
 2ターンに一度、ターン終了の直前に捕縛されたエネミーに向けて矢が放たれます。
 極低確率でエネミーを即死させます。

●NPCデータ
・エルリア・ウィルバーソン。
 炎堂 焔(p3p004727)さんの関係者。
 奴隷商人へ誘拐されかけた過去を持つ研究者。
 幸か不幸か、今回はトラウマが刺激される前にアンガラカの効力で眠りについてます。

・ウェンディ・ウィルバーソン
 エルリア・ウィルバーソンの別人格。
 エルリアの姉と自称しており彼女の攻撃性、防衛本能を司っています。
 以前に肉腫に感染され暴走しておりましたが、イレギュラーズの活躍で現在は解放されています。

 肉腫から解放された際、ローレットがエルリアを守ってくれることを条件に眠りについていました。
 『アンガラカ』によってエルリアが眠らされたことで覚醒。
 建物を茨で覆いつくして籠城戦を行っています。

 肉腫時代に比べると弱体化しているものの、その特殊能力は健在です。
 上記フィールドギミックの過半数を担当しています。

・ユニス
 深緑にてレンジャーを務める幻想種の少女。
 エルリアの護衛として深緑からラサに訪れていた所を巻き込まれました。
 フィールドギミック『飛翔する弾丸』を担当中です。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <晶惑のアル・イスラー>月夜に照らす美しき薔薇のように完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年03月05日 22時06分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
ロウラン・アトゥイ・イコロ(p3p009153)
ルナ・ファ・ディール(p3p009526)
駆ける黒影
ガイアドニス(p3p010327)
小さな命に大きな愛
トール=アシェンプテル(p3p010816)
プリンス・プリンセス

リプレイ


 グラオ・クローネの夜を茨が裂いて駆け巡る。
 茨は数人の傭兵を絡めとり、彼らを締め上げた。
「困ってる人がいたら助けるのは当たり前、手遅れになる前に早く救い出してあげましょう!」
「ええ……急ぎましょう! 今日はあちこちで緊急事態のようです」
 そう叫ぶ『比翼連理・護』藤野 蛍(p3p003861)が『比翼連理・攻』桜咲 珠緒(p3p004426)の手を取り、最高速度で女と傭兵達との間に割り込んだことから始まった戦闘だ。
 蛍がその身に抱く光輝の熱を高鳴らせる横で、珠緒は形成された藤桜剣を抜刀する。
 砲撃級の間合いを以って放たれた斬撃が直線を薙ぎ払い、道を形作る。
「だ、誰だあんたら! くそ、このタイミングでこっちまで対応する戦力だって!?」
 傭兵の叫ぶ声が聞こえた。
「まあまあまあまあ!
 か弱い幻想種さん達を護ってあげなくちゃだわ!」
 それに続けて『超合金おねーさん』ガイアドニス(p3p010327)が動き出す。
 怒涛の如く戦場へと踊りこみ、張り巡らせたのは保護結界。
 そのうちに秘めたオルド種の誓いが結界の力を強化していく。
 多重に張り巡らされた結界は傭兵達の行動を大いに妨げるものとなる。
「籠城戦への援軍といった趣ですね。では、掻き回すとしましょうか」
 その尋常ならざる速度の御業を継ぐようにして『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)が戦場に立つ。
 冷やかな視線のままに、恐るべきことにただ立っている。
「あぁ、ったく! こっちだって急ぎだってのによ!」
 舌打ちをしながら傭兵が寛治をみた。
 見れば見るほど抗いようのない存在感に、傭兵達の視線は寛治に注がれていく。
(まずまずといったところですね)
 寛治は上々の反応に眼鏡を掛け直しながら戦況を見定める。
 その独特な存在感に、何人かその場で躊躇する者もいるか。
「幻想種の誘拐なぁ。食傷気味だぜ、そういうのはよ」
 そうぼやくのは『探す月影』ルナ・ファ・ディール(p3p009526)だ。
 その視線はすぐに戦場の奥――あるいはイレギュラーズのほど近くに辿り着く。
(……あん? あの女、あいつも幻想種か? ま、身内売るなんざよくある話だ、身の上話なんざ知らねぇがよ……)
 やや後方に陣取り、傭兵の動くさまを楽しそうに見ている女からは、どうしようもない嫌な感覚をピリピリと感じる。
「ルナくんお願い! ボクを向こうまで運んで!」
 堂々たる3人の立ち回りに傭兵達が気を取られるうちに『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)が言えば、ルナは彼女の方を向いて。
「なるほど、籠城してんのは炎堂の知り合いか? んじゃ、一足先に運んでやるよ」
 刹那、ルナはその圧倒的な速度を魅せた。
「それならおねーさんも協力するのだわ!」
 そこへガイアドニスの支援魔術が放たれれば、万全を以って空を行く。
 小柄の焔を抱え上げ空を駆け抜けるルナの足取りを遮るものなどあろうか。
 一足飛びに研究所の前に降り立てば、そのまま再び空へ。
「運び屋の仕事が終わりゃ、俺は空からご挨拶だぁな」
 スコープより戦場を覗きみれば、そのまま鉛弾を撃ち込んでいく。
 やたらめたらと放たれた弾丸が戦場を跳ねまわっていく。
(またエルリアちゃんが危険な目に……急いで助けに行かないと!
 あの日ボク達のことを信じてくれるっていったウェンディちゃんの思いを裏切らない為にも!)
 焔の手の中、握りしめたカグツチが出力を上昇させていく。
「お願いっ、お父様! 力を貸して――」
 辿り着いた先、研究所の入り口に立ち塞がれば、焔はカグツチを投擲する。
 放物線を描いた槍は戦場を迸り、その姿を極大の炎へと変貌させた。
 打ち下ろされる神の意思が裁きを降す。
「ラサで多発する誘拐事件…初期に比べて派手さと狡猾さが増している気がします。
 いよいよ手段を選ばなくなってきたということでしょうか」
 そう呟くのは『女装バレは死活問題』トール=アシェンプテル(p3p010816)である。
「しかし表立った悪事を見過ごすほど愚かではありません。全力で阻止させていただきます!」
 その手に握る愛剣は既にオーロラ色に輝く半透明の結晶刃を構築し終えている。
 振り払った斬撃は煌びやかなオーロラを彩り、傭兵達の身体を焼いていく。
 圧倒的な速度でもって動き出したイレギュラーズに後れを取りつつも、介入に気付いた傭兵達もまた動き出す。
 煽られ、導かれる者はそちらに向かって歩み、あるいは動きを止めて警戒を露わに。
 そして、そのどちらでもない者は――
「数でおしちまえ! ディアーナの姐さんに巻き込まれてたまるかってんだ!」
 誰かがそう言って、研究所に向かって行く。
(誘拐事件に動員する兵力ですかねこれ……!?)
 ロウラン・アトゥイ・イコロ(p3p009153)は思わず胸の内でそう言わざるを得ない。
(明らかに何かしらの意図あって集められてるような……?)
「……いえ、そんなことよりもまずは」
 仲間達に続くように動き、ロウランもまた、術式を起動する。
 放たれた魔弾は紅色の輝きを以って戦場を駆け抜け、紅光の星を瞬かせた。
 戦場の空に矢が駆ける。
 茨に締め上げられ身動きの取れないままの傭兵目掛け、それは真っすぐに飛翔した。
 それは無防備な傭兵の心臓を真っすぐに貫いて絶命させる。
「あーあー、とんでもない人らだね……ローレット」
 ストロベリームーンを思わせる赤色の瞳がすぅ、と細くなる。
 現場に急行し、速攻策を取ったイレギュラーズへ、その女は開口一番にそう呟いている。
 ローレットの介入と察してなお、その女の余裕は崩れていない。


 この日の戦闘は、集った面々に反応速度の高い者が多かった。
 圧倒的な速度というアドバンテージを背景とした速攻策は十分すぎる利益を生んだ。
 それこそ物量差を覆すほどに。
「茨に倒されるのと桜に囚われるの、どちらがよいか選ばせてあげましょうか?
 ――行き着く先は同じだと思うけど!」
 それは光への祈り。愛と勇気と友情と。すべてを胸に秘めて蛍が紡いだ希望が花を開く。
 刹那の後に、戦場を彩るは満開の桜。
 追憶の彼方より現出された花の輝きに傭兵達が動揺を見せる。
 敵の数は多く、必ずしも望む相手の身を引き受けることなど出来まいが、裂かれた敵の集団は蛍の方にも近づいてくる。
「――参ります」
 続けて珠緒が蛍へと近づいてくる傭兵の方へと自ら飛び込んでいく。
「――藤波の 咲き行く見れば 霍公鳥 鳴くべき時に 近づきにけり」
 全身を巡る血が文字通りの魔力を為して、春を告げる雷鳴の如く鮮烈なる斬撃が駆け抜ける。
 やがて幻花の舞は陣の内に収束へと向かう。
 その終わりを見せぬとばかりに、珠緒は最後の一手を最初の一手へ繋いでいく。
(エウリアさんとはご無沙汰ですが、息災なようで何よりです。ちょっと中の人が違ってるみたいですが)
 寛治はそんな焔の様子を見て状況を察するものである。
 戦場のど真ん中に立ち、手入れの行き届いた愛銃の引き金を弾いた。
 踊り響く鉛弾が傭兵達へと恐怖の旋律を響かせる。
「それに先程の矢……あれに出来るのであれば、私の腕と銃弾でも再現できそうですが」
 茨につるし上げられた傭兵目掛け、寛治はついでとばかりに弾丸を撃ち込んだ。
 真っすぐに命を刈り取るべく駆け抜けた弾丸はその壮絶なコントロールも相まって傭兵を絶死たらしめる。
「ふふ、おねーさんから倒さないとやってられないわよね!」
 当然そんな彼を狙おうとする傭兵達の前に立つのはガイアドニスである。
 その存在は寛治を庇い続けるが故のみならず、多数の要素を含めたもの。
 傭兵の剣を、槌を、魔術を受け流し、あるいは受け止め。
 か弱き者の織りなす猛攻をガイアドニスは愛おしそうに見下ろしている。
 あぁ、それはただガイアドニスの持つ存在感のみならず。
 悠久の時を経て培った繊細なる技術のなせる技である。
 逃げても逃げても、ガイアドニスは彼らの視界に移りこむ。
「んで? 後ろで高みの見物決め込んでるネーサンは、どうでる?」
 ルナの視線の先、未だ余裕を隠さずに戦況を見る女。
 それはいっそ不気味なまでに――それどころか、『傭兵が手間取る様を愉しんでいる』かのようだった。
(おっかねぇ……何考えてんだ?)
 鉛の雨を降らせながらルナが思えば、不意に彼女がこちらを見やる。
 月明かりに照らされるストベリームーンの瞳は妖しく輝いて見えた。
「遅くなってごめんね! ここからは一緒にエルリアちゃんを守ろう、ウェンディちゃん!
「……約束を守ってくれたみたいね」
 研究所を背にして焔が声をあげればそんな声が聞こえた。
 槍の姿を復元したカグツチを再び傭兵の方へと射出し、裁きの炎を振り下ろしながら、焔はその声にひとまずの安堵をみせる。
「その槌ごと打ち砕きます!」
 トールはプリンセス・シンデレラを振り払う。
 輝く刀身は美しき軌跡を描きながら、その外見からは想像できぬ斬撃を打つ。
 槌兵がそれを己の武器で防ごうとしたのは運の尽きというべきか。
 放たれた斬撃は対物奥義、秘奥の斬光。
 それを壊すことにかけては何よりも力を発揮する一振り。
「しまっ――」
 真っ二つに開かれた槌ごと、目を瞠る傭兵を切り伏せた。
「研究所をなんだと……これだから傭兵は」
 ロウランは迫り行く槌兵めがけてそう呟くと、魔石に魔力を注いでいく。
 打ち出された術式は不可視の魔弾となり、槌兵めがけてシュア出される。
 風を薙ぐように駆け抜けた魔弾が背後から槌兵を撃ち抜いた。


 戦場を巡る傭兵の数がおおよそ3分の1を下回った頃。
 ディアーナのストロベリームーンの瞳が爛々と輝き、獰猛な笑みが口に刻まれた。
「やるねえ、そそられるね。それじゃあ――アタシも混ぜておくれよ」
「――行かせない!!」
 蛍は言うや、珠緒に後押しされるようにディアーナへと肉薄する。
 ディアーナよりもなお速い珠緒の反応速度を以って、蛍は愛剣を振り抜いた。
 桜色の火花が散り、ディアーナの身体を打つ。
「ええ、二人はいつだって一緒ですよ」
 微笑む珠緒が間髪入れず藤桜剣の内側にて術式を励起させる。
 燃焼と給気を繰り返す多重構築、凄まじい速度で繰り出される変化は守りへ移る隙さえ与えない。
 刀身を打ち出すように放たれた斬撃はディアーナの身体を焼きつけるように斬り上げる。
 抜群の連撃を受けたディアーナが移動を諦め、蛍を見た。
「なるほど、足止めってわけかい? アンタらにこの奥にいる女どもに何の関係もないだろうに!」
「えぇ、そういうことよ! いいえ。私達の誰かの友人なら、誰かの知り合いなら――いいえ。
 誰かの友達でなくても、事情はよくわからないけど、人が攫われるところを見過ごせない!」
「蛍さん、珠緒もおりますからね」
 それに珠緒も微笑み答えてみせれば、合わせるようにディアーナに立ち塞がる。
「いいねぇ――やってみな!」
 真っすぐに敵を見据えれば、その表情に愉しげな笑みが刻まれ、全身から魔力が溢れだした。
「この命を削って稼いだ僅かな時間が、救出対象の、仲間達の命を救うと信じるわ!」
 振り抜かれた脚撃に何とか合わせて弾きながら、蛍は啖呵を切ってみせる。
「ええ、私達の手でその時を稼いで見せましょう」
 それに応じる珠緒あれば、その動きは固定されたと言える。
「なんだか傭兵さん達まで怯えてるわ!」
 いよいよとディアーナが動き出せば、ガイアドニスと争う傭兵達もまた、怯えを見せる。
(紅血晶を使わされるとか……吸血されちゃうとか?)
 懸念と共に警戒すれど、『そう言った』方向性での怯えではなさそうだ。
 どちらかというなら――そう、巻き添えを喰らうことを恐れているといった雰囲気がある。
(たしかに……彼ら、傭兵にしては手ぬるいですね)
 怯え、警戒を露わにしつつも少しずつ近づいてくる傭兵など、寛治からすれば的でしかない。
 鉛の演奏を刻む銃弾を撃ち込みながら、寛治はふとそんなことを思う。
 ラサの傭兵、というには少々手ぬるい気がするのは気のせいとは思えない。
「悪ィな。俺ばっか見てっと、他の奴にくわれんぜ? 狩りっつーのはそういうもんだ」
 遥かな空より降り立ったルナへと傭兵達の叩きつけた攻撃を障壁と結界で無力化すれば、その隙を打つように焔が動く。
「この向こうにいるのはボクの大切なお友達だもん!
 研究所には指一本だって触らせない!」
 紛れ込むように近づいてきた槌兵めがけ、焔が駆ける。
 深緋紫紺の衣装を靡かせ、敵の前へと割り込めばそのまま全霊で刺突を叩き込んでいく。
 圧倒的なまでの速度を以って打ち出された槍はそれそのものが圧力となって傭兵を押し返すもの。


 それからも戦いは長く続いていた。
 圧倒的数の不利を連携によって立て直したイレギュラーズ達は、既に傭兵をねじ伏せている。
「下っ端は居なくなりましたけど、退きませんか?」
 ロウランは静けさの増す戦場でディアーナへと問いかける。
「さて、どうしてだい?」
「戦わずには退けない理由でも? 今の彼女は凄く特別というわけでもないでしょうに」
 迎撃の術式を構えながら問いかけたロウランに対して、ディアーナは心底不思議そうに首を傾ぐ。
「いいや。どっちもないけどね。そもそも――」
 ディアーナはどちらかというと美貌の顔立ちに不気味なまでの艶のある笑みを刻み。
「――『そいつらが無力化されたからどうしたっていうんだい』?」
 圧倒的なまでの自負と共に、その女はそれまで以上の魔力を迸らせた。
「彼女に手出しはさせません!」
 ロウランへとディアーナの戦意が向けられるのを防ぐように、トールは剣を薙いだ。
 鮮やかに美しくされど鮮烈に撃ち抜く攻勢防御、オーロラの輝きを放つ無双の刺突を撃ち込んだ。
「へえ、ほっそい身体の割に良い剣をしてるねえ。アンタ、名前は?」
 その勢いを障壁でもって大幅に削り落としたディアーナが貪欲な笑みを浮かべた。
「教えてくれるかい、可愛いお嬢ちゃん?」
「…………教える理由はありません!」
 トールは深い沈黙の後にそう言い切ってみせる。
「そりゃあ、残念だね」
 肩を竦めてそう言ったディアーナから、視線を外すことはない。
「……このままやっても良いが、面白い余興を見せてもらったし、ここらでお暇するのもいいかね」
 溢れる魔力を急速に小さくして、ディアーナが溜め息を吐き、次の瞬間にはその姿を消した。
 嫌に印象に残る――へばりつくような呼び声を発して。

「……終わったようですね」
 研究所の扉が開き、幻想種の少女ユニスが顔を見せれば、その後ろに紅色の瞳を見る。
「2人とも、無事でよかった!」
 戦いの終わりに気付いて姿を見せた2人を見て、焔はほっと胸を撫でおろした。
「……約束、守ってくれて感謝するわ」
「エルリアちゃんを助けなきゃって思ってきたのはそうなんだけど、それだけじゃないよ。
 ユニスちゃんやウェンディちゃんだって、ボクの大切なお友達だもん!」
 しばしの沈黙の後でどこか素直になれない様子のウェンディに焔が言えば。
「……ウェンディちゃん?」
 返事がない――と思い、顔を見やる。
「――ウェンディちゃん!」
 ぼう、とした表情の女性は――ハッと我に返った様子を見せた。
「どうかしたの?」
「な、なんでもないわ。えぇ、なんでも……きっと、多分ね。
 そうよ、気のせいのはず――えぇ、だってそうでしょう?
 今更になって――またアイツに狙われる理由がないはずだわ……」
 小さくウェンディはそう言って、目を伏せ考え込み始めた。

成否

成功

MVP

桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでしたイレギュラーズ。

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