PandoraPartyProject

シナリオ詳細

銀よ気ままな万年雪よ

完了

参加者 : 8 人

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オープニング


 雪が降る。
 幻想の国のあちこちに。
 鉄の国に、それから正義をいただく国に……。
 人々の頬をかすかにぬらし、体温で淡く溶けては消えていく。
 うっとうしがられることもあるが、降らねば降らないで「今年の雪はまだなのか?」と待ち望まれる。
 見慣れぬ雪にはしゃぐ子供にも、もはやうっとうしそうに雪をどかす人たちにも、平等に、とはいわないけれど、雪はそれなりに公平に降り積もる。
 新聞を片手に、馬車の時刻表とにらめっこしている大人の横。子供たちは構わずはしゃぎ、雪うさぎや雪だるまをこしらえていく。親たちはどうやったら彼らに帽子をかぶせられるか、マフラーを巻いてやれるか考えている。今日はシチューよ、と家に呼ばれれば、彼らはめいめいに手袋を脱ぎ捨て、帽子までかぶせてやったりする。
 あとに残るのは手厚くもてなされた雪像。

 そんな冬も、もうすぐ終わりなのだろう。
「今日はなんだかあったかいわね」
 暖かい家の中。水滴が窓ににじむ。カーテンを閉めながら誰かが言った。
……きっと、もうすぐ春がやってくる。


「うん? 誰か来たな……」
『悪戯幽霊』クウハ(p3p010695)は顔を上げる。フードの猫耳が揺れる。
 ここ、気ままなゴーストハウスはなにかと客人の絶えない場所である。もっとも、変わった客が多いのではあるが……。
 クウハが一文字に横に手を動かすと、カーテンはひとりでに開いた。そこにあったのは、静かに降り積もった銀の雪だった。
 いつものように鬱蒼とした森ではあるが、白は太陽を反射し、いつもよりもあたりを明るく見せる。

「ゴーストスノー……」
『死に損ないどころか、生まれ損ないの雪ってなァ』
『彼岸の魔術師』赤羽・大地(p3p004151)は、古い文献をめくっていた。
 まるで手品のように一晩で雪が降ることがあるという。
 天気予報は「晴れ」だったのに。誰も見ていない間に雪が降ることがある。そのまま積もっていることもあるし、子供が親をゆすり起こすと、いなくなったりしたりする。
 ゴーストスノー。
 降り積もるまえに溶けてしまった、雪の亡霊。亡霊とはいっても、悪さをするものではない。彼らの願いは「ちゃんと雪としてふるまう」ことだ。
 なんともおかしな話だが、ここではそういう理屈が通る。ここ、気ままなゴーストハウスでは……。

「うーん、雪、やなあ……」
『放逐されし頭首候補』火野・彩陽(p3p010663)をはじめ、ここに集まっている者たちは不思議なものとは縁が深い。
 常世と幽世の境の眼が、奇妙な雪を見据えていた。ただの雪ではない。それがわかる。
「アレが見えているかって? 当然だろう?」
『闇之雲』武器商人(p3p001107)はニイと笑った。
「そやね。ちょっと変わりもんやけど。まあ、雪やな」
「なら、オレの見間違いってこともなさそうだ」
『スケルトンの』ファニー(p3p010255)は肩をすくめた。
「にしても、ホネみにしみる寒さだな……」
「あったかくしないとね?」
「ありがとよ。いや、待て、キミこそあったかくしたほうが……」
『雪の花嫁』佐倉・望乃(p3p010720)にマフラーをまかれる『雪の花婿』フーガ・リリオ(p3p010595)。幸いにして、雪が積もっているだけだったから、悲鳴はあげずにすんだ。少なくとも妻の前では。
「で、どうすればいい? バックボーンがありそうじゃないか?」
「つまり、遊んでもらえれば消える、雪の幽霊……みたいだね」
「悪いモンじゃあねェさ」
 赤羽・大地がいうなら間違いないだろう。
「やることは単純だ」クウハが言った。「ただ、遊ぶだけなんだからなぁ」

「HAHAHA! そこだっ!」
『挫けぬ魔弾』コヒナタ・セイ(p3p010738)の放った弾丸――いや、雪玉は見事に命中する。ゴーストハウスの住人も、寒がりではないものたちは雪合戦に出てきたようだ。
 双子が雪にはしゃいでいる。
「タダじゃあ勝てないよ。陣地を築くのはどうだい? こんな風にね」
 武器商人が見事に雪の壁を作り上げた。
「まだまだ行きますヨ!」
 曲射。セイが上向きに放り投げれば……ゆるく握った雪玉は頭上ではじけ、降らせる。子供とでは戦力差は歴然ではあるが、それにしても人の好いセイがかなり手加減をしているのは伝わってくる。
 さあ、どうしよう。
 いや、なにも……できることは雪合戦だけではない。
「ま、ぼちぼちいこか」
 この雪で目いっぱい遊ぶのだ。

GMコメント

雪だるまをみるとなんかうれしくなりますね!
布川です。

●目標
雪で遊ぶ

・ゴーストスノー
 降る順番を待っているうちにうっかり降りそこねた雪です。
 ここならば少々道理に外れた妙な雪でもたくさん遊んで貰えるのではないかとあつまって来たようです。
 とはいえしゃべったりするわけでもないです。
(なんとなくうれしそうな雰囲気を感じるとることはできるかもしれません。)
 ふわふわしていて、見た目も性質も雪そのもの。
 活用してもらえたらうれしいようです。
 遊んでもらって満足すると溶けますが、雪だるまやかまくらなんかになったらもうちょっと居残りしていくかもしれません。せっかくですからね。

●ロケーション
・とある洋館
 幻想のどこかにある、きっとおなじみの館です。

●No Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定はありません。
 雪はスキル・その他ロールプレイに活用することができます。
 思いっきり投げてもケガをすることはありませんので、めいっぱい遊んであげてください。

  • 銀よ気ままな万年雪よ完了
  • GM名布川
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2023年03月05日 22時06分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

武器商人(p3p001107)
闇之雲
赤羽・大地(p3p004151)
彼岸と此岸の魔術師
ファニー(p3p010255)
フーガ・リリオ(p3p010595)
青薔薇救護隊
火野・彩陽(p3p010663)
晶竜封殺
クウハ(p3p010695)
あいいろのおもい
佐倉・望乃(p3p010720)
貴方を護る紅薔薇
コヒナタ・セイ(p3p010738)
挫けぬ魔弾

リプレイ

●雪、ひらひらり
「ゴーストスノー、うっかり降り損ねた雪かァ。
クウハ、おまえの館には楽しいコが沢山訪れるねぇ」
『闇之雲』武器商人(p3p001107)は面白そうに『悪戯幽霊』クウハ(p3p010695)を振り返った。
「新しい客人だ。……そうだろう?」
「雪の幽霊とはまた珍しい。存分に遊んでやろうじゃないか」

 ここは、気ままなゴーストハウス。
 さまざまな幽霊たちを受け入れてきた場所だ。

「ゴーストスノーは初めて聞いたな」
『スケルトンの』ファニー(p3p010255)の手の骨に、白い雪が積もる。
 普通の雪、だが普通ではない……。

 さて。
 ここでひとつ問題がある。ゴーストスノーという名前は、ちょっと呼びづらいし他人行儀だということだ。
「ゴーストスノー、少しいいかな?
一緒に遊ぶ友達として、この洋館の仲間としてまずは君達に名前を与えたい」
『彼岸の魔術師』赤羽・大地(p3p004151)の提案に雪たちはきらきらと輝いた。完璧な雪、としては失格であるのだろうけれども、それをとがめるような者はいない。
 さらさらと、慣れた様子で『ユウキ』の名を白雪に記す。
 新しい、名前!
 これで、雪たちは単なる「現象」ではなくなった。
「雪だからユウキ……良い名前じゃねぇか。俺様はすきだぜ」
 そうでしょう、というように、ファニーめがけてぴゅうと雪が降ってきた。
「えっと……友達には、こう言うのが正解なのかな。ユウキ。あーそーぼー……?」

「雪の、幽霊……楽しいですね」
『雪の花嫁』佐倉・望乃(p3p010720)は微笑む。初めての不思議な体験に胸は高鳴っている。
「望乃、寒くないか?」
 望乃は愛する『雪の花婿』フーガ・リリオ(p3p010595)の手を手袋で両手で包み込み、微笑んだ。
 しばらく見つめ合う二人。
「よーし、たーのしーむぞー!!!」
 無邪気な子供のような勢いのフーガの元気な様子に、望乃は微笑みをこぼして、加わる。
「ユーウーキーさーん、あっそびましょーう!」

「あ、ダメですね。軽く握ったくらいだと崩れてしまいます」
『挫けぬ魔弾』コヒナタ・セイ(p3p010738)は試作した雪玉を軽く放り投げてみた。ぽろっと崩れる。
「んん……雪って……不思議ですね……いえ、あまり経験したことがなく。火野さんはお上手ですね」
「そんなことあらへんよ、新鮮なもんや」
『放逐されし頭首候補』火野・彩陽(p3p010663)はへらりと笑い、握った雪玉を跳ね上げ、キャッチを繰り返しながら感触を確かめていた。
「勝算はあるん?」
「ええ、そりゃもう、勝ちしかないですヨ! なーんて……違いますね」
 セイは少しはにかんだ。ここにいる人たちは誠実な人たちだと知っている。
「火野さん! どうぞよろしくお願いします!」

●ふわふわ雪合戦!
「雪ってこんなにふわふわなんだ……」
 ミレイはおそるおそる雪を踏んだ。
『雪、めずらしい?』
 羽切 響はミレイに尋ねる。
「うん。お部屋の窓から他の子達が遊んでいるのを見たことはあるけど
ちゃんと雪遊びをするのは初めて」
「お姫様、寒くないかな? 後でぜんざいをお供えしてあげるから、今はかまくらの中でのんびりしておいきよ」
 武器商人はそっと膝掛けを差し出した。
「いいの?」
『ばっちり、録画もしておくからねっ!』
「撮影、よろしくね」
『まっかせて!』
 Ghost Eye。響はこの場にはこの上なくふさわしいカメラを構えている。
「じゃ、このかまくらは安全地帯ってことだね」
「間違ってぶつけたら雪玉千つ、なんてな?」

 クウハと武器商人は顔を見合わせる。
 ほかは、望乃とフーガ。彩陽とセイ。赤羽・大地とファニー。
「よろしくな、旦那。勝ち負けなんざ俺は別にどうでもいいんだが、どうする?」
「そうさねぇ……」
 ……。
 やけに静かだ。
 これは嵐の前の静けさだ。
 戦場を見下ろし、どう動くのか慎重に窺っているフェーズだ。

 適当に手を抜いて、きゃっきゃと遊ぶか?
 否。
 ホンキで遊ぶに決まっている。
「さて、クウハ。我(アタシ)の可愛い眷属。やるなら2人で勝利を掻っ攫おうじゃないか」
「ああ、旦那が勝つ気でいるなら話は違う」
 ひょい、っとクウハによって軽い様子で投げ上げられた雪玉は、空中でいくつもに分散して降り注いだ。
「アイゼン・シュテルンっ! どうやらやる気満々か!」
 フーガは、楽しそうに声を上げた。
「よっ」
 しかも、しかもだ。この騒乱に乗じて、かなりの「遠く」から、セイが雪玉を投げてくる。びゅっと、一直線に飛んでくる雪玉はかなり狙いが正確である。
 彩陽が様子を窺うように、鋭く球を投げてくる。
(クウハはやる気満々だし、
商人殿もすげー強えし、
赤羽や大地、ファニーも賢いし、
コヒナタや彩陽は的確に投げてくるし……勝機があるのか?)
「大丈夫です。一生懸命、雪玉、作りますからねっ!」
 ぎゅっと望乃が雪を固めている。
(……いや、望乃の前で、怖気ついてしまえば男が廃る!)
 勇壮のマーチで己を奮い立たせ、フーガは愛しい妻の前に立った。
『もちち、フーフー! 皆にラブラブパワーぶつけて!』
「ありがとうございます」
 響の応援に、望乃が微笑む。
「っと、隙あり!」
 彩陽の放った魔砲が、赤羽・大地とファニーたちを牽制した。
「こっちにくるか。いったん下がるぞ、大地」
「わかった」
『すっごい勝負だね! ね、チーム名とかってないの?』
 響がカメラについた雪を払う。
「チーム名? フーガと望乃で、『ふも』とか?」
「………ふも? 可愛いと思います!」
 可愛い。妻が。望乃に似合う文字列だ。
「他の皆さんを雪の中にふもっと沈める勢いで頑張りますね」
『いいねいいね! がんばれふもふもっ!』
「望乃はおいらが守る! かかってこいやーッ!」
 ここがサンクチュアリ、だ。
「雪も溶けちまいそうだねぇ、ヒヒヒ」

 大地とファニーは下がったが、しかし、武器商人は立ち続ける。
 衒罪の呼び声が、あたりを包み込んでゆく。
(多少ピンチになっても我(アタシ)は「その方が」強くなるからね。望むところだ)

「よし、今だ。さて行くか大地。
フィジカル弱小コンビの力を見せてやろうぜ」
 一方で、ファニーの動きは機敏である。
「チーム名は……『骨と皮』とか?」
「この身体はモヤシだガ、舐めてもらっちゃ痛い目見るぜ皆!」
「フィジカルについてボロクソ言うのはやめていただきたいが」
 ファニーはポケットに手を入れながら、後ろからの不意打ちにすら対応する。素早く作った雪玉を、握り、投げ……。
 ポキっと妙な音がした。
「あ、肩の骨外れた」
 無論、このくらいのことはジョークで済む。
 自力でパキっとはめなおし、ファニーがくるっと肩を回す。
 フィジカル最弱……とは、それでも「やっていけている」ということにほかならない。赤羽も大地もそれを分かっているので、雪玉を作ることに専心するのだった。
「まぁほら俺様って筋力どころかそもそも筋肉ないし? しょうがないよな」
 ただの雪玉というわけでもないこれには、魔力が良くなじむ。
 もしも使い方を誤ればそれは強力な武器になるのかもしれない……。
 けれども、そこに人を傷つけるようなものではない。甘美なる幸福を、世界に歪を……。そのねじ曲げられた者は、「ものすごく全力で、安全に遊ぶために」、だ。
「同じ遊ブ、でモ、楽しい方が良いよなア?」
 いつのまにか、大量の雪玉ができていた。
「……かーらーの! 『降りしきる二番星』!」
 地上など星屑の遊び場に過ぎず、弾幕が降りそそいだ。
 たとえいかに、何度も何度もトリックのように立ち回ろうとも。……まどろみを受け付けないとしても。
「コイツは避けられねぇだろ!」
「きゃっ」
 儚き花の如き、可憐な声。
 しかし……。
(俺様は怠惰の化身だが、やると決めたらやる男だ)
「たとえ相手が女だろうと友人だろうと恋人だろうと、遊びにも手は抜かねぇ!」
「ふふ。それでこそですね!」
 エレメント・マスター。望乃は雪の精霊の力を借りていた。
 雪の力を借りたブラックドッグは、戦場を華麗に疾駆する。
(やっぱりな!)
 誰一人として、ここには侮って良い相手などいない。
「強敵がいるっテ? 安心しなファニー、お前は一人で戦ってるわけじゃねェ
だって『皆』が居るじゃねぇカ、そうだろウ?」
 地獄に咲き誇る花が、ユウキに語り掛ける。団結を呼びかけた雪は、板のように言うのだ。
「ワハハハどうダ!! 雪玉と己の手だけが武器じゃねぇって訳ヨ!!」
 朱音色の恨詩が、あたりを赤く染め上げる。
「今日の赤羽、テンション高……」
「ワーハハハハ!」
「そうこなくっちゃ!」
「雪玉の扱い、ちょっとずつ、分かってきましたよ」
 セイが器用に雪玉を並べている。
「よしよし。ええ子らおるんやし一杯あそぼや。な?」

(やっぱり、そう来るよなあ!?)
 クウハは警戒するべきは、ファニーだ。魔の歌声を空に乗せ、雪原に広く広く広げていく。ぼとぼとと冗談のように落ちてくる雪玉は恐ろしい速度で地面をえぐる。
「つーか、必殺と封殺ついた雪玉って何だよ。おかしいだろ」
「この状況がもうジョークみたいなものだろ?」
「おっと」
 これは動いたら当たる奴だ。こういう緩急を混ぜてくるから、ファニーはやっかいだ。
「望乃、あぶないっ!」
 フーガは望乃を護り、そして、望乃は守られるばかりではなかった。
「フーガ……勝ったら、あとであまーいご褒美、あげますから。
頑張って下さい、ね?」
 愛しい妻に甘く甘く、耳元で甘くささやかれてはもう本気を出すしかない。
「いくぞっ!! それーーっ!」
 フーガが投げまくる雪玉は、急に威力が乗った。
「うわっ」
「迎撃ですっ!」
(来るよっ)
 セイと彩陽のもとに、武器商人からのテレパスが入った。
 あえて、あえて知らせててきたのだ。
 一瞬だけ手を組まないか、と。
 スナイパーとしての癖か、二人は後ろの方に陣取っていた。均衡を保っている。崩すなら今だ、と……。
 これまでは一撃、一撃を確実に当てていた。着実に狙って、研ぎ澄ます。
 だから今、二人の手元には大量の雪玉が残っている。
「っくしゅん!」
 あと、そろそろ決着をつけて休みたいところでもある。身体の弱いだれかさんがくしゃみしている。
「ハニーコムガトリングよろしく」
「このへんで、決めましょうか」
 楽しいね、と表情が物語っている。
 雪玉のマシンガン、だ。
 そうこなくては。
「今だ、ダーティピンポイントっ!」
 これが最後だというのなら、派手に暴れ回ってやろうじゃないか。クウハは立ち上がり、指を突きつける。
(多少被弾しようと気にしやしない。
俺達がはその方が強くなる。だろ? 旦那)

 視界が真っ白にホワイトアウトする。
 布団をひっくり返すように、盤面はごろりと寝転がる。
 雪にくるまれて、雲の綿のように、もふっとなだれている。
「雪でこんなに遊んだことない。始めてや」
「あれ、そうなんですか?」
 やや素に戻った様子のセイが言った。
「雪って冷たいんやなあ。ほんまに」
「……ボクもそう思う……」
 それでも、楽しい。どこかあたたかい。

●アフター・ホワイトアウト
 どっさりとあった雪は、いつの間にはずいぶん減っていた。ミレイのかまくらは無事だった。ユウキが避けてくれたのだろう。
「人数、いるかい? ちょっと余計なのが増えてても構わないけどねぇ」
「点呼」
 クウハの言葉に、仲間たちがそれぞれ答える。フーガが、望乃を抱えて雪を泳いでくる。
 雪に埋まったセイを、彩陽が掘り、引っ張り出す。ファニーはなぜか逆さまに雪に突き刺さっていた。肩をすくめる。
 赤羽・大地は、去りゆく雪に手を振った。満足したものたちだ。

 けれども雪はまだ。雪遊びはまだ、これからだ。
「見ててどうだった? ミレイ」
「ちょっと怖いけど、私もやってみたい…かも……?」
「よしっ、ならやってみるか」
 クウハは、雪玉をぽんっとミレイに投げてみる。下手でやわらかく、やわらかく。

『見てみて! すっごく迫力ある映像が撮れたよ』
「ところで羽切は今日もセーラー服だけど……寒くないのかな?」
『元気元気っ』
「ぁ、ミレイさん、響さん」
「はーい!」
「なあに? なあに?」
 望乃の誘いに、女の子たちが寄ってくる。
「かまくらで女子会しません? ガールズトーク的なことがしてみたいです!」
「乗った乗った!」
 こっちのかまくらはかわいらしい耳がついているのだった。

 武器商人は、簡易的につくっていたかまくらの横に、大きなかまくらをしつらえなおした。
 これは、やや四角めで、しっかりしたように見えるものだ。
 最初の一つを隣に並べると、ちょうどミレイと遊んでいたクウハが外へののぞき窓を開通させた。
「……折角、かまくらになってくれるものね。ただのかまくらだと味気ないし飾り付けでもしてあげようか」
 赤い小さな木の実を飾り、冬の花を上に乗せ、少し季節外れのシャイネン・ナハトのようである。
「リボンとかビーズとか、好きだろ? 使っていいぜ」

 クウハに言われて、ミレイは嬉しそうに、大切そうにリボンを飾っていったのだった。惜しみなく惜しみなく……。
「ユウキ、素敵だね。休ませてもらうね。……ここ、どうだった?」
「あったかかった、雪ってすごいね」
 ミレイが微笑む。
 これはゴーストスノーではあるが、きっと本物もそうなのだろう。
「ユウキ、熱くないか?」
 オルド・クロニクルはユウキをよく守ってくれるはずだ。それでも、大地は雪を気遣う。
「銀月さんが用意してくれるというぜんざい、楽しみだな」
「あ? 旦那がぜんざい作ってるって?」
 かまくらの影に猫の像を移動させていたクウハが窓からひょっこり顔を出す。
「一度食べたことあるけど、あいつの作るぜんざい甘くて美味いんだよな……」
「楽しみですね」

「それじゃあ、俺様は雪だるまを作るとするか」
 ファニーが雪だるまを作り出す。
「そうだな、せっかくだからでかいのを作りたいよな」
 端っこのほうから順にごろごろごろごろと……そうごろごろごろごろ……ごろごろ……。
「できたぜ」
 なぜか、ファニーは雪だるまに埋まっている。胴体に埋まっており、顔だけが出ている。
「あれ!?」
「なんや、観光名所みたいやな」
 セイが驚き、彩陽がへらっと笑った。
 響がころころと雪だるまを作る。
「羽切の雪だるま、頭がすごい事になってるけど何それ?」
『昇天ペガサスMAX盛りっ!』
「へー……」
『可愛いでしょ? んでこっちが――』
 一つ一つ、名前をつけて向き合う。難しいコトをあっさりとやってのけるが、それがどれほど嬉しいことだろう。赤羽・大地は知っている。
「けど良かった、お前なら純真にユウキと向き合ってくれると思ったから」
「うん?」
 何でもないことのように、響は笑う。
「昇天ペガサスMAX盛り。なるほど、真骨頂だな」
「すごい、どこまで重ねられますかね」
「いけるところまでいこか」

 ミレイは嬉しそうに雪像を並べている。
「一度でいいから雪うさぎを作ってみたかったの」
 一人では寂しくないように、親子を。きょうだいを、家族を一緒に……。

●おぜんざいをいただきましょう
「雪だるまにも個性がでるもんやなあ」
「よし! 何か食べませんか!」
 すっかり雪遊びを堪能したセイが背伸びして言った。
「準備ができたコから、こっちにおいで。ぜんざい、食べるだろう?」
 武器商人が、用意しておいたぜんざいを温め直していた。
「……くれるなら、食う」
「身体を冷やすのは良くないからねぇ……お椀とスプーンを用意してあるから、しっかり腰を落ち着けて休んでお食べ」
「旦那の料理はどれも絶品だ。
大勢で食うなら尚更美味い。
ゆっくり味わって食うとしよう」

「あったまるー。……望乃、おいら達も雪で何かを作ってみるか」
「見せて、見せて」
「響やミレイもまた何か作ってみるかい?」
「やる~!」
 かまくらには、小さなうさぎのペアがある。
 きょろきょろとしたミレイも、猫の像を作っていた。
(大きい猫ちゃんと小さい猫ちゃん。
私とクウハみたいに仲良しの……えへへ)
 並んだ猫たちは、仲良く、仲良く寄り添っていた。
「2匹作れば、白うさぎの夫婦……なんて」
 猫の猫と、うさぎとうさぎ。
「とっても仲良しですね」
 フーガはこっそりと作った館の仲間たちの像を、庭に並べておくのだった。
(こんな愉快な仲間達と素敵な妻、そして新しい雪の友と初めて雪を知って、遊べて、おいらは幸せだ。
この世界に召喚されて、よかったよ)
 フーガはしみじみと思うのだった。

●出会いと別れ、それから新しい住民について
「雪は溶けるものだけど……もう少し一緒にいて欲しいな」
 ミレイが寂しそうに言った。
「コイツらが外でどれだけ溶けずにいられるかは定かじゃないが
雪うさぎぐらいなら冷凍庫にいれときゃ大丈夫だろ」
 クウハは な? とゴーストスノーに語りかける。
「初めて作った雪うさぎがすぐに溶けちまうのは寂しいもんな」
 クウハの言葉に、雪うさぎがピョンと動いた。動いたが見ると慌てて動かないフリを再開する。
「じゃあなユウキ。来年は降り損ねるなよ? ま、降り損なったらまた一緒に遊んでやるさ」
 ファニーが手を振った。
「冬が過ぎたら君達はどこに行くんだろう」
「どうしても行きたくないのなら、何ならうちに来るか?」
 赤羽・大地が優しく告げる。
「季節外れの雪が残ってたところで構いやしない。
折角来たんだ。
別れが惜しけりゃ“家族”としてずっと此処にいればいいさ」
 名前のついた雪が。いくつかの雪が。群れと別れて居座った。

「降りそこねた雪の幽霊か……しばらく付き合ってみると、愛嬌も感じるもんだな」
 どことなくともあたたかい。
 花で飾られた、白いウサギの夫婦を目の前にして、望乃はほうっとため息をついた。
「……溶けずに残ってくれたら良いのに」
「もう少しずっと長いこといてもいいよな」
「……そうそう、フーガにあまーいご褒美があるのでした」
「えっ」
「ちょっと目を閉じて、口を開けて……」
「っ……!」
 それは……。
「はい。あまーい羊羹のご褒美です」
 羊羹だった。
 とても甘い。愛しい望乃にあーんしてもらったから、余計に頭が溶けてしまいそうで。思わず蕩けるような笑顔を浮かべてしまうのだ。
 しっかり咀嚼した後で、望乃を優しく抱いて囁く。
「ありがとう、望乃。
おいらからも、望乃が頑張ったご褒美をしないとな。
……けどそれは、2人きりの時にたくさん……お口の中に、な?」
 チョコレートクッキーと、甘いキスの予感に、望乃は微笑んだ。
 満足した雪たちが、ゆっくり溶けていなくなる。また来年。あるいはもうちょっと残っていくものたちもいるだろう。
 ここは、そういう道理が通る。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

しばらくここを定住の地と定めた雪も、またゴーストハウスを訪れる雪もいるでしょう。
雪遊び、お疲れ様でした!
きっとそろそろあったかくなるでしょう……。

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