シナリオ詳細
里長のすぺしゃるお料理教室~灰色王冠とケリー
オープニング
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「グラオクローネだわ!」
嬉しそうな声を上げた珱・琉珂 (p3n000246)はフリアノンの厨房に立っていた。
覇竜領域に存在する亜竜集落フリアノンで今日も里長は元気いっぱいに生活している。イレギュラーズである事と彼女自身の好奇心の赴くままに混沌で生活をして居る琉珂は頬を緩め買い込んだ『チョコレート』を確認している最中だ。
覇竜領域は現状維持を選んでいる。『冠位暴食』たるベルゼーとの対決は一度行なわれた。
だからこそ、彼が本当に脅威であることは共有された事実だ。
そして此れまでの事から『彼について』の情報を探ってみようと里長代行達は準備を行って居るらしい。
例えば――『星飲み』と呼ばれた領域の一区画が消え失せた一件が、彼によるものであったのではないかという疑念などの調査である。
「里長として調査に協力しなさい」と口を酸っぱくして言われている琉珂ではあるが、それはそうとして鉄帝国の現状にも手を貸したいのが乙女心。そうした事件に手を貸すことは里長代行達も一応は認めてくれている。
だが、それ以外は出来る限り里で今後のための調査を行なえというのが言い付けだ。
――それは兎も角、だ。琉珂自身は外部の確認を行なう事を理由に練達へと出掛けたらしい。
「本当はチョコレートを買い込むためだったんでしょ?」
「ぎくっ」
「さとちょー、後で怒られるんだ」
「うう……」
ぷに、と頬を突いたのはユウェル・ベルク (p3p010361)と秦・鈴花 (p3p010358)。
琉珂はと言えばがっくりと肩を落としてから「だって、イベントって参加したいじゃない」と呟いた。
勿論、その気持ちを鈴花は痛いほどに分かる。彼女自身も外の食文化に惹かれて新たな一歩を踏み出した側だからだ。
にんまりとしているユウェルは「それで、どうするの?」と首を傾げる。
琉珂が言い付けを破ってまで外に出掛けていった理由が気になったのだ。
「あのね、グラオクローネは大切な人に贈り物をする日なんでしょう?
だから、私も誰かに贈り物をしたいなあって思って。御伽噺はちゃんと伝わってなかったから初めて聞いたけど!」
「確かに覇竜領域だと巨大な竜に木の王冠を渡したみたいな話しになっていたよね」
それはチョコレートやクッキーの材料が手に入らなかったからなのだろうと玖・瑞希 (p3p010409)は頷いた。
原材料を手に入れる為には覇竜領域は余りにも危険すぎる。その所為か、感謝の人は伝え聞いていたが木彫りの熊などが渡されることはあった。
「だからチョコレートか」
買い込んだチョコレートを眺めていたジェラルド・ヴォルタ (p3p010356)はその影にレシピ本を見付けた。
何故かレシピ本にはチョコレートが付着している。ジェラルドは「まさか」と呟いた。
「……何か動いたな?」
「は?」
鈴花がぐるりと首を向けた。凄まじい勢いであった事からユウェルと琉珂が肩をびくりと跳ねさせる。
「さとちょー」
「……ごめんね、まさか、まさか……だけど試作した?」
瑞希の問い掛けに琉珂は「えへへ」と笑ってから後ろ手に持っていた『命名図鑑』を取り出す。
「ジェラルドさんの前に居るその子はケリーよ」
「また名前を付けるじゃない!」
鈴花は叫んだ。
包丁は握れません。火の扱いは得意です(攻撃技)。お料理なんて経験はありません。
フリアノンの里長、珱・琉珂は料理が出来ない。
――分かって居るからこそ、先にチョコレートを作ろうと誘いに来たというのに!
「どうして! 先走るの!」
「ぎゃあ、待って、ギブ! ギブだから!」
思わず羽交い締めにした鈴花に琉珂が叫んだ。ケリーと名付けられたチョコレートらしき物は困ったようにぷるぷると横揺れをしていた。
さあ、気を取り直して『お料理教室』だ!
- 里長のすぺしゃるお料理教室~灰色王冠とケリー完了
- GM名夏あかね
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2023年03月01日 22時15分
- 参加人数8/8人
- 相談8日
- 参加費150RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
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「どうして! リュカは! 人の! 話を! 聞かないの!」
「痛ぁい!」
ぎりぎりと耳を引っ張る『秦の倉庫守』秦・鈴花(p3p010358)に珱・琉珂 (p3n000246)が叫ぶ。
「……まぁいいわ、どうせこうなる気がしてたし。
去年の今頃はアタシ達も外に出てすぐだったから、ちゃんと知識を入れたグラオ・クローネは初めてだものね」
嘆息する鈴花を見ていて『深き森の冒険者』玖・瑞希(p3p010409)は「鈴花さんも、大変だね……」と肩を竦めた。
やや涙目になっている琉珂がわざわざどうして練達からチョコレートを取り寄せて試作品を作っていたのかを瑞希は良く分かっている。
「試作は、琉珂さんのサプライズだね。皆を驚かせたかったのかな、って思うけど、命名図鑑まで用意してたんだね」
「うん。者に名前を付けると愛着が湧く、でしょう?」
きらりと瞳を輝かせる琉珂に食べ物に愛着が湧くのは良いことなのだろうかと『ウォーシャーク』リック・ウィッド(p3p007033)は首を傾いだ。
ケリーと名付けられたチョコレートはびくびくと動き回っている。皿の上から出ないのはまだ大人しい個体(?)なのだろうか。
「ぐらおくろーね!」
挨拶をする『宝食姫』ユウェル・ベルク(p3p010361)は「さとちょーの手作り『モンスター』はこりごりだからね」と『眼をぴかーっと光らせて』琉珂をストップさせる気であったが――
「……と思ってたけどもうケリーがいるの? どうして? はやくない?
でも今回はゴリョウさんがいるのだー! ケリーも美味しくしてくれるって言ってた!」
名指しされた『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)は涙を流しながら頷いた。
「グラオ・クローネ、ね…賑やかな事はいいこった。しかし琉珂はまた凄いもん生み出したってもんだ。
ケリー、ね……いずれは食べてやった方がいいのか? 動いちゃいるが食べ物だし」
『二花の栞』ジェラルド・ヴォルタ(p3p010356)の問い掛けに『特異運命座標』オルレアン(p3p010381)が静かに頷いた。
「親しき者に親愛を込めて菓子を贈る……成程、優しい文化だ。琉珂はフリアノンの里長なのだろう?
里の民を想い、それを形にするというのは良い心がけだと思う。
……お前達は何をそんなに怯えている? 人の作る物だ、当然食べられる物になるだろう。己の知見を広める為でもある、試食なら任せておけ」
ゴリョウは涙を流さずには居られなかった。
ケリーを一瞥し、皆を見て、琉珂を見て、ケリーを見て。喰うべきだろうと静かに頷くオルレアンにゴリョウはさめざめと泣いた。
其処に込められた思いや、食を無駄にしないという強き意志を感じさせるオルレアンの在り方にゴリョウは涙するしかなかった。
しかし、ゴリョウは無力だった。
ここで一緒にケリーを食べれば舌がイカれてしまうかのうせいもある。この後の琉珂へ料理長室に致命的支障が出る可能性がある。
『ライブキッチン』アルフィオーネ・エクリプス・ブランエトワル(p3p010486)は目を伏せずには居られなかった。
「あ~あ。また、フリアノンの里長さんは、クリーチャーを生み出してしまったのね」
「ううん、アルフィオーネさん、これはチョコレートよ」
其処を否定するのかと鈴花とユウェルは顔を見合わせた。琉珂は自信満々だが、幼馴染みのような二人から見てもそれはクリーチャーだ。
「……わたし思うのだけれど、彼女は、クリーチャーを生み出す特殊能力でもあるのではないかしら?
いくら、レシピから外れたアレンジを入れてしまったとしても、そんなホイホイ、クリーチャーが生まれるとは思えないわ。
自覚がなく、制御ができないために、クリーチャー創造と料理の使い分けができていないかもしれないもの」
「うん。そうなの。例えば、この呻き声を上げる覇竜領域ではお馴染みの『雄叫び草』を煎じた物を入れたり、覇竜領域ではお馴染みの笑いたくなる『ケラケライモ』を入れたりしたけど。それって、覇竜領域をもっと知って欲しいが為じゃない?」
アルフィオーネは前言撤回した。彼女は自覚なく、悪気泣く『入れてはいけないもの』を料理にぶち込んでいる。
と、云えども食料だと言い張る本人の目の前で攻撃をして倒すのは気が引ける。
「……であるなら、まずは食べよう。もしかしたらこれは食べ物かもしれない。
案ずることは無い、こんな事もあろうかと俺は持てる技能の全てをこの時の為に費やした。
所謂ノービス。だが代わりにどんな苦行にも耐えられよう。エキスパート、だからな」
ゴリョウはオルレアンの在り方に涙をせずには居られなかった。
●
オルレアンとリックが『苦行』であるケリーの処理に難航している中、琉珂は「何を作るの?」とそわそわとしながら鈴花にエプロンを着けて貰っていた。
「服が汚れるからエプロンをしなさいよ、琉珂」
「ありがとう、鈴花!」
ユウェルと鈴花は琉珂を抑える係である。ある意味、この二人に任せておけば里長は問題は無いという安心感を瑞希は感じていた。
琉珂の使っていたレシピ本は基礎の基礎ではあった。その端にアレンジレシピと掲載しているのが悪い。「斯うした食材を入れてみると美味しい!」という上級者向けの投げっぱなしな項目だ。
屹度、コレを見てあらゆる食材をぶち込んだのだろうとジェラルドは察しながらも頁を捲る。キャラメル、マドレーヌのレシピを一瞥する青年に「何を見付けたの?」と琉珂が傍でぴょんぴょんと勢い良く跳ねていた。
「ああ、俺もチョコで……とは思いかけたんだがよ。ま、揃いも揃ってってーのもつまらねぇし……この辺作ってみっかな」
「キャラメルとマドレーヌ!? わあ、私も!」
「琉珂、手に持ってるのって何か教えてくれるか?」
ジェラルドは勢い良く鈴花に肩を掴まれている琉珂に念のために問うた。彼女は「覇竜領域の良さをアピールする事も大事だから」と素晴らしい言葉でコーディングして――「キャラメルから発想したの! カラメル亜竜の尾よ」と入れるべきではない食材を手にしていたのだった。
「頂きます」
静かに目を伏せたオルレアンはぱくりとケリーを口に含んだ。
その一口で分かる事がある。
(ああ、分かるとも。妖精郷の連中も良かれと思って余計な事をしてくれる。分かるとも、すべて善意と好意で舗装されている。
琉珂も大切な人達の為に想いを込めたのだろう。覇竜領域を知って欲しいという意味もこもっている。分かるとも……)
唇が震える。指先がかたかたと震え始めリックが「確り!」とオルレアンに声を掛けた。
「とても……味わい深いな。ああ、味わい深い」
指先は震えているが、苦行には耐えられる。ポーカーフェイスだって自由自在だ。なんなら携行品でしっかりと『過酷耐性』まで得てきた。
「……俺の足元に咲いたオルレアがどんどんと枯れていく? 冬……だからな。気にする事は無い、良くできていると思う」
「オルレアンさん?」
「だがな琉珂、珱 琉珂よ。とりあえず……この次はゴリョウセンパイの話を聞いて……ちゃんとその通りに……作ろう」
静かに目を伏せたオルレアンが沈黙する。指先が震えているが摘ままれたままのケリーが身を捩っているのが何とも趣深かった。
「お、オルレアーン!!!」
ゴリョウは涙ながらに叫ばずには要られなかった。
かの里長に必ずしや美味しいチョコレートを作らせると。アレンジはしてはいけないと言い聞かせるのだと。
「オルレアンの貴い犠牲は忘れないわ」
敬礼をする鈴花。リックは「無理しやがって」とオルレアンを見詰めてからケリーをそっと一口頬張った。
●
「さとちょーは大人しくわたしと一緒にりんりんの監視つきで教えてもらいながらチョコ作りだよ。
わたしたちのお仕事はチョコを溶かして固めるのとデコレーションだって。戦力外はまとめておくってりんりんが言ってた。
ちょこってゆせん? しなきゃいけないんだって。火にかければいいんじゃないらしいよ」
ユウェルが胸を張れば琉珂は「うん、レシピに載っていたわ! ケリーは最初何も見てなくって焦がしたんだけどね」と白状する。
「まずは超絶基本、チョコを溶かして固めるってところから。……うん、直火は止めましょうね。ゆだってる鍋に直接入れるのもね」
「……?」
きょとんとした琉珂とユウェルにゴリョウは「ちょっと待った」と手を伸ばした。
「まずはチョコの溶かし方からか。……おぉっと馬鹿にしてねぇぜ。マジで難しいからな。
ちゃーんと聞いてくれ。
まず前提としてチョコは直火だと焦げやすい。チョコは水分を含まねぇんで直火みてぇな高熱にさらすと溶けるより早く焼け焦げちまうわけだな。
なのでボウルをお湯につけ、低い温度でゆっくり加熱する『湯煎』が必要なわけだ。
しかしてこのお湯も高温じゃNGだ。油分が分離してそぼろみてぇにボソボソになる」
穏やかに説明をしてくれるゴリョウに琉珂とユウェルがこくこくと頷く。鈴花は「50度くらいよ」と告げようとしてから琉珂の手を握った。
「――んもう! なんかその紫のモザイク! うねうねしてるけど! やめなさーい!」
「あれ、鈴花見たことない? これはペイトの近くに……」
「そういう事を聞いてるんじゃなくって!」
大騒ぎの三人娘を眺めながらゴリョウは「ゆっくり、そう丁寧にだ」と頷いた。
「琉珂さん、これ位のリズムだよ」
瑞希はゆっくりと教えていく。一緒に掻き混ぜ、鼻歌を歌う。楽しそうな調理風景は見ているだけでも喜ばしいものだとゴリョウは頷いた。
基礎の基礎さえなんとかなっていればアレンジで『大失敗』はなさそうだ。
「あとは冷やし方にもコツがある。
簡単に言えば25℃くらいに冷やして再度30℃ちょいの温度で溶かした状態まで持ってくと口どけの良いチョコになるぜ!
さ、型に入れたりデコに使ったりとお好きにどうぞってやつだ!」
ゴリョウに肩を叩かれて琉珂は「完成させるぞ~!」と意気込んだのであった。
「琉珂、アレンジっつーのは大体が上級者がやる事だぜ?料理だけじゃなく何でもさ。
慣れてねぇヤツの『これ入れたら良いかも!』は奇跡以外は大概失敗するもんだ。
俺だってそれで失敗した事あるし、出来ねぇや失敗する事は恥なんかじゃねぇぜ、それを誤魔化す事の方が後に引けなくなる」
「うう……」
兄のように優しく告げるジェラルドは早速、不思議な草を掴んでいた琉珂を優しく窘めた。
「焦らず基本からやればアンタにだって美味いもんは作れるさ、俺はそう思うぜ? アンタのうめぇチョコ期待してっから、頑張れよ、な?」
まるで兄のように見張――いや、見守るジェラルドに「有り難う、ジェラルドさん! 私頑張るわね!」と琉珂は笑う。
瑞希と共に琉珂はエコレーションをしていた。ドラゴンを思わせるものやハート、星、宝石。様々な形のデコレーション素材を用意した瑞希は「どれが好きかな?」と問うた。
「このドラゴン、オジサマみた――……ううん、なにもない!」
慌てて首を振った彼女に瑞希はふ、と笑ってから別の色のチョコレートを用意したからお絵かきしても良いと思うと微笑む、
なんとか型に入れて様々なナッツや果実を飾りながらも琉珂は「何だかコレって、違うと思うの」とつまらなさそうに唇を尖らせる。
「これだって十分リュカの『手作り』よ。でもそれじゃ物足りないでしょうし、チョコケーキのデコレーションにも挑戦ね。
あっっ、ゆえ、宝石は自分が食べるのだけにしなさい……そんな顔しない!」
「もー! アレンジ禁止ー! ちゃんと言われた通りにやんなきゃまた変なのできちゃうじゃん!
わたしの宝石はいいんですぅー! りんりんの言う通り! 自分の分しか入れないしちゃんと食べるもん! かくしあじだし!
ふっふ~ん、おりょうりはできないけどデコレーションみたいに綺麗にするのは得意なんだよね~。宝石細工みたいでたのしー!」
楽しそうにデコレーションをするユウェルに負けじと琉珂もデコレーションを進めている。リックは「上手だな」と褒め、ジェラルドは時折味見を求める琉珂とユウェルにも難なく対応していた。
「琉珂さん、できた?」
「出来たけど、何かもう一つ――」
瑞希に声を掛けられ首を傾げた琉珂にリックが気付く。やはり『固めただけ』では満足できないのだろう。
「ああ、じゃあ、チョコレートを作るなら、やっぱり見栄えのいいのがいいよな!」
物語で見たような豪華なものは無理だろうと考えたリックはゴリョウと鈴花によって湯煎を学んだ琉珂に「オランジェットって知ってるか?」と問うた。
「おらん……?」
「本物は砂糖漬けにして干したオレンジの輪切りにチョコレートをディップして固まらせるんだけど。
他の干した果物やナッツや、もう出来上がってるクッキーやらケーキをチョコレートに漬けるようなアレンジもできるぜ!
これだと型さえいらないし、色々つくったもののアレンジもできる。
さらに食べるやつの好みに合わせたものを作りやすいし、色々と数を作ってうまい組み合わせを探すこともできるぜ!」
「わあ、色々作れるのね!」
きらりと瞳を輝かせた琉珂にリックは「さっきのうねうねしたのは辞めてくれよな」と笑いかけた。お見通しである――そう、琉珂が何を作ろうとも小さいものならば屹度対応できるはず! 屹度、『オルレアン』しなくてすむはずだ!
……そのオルレアンといえば苦行を終えた後に遠い目をしていたのだが。
●
高みの見物を決めて居たアルフィオーネはといえばケーキのスポンジとデコレーション用のカットフルーツを作り終えていた。
バットとトングを用意し、各々が好きにトッピングできるようにするのが彼女がティータイムの為に先回りして用意するチョコレートである。
ビュッフェ風のセッティングをし、絞り袋にはチョコホイップクリームやケーキの回転台を設置した。
慣れた様子で作るアルフィオーネは生地に解かしたチョコレートを合せ、型に流し入れた。焼き上がったそれを横一文字に半分分け、ホイップクリームを薄く塗り、カットフルーツを並べ、残り半分を重ねてみせた。
フルーツのカットもなるべく同じ厚さ、同じ大きさを心掛けた。パイ人形は可愛らしいドラネコの形だ。
「わあ、美味しそうだね。ハーブティーと一緒にお茶会をしよう」
にんまりと微笑んだ瑞希は「ね。次は何作ろうか。また一緒に料理したいね」と琉珂に微笑んだ。
「ええ、勿論! あ、でも、先に練習……」
「今度は、ちゃんと皆一緒にスタート、だからね! だから、指切りして、約束だよ。絶対、また一緒に遊ぼうね」
――先回りをした瑞希にやや不服そうな琉珂を見てリックは「ゼロからの方が屹度楽しいぜ!」と笑いかける。
「……ああ、屹度そうだ。練習をするよりも皆で学んでいこう」
苦行を終えたオルレアンの晴れ晴れとしたその表情に鈴花が切なそうに眼を細めたのだった。
「君に幸福を。灰色の王冠を! 里長として頑張ってる琉珂さんに、プレゼント!」
瑞希が作ったのはドラゴンのチョコレートだ。手渡されたチョコレートをぎゅっと抱き締めて琉珂は「有り難う」と微笑んだ。
「私からも皆に、感謝の印を。大丈夫、ちゃんと鈴花とゴリョウさんに見張られたから……」
ぎくりと肩を跳ねさせたオルレアンに琉珂が遠い目をする。
「あ、ねえねえ。これね、トパーズとローズクォーツとタンザナイトの欠片を乗せたんだ。見て見て!」
「わあ、ユウェルのケーキとっても綺麗ね」
にっこりと笑う琉珂にユウェルは自信満々に胸を張った。水色と黄色と桃色で可愛らしい自信作なのだ。
「それでね。りんりんにはトパーズ、さとちょーにはローズクォーツのお守りを。わたしにはタンザナイト。
お菓子は作れないけど二人に贈り物! きれいでしょ! 美味しいんだよ! にひー、お揃いだね!」
大好きだよと微笑んだユウェルに琉珂は「私も大好きよ!」と嬉しそうに声を弾ませ――鈴花は嘆息した。
こっそりと作っていたフォンダンショコラはユウェルと琉珂の為にラッピングもしていた。
「……大切な人に贈り物を、でしょ!」
やけに素直に告げる鈴花にユウェルと琉珂はまあるい瞳を向けて、ぱちくりと瞬き――
「……ところでゴリョウ、ちょっとそこに立っててくれない?
ほら、甘いものの後にはしょっぱいものが欲しいし、殴って食材適性付与してポークソテーチョコソースを……あっ逃がさないわよ!!」
鈴花は誤魔化すようにぐりん、とゴリョウの側を眺めた。視線を受けたゴリョウはと云えば「ぶわっはっは!」と笑いながら回れ右をした。琉珂から「食べれるの?」という恐ろしい視線を向けられたことは気のせいではない。
(俺も、まぁ回りくどい事をしてると熟、熟思う。
調べねぇと解らねぇ言葉を裏に置いて自己満足して、その癖本人の前では『ダチ』だってんだから滑稽なもんだ)
楽しげな仲間達を眺めながらジェラルドはふと笑う。
「さて……最後におまじないと行こうぜ。どんなもんにでも最後にゃ作り手の気持ちがあるってもんだ……らしくねー事、言っちまったかい?」
ぱちくりと瞬いたユウェルと琉珂は「全然!」と微笑んでからおまじないのやり方を教えてと身を乗り出したのだった。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でした。
琉珂の料理が動いているのは覇竜領域に存在している食物をぶち込んでいる所為でもあります。
覇竜領域をもっと知ってもらって魅力的な場所として認識して貰いたい!というのが彼女の談。
それは素晴らしいことなのですが、アレンジは大変だね!
GMコメント
●目標!
グラオクローネの贈り物を作りたいわ!
ね、瑞希、何が良いと思う? ユウェル、石も入れる? ジェラルドさんは何が良いと思う?
ぎゃー! 鈴花、まって、ごめんなさい。真面目な目標だわ!?
戦闘は基本はありませんが、琉珂の調理スキルは壊滅的です。
モンスターと呼べるような生き物が現れる可能性もありますね……。
また、琉珂の作った『ケリー』を食べるとバッドステータス並に「くるしー!」となる可能性もあります。注意して下さい!
そんなこんなでNormalです。
●フリアノンの食堂
「私達のための来てくれて有り難う!」と琉珂が調理場を貸し切りました。
調理場には練達の技術がないので下記の魔法道具以外の文明の利器などは駆使できないので注意して下さい。
それでも其れなりに調達してきました。魔法道具を借りてきたので其れがオーブンなどの代わりになりそうです。
魔法道具(オーブン)はあくまで借り物なので、この後はちゃんと返しに行きます。
琉珂はチョコレートが作りたいそうです。クッキー? 美味しそう! ケーキ? 最高よね!
つまりはグラオクローネの贈り物を皆で作るのがこのシナリオの目的なのです。
●ケリー
琉珂が皆さんを吃驚させようと先に作った試作品のチョコレートです。
ぷるぷるしてます。なんか動いてます。 食べきるか「えいや!」と倒さなくてはなりませんね。戦闘で……倒れるお料理……
●珱・琉珂(p3n000246)
ご存じ、覇竜領域デザストルで一番大きな亜竜集落フリアノン。巨竜フリアノンの骨と洞穴で作られた巨大集落の里長です。
両親を竜種の襲来で亡くし、父代りと慕った『オジサマ』は暴食の冠位魔種ベルゼーでした。
里の行く末を定めるべく里長会議に縛り付けられていた様子ですが一先ずは現状維持を採択され、一安心した頃。
お料理スキルはありません。包丁握れば血が流れます。チョコレートの作り方? 分からない!
手先が不器用、勢いガール。『落ち着いて』と言われればなんとかお料理できそうです。天賦の才能『勢い任せ』!
これでも女の子。グラオクローネは皆さんのために贈り物がしたいのよ!
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