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シナリオ詳細

<腐実の王国>名君は終わり、偽られた死を払う日

完了

参加者 : 8 人

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オープニング


「ふ、ふふふ、ふははは!」
 気が触れたように男が笑っている。
 男の名はガストン・アッシュフィールド。
 天義の聖騎士であり、貴族である。
 室内でも取り回しの良さそうな片手剣を突きつける手は、鋭く一点に向けられる。
「まさか、まさかお前が! お前がここに!」
 それを向けられる男はまるで気にも止めぬとばかりに立っていた。
「ありえん! ありえん! あり得てたまるか!
 貴様は死んだ! そうだ! それは国も認めるところ。
 死者が再び立つなど、許されぬ! なぁ、そうだろう、マルスラン!」
「落ち着いてくださいまし、主人様」
 表情を変えぬ男の後ろから聞こえた声はガストンもよく知る者だった。
「ジェルヴェーズか! これが落ち着いていられるわけがない。
 それより、貴様。何故このような者がここにいる!?」
「……私がご案内いたしましたゆえ」
 そう言って男の横を抜けるように姿を見せたジェルヴェーズの瞳は狂気を孕んでいた。
「何を言っている? 何故そんなことをした? この者は既に死んだ者だ。
 この者がいるということは――あの女のような、冠位魔種なる魔の手でもなければ不可能だろう!
 そのような者を連れてくるなど、貴様、何を企んでいる?」
「――時が来たのです。ガストン・アッシュフィールド」
「時、だと?」
「えぇ、例えこの身を魔に沈めようと、お嬢様はお救いいたします。
 最早、貴方を庇う者はおりません。それが私の――『私達』の覚悟にございます」
「何を……? まさか、貴様か、先だっての民のデモは、貴様が企てたものか!」
「……先だっての作戦は、失敗でした。
 力なき私達では、騒動を起こすことでしかお嬢様をお救いする術はなかった!
 いえ! いいえ! 覚悟が、覚悟が足らなかったのです。
 さあ、ガストン様、私と共に参りましょう。
 私と共に、まことの歴史に身を任せるのです。
 私は、それを遂行する者。
 そのためになら、先代と――この国にだって弓を引きましょう!
 私達が、貴方を――貴様を、諸共に地獄へ連れて行ってくれる!」
「気が触れたか、ジェルヴェーズ! だが、残念だったな。
 貴様が何らかの魔の者であるならば、斬って捨てれば済む話。
 ――それが我が兄の顔をした化け物と共にいるのであれば、なおのことな!」
「いいえ、ガストン様。貴族としての貴方はここで終わりです」
「なに?」
「……だってもう、『誰かの密告を受けた』天義の聖騎士隊とローレットは、この家に来ておりますから。
 『真なる歴史の遂行者』と通じた傲慢な天義騎士を、討ち取るために」
「――ッ! 貴様ァァ!!」
「……貴方に、彼らが来るまでの間に私と兄君――マルスラン様を殺せるだけの力量がありますか?」
 激昂するガストンへと、ジェルヴェーズは静かに嘲笑を浮かべていた。


 騒ぎが聞こえていた。
 ぼんやりと天蓋を見つめながら、エレナはゆっくりと半身を起こす。
「何かあったのね……」
 日常の音とは明らかに異なる音。
 いや、そもそもここまで音が聞こえる時点で日常のそれではない。
 アレは常々この部屋の防音性能を言っていたから、それは知っている。
(……何も変わらないとは思うけど、少しだけ気になるのはどうしてなの……?)
 昨日も、一昨日も。そしてきっと、明日も明後日も。
 いつまでも慣れぬ、きっと慣れたしまったら終わってしまう日々が続くんだ。
(疲れちゃったな……)
 希望を持つのにも疲れた。
 死のうとするのさえ疲れた。
 私はただ、彼らの欲望のためだけに行かされている。
 私は、何もなく生かされ続けている。
(お腹、空いたなぁ……)
 きゅるると可愛らしいお腹の音がなる。
 こんな状況でも生きようとする自分が嫌になる。
 鉄格子に覆われた曇りグラスから視線を逸らして、エレナはぼんやりと部屋の中を見渡した。
 無意味に広い、求めてもいない化粧品が並ぶ化粧台、小さな果実が収められたバスケットとテーブル。
 机の類はネジで止められて微動だにしない。
 真新しいそれらを眺め見ながら、エレナは何の感慨すら抱かなかった。


「天義貴族、アッシュフィールド家に関するお家騒動は覚えておられますか?」
 それは半年ほど前の事だ。
 先代当主の一人娘が生存しているのではないか、という噂話から始まったデモ運動。
 アッシュフィールドの長ガストンはその鎮圧を依頼し。
 一方で天義首脳部はこの酷く現実的な噂話に疑惑の『不正義』の疑惑を向けた。
「エレナちゃんのお話だね……調査が進んだんだね?」
 過去に一度だけ会ったことのあるスティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)を始めとした先に集められた面々はその依頼に参加していた者達だ。
「そういう事ですか。人事……人の動きを管理する人については何か掴めましたか?」
 そう問うマリエッタ・エーレイン(p3p010534)に、アナイスが静かに目を伏せた。
「此度の情報源は不明ですが、実はその人事におけるNo2にあたる人物が昨今話題の『遂行者』であるとのことです」
「遂行者……ここでその単語が出てくるんだね」
 その単語に反応を示したのはマルク・シリング(p3p001309)やスティア。
 2人は実際に遭遇したこともある。
 聖女ルルを始めとするそれらの存在は新たな天義にとっての脅威といえよう。
「結局デモの噂の出処はどこだったの?」
「デモはかつてガストン卿により追放された先代時代のメイド長であるレイラという女性が出処のようです。
 彼女はどうやらエレナ嬢の養育係も務めていた人物らしいですね。
 エレナ嬢のことを我が子や妹のように愛していたようです」
 ミルヴィ=カーソン(p3p005047)の問いかけにアナイスはそう言って答えた。
「それで結局、何がどうなってるのかな?」
 そう首を傾げるスティアに、アナイスはそっと目を伏せていた。
「……天義の首脳部に通報があったそうです。
 ガストン・アッシュフィールドは『遂行者』ジェルヴェーズの手引きで偽りの歴史に仇なさんとする者だと。
 今回の話の出処は不明なのですが、亡くなったはずの人物の姿がアッシュフィールドの町で確認されました」
「なくなったはずの人物……致命者ですか」
 そう言ったマリエッタにアナイスは頷いてみせる。
「それは確実な話?」
 そう確かめるように問うミルヴィにアナイスは小さく頷いた。
「――ええ、確実な話です。天義聖騎士の先遣部隊が……
 そこに属している生前の同僚の方が確認いたしました。あれは確実に、そうだと」
「そっか……」
 スティアは小さく呟いた。
 以前に1度だけエレナとあった時、父とスティアの下に彼女を連れてきたのはエレナの父だった。
「今回、皆さんにお願いすることはただ1つ。
 天義聖騎士隊に同行し、『遂行者』とガストン卿の身柄を確保して下さい。
 そして――彼女を、エレナ嬢の救出をお願いします」
「エレナ嬢が生きてるのは確実なんだね?」
 マルクの問いかけに、アナイスがもう一度頷いた。
「なら、助けに行くだけだね!」
 スティアがやる気を漲らせるのに他の面々も頷いた。

GMコメント

 こんばんは、春野紅葉です。
 さて、早速始めましょう。

●オーダー
【1】ガストン・アッシュフィールドの撃破(生死不問)
【2】『遂行者』ジェルヴェーズとの交戦
【3】エレナ・シャルレーヌ・アッシュフィールドの救出・生存

●フィールドデータ
 天義に存在するアッシュフィールド邸、3階建ての長方形の邸宅です。
 広大な廊下や幾つかの多数の部屋が存在しています。
 調度品の多くは非常に落ち着いた雰囲気な作りの物が多く、厳格で保守的なガストンの性格を感じさせます。
 ガストンの部屋は3階の中でも奥の方に存在しています。

 エレナが監禁されている部屋は不明です。
 情報統制の観点から知ってる者の数も非常に少ないでしょう。

 なお、邸宅の中庭では天義聖騎士隊とガストン私兵が交戦中です。
 邸宅の中では天義聖騎士隊とガストン私兵に加えて影の天使の三つ巴の抗争が繰り広げられています。

●エネミーデータ
・ガストン・アッシュフィールド
 天義貴族。
 先代当主の弟であり、エレナから見ると叔父にあたる人物。
 開明的で鷹揚とした性格であったという兄と異なり、非常に厳格で保守的な人物。
 その厳格さで先代死後におけるアッシュフィールド領の秩序を引き締めた名君です。

 その一方で姪を事故に見せかけて失踪・監禁し、
 兄の爵位を継承する策略を行なった傲慢な人物でもあります。

 騎士らしく剛健にして堅牢、真っ当に強く堅いタイプ。
 手数よりも一撃の重さを重視する傾向があるとのこと。

・ガストン私兵隊×20
 正確には天義の聖騎士隊です。
 ガストンと何らかの密約でもあるのか、彼の命令を忠実に聞く私兵のような連中です。

 重装備の騎士甲冑と片手剣、盾を用いた防技タンク型。
 カウンター系のスキルや防技を攻撃力に加算する系列のスキルを用いると考えられます。

 なお、戦場における総数としてはもっと多くの聖騎士が動員されていますが、
 皆さんが実際に交戦するのは上記の数になります。


・『遂行者』ジェルヴェーズ
 神の意志と神託、『預言書』に従って動いている謎の者達が1人。
 代々アッシュフィールド家に仕えてきた使用人の家系出身。
 仲の良かった従姉妹のレイラがエレナ嬢の養育係を務めておりました。

 ガストンの謀略により先代以来の使用人が丸々追放された後の人事のトップに据えられており、
 先代の使用人たちに次の就職先を斡旋した人物でもあります。

 従姉妹と共に前段シナリオのデモ運動を密かに扇動していました。
 前回シナリオ後、何らかの心境の変化ないし状況的変化があったのでしょう。
 現在は自らが悪役になって泥を被ってでもエレナを救い出すべく強硬手段に出ています。

 今回シナリオにて出どころ不明な情報であるところの
 『ガストンが遂行者陣営に通じているという話を流した張本人です。

※記載漏れにつき追記
 戦闘スタイルは不明ですが、皆さんはジェルヴェーズのいる部屋への突入時、魔導書と長剣を持っていることが確認できます。
 恐らくは物神両面での戦闘が可能でしょう。

・『致命者』マルスラン・アッシュフィールド
 ガストンの兄、エレナの父に当たる致命者です。
 これまでの致命者同様、その中身までは伴っていません。
 戦死したとはいえあの大戦に聖騎士として従軍した人物を元にしています。
 そのスペックは侮れません。油断は禁物です。

 かつてのマルスランの同僚によれば、
 手数で攻めて守りを崩し隙を突いた痛撃を撃ち込むタイプとのこと。
 とはいえ、これはあくまで生前のスタイル。
 致命者であるこの個体までそうかは不明です。

・影の天使×20
 ジェルヴェーズによって召喚されたと思しき影の天使たち。
 ジェルヴェーズの思惑自体はガストン麾下の兵の援軍を来させないためですが、
 残念ながら影の天使たちにそこまで精密な判断はできないのでしょう。
 ガストンの元へ向かおうとする聖騎士や皆さんを攻撃してきます。

●NPCデータ
・聖騎士隊×20
 イレギュラーズと行動を共にして邸宅へ侵入、ガストン私兵や影の天使と戦う聖騎士隊です。

 敵が逃亡する可能性を踏まえ、多少鎧を軽くして機動力も確保している分、
 ガストン私兵に比べると若干ながら守りが手薄になっています。
 皆さんの指揮や攻撃も加えれば優位に運ぶでしょう。
 全員、剣と盾を装備した標準的な騎士と言った雰囲気。

・アッシュフィールド聖騎士隊×10
 アッシュフィールド領に赴任していた聖騎士達。
 ガストン私兵との違いは真っ当な感性をしているところ。
 影の天使に対しては攻撃的ですが、皆さんや聖騎士達を前にすると動揺するでしょう。
 投降を促せば降伏する可能性も高いです。

・エレナ=シャルレーヌ=アッシュフィールド
 スティアさんの関係者です。
 ガストンの姪でアッシュフィールド家先代当主夫妻の一人娘。
 天義聖騎士の父と海洋貴族の母を持つ少女。
 実母と共に事故死したとされていましたが、実は生きており邸宅のどこかで監禁されています。

 かつては快活で人見知りのしない父に似た良い子でしたが、今は完全に心を閉ざしています。

●攻略ヒント(プレイヤー情報)
 エレナの発見については人探し系の非戦が重要になる他、
 鍵開け、罠に関する非戦などが活躍する物と思われます。

 エレナの部屋には高い位置に鉄格子と曇りガラスで出来た窓があり、嵌め殺しになって取り外しができないようです。
 また、エレナの部屋には非常に強固な防音処理が施されているようです。
 間取りも広く取られており、監禁はされていますが、部屋の中で歩き回れる程度の広さはありそうです。


●フィールド状況について注意事項
 上記のエネミーデータ、NPCデータに明記される人員以外の聖騎士やガストン私兵、影の天使らは背景です。
 先にガストン私兵を打ち倒して中庭の聖騎士隊も連れて行く、といったふうなことはできません。
 反対にガストン私兵や影の天使が背景から追加されイレギュラーズ側に攻撃してくることもありません。
 
 もしもする場合、上述エネミー以外と戦っている間にガストンとジェルヴェーズの戦いは何らかの形で終わり、ジェルヴェーズは撤退します。
 この場合、明確なオーダー失敗となりますのでくれぐれもご注意ください。

 背景でもある友軍と敵の間を潜り抜けて本命に突っ込んでいきましょう。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はB-です。
  依頼人の言葉や開示された情報に嘘はありませんが、情報に不明点が多くなっています。

  • <腐実の王国>名君は終わり、偽られた死を払う日完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年02月22日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
彼者誰(p3p004449)
決別せし過去
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
鏡花の癒し
ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)
微笑みに悪を忍ばせ
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女
メイ・カヴァッツァ(p3p010703)
ひだまりのまもりびと
セシル・アーネット(p3p010940)
雪花の星剣

リプレイ

●戦場を駆け抜けて
 激しい剣撃の音が、怒号が、炸裂音が聞こえてくる。
 あちこちからは火でも放った者でもいるのか何かが焼ける臭い、あるいはそうでなくとも血なまぐささが充満する。
 血みどろの三つ巴が繰り広げられる中を、イレギュラーズは聖騎士に囲われながら走り抜ける。
 時折遭遇するガストン麾下と思しき聖騎士や影の天使。
「侵入者か……いや、聖騎士達……それに貴方達は……!」
 影の天使たちを背後から切り開いた騎士が声をあげ、隣にいた騎士もまた驚いた様子をみせる。
「何がどうなってる……影の天使が湧いたと思ったら、どこの所属なんだ?」
「今は『明らかに敵』である影の天使と戦ってほしい! それがこの国の為の戦いだ!」
 動揺を露わにする騎士へ『浮遊島の大使』マルク・シリング(p3p001309)は言い放つ。
 動揺する騎士たちはある種同僚ともいえる聖騎士達を見渡して、やがて小さく頷いた。
(あの時の暴動、裏に誰かいる事は間違いなかったけど、こんな形とはね)
 その様子に手ごたえを感じつつ、マルクは先の暴動の事を振り返る。
「それで、貴方達はアッシュフィールド卿の部屋がどこか知らないかな?」
「それなら――」
 最小限で突破する。それがイレギュラーズの共通認識。
 マルクの問いに聖騎士達がガストンの部屋の位置を伝えてくれれば、イレギュラーズは再び走り出した。

 迫りくる影の天使、迎撃に出てくるガストンの私兵たち。
 それに紛れる聖騎士達と数多の戦いを潜り抜けながら、やがてイレギュラーズは聖騎士達の示していた扉へと辿り着いた。
 内側からは戦闘音、頷きあい扉を押し開く。
「遅いぞ、いつまでかかって――ちぃ、新手か!」
 自らの息が掛かった者とでも思っていたのか、舌打ちするのは奥の方にいる男だ。
「……貴方がガストン・アッシュフィールドだね」
 真っすぐに視線を向けた先、どこか見覚えのある男性――マルスランに攻めかかられる男へ『聖女頌歌』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は声をかけた。
「権力の為には家族をも不幸にする――そんな傲慢な行いは許せないよ。
 例え為政者としては優れていても人としては最低だよ。
 そんな貴方には、今日ここで引導を渡して、エレナちゃんも助け出す!」
「――チィ、貴様らもそちら側か!」
 苛立つように声をあげたガストンがマルスランの腹部を蹴り飛ばして間合いを開く。
「そういうわけでもないのですが……少なくとも貴方の味方ではありませんね。
 いずれにしても我々ローレットが出張った以上は逃げれませんよ。
 なにせ我々、しつこいので。
 この家と天義で起きている全てを明るみに出すまでは、噛みつく猟犬ですとも」
「――ローレット! あぁ、忌々しい! くそ、あの時に貴様らに依頼したのが間違いだったか?」
 防御態勢を整えながら『肉壁バトラー』彼者誰(p3p004449)が告げればこちらの正体に気付いたらしきガストンが激情を見せる。
「……叔父と姪ね」
 ぽつりとそう言葉にもらしたのは『高貴な責務』ルチア・アフラニア(p3p006865)だ。
 辟易とした思いを抱いたこともあれどそう悪くも無かった彼を、懐かしい人を思い出す。
 姪の死を装って監禁していた男と故郷にいるであろう叔父は比較するまでもない。
「話を聞く限り、貴方は虫唾が走るわね」
 魔力を高めながらルチアは思わずそう口にした。
「くくっ、天義にもこういったお家騒動はあるものですねぇ。
 ワザワザ姪を生かしておくあたり詰めが甘いというか……仮に良心の呵責を覚えたのだとしたら、最初からやるなという話ですが」
 そう笑うのは『微笑みに悪を忍ばせ』ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)である。
「良心の呵責……そんな物はこいつらにはありませんよ。
 彼らは欲望とストレスのはけ口としてお嬢様を扱っていただけです」
 怒れるままにそう語るジェルヴェーズにガストンは忌々し気に視線を向けている。
「欲望の捌け口ならば奴隷で充分……つくづく甘いと言いますか……あぁ、なるほど。
『奴隷ではない辺りにこそ罪の深さがある』という方が正しそうですねぇ、この分ですと」
 ガストンの表情には変わりがない。
「女の子がずっと閉じ込められているなんて、可哀相なのです……。
 必ず助けて、あたたかいおひさまの光を浴びてもらうです!
 陽の光の精霊種としては、心も身体も、ぽかぽかになって貰いたいのですよ!」
 そう言った『ひだまりのまもりびと』メイ(p3p010703)に『雪玉運搬役』セシル・アーネット(p3p010940)も頷くものだ。
「事情は少ししか僕には分かりませんが、殺したように見せかけて監禁だなんてダメですよ!
 エレナさんはきっと怖かったでしょう。早く助けてあげないと!」
「……そもそもそれだ。ジェルヴェーズ。
 なぜ貴様、あの娘が生きているという話が外に出ている!」
「……ご夫人は貴様ほどは理性的ではなかったという事です」
「カーラか! あの女が何かミスをしたか!」
 苛立つガストンをただ只管に見据える視線は『未来への葬送』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)のもの。
(……あの人がこうも終わってしまったのは、何故。
 突然の密告、依頼。そしてガストン卿を討て……何かが引っかかる)
 その視線は巡り、ガストンがジェルヴェーズと呼んだ女を見やる。
(ここ最近『狂気』が広がり始めている気がします。
 この国に失われたはずの何かが、この国を蝕み腐らせようとしている……そう感じます)
 エメラルドの瞳は魔法陣越しにその女を見据えた。
「……彼の事も気になりますが、それよりも気になるのは『遂行者』――貴女です」
 放たれた魔術がジェルヴェーズの身体に2つ目の印を刻む。
 憶えのないそれは、きっと彼女が元々刻まれたものか。
「――私、ですか」
「えぇ、貴方達の言う『預言書』。
 神とやらの意志、神託……お聞かせいただけると、私も興味を引くかもしれませんよ?」
「……そんな良い物ではないと思いますが」
(……えぇ、同感です。
 本当の私は、そういうものに心を躍らせる者だったかもしれませんのに)
 マリエッタは思わず笑みをこぼす。
 それに今や全く心惹かれぬことに、そして変わっていた自分の事がそれほど嫌いではないことに。
 静かに剣を構えたジェルヴェーズに合わせ、マリエッタは血の陣を構築する。
「今宵のダンスパートナー、よろしくお願い出来まして?」
 彼者誰は合わせてガストンに視線合わせて肉薄する。
「ダンスだと? ふざけたことを! 名も知らぬ、男と踊る趣味はないわ!」
 振るわれた剣を愛刀で振り払う。 
「そうですか――では私の名前は彼者誰。これでダンスしていただけますね?」
 堂々たる名乗りを上げれば、忌々し気にガストンの眼が揺れる。
「そういうことではない――ちぃ、忌々しい! まずは貴様からだ!」
 そう叫ぶガストンが剣を彼者誰へ振るい。
「邪魔をするなら、お前も討伐対象だ!」
 そう言ってマルスランの剣もまた彼者誰へ撃ち込まれてくる。
「ここは早く終わらせてエレナさんを救出に向かうですよ」
 メイはそう言って葬送の鐘を静かに揺らす。
 静かな、美しい音色が部屋の中を包み込む。
 それは壮麗にして温かな音色は連戦によって疲弊していた体力や魔力を取り戻させてくれる。
 そしてそれはメイだけではなく。
「――ええ、私も支えるわ。まかせて」
 続け、ルチアはそう告げて魔導書を紐解いた。
 推測し、ド殴殺し、紡ぎ出した道筋を仲間達へと指し示す。
 勝利に通ず道を切り開くような言の葉は仲間達を支援する。
「これまでの行いは反省して貰うからね」
 セラフィムを起動し、美しい羽根の魔力残滓を散らせながらスティアはそう告げる。
 羽根たちはやがて炎をあげて燃え上がる。
 それらは叩きつける吹雪の如くガストン目掛けて撃ち込まれていく。
 流れができ始めた頃、セシルは一気に走り出した。
 花と蔦を抱く魔剣を構え、駆けだした推進力をそのままに突貫する。
「僕には事情はわかりませんし、貴方がなぜエレナさんを監禁していたのか検討もつきません。
 でも、きっとエレナさんは困ってます。だから、エレナさんは助けます!」
「ふ、吼えるな、小僧が――」
 光速で打ち出された斬撃は鮮やかな軌跡を描く。
 合わせるようにして動いたガストンの剣はそれを捉えきることなどできず、鋭くその肉体に傷を入れる。

●『為すべきことは』
 長く続いていた戦いは、やがてガストンが床へと倒れ伏したことで終わりを告げた。
 メンバーの多くが堅牢さや支援能力に長け、それでいて優れた攻撃手であったことはガストン戦を大いに優位に進めた。
 戦闘自体は多少の長期化を見せていたが、それも恐れるほどの事ではない。
「……どうやらもう起き上がってこないみたいなのです!」
 メイはそういうと再び鐘をゆらりと動かした。
 ちりりんと鳴り響いた鐘の色がイレギュラーズを一時の休息へと誘えば。
「……ガストンが倒れましたね。
 ――お嬢様の下へ、行かれるのですか?」
 メイの言葉に対して、ジェルヴェーズが静かに声をあげた。
 その剣は真っすぐにこちらに向けられている。
「エレナさんを助けるためにも、邪魔しないでなのですよ!」
 メイが続ければ、ジェルヴェーズが一瞬だけ愁いを帯びた表情を見せて剣を構える。
「……あぁ、それならば、仕方ありません。
 もう少しだけ、もう少しだけ――私のお相手をしていただきましょう」
 その剣には一切の震えがなく。
 そんなジェルヴェーズの動きに応じるかのように、先に動き出したマルスランの連撃が彼誰者へと斬り結ばれる。
 それらを磨き上げられた肉体を以って受け止めれば、刹那の内にその肉体は不滅の如く癒えて行く。
「なかなかどうにも手強そうですよね、遂行者たる彼ら。
 生かして捕まえても脅しでも強請でも、何もお喋りして下さらないのでは?」
 倒れたガストンから視線を外した彼者誰は、思わずそう呟いていた。
「そうだね……でも、教えてほしい。
 死者の筈のマルスランがいて、遂行者の目指すは滅びの未来。
 なぜこんなことを、ジェルヴェーズさん!」
 その言葉を受け取り、マルクが叫びジェルヴェーズへ肉薄する。
 浮かび上がった魔法陣が微かにブラウベルクの剣を受け止め、陣を砕いて振り抜かれた。
「やれやれ、貴族が政争に敗れたくせに往生際が悪い。
 何の力もない平民ならともかく、仮にも貴族なら負けたやつが悪いんですよ」
 皮肉るように告げるウィルドに対して、ジェルヴェーズの表情が歪んだ。
 それは貴族に関する部分ではなく『何の力もない平民』といったその時のことだ。
「……私は、力のないただの人間です。
 あの傲慢で、恐ろしい男を打ち破るには――不正義の力だって借りるべきでした。
 契約をしたのならば、その罪も受けるべきでしょう」
「……力のないただの人間、ですか」
 ジェルヴェーズの刃を最も多く受けるマリエッタはヘリオドールの瞳を細め呟くものだ。
「ここまで私達と戦うことの出来る貴女が、力のない人間――ですか」
 彼女の対応力は『力のないただの人間』という自嘲するには力強い。
「どうしてそうにまで思いつめ、決断するに至ったのですか?」
「……それ、は」
 知りたいと、そう胸の内に熱を帯びたマリエッタの鎌は美しい軌跡と共にジェルヴェーズに大きな傷を刻む。

●死の帳を払って
 あちこちで繰り広げられる戦闘を潜り抜けてメイ、スティア、セシルの辿り着いた廊下は、うんと長い。
「……メイさん、ホントにこの辺り?」
「はいっ! お外の窓はこの辺の上にあったのです……だからこの辺のはずなのです……」
 メイからの返答にスティアはきょろきょろと辺りを見渡した。
「で、ですがこの辺りは壁しか広がってないですよ!」
 セシルが焦ったように言うのもさもあろう。
 影の天使やガストン私兵との遭遇を最小限にして突破した分、彼らは健在だ。
「うん……でもよく見るとこの辺りの壁、他のところに比べて変に長い気がするような」
 巧妙に小細工されているが、よくよく注視すれば扉の数が向かいと比べて1つ少ない。
「この辺りですか? ……ええっと……」
 それに合わせて、セシルは辺りを探し始めた。
 ペタペタと手に触れ、音を確かめて体重をかければ。
 鈍く重い反発と僅かなぎぃという音。
「……あっ」
「精霊さんが扉が動いたって!」
 思わずセシルが声を漏らし、はたと気づいたメイも言えば。
「開けよう!」
 スティアは扉を押して初めて見えた鍵を破壊、中へと足を踏み入れた。
「……ぁ、ぇ――だ、だれ……?」
 天蓋付きの大それたベッドの上、音に気付いた少女がぼんやりと頭を動かしてこちらを見た。
「見つけた! 大丈夫? 助けにきたよ!」
「……たす、け?」
 笑顔でそう声をかけたスティアに、ぼんやりとした反芻があった。
「……め。――だ、め……逃げて……あいつが……あいつが貴女を殺す前に……」
「大丈夫なのですよ! その人ならもう貴女を虐めたりできないのです!」
 メイはそっと笑いかけるように言ってやる。
「う、うそ……そ、そんな……ほんとうに?」
 信じられないと驚きに目を瞠ったエレナの膝にぴょんと乗っかった影。
「わわっ! 猫!? え……あれ……どこから……?」
「ねこさん、あったかいですよ。よかったら撫でてあげてくださいです」
 にゃぁと小さく声をあげた小動物に困惑する少女へメイが声をかければ。
「う、うん……」
 恐る恐る、そっと背中にふれ、ゆっくりと撫で始める。
 ほんの少しだけ笑ったように見えるのは気のせいではないだろう。
「……駄目、それよりも早く逃げて……! 屋敷の中がうるさいの……だから、お願い……!」
「それは貴方を助けに来たからですよ。だから、大丈夫です!
 さあ、ソリに。運転なら任せてください!」
 そう言ったセシルがソリにエレナを乗せた。
 そのまま、エレナ諸共走り出す。

●――どうかお元気で
「……そうですか。お嬢様は救助を」
 マルクがエレナの救出を告げると、ジェルヴェーズは安堵の笑みを浮かべた。
「……貴方は先程、こうおっしゃっていましたね。
 なぜこんなことを……と」
 ジェルヴェーズは静かにそういうと数歩後ろへ下がる。
 その先には窓が見えた。
「……そのためには、奥様のことをお話することになります」
「それは先代の方の事ですね……」
 マルクの問いは殆ど勘というべきだ。
「エレナお嬢様の母君は、事故死『したことになって』おります。
 あのお方は確かになくなりました。その瞬間を、私はよく覚えております。
 ……ここまで申し上げれば、どういう意味かわかりますか?」
「くくっ、なるほど、そういうことですか。
 兄嫁を殺してでも権力を手にしたいとは、流石は悪徳貴族というべきですね」
 ウィルドは横耳で聞いていた話からガストンを見やる。
 気絶した男からの返事は当然なかった。
「ようするに、先代のご婦人は『事故死に見せかけた暗殺』であると。
 そしてその実行犯が貴女で、主犯はガストンであると」
 ウィルドがそこまで言えば、ジェルヴェーズはそれ以上を述べなかった。
 あぁ、それでも結論は同じだ、貴族ならば負けた奴が悪い。
 故にこそ――失ったものを取り戻すには力がいる。
「そのために必要な力ですか、遂行者(それ)が」
「――私は、生きているべきではない。後悔とはよく言ったものです。
 私のような外道は、お嬢様のお隣にいるべきではない。
 故に――私は偽りの歴史から解き放たれ、本来のあるべき道とやらの下でお待ちします。
 私のような者こそ死ぬべきなのですから」
 刹那、魔導書が輝き、ジェルヴェーズの背後にあった窓が砕け散った。
「……ヴァークライトのご令嬢へ、お伝えください。
 あの方はこれからも苦難に遭われます。たしかに、苦しめる者は取り除かれました。
 けれど、ここから先、守ってくれる人は誰もいないのに、守るべき者ばかりが多くなりましょう。
 だから――どうか、お嬢様の事、よろしくお願いします、と」
 それだけ言い終え窓に身を躍らせた彼女は、影の天使を壁のようにして聖騎士から逃れ、どこぞなりへと消えて行った。

●灰の大地
 戦いが終わって少しスティアはエレナの病室を訪れていた。
「エレナちゃん、こんにちは。私の事、覚えてるかな?」
「……この前はありがとう、ございます……」
「やっぱり覚えてないかな? 私達、子供の頃に1度会ったことがあるんだけど……」
「……もしかして、スティアちゃん……? お父様が、紹介してくれた……」
 驚いて目を瞠ったエレナの手を取ってスティアは笑う。
 落ち着かせてあげるように。
「エレナちゃん、これから頑張ろう。私も手伝うよ!」

 こうして、『アッシュフィールド騒動』と後世に記されるお家騒動は一旦の幕を下ろした。
 ガストンは遂行者とは通じていなかったとされたものの、エレナへと行っていた監禁、暴行は証拠が多すぎた。
 加えてエレナの死における偽証や家督継承は詐欺と反逆に解釈された。
「――あぁ、ちくしょう、奴を殺していれば!」
 大きな問題を残して、ガストンは刑場に消えた。
 ――紛いなりにも施政者としては有能だった男は身を滅ぼし、その跡目は――エレナしか残っていない。

成否

成功

MVP

メイ・カヴァッツァ(p3p010703)
ひだまりのまもりびと

状態異常

彼者誰(p3p004449)[重傷]
決別せし過去
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)[重傷]
鏡花の癒し

あとがき

お疲れさまでした、イレギュラーズ。
ガストンは退場、エレナ嬢は救出。あとついでに関わってくる遂行者も皆さんと顔を合わせることとなりました。
エレナ嬢とそれに関わる物語はこれより始まります。

MVPはエレナ嬢の心を開くのに大きな貢献を残したメイさんへ。
環境上、人間不信に陥りつつあるであろう彼女へ動物のアプローチは見事なアイデアでした。

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