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シナリオ詳細

<昏き紅血晶>運命捻じ曲げし結婚指輪

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●幸福の最高潮
 ラサ、ネフェルスト。とある神殿で、一組の夫婦の結婚式が行われていた。
 新郎は、商家バシギオー家令息ダンセ。新婦は、商家マシオー家令嬢エルサ。新郎新婦共に商家の出と言うこともあって、式は豪華絢爛なものとなっていた。
「新郎ダンセ。貴方はここにいるエルサを、病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、妻として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?」
「はい、誓います」
「新婦エルサ。貴方はここにいるダンセを、病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、夫として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?」
「はい、誓います」
 神官の言葉に、ダンセとエルサがはっきりとした意志を込めて答えた。そこに、何の迷いもない。それもそのはずで、二人は何年も前から愛を温め合い、今ようやくこうして結ばれたのだ。
 そして、所狭しと参列している親族や友人達は、夫妻の誓いに割れんばかりの拍手を送った。端整な顔立ちに優しさと意志の強さの篭もった眼差しを持つダンセと、美しい顔立ちに温和な笑顔を浮かべるエルサは、誰が見てもお似合いの夫婦だ。外見だけでなく、性格や能力においても二人がお似合いであることを、参列者達は知っている。ダンセの性格は善良であり、バギシオー家の跡取りとして既に商才を発揮していた。エルサは謙虚にして貞淑で、商家を支える良妻賢母たる教養を有している。
 二人は将来、一体となるであろうバギシオー家とマシオー家をより発展させていくであろう。この場にいる誰もが、そう期待していた。
「それでは、指輪を――」
 神官が、互いの左手の薬指に結婚指輪を嵌め合うように促した。用意された指輪には、紅く美しい宝石が嵌め込まれている。参列者達が、ほう、と息を吐き、ざわめいた。それもそのはずであろう。この宝石は「紅血晶」と呼ばれ、その美しさと希少さから商人達が躍起になって入手しようとしている代物だ。
 本人達はそんな贅沢なものは、と固持しようとしたが、両家の家長は次代への祝福と期待を込めて、敢えてこの宝石を結婚指輪に用いた。また、結婚指輪にこの入手困難な宝石を用いたことが、バギシオー家とマシオー家の財力を示してもいた。
 まず、ダンセがエルサの左手の薬指に結婚指輪を嵌めた。そして、エルサがダンセの左手の薬指に結婚指輪を嵌めた。わあっ! と盛大な喝采が神殿を包む。

 ――嗚呼! この結婚指輪に紅血晶が用いられていなければ、きっと二人は末永く幸福であったろうに!

●変わり果てた新婚夫婦
「息子夫婦の家に、ば、ば、化物が……! 何とかしてくれ!」
 結婚式からしばらくしたある日。バギシオー家とマシオー家の家長が、血相を変えてローレットのラサ支部に飛び込んできた。『夢見る非モテ』ユメーミル・ヒモーテ(p3n000203)は、二人を何とかなだめすかして落ち着かせ、話を聞き出す。
 ユメーミルが聞きだした話は、二人の息子と娘であるダンセとエルサの新居に訪問したところ、全身が紅い結晶に覆われた巨躯の化物が二体いたと言うものだ。そして、可能ならダンセとエルサを救い出して欲しいと言う。
 だが、ユメーミルはこの時点で嫌な予感を強く感じていた。
「二人は、結婚式を挙げたばかりだと言ったね? もしかして、結婚指輪に紅血晶を使わなかったかい?」
 返ってきた回答は、肯定だった。これで、ユメーミルはその化物二体がダンセとエルサであること――正確には、ダンセとエルサであったことを確信する。
「……残念だけど、二人は絶望的だね」
 情報屋と言う立場柄、ユメーミルは紅血晶がその所有者を晶獣(キレスファルゥ)と言う化物へと変異させることを知っていた。そして、全身が結晶に覆われた「プレヌ・リュンヌ」にまで変異してしまった者は、最早人の意志は残しておらず殺すしかない。
 その事実を告げるかどうか――ユメーミルは迷ったが、ユメーミルの問いによって二人が先に真実の近くへと辿り着いてしまった。
「まさか、あの指輪が――」
 そう問われれば、ユメーミルも嘘をついたり隠し立てすることも出来ず、二人の言を肯定する。
「うわあああああああっ……!」
「そんな、そんな……っ!」
 ボロボロと涙を流しながら、二人は悲嘆と悔恨に暮れる。まさか、祝福と期待を込めて用意した結婚指輪が夫婦の運命を最悪に導いてしまうとは!

 ――泣き叫ぶ二人を黙って見守っていたユメーミルは、ひとしきり泣いて多少落ち着きを取り戻した二人から、ダンセとエルサを死なせてやってほしいと言う依頼を受けた。ユメーミルはそれを受け、イレギュラーズ達を集めて送り出した。

●寄り添い合うプレヌ・リュンヌ
 ユメーミルから依頼を伝えられたイレギュラーズ達は、ダンセとエルサの新居へと踏み込んだ。
 そこでイレギュラーズ達が目にしたのは、広い玄関ホールの中央で静かに寄り添い合う二体のプレヌ・リュンヌだった。
 既に人としての意志は存在しないはずなのに、まるで、ダンセとエルサの最期の意志が残っているかのように――。

GMコメント

 こんにちは、緑城雄山です。
 今回は、<昏き紅血晶>のシナリオをお送りします。
 今のラサ、ネフェルストでは、『紅血晶』と言う宝石が流通しています。非常に美しく人気のあるこの宝石は、流通量が少ないため入手が困難で、商人達は躍起になって取り合っています。そして、商家の子息同士のある新婚夫婦が、不幸にもこの紅血晶を結婚指輪に用いてしまい、晶獣(キレスファルゥ)『プレヌ・リュンヌ』と化してしまいました。
 もう人には戻ることの出来なくなってしまったこの新婚夫婦を、どうか永久に眠らせてあげて下さい。

●成功条件
 『プレヌ・リュンヌ』ダンセ、『プレヌ・リュンヌ』エルサ、両方の死亡

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●ロケーション
 二人の暮らす屋敷のホール。広さは40メートル四方。時間は昼間。
 屋内ですが外からの光は十分差しているため、暗視などは必要ありません。
 他、環境に伴う戦闘判定への補正はありません。

●初期配置
 『プレヌ・リュンヌ』ダンセと『プレヌ・リュンヌ』エルサは、ホール中央に寄り添うように立っています。
 イレギュラーズは、ホールの壁の一つの中央にある入口から入ったばかりであるものとします。

●バシギオー夫妻
 夫ダンセと妻エルサの夫婦です。どちらも商家の子息。
 ダンセはバシギオー家の跡取り息子で、性格も良く商才もあって、将来を期待されていました。
 エルサはマシオー家の令嬢で、温和で賢く美しく、使用人達に慕われていました。
 二人は熱愛の末に、両家親族や友人らの皆から祝福されて結婚し、新婚生活を送っていました。
 しかし、結婚指輪を装飾する宝石に『紅血晶』が用いられていたため、『プレヌ・リュンヌ』へと変容してしまいました。

●『プレヌ・リュンヌ』ダンセ ✕1
 『プレヌ・リュンヌ』と化したダンセです。もうダンセの人格は残っておらず、全身が完全に結晶化した怪物と化しています。
 高物理攻撃、高防御技術、高生命力が特徴です。
 
・攻撃能力など
 腕 物至単 【邪道】【崩落】
 薙ぎ払い 物至範 【邪道】【体勢不利】
 盾たる意志の咆哮 神特特 【災厄】【鬼道】【怒り】【呪い】
  自分を中心にR2の距離内に、『プレヌ・リュンヌ』エルサを護ると言う意志を込めた咆哮を放ち、イレギュラーズの攻撃を自分に釘付けにしようとします。
 BS緩和
 【封殺】耐性(大)
 ガーディアン
  『プレヌ・リュンヌ』エルサが至近距離にいる場合、自動的に『プレヌ・リュンヌ』エルサへの「かばう」が成立します。
  この効果は、パッシブで発動します
 巨体
  マーク・ブロックは2人必要
 【飛】無効

・特殊行動:死が二人を分かつまで
 『プレヌ・リュンヌ』ダンセは、『プレヌ・リュンヌ』エルサの側を離れようとしません。
 また、何らかの理由で『プレヌ・リュンヌ』エルサの側から離された場合、全力でその側に戻ろうとします。
 この行動は、【怒り】に優先します。
 『プレヌ・リュンヌ』エルサが死亡した場合、この特殊行動は起こらなくなります。

●『プレヌ・リュンヌ』エルサ ✕1
 『プレヌ・リュンヌ』と化したエルサです。もうエルサの人格は残っておらず、全身が完全に結晶化した怪物と化しています。
 防御技術や生命力は『プレヌ・リュンヌ』ダンセに劣りますが、その分神秘攻撃とEXAが高くなっています。

・攻撃能力など
 矛たる紅き結晶 神特特 【識別】【多重影】【変幻】【必殺】【邪道】【鬼道】【出血】【流血】【失血】【滂沱】
  自分を中心にR2の距離内に、自身の身体から紅く小さな結晶を無数に放ち、辺り一帯に舞わせます。結晶からは紅い魔力の閃光が放たれ、イレギュラーズ達を攻撃します。
 BS緩和
 【封殺】耐性(大)
 リジェネレート・ディボーション
  『プレヌ・リュンヌ』ダンセが至近距離にいる場合、自動的に『プレヌ・リュンヌ』ダンセのHPが毎ターン回復します。
  この効果は、パッシブで発動します
 巨体
  マーク・ブロックは2人必要
 【飛】無効

・特殊行動:死が二人を分かつまで
 『プレヌ・リュンヌ』エルサは、『プレヌ・リュンヌ』ダンセの側を離れようとしません。
 また、何らかの理由で『プレヌ・リュンヌ』ダンセの側から離された場合、全力でその側に戻ろうとします。
 この行動は、【怒り】に優先します。
 『プレヌ・リュンヌ』ダンセが死亡した場合、この特殊行動は起こらなくなります。

 それでは、皆さんのご参加をお待ちしています。

  • <昏き紅血晶>運命捻じ曲げし結婚指輪Lv:30以上完了
  • GM名緑城雄山
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年02月25日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
高貴な責務
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
タイム(p3p007854)
女の子は強いから
観音打 至東(p3p008495)
ロウラン・アトゥイ・イコロ(p3p009153)
マリオン・エイム(p3p010866)
晴夜の魔法(砲)戦士

リプレイ

●新婚夫婦の悲報を聞いて
「紅血晶が用いられた結婚指輪、ですか……」
 ロウラン・アトゥイ・イコロ(p3p009153)が、呻くようにつぶやいた。
 情報屋からロウラン達イレギュラーズが聞かされたのは、紅血晶で飾られた結婚指輪を着けた新婚夫婦が晶獣「プレヌ・リュンヌ」に変化してしまったと言う事実と、その夫婦を死なせてやって欲しいと言う二人の父親からの依頼だった。
「紅血晶か。最近キナ臭いと思って追いかけていたら……まさかこんなことになっているだなんて」
「知らずに売り捌かれた分や告知の遅れた分は、力及ばず……ということ、ですね」
 『若木』寒櫻院・史之(p3p002233)が、沈痛な面持ちで言う。ロウランは、ガクリと項垂れた。
 最近ネフェルストに流通し始めた宝石である紅血晶は、その所有者を晶獣(キレスファルゥ)へと変異させる。その中でも最終段階であるプレヌ・リュンヌにまで至った者は、最早人の意志は残っておらず、殺してやるしかない。
 ローレットは紅血晶を巡る事件を幾つも解決し、その中からは史之の様に紅血晶を怪しんで追う者も現れていた。その中で、その手からこぼれ落ちた命があるとなれば、無力感に苛まれるのも仕方のないところだろう。
「あの宝石を贈った両家は、どんな思いでいることだろう?
 大事な我が子がプレヌ・リュンヌに変化してしまったと知った時の衝撃たるや……」
「純粋に祝っていたが故に、罪悪感も強いことでしょう……」
 自分達が贈った指輪によって息子夫婦がプレヌ・リュンヌへと変貌したことを知った、バシギオー家とマシオー家の家長達の胸中は如何ばかりか、と史之が口にすれば、ロウランが推察を交えた答えを返す。
「……幸せを祈って贈ったもんが子供を化け物にしちまうなんざ、やりきれねえな」
 両家の家長の心中を慮った『竜撃』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)が、ぐっ、と強く拳を握りしめ、歯をギリ、と軋ませながら言った。ルカとしては、誰かに害を及ぼさないのであれば、プレヌ・リュンヌと化した新婚夫婦をそっとしておいてやりたいとも思う。だが。
「化け物になった子供がずっといるのも、両親からすりゃつれぇだろうからな」
 ならば、両家の家長の依頼を叶えてやろう。そう、ルカは意を決した。
「自らの財力に物を言わせて用意させた結婚指輪が、こんな事態を招くなんて悲劇もいいところね。
 本人達は固辞してたってのが、本当、救えない……」
 紅血晶は入手困難であったが、両家の家長達は次代への祝福と期待を込めて、敢えて紅血晶を入手し、結婚指輪に用いた。この場合は不幸にも、と言うべきであろう、両家にはそれを可能にするだけの財力があった。
 『高貴な責務』ルチア・アフラニア(p3p006865)の言うように、本人達が「そんな高価な物は」と固持していた事実が、救えなさをさらに増している。
「――人に戻す力がない以上、殺めてしまうしかないから。せめて、天国では幸せになって欲しいものだわ」
 そう、ルチアはボソリと漏らした。
「二人のこれからの人生は、明るいものであったはずなのに。
 何の罪のない人達が どうしてこんな目に合わなきゃいけないの? ねえ……」
 『この手を貴女に』タイム(p3p007854)は目尻に涙を浮かべながら問いを口にする。その目からは、今にも涙がこぼれ落ちてしまいそうだ。だが、その問いに答える者は――答えられる者は、いなかった。

 ともかく依頼を受けたイレギュラーズ達は、新婚夫婦の新居へと向かう。その玄関ホールでイレギュラーズ達が目にしたのは、かつて新郎ダンセと新婦エルサだった、二体のプレヌ・リュンヌ。全身が結晶化しており、もう人の心は残ってはいないはず――だが、二体は変異する前の夫妻の仲の良さを再現するかのように、静かに寄り添い合っていた。
「……こういうの、心を奪われるほど進行が早いもんですし。
 結婚指輪ともあれば、尚更かしら……のめり込みすぎるのも、無理はないわね」
 『夢の女王』リカ・サキュバス(p3p001254)が、苦虫を噛み潰したような表情になる。この夫婦の変異の進行は、他のケースに比べて明らかに速い。リカの言う様に、指輪が互いの愛の証であることが紅血晶の影響を加速させたのは、疑いない。
(もとより私は、伴侶のいる人から精気は奪わない質だけど……ま、『どうか、お幸せに』)
 内心で、リカはダンセとエルサだったプレヌ・リュンヌにそう声をかけた。
(うん。色々思うことはあるし、後味も悪いだろうけど……)
 複雑そうな表情を、『双影の魔法(砲)戦士』マリオン・エイム(p3p010866)は浮かべる。実際、マリオンの心中には複雑なものがあった。だが、今は戦うことに、ダンセとエルサを解放することに集中しなければならない。
 マリオンは、二本の魔術杖『青空式マリオンさんアイテムⅠ』をそれぞれの手に握りしめ、この後の戦闘に向けて意識を集中した。
(……平常心、平常心だ。あの二人は最早、終わらせてあげるのが、慈悲だ)
 二体の姿を見て、史之の胸の内には、ざわざわとした感情が湧き起こる。それを感じた史之は、深い呼吸をしつつ、その感情を抑え込んだ。
「この観音打至東、夫婦斬りは初めてで無く、またしくじりの一つも無し。
 悲運を嘆くのも、無力に喘ぐのも、後の楽しみにいたしましょうや」
 『刹那一願』観音打 至東(p3p008495)は、そう言うと楠切訃墨村正『塵仆』、『眩偃』の大小二振りを、鞘から抜いた。そして。
「――いざ」
 ダンセとエルサだったプレヌ・リュンヌに、刃を向けた。

●盾たる夫、矛たる妻
「オオオオオオオ――!!」
 元ダンセのプレヌ・リュンヌが、咆えた。ホール中に響き渡ったその咆哮に込められているのは、元エルサのプレヌ・リュンヌを護らんとする意志。その咆哮に、リカ、ルチア、タイム以外のイレギュラーズは元ダンセのプレヌ・リュンヌへの強烈な敵意を煽り立てられた。
 次いで、元エルサのプレヌ・リュンヌが、自身の身体から無数の紅く小さな結晶を放ち、辺り一帯に漂わせる。紅血晶を思わせるその結晶からは、紅い魔力の閃光が放たれ、イレギュラーズ達全員を攻撃せんとした。
 そこでリカが『アトラスの守護』を使いつつ、仲間達の盾にならんとする。アトラスの守護の力により、イレギュラーズ全員を襲うはずの紅い魔力の閃光は、全てリカへと集中した。
「あえて言わせてもらうわね、穢れている夢魔だからこそ……あなた達、とってもキレイよ?」
 全ての紅い魔力の閃光を一身に受けたリカは、紅血晶への当てつけを込めて、二体のプレヌ・リュンヌに向けて告げた。
「みんな、冷静になって! あの叫びに、乗せられないで!」
 聖女の心を自身に宿したルチアは、元ダンセのプレヌ・リュンヌに敵意を抱いた仲間達に号令と化した言霊を放つ。その言霊を耳にしたイレギュラーズ達の心からは、元ダンセのプレヌ・リュンヌへの敵意は欠片も残らずに霧散。敵意に囚われていたイレギュラーズ達は、我に返った。
(愛し合う二人を引き離すことなんて、できやしないよ。二人を分かつものがあるとすれば、死、だけだ)
 自身もまた伴侶と愛し合う者であるだけに、史之は二体が寄り添うのを理解してしまう、出来てしまう。ならば、まず正攻法で元ダンセのプレヌ・リュンヌから倒すまでだ。史之が放った敵の動きを封じる邪剣の一閃は、元ダンセのプレヌ・リュンヌの身体にザックリと深い傷を刻んだ。だが、動きを止めるまでには至らない。
(二人の人格は残ってないはず。なのに……)
 二体のプレヌ・リュンヌが寄り添い合い、互いを守り合おうとする姿に、タイムはやるせなさを感じてしまう。
「でもいいわ、それがあなた達の愛情の証なら。二人一緒に、相手をしましょう」
 そう告げながら、タイムは二体の敵意を自身へと引き付けようとする。二体は確かにタイムに敵意を抱いたが、それでも互いから離れる様子は見せなかった。
「ああもう、殿方というものは……。
 何でこう見栄貼りたがりと言うか、自分の背中をアピールポイントだとても思っているんですかネ。
 ――ええ、大当たりです。そういうところ、大好きでした」
 元エルサのプレヌ・リュンヌを守ろうとする元ダンセのプレヌ・リュンヌに、至東はかつての夫獅子郎の姿を重ねていた。
「ともあれ――格好良すぎるので、どうぞ疾く死んでくださいまし……ひとひらに、三度殺して、余り無し……」
 抜刀の『枯れ芙蓉』、走刀の『桜筏』、納刀の『落ち椿』。至東の放った三位一体の斬撃が、元ダンセのプレヌ・リュンヌを襲う。元ダンセのプレヌ・リュンヌには、三つの斬撃の痕が深々と刻まれた。
(元ダンセが元エルサの盾となるなら、元エルサを巻き込むように元ダンセを狙えば、元ダンセを盾にさせることなく元エルサにダメージを通せる?)
 そう期待しつつ、マリオンは元エルサのプレヌ・リュンヌを巻き込める位置に移動しながら、零距離で元ダンセのプレヌ・リュンヌに収束性を高めた魔力の砲弾を撃った。
 だが、結果はそうはならなかった。元エルサのプレヌ・リュンヌが魔力の砲弾の射線に巻き込まれたと察した元ダンセのプレヌ・リュンヌは、盾となってそれを食い止めた。魔力の砲弾は盾となった元ダンセのプレヌ・リュンヌの身体を大きく穿ったが、元エルサのプレヌ・リュンヌへと貫通することはなかった。
(駄目かぁ。けど、仕方ないね! どんな姿になっても、愛の力は凄いから!)
 そう割り切ったマリオンは、とにかく元ダンセのプレヌ・リュンヌに魔力の砲弾を叩き込み続けることにした。
「息ぴったりで、離れたがらない……比翼連理ということですか。
 しかし、私たちはあなた方を倒す者。戻れずとも残されたその習性、利用させてもらいます……ごめんなさい」
 そう告げつつ、ロウランが蒼い衝撃波を元ダンセのプレヌ・リュンヌに放つ。衝撃波は命中し、マリオンに穿たれた場所をさらに深く穿った。だが、元ダンセのプレヌ・リュンヌの巨体が元エルサのプレヌ・リュンヌの側から弾き飛ばされることはない。
(あぁ、そりゃあそうだ。妻を傷つけられるなんざ、我慢ならねえよな)
 ルカは、元ダンセのプレヌ・リュンヌの動きに納得し、共感さえ抱いていた。元ダンセのプレヌ・リュンヌは、元エルサのプレヌ・リュンヌの側で盾で在り続けようとしている。しかも、この二人を引き離すことは不可能であるように思われた。
(……戦いとしちゃあ厄介だが、こいつらを引き離さずにすんだのは安心しちまうな)
 微かに唇の端を吊り上げながら、ルカは得物――魔剣のレプリカに、禍々しい闇と呪いを纏わせた。そして、横薙ぎに一閃。ルカの一閃は横に深く元ダンセのプレヌ・リュンヌを斬り裂き、その身体を闇で包み、その生命力を蝕んだ。

●盾は斃れた
 イレギュラーズは、まず早々にロウランが深手を負った。そのロウランの戦闘不能を避けるため、リカが身を挺して盾になる。次いで、マリオン、至東、ルカも深手を負い、ルチアとタイムは戦闘不能者が出ないよう回復を行うので精一杯となった。
 一方、元ダンセのプレヌ・リュンヌの方もまた、身体中に傷を負い力尽きようとしていた。如何にその護りが堅牢とは言え、イレギュラーズ複数からの攻撃に何時までも耐えきれるものではない。また、傷を負うほど攻撃の威力が上昇するルカが敢えて自身への回復を最小限にするよう要請したことと、元エルサのプレヌ・リュンヌからの癒やしがルカと史之によって妨げられた事も大きかった。

「――もう、ダンセの方は限界だ。あと一押しで、行ける!」
 史之は黒き大顎を喚びながら、仲間達にそう告げた。得も言われぬ感情が、その声を震わせていた。
 大顎は、ガブリと元ダンセのプレヌ・リュンヌの脇腹に食らいつくと、その身を大きく食い千切る。限界に近いダメージに、元ダンセのプレヌ・リュンヌは大きくグラリとふらついた。
「こんなもん……お前らの痛みに比べりゃあ、何の事もねえ!!」
 剣の柄を握りしめ、重傷に至っている傷の痛みなどどうと言うことはないと、ルカが咆えた。そして、あらん限りの力を振り絞って、その刀身を元ダンセのプレヌ・リュンヌの胸部に突き立て、背中まで貫き通す。
「助けてやれなくてすまねえな。俺にはこんな事しか出来ねえ……許せよ」
 ポツリと呟きながら、ルカは刀身を元ダンセのプレヌ・リュンヌの身体から引き抜く。すると、元ダンセのプレヌ・リュンヌの身体がゆっくりとスローモーションのように、床へと倒れていった。
「アアアアアアア――!!」
 それを見た元エルサのプレヌ・リュンヌは、悲鳴のような絶叫をあげた。その叫びには、言い尽くせないような悲哀が満ちていた。同時に、全身から無数の紅く小さな結晶を飛散させる。その結晶のそれぞれから紅い魔力の閃光が放たれ、ホール中を覆い尽くす。
「伴侶を殺されて、怒ったかしら? その怒り、遠慮なくぶつけてきなさい。でも、ロウランちゃんはやらせないわよ」
「ごめんね……ここで退く訳には、いかないから」
 リカが毅然とした態度でロウランを、タイムが申し訳なさそうにしながらルカを、身を挺して盾となり護る。ロウランもルカも、ここで戦闘不能にさせられるわけにはいかない。特に傷を負ったことにより威力の上がったルカの攻撃は、引き続き元エルサのプレヌ・リュンヌと戦うにあたり欠かすことは出来ないものだった。
 とは言え、タイムは一方で(もう、男の人ってどうしてみんな無茶するのかしら!)とも思う。
 至東、マリオンは可能性の力を費やす寸前まで追い込まれた――が。
「誰も、倒させはしないわ」
 ルチアの施した癒やしによって、至東とマリオンの傷はある程度癒え、その身体中から流れ出る血も止まった。
「この苦界に家を見つけられたこと、謹んで寿ぎを申し上げます。
 たとい命を、心を、魂を喪われましょうとも、それは永劫変わりませんヨ。
 など、など。礼儀として言いましたが、娑婆では聞き飽きましたでしょう。
 わかります――二人きりになりたいのでしょう。どうぞ疾く死んでくださいまし」
 至東はそう告げながら、残された元エルサのプレヌ・リュンヌに、観音打三劫流の三位一体の斬撃を浴びせた。結晶に覆われた元エルサのプレヌ・リュンヌの身体に、三つの斬撃の痕が刻まれる。
 夫婦の片方だけが生きる時間は、余人が思うより辛い。至東は、そう考える。ならば、せめて速やかに、タイムラグ少なく双方とも死なせたいところだ。
「――私は、死人に何を言っているのでしょうね――。答えなど望むべくも、ないのに」
 納刀を終えた至東は、はたと何かに気が付いたように、自嘲気味につぶやいた。
(この世界の魂が、どこへ行くかは知り得ませんが……願うならば来世にて、再び巡り会えますように)
 そう願いながら、ロウランは不可視の刃で元エルサのプレヌ・リュンヌに斬りつけた。不可視の刃は、元エルサのプレヌ・リュンヌの身体を徹底的に斬り刻んだ。
(まだ……まだ、終わりじゃない)
 魔力の砲弾を撃つ気力が枯渇したマリオンは、魔術杖を剣へと変えて、雷霆の如き突きを放つ。刀身が、元エルサのプレヌ・リュンヌの身体を深々と貫いた。

 盾役たる元ダンセのプレヌ・リュンヌを喪った以上、元エルサのプレヌ・リュンヌはイレギュラーズの攻撃に長く耐えられるはずもなかった。元エルサのプレヌ・リュンヌからの攻撃は熾烈だったが、やがて力尽き、元ダンセのプレヌ・リュンヌに寄り添うように斃れていった。

●二人の葬儀
「ごめんね……」
「紅血晶をばらまいたやつらは、必ずぶちのめす。安心して眠れ」
 史之とルカは、二人の結婚指輪から紅血晶を回収すると、紅血晶を粉々に砕いて結婚指輪は二人に戻した。

 二人の遺体は、両家に引き渡された。その際、墓碑銘だけでは足りない、記憶と記録に残すためにと言う至東からの提案を受け、二人の葬儀が盛大に行われた。イレギュラーズ達も、その葬儀に参列する。葬儀に参列した両家の親族、友人知人達は皆、ダンセとエルサを襲った運命を、嗚咽を漏らして悲しんだ。
(死を以てしても二人を分かつことにならなかったのは、せめてもの救いかしら)
 そう思うタイムだったが、そんなのはただの綺麗事と自分でわかっている。本当は、生きていて欲しかった。
 誰が悪いわけでもない悲劇に、気持ちの行き場所を無くしたタイムは、喪服の裾をぎゅうと握りしめた。
(許せません……紅血晶も、その悪質極まりない性質も……! 作った者が、ばら撒いた者が!
 魔石は、こんな呪われた物ではないはずなのに……!)
 魔石師であるロウランにとって、紅血晶によって引き起こされた悲劇への憤りとやるせなさは一際強い。
(その意志の残滓……魂を、私の胸に留めて置きましょう)
(……せめて、天国で二人幸せにね)
 リカとマリオンも、それぞれの想いを胸に、ダンセとエルサを見送った。
(この紅血晶の諸々、きっとわれらローレットが解決いたしましょう)
 至東は、内心でそう誓った。

 二人の遺体は、同じ墓所に葬られた。タイムは、両家の許可を得てその墓所にスターチスを植えた。
 もうすぐ来る春には、きっとスターチスが綺麗な花を咲かせてくれることだろう――。

成否

成功

MVP

ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き

状態異常

ルカ・ガンビーノ(p3p007268)[重傷]
運命砕き
観音打 至東(p3p008495)[重傷]
ロウラン・アトゥイ・イコロ(p3p009153)[重傷]
マリオン・エイム(p3p010866)[重傷]
晴夜の魔法(砲)戦士

あとがき

 シナリオへのご参加、ありがとうございました。二体のプレヌ・リュンヌは皆さんによって斃され、ダンセとエルサとして共に葬られました。
 MVPは、【復讐】によりプレヌ・リュンヌに与えるダメージを増大させて撃破を早めたとして、ルカさんにお贈りします。

 それでは、お疲れ様でした!

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