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シナリオ詳細

<昏き紅血晶>片恋のラムル

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●恋をした亜竜種
 康・有存は恋をした。覇竜領域デザストルに存在する亜竜集落フリアノンの出身である彼は、初めてイレギュラーズが集落に訪れたときに一目惚れをしたのだ。

 フリアノンでは代々介護や医療を担当していた康の一族の三男坊であった有存は所謂『将来に何ら期待をされていない存在』だった。
 兄達が賢く立ち回れば立ち回るほどに肩身が狭くなり、学ぶことを諦めてしまった。
 家族は甘やかした。可愛い有存。末の息子であった彼を愛で慈しんだ家族達は彼が竜骨の道を通じてラサを目指すと言ったときに驚いたことだろう。

 ――好きなヤツが出来た。家に居たって三男じゃどうしようもないだろ。技術だけ教えてくれ、出てってあの娘に見合う男になる。

 そんな宣言をした有存に家族達は笑った。直ぐに諦めて帰ってくるだろう、と。
 だが、彼は粘り強かった。ラサを拠点に活動するエルス・ティーネ(p3p007325)はネフェルストで活動すれば時折その姿を垣間見ることが出来たからだ。
(今日もエルスは頑張ってるんだな。オレ――いや、俺様も、アイツに惚れて貰う男にならなくちゃな)
 努力を積み重ねた青年を拾ったのは『宵の狼』と言う傭兵団であった。団長ベルトゥルフの下で有存は懸命に働いた。
 然うして得た医療技術を以てエルスの為に役立てると――

「アソン、頼みてェ事がある」
「何スか? お遣い?」
「ああ、そうだ。『紅血晶』ってのを買ってこい」
 金を幾許か投げ寄越したベルトゥルフに有存は大きく頷いた。
 ネフェルストの市場なら、屹度、エルスに会える!
 そんな希望と、馬鹿みたいな片恋を拗らせて青年は市場へと飛び出した。
 その石の効果も、愛しき彼女の恋心の向く先も、未だ知らないまま。


「何だか変な石が出回っているのね」
 ラサの市場に『紅血晶』と呼ばれる奇妙な宝石が出回っているとの一報を受け、イレギュラーズは調査を開始していた。
 ルカ・ガンビーノ(p3p007268)とエルスと共にネフェルストの市場にやって来たのは『亜竜姫』珱・琉珂 (p3n000246)である。
「こういう時はちゃんと調査をしておかなくっちゃ、交易路から覇竜領域に入り込んだら大騒ぎよ」
 良く分からない石を竜種が食べたりしたら、などおっかないことを考える琉珂へルカは頷いた。
 その前にさっさとラサ内部で食い止めてやらねば、宝石が各地に広まれば大事件だ。商いにも大きな影響を与えることは想像に易い。
「何処から調査――って、あれ、有存!」
「姫?」
 有存の姿を見付け琉珂は「おーい」と手を振った。同じ亜竜種、そして琉珂は里長だ。
 康家の三男坊とは年齢も近く、幼馴染みに近い関係性である。そう言えば、里から飛び出していったと聞いたか……。
「……あら、何時かの時にフリアノンで遭った……」
「エッ、姫がどうしてこの娘と……」
 思わず『エルス』と脳内で呼んでいる名を呼び掛けてから取り繕った有存は「俺様は有存だ、宜しくな」と胸を張った。
 挨拶はそこそこに彼は紅血晶を買ってくるように頼まれたと告げる。
「今、寄せて貰ってる傭兵団の遣いだ。姫達も探してるのかよ、『紅血晶』」
「ああ。それがどうやら曰く付きの品でな。出来れば何事もないように回収しておきたいんだが――」
 それは困ると有存は声を上げた。さっと背中に隠したのは先に購入した紅血晶だろう。
「流石に俺様も傭兵団での立場がある。
 申し訳ないがこれは譲れねぇ。例え、姫の頼みでも、そこのエルスの頼みでも、だ。……あと、力尽くは止めてくれ、兄ちゃん」
 力尽くで奪うしかないかと考えたルカの思考を読み当てたように有存は先んじてそう言った。
「どうしてもダメ?」
「――ッ、駄目」
 エルスを見てたじろいでから有存は首を振った。そうして走り出す。
 これは渡せないと逃げ出す彼を捕まえて紅血晶を回収しなくてはならない。それが彼や『お遣いを頼んだ存在』に大きな影響を与える可能性があるからだ。
「追うぞ」
 ルカは人混みに紛れた有存を追掛ける。
 彼は未だ知らない。有存が『宵の狼』に所属していることも。彼を遣いに出したのがルカにとっての古い馴染みであることも――

GMコメント

●成功条件
 康・有存から紅血晶を譲り受ける。

●ラサでの鬼ごっこ
 ネフェルストの市場を一生懸命に有存は逃げ回っています。
 人が多く、ごった返していますので、非戦闘スキルを使用するなどをして彼の居場所を突き止めましょう。
 彼は紅血晶を2-3個購入するつもりのようです。皆さんから逃げながらも紅血晶を購入できそうな商店を探しています。
 ネフェルスト内部は非常に煩雑としており、特にこのサンドバザールは地図と呼べるモノはありません。
 地の利があれど、毎日露天が変わってしまうので見慣れた景色とも呼びにくいかも知れませんね。

●康・有存
 アソン君。フリアノン出身の亜竜種。エルスさんに一目惚れして『宵の狼』にて医術士として活動して居ます。
 今回のお遣いはボスからの指令ですので、これを成功させれば組織内での立場が上がるはずだと必死です。
 早く立場を上げてエルスさんに似合う素晴らしい男になる事が有存の目的です。世間知らずなのでエルスさんがディルク様をお好きなのは知りません。
 ちょっと後ろ暗い品であってもボスからの要望なら仕方がないのです。逃げ回っていますので、とっ捕まえて下さい。
 戦闘能力はとても低いのでとっ捕まえて殴れば今回は引き渡してくれるでしょう。
(有存の所属している傭兵団『宵の狼』はルカ・ガンビーノさんの幼馴染みにあたる青年が結成したものです。
 最近は、幹部同志で内乱が起きている……という噂がラサでは聞こえてくるようですが……)

●ネフェルストの商人達
 情報を提供してくれるかも知れませんがとても客引きが上手です。
 ある意味で彼等が障害になるかもしれません。引き留めて、品を売りつけようとしてきます。
 出来るだけ戦闘行動を起こさずに穏便に躱して下さい。
 非戦闘スキルで言いくるめるとか、姿を見られないように気を配るとか……。

●同行NPC 珱・琉珂
 フリアノンの里長。有存のお友達です。明るく元気、ポンコツ。
 商人に滅茶苦茶引っ掛かります。「助けてー!」と皆さんの名前を呼ぶので出来るだけ面倒を見て、捜索の障害にならないように配置してあげて下さい。
 ある意味彼女自身も探索の障害みたいなものです。声が大きい! 目立つ! ポンコツ!

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <昏き紅血晶>片恋のラムル完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年02月14日 20時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
リリー・シャルラハ(p3p000955)
自在の名手
シャルロット・D・アヴァローナ(p3p002897)
Legend of Asgar
メイメイ・ルー(p3p004460)
祈りの守護者
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女

サポートNPC一覧(1人)

珱・琉珂(p3n000246)
里長

リプレイ


『竜撃』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)自身は色恋沙汰に鋭いわけではないが、それでも自身等の前から逃走した康・有存は分かり易すぎる。
 存外、気付いて居ないのは『デザート・プリンセス』エルス・ティーネ(p3p007325)位なものかもしれないが――分かり易すぎる恋する青年は自信の名声を高めて片恋の相手であるお姫様のお眼鏡に適う男になろうとしているらしい。
 その気持ちは否定はしないが、対抗馬が『ディルクのアニキ』というのは同情するしかない。
「あらあら……なんだかこれは、気になる恋のお話でがありそうですが…それはさておき、です。
 紅血晶。吸血鬼の事件もありましたが、これは血の結晶……か、どうかは不明ですが、回収しないといけませんね」
 端から見れば紅玉のような美しさ。そして宵闇のような心惹く気配をさせる代物だ。『未来への葬送』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)は気になる『紅血晶』の全てを紐解くためにも確保せねばならないと考える。
「なんというか、なんというかだな。実らぬ恋を傍目から見るのって何とも言えない気分だよ」
 やれやれと肩を竦める『陰性』回言 世界(p3p007315)にエルスは首を傾げた。一体誰の話をしているのだろうと言いたげだ。
「いや……一先ずエルスティーネ、彼をキッチリ確保する……んだが、この人混みは苦労しそうだ」
「え、ええ、そうね……?」
 フリアノンで出会った有存がどうしてこんな所に居るのだとエルス自身は不思議に思うだけである。彼が持っていた宝玉が話題の代物で間違いないという事の方が大いに気がかりではあるのだが。
 気が弱そう――その時点で評価は可哀想だ! 何せ彼女の好んだ男とは真逆の評価なのだ――な有存はお遣いで宝石を探している。その手から取り上げるのは気が引けるが取り返しの付かない事になってはならないとエルスは決心した。
「あちらも、こちらも、子供の使いでは、ない。譲れるというなら、奪うまで、だ」
 彼から無理に奪わねばならない、というのは彼にとってもそれが仕事であるからだ。傭兵団の一員である以上、有存の行いを言葉で糺すことはできないと『矜持の星』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)は理解していた。危険だからといって手を引くなどいっぱしの傭兵には有り得やしないからだ。
「有存さん……うん、とっ捕まえようか。……イレギュラーズ、舐めないでねっ。ちょーっとリリーも本気、出そうかな?」
 唇を三日月の形に歪め、『自在の名手』リリー・シャルラハ(p3p000955)は『仲間たち』を呼び出した。ファミリア―達が居れば包囲網も自由自在である。
「それにしても、お遣いで紅血晶ね……。調達を命じた側も受けた側も物の危険性を知った上でのお遣いなのかしら?」
 それが危険であれども『傭兵は金次第』と判断するべきなのだろうか。『Legend of Asgar』シャルロット・D・アヴァローナ(p3p002897)はわずかに首を引いてから悩まし気に眉を寄せ――「まぁいいわ。力づくはダメの鬼ごっこ、始めましょうか」
「ところで私は思うのだけど、釣り合う人間になる過程で釣り合いたい相手に嫌われたら元も子もないんじゃない?」
「めぇ……きっと、お役目を、果たしたいのでしょう……。あちらも、仕事、ですし、それはわかるのです、が……どうにかして、譲っていただかなくては……」
 困り切った様子の『ちいさな決意』メイメイ・ルー(p3p004460)の傍で元気すぎる『亜竜姫』珱・琉珂 (p3n000246)は「外で認められたいなら仕事をこなすべきだものね、汚れ仕事だってなんでも。それにこの程度じゃ好悪も変わらなさそう?」と首を捻った。
 琉珂でさえも分かる程度の分かりやすさだ。思わずずっこけそうになるルカは「……まあなあ……」と渋い表情を見せた。


 リリーとメイメイのファミリア―が市場の上を旋回している。市場には動物も多くそれほど危険視はされないことだろう。
「琉珂、はしゃぎすぎて落ちるんじゃねえぞ」
 声を掛けたルカに「大丈夫よ~!」と手を振っている琉珂は危なげな雰囲気を醸し出している。
「ああ、琉珂。お前も一緒に乗るといい。視力も強化しているとは言え、マリアも目は二つしか無い。
 一緒に探してくれれば、助かる……空なら、邪魔になりようもないし、な。落ちないよう、しっかり掴まれ」
 ――つまりは、彼女自身が大騒ぎで邪魔になるから『空』できちんと役目を果たせという事である。エクスマリアと共に琉珂が有存を探すというのは寧ろ、丁度良い。有存と琉珂は旧知の仲だ。琉珂は友が好きであることから、そうした索敵には向いてはいた。
「エクスマリアさん」
「どうした」
「有存、商人さんを探してあるだけ買おうとしてるのかしらね」
 うろうろとして人波に飲まれていく有存を見付けた琉珂にエクスマリアは「らしい」と囁いた。皆は伝達に頷き有存を探し始める。
 人波に飲まれてしまったのならば小柄なリリーの出番だ。屋根や路地、物陰を移動しながらアクロバティックに探し求める。
 紅血晶は其れなりに流通量が絞られていることもある。購入しようとするならば何かのツテか情報が必要だろう。
「いらっしゃい! いらっしゃい!」
 声をかけ続ける商人に気付きルカは手を振る。商人は気付いたようにゴマをすりながら『クラブ・ガンビーノ』の青年に声を掛けてきた。
「紅血晶なら買うぜ! それか紅血晶を売ってるやつの情報だ! ラサの商人なら相手がほしいもん用意しろよな!」
「あっちに同じようなこと聞いた兄ちゃんがいたなあ」
 商人が指差せば、ルカと世界の視線の先に青年が立っている。有存はびくりと肩を跳ねさせた。
「待ちなニーチャン! ちっとばかし話をするだけだ!」
「ルカさん、悪人みたーい!」
「琉珂、騒ぐな!」
 上からきゃいきゃいと騒ぐ亜竜姫にルカが肩を竦めた。マリエッタはこれは明らかに不利な状況で――しかも上から琉珂がバッドステータスめいて声を掛けてくるのだ。
(……どうにも……琉珂さんにこっちが気を取られてはいけませんね……)
 騒いでくれているならば有存も琉珂には釘付けだろう。ルカと琉珂、エクスマリアから逃げていく有存が離れた隙にマリエッタは穏やかに商人へと声を掛けた。
「実は先ほど、売り物とは異なる商品を間違って買ってしまった男の子がいまして。
 どうにか彼が買った紅い結晶を回収してあげたいのですが……その、プレゼント用らしくて結構先走っていまして。
 皆さんにご迷惑をおかけしてしまいますが、どうか協力してくれません? うまく行きましたら、懇意に商品を見に行かせてもらえれば……と」
 イレギュラーズであるマリエッタはちら、とわざとらしくエルスを見遣った。彼女がいる以上はその言葉に信憑性はある。
 流石は『デザート・プリンセス』だ。マリエッタの案に協力しながら、世界は敢て、エルスの存在をアピールし、邪魔をしないでくれと声を掛けておいた。
 つまりは、有存に売ることはなく自身らが『レア物』を手にしてなんとか落ち着かせてやりたいという事である。
 精霊達を一先ず配置していた世界は有存が店先に訪れたら声を掛けるようにと指示をしていた。
「エクスマリア、今現在の有存は?」
「琉珂が、騒いでいる、から逃げている、な」
 世界は「こういうのを漁というのだろうか」とぼやいた。思わず吹き出したくもなる里長の大暴れの隙を付いて、リリーやメイメイが回り込んでいく。
(……わたし、も、良いカモ、に見られてしまいそうです、ね……)
 商人達は気弱にも見える羊の娘には強気に出る可能性がある。せめて、赤い宝石の情報だけでもとは願うが呼び止められると話しは長引いてしまいそうであった。
 しかし、追い込み漁は十分な成果を発揮しているだろう。シャルロットはギフトで呼び出した精霊シルキーに鬼ごっこをしましょうと声を掛けた。
 謎の精霊に追掛けられでもすれば未だ世間知らずの亜竜種の青年は慌てることだろう。
「それにしても……紅血晶は本当に流通量を絞っているのね。其れなりにレアリティを上げた方が売れ行きが良いと言うことかしら?」
「屹度、その、希少性が……興味をそそる、のでしょうね……。
 余りに、手に入らない方、が興味をそそりますし、其の儘、人気にさえなれば『流通元』の、一人勝ち、です」
 商人のことを思いメイメイはふと、そう呟いた。メイメイ自身にそのような商才があるわけではないが人間の欲というのは分かり易い。
 有存が血眼になって探し求めている上に、其れを手にすれば『組織内でもランクがアップするはずだ』と思わせる程度の希少性。
 彼にお遣いを頼んだボスというのもその希少性に惹かれたか――それとも……。
「釣り合う人間になりたいからこそ、と躍起になって手にしたい宝物。さぞ、素晴らしい物なのでしょうね」
 それがどれ程に悪辣なものであれども、人間は欲しがれば欲しがるほどに躍起になる。
 シャルロットは静かに呟いてから物陰からひょこりと顔を出したリリーに気付いた。
「あっちに向かったよ! ……って、上を見れば分かり易いかな?」
 リリーが指差せば上空で琉珂が「有存! 待ってー!」と騒ぎ続けて居る。エクスマリアは寧ろ彼女の好きにさせながら追い込み漁を楽しんでいるようでもあった。
「商人さん達は協力してくれそうです。アルパレストにもある程度通達は出来てます」
「ああ、彼方の依頼だ。協力は惜しまないだろうな」
 紅血晶による被害が増えた方が恐ろしいことを翌々分かって居るからなのだろう。ファレンもフィオナも協力は惜しまないはずだ。
 追掛けながらもルカは「それにしても、しぶといな」とぼやいた。上空の琉珂が騒ぎ続けて居ることも凄いが其れから逃げる有存のタフネスも天晴れである。実際の所、奪い取っても良いのだが相手が何処かの傭兵団に所属しているというならば無用なもめ事は避けて置いた方が良い。
 何せ、市場がこの様な状態だ。出来るだけ敵対しないで友好的に接する傭兵団が多くあった方が窮地には有用な動きが出来るからだ。
「あそーーーーん!」
 叫ぶ琉珂の声を聞きながらエルスは肩で息をし「有存さん!」と呼び止めた。
「待って!」
「エルス――さん、どうして止めるんだよ。俺様もコレが仕事なんだぜ」
 振り向いた有存は気付いた頃にはイレギュラーズに追い込まれていた。相対したエルスが肩で息をし呼び止めた事に『ちょっとしたシチュエーション』を想像して耳の先が赤らむ。
「……こほん、例え、オマエの頼みであっても聞けな――聞けねぇな」
「けど、それはとっても危なくって……」
 エルスは静かに声を掛ける。リリーが何時でも攻撃できると状況を観察していることに有存はまだ気付いて居ない。
 袋に紅血晶を詰め込み、警戒を露わにして居るのみで、ある意味体はがら空きだ。
「紅血晶はやべえ代物だ。そいつを所有したやつが化け物に変わっちまったらしい」
「それは噂だろ!?」
 有存が声を荒げ逃亡を図る。嘘だと思うならばパレスト商会にと合わせろと告げるルカに有存はぐう、とたじろいだ。
 ラサで働いている以上、パレストの名は避けて通れるものではないからだ。
「逃げても無駄、だ。上司申し訳が立たないと言うならそこも含め、こちらで話をつけてもいい。お前の手にしている石は、とても危険、だ」
「そういわれて止まるかよって!」
「無駄、だ」
 エクスマリアがずいずいと進んでいく。有存を包囲していたリリーが上空から姿を現し、行く手を遮るようにシャルロットが嘆息する。
 追い詰められている。後方に下がろうともルカと琉珂が見えている。何やら楽し気な里長はこの際頼りにならない。
(俺がどうして康の家を出たか気づいてんだろ、おひい様!)
 叫びだしたくなったが有存はそんなことはしなかった。噂によれば想い人は『どっしり構えて不遜で、オレサマ系』が好きらしい。ワイルドな方がウケもいいと聞いている。
 エクスマリアはそんな思考回路を構築する有存にずんずんと近づき――
「フンッ、お前らに留められるかッーーあでぇ――――!」
 すさまじい制圧(デコピン)が飛び有存が叫んだ事は――エルスだけでも見なかったことにしてやってほしい。


「ご、ごめんな、さい。『紅血晶』は危ないもの、かもしれません、から。……もう少し、事情を聞かせていただけないでしょう、か?」
 恐る恐ると声をかけたメイメイに『女の子』の声掛けであったことに気づいて有存がぴたりと止まる。
 彼が故郷を出て、努力をしているというならばそれを応援してやりたいというのがメイメイの心の持ちようだ。
 勿論、馬鹿なことをしていることを指摘し、叱らなければならないというのはシャルロットの側である。
「こちらも傭兵上層部からの依頼だからね。念のため聞くけど、売ったの渡したの以外に持ってたり隠してたりしない?」
 見せつけたのはアルパレストの紹介状である。ファレンからの依頼である事が事細かに記されたそれを見て有存の顔が青ざめていく。
 唇が震え、困った顔をした有存にリリーは「だから、乱暴はしたくなくて……」としおらしく言った。
 彼はリリーに「いいよ、女の子傷つけてまで仕事するってのも馬鹿らしいしさ」と呟く。先ほど女の子にデコピンされたことは触れないでおいてやろう。
「乱暴を働いてごめんなさい..….でもあなたが巻き込まれるのは見逃せなくて...…」
 エルスが伏し目がちで囁けば有存は「エッ、な、なんで」と嬉しそうに声を上ずらせた。琉珂とマリエッタが顔を見合わせる。
 くいくいとマリエッタの裾を引く琉珂は「ねえ、マリエッタさん、どう思う?」と囁いて来る。困った顔のマリエッタは人懐っこい里長に友人として認識されたうえで『友達の恋路』についての意見を求められているのだと気づいた。
「どう、と言われましても……」
「私はダメだと思う。押しが弱いわね、有存って」
 ――無慈悲な里長にマリエッタは困った顔をする。
「だって折角あの時知り合えたんだもの、少しでも危険な事があったりしたら助けたいと思うのは当然でしょ?」
 彼を心配しているのは本当だ。エルスのその言葉に他意はない。だが、有存の求めた言葉とはやはりベクトルが違うということに誰もが気づいていた。
 世界は何とも言えぬ表情をしてから肩を竦める。用意した白紙の小切手で紅血晶の分を支払うという理由をつけて彼がボスに怒られないように気遣ってやろうと考えた世界はその前に『どこにその品が渡るのか』を確認しておきたかった。
「…...悪くは言いたくないんだけれどこんな危険な買い物をさせたあなたの所属先ってどんなところ、なの? 他にも何か無茶があったりしない? …...少し心配だわ」
「エッ、エルス……お、おれ――俺様は弱くはねぇぞ。そりゃあ医学知識しかないぼんくらだが、たまには役に立つんだぜ?」
 慌てる有存に「質問はそっちじゃないじゃない」と琉珂が白んだ視線を送った。どうやら大切なトモダチであるイレギュラーズを困らせた事が里長は気に入らないらしい。
「里長冷てェよなあ……。でも、所属先は悪くない。これは俺が仕事をこなせなかったことが悪いんだ」
「……何なら俺がお前の傭兵団に口きいても構わねえ。なんて団だ?」
 世界の小切手も含め、口利き位できるとルカは進言した。有存は確かに今回の失敗は『イレギュラーズの介入のせいだ』というのを話してもらうべきだと判断したのだろう。
「――宵の狼団」
 呟いたその名にルカは聞き覚えがあった。それは自身の友人と同じ名前の者が団長を務めているという場所だ。
「一つ聞いていいか? 団長はどんな奴だ?」
「団長? ああ、ベルトゥルフっつー角のあるかっけー奴っすよ」
 ルカは違うと唇を震わせる。ルカの知っているベルトゥルフは人間種だ。角なんか生え居ているわけがない――例え、フリアノンを始めとする亜竜集落では魔種という存在になじみがなく、有存がそれに気づかなかっただけだとしても――その可能性には行きつきたくはなかった。
「……なら俺が話してやるよ。使いの奴でもいい。お前が悪くはねぇって伝えるから」
「ええ、そうね。そうしましょう」
 ラサでは自身も名の知れた方だ。エルスも協力しようと穏やかに微笑んだ。
「ああ、あと釣り合いたいのはわかるけど、依頼の内容は選んだ方がいいわよ? ……権力で結婚相手がどうにかなるラサ社会じゃないんだから」
 囁いたシャルロットは「弄られる前に正直に、ね?」と有存にアドバイスを送るが――彼は「でも、諦めちゃ叶わないだろ」と快活な笑みを浮かべる。
 何の話をしているのだると首を傾いだエルスに「罪だな」と世界は肩をぽんと叩いた。
「いろいろ聞いてごめんなさいね、有存さん。今ラサは少し物騒だから気をつけて帰るのよ?」
「お、おう。エルス達も気をつけろよ。お前も、ほら、女だし、サ」
 気を使ったのだろうか。赤らんだ耳の先、恥ずかしそうに視線が揺れ動いてから有存は「良い奴らが多くて助かったよ、またな」と手を振った。
 帰り道に、青年は「あれ、赤犬の――」とエルスを差した『噂話』を耳にしたが……その意味はまだうまく噛み砕けてはいなかった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした。
 有存君のお遣いが完了してよかったです。

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