PandoraPartyProject

シナリオ詳細

他者の悲しみ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●欲するのは悲しみ
「ああ、ああ。悲しいわ」
 佇む少女。はらはらと頬を涙が伝う。
 その目の前には真っ赤な血だまり。その中央では男が倒れている。

「お父さん!」
「こら、そっちに行っちゃダメ!」
 どこからか少年が飛び出し、男に駆け寄った。男の子供なのだろう。
 少年を追いかけるようにして女性──少年の母が駆けてきて、遺体にすがる少年を庇うように抱きしめた。

 それを見て、少女の口端はつり上がる。
「そう、もっと悲しんで」
 人の悲しむところが見たい。沢山、沢山。
「──ああ、そうだわ」
 少女は徐に大剣を振り上げた。

 ──どちらかが死ねば、残った方はもっと悲しめるわよね?

●ローレット
「魔種です! 緊急なのです!」
 『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)の声にイレギュラーズ達が勢いよくそちらを見た。
 魔種。最近ちらほらと出現の話を聞くようになった。
「幻想の東にある町で、住民の殺し合いが起こっているのです。1人の女の子が現れて、町の人を殺し始めてからだ、って逃げてきた人が言ってたのです」
 その少女は身の丈ほどもある大剣を難なく操り、自信を『イルミナ』と呼んでいたと言う。
「女の子……イルミナは魔種で、町の人は狂気に影響されたのだと思います。しかもイルミナはただ殺すだけではなくて、家族の1人以外を殺して残った人の悲しむ姿に喜んでるみたいなのです」
 それは家族に関わらない。
 誰かを庇う者を率先して殺し、庇われた者の絶望と悲しみに喜びを見出すのだ。
「あと、イルミナはそれ以外の感情を見るとさっさと殺しちゃうみたいなのです。よほど他人の悲しみが見たいのですね」
 酷いのです、とユリーカが頬を膨らませる。
 怯え、敵意、好奇の視線。悲しみ以外の感情と視線はすべからくイルミナの興味から外れてしまうのだろう。
「ともかく、早く向かわないと町に人がいなくなってしまうのです。簡単な相手ではありませんが……依頼成功、皆さんが無事であることを祈っているのです!」

●悲しみ以外はいらないモノ
「お母さ……っ、お母さん!!」
 倒れた母親の体を揺する少年。目を開けてくれないか、と顔を見ようとして小さく悲鳴が上がる。
 母の遺体は、首から上が切り離されていた。
 呆然とした少年の瞳から涙が零れ落ちる。
「ああ、そう。その涙が欲しかったの」
 少女は──イルミナは恍惚とした表情で少年を見つめた。
 悲しみとは、なんと美しい感情だろうか。
 しかし少年の視線がイルミナに向けられ、イルミナは瞳に怯えを滲ませた。
「その目は何? 怖い、怖いわ」
「……よくも、お母さんとお父さんを」
 少年の目に浮かぶのは、敵意だ。
 丸腰の状態で、少年は大剣を持つイルミナへ向かっていく。
 その突進を軽く躱し、イルミナは大剣を振り上げた。
「イルミナを怖い目で見ないで。そんなのいらないわ」
 次の瞬間、少年の体は真っ二つになって地面へ倒れた。

GMコメント

●成功目標
 魔種の撃退、もしくは殺害

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●魔種『イルミナ』
 15,16歳程度の姿をした少女です。特に目立った特徴がないことから元は人間種と予想されます。他者の悲しむところを見たいようです。
 基本的にOPのような感じなので、何かを聞き出したりするのは難しいかもしれません。
 身の丈ほどもある大剣を携えており、イルミナ自身も人間離れした身体能力を持ちます。
 魔法(神秘攻撃)の才能はなかったようです。
 回避、防御技術、攻撃力が高いです。次いでHPが高めです。
 命中はそれほどでもありません。

●周辺環境
 町中です。
 がれき等の障害物はありません。
 魔種の発する狂気の影響により、至る所で住民同士の殺しあいが発生しています。
 狂気に影響された住民の妨害が予想されます。

●ご挨拶
 愁と申します。魔種です。
 イルミナがいなくなれば住民の狂気は元に戻ります。本依頼において住民の対処は成功条件に関わりません。
 迅速にイルミナを対処し、無事に帰ってきてください。
 それではご縁がございましたら、よろしくお願い致します。

  • 他者の悲しみLv:6以上完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2018年09月26日 21時40分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ルウ・ジャガーノート(p3p000937)
暴風
楔 アカツキ(p3p001209)
踏み出す一歩
リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王
ルルリア・ルルフェルルーク(p3p001317)
光の槍
ミア・レイフィールド(p3p001321)
しまっちゃう猫ちゃん
祈祷 琴音(p3p001363)
特異運命座標
九重 竜胆(p3p002735)
青花の寄辺
イーフォ・ローデヴェイク(p3p006165)
水葬の誘い手

リプレイ

●悲しみの痕跡
 遠くから悲鳴が聞こえる。
 それに反して、イレギュラーズ達のいる周囲は驚くほど静かだった。
 この辺りに生きている人間はいないのだろう。代わりに血溜まりに沈んだ人影が幾つかある限りだ。
「たった1人で1つの街を狂わせちまうとは、魔種ってのは厄介な奴だな……!」
「魔種が町に一人現れるだけでこれだけの被害と混乱を齎すんだもの。ホント、堪ったものではないわね」
 そう告げる『暴猛たる巨牛』ルウ・ジャガーノート(p3p000937)と『一刀繚乱』九重 竜胆(p3p002735)の表情は険しい。危機感からか足の進みも早くなる。
 悲鳴の方へと向かえば、それらしい人影は簡単に見つかった。
 話に聞いていた大剣を持つ少女──イルミナ。軽々とそれを振るい、目の前の遺体にすがっていた女の首を切り飛ばす。
「怖い目は嫌いって言ってるじゃない。皆素敵な感情が出せるのに、どうしてすぐ怖い目をしてしまうのかしら」
 心の底から不思議で仕方ない、という面持ちのイルミナはぐるりと辺りを見回してイレギュラーズの姿に気づいた。
「まあ、人が増えたわ! あなた達はイルミナに悲しみを見せてくれるの? お手伝いするわ、誰から殺せばいいかしら!」
 喜々とした表情を浮かべるイルミナにジャガーノートがニヤリ、と笑みを浮かべた。
「へっ。久しぶりにヤベェ奴が出てきやがったな。だが、俺達ならブッ殺せるさ」
「恐ろしい存在だケド、不思議と怖くないナ」
 『水葬の誘い手』イーフォ・ローデヴェイク(p3p006165)もジャガーノートの言葉に頷く。
 2人とも魔種と対峙するのは初めてだが、恐れのような感情は見受けられない。
(強大で、たった一体でおれたち複数人を圧倒する恐ろしい存在……それでモ、おれたちが必ず勝つのサ!)
 イレギュラーズから向けられる視線にイルミナは怯えを滲ませ、小さく後ずさりして大剣を構えた。
「違う……あなた達はイルミナに悲しみを見せてくれない。怖い目がいっぱいあるわ。いや、いやよ。消さなくちゃ」
「消せるものなら消してみなさい。あなたにできるのならね!」
 竜胆の言葉と同時、『軋む守り人』楔 アカツキ(p3p001209)が素早く肉薄する。
(早くケリを着けられるなら、それに越したことはない。しかし油断や焦りは、こちらの敗因となりうる)
 ならば自らの役目を全うしよう。
「きゃあ!」
 風を切るようなアカツキの拳にイルミナは可愛らしい悲鳴をあげ、しかし的確に避けた。しかし間髪入れない蹴りのコンビネーションはその体を掠る。
「あなた、とっても怖いわ!」
 振り下ろされる大剣。そこへ影が滑り込み、同時にジャガーノートが声を張り上げた。
「他人の悲しみを啜るたぁ、牛の糞に集る蠅にすら劣るぜ……! きっちり清掃してやるからかかって来いよ!」
 イルミナは尚もアカツキへ向けていた武器を止め、ジャガーノートを横目で見る。
 その瞳に映るのは苛立ちだろうか。
「ああ、もう! どうして怖い目ばかりなの!? イルミナ、悲しいのだけが欲しいの! あなた達の目はいらないっ!!」
 力強く地を蹴り、接近してくるイルミナ。
 背を向けてジャガーノートへ向かって行く姿に、アカツキを庇った『飲酒シャトルラン』祈祷 琴音(p3p001363)はスキットルを開けた。
「殺伐殺伐ぅ。ま、ささっと倒して酒代になってもらうわぁ」
 口元に笑みが浮かぶ。何をするにしても、彼女の行動理由は酒に帰結するのだろう。
 敵意を前に、イルミナはイレギュラーズを追いかける。
「その目は嫌い。怖い、怖いわ! 皆消えちゃえ!」
 大剣を振り回し、辺りをも巻き込みながら徹底的に敵意を葬ろうと立ち回る。
 建物を巻き込んで、逃げまどう者も狂気に呑まれた者も巻き込んで。

 ──気づけば、敵意が増えていた。

「……嫌だわ。ここは嫌いなものしかない」
 悲しみを強く欲する少女。敵意の嫌いな少女。
 その嫌いな『敵意』をもってして誘導されてしまったのだと、ようやくイルミナは気付く。
「派手なことになってたわねぇ」
 後ずさろうとした足が、背後からの──琴音の声で止まる。その前には『雨宿りの』雨宮 利香(p3p001254)が立ちはだかった。
「散々暴れてくれましたよねー」
 逃がしませんよ、と利香の瞳が訴えかける。横へ跳んで先に進もうとしたが、その脇から飛び出したのは『偽装職人』ルルリア・ルルフェルルーク(p3p001317)だ。
「こんこーん、この先は可愛い狐さんが通さないのです」
 邪魔者を排除しようと視線を巡らせたイルミナは、それが容易でないことを悟る。
 今入ってきた場所を除き、通路が簡易的なバリケードで塞がれているのだ。
 それを見て『しまっちゃう猫ちゃん』ミア・レイフィールド(p3p001321)の白い耳が得意げに揺れた。
 ミアは1度、難しい依頼の解決に失敗している。
 あの時は敵を前にして、怖かった。負けたことが悔しかった。けれど今は違う。ミアは強くなった。信頼できる友人も共にいる。……やや、世話の焼ける少女ではあるが。
(今度は勝つ……の)
 ルビーのようなミアの双眸が苛烈に煌めく。
「連続殺人犯の首級……白猫ミアにお任せください、なの!」
 視線と言葉に、イルミナはミアを標的と定めた。

●感情
「今のところは単純な攻撃ばかりよ」
 竜胆がバリケードを作るために別行動していたミア達へ告げる。
 イルミナはミアの方へ向かおうとして、その前に立ちふさがる利香を忌々し気に見つめた。
「とても邪魔だわ。イルミナ、悲しいのが見られない!」
「そんなに悲しみがほしいんですか。それじゃ、貴女の悲しみを見せてもらいましょうか?」
「嫌よ!」
 魔力を纏った障壁を避け、イルミナが大剣を振り下ろす。
 振り下ろされた剣にルルリアが「わぁっ」と場にそぐわぬ声を上げた。
「大きい剣ですねー。魔種さん脳筋さんっていう奴ですよね? 鉄帝の本で読みましたよー?」
「脳筋? イルミナ、よくわからないわ。でもあなたの視線はとても不快!」
 ぶん、と横薙ぎに降られる剣。急所を外すように身をよじったルルリアの先には、イーフォがよろけて壁に手をつくさまが見えた。
「ああ、ああ、どうしてこのようなことになったのか。ヒトが隣人を殺めるなど……」
 震える声によろける仕草。悲しみを演じるソレは、まるで本当のようにも見える。
 しかしイルミナはそれを一瞥し、すぐに視線を逸らしてしまった。
(演技だと気づかれたかナ?)
 可能性としてなくはないが、それにしたって無関心だ。
 無関心と言えば琴音もそうであった。
「これっぽっちしかないのは残念ねぇ。さっさと済ませてがっつり酒を飲みたいわぁ」
 スキットルを振って口を付ける琴音。魔種も周囲の惨状も気にせぬ態度に、イルミナも突っかかってくる様子はない。
 そこへ、ふらりと近づいてくる女性が現れた。バリケードが壊され始めたのだ。
「あの人が……どうして……置いてかれちゃった……」
 熱に浮かされる様な足取りと様子を見たイレギュラーズは悟る。
 狂気に侵された人間だ、と。
 イルミナが唯一塞がれていない方へ地を蹴り包囲網を脱する。ミアの連射攻撃を受けながらも一直線に女性へ向かって行き、しかし辿りつく前に竜胆が立ちはだかった。
 その強い視線にイルミナが怯えを滲ませる。
「──この目が怖いのでしょう?」
 怯えたように見えても、この少女は魔種だ。油断してはいけない。
「ええ、怖い。怖いわ。あなたも後ろの人みたいに、悲しめばいいのに!」
 竜胆が飛ぶ斬撃を放つ。それをひらりと回避してイルミナはそう叫んだ。
 その脇へルルリアが回り込む。挑戦的な視線がイルミナを刺した。
「まだ誰も殺せてませんよー? ルルを殺せば誰か悲しむかもしれないのに、そっちばかり集中していていいんですか?」
 漆黒の魔銃がイルミナに向けられる。発砲音と共に顔を顰めたイルミナは大きく剣を振り回した。
 身を低くして躱したルルリア。周囲でイルミナをマークしにかかっていた利香や琴音も半身引いて避けようと試みる。
 黒白の2丁拳銃を構えたルルリアの連射。イルミナの顔色が悪くなったことをルルリアは見逃さない。
「ぷーくすくす。攻撃当たっていませんよー? やっぱり脳筋さん……」
「──ルルっ!?」
 返す刃がルルリアを襲う。同時に上がった悲鳴はミアのものだ。
 とっさに利香が前に立ってイルミナを抑え、琴音に庇われたジャガーノートが大きく跳躍してメイスを振り上げる。
「そのでっけえダンビラごとブチ砕いてやるぜ!」
 大剣とメイスのぶつかる音。イルミナの足元が沈んだ気がしたが、膝を屈してはいない。
 後衛へ攻撃が向けられない隙にイーフォがハイヒールをかけた。
「回復が追い付かなくなりそうだネ」
 小声で呟いて、イーフォは前衛の体力にも気を配る。
「っ馬鹿ルル……ちゃんと避ける……の。ルルが死んだら、誰が……宿屋の皆に報告すると思ってるん……にゃ」
 ミアはルルリアの元へ駆け寄るとぼろぼろと涙を零した。
 前衛で戦う仲間、友人であるルルリアの傷つく姿に悲しむ演技をしていたミア。けれど、今のは演技ではなく本物だ。
「ごめんなさいなのです……ミアちゃん」
 回復を受けたルルリアが苦笑を浮かべ、ミアの濡れた頬を拭う。
 それを視界の隅に捉えたイルミナが嬉しそうな笑みを浮かべた。
「本当だわ。あの子は殺されたら悲しむ人がいるのね。素敵。もっと見たいわ!」
 先ほどまでの無関心から一転した態度。特にイーフォと同じ悲しみであるはずなのに違いは何だと言うのか。
(悲しむ対象……かナ)
 友人。家族。恋人。
 勿論イーフォの表現した悲しみよりもミアの悲しみが大きい可能性はあるだろう。しかし状況に対する悲しみと個人に向ける悲しみは、イルミナの中で悲しみのベクトルが違うのかもしれない。
 同じようなことを思ったのか、イーフォのハイヒールを受けながらアカツキが苦々しい口調で呟く。
「随分と歪な……いや、だからこその魔種か」
「それでも、やりすぎです」
 アカツキの言葉にルルリアが頭を振る。
 イルミナは他者を庇うような人間を率先して殺していたと言う。
 誰かを守りたいという感情は美しいものだ。それを逆手にとり、残された者が嘆き悲しむ様を楽しみ嗤うなんて到底許せることではない。
 竜胆は先ほど庇った女性へ向き直る。それは語り掛ける為でもあり、竜胆を離さないというように掴んだ手を剥がす為でもあった。
「今は少しでも良い。悲しい、辛い想いを抑えていなさい。そうすれば貴方達ではどうしようもない理不尽を私達が倒してあげる。絶対の、絶対よ」
 でも、と首を振る女性。涙が次から次へと零れ落ちる。
 狂気に呑まれていても、多少は心に響くものはあるのだろう。けれどどうしようもないのだと、竜胆の腕を痛いほどに掴む手が物語っていた。
 竜胆は瞳を眇め、みねうちで女性を昏倒させる。そうして腕は解放されたものの、バリケードのあちこちが使い物にならなくなりつつあった。
 わらわらと湧き出してくる住民達に立ちはだかったのは琴音だ。
「こっちは任せて頂戴ねぇ。さあ、酒飲むわよぉ」
 どこからか取り出された一升瓶。琴音がそれを豪快に煽る。
 引き付けられ始めた住民達を一瞥し、竜胆は踵を返してイルミナへ向かって行った。
 ジャガーノートに追随して攻撃を仕掛けた竜胆。イルミナが切られた腕を押さえて憎々しいと言うように竜胆を見る。
「痛いわ。痛いの嫌い。怖いのも嫌い。悲しみが見たい、絶望が見たい。欲があるのはダメな事? だって誰しも欲深くなるものじゃない!」
「……そうね、欲深い人間もいるわ。でも負けてあげられないのよ。理不尽に何もかも踏み躙っていく貴女には!」
 力強い竜胆の言葉。イルミナが顔を歪め。大きく武器を振り上げる。
「範囲攻撃がくるわ! 皆避けて!」
 鋭い声にイレギュラーズがイルミナから距離を取った。大剣が空回りする。
 イルミナが肩で息をする様子に、アカツキが口を開いた。
「お前はまだまだ人が悲しむ姿を見たいんだろ? 情報を渡すなり命乞いするなりして、生き延びようとは思わないのか?」
 猛毒やこれまでの疲労でイルミナは疲弊している。勿論イレギュラーズも気を張っているだけで、戦いが終われば崩れ落ちてしまいそうなほどに満身創痍だ。
 しかし虚勢を張ってアカツキは告げた。
 イルミナが悲しみを欲するなら、アカツキが欲するのは魔種の情報だ。今──命が危機に瀕している時であれば、情報を引き出せるかもしれない。
 しかしイルミナは傷だらけになりながらも歪んだ笑みを浮かべた。
「イルミナ、情報なんて知らない。それに──可哀想な自分なんていらないわっ!」
「っ、行かせませんよ!」
 利香がマークして立ちふさがり、大剣を障壁で受け止める。続いたアカツキの攻撃を回避していくものの、イルミナの動きに精彩はない。
 さらにルルリアの放った炎がイルミナを取り巻いていく。
「皆無事かしらぁ」
 住民をあらかた倒した琴音が戻ってくる。数の暴力を前にして無傷とはいかないが、付着した血のいくつかは返り血だろう。
 運がよければ生きているし、悪ければ死んでいる。住民の生死まで気にして戦っていられる場ではない。
 琴音に引き寄せられなかった住民のうち、最後の1人をイーフォが威嚇術で気絶させる。
「あああぁぁぁぁっ!!!」
 炎の中を突っ切ってイルミナが飛び出してくる。竜胆の放った斬撃を浴びながらも斬りかかり、しかしその攻撃は琴音に阻まれ届かない。
「ったく、こんなのが地上に溢れたらたまったもんじゃねえな!」
 イルミナがはっと上を向くと同時。ジャガーノートがメイスを振り下ろした。
 確かな感触。次いで上がる悲鳴。
「──っ!!」
 片目を押さえたイルミナが、無事な方の目で忌々し気にイレギュラーズを見る。
「痛い……みえない、みえない見えない!! これじゃ、悲しみが見れなくなっちゃう!」
 目を傷つけられ、それでも1番に考えるのは悲しいという感情を見ることについて。
「貴女は……」
 ぽつりと口に出したのはミアだった。
「本当に、貴女が欲しかったのは……変わってしまった自分を……悲しんでくれる人……だったんじゃないか……にゃ?」
 は、とイルミナが短く息を吐く。その表情はミアを嘲るように、その可能性を考える事もない顔で。
「イルミナ、そんな人欲しくないわ。イルミナが欲しいのは他の人が他の人へ寄せる悲しみ……美しいその感情で、世界をいっぱいにするの」
 イルミナが片手に握った大剣を力任せに振り下ろす。攻撃とも言えないようなそれは地面に亀裂を作り、剣が深く突き刺さった。
 ぱた、ぱた、と。イルミナの足元に血の雫が落ちていく。
「このままじゃ死んじゃう……目も見えない……いや……かえる、かえなきゃ」
 剣の柄から手を離し、身軽になったイルミナは踵を返した。
「かえなきゃ……もっと見たいの……もっと、もっと……目をかえなきゃ……まだ死ねない……」
「待て!!」
 願いを口にする様子は虚ろ。しかしそれからは考えられぬスピードでイルミナは町の外へと向かっていく。
 アカツキの静止の声にも振り返ることがない。ミアやルルリアが武器を向けたが、既に攻撃範囲外までイルミナは逃走している。
 あっという間にその姿は小さくなり──イルミナは、逃走した。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

ルウ・ジャガーノート(p3p000937)[重傷]
暴風
楔 アカツキ(p3p001209)[重傷]
踏み出す一歩
ルルリア・ルルフェルルーク(p3p001317)[重傷]
光の槍
九重 竜胆(p3p002735)[重傷]
青花の寄辺

あとがき

 お疲れさまでした。
 殺害までは至りませんでしたが、撃退に成功しました。健闘だったと思います。
 余談ではありますが、イルミナの大剣は抜くことができずに町の地面に突き刺さったままでした。もしかしたら今後のシナリオで登場するかもしれません。

 またご縁がございましたら、よろしくお願い致します。

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