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シナリオ詳細

<ジーフリト計画>もしも彼らを毀したら

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●セフィラの興味
 故郷の世界に戻るなど今更どうでもいいし、ましてやこの世界にもたらされるべき新秩序なんて尚更だ。
 なのにこうしてセフィラなどという地位に収まっているのは、愉しい破壊の機会を用意してくれる宗教団体セフィロトと、破壊の力を持つ自分の利害が一致したからにすぎない。
 だから、弱肉強食の理を掲げる新皇帝派も心地よかったし、新皇帝を打倒せんといじらしく足掻く人々を眺めるのも興味深いことだ。そんな人々をつついてやったなら、どんな反応を示すのかについても。
「そうじゃろう? 主も一枚噛みたかろう?」
 だから彼女が傍らの少女――少なくとも見た目だけは――に可笑しげに問いかければ、返ってきたのは抑揚のないこんな答えだ。
「滅びは、滅び。興味とか、楽しみとかじゃない」
「それではない。主がご執心の、あの娘のことじゃ」
 彼女――『椿姫』カミーリア=スカーレットは再び嗤う。少女、『いのちのゆりかご』シーアが珍しく興味を持った、『絶望を砕く者』ルアナ・テルフォード(p3p000291)なる特異運命座標のことだ。
「それの中に眠るものが真に『勇者』であれば、罪なき民を虐げれば必ずや正体を現そう。そして……偶然にも愚か者どもが、戦う力もない癖にのこのこと新皇帝派に挑まんとしているそうじゃ。この機会を役立てずして、果たして何時役立てようかのう?」

●人々の勇気
 もう、同胞すらも喰らわねばならぬ飢えはない。新皇帝派の襲撃に怯える必要はない。
 ギアバジリカという聖域は革命派に保護された難民たちにとっては天国であったが、その天国がいつまでも無事でいるとは彼らとて楽観視はしなかった。
 昨日は退いた新皇帝派とて、今日、それ以上の大軍勢でやって来ないとはかぎらない。今はまだ無尽蔵にあるように思える食糧も、明日、さらなる難民が革命派の下を訪れて、いきなり不安にならないとも言いきれない。
 結局のところ周囲から新皇帝派の脅威を取り除かなければ……死は、いつ再び訪れるとも判らないわけだ。
 革命派の中核を担うクラースナヤ・ズヴェズダーの教義曰く。人は互いに支え合うべし。その教義がゆえに命を救われた人々が、教義に従い、次は自らが誰かを支える番だと奮起することは必然であろう。
「次は俺も戦うぞ!」
「あたしだってもう奴らの好きにはさせないよ!」
 意気込みばかりは勇ましいが……如何せん武器がない。木を切る斧や雪を掬うスコップだけでは、銃で武装する新皇帝派に太刀打ちできるわけがない。
 では……どうするか?

 散々ぱら自分たちを苦しめてきた新皇帝派のグロース師団から、逆に奪い尽くしてやればいい。

 かくして革命派の中で、帝国陸軍武器保管庫のひとつ、サイト・アハトアハトの攻略作戦が立案される。
 かの施設を管理するグロース師団を追い出して、銃と弾薬を手に入れられる一石二鳥。幸いにも、いかに革命派に武器が足りないといえども、一先ず難民の中で優れた者を選出し、彼らに与える分くらいはある。

 さあ、逆襲の時間だ!
 おそらく新皇帝派は卑劣な手で迎え撃ってくるだろうが、もうそんなものに負けはしないぞ!

GMコメント

 そんなわけでサイト・アハトアハト攻略作戦に向かった民兵たちの一団が、宗教団体セフィロトの幹部、カミーリアとシーアの襲撃を受けました。彼らの周囲にはクラースナヤ・ズヴェズダーの僧兵や歯車兵などの戦力もありましたが、彼らも新皇帝に従う魔物である天衝種(アンチ・ヘイヴン)を従えるグロース師団に襲撃されたため、彼らを全スルーして空から急襲してきた両幹部への対応がほとんど不可能です。
 民兵たちを救うことができるのは、彼ら自身と、友軍の遊撃部隊でもある皆様だけなのです。

●Danger!
 本シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定がありえます。
 あらかじめご了承のうえ、ご参加くださるようにお願いいたします。

●『椿姫』カミーリア=スカーレット
 攻防一体の魔術の鎖も厄介ですが、最も警戒すべきことはギフト『縛鎖の支配』により民兵たちを支配されることでしょう。一度カミーリアを「勝てない相手」と認識した民兵は、彼女のギフトにより抵抗の意思を失い、カミーリアが戦場にいるかぎり彼女に赦しを請うために味方を攻撃しはじめるようになります。彼らを正気に戻すには、何らかの精神作用でカミーリアに対する認識を上書きするか、戦闘不能にするしかありません……。

●『いのちのゆりかご』シーア
 15メートルほど上空に浮遊したまま、翼を覆っている光を放って無差別に攻撃してきます。殺傷力よりも範囲を優先しているようなので、耐久力に自信があれば甘んじて受けてしまってもかまわないでしょう……民兵たちはあまり耐久力はありませんが。

 カミーリアもシーアも、民兵を苦しませて殺害することに重点を置いているようですが、特異運命座標が倒れればそれを殺害することを優先とするでしょう。
 逆に言えば、彼女らの目的は『いやがらせ』であって『攻略作戦の阻止』ではないので、こちらの被害を無視して彼女らを集中攻撃すれば彼女らを撤退させることは容易です。彼女らが撤退し、フリーになった皆様が対グロース師団戦に加勢すれば、勝利自体はすぐに手に入るでしょう……それを是とするかは皆様次第ですが。

●民兵×20
 銃で武装してはいますが、戦闘経験自体は豊富ではありません。カミーリアが現れた時点で2名が彼女に屈服しました。

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

  • <ジーフリト計画>もしも彼らを毀したらLv:30以上完了
  • GM名るう
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年02月11日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

グレイシア=オルトバーン(p3p000111)
勇者と生きる魔王
ルアナ・テルフォード(p3p000291)
魔王と生きる勇者
イリス・アトラクトス(p3p000883)
光鱗の姫
武器商人(p3p001107)
闇之雲
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
ガイアドニス(p3p010327)
小さな命に大きな愛

リプレイ

●災厄たる襲撃者
 まったく、いつだって不測の事態というものは起きるものだ。
 主力の戦闘員がグロース師団と交戦しはじめたタイミングを見計らって現れて、魔力の鎖と光の槍を振り撒きはじめた遊撃者たち。どう見ても碌でもない危険人物であることは『光鱗の姫』イリス・アトラクトス(p3p000883)にもすぐ判った……付け加えれば、彼女らの性格も最悪だということも。
「もう終わりだぁ!」
 情けない声を上げ、民兵のひとりが自棄になり味方に武器を向ける。いくら民兵にすぎないといえども、十分な実力と士気が認められたがゆえにこの場にいるはずの人物が。
 だが、その不自然な状況の原因を言い当てる者がいた。
「『縛鎖の支配』、か――厄介なギフトの持ち主が現れたものだ」
 その名は、かつて襲撃者のひとりカミーリアの知人であった『知識の蒐集者』グレイシア=オルトバーン(p3p000111)。
「セフィロトの幹部というのは、存外暇なようだ」
 敢えて挑発するように口に出してもみたが、元より本当にその程度で彼女に目的を忘れさせられるなどとは思っていない。重要なのは――敵が新皇帝派そのものでなく、昨今表立って動くようになった危険な宗教団体だと周囲に知らしめることだ。
 またあいつらか、と『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)が怒りに声を震わせた様子が見て取れた。天義と鉄帝の双方に少なからぬ犠牲を生み出して、間接的に同じローレットの仲間を反転に追い遣った男の仲間。それだけでも叩き潰す理由としては十分だ。しかも……罪もなき民兵たちを絶望にて支配する? そんな狼藉を許してなるものか!

 銃声が響く。
 カミーリアに支配された民兵が、ついに味方に引鉄を引いてしまった。銃口を向けられた民兵は狼狽し、反撃の銃口を彼へと向ける……が、そこでようやく彼も気がついた。自分と彼の間の射線を塞ぐよう、巨大な腕が割って入っていたことに。そして先程のこちらに向けて放たれたはずの銃弾を、その腕がすっかり妨げていたことに。
 巨人型秘宝種『超合金おねーさん』ガイアドニス(p3p010327)おねーさんの腕は、作りものの皮膚がちょっと剥がれた程度の傷しか負っていなかった。痛々しさなどどこにも感じさせない笑顔は、どれほど民兵たちをほっとさせたろう?
 もっともカミーリアの振り撒く悪意は、笑顔などすぐに掻き消してやらんとばかりではあるのだが。
 民兵たちの逃げ道を塞ぐよう広がる鎖。幾らかの民兵は足を大地に繋ぎ止められて、手当たり次第に放たれるシーアの光矢がいつ自分に降りかかるかと恐怖する――それこそがカミーリアのギフトに囚われる理由だとは解っていても。
「ふざけるな……ふざけるなよ!」
 カミーリアらの卑劣な遣り口に、思わず『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)も吼えた。
「どんな理由があるのかは知らないが、そんなものは知ったことか! 世の中にはやっちゃならないことがあるんだ……だから、ヴァリューシャ! 絶対に皆を救おう!」
「ええ、行きましょうマリィ」
 饒舌に捲し立てるマリアとは逆に、言葉少なに返した『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)。マリアほど怒りと遣る瀬なさを感じていない――わけがない。喚けば敵が怯んでくれるなら、どれほどの言葉を浴びせたか定かではない。
 けれどもシーアもカミーリアも、そんなことで手を緩めてくれる手合いだろうか?
(我(アタシ)の“視た”かぎり、アレは新皇帝派を利するというよりも、私的な目的がありそうだね)
 すなわち『闇之雲』武器商人(p3p001107)の脳髄は、その“目的”とやらが満たされないうちは彼女らが撤退することなど――たとえグロース師団が壊滅に追い込まれたとしても――ありえぬことだと囁いていた。ならば怒りは心の内でのみ燃やし、次の一手を打つための燃料とするよりほかないではないか。
 でも……どうして、シーアたちはこんなにもむごいことを?
 シーアは友達だとばかり思っていたのに。『絶望を砕く者』ルアナ・テルフォード(p3p000291)の胸は張り裂けそうだ。
 だけど傷つく人々と、彼らを傷つける友人と、守るべきものははたしてどちらであるか。違えたくとも違えはしない。
 だから。
「シーアちゃん。皆を傷つけるのやめてくれないかな」
 声をかけ、それでも届かぬのなら自らもワイバーンを駆り、シーアの元まで舞い上がる。そうすれば少しでも人々の助けになるのだと信じ。

●セフィラの思惑
 なのに……どうして彼女は何も語ってすらくれないのだろう?
 シーアは確かにルアナに気がついて、昔みたいな微笑みを向けてくれた。だというのにその笑顔のまま翼を光で包んで、羽ばたきと同時に光を眼下へと降らす。
 上がる悲鳴。
 致命傷ではないものの、かすり傷と呼ぶには大きすぎる傷。
 恐怖を与えることに最適化された悪意は、次々に民兵たちの心に闇をもたらしてゆく……が。
「あの二人は俺たちで対処する! 皆さんは攻略作戦の主軸に注力してくれ!」
 もたらされたイズマの号令が、彼らの心に専心すべき物事を植えつけなおした。とはいえ……本当にそんな注力ができるのか? そう、誰もが疑問に思ったことだろう。何故なら専心しようと思っても、彼女らは自分たちを傷つけてくる。仮に上手く逃げ果せたとしても、そんな状態でどうグロース師団との戦いに勝利すればいいのだろうか、と。
 答えは……しかし用意されている。民兵たちの傷を癒やすのは、イリスの周囲に輝く光鱗だ。彼らは光により傷つけられた。そして光により肉体の調和を取り戻すのだ。
 民兵たちに再び気力が満ちて、シーアは恨みがましい視線をイリスに投げかける。そしてカミーリアは満ちた気力を再び潰えさんとする。畳みかけるよう広がる鎖。そんなのはたかが時間稼ぎだとでも嘲笑うように、彼女は鎖の檻に鎖を重ね……。
 これではグレイシアとしても、いかに馴染みの客といえどもお帰りいただくほかはなかった。
「これ以上、彼女を悲しませたくはないのでね」
「それはあの娘を“目覚め”させぬためか?」
「はて? 今、実際に彼女は辛い思いをしている……それだけでは理由として不足かな?」
 魔王の力の片鱗が浮かび、縛鎖の女王を貪り喰らう。鎖が、牙を受け止める……が、それでも構いやしない。攻めているのは常にこちら側。そう民兵たちに印象づければ、その分縛鎖は力を失うはずなのだから。
「やァ。チマチマとした嫌がらせ、実にご苦労様」
 武器商人に至っては、逆にせせら嗤ってやるほどだった。それが安い挑発にすぎないことは、元より承知。カミーリアがこれだけで本当に乗ってきたならば、両手を叩いて大笑いするところだ。
 ……が、ここで、挑発に乗る理由を用意してやったなら?
「しばらく我(アタシ)と踊っておくれよ。ここらでひとつ希望を摘み取ってやれば、その鎖も力を取り戻すんだろう?」
「耐え切る自信在って言っておるのであろう? とはいえ……その自信ごと叩き潰してやるのもまた一興か」

 しばし、鎖が辺りから消えた。今ならば民兵たちに意識を割かれることなく、特異運命座標たちは空中のシーアに肉薄できる。
「どっせえーーい!!!」
 小飛竜の上で雄叫びを上げながら、シーアに突っ込んでゆくヴァレーリヤ。怒りに燃え上がったメイスが迫る様子に、シーアの表情も一瞬凍る。
 でも……高度を上げてしまえば大丈夫。シーアの翼が広がって、大気を掻くよう打ち下ろされた。上空からの憐憫の眼差しが、ヴァレーリヤや、その先の民兵たちへと注がれる。
「自力では飛べない種族は、可哀想。そんな種族を生み出した、こんな不平等な世界なんて滅んでしまえばいいのに――」
 ……が、そこでシーアは、何かの影が自身の顔にかかったことに気がついた。雲? 何気なく振り向いたその瞬間、自身がつい先程見下ろしていた地上の光景に、あるべき人物の姿がなかったことを思い出す。
「空は君だけの戦場ではない! 空中戦こそ私の本領!」

 頭上から急降下してくる深紅の雷光が、自身の体を貫いたことを彼女は知った。自分とて空では弱者であったという精神的な衝撃とは裏腹に、肉体的な傷は羽根が数枚散ったほどでしかない。
 けれども……動揺は収まりそうにない。翼に光が溜まらない。逃げるように地上に降りてゆく……そして自分自身に言い聞かせる。安全圏から一方的に目的を達成することさえ諦めるのなら、それでも十分に事足りるのだから、と。
「どっせえーーい!!!!!」
 再び雄叫びを上げたヴァレーリヤが小飛竜の上から“落ちて”きて、咄嗟に顔を庇って持ち上げた腕にヒビを入れた。もっとも、それすらもシーアにとってはどうだっていい。ようやく溜まった光を振り撒いて、民兵という弱者たちに滅びをもたらせるのなら。
「民兵さんたちはこんなにもか弱いのよー? どうして護ってあげないのかしらー?」
 ガイアドニスおねーさんの歌うような問いかけと踊るような邪魔くさい仕草が、シーアの訥々とした答えを引き出してゆく。
「弱いものなんて守っても、守る者と守られる者という格差ができるだけなのに」
 だから可哀想な弱者は滅ぼして救ってあげるし、強さという特権を振りかざす強者など当然滅びて然るべき。
 ……そう信じて彼女がバラ撒きつづける光を止めるには、彼女を討つ以外にはないのだろう。けれども、おねーさんにはその術がない。いや、打って出ようと思えばいつでも打っては出られるのだ……セフィロト幹部たちの振り撒いてきた滅びに傷ついたうえ、錯乱した味方からの脅威もある民兵たちの存在を忘れていいのであれば、の話だが。
「諸君らは目的地へ急ぐように」
 グレイシアの指示に駆け出す民兵ら。もっともグロース師団の襲撃も受けている今、それは僧兵たちとともに新皇帝派や天衝種と戦えという残酷な指示でもあるのだが……少なくとも、彼らをこの場に留めておくよりはマシだったはずだ。
 ……だが。
「……飽いたわ」
 武器商人をどれだけ殺しても殺せなかったカミーリアの興味が、転進する民兵たちへと逸れる。傷つければ傷つけるほど名状し難い本性が露わになりこちらを深淵に落としてくる存在などとこれ以上戯れるだなど、余興にしても馬鹿馬鹿しすぎる。
「彼奴らの向かう先などは、どうせ一つに決まっていよう?」
 ならばグロース師団戦に加わった彼らを追いかけて、逃げても無駄と思い知らせるほうが面白い……そう気づいてしまったカミーリアの口許は、自ずと愉悦につり上がっていた。もっとも彼女自身が追いかけるまでもなく、彼らは彼女の配下と化した味方に撃たれ、足を止めることになるだろうが……と、ほくそ笑んだ、その直後。

●誓いを胸に
「誰のために戦うのか思い出せ」
 縛鎖に絡め取られた民兵を凝視するイズマの魔眼! 民兵の瞳の狂気の色が、別の色へと染められてゆく。
「家族だ……」
「そうだ、家族や仲間たちだ! 他人に許しを乞うためじゃなくて、自分たちが力を得て彼らを守るため戦うんだろうが!」
 けれども……再び力を取り戻した、消えかけた色。
「そうだ……だけど今は、その力を得るための力がないじゃないか……降伏だけが仲間を救う道……」
 彼の言葉を聞けばカミーリアはさぞかし悦んだだろうが、そんな邪悪な色に負けてなるものか!
 イズマの眼光が強くなる。
「力ならある! 何故なら、その力がある者だけがこの場に集められたんだ!」

 武器商人に背を向けたカミーリアが見たものは、戯れはじめる前にはすっかり支配下に入っていたはずの民兵が自身へと向けた銃口だった。
 忌々しげに舌打ちするセフィラ。激しく両手を操って、イズマごと民兵たちを鎖の中に沈めんとする。ぶり返した彼女の勢いに、イリスの輝きも一時覆い隠される。
 けれども……輝きを遮ったはずの鎖をも、さらに遮った巨きな体。
「おねーさん、本当はシーアちゃんを抑えてあげなくちゃいけないのよねぇ?」
 不満げに口こそ尖らせはするが、体はすでに投げ出された後だった。
 悪意に命奪わせなどしない。
 何故なら、おねーさんは小さいみんなを愛しているから。

 両手を広げて皆に呼びかける巨大なガイアドニスおねーさんは、輝きを取り戻したイリスの光鱗に照らされてまるで聖像のようにさえ見えた。きっと彼女は民兵たちにとって、希望の象徴になったのだろう。
 であれば……逆にそれを縛めてやったなら? 人々の希望は絶望に変わるではないか。災厄の鎖が巨像を覆う。だというのにカミーリアの思惑とは裏腹に、鎖はまるで聖なる力に弾かれたかのように、彼女から容易く外れてしまう!
「見なさい! 隣の人と戦えと言うような人に、私たちは負けない!」
 他ならぬ光鱗の姫の祈りが、ガイアドニスに悪意を受けつけぬ力を与え、民兵たちにとっての真の聖像たらしめていた。今ならば……イリスはこう呼びかけることさえできるであろう。
「貴方たちは全員生かして帰す! だから、戦いましょう、一緒に!」
 その時、民兵たちの、グロース師団との戦いに巻き込まれて消耗するはずの運命が、カミーリアに向けて逆転させられた。厄介なことを……カミーリアは再び彼らを縛鎖に沈める方法を模索してみるが……今となってはどのような策を弄したところで、破られるためにあるようなものだろう。
 では……シーアのほうは?
「つまらないの。じゃあ……普通に、滅ぼすね」
 これまで広く振り撒かれていたシーアの光が、ひとつに纏まった。あるいは、『纏めざるを得なかった』――何故なら彼女の翼の輝きは、最初と比べて随分と見すぼらしくなっていたのだから。

 ――魔力を削る能力だけなら、世界最強を自負しているよ。

 かの滅海竜すらをも疎ましがらせたマリアの雷は、今、そのシーアの最後の魔力をも喪わせきっていた。足りないぶんの魔力を捻り出そうとして、肉体が軋み、悲鳴を上げる。
 それでも――民兵などという“弱者”の命など。
 全身の細胞に染み込んだ、ただ天空を舞うことだけを可能にする魔力を集めて、削り取ってやることをシーアは選ぶ。
「……どうして」
 ルアナの口から、疑問が溢れる。

●勇者の目覚め
 ルアナは、肩を震わせていた。
「どうして、そんなに殺したがるの? これ以上戦ったら、シーアちゃんだって無事じゃ済まないのに……」
 多くの消耗は出たとはいえ犠牲には至っていない今ならば、退けば、誰も追いかけて命奪いまではしないとルアナは知っている。いや、彼女ばかりかカミーリアもそう踏んでいるようで、いつでも作戦を切り上げられるよう逃げに徹した立ち回りに変えている。
 では……もしも、シーアが人を殺めてしまえば? 自分にその力があるかはルアナ自身にも判らないけれど、少なくともシーアに向けて燃え盛るメイスを向ける、あの赤毛の女司祭は黙ってはいまい。
 シーアにこのまま戦わせつづけたならば、自分は2つの意味で友達を失ってしまうに違いなかった。その事実がルアナの体を、シーアから民兵をかばうように突き動かしてゆく。それは、きっと必要なこと。けれどもそれは彼女の体が、シーアの悪意、あるいは歪んだ無邪気な善意により無理矢理動かされているということ。
 辛い。
 苦しい。
 今すぐにでもシーアと戦うのをやめてしまいたい……そんなことをすれば自身の背に隠れている民兵が、命奪われることになりかねないけれど。

 苦しむ者を救うためならば、ヴァレーリヤはどれほど滑稽者と蔑まれたって構いはしなかった。
「……ぐう無念、カミーリアの鎖に囚われて私はもうダメかもしれませんわ……でも、私のことは構わないで下さいましマリィ。敵の援軍がアハトアハトを固めてしまったらお終いでございますわ!」
 大袈裟な演技にてシーアの気を惹かんとし。けれども……その姿も、声も、今のシーアにはもちろん、ルアナにさえも届いていない。

 目の前で徐々に傷ついてゆく、友達の姿。そして、それを為すのは自分の仲間たちなのだ。ルアナとて皆がそうしなければならないことは理解しているし、皆がやらないなら自分がそうしなければいけないとも知っている。
 だからこそ……相反する望みの間で、自分に感覚があるのかどうかすら、判らなくなっていた。
 朧げな視界、くぐもった音。何とかしなきゃと思い、足掻いても、剣を握るべき手に力が入らない。激しく苛む頭痛ばかりが増してゆく。
「はやく、アナタの中にあるものを見せて」
 あなたは、何を言っているの? それは民兵たちや、あなたの命よりも重いものなの――?

『――なら、私が出るわ』

 頭痛のあまり気を失う直前に、“少女ルアナ”はそんな声を聞いたような気がした。けれどもその正体は、彼女自身には判らない。その正体を理解できているのは、グレイシアと、シーアと、カミーリア……それから、今目覚めたばかりの“勇者ルアナ”だけだ。
 少女の姿が見る間に成長し、迷いの表情は覚悟へと変わる。
 力を帯びた、剣を持つ手。シーアを振り払った勇者の眼差しは……きっとシーアにはぞくりとするものに映っただろう。
「……今は依頼中だ。吾輩に攻撃が当たらぬよう、注意するように」
 状況を鑑みるに仕方はないが、と憮然とした様子のグレイシアへと、魔王ならそれくらい避けて当然と言い放ち。鋭くシーアを攻め立てる勇者。
「どうなっているんだ……?」
 しばし呆然としていたイズマではあったが……ルアナが敵になったわけではないと判ったならば、為すべきことなど一つしかない!
「今だ! このまま押し切ってしまおう!」

 ロレンツォやヴァイモーサ然り、カミーリアやシーア然り。セフィロトという宗教団体は他者に死を押しつけてくるものらしい。
 生きようと戦う人々が、そんなものに弄ばれることなんてあるべきじゃないと、イズマは固く信じている。
 いや……イズマだけであるものか。ヴァレーリヤの――クラースナヤ・ズヴェズダーの祈りは互いに助け合い生きる者たちのためにあるのだし、マリアはもし「ヴァリューシャがそれを望むから」なんて理由がなかったとしても軍人として人々に一方的に死をもたらす者たちに抗ったろう。
 これまで愛すべき者たちの守りに徹せざるを得なかったガイアドニスも、ようやく力を奮う時が来た。イリスの演説が未来の容(かたち)を人々に示す――すなわち、善良で勇敢なる者たちが邪悪を屈服させた世界を。
 そして、民兵たちの一人ひとりも。

「これ以上、続けるかい?」
 武器商人がカミーリアへと嗤いかけた。
「続けてくれたほうが我(アタシ)にとっちゃ好都合なんだがね……後顧の憂いを断てるんだからね」
「冗談」
 嘲笑い返すカミーリア。
「一つの目的の成った今、暇潰しで命を奪われては敵わぬわ」
 そして、彼女はがらりと戦術を変えた。
 愉悦の表情は新たに大地より生えた無数の鎖に覆われて、すぐに見えなくなってゆく。さらに鎖はシーアの片腕にも伸びて、乱暴に彼女を戦場から引きずり出した。加えて、別の鎖が僧兵たちを縊り殺さんとしていた天衝種をも――。

 それは、カミーリアがシーアを連れて撤退することを選んだ証左であった。もしも追おうとする者がいたとしてもすぐに今は僧兵たちを助けねばならないと思い出すように、獲物への攻撃を邪魔されて暴れ狂う天衝種に追っ手を阻ませながら。
 もっとも……それは必ずしも次なる犠牲を許したことを意味してはいまい。彼女らの言葉を信じるならば、彼女らは今日の戦いにおいて、人を殺す理由を一つ失ったのだろうから。
 では今は、改めて目の前の出来事に集中する時間だ。グロース師団を打ち破り、新皇帝派の手から人を殺める武器を奪うのだ!

成否

成功

MVP

イリス・アトラクトス(p3p000883)
光鱗の姫

状態異常

ルアナ・テルフォード(p3p000291)[重傷]
魔王と生きる勇者

あとがき

 皆様の行動の一つ一つを細かく見てゆくと、必ずしも全てが効果的だったとは言いがたかったかもしれません。
 ですが、『縛鎖の支配』に対する予防が充実しており、カミーリアに支配される民兵の数を抑えられたことは、大きな成果に繋がったのです……。

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