シナリオ詳細
<ジーフリト計画>赤い薔薇の花言葉
オープニング
●九頭竜の疑惑
状況は逼迫していた。各派閥が鉄帝地下に眠るフローズヴィトニルの欠片を奪い合うその一方で、独立島アーカーシュもまた別方面の作戦を展開していく。
それはマイケル鍾乳洞によってラドバウ独立区の勢力圏と繋がったバラミタ鉱山の攻防戦である。
鉱山には地下資源を初め様々なものが眠っている。特に今のような状況であれば有力な資源地はなんとしても手に入れたいと考えるだろう。それは新皇帝派とて例外ではない。
故に新皇帝派を相手にした激しい争いが鉱山周辺で勃発していたのだ。
その一方で、ある舞台の幕が再び開こうとしていた。
九頭竜 友哉は九頭竜商会を母体としたヤクザ組織九頭竜組の長である。
商会の力を使いアーカーシュに貢献してきたが、その裏で新皇帝派への内通や物資の横流しが行われていたことが発覚した。
この事実は九頭竜を敵として認定するに充分なものであり、魔種『メリナ・バルカロッタ』と共に島を脱走。その後の行方は知れていないが、新皇帝派の手先として動いているだろうとみられていた。
だがその意見に異を唱える者がいる。雑賀 千代(p3p010694)だ。
「友哉さんがそんなことをするはずありません!」
千代にとって友哉は頼りになる幼なじみであり、確かに冷酷で冷淡なところはあれど根は優しい男だと信じていた。それになにより、彼が何かを企むならいつも無茶な仕事をふっても文句を言わない千代を『利用しない』のはおかしいのである。
九頭竜の今回の行動は、社会から真性のクズと言われる彼であっても、千代から見ればあまりに不自然であったのだ。
そしてその疑問は彼女による賢明な調査と、そして九頭竜の部下である猫耳娘によってもたらされた情報によって明らかになる。
●薔薇の棘
九頭竜 友哉と九頭竜組はアーカーシュに潜入前、ある組織の接触をうけていた。
それが新皇帝派の参謀、グロース・フォン・マントイフェル将軍及びその師団である。
グロース師団といえば今でも鉄帝各地に手を広げ様々な角度から鉄帝市民に苦痛を浴びせている悪の根源とも言える存在だ。
グロース将軍らが九頭竜に提示したものは、自分達への協力。金を稼ぐことを第一とする悪徳商人である九頭竜はその話に乗りつつも、自分達の安全と自由を確保するための対策を忘れなかった。だが、その点においてグロースは一枚上手だったのだ。
「グロース師団は若に『人質』をとりました。それが……あなたです、雑賀 千代」
組員の一人がそう、重々しく告げた。
「…………」
エル・エ・ルーエ(p3p008216)はある劇場のパンフレットに目を落とし、その瞳にどこか悲しい色を浮かべた。
新皇帝派に脅され内通していた九頭竜。その保険として付き添っているのがあの『薔薇の魔種』であった。
あまりにも美しい、見とれるほどの立ち姿。それはエルが鉄帝の劇場で見た、完璧なまでに美しい演技を見せる女優メリナ・バルカロッタの『なれの果て』であった。
劇団『黒染めの赤』に所属するメリナが演じた『薔薇』はあまりに難度の高い演技であり、演じられる女優は世界中を探しても他にいないとさえ言われたほどである。それを演じきったメリナは間違いなく名女優であり、言い換えるなら天才であった。
しかしある時を境に舞台上で反転(魔種化)を起こし、その場から逃走。後の行方は分かっていないとされた。
それと今、自分は対峙しようとしている。
九頭竜が新皇帝派に反抗した場合、メリナが自動的に動き雑賀 千代を殺害するという『約束』が成されていた。
それは反転までして舞台の上で咲き誇ろうとしたメリナの生き様を穢すものであり、そしてなにより……エルはメリナの演技に不思議な『悲しさ』と、僅かな『懐かしさ』を覚えていた。
あの人たちの助けになりたい。
エルは心の中でそう思うようになっていたのである。
●竜と薔薇
千代とエルが二人との再会を望む中、その機会は唐突にやってきた。
バラミタ鉱山付近にある渓谷にて、九頭竜商会(九頭竜組)の面々によって新皇帝派用の拠点が築かれているという情報が入ったのだ。
現地には新皇帝派から貸与されたとおぼしき天衝種が複数体。そして厄介な魔種であるメリナ・バルカロッタ。
当然九頭竜組の長である九頭竜 友哉の姿が確認されていた。
「この拠点の襲撃が依頼主からのオーダーです」
情報屋はそのように述べ、千代とエルたちの顔を見やった。
「方法は……そうですね、問いません。わかっていますよ。九頭竜さんを説得したいのでしょう?」
情報屋の問いかけに千代はこくんと頷きを返す。
彼が脅されていた事実が分かったとはいえ、彼が新皇帝派に反抗できない事には変わりない。そんな状況を打開したいという千代の想いを組んでか、情報屋は次のように述べた。
「九頭竜氏が新皇帝派に反抗できないのは千代さんが人質となっているから。しかし、あなたがただ守られるだけの人間でないことを証明できれば、彼は反抗を決断できるでしょう。あなたが彼の『弱点』ではなくなるのですから」
だがそれは同時に、魔種メリナ・バルカロッタや天衝種たちに戦いを挑むということであり、生半可な覚悟で実行できることではない。
だが覚悟するだけの価値はある。
なにせ、新皇帝派への内通者を逆に寝返らせることができればそれだけで新皇帝派の情報を獲得でき、更には相手の供給ルートを一つ潰す事が出来るのだ。千代だけではない。アーカーシュ派閥にとっても得のある話なのだ。
「後のことはお任せしましょう。彼を倒すか、仲間に引き入れるか……」
- <ジーフリト計画>赤い薔薇の花言葉完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年02月11日 21時25分
- 参加人数6/6人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 6 人
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参加者一覧(6人)
リプレイ
●狂気の先、見たかった景色があったはず
『小さな願い』エル・エ・ルーエ(p3p008216)の胸の中には、まだあの花が咲いている。
(メリナさん、メリナさん。
どうしてお強いのに、どうして悲しいのですか?
本当に立ちたい場所に、行けないから、でしょうか?
それとも、ずっとずっと「薔薇」を演じることが、お辛いのでしょうか?)
魔種と人として力を交わしたあの数刻。ほんの短い時間といえど、エルの心には深く想いが刻まれている。
(どたばたあわあわ、そんな冬が、ずっと続いてしまったら。
冬を好きに、なってもらえないって、エルは思いました。
綺麗な薔薇が、恐ろしい冬に埋もれて隠れて、まことのこころが見えなくなっても。
冬の薔薇のトゲが、とっても痛くても。
それでもエルは、綺麗な薔薇を、メリナさんの事を、もっともっと、知りたいのです)
そう、思えてしまったのだから。
「向こうもなんつーか趣味のお悪い事で。
元女優を護衛につけててしかも向こうの意図が読めてないってか?
ったく、悲劇の舞台を押し付けるのは『此方の仕事』だっての」
概要を纏めたメモを読み直して、『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)はため息交じりに額に手を当てる。
そのままぐいっと前髪を押し上げるようになでつけると。専用のゴーグルを装着する。
ここはバラミタ鉱山付近にある渓谷地帯。
九頭竜商会が簡易拠点を築いたという情報は既にアーカーシュへと届き、これが新皇帝派の拠点であることは明らかである。
「独立島アーカーシュの特性から行って切り崩し調略は避けられないものであったな……。
だがイレギュラーズの知己であったのが不幸中の幸いってやつだな」
『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)は拠点が見える高所から、警備目的に配備されたとおぼしきモンスターたちを観察していた。
「目的は殲滅じゃなく説得……だったか。なら、まずはあのモンスターを排除しないとな」
「確かに。先ずは露払いが必要そうですね。邪魔者には退いていただきましょう」
『Le Chasseur.』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)は黒いケースを開くとパーツ分解されたライフルを取り出し、器用にもその場で組み立て始める。
最後に弾帯を肩から提げるようにまくと、ちらりと仲間たちを見やった。
「保険をかける程度には、彼らも其の可能性を捨てきれてはいないのです。
用意周到とも取れます……が。つけ入る隙は存分にあるかと」
『新皇帝派』はなにもバルナバスに心酔する軍部のみの話ではない。内紛を起こすなら軍事力のみではたち行かないものである。九頭竜商会(九頭竜組)のような総合的な流通力をもつ組織も必要としているのだろう。
「味方につけるために、人質……ですか」
ドラネコがぱたぱたと飛んできて、『ドラネコ配達便の恩返し』ユーフォニー(p3p010323)のもとへ戻ってくる。どうやら拠点周辺はモンスターによって警戒されているらしい。こっそり近づくのは難しそうだ。
ちらりと見ると、『立派な姫騎士』雑賀 千代(p3p010694)が瞳に決意の火を灯し九頭竜の拠点を見つめている。
(私が友哉さんの「弱点」……?
なら私が「弱点」にならなければいいんですね?
証明してやりますよ! 雑賀千代は守られるだけのか弱い女じゃないってことを!
言いたい事は沢山あります……ですが)
なんといっても裏社会の住人である。新皇帝即位後に大きな力をもつ派閥と接触する機会は当然作っただろう。魔種たちがバックにいることを気にするほどヤワではない。そして多少の圧をかけられたとて動じないだけの備えもあったはずだ。
そんな『彼』が動じるだけの弱点が、皮肉にも自分であったなどと。
だが、その前提さえ解消してしまえば九頭竜の協力関係は崩れる。
「とりあえずぶん殴っても連れ戻しますよ、友哉さん!」
●
拠点へと近づこうとした錬たちを待ち受けていたのはモンスターの集団であった。
統率こそとられていないものの、一体ずつがそれなりに強力な天衝種である。
「あくまで俺たちの邪魔をしようって考えか。悪いが、ここから先のステージにあんたらは必要ないぜ!」
錬は『相克斧』の術符を引っ張りだし、長杖とクロスさせる。作り出した盾のピック面が露出した形で合成され斧の形状を取り始めた。
モンスターの中から巨大なカマキリが飛び出し、岩石のような巨体から鋭いブレードを繰り出してくる。
常人であれば一撃で刈り取れるところだろうが、あいにく錬は常人をはるかに越えている。斧のブレードで威力を相殺する形ではねのける。
「説得の時間稼ぎぐらいはやってやれない事はない。これでも俺は戦える職人で通っている故な!」
「今井さん!」
ユーフォニーが叫ぶと、彼女の後ろからスッと姿を現した係長今井さんがアサルトライフルを構えた。
「錬さんの援護を!」
「――了解」
美しくよく通る声で今井さんは応えると、ライフルを連射モードにして巨大カマキリへと攻撃し始めた。
至近距離で打ち合う錬。その対応で手一杯になっている巨大カマキリの前身にばすばすと穴が空き、たまらず巨大カマキリが後退を始める。
今井さんは懐から上品な模様の描かれた手榴弾を取り出すと、口でピンを引き抜き投擲した。
爆発の煙が広がるその中を、頭から薔薇の花をさかせた等身大デッサン人形が駆け抜けてくる。
「後衛狙いか……。近寄らせるなよ」
カイトは真っ先に氷戒凍葬『黒顎逆雨』を発動させ、影響領域内で地面から黒き雨が空に向かって降り上がらせる。
固まって突撃していた薔薇のデッサン人形たちは影響を受け次々に転倒するが、突進はそれだけに留まらなかった。
巨大な茨が絡みつきあちこちに薔薇の花を咲かせた巨大猪型のモンスターが吠えながら突進をしかけてくる。
【封殺】の力を発動させているが、どうやら巨大猪には通用している様子がない。攻撃をいなされているとみるべきだろう。
「仕方ない。無理にでも止まってもらうとするか」
氷戒凍葬『凍獄愁雨』を発動。雨によって空間が凍り付く。巨大猪の表面に絡みついた薔薇がぱらぱらと砕けて落ちていった。
それでも止まらない猪めがけ、アッシュと千代がそれぞれライフルを構えた。
「先ずは露払いが必要そうですね。邪魔者には退いていただきましょう」
銀の弾丸が放たれ猪の足へと命中。装甲として機能していたであろう薔薇が砕け、猪の足が見るからに鈍った。
千代は狙撃銃『白烏』の狙いを猪の額に向け――ようとして、素早く目にシフトさせた。
熊のような大型の動物は頭を撃っても頭蓋骨に弾を止められることがあるという。確実性を狙うのだ。
「邪魔だ、退きなさい!」
放った弾は直撃し、猪は痛みに悶絶するように声をあげた。それでも突進する勢いだけは止まらないようで、アッシュはライフルをくるりと回して銃身を握り込んだ。
まるで棍棒でも構えるようにすると、突っ込んできた猪の鼻っ面を横向きに殴りつける。
銀の軌跡を描いた打撃は猪を派手に横転させ、雪の残る地面を軽くえぐりながら滑らせる。
「行きましょう」
アッシュは先へと進みながら、腰のベルトにさしていた長細いペンシル状の物体を抜き、親指で器用にひねる。ピッと赤いシグナルランプが点灯したところでアッシュは回転をかけて投擲し、後方に構えていた数体のパワードスーツ型モンスター『ラースドール』へとぶつける。
こつんと相手のボディにぶつかった次の瞬間、爆発がラースドールを包み込んだ。
固まって援護射撃を行っていたラースドールたちが纏めて爆発に巻き込まれたところを、千代が走りながら狙撃銃による連射を浴びせていく。
「カモン! ミサキちゃん!」
寄生触手生物『ミサキ』を呼び出すと、触手は大量の脚を生やしたかのごとく地を駆け千代を加速させる。
「サメエナガさん」
するりと身体をくねらせ空中を泳いできたサメエナガ。エルはその背に飛び乗ると、『冬のおとぎ話』の力を解放させる。
雪結晶の如きシンボルがエルの周囲へと散り、まるで意志を持ったかのようにぐるぐると踊り始める。
エルは翳した手に願いを込め、ラースドールたちへと振り下ろした。
次々と飛んでいく雪結晶シンボル。回転するそれらがラースドールの装甲に守られたボディへと突き刺さり、最後の一発がめり込んだところで爆発を起こさせた。
「――メリナさん」
拠点の建物から、強い力を感じる。
ガラス窓の向こうにうつる大きな薔薇を見て、エルはそれがメリナ・バルカロッタであると確信した。
「みなさん、ふせてください」
エルが囁くように、しかししっかりと唱えると周囲に治癒の力をもった粉雪を発生させた。
と同時に施設の窓が破壊され、大量の茨が飛び出してくる。
茨に守られるように、そして堂々と踊るように現れたメリナ・バルカロッタの姿はあまりにも美しく、狂気を感じさせるほどに『完璧』であった。
吹き付ける薔薇の花吹雪と、エルの放つ雪が混じり合い相殺しあう。
「メリナさん、メリナさん。どうしてお強いのに、どうして悲しいのですか?」
エルは問いかけるように、そう呟いた。
●紅
「さぁ、武骨な舞台だが一緒に踊ってもらうぜ。一度壇上に上がった演者には観客も監督も関係ないな?」
茨に囲まれながらゆっくりと降りてくるメリナに、錬は『樹槍』の式符を発動させ瞬間鍛造した木の槍を発射。が、それがメリナの眼前で止められ茨によってへし折られる。
BSの付与に成功した手応えは、ない。そのことを仲間にサインで伝えると、アッシュやカイトたちが側面へ回り込む形でメリナの包囲を始める。
途端、薔薇の花びらが全方位に向かって広がった。
術式を発動させ防御を固めながら錬は距離を詰め、『相克斧』の術式を再度発動。メリナへと斬りかかる。
直撃するコース――だったが、まるで卵の殻のように広がり固まった茨によって攻撃が止められる。
「こいつを抑えるのは、俺でも少し手子摺りそうだ……」
錬の頬に汗が流れ、反撃の花弁が彼の前身を切り裂きにかかる。
だがその状態を許すカイトたちではない。
術式を発動させメリナを追い込みにかかる。
いや、カイトの主観からすれば追い込むというより……。
(どんな事情があって、堕ちたかまでは俺には推し量れねぇが――俺は役者には役者として接しさせて貰うし。そういう『舞台』を用意する)
メリナが『戦いたくなる』ような状況を彼は意図して作り出していた。
状況的に見て、格上の相手にBSの付与を狙って引きつけるより確実性は高いだろう。
「さてと、そんな(魔種)になっても俺は『役者は役者であるべきだ』とは思っててさ。
ただのいつも通りの場作りでも問題は無いわけだが――。
女優は女優であるべきで。役者の端くれとしては単なる護衛の兵器みたいな扱いが腹立つ訳よ。
悲劇の女優とかそーいうくっっだらねぇ言葉はいらんのよ。
あくまで必要なのは、この舞台が最期でも後悔させないくらいの最高の、だろ?」
シニカルにそう言い切るカイトの一方で、アッシュは岩陰に身を隠しながらライフルを連射。リロードし再び狙いをつけようとした――ところで、気配を感じて素早く飛び退いた。
それまでいた場所を銃弾が抜けていく。
「弾を避けるか。非常識なことしやがる……」
振り向くと、そこには黒いスーツの男が拳銃を手に立っていた。
九頭竜友哉そのひとである。
「友哉さん!」
千代が反射的に呼びかけるが、友哉は手ぐしで自らのヘアスタイルを整えると眉間に皺を寄せてため息をついた。
「……千代。俺を殺しに来たか?」
銃の狙いが千代へ向く。
それを阻むようにアッシュとユーフォニーが間に入った。
「事情はどうあれ、貴方がいるべきは此処ではない様に思いますが。屹度、貴方が過敏に過保護になるほど弱い人ではないでしょうから」
アッシュによる射撃を友哉は素早く回避し、すかさず拳銃による連射をしかける。
一歩も退かぬ姿勢はさすが九頭竜組の若頭といったところか。
だが、本当にここで交わすべきは銃弾ではない。
「小さく、頼りない背中だっていつの間にか見た目以上に強く、頼もしく育っているものです。
だからもう、肩を並べあっても良いではないですか。
女の子だからとて。戦う意思を持ったなら、もう守られてばかりではありませんよ」
アッシュのいわんとすることは、確かに友哉に届いているはずだ。
その証拠というべきか、彼の銃弾はアッシュにかするばかりでまともに命中していない。
ユーフォニーはあえて今井さんに銃をおろすように求めると、友哉に強く視線を向けた。
「九頭竜さん、強さって何でしょう」
「なんだと?」
「私、千代さんとはそんなに面識があるわけではないです。
でもローレットのイレギュラーズは…私たちは、仲間のピンチは絶対に見過ごしません。
必ず助けに行きます。何だって手を尽くします!
そういう仲間がいること……それは強さのひとつではないでしょうか」
そうでしょう? 問いかけるように振り向くと、千代は覚悟を決めたようにライフルを構えた。殺すための射撃ではない。なぜなら、千代は『ミサキ』の加速に任せ友哉めがけ猛烈に突進をしかけたのだから。
「――ッ!?」
捨て身の突撃とでも言うべき行為に、向けた銃の引き金にかけた友哉の指がこわばる。
それが最大の隙となり、千代は無理矢理に彼を押し倒した。
「離れろ、千代!」
押しのけようとする友哉の手首を掴み、千代は尚も彼を押さえつける。腕力では叶わないはずなのに、友哉はしかし彼女を押しのけることができなかった。
「どうして私を頼ってくれないんですか!
私は貴方の「弱点」のままでいる女じゃありません!
魔種にだって負けない強さも持ってます!
私は最愛の幼馴染を助けられない女じゃない!」
ぽろり……と、友哉の手から銃が落ちる。
その瞬間を、メリナはまるで機械のように感知した。
それまでカイトたちと満足そうに戦っていたメリナが突如として振り向き、薔薇の花弁で作り上げたナイフを投げ放つ。
それは間に入り錬が瞬間鍛造した石壁を容易に貫通し、千代の頭部へと迫った。
これだけの威力が人間の頭部に刺されば何が起こるかなど想像にかたくない。
エルが彼女の名を叫ぼうとした、その時。
「チッ――!」
友哉が咄嗟に千代との上下を入れ替え、飛んできたナイフを自らの腕で受け止めた。腕をざっくりと貫通したものの、払いのけるような動作によって衝撃が逃がされたのかそれ以上の破壊をもたらしはしなかった。かわりに友哉が転がり、腕を押さえる。
追撃にかかろうとしたメリナ。その目の前に、エルが立ち塞がった。
向けたのは敵意……ではない。
「メリナさん、メリナさん。どうしてお強いのに、どうして悲しいのですか?」
再び同じ問いを投げかける。
しんしんと降り始める雪が、メリナの展開する花弁と混じり合っていく。
「本当に立ちたい場所に、行けないから、でしょうか?
それとも、ずっとずっと「薔薇」を演じることが、お辛いのでしょうか?
エルはもう少し、メリナさんの事が、「薔薇」でないメリナさんを、もっと知りたいです」
それは、あるいは幻だったのかもしれない。
エルは無限のように広いコンサートホールの舞台上で、降りしきる雪と薔薇の花弁のなかにいた。
舞台の中心には、美しく咲き数々の人生を見てきた一本の薔薇がある。
それはかつてエルが鉄帝の劇場で見た、ある不思議な演目である。悲劇が、喜劇が、あるいは言葉に出来ぬような人生のいたずらが繰り広げられるその中心に、ただ薔薇がある。
主演女優の役は、ただひたすらに薔薇であった。
ただ立ち尽くしているだけに見えるそれは、見るものに『薔薇の感情』を焼き付ける。いわば演技の究極の姿であり、芸術の頂のひとつだ。
それを完璧にこなし続けることはしかし……人間には、不可能だったのだ。
完璧を求め、美しい薔薇になろうとし続けた女優はついに。
薔薇そのものと成り果てる。
人生のいたずらを眺めるのみで、何もできはせぬ、咲いては散ってをくり返す、ただの薔薇に。
「――ッ!」
ハッと息を吸い込むエル。
気付けばメリナはその場から消え去り、薔薇の花弁だけが雪の地面に残されていた。
「いま、メリナさんの心が、わかった気がしました……」
身体を起こすエル。ふと見ると、涙を流す千代とそれを困ったように見やる友哉の姿があった。
薔薇の気持ちが、少し分かった気がした。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
――メリナ・バルカロッタは逃走しました
――九頭竜友哉は新皇帝派から離脱し、独立島アーカーシュへ再び協力するようになりました
GMコメント
バラミタ鉱山付近にある渓谷にて、九頭竜商会が簡易拠点を築いています。
ここを襲撃し、拠点を破壊することが主な成功条件となっています。
●エネミー
・九頭竜 友哉
九頭竜商会(九頭竜組)の長。個人戦闘力も高く、金儲けに関しては手段を選ばない悪党の一人。
ただし雑賀 千代だけが弱点であるらしく、新皇帝派に千代を人質にされたことで内通を図っていた模様。
彼をこちら側に寝返らせるには、千代が殺されないだけの強さがあることを示す必要がある。
・メリナ・バルカロッタ
九頭竜の保険として付き添っている魔種。彼女自身に意志があるのかどうかは外見からは判断できない。
ただ高い戦闘能力を持っていることだけは確かであり。このフィールドにおいて最も危険な存在と言えるだろう。
・天衝種
現場の防衛のために貸与された複数の天衝種。
種類は様々だがどれも戦闘に優れたタイプである。
もし誰かと面と向かって話をしたいなら、この天衝種たちは厄介な邪魔者となるだろう。
●特殊ドロップ『闘争信望』
当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran
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