シナリオ詳細
<腐実の王国>狂火の聖騎士ロレント
オープニング
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聖騎士になるのは、子供の頃からの俺の夢だった。
子供の頃から、人々の為に戦い、そして護る聖騎士の親父に憧れていた。かっこいいし、なんというか。すごくそれが正しい、それこそが俺の在るべき姿だって気がしていたんだ。
生まれつき身体は強い方じゃなかったけど、それでも頑張って訓練を続けて。俺は聖騎士になる事が出来たんだ。
とは言っても、まだまだ俺は未熟だ。実力も肩書も平々凡々。街の警備をしている一兵に過ぎない。
けど、それでもこの仕事に誇りを持っている。街の人々とはまるで家族の様に親しくなれた。俺はそんな彼らを護る手助けになれている事をとても誇りに思って――。
「殺せ……殺せ殺せ、殺せ……!! 燃やして、殺して、――が――だ。そう、アア、殺せ……!!」
俺は街に住む青年の胸に剣を突き立て、持ち上げていた。そして授けられた力を行使すると刃に炎が纏い、焼き焦げたソレを放り投げた。
何故?
「――――――」
俺が引き連れていた騎士の1人のその言葉に俺は頷くと、そいつは更にもう1人の市民を槍で刺し殺した。
「――――」
「――――」
俺達は次の標的を探して歩き回る。
「ロレントさん……やめて、やめて! 貴方みたいな優しい人がどうして……!!」
「アァ? アァ……そりゃあ――――が――――だからサァ……ク、クク、ハ、死――ガァ!!」
俺は泣き叫ぶ女を、炎を纏った斬撃で斬り殺した。確か酒場に勤めていた女性だった。優しい笑顔が特徴的だったのを覚えている。
……何故?
「ハ、ハハ、死、狂――――助け、ガ――笑え、殺――俺を殺して――ヒ、ヒハハハハハ、アハハハハハハハハハハハハ」
俺は笑いが止まらなかった。おかしくておかしくて。涙が出るほどに笑っていた。
これは一体なんだ?
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――仔羊よ、偽の預言者よ。我らは真なる遂行者である。
主が定めし歴史を歪めた悪魔達に天罰を。我らは歴史を修復し、主の意志を遂行する者だ。
「……なんて神託が天義の法王、シェアキム六世に降りたって事は、もう皆知ってるかな? この神託を切っ掛けとする様に、天義の各地ではいくつもの混乱と事件が巻き起こっている。聖遺物から毒が溢れ、銀細工が腐食し、水が腐り始める……不吉以外の何物でもない出来事がね。そしてそれと時を同じくして、狂気に侵される人々が顕れ始めている。君達が今回相手するのは、そんな狂気に侵された人物の1人。聖騎士ロレントと、彼が率いる聖騎士達だよ」
【ガスマスクの情報屋】ジル・K・ガードナー (p3n000297)は、イレギュラーズ達に説明を始める。
「聖騎士ロレント達は現在、天義のヴィンテント海域に面している美しい白亜の街、エル・トゥルルの一角を徘徊し、無差別殺人を繰り返している。それが市民だろうと他の聖騎士だろうと見境なく、だ。恐らく彼らは強い力を帯びた『何か』の影響を受け、こんな事件を起こしたんだろうね。本人の意思では無いと思う。特に最も強い力を振るっているロレントは、品行方正を絵に描いたような好青年で、多くの人たちから好かれていたらしいしね」
聖騎士ロレントは元々平凡な聖騎士程度の力しか持っていなかったが、今は怪物じみた身体能力と、業火を操る力を手にしているらしい。また、狂った聖騎士達はバベルで読み取れない謎の言語を度々用いているという情報もある。
「戦場はエル・トゥルルの街の中になると思う。人々の大半は彼らの危険性を認識し、その多くは避難しているだろうけど……逃げ遅れた人がいる可能性もある。出来る限り被害を抑え、狂気に囚われた彼らの凶行を止めて来て。それじゃ、頑張ってね」
- <腐実の王国>狂火の聖騎士ロレント完了
- GM名夏あかね
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年03月01日 22時15分
- 参加人数8/8人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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――幼い頃、目指していた姿はどのようなものであっただろうか。
神に忠義を誓い、人々を護るが為に剣を振る騎士の姿に憧れたのは……。
「ああ、もう殺しちゃったのか」
嘆息してから『若木』寒櫻院・史之(p3p002233)の指輪には淡い光が灯った。唇が、暗く悍ましい声色を紡いだ――一線、越えちゃったね、と。
余りに引き攣った男の表情など然程興味も無く、まざまざと伝えられるのは当たり前の真実のみ。
「命はね、奪ったら、それっきりなんだからさ。もう『越えたなら』どうしようもない。世界と倫理の不文律だ」
淡々と告げる史之を見遣った瞳は血走っている。彼が「聖騎士ロレント――ねぇ。そうとも見えない程に、狂人だ」
長く伸ばした銀の髪を冬風が撫でた。『闇之雲』武器商人(p3p001107)はおとがいに指先を当ててからこてんと首を傾げてみせる。
「まァこの手のタイプの性格を考えれば、殺してやってもいいとは思うのだけど。
……生きて償うという選択が取れる程度には、慕われてたみたいだから生きてていいんじゃない?」
「ああ。それでも『最悪の場合』は覚悟しておくべきか」
背筋をぴんと伸ばしていた『特異運命座標』陰房・一嘉(p3p010848)は鎮圧した後に彼等が正気に戻るのかを懸念点として上げていた。彼等が狂化した切欠が何処かに存在している筈である。それの対応を行なわねばならないだろう。
――そう、切欠。言い換えれば『狂気を伝播する何か』が何処かにあるのだ。
「真面目な人が、脈絡もなく……かぁ。なんだか、これを言い表す単語があったような気がするけど。
手遅れ、って断じたくはないよなぁ。俺等は平等に善人では無いだろうけど、可能性を模索する権利くらいは皆抱えてるし。
手を伸ばせるなら……しときたいよな」
「優しいねぇ、埋め火の子は」
からからと笑った武器商人に『歩く禍焔』灰燼 火群(p3p010778)は肩を竦めた。
巷では彼は其れなりに親しまれた騎士であったらしい。ロレントは今や見る影もないが、父の後を追い、子供に優しく朗らかな青年だとエル・トゥルルの者達は言う。そんな彼の突如とした豹変を誰もが受け入れられずに居た。ワイドショーのような『そんな人では無かった』を大きく体現しているのだから、言葉にも出来まい。
「殺してしまうのが楽なんだろう。こちらにも相手にも。
相手は自身の意思ではないとはいえ無辜の民を……隣人を殺してしまった。既に被害が、死者が出たから生き残ったらつらいだろう」
悔しげに『永炎勇狼』ウェール=ナイトボート(p3p000561)は呟いた。良心の呵責にロレントは苦しむだろうか。遺族の恨みの声を受け続けて彼は何処まで耐えられるのだろうか。
(屹度、辛いことになるだろう。守ると願った相手から向けられる軽蔑や憎悪の瞳。そうであるかも知れないと疑うことになる疑心暗鬼は何処まで辛いか)
ウェールにも覚えがあった。自身の過去の境遇よりも更に苦汁を舐め凌ぐ未来があると云うならば殺して遣った方が救いなのでは無いかと、己の中で囁く声さえもある――
「自分の意思に関わらず人を殺してしまうのも、殺されてしまう人も……誰も救われないじゃないか。
そんな神託に従ってやるものか! 一刻も早く聖騎士達を止めるぞ!」
堂々と宣言した『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)にウェールは頷いた。
死とは冷たい別れだ。ウェールにとって恐ろしかったのは生きることを諦める事であった。死なせて堪るものかと強く、認識する。
「ふむ……どうやら神託とやらに従っているというよりは、発狂しているだけのようですね。
宗教馬鹿どもが民草を斬り殺す様子は見ていて面白いですが、裏で何か糸を引いている者がいるんでしょうかねぇ。
……ま、他人の企みを邪魔するのは私の数少ない趣味ですし、せいぜい邪魔するとしましょうか」
くつくつと喉を鳴らして笑った『微笑みに悪を忍ばせ』ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)はやれやれと言わんばかりに肩を竦めた。
「ここでイレギュラーズと天義の間に分断が発生するのも面白くないですし、せいぜい生かしたまま正気に戻しますか」
小さく頷いた『スケルトンの』ファニー(p3p010255)は騎士達の姿を見付け駆けて行くイズマの背を追掛けた。
逃げ惑う人々。その向こうに正気さえ存在しない男が剣を振り上げる。血濡れのそれが光を反射し罪を象徴しているかのようでもあった――
●
「――地に伏せろ、首を垂れろ、おまえたちは頭上の星々を見上げることすら叶わない!」
朗々と告げたファニーのグローブの下には秘密があった。それは己が心を鼓舞するように存在感を主張する。白紙の本を開き、勝機へと路を開く。
生と死の境界に立っていた伽藍の青年に小さく頷いた武器商人の切れ長の瞳が長い前髪の隙間から覗く。
「やあ、骸骨のコ。前に行っても良いかい?」
ファニーは構うこともない。蒼々と燃え盛る炎と共に怪物は進む。破滅を体現するように蠱惑的に笑った武器商人諸共、ファニーが叩き込んだのは凶兆を告げた星。瞬く様に周囲に広がって行くその光の下をイズマは駆けながら叫んだ。
「危ないからここから離れるんだ! ロレントさん達は俺達が止める!」
イズマは人を殺すまいと己の奏でる全てに慈悲の光を帯びさせた。全てを引き寄せるべく、一気呵成に前線へと押し上げるイズマに続きウィルドは閑かに前線へと踏み込む。
如何なる攻撃を前にしても揺らぐことの無き圧倒の術。閑かに佇む男は肩を竦めてからその存在感を圧倒的な物とした。
「さて、どうしました?
……神託を受けたとかいう他の連中とも戦いましたが、正しい歴史とやらのために我らを討つのでしょう? くくっ、せいぜい頑張ってみなさいな」
「神託――アア、アアアアア――そうだ――殺さなくちゃ、ヒヒッ、ハハハ――――選ばれた者だけが!」
剣を振り上げたロレントは武器商人と相対していた。彼の連れる騎士達がウィルドを睨め付ける。
「殺せ」
ロレントの声音は地を叩く。雨垂が一つ落ちた程度の静かなものであったが、それが号令となった事は間違いは無い。
「ヒヒヒッ――――!」
笑い声を響かせながら騎士達が前線へと走り来る。酷く嘆息した史之は衛府を握り鯉口を切った。地を蹴って周辺へと叩き込むのは秋宮の秘術。
「この程度で死ぬタマじゃないでしょ、君たち。……まあうっかり死んじゃったとしても仕方ないよね。
俺は職業『殺人鬼』だよ。止めると決めたら死なせてでも止めるよ――これ以上被害を広げる訳にはいかないもの」
狂った男にはその冷静な声さえも届いていなかっただろうか。言葉とは裏腹に『殺さない』事を選ぶ史之は仲間達との足並みを合わせていた。
一嘉は刃に禍々しき闇の気配を纏わせた。命を奪う事は無きように再三の注意を行なう。傷を刻んだ呪いの気配――そうしてから蹴撃を以て圧倒し続ける。
騎士達は笑いながら、泣いている。その涙の意味が、本来の彼等だというならば騎士の尊厳を愚弄する何かが存在する筈だ。
「街を守る聖騎士が住民を手にかけるなんて絶対にダメだ! やめろ!」
イズマはただ、真っ直ぐに叫んだ。だが、騎士達は止まること無くその体を動かした。
「ヒヒヒ――――殺して―――俺は、どうして――――アア、アア、楽しいなァ―――!」
絵に書いたような狂気だ、と。武器商人は感じていた。焔を纏わせた剣が振り下ろされた先は武器商人。
「炎使いか、親近感が湧くねぇ。ヒヒ……ほら、"愛する市民をこれ以上殺したくないのならば、我(アタシ)と遊んでればいい!"」
囁き笑った武器商人は"彼女”の炎と共に在った。報復の乙女の気配を感じさせながら武器商人の声音だけがロレントの頭を支配する。
それを滅さねば、いけない。神託が告げて居るかのような悍ましい恐怖を感じ取り武器商人の元に炎が降る。
火群は「店長」と呼んだ。呼ばれた側の武器商人は「この子は任せておくれよ」と囁いた。
ならば、己の痛みを分け合うだけだ。傷こそが力となった。聖騎士達の動きを阻み、出来うる限りの被害を抑える。
それこそが、イレギュラーズに課せられた使命なのだから。
一嘉は静かに、息を吐いた。戦線を維持し、民を護る事にも注力する。
ウィルドの動きに、武器商人の動きに。其れ等全てを俯瞰するように確認し、一嘉は厳しい戦況の中で最も良い立ち位置を考える。
「聖遺物によった影響が強いというならば、大元を壊さねばならないか」
ロレントの握る剣が黒ずんでいることに気付いたのはファニーだった。血では無く、黒ずみ、それは形をも変形させる。
「なぁ、あの剣、へし折ってやろうぜ」
声を弾ませるように、まるで悪戯を思い浮かべたファニーに頷いたのは史之である。「あんな人を傷付けるものなんてへし折ってやろう!」と彼は静かな声音で笑った。
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騎士達が意識を失い倒れて行く。周辺に羽ばたく鴉の合図を聞きながらウェールは出来る限りの被害削減を狙った。
多くの騎士達を相手取っていた彼は、ロレントの様子が気がかりで堪らなかった。
人望篤く、夢に向かって邁進していた騎士は、今や人殺しの烙印を押されて『殺してくれ』とまでも叫ぶのだ。
「――殺して―――ヒヒヒッ、死ねェ!!!!」
「もう、混ぜ有った意識というのは混沌としていると云う他にないねぇ」
武器商人がやれやれと肩を竦めればファニーは「面倒な話しだ」と嘆息するように肩を竦めた。ファーがその伽藍の頬を擽ってから、彼の瞳に青褪めた炎が宿る。
「殺して堪るかよ」とファニーは笑った。仲間達の行動が慈悲に溢れていたのはそれぞれの思惑があるだろう。
火群は殺す事は出来なかった。ただ、死すること無く生きた先に救いがあればと願ってやまなかったのだ。
イズマは騎士であった男の矜持を傷付けたくは無かった。人を救うと決めた彼にとって騎士であるロレントも救助の対象であった。
人を救うと決めたならば、誰一人と無く取りこぼさぬようにして居たい。イズマの正義は救済に基づいているのだろう。
ウォルドは『今後のため』にその命を繋ぐ事にした。天義という国の在り方を見れば幻想貴族である彼にとっては禍根を残したくはない。惹き付けた騎士達の攻撃を受けながらもその様な事を考えたウィルドは『剣を折る』事に同意していた。
「さて、黒ずんだ剣。最も狂ってしまった騎士。そこから導かれる答えは単純明快である方が良い」
だからこそ、その剣をへし折り『人を殺した証』をその手から奪う事に注力した。
綺麗な言葉を連ねたって、その先に待ち受ける彼の人生を保証することは出来ない。それでも、死んで欲しくはないとウェールは悲しげな声を紡ぐ。
苦しんで生きるよりも殺す事が救いであることがあろうとも、生きてさえ居れば幸いがやってくる可能性があるのだと、彼は叫んだ。
「今回は聖騎士だけでも次は老若男女問わず狂うかもしれない! その時に騎士が! お前達がいなければ誰が! 誰がエル・トゥルルの人々を守る!!
俺達は万能じゃない、駆けつけるのに時間がいる。だからお前達が生きて死ぬ気で人々を守りながら死ね!」
ウェールは叫ぶ。涙が出るほどに笑っている男は何かにその身を操られているかのように腕をぐいと引き上げた。
振り下ろされる剣に武器商人が「良い切れ味だよね」と手を叩いて評価を下す。
「ヒヒ――――ヒ――――――――」
『理解出来ない言葉』が紡がれる。それが異言と呼ばれるものなのだろうか。エル・トゥルルに――そして、リンバスシティに現れた『異言を扱う者』は即ち、何らかの影響を受けた存在そのものなのだろうか。
だが、ロレントはまだ正気であった。殺してくれと己の言葉を紡げる程度に、人を殺したというその真実に向き合うことが出来ている。
その真実を見据える僅かな正気に言葉という刃を振り下ろし、訴え掛けながら、ウェールは自問自答し、苦しみながらも叫んだ。
「……このまま死んだらお前達が大切な人や家族が嘆くぞ。
少なくとも今回亡くなった人の分は誰かを守ってくれ。お前達と同じ経験をする人々を減らすために生き続けてくれよ……!」
ロレントの剣は淀むこと無く振り下ろされたかと思われた。だが、先程より精度が悪い。
簡単に片腕で止められてしまう程度の刃など、なまくらと同じだ。
「思い出せよ、この街を愛した自分自身を! 今のお前は何だ、何のために誰のために、その力を振るっているんだ!
おまえの敵は誰だ! 悲鳴を上げ逃げ回る無辜の人か、違うだろ! おまえは『何だ』!」
天義の『聖騎士』だ――そう、答えなくては彼の矜持は此処で砕けてしまう。
史之は震える声音を絞り出した。ロレントの動きが僅かに止まる。剣を握る腕が震え、返り血で汚れた頬にはぼろぼろと涙が伝い落ちて行く。
「生きろよ、生きて罪を償うんだ。死ぬのは簡単だよ。生きるほうがつらいんだ。おまえたちは罪を背負って生きていけ」
罪を背負うことはどれ程に恐ろしいことであろうか。生という監獄。正しく、狂った方が『幸せだった』とでも言わしめるのだろうか。
「生きて、……なんて……ッ」
「狂気に呑まれるなよ! 貴方は何のために訓練して聖騎士になったんだ? 街の人々を護るためだろう!?
……その職務を全うしたいなら諦めないでくれ。人々が信頼してる貴方達にこそ、この街を護ってほしい!」
イズマは乞うような声音でそう言った。しかし、目の前のロレントはぼたぼたと涙を流しながら虚ろな瞳で言う。
「殺したのは、知った顔、なんだ、は、はは……。小さい頃から世話になっていた……あの人……ひ、ひひ……」
膝を付いた男が頭を抱える。イズマはそれ以上の攻撃を止め、ただ、男を見下ろした。
頭を抱えて蹲った男の泣き声だけが港町に響いているかのようだった。そんな静寂に吐く白い息は冬の気配に攫われていった。
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――聖騎士になりたかった。そうなって、父のように誰からも愛される人になれることを夢見ていたのだ。
父は何時だって正義を掲げた清廉な人だった。何もやましいことは無く、人々のために笑顔を絶やさぬ人だった。
子供心で、父の後を継ぐのだと決めてからは訓練を重ねた。やっとの事で掴み取った夢へのチケットがぼろぼろと崩れ去っていく。
「あ――ああ……」
男の掌は赤かった。血だ。エル・トゥルルの人々の優しさを踏み躙った証が底にある。夢が儚くも散って行くかのような苦しみにロレントは膝を付いた。
(……そうだ。この人は何も悪くは無かった。
……突然普通だったのがおかしくなる事を俺も見たことはある。この人らもきっとそういう形なんだと思う。
もう戻らないって割り切って介錯出来る程俺も人間捨ててきてはいないし、逆にやってしまったことは戻らないのは事実なんだから)
これが己のエゴだというならばそれでも何か理由を見付けておきたいと火群は息を吐いた。
「……きっと、この人らを助けることにも意味はあるって、俺はね。信じるよ」
彼が死を選ぼうとするならばその身を賭してでも救って見せようと考えたファニーは人の抱いた苦しみを感じ取り伽藍の瞳の奥に僅かな炎をちらつかせて。
「どうして、殺してくれなかった? 俺は、人殺しだ……! こんな奴救う何て馬鹿なこと――」
「馬鹿なことをって? heh、そりゃ、俺様は愚か者だからな。
俺様はこんな身なりだが、人間は嫌いじゃない……どんな事情があっても、出来ることなら殺したくはねぇのさ」
ロレントはただ、ただ、泣き叫んだ。幼い子供の様に、騎士としての矜持などそこにはないとでも言うかのように。
夢であって欲しい程の凶行を己が犯したという事実に耐えることが出来なかったからだ。
ウィルドがいつから『そう』なったのかと聞いたとき、ロレントは何時も通りの巡回の途中だったと聞いた。
エル・トゥルルは聖遺物が腐るなど異変が起きていた。その異変の調査の為に向かった聖騎士狂気に駆られたとなればミイラ取りがミイラになったと言うべきだろうか。
ロープで捕縛していた聖騎士達は聖都から来た者達に引き渡す。事情はある程度彼等も知っている。罪に問われることはないだろうがロレント達はエル・トゥルルから離れた場所に赴任させるつもりだと騎士団は言う。
「……何か思うならば街の復興に従事するとよいでしょう。どうやら、貴方方だけではないようですからね」
静かに声を掛けながらもウィルドは肩を竦める。涙さえも疾うに枯れ果て、項垂れる男の再起はまだまだ時間が掛かるだろうか。
(……ま、死んだほうが幸せだったかも知れませんねぇ)
そう呟きながらも、ウィルドは静まり返ったエル・トゥルルの街を見遣った。
この様な人間を作り出してでも『正しい歴史』と呼ぶべき物があるのか――それは甚だ信じられないものだ。
果たして、誰の思惑か。その先に行き着くのはまだ遠いのであろう。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れさまでした。シナリオの代筆を担当させていただきました夏です。
この度は弊社クリエイター都合によりお客様には執筆担当変更のご迷惑をおかけして誠に申し訳ございませんでした。
GMコメント
のらむです。狂気に囚われた聖騎士ロレントと、彼が率いる聖騎士達の凶行を止めてください。
●成功条件
聖騎士ロレントと、ロレントが従える聖騎士達全員の撃破(生死は問わない)。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●戦場情報
白亜の街、エル・トゥルルの一角。周囲には市民の住居や商店が立ち並んでいる。
ロレントの接近を察知して逃げ延びた市民もいるが、逃げ遅れた市民も一定数存在する。
徘徊しているロレント達に、イレギュラーズ達が戦闘を仕掛ける形となる。
●狂火の聖騎士ロレント
突如として力と狂気に呑まれ、無差別殺人を繰り返す殺人鬼と化した聖騎士。
街の優しい聖騎士として多くの人から慕われていた。狂気に囚われた他の聖騎士とは大きくかけ離れた力を手にしている。
激しい剣技と炎を組み合わせたロレントの攻撃の数々は『火炎系列』『不調系列』『不吉系列』『呪い』などのBSを伴う。
神秘攻撃力、防御技術、特殊抵抗の能力に特に秀でている。
●聖騎士達
正確な数は不明だが恐らく10人程度。ロレントと同じく狂気に囚われ、ロレントと共に殺戮を繰り広げている。
剣もしくは槍を所持し、近~中距離の単体、列攻撃や、BSやHPを回復する魔術を行使可能。
以上です。よろしくお願いします。
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