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シナリオ詳細

レーザービームで蛾を落とせ。或いは、不夜島の長い夜…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●不夜島の異変
 練達。とある小さな島の小都市。
 “不夜島”の異名をとるほどに、その小都市は明るかった。
 昼はもちろん、夜でさえ街全体が青白いライトに照らされており、人々は「夜の闇」を恐れることなく生活を送ることが出来る。
 「火と明かりにより人類は発展・進化を遂げる」という都市が出来た時から伝わる、古い格言に則ってのものである。
 人とは本来、日が暮れて夜になれば眠るものだ。
 けれど、不夜島においてその常識は通用しない。人類の発展・進化のために、昼夜を問わず住人たちは研究や発明に邁進しているのであった。
 
 そんな都市に、ある日、1匹の“蛾”が飛来した。
 人の背丈よりも大きな、怪物染みた巨大な毒蛾だ。
 触れれば【崩落】【塔】の異常が生じる毒の鱗粉を撒き散らすような厄介な巨蛾だが、不夜島の住人たちにとっては大した脅威になり得ない。
 超高熱のレーザーを用いて、襲来した蛾はあっという間に跡形もなく消し飛ばされた。
 それが今から、ほんの1カ月ほど前の出来事。
 そして現在、不夜島は膨大な数の巨大蛾に占拠された状態にある。

●巨蛾の孤島
 不夜島は、膨大な量の鱗粉に覆われていた。
 かつては青白いライトに照らされていた都市も、今ではすっかり黄色く煙って見えていた。黄砂や花粉が舞い散っている状態をイメージしてもらえれば分かりやすいか。
 それらは、巨蛾の翅から零れた鱗粉だ。
 零れて暫く経っているため、吸い込んだり、目に付着したりした場合でも「多少の痛みと痒み」が生じる程度の被害しか被ることは無いだろう。
「どうやら巨大蛾は、不夜島のライトに惹かれて集まって来たみたいっす」
 イフタフ・ヤー・シムシム(p3n000231)曰く、島に飛来した巨大蛾の数は到底数えきれないほどだという。
 人間よりも大きなサイズの蛾ではあるが、飛行速度はさほどに早いものでは無い。数に群がられれば大怪我をする危険もあるが、1匹単位で見れば大した脅威にはならないのだ。
 だが、厄介なのは翅から零れたばかりの毒の鱗粉だ。
「そっちは触れると【崩落】【塔】の状態異常を受けるッす。その状態で巨蛾に襲われると、なかなか危ないっすからね……今のところ、島の人たちは研究所や家に閉じこもることで、対策しているっす」
 巨蛾もいずれ去っていくかもしれない。
 そんな期待を込めての籠城だったのだろう。だが、島民たちの予想に反して、巨蛾の数は増すばかり。どうにも、他の巨蛾よりも体の大きなボス個体が島に来たことが原因らしい。
「対抗手段が無いわけじゃないっす。不夜島の各所……研究施設の屋根に設置されている、レーザー照射機を使えば、巨蛾を鱗粉ごと焼き尽くすことができるそうっすよ」
 もっとも、島民たちの身体能力では巨蛾が飛び回る中を移動して、レーザー照射機のもとに辿り着くことが出来るかどうか怪しいそうだ。
 そこで、イレギュラーズの出番……というわけである。
「レーザー照射機を使って、巨蛾を撃墜してください。とくにボス個体……きっと、ボス個体を撃墜できれば、他の巨蛾たちもどこかに去っていくはずなんで」
 そう言ってイフタフは顔を顰める。
 任務の内容としては、さほどに複雑なことは無い。
 だが、イフタフには何らかの懸念があるらしい。
「アレっす。鱗粉なんっすけど……めちゃくちゃ痒いんっすよね」

GMコメント

●ミッション
不夜島から巨蛾を一掃すること

●ターゲット
・巨蛾×大量
2メートル近い巨大な蛾。
光に集まる習性がある。
個体としての強さは大したことは無いが、数が集まると厄介。体躯の割に軽量とはいえ、2メートル近い巨体であるため、ぶつかればそこそこに痛い。
島に集まった巨蛾たちは、1匹のボス個体(他の巨蛾より明確に大きい)に統率されているらしい。
ボス個体は、何より明るい場所に君臨する。

鱗粉:神中範に小ダメージ、崩落、塔
 翅から飛び散る毒の鱗粉。皮膚に付着すると非常に強い痒みが生じる。

●フィールド
練達。
とある小さな島にある、不夜島と呼ばれる研究都市。
巨蛾に襲来されたことにより、現在は機能停止状態にある。
蛾の撒き散らした鱗粉のせいで、視界が悪い。
街の各所に仕掛けられたライトによって、夜でも青白く照らされている。
また、街の各所には外敵撃退用のレーザー照射機が設置されている。
※レーザー照射機を使用すれば、鱗粉ごと巨蛾を焼き尽くすことが可能とされている。

●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • レーザービームで蛾を落とせ。或いは、不夜島の長い夜…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年01月31日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚
エマ(p3p000257)
こそどろ
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
岩倉・鈴音(p3p006119)
バアルぺオルの魔人
ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)
復讐者
赤羽 旭日(p3p008879)
朝日が昇る
リコリス・ウォルハント・ローア(p3p009236)
花でいっぱいの
エーレン・キリエ(p3p009844)
特異運命座標

リプレイ

●巨蛾襲来
 体長はおよそ2メートル。
 翅を広げれば、さらに大きい。
 視界一杯に鱗粉の降り注ぐ中、地面に1匹、巨大な蛾が転がっている。仰向けに倒れた巨大蛾は、6本の脚を折り曲げたままピクリとさえ動かない。
 既に息絶えているのだ。
 よくよく見れば、蛾の首付近に深い裂傷が刻まれている。斬撃……それも、躊躇なく放たれた一撃で仕留められているようだ。
「蛾って昆虫の中でもすごく栄養価が高い部類だって聞いたことがあるのだけど、この大きさかぁ……ちょ〜っとバラしてあげないと口に入らないサイズだよね」
 『狩ったら喰らう』リコリス・ウォルハント・ローア(p3p009236)が、蛾の遺体に近づいていく。脚の1本と、翅の付け根に手をかけて力任せに引き千切る。
 それからリコリスは大口を開けて、引き千切った脚へ喰らい付いた。バリバリと音を立てながら蛾の脚を食うリコリスを、高い位置から『空中殺陣』ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)が見下ろしている。
「あー……脚は私が頂きてーですねー」
「んお?」
「まー次の蛾でいいですー。こんな大きな蛾なんてそうそう拝めるものじゃねーですしー」
 どうぞ堪能してください。
 そう言い残してピリムは夜空を翔けていく。

「……この手の魔物を見る度思うが、巨大な虫の類って何故見た目が怖いんだろうな」
 地面に落ちた翅を片手で持ち上げながら、『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)はそう言った。薄い翅とはいえ、2メートルサイズの蛾のものだ。それなりに重量もある。
「エーレンさんも食べるの?」
「食べない。というか、リコリスはこれ……全部、生のままいく気か?」
 うへぇ、という感情が隠せていないエーレンである。リコリスは、そんなエーレンの視線に構うことなく蛾を咀嚼しているが。
「まぁ、食べても問題ないようにはしているから……それにしても、うはー、一面鱗粉だらけ」
 腰の刀に手をかけて『若木』寒櫻院・史之(p3p002233)は眉間に深く皺を寄せる。視界が霞むほどに膨大な量の鱗粉が、常に振り続けているような状態だ。
 夜空に舞う膨大な数の蛾が原因だが……はぁ、とため息をひとつ零して、史之は刀を引き抜いた。目を閉じて、刀を正眼に構えた史之は細く、長く空気を肺へと吸い込んでいく。
「っ……っぇほっ!?」
 そして、当然のように咽た。

「ひゃー……この世の終わりのような光景ですね。設備を見るに、よくあることなんでしょうか」
「蛾がウジャウジャいる……どこで育ってンだ!? 大自然の驚異だな。暑い寒いとは違う過酷耐性いるぞ!」
 『こそどろ』エマ(p3p000257)と『タコ助の母』岩倉・鈴音(p3p006119)が、喚きながら建物の影へ跳び込んだ。
 そのすぐ後ろを、数匹の蛾が通過していく。
 翅を動かす風圧で、大量の鱗粉が辺りに散った。
「ひー! かゆい、かゆいですよ、これ!」
「か、かゆみは耐えろっ!」
 頭から鱗粉を被った2人が、地面に転がりもだえ苦しむ。巨大とはいえ相手は蛾だ。単体で見れば大した脅威でも無いし、戦闘力も高くない。が、しかし、それはそれとして痒みは話が別である。痛みは耐えることが出来ても、痒みは耐えきれないというのはよくある話だ。
「レーザー砲まで、まだ結構な距離がありますよ!」
「最短距離を突っ走るか? だったら、あれだ、攻撃して道を開いていこう!」
 攻撃すれば鱗粉は散るが、いつまでもこの場で足を止めているわけにもいかない。鈴音はエマの手を取り、鱗粉の舞う大通りへと駆け出そうと腰をかがめた。
 直後、鈴音の前に白い手が差し伸ばされる。
「ん?」
「少々お待ちを。彼らが誘き寄せられる光というのは、夜光虫のランタンの淡い青でもいいのでしょうか?」
 2人の突貫を制止したのは、『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)である。
 ふわり、と地面から数十センチほど浮いたノリアは体に、水のヴェールを纏わせていた。水に遮られた鱗粉は、ノリアの皮膚に触れていない。
「だとすれば……囮役、まかされますの。空の泳げるわたしなら、その役目にはもってこいですし」
 少なくとも、進路上の巨大蛾を他所に引き連れていけば、多少は鱗粉の量も減らすことが出来るだろう。
 ノリアは半透明の尾で地面を打つと、まるでそこが水の中であるかのように、すいすいと空へ昇って行った。
 空中でノリアがランプを灯す。
 夜空を漂う淡く青い燐光には、夏に見る蛍の風情がある。
「……戦闘は置物かもしれねーけど、足と物を生かした作戦なら得意分野だ」
 さらに夜空に赤が一条。
 『朝日が昇る』赤羽 旭日(p3p008879)が翼を広げて空を翔ける。
「気張ってくか!」
 一瞬、旭日がエマと鈴音に視線を向けた。
 旭日は西へ、ノリアは東へ、そしてエマと鈴音は北へ……それぞれの成すべきことを成すために、4人は行動を開始する。

●レーザービームで蛾を落とせ
 金属製の尖塔を、小さな影が駆けあがる。
 尖塔の頂上付近には、発光しながら空を疾駆するピリムの姿があった。
「よし! 蛾を倒して、島のみんなを助けて、ついでに美味しいご飯にも有り付いちゃうよっ! 一石二鳥ならぬ一石二蛾だねっ!」
 尖塔の上に身を潜め小さな影……リコリスがライフルを構えた。
 銃声が1発。
 放たれた弾丸はピリムの頭上で閃光を放ち、夜空に金の円環を描いた。
 降り注ぐ眩い光の雨が、ピリムに降り注いでいく。
 それを確認し、リコリスは尖塔を蹴飛ばした。小さな体が夜空に跳んだ。赤いコートを翻しながら、重力に引かれて落ちていく。
 そのまま地上に落下するかと思いきや、リコリスは真下を横切る巨大蛾へ向け銃弾を放った。反動でリコリスの落下軌道が僅かにずれて……リコリスは家屋の屋上へ着地。衝撃を殺すようにゴロゴロと屋上を転がりながら、影の中へと潜り込む。
「虫風情がさぁ、乙女においたしといてそのままで済むなんて思わないでよねっ!」 
 フードを深く被りなおすと、屋上に腹ばいになってライフルを構える。
 スコープを覗けば、真っ二つに切断される巨蛾が見えた。
 一閃。
 ピリムの斬撃が巨大蛾を裂き、盛大に鱗粉を振り撒いた。
「全くリコリスたその仰るとーりでごぜーますー。光って飛んで跳び掛かる百足の私が言うのもおかしな話ですが、蟲如きの知能ではどちらが狩られる側か理解できねーみてーですねー」
 蛾の攻撃は単調だ。
 翅を広げて、光へ向かって全速力で突進する。
 撒き散らされる鱗粉と、数の暴力は厄介だが、ピリムが逃げに徹すれば直撃を受けることはない。
 せいぜいが、翅の端で腕や脚、腹を打ち据えられる程度だ。
「……そのうち嫌でもわかると思いますが」
 頬に滲む血を拭い、ピリムは口角を吊り上げる。

 真紅の羽が舞い散った。
 巨大蛾の突進を紙一重で回避し、旭日は高度を上昇させた。
 真紅の翼を追うように、或いは旭日が手にしたライトの光に導かれ、蛾の群れが視線を空へと向ける。
 その数は20……いや、30を超えているか。
 そして、蛾の数は今も少しずつその数を増しているではないか。
「さすがに蛾なんかに追いつかれるなんてマヌケはしないようにしないとな」
 数に囲まれては厄介だ。
 空がいくら広いと言っても、いかに旭日が大空を自由に舞う紅翼を持つと言っても、四方を囲まれてしまえばいずれ進路を失うだろう。
 だから旭日は、翼を畳んだ。
 重力に引かれ高度を下げる旭日の視線と、先ほどまで旭日のいた場所を目指し上昇していく巨蛾の視線が交差する。
 瞬間、旭日が銃弾を放った。
 散弾が空を跳ねまわる。銃弾に射貫かれた巨大蛾が、旭日を追って急旋回。
「さて、存分に飛び回って足を生かさないとな」
 翼を広げて旭日は加速。
 広い空での追走劇は、もう暫く続きそうだった。

 ノリアの体が宙を舞う。
 蛾の突進を真正面から受けたのだ。
 水の雫を散らしながら、落下していくノリアを追って次々に蛾が群がって来た。
 ノリアの体が建物の屋根へと落下し……ぽちゃん、と水に沈むみたいに姿を消した。ノリアを追っていた蛾の1匹が建物に激突し、鱗粉を撒き散らしながら地面へと墜落していく。
 それを横目で眺めながら、ノリアは建物の壁から空へと“泳ぎ”出た。
「街の明かりを消してくれれば、もっと確実に囮になれるのでしょうけれど」
 巨大蛾たちは街の上空、ほぼ全域に散っている。
 ノリアたちが手分けして、それなりの数を引き寄せてはいるが、街の光に集まっている個体も多い。
「とはいえ、これ以上は……」
 鱗粉で視界が霞んで見える。
 頭上に、眼下に、右に、左に、逃げ場がないほどに膨大な数の蛾の群れがいる。
 自由に泳げる場所を探して、ノリアは少し高度を上げた。
 刹那、その体を突風が襲う。
「っ! なんですの……?」
 くるくると宙を回転しながら、蛾の群れと一緒にノリアは空を転がった。
 十数メートルほどは遠くへ飛ばされただろうか。鱗粉が付着し、チクチクと痛む目を擦って、ノリアは“突風”の元凶へと目を向けた。
 果たして、そこに現れたのは、全長10メートルを超えるほどに巨大な怪物……否、ひと際巨大な1匹の蛾だ。
「この蛾……ほんとうに食べるのでしょうか……?」
 あまりに巨大。
 油断をすれば、自分の方が喰われかねない。
 蛾の主食が水や蜜だと知ってはいるが、そう思わずにはいられない。

 巨蛾の大半は、街の上空に散っている。
 だが、一部は地上付近に降りて来ていたり、建物に張り付き翅を休めたりしている。
 エマと鈴音が建物の屋根に取り付けられたレーザー砲に向かうためには、そういった低い位置の蛾が邪魔になるのだ。
 だから、史之がここにいる。
「ここは俺に任せて、今のうちに行って」
 階段の踊り場から、空へと身を投げ出したのは史之である。
「友情努力勝利はイレギュラーズの合言葉だァッ」
 史之にその場を任せると、鈴音は一目散に屋上へ駆けあがって行った。全速力だ。
「まぁ……そういうことだよね! 頼んだよ!」
「おうさ! 下手の横シュー好きや!」
「下手ぁっ!?」
 任せて大丈夫なのだろうか?
 そんなことを考えながら……一閃。
 接近して来る蛾の群れへ向け、史之は刀を振り抜いた。
 放たれるは斬撃にも似た衝撃波。
「いいなーレーザー。浪漫だよね浪漫。俺も撃ってみたい……」
 翅を斬られて墜落していく蛾を蹴って、史之は宙を駆け抜ける。
 さらに斬撃。
 一度、二度、三度と刀を振るう度に、巨蛾が斬られて鱗粉が舞った。
 そうして、階段へと接近していた6体の蛾を斬り落とし、史之は地上に降りていく。
「いやいや、俺の仕事は露払い。仕事に専念するよ残念だけど……」
 腰の鞘へと刀を仕舞って、肺に溜めた空気を吐いた。

 青く光る練達の街を、エーレンは自在に駆けていく。
 電光掲示板に手をかけて空へ。
 建物の壁を蹴って前へ。
 建物の屋上を転がって、次の建物へと跳び移る。
 直後、エーレンは腰に差した刀へ手を伸ばした。
 しゃらん、と鞘の内を刃が滑る音が鳴る。
 一閃。
 進路を塞ぐ蛾の1匹を、すれ違いざまに斬り捨てた。目にも見えぬほどの速度で放たれた斬撃は、餌食となった巨大蛾に“危機感”さえも抱かせることは無かっただろう。
 絶命した蛾に用は無い。
 ただまっすぐに、エーレンはレーザー砲台を目指して駆け抜けた。
 そして、ついに彼は建物の屋上へ……設置されたレーザー砲台へと辿り着く。
「……アレが“ボス個体”とやらか?」
 その巨体に、思わず一瞬、動きが止まった。
 けれどすぐに、エーレンは自分の役割を思い出す。急ぎレーザー砲台へと取りつくと、手早く砲台の状態を点検していく。
 長く使われていなかったようだが、少し調べた感じでは何ら問題はないようだ。
「鱗粉塗れだが……まぁ、問題は無いだろう」
 仲間たちがレーザー砲台へと辿り着けば、直に“合図”が出されるはずだ。
 その時が来るのを、エーレンはただ待っていた。

●取り戻せ、自由を!
 闇に紛れ、影に潜み、気配を消して、足音も立てず。
 エマは誰に知られることなく、レーザー砲台へと辿り着く。鱗粉の舞い散る中を潜り抜けたことで、エマの目はすっかり充血していた。
 いかに気配を殺しても、辺りを覆い尽くさんばかりに漂う膨大な量の鱗粉からは逃れられないというわけだ。
「ひゃー……目ぇかっゆい。っていうか、全身が痒いですね」
 マントを振れば鱗粉が散った。
 払う端から、次々と鱗粉が降り積もる。
 忌々し気に顔を顰めて、エマはレーザー砲台に手をかけた。強化プラスチックに覆われた操作パネルには、丁寧なことにレーザー砲台の操作手順が記されている。
「えぇっと、こうですかね」
 ハンドルのボタンを押し込めば、空に向かって青い閃光……レーザー光線が放たれる。エマの付近に近寄っていた巨大蛾を、レーザーの光が貫いた。
 一瞬で蛾は焼き尽くされて、灰と化して地に落ちていく。
「うひひ、これはすごい。それじゃあ、ボスに向けてビーーッと集中砲火しちゃいましょう! アレを焼かないと片付きませんからね!」
 仲間たちは、そろそろ配置についただろうか。
 ボス個体の方へレーザーを向けながら、エマはにぃと笑みを浮かべた。
「さぁ大詰めですよ!」
 
 どこかの屋上。
 鈴音の背後には数体の巨大蛾の遺体が転がっている。
 全身が砂に塗れた哀れな遺体だ。
 レーザー砲台に張り付いていた巨蛾たちだが、鈴音によって始末されてしまったのだろう。それはなぜか……レーザー砲を撃つ邪魔になるからだ。
「さて、と」
 カチ、と軽い音が鳴る。
 数度、夜空を青い閃光が横切った。
 その度に、数匹の巨大蛾が焼き尽くされて灰と化す。
 レーザー砲台を操っているのは鈴音である。
「よしっ、慣れて来た! レーザーは長押ししながら左右になぎ払う感じなのかな?」
 数度、レーザー砲を使ったことで鈴音はすっかり、操作に慣れたようである。
 そして、陽動部隊の方も鈴音たちが指定の位置に着いたことを把握した。ノリアが、ピリムが、旭日が、史之が、大量の蛾を引き連れながら空の高くへ駆けあがっていくのが見える。
 4人の描く軌跡を追って、鈴音がレーザー砲を傾ける。
「そーれー」
 間延びした声。
 ピリムが空へ“何か”を投げた。
 数秒の後、空高くで光が爆ぜる。
 目を開けていられないほどに眩い閃光。鼓膜が破れるのではないかというほどの轟音。
 暗い夜空が、真白に染まる。
 音と光に誘われるように、蛾の群れが空高くへと昇って行った。その中には、ノリアが惹き付けていたボス個体も混じっている。
「いまのうちに 撃ってくださいですの!」
 ノリアが叫ぶ。
 そして、彼女は重力に引かれて地上へと落下していった。
 射線上にはもはや蛾の群れしかいない。
「むっふっふ。全て焼き払ったれや~」
 鈴音は……そして、エマやエーレンも同時に、空へ向かってレーザー光線を射出する。
 青い光が空を裂く。
 地上から空へ、雷が駆け抜けたかのように。
 否、それはきっと人の作り出した“雷”であったのだろう。
 その日、練達の街に黒い灰が降り注いだ。
 
 空が青に染め上がってから、暫くの時間が経過した。
「あははは! 浪漫! 浪漫だよ、これは!」
 今現在、青い光線を空へと連射しているのは史之だけだ。
 それも、小一時間ほどで収まるだろうか。ボス個体が討たれたことで、空を覆い隠していた巨蛾の群れは、少しずつだがどこかへ去っていく。
「祝砲だよ、祝砲!」
 史之のテンションは高かった。

 一方、その頃。
 リコリスは、油で揚げた蛾の翅を頬張っていた。
 味付けは塩。
 調理したのは、エーレンである。
「遠慮なく食べてくれ、リコリス。他にも食べたい人がいれば……?」
 次のメニューは、蛾の佃煮だ。
 一も二もなく、蛾の佃煮に手を伸ばすリコリス。
 その隣では、ピリムが巨蛾の脚を抱えて恍惚としていた。
 あまりにも混沌とした状況だ。
「いや、俺は遠慮しておくよ」
「私も……召喚前じゃあるまいし、食べませんよ」
 旭日とエマが、蛾の佃煮から距離を取る。
 なお、リコリス曰く「少し苦めのバターみたいな味がした」とのことだった。

成否

成功

MVP

ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)
復讐者

状態異常

ノリア・ソーリア(p3p000062)[重傷]
半透明の人魚

あとがき

お疲れ様です。
皆さんの活躍により、不夜島から巨大蛾たちは一掃されました。
依頼は成功となります。

この度はご参加いただき、ありがとうございました。
縁があればまた別の依頼でお会いしましょう。

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