シナリオ詳細
神様の言う通り
オープニング
●未練
許嫁だと言われ、紹介された女性に、僕は一目惚れをした。
あの日ほど神の存在を強く確信し、そして感謝した日はない。
嗚呼、神よ、彼女と出逢わせてくれて感謝します。ましてや結ばれる運命だなんて。僕は今まで以上に貴方へ尽くします。
そんな誓いを果たすべく、騎士団への加入を志望し、特に危険な魔獣討伐の任に就き戦って来た。
彼女との日々は幸せで、あまりにも大切で、どれだけの死地からでも帰るのを諦めず戦い続け、気が付けばそれなりに名の知れた騎士になっていた。
でもそれは、更に過酷な戦いへ身を投じる事になったというのと同じ。
先日、強力な魔獣討伐の任が下り、それを彼女に伝えるといつも通り静かに頷いた。
彼女はいつも言う。「神様が貴方を守って下さるわ」と。
彼女が信頼しているのは僕ではなく神なのだ。
騎士団入りした時も、どれ程の大怪我をして帰って来た時も、彼女は僕を止めなかった。神の加護が有る限り僕は決して死なないのだから。
子供のように嫉妬するわけじゃない。神を信じ、神に尽し、神に守られ、最後には神の御許へ導かれるのは、ごく当たり前のことなのだ。
ただ――
思い出すのは、彼女の透明な在り方だ。
天使のように美しく、可憐で、無垢な彼女。
そして、無口で、無表情で、無感情な彼女。
彼女は一度も笑わなかった。
それでも僕は幸せだった。
彼女と出逢えたこと、彼女と過ごせたこと、彼女と夫婦になれたこと。
その全てが感謝し切れないほどの神の奇跡。
だけど、それでも、未練がひとつ。
「僕は彼女に、愛されたかった――」
●死地へ
「依頼なのです」
真剣な面持ちで『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)が依頼書の束をテーブルに置く。
「場所は天義のとある山奥、岩肌剥き出しのロケーション。そこに追い込まれた魔獣ベロニキューレを討伐して欲しいのです」
言いながら示した資料には、巨大な皮膜の翼を持つ山羊頭の魔獣が描かれていた。
魔獣ベロニキューレ。
多くは天義にて確認されるこの魔獣は、飛行能力に加え高い戦闘力を有し、また人語を解しそれを操る事で人を惑わす怪物だ。
狡猾にして残忍。ともすれば下等なモンスターのようでもあるが、それが絶対的な強者が持ち合わせた性質となれば、文字通り質が悪い。
「天義の騎士団が討伐に乗り出したのですが、ベロニキューレにより連携を突き崩され、壊滅。一度敗走したものの今は立て直しを図っている所なのです」
「それなら騎士団に任せれば良いんじゃないのか?」
「そうですね、きっとこのまま騎士団がやっつけると思うのです。犠牲は伴いますが」
イレギュラーズの問いに返すユリーカ。その最後につけたされた言葉こそ依頼のキモだと暗に告げている。
「依頼成功条件は騎士団長フェリクス・ベルレアンの生存。その為に、彼らの騎士団に先じて魔獣を討つ必要があるのです。
依頼の性質上、騎士団とは共闘できないのですが、代わりに戦闘以外の事は考えなくて良いのです。
ですが相手は非常に強力で、生半可な連携は突き崩されたり逆に利用されたりします。仮にも統率された騎士団の連携を崩した狡猾さは伊達じゃないのです。だからと言ってスタンドプレーで押し切れる相手でもないのです」
朗報と言えば、騎士団の攻撃により多少は体力が削られているということ、そして飛行能力もかなり制限出来たとのことくらいだ。
本来イレギュラーズが挑むには過酷な程の格上。弱体化してなお苦戦は強いられるだろう。
「いっそ騎士団長や団員を連れて逃げるという手も考えたのですが、お国柄上、それじゃ結局殺されてしまう確率が高いのです」
さして大きな騎士団ではないが、それでも天義の騎士団が魔獣怖さに逃げ帰ったとなれば粛清は免れまい。
そもそも、逃げろと言って逃げてはくれないだろう。
「ちなみに、騎士団の救助は考えなくて良いのです。むしろ鉢合わせずに済むならそうして欲しいって依頼主から言われているので」
「ん? 秘密裏に動けってことか?」
「まあ、そんなところなのです」
ユリーカが言葉を濁す。
何故だか少しだけ笑いながら。
- 神様の言う通り完了
- GM名天逆神(休止中)
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年09月29日 22時35分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 10 人
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参加者一覧(10人)
リプレイ
●嗤う者
谷底は思ったよりも深く、降り立ったイレギュラーズはいやな暗さを感じた。
視界不良を起こす程ではない。しかし、相手が虚を纏う魔獣であれば話は別かも知れない。
そう、この谷には魔獣が潜んでいる。
「俺は後ろに。索敵補助を頼む」
『戦獄獣』雷霆(p3p001638)が奇襲を受けることのない自身の獣性を活かし、イレギュラーズの殿を務める。連れてきた二頭の肉食獣は戦闘で警戒に当たらせるつもりだ。
「困ってる人がいたら助けるのは当たり前、頑張りましょう!」
「……さて、古の魔物との戦闘か。……如何なる戦術を見せてくれるのか?」
獣ではなく鳥のファミリア―を用いて上空から索敵を行うのは『ペリドット・グリーンの決意』藤野 蛍(p3p003861)。その腰元には簡易契約を結んだ『KnowlEdge』シグ・ローデッド(p3p000483)が剣の姿ながら透視を使用して目を光らせている。
「民の為に魔獣を狩るのも貴族の務め。皆様頑張りましょう!」
「騎士とて天義の民。ならば護るのは貴族たる者の務めです」
捜索能力と耐久力を活かし、最前列に立つ勇ましい令嬢は『農家系女騎士令嬢様』ガーベラ・キルロード(p3p006172)だ。そのやや後方に立つ『特異運命座標』コーデリア・ハーグリーブス(p3p006255)はエネミーサーチで敵意有る者を感知する。
二人は幻想と天義の貴族。しかし両国の国色には染まらず、民にとっての良き貴族として振る舞っていた。
「イレギュラーに依頼をする……一部の天義の考えでは、あまり『正しくない』のかもしれません。でも、そういった人も私は救いたい」
そう言うのは天義出身の『特異運命座標』ミシュリー・キュオー(p3p006159)。確かに誇り高き騎士団が敗走し、その尻拭いを他者に頼ると言うのは良い話ではない。
「神の思し召しならば必ずや、我らは彼と彼女の剣と、盾となりましょう」
しかし『銀凛の騎士』アマリリス(p3p004731)は逆にこれが神の意志だと言う。
「ふぅむ、なるほどなぁ!」
「なるほどなるほど。名探偵セララには全てお見通しなのだ」
「ここはゴッド達がワンスキン脱ぐ、という奴だな!」
「ふっふー。そういう事ならいつもより頑張っちゃうよ!」
「オーダーはコンプリートさせてもらおうか!」
「魔法騎士セララにお任せっ!」
『不知火』御堂・D・豪斗(p3p001181)と『魔法騎士』セララ(p3p000273)はなにを察したのか二人で盛り上がっている。
そんな二人に対して、いや全員に対して最も心情を窺えないのが『風来の博徒』ライネル・ゼメキス(p3p002044)だ。
彼はポーカーフェイスを欠片も崩さずに呟く。
「さあ、ゲームの時間だ」
その言葉の直後、蛍が手元の鈴を鳴らして叫んだ。
「敵襲! 真正面から!」
狡猾で残忍な魔獣だと聞いていたが、と疑問に思った次の瞬間には、警告通り真正面から巨大な影が迫って来ていた。
「余裕ですわ!」
警告からすぐに足を止め構えていたガーベラが敵の突進を受け止める。それでも殺し切れない勢いに弾き飛ばされ、大きく後退した。
それを見て影が嗤う。
イレギュラーズの三倍程度の身長に、その身長の数倍は大きな皮膜の翼。山羊に似た頭部は人間より醜悪な笑みを浮かべ、こちらを見下している。
そんなイレギュラー全員に影を落とす程の巨体は虚を纏い、輪郭は滲み、色彩はぼやけ、どうにも視認し難い異様な姿をしていた。
「魔獣ベロニキューレ……!」
その名を口にし、イレギュラーズは直ぐに動き出す。
狙うは挟撃。
こんな巨体に近付くべきではないかも知れない。だが、イレギュラーズはこの魔獣の最も恐ろしく警戒すべき部分が巨体ではない事を知っていた。
「ぎひゃ」
魔獣にも己が警戒されている事が分かったのか、醜悪な笑みを更に歪めた。
「初撃は貰うぞ!」
言って、シグが異想狂論「偽・烈陽剣」を放つ。破壊エネルギーが仲間を避け、周囲の岩などの障害物ごと魔獣を焼き尽くさんとするが、魔獣はいとも容易くそれを躱す。
「続きます!」
「ゴッドのホーリーライトに焼かれるが善い!」
蛍が不吉な囁きで蝕まんとすれば、豪斗は後光を燦然と輝かせ悪しきを焼かんとする。
「さあ共に楽しもうか」
「セララスペシャル!」
更には雷霆とセララの強烈な一撃が、後方に陣取ったライネルの魔弾やコーデリアの狙撃が撃ち込まれるが、そのどれもを魔獣は飄々と躱していく。
「オーッホッホッホ! このガーベラ・キルロード、貴方如き畜生に膝を屈する程か弱い女ではありませんわ! 掛ってきなさいな、この臆病者の低能魔獣(笑)さん!」
立ち上がり戦列に戻ったガーベラが渾身の煽りを見せるも、ガーベラ以上の高笑いで返すだけだ。
挑発による怒りと彼女のギフトによる好印象とが相殺した、と言うわけではない。
「回避が高いとスルースキルも高いのでしょうか」
「メンタルも強そうね」
位置取りに気を払うミシュリーはガーベラを回復し、アマリリスは中距離に立って防御を固めた。
陣形はやや荒いが整った。
後衛に蛍とシグ、中衛にアマリリス、近距離に豪斗、最前衛にガーベラと並んだAチーム。
後衛にライネルとコーデリア、中衛にミシュリー、最前衛にセララと雷霆と並んだBチーム。
完全ではないが、挟撃として成立するには十分な布陣。
しかしそれを活かす間も無く、ベロニキューレが両翼を広げた。
「ぐ……!」
薙ぎ払い。
傍に居た者を殆ど無差別で攻撃し、前衛を振り切って魔獣は飛び立ち谷の奥へと逃げていった。
「いきなり来ていきなり帰るとは……」
「やはり臆病者ですわ」
ふんと鼻を鳴らすガーベラに、シグが否と返す。
「陣形と、私の擬態がばれた。今のは間違いなく威力偵察だ」
思ったよりも厄介かも知れん。
誰かが口にしたそんな言葉に、イレギュラーズは息を呑む。
●見下す者
「来るぞ」
最後方から雷霆が言い、武器をかち合わせて音を鳴らす。
雷霆の連れていた肉食獣のうちの片方、浅葱が異様な臭いを察知したのだ。
先の戦闘で敵に刻んだのは浅い傷だけではない。染料と香料を混ぜ合わせた、俗にカラーボールと呼ばれる物も武器に括りつけておいたのだ。
染料の方は纏った虚と身体に擦り付けたらしい泥土のせいで見え難くなっているが、強烈な臭いの方は消せなかった様で、獣の嗅覚に反応したらしい。
それでも敵襲はあまりにも速い。
「ぎひひゃはははは!!!」
哄笑と共に現れた怪物が、肉食獣二頭を一撃で薙ぎ倒す。が、同列に並んでいたガーベラは察知が速かったおかげで難を逃れる。
「今度こそ逃がさないよ!」
右翼、セララと雷霆が魔獣の足下に張り付き、動きを制限しながら痛打を叩き込む。
左翼、ガーベラが再び挑発で気を引こうとするが、やはり笑い返される。
「効かない、わけじゃないよな」
ライネルが魔弾を放ちながら考える。
単純に強い敵だ、まず攻撃が直撃しない事からも更なる追加効果が望み難いのは分かる。
「だからこそのゴッド!」
放たれた豪斗の後光、もとい聖光は、上手く決まれば続く仲間達の攻撃も通り易くなるはず。
しかし聖光自体が飛翼に阻まれ中々効果を表さない。
「これで良いわ」
それでもアマリリスは武器を掲げて言い放つ。
浅いとは言え手傷は負わせているし、挟撃も成立している。
索敵も問題無い。強襲が速過ぎて感知範囲外から一気に距離を詰められる可能性も有るが、この程度ならすぐ立て直せる。
だから、
「くひっ」
魔獣が嗤う。
地を蹴って跳ぶ。
背後ではなく。
上でもなく。
横に。
「前衛一人で、しかもマークもしないとかさあ、抜けてくれって言ってんの?」
嘲笑う魔獣はあえて人語で話しかける。
そして、盾であろうとしたガーベラを擦り抜け、守ろうとしたアマリリスを飛び越えて、蛍の身体を鋭く長い爪で突き刺した。
「ぐ……!?」
「蛍さま!」
血を吐き膝を付く蛍。
だが魔獣は手を止めない。
容赦の無い連撃が蛍を背中から貫き、地面へ叩き付けた。
「ぎぃぃいやっははははははは!!!!!!!!!!!」
哄笑が耳を劈く。
位置取りが悪かった。蛍を守ろうとしていたアマリリスは、蛍と僅かに離れた場所に立っていたのだ。
「大丈夫……!」
しかし辛うじて蛍は立ち上がる。
いや、辛うじてではない。自らの可能性を燃やして無理矢理に立ち上がったのだ。
それを見て魔獣は虚を突かれたように一瞬嗤うのを止めるが、またすぐににたりと嗤った。
「いじらしいねぇ……ぎひ、ぎひひひゃははは!!!」
自らをメガ・ヒールで癒す蛍。その蛍を今度こそ守らんと前に立つアマリリス。壁としてなおも立ちはだかるガーベラ。
その三人を、そして他のイレギュラーズを、一人ひとり指差して嗤う。
「耳障りだよ!」
「全くだ」
癇に障る魔獣の哄笑を止めるべく放たれ、重ねられた攻撃も、魔獣を傷付けはするが意に介す事は無い。
魔獣は嗤う。
嗤い続ける。
「ぎひひゃはははっ!!」
そして再びイレギュラーズを薙ぎ払い、谷の奥へと身を隠すのだ。
「……うむ! 歯痒いな!」
豪斗が笑って言うが、その言葉は重い。
敵はこちらが思っていた以上に狡猾で、残忍だ。
次は何をしてくるかもはや予想もつかなかった。
「回復をしておけ」
そんな中、連れてきた肉食獣の介抱を終えた雷霆が言う。
「作戦通りだ。それと、観察されるな」
●見破れぬ者
頭が良いだけでは、人の心は分からない。
ベロニキューレの真の能力は人間観察能力だ。
虚を纏い、闇に潜み、遠くから人間というものを観測し続け、それで漸く人の心が読めるようになる。
天義の人間は特に分かり易い。大なり小なり神を信仰し、自分達を神に選ばれたと信じている。正儀こそ絶対で不正義は許されない。
しかし、今回は異常だ。
先の騎士団が撤退したこと自体が異例だが、あの連中を送り込んで来た事も異常だ。
騎士団と連中は無関係か?
いや、俺様が此処に居るのを知っていて対策を講じてまで降りて来たのだ。騎士団と無関係ならば俺様の討伐を急ぐはず。
恐らく連中は騎士団到着までの時間稼ぎ……。
それに連中……心が読めない奴が何人か居る。
……まあ良い。
所詮は人間。
連携を崩してしまえば、一人ひとりはゴミ同然よ。
さて、先ずは目障りな鳥から食らおうか。
●最後に笑う者
「ファミリア―が落とされたわ」
蛍が言う。
これで更に索敵は難しくなった。
「私のサーチが有りますが……」
敵の機動力と行動回数から見るに、万全とは言えない状況だ。
獣達を癒す時間、ファミリア―を作り直す時間は、恐らくない。
間も無く、それはやってくる。
「ひゃはっ」
嘲笑。
それは再び真正面から。
「……!」
分かっていても反応が間に合わない。
コーデリアは前に居た事もあり、その一撃をまともに喰らって吹き飛ばされた。
「乱れないで! 目を離してはいけません!」
鈴を鳴らしながらミシュリーが叫び、全員が再び挟撃の形を取りに行く。
ただ一人、ここまで挟撃の効果を見出せなかったアマリリスは陣形を捨て、蛍の守護へと回った。
「それで良いんだぜお嬢ちゃん! 連携なんて無駄ぁ! 陣形なんてクソ食らえさぁ! ぎひひっ!」
魔獣はまたも嗤う。
「そいつはどうかな?」
ニッと笑うライネルが魔弾を放つ。
続く雷霆の爪撃も、セララの剣撃も、コーデリアの狙撃も、魔獣は避け、受け流し、防ぎ切った。
だが、それがハンドサインで送られた『同時攻撃』の始まりだ。
「ゴォォォォッド! ホゥリィィィィライトォ!!!」
絶叫と共に一際眩く輝く豪斗が、何事かと振り返ったベロニキューレの両目を灼いた。
露骨に怯む魔獣、その隙を蛍が不吉な囁きで蝕む。
先程とは打って変わって狼狽える魔獣。そこに簡易契約を果たさんとシグが有りっ丈の力で異想狂論「常識圧殺」 を放つ。
「私の常識で封じ込める!」
魔獣の周囲に展開するは眼の紋様を持つ魔法陣。常識を封印とし押し付ける規格外の魔法が、魔獣の力を抑え込んだ。
「ぎひ――」
確かな手応えが有った。
挟撃、連携攻撃、その末のショック、不吉、そして封印。
「畳み掛けましょう!」
やっと掴んだ好機だ。
ガーベラがベロニキューレに盾を叩き付け、更に怯ませる。
もう一度、もう一撃。
誰もがそう思うも、しかし魔獣は嗤い、やはり翼を広げるのだ。
「だから、無駄だッつぅの!!! ぎひゃはははは!!!」
薙ぎ払えない、だが飛べる。
爪を振るい適当に前衛を傷付けながら魔獣は飛び立ち、そして身を隠した。
「く……!」
逃がした。
いや、逃がすのは仕方がない。止めようがないのだから。
しかしここまでして付与した封印も、三十秒で効果が無くなる。
「嘆いても仕方ないよ! それより少しでも回復と、奇襲警戒をしよう!」
剣をカンカンと鳴らして溌剌と言うセララに、皆が頷く。
早ければ三十秒後にはまた襲来するかも知れないのだ。油断は出来ない。
そして、予想通りに直ぐ魔獣はやってきた。
「敵意感知しました! 正面……速い!」
鈴の音と共に叫ぶコーデリア。
皆が正面を見るが、来ない。
「これは……!」
超高速で接近する敵意。
その位置を示すより先に、アマリリスが叫ぶ。
「上よ!」
敵は直上。
下卑た笑みを張り付け、血だらけのくせに余裕ぶった魔獣が其処に居た。
だが、アマリリス以外の全員がアマリリスに向かって武器を構えていた。
「――え?」
全員が一瞬、動きを止める。
直後、魔獣がアマリリスを頭上から叩き潰し、対応し切れなかった周囲のイレギュラーズを薙ぎ払った。
「ぎゃははははははははははは!!!!!!!!!」
哄笑。
いや、爆笑だ。
耳を覆いたくなるほどの大きな嗤い声が響き渡る。
嗤われているのは、アマリリス。
「お前最高だよ! 俺の擬態対策の音鳴らしながら喋るやつ? あれ、お前だけやってること違うんだよねぇ! 見えてる地雷かと思ったわ!」
擬態対策。
チェンジボイスによる攪乱、それを防ぐために講じたのは、声以外の音を立てながらの会話だ。
妙に光る豪斗、一切喋らないシグ等の例外は居たが、何にしろ真似出来ない方法で意思疎通を確立していた。
分かり易い対策故に攪乱を諦めていたが、アマリリスだけおかしいのに気が付いて利用したのだ。
「お前さあ、攻撃出来ない位置で守ってばっかでそれも隙だらけで作戦も理解してないとか何なの? 足手纏いなの? ありがとぉぉおおおおおおお!!!!」
げらげらげらげら!!!
嗤う。
嗤い続け、
その嗤い声に魔法が宿る。
心を掻き乱し、どす黒い感情で理性を塗り潰す『嘲り笑う』悪魔の業。
しかし、アマリリスも負けじと嗤い返す。
「私は天義の聖女、アマリリスです! 多少の揺さぶりに負けぬ心を持ち合わせています!」
その程度では揺るがない。
押し潰され、血を吐きながらでも、決して折れる事は無い。
「だけどお前等みたいのってさあ、自分より仲間貶されるとキレるんだよねぇー」
その在り方さえ嗤う魔獣の背後には、『怒り』に染まった仲間の姿が有った。
「アマリリスさんを放せぇ!!!」
「エンジェルに対して余りに非道!」
コーデリアが放つのは挑発を忘れた愚直な弾丸。
豪斗に至ってはアガペを忘れ素手で殴り付けた。
効果は微弱。勝手に突っ込んだりすれば陣形も何も無い。
「このぉー!!!」
セララの剣撃すら精彩を欠き、魔獣は児戯を見守るように上から目線で笑う。
「ぎゃはは! いたい! いたい! ぃいひひひひひ!!」
嗤う。
腹が痛い。
やはり人間は馬鹿だ。
しかし、あれ。
――あの読めない奴等はどこだ?
「作戦通りだ」
雷霆がにやりと笑う。
その両腕から放たれた爆炎が、魔獣の下顎を吹き飛ばした。
「が――!?」
「賭けは俺達の勝ちってことで良いか?」
口を抑えようとした魔獣の額をライネルの魔弾が打ち貫いた。
傾く巨体。
その背後には、アマリリス。
「ええ、攻撃の届かない位置に立っていたのは事実です」
ですので、近付いて来て下さって感謝はしてます。
淡々と言い放つアマリリスが、その揺るがぬ意思を力に変えた一撃で魔獣の片翼を圧し折った。
「がぁぁぁあ!!?」
痛い。
イタイイタイイタイ!
「長期戦想定の回復が役に立った。なんだかんだでお前さんの方が削れていたってことだ」
「回復は任せて下さい」
シグが封印を押し付け、ミシュリーが取り乱した仲間を回復していく。
蛍もアマリリスを癒し、戦線は再び立て直されていく。
翼は折られた。
隠れる場所も破壊されている。
何よりこいつらはもう隙が無い。
その上、消耗も最小限だ。
……勝てない。
「良い連携だったな」
黒獅子は言う。
「連携を崩させて、その隙を突く。正しく作戦通りだ」
そんな馬鹿な。
隙だらけだった。
作戦の祖語さえあった。
なのに、それを、作戦通り?
それが本音ならお前は――
「……そうか、お前がこいつらの頭脳か! お前が一番、頭がおかしい! お前の心が一番読めない!」
「俺の心など戦一色だが」
読むまでもないと言う。
頭脳戦も肉弾戦も望むところだが、と、訂正を一つ。
「俺はただの、単純火力役だ」
最後に黒獅子は笑う。
放たれた劫火の一撃は、魔獣の頭部を完膚なきまでに吹き飛ばした。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
遅れてすみません。
これにて依頼完了となります。
どうでしょうか、腹立ちましたでしょうか?
私は書いていてムカつくなぁコイツと思いました。
皆様にもそう思って頂けたなら幸いです。
やっぱりこういうムカつく奴の鼻っ柱を圧し折るのは最高ですね。
実のところ正否判定は微妙なラインでした。
ですので、今回のMVPはあなたへと送らせて頂きます。
連携を崩して隙を突く、って一人でやろうとすると滅茶苦茶大変なんですよね。
さて、以下は余談です。
●神様の言う通り
ベロニキューレは死んでいた。
谷底へ落ちた時に死んだのだろうと結論付けたものの、納得出来ない所もある。
今回の事でまた上からの評価も上がったが、それには正直興味が無い。
あの魔獣に人々が脅かされる事がなくなったのは喜ばしい事だし、利己的で申し訳ないが僕が大きな怪我も無く生還出来たのも正直嬉しかった。
騎士団員も皆元気だ。魔獣に後れを取るのが君達への神からの試練だと伝えたら、次こそ乗り越えてみせますと必死に訓練している。帰ったばかりで元気なものだ。
僕も家に帰ろう。
妻の顔が見たい。
そう、このドアを開ければ、いつものあの端整な無表情が……
「おかえりなさい、あなた」
――心なしか、引き攣っていた。
えっ?
あれ? なんで?
初めて見た……えっ、見間違い?
「あっ、えっと、ただいま。なんとか倒せたよ、ベロニキューレ」
「そう」
混乱してしどろもどろになりながら言うと、妻は目を逸らしてしまった。
その横顔はいつも通りの無表情。
やっぱり見間違いだったのかな、と思ってると、妻が目を逸らしたまま呟いた。
「神様に選ばれた人達が、いわば天使様の様な人達が、仰っていたの」
「へ?」
「神様は絶対よ。私達を導いて下さったんですもの。だから、天使様の言う事も絶対なの」
「はあ……」
なんのことか分からない。
相変わらずの神様至上主義だけど、なにかお告げでも有ったのだろうか。
そう思っていると、妻が目線だけでチラッとこっちを見る。
「私はあなたを愛しています」
妻が目線をふいっと下げた。
顔も反らしたままで、全然こっちを見てくれない。
表情はいつも通り。
だけど、僕は今日、今、この瞬間、気付いてしまった。
僕の妻、実は滅茶苦茶照れ屋なんじゃないかって。
fin.
GMコメント
天義の純戦依頼です。
以下依頼詳細です。
●依頼内容
騎士団長フェリクス・ベルレアンの生存
これは後日粛清されないことも含む
この依頼を達成する為には騎士団が討伐対象とする魔獣ベロニキューレを騎士団に先じて討伐する必要がある。
逆に、騎士団を救助・救援する必要は無い。
ゲーム的には魔獣討伐のことだけ考えれば大丈夫です。
●敵情報
「魔獣ベロニキューレ」
巨大な皮膜の翼と山羊のような頭を持つ魔獣。
残忍にして狡猾。人よりは遥かに大きく、また強い。
戦闘においては全体的に強力だが特に反応と機動力に秀でている。
しかしながら一番の脅威は、その頭脳である。
一説には人の心が読めるとまで言われるほどに相手の嫌がることや連携の急所を突くのが巧い。
使用スキル
アクティブ
・切り裂く 物中単 リーチの長い翼爪による攻撃 CT高
・薙ぎ払う 物中範 自分を中心にした範囲攻撃 【飛】【乱れ】
・突き崩す 物至単 巨体を活かしたぶちかまし 【飛】【崩れ】
・嘲り笑う 物特レ 戦況に応じて何らかのBS付与 【怒り】【ショック】【懊悩】【足止め】【混乱】【狂気】【無】(無のみ固定)
パッシブ
・虚を纏う 自身の視認性を下げ、奇襲・隠密効果を高める
・隠れ潜む 周囲にあるもので身を隠し、身を守る
・踊り狂う 手番最初のEXA判定に+補正
非戦
・戦略眼
・チェンジボイス
・飛行(弱体化につき、飛び続けることは出来ない)
●戦場
岩山の谷。
左右は崖、前後に広く、飛行や人の手(道具)を借りないと出入りできない。
魔獣はここに落とされ、負傷した翼では出られずにいる。
そこら中に大小様々な岩が有るが、そこそこ脆い。
谷底に降り立った所からリプレイ開始となる。
●人物情報(蛇足)
フェリクス・ベルレアン
若き騎士団長。(ただし小さな騎士団)
明るく爽やかな好青年。
神の名を排他ではなく融和に用いる事が多く、それ故に人望も厚い。
美人な妻が居り、周囲にそれを自慢するものの、二人で出掛けたりする姿は見られない。
あの優し過ぎる男は人を斬れぬから魔獣を斬ることにしたのだろうと噂されている。
ベルレアン夫人
無口・無表情が常だが見目麗しい令嬢。
神に祈る姿や花に水をやる姿に目を奪われる者も多い。
夫婦共々物欲に薄く、質素な暮らしをしている。
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