シナリオ詳細
<腐実の王国>非のないところに煙はたたぬ
オープニング
●ゼノグロシア
「蜷人形の再更新がやってくるぞ! 袰月の三角定規に前に倣え! 前に倣え!」
港で水夫が叫んでいる。
涙を流し、膝を突いてわんわんと泣きながら。
そんな水夫の背をさすりながら、別の水夫らしき男が語りかけている。
「水鏡におかえりなさい。おかえりなさいでした。老人になりましょう」
ひとつひとつは聞き取れるのに文脈がまるで理解できない。
であるにも関わらず、彼らは意思疎通を行っているようだった。
『意味のわからない言葉』『崩れないバベルで読み取れないのに会話している人間達』
それは……。
「遺失言語……『異言(ゼノグロシア)』、ってか。またクソ厄介な仕事になっちまったぜ」
紙巻き煙草を口にくわえたまま、けだるそうに煙を吐き出す白髪の男がいた。
まだ寒い時期だというのに肩から先を向き出しにした格好で、ぴったりとした服は屈強そうな肉体のラインを浮かせている。更には腕に奇妙なベルト。手には黒い革手袋。都会のバンドマンかそれに類する者のような出で立ちだ。かと思えば、腰から下は仕立ての良いスーツに革靴といった妙にキッチリとした装いだ。
彼に一つだけ特筆すべき特徴を述べろと言われれば……そう、彼は常に煙で自らを巻いていた。
そんな煙男は頭をがしがしとかくと、煙草を手に取ってから水夫たちへと近づいていく。
すると、彼らがキッと敵意をむき出しにして彼を睨んでたちあがった。
ギョッとする煙男に、水夫たちは最も手近な武器になりそうなものをつかみ取り、襲いかかる。
「おいおいおいマジかよ!」
煙男は勢いよく煙を吹き出すと、その煙はたちまちのうちに固まって男達を拘束してしまう。
「またこのパターンかよ。全くどうなってんだ最近はよ」
●影なる船
天義の端、幻想側に位置する白亜の街エル・トゥルルは、信心深き者達の巡礼の旅で訪れる港町として知られている。
海洋や幻想との交易も行われるため、船の往来も多い。
天義側から船がやってくることはなにも珍しいことではなく、逆に天義側から幻想側へと船が出ることも当然ある。
その船もまた、当たり前のように幻想方面へと帆を張り、風をうけて進んでいる。
よくある光景だ。その点までにおいては。
――床を突くドンという音と、錫がぶつかるシャランという音がいくつも同時に重なる。
船の上には翼を生やし僧服を纏った、顔のない人型の実体が綺麗に整列ししていた。
彼らの身体は真っ黒な影でできており、手にした棒状の物体もまた影だ。
であるにも関わらず、それはまるで錫杖のようにしゃらんと綺麗な音を鳴らし、床を突く音は硬質のそれだ。
その先頭には、全く表情を浮かべない一人の僧侶が立っている。影の僧侶たちと同じように錫杖をつき、何かを祈るように手を翳していた。
その頭上を、海鳥がゆっくりと旋回飛行する。
僧侶はちらりと海鳥を見上げ、おっとりとした微笑みを浮かべると――。
「以上が、ファミリアーによって偵察して得られた情報だ。
この船はヴィンテント海域を渡って幻想側へと入り込みつつある。
当然というべきか許可はない。王国の船が警告を発し船を止めようとしたが、彼らによって撃沈されている」
ローレットの情報屋は苦々しい表情でそこまでの内容を説明していた。
場所は幻想のはずれ。天義との国境にあたるヴィンテント海域をはさんだ港町。
説明を聞くイレギュラーズの中には、冬越 弾正(p3p007105)とアーマデル・アル・アマル(p3p008599)というなじみ深いコンビの姿もある。
「その僧侶というやつが危険なのか?」
アーマデルのそんな問いかけに、情報屋は『おそらく』とだけ答えた。答えが少ないのは、依頼書におおよそのことが書かれているからである。
弾正が依頼書をピンッと指で弾いてみせる。
「かもな。少なくとも、依頼人の要求はこの船を拿捕。あるいは撃沈することらしい」
依頼人は幻想王国の貴族であり、天義に近しい領地をもっているだけに今回の事態を重く見ているのだろう。
実際、武装しているとおぼしき天義からの船がなんの了解もなしに幻想王国の海域へ侵入しあまつさえ王国の船を沈めたとあれば、かなり酷い自体と言える。
「『影の僧侶』はみるからに人間じゃないが、先頭に立ってるっていう僧侶は人相が分かったんだろう? なにか情報は?」
追加の情報を求めるアーマデルに対し、情報屋はまたも苦々しい顔で別の資料を取り出してきた。
「あるには、ある。しかしなあ……こいつずっと前に死んでるはずなんだよな」
差し出された資料には人相書きと一緒に『アラバミタ』という名前が記述されている。
内容によれば、大召喚以降幻想王国にて初めて魔種の存在が確認された際、神敵であるとして幻想王国への攻撃を強行しようとした天義の僧侶であるという。
かなり少数の仲間と共にヴィンテントを越えようとし、王国の船によって船ごと沈められその際に死亡したと記録されている。
「天義側にも確認をとったが、確かにこいつは死亡してるらしい。こりゃ、『殉教者の森』の事件に似てねえか?」
「確かに、な……」
弾正が口元を押さえる。
死したはずの天義の人間が、影の軍勢を率いて他国の国境を越えようと攻め入ろうとする。
つい最近鉄帝天義間で起きた事件群に似ている。
ならばやることはひとつだ。船に乗ってそのアラバミタとやらの軍勢を撃退するのみ。
「あー、それと。ひとつ気になることがあるんだが」
いざ出撃という空気を出そうとした矢先、情報屋が曖昧な口調でそう加えてきた。
「さっきの船を追いかける形で、エル・トゥルルから出向した小型船が確認されてる。かなりのスピードなんで俺たちが接敵する時にはそいつも追いついてくるだろう。敵なのか味方なのかわからないんだが……一応注意しておいてくれ」
そう言って差し出されたのは一枚の絵。ボートに乗った灰色髪の男だ。煙草をくわえた男。
男は、『煙で自らを巻いていた』。
- <腐実の王国>非のないところに煙はたたぬ完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年02月01日 22時15分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●
ちゃぷん、と船の側面を波が叩く音が伝う。多くの海での戦いを乗り越え細かい傷も増えてきた小型船マルガリータ号の船首付近で、『光鱗の姫』イリス・アトラクトス(p3p000883)が腕を組んで広い地平を見つめる。
「天義の船が幻想の船を沈めた……と」
そう呟いたのはイリスではない。その後ろで、帆柱の上に腰掛けるようにして器用にバランスを取る『暗殺流儀』チェレンチィ(p3p008318)だ。
360度を見回せる彼女をこの場所に配置することは、警戒の面で非常に理にかなったことだろう。
「致命者が幻想に侵入しつつある、つまり致命者による幻想侵攻……のようなことが起きているということでしょうか。或いは過去の再現か」
「さーて、どうにもきな臭くなってきたわね」
チェレンチィの言葉に応える形でため息をつくイリス。
「何が糸を引いているやらって感じだけど、今は地道に潰していくしかなさそうかしら」
「そうなりますね」
『祈光のシュネー』祝音・猫乃見・来探(p3p009413)が同じ船の上から遠くを見つめるように背伸びをする。
ずっと遠くに点のごとく見えているのは、これから拿捕する予定の船だ。
「あの船にも『致命者』が乗ってるのかな」
致命者。既に死んでいる筈の人間。
月光人形を思わせるそれは、鉄帝天義間の森でも発見されそれなりの議論を生んだ。当時は天義本国の騎士団も動き戦闘を行っていたはずなので、致命者が天義の王シェアキム・ロッド・フォン・フェネスト六世の差し向けたものでないことは察するところである。
というより、死者の蘇生などという『世界(天義でいうところの神)のルール』に反する状態を彼らが肯定するとはとても思えない。
そうでなくとも、人間の死後におきた罪で外交を問うということ自体ナンセンスなのだ。
「我が幻想に侵攻とは舐めた真似をしてくれますねえ、生臭坊主が。これでコイツが死人でなければ賠償金でもふっかける所なんですがね」
『微笑みに悪を忍ばせ』ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)はその点を苦々しい気持ちで述べつつ、指に一つずつ指輪をはめていく。装飾としての指輪ではなく、武装としての指輪だ。先端がややとがっており側面はボルトナットのように角張っている。指の動かせるナックルダスターといった風情だ。
「まあ今は、国境沿いの領地にでも恩を売っておきましょうか」
ウィルドたちを不思議がらせる問題は勿論これだけではない。
「仮縫いの盃はやがて水を満たし贖いを繰り返すでしょう。水色の窓を開け放ち、全てに感謝しましょう。感謝しましょう」
突然『純白の矜持』楊枝 茄子子(p3p008356)が意味不明な事を口走ったので、『泥人形』マッダラー=マッド=マッダラー(p3p008376)が不審そうにそちらを見る。
「何言ってるんでしょうかね。何となく合わせてみましたがさっぱり分かりませんね」
「驚かせるな。味方まで狂ったのかと思ったぞ」
『異言(ゼノグラシア)』。崩れないバベルをもってしても認識できない意味不明な言語。ゼノグラシア同士では会話がなりたっているというのがなんとも不気味だ。
「やはり知能が無いということですかね。つまりは哲学的ゾンビ……ですかね、どうでしょうかマッダラー様。ふふ」
「言葉とは意志だ、電気信号ですら法則を当てはめれば言語として汲み取れる。
バベルを越えてくる言葉というのであれば、それは元々意志を持たない音の羅列に過ぎない可能性もある。
哲学的ゾンビかを判断するにはもう少し観測が必要だろうが、知の通わないものをゾンビと言いたいのなら、泥人形の俺からも一票投じて置こうか」
そのような議論を交わしてみたものの、マッダラーの中にはもうひとつ考えがあった。
(『異言』は或いはバベルの弱体化、終末の近づきという線もあるか……)
天義におりたという神託。それが何か関係しているのだろうか。アドラステイアという一つの問題が片付いた矢先、尚も問題は続くのだろうか。
『セクシーキング』冬越 弾正(p3p007105)は小型船の操舵をしながら、同じ船に乗る『灰想繰切』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)と今回の依頼内容について話し合っていた。
「俺もイーゼラー教の信者だからな。神命ならばアラバミタの行動も合点がいく。
が、それを黙って見過ごすかというと話は別。死者の魂はイーゼラー様の身元にお返しするもの。
死後の世界へお戻り戴こう」
「それはまあ賛成するが……例の『煙男』はどうする?」
アーマデルは名も知らぬ彼を勝手に『けむお』と呼んでいた。
ちなみに弾正はけむ太郎と呼んでいる。
「目的は勿論名前も分からんからなあ」
「名を問い、名乗り、名付けるのは縁を結び、存在を、立場を固める儀式でもある」
少なくとも名前くらいはわかっていなくては。
今回の遭遇で、ゆっくり聞く暇があればいいが……と、アーマデルは虚空を見上げつつ思うのだった。
が、そんな時間ももうすぐ終わる。
敵の船が近づいているのだ。
「アーマデル、そろそろだ」
「了解」
アーマデルは腰に下げていた蛇銃剣アルファルドと蛇鞭剣ダナブトゥバンをそれぞれ抜くと、戦闘態勢をとる。弾正も首にかけていたヘッドホンを頭に装着し、平蜘蛛を取り出した。腕に蜘蛛がしがみつくかのような形で装着すると、スロットにUSBメモリを差し込む。
「目標は敵船の拿捕。いくぞ!」
アーマデルと一緒の船に乗っているからだろうか。テンションの上がった様子で弾正は叫ぶのだった。
●
寄せる船。しゃらんという揃った錫杖の音。
彼らの好戦的な様子は、黒く四角い攻撃用魔方陣が無数に展開した様子を見るまでもなく明らかであった。
放物線を描いて放たれる無数の影の矢。
弾正、マッダラーによる二つの船は左右に分かれ、イリスのマルガリータ号が先行しアラバミタの敵船へと接近。真正面から衝突せんばかりの勢いで船首を激しく擦り合わせた。
当然激しい攻撃に晒されるが、そこは鉄壁のイリスである。
大量の影の矢を受けてもまるで傷一つ負わず、翳した盾の後ろで小さく笑みを作る余裕まで見せる。
「集中砲火! 乗り移る隙を作るのよ!」
イリスが叫ぶと同時に、後方でかばわれていた祝音が船から『シャロウグレイヴ・P』を発動させた。邪悪な怨霊を顕現し解き放つと、イリスを迂回し飛んでいった怨霊がアラバミタの後方から射撃を継続する『影の僧侶』へと襲いかかる。
「致命者や影の天使は、天義にとっても、世界にとっても敵……だから、さよなら」
そのままイリスの船を橋代わりにしてアラバミタの船へと乗り込む祝音たち。
チェレンチィがマルガリータ号から飛び立ったのはその瞬間である。帆柱の上からほぼ直線コースでアラバミタへと距離をつめにかかると、『着弾』と同時にコンバットナイフとダガーを振り込んだ。
まるでかまいたちでも発生したかのようにアラバミタの周囲に激しい斬撃の嵐が起こり、飛び出した影の僧侶がかばわなければアラバミタは直撃を受けていたことだろう。
チェレンチィは『外したか』と小さく呟いたが、残念がる様子はまるでない。なぜなら、その隙に左右から迂回するように敵船に船体をぶつけた弾正とマッダラーの船から突入が始まったためである。
「さあさあ、あなた方が言うところの神敵……幻想の悪徳貴族はこちらですよ?」
ぶつかる寸前に跳躍し敵船へと乗りこんだウィルドは、どちら側の敵に対応したものか一瞬の迷いを見せた影の僧侶めがけて拳を繰り出す。咄嗟に防御として翳した影の錫杖はしかし、ウィルドの拳の前には木の枝程度の価値しかない。べきんとへし折れそのまま砕け、僧侶の顔のない顔面に拳をめり込ませる。
「死んだあとでも天義の僧侶として下らない説法ができるというのなら、素直に敬意を抱けるのですがね……」
船内で派手に転倒した僧侶を見下ろし言い捨てるようにするウィルド。
その間にも茄子子とマッダラーがそれぞれ船へと乗り込んでいく。
「おや誰も動かない。私に釘付けですかね、ふふ」
茄子子は飛び込むと同時に『ステイシス』の呪術を既に発動させていた。
アラバミタたちが別の船に乗り込む形で退避してしまってはこの包囲の意味がないから、というのもあるのだが。それ以上にここから先の攻撃を完全なものにする布石でもある。
「さて、音楽の素晴らしさがわかるヤツはいるかな」
取り出した楽器を強くかき鳴らすことで注意をひくマッダラー。
足取りの遅くなった影の僧侶たちが錫杖にのって彼に殴りかかるが、それを間に割り込んだ茄子子が魔術障壁によって空中で停止させてしまう。
「マッダラーさん、そのまま」
演奏を続けてくださいと指をくるくると回して気分良さそうに言うと、茄子子は更なる集中攻撃を受け止める。
今度は障壁を使わず、撃ち込まれた錫杖を両のそれぞれの手でキャッチするという形でだ。
そのままぐるんと回し更なる打撃を間接的に弾くと、やや乱暴な前蹴りによって僧侶たちを突き飛ばす。
こうなった僧侶たちはもはや隙だらけである。
弾正とアーマデルが同時に飛びかかり、あうんの呼吸で連係攻撃を発動させる。
『英霊残響:怨嗟』によって奏でた音と共にダナブトゥバンのコイン散弾を発射する。拡散し回転するコインが僧侶たちへと刺さり、その衝撃で大きくのけぞった。
ここまで来れば、彼らは文字通り『吹けば飛ぶ』状態である。
弾正が巨大な拳のようなエネルギー体を腕の先に作り出すと、集まっていた僧侶たちを纏めて殴り飛ばした。
海へと転落していく僧侶たち。
這い上がってくるかと多少身構えたものの、それ以上の動きはない。どうやらそのまま沈んだか消えたかしたらしい。
一丁上がりとつぶやき、そしてアラバミタへ向き直る。最後はこいつだけだと弾正がUSBメモリを入れ替えた――その途端。
「見つけたぜテメェら! 一っ言も喋るんじゃねえぞ!」
派手な煙をあげ猛スピードで突っ込んできた小型船がアラバミタの船へと激突。その衝撃をそのまま使って船へと飛び込んできた男がごろんと甲板を前転すると、そのままフッと煙を吐き出した。
一息で吐いたにもかかわらず煙幕のように広がる灰色の煙が、弾正たちに絡みつき硬化。その動きを拘束しにかかる。
灰色の髪に黒いスーツ。どうやら情報にあった『煙男(仮)』のようだ。
「お前――」
「喋んなつってんだろ! テメェらの狙いはわかってんだよ!」
腕を大きく振るとしゃべりだそうとした弾正たちの口を塞いだ。
そして、改めてとばかりに男は手にしていた紙巻き煙草を口にくわえた。
「ま、ぶっちゃけ分かってるっつーのはウソな。できりゃあ尋問かましてーところだが……テメェら意味わかんねー言葉しか喋らねえからな。まずは半殺しにして上のヤツが出てくるのを待つとすっか」
口に煙草をくわえたまましゃべり、拳をぽきぽきと鳴らす。
そんな彼に真っ先に対抗したのは煙による拘束を自力で解いたアーマデルだった。
手錠のように両手首を拘束していたものを英霊の響きによって中和し分解すると、蛇銃剣アルファルドを振り抜く。蛇腹状になって襲いかかるそれを、男は跳び蹴りによって咄嗟に弾いた。
「おっとあぶね! くっそ耐性もちかよ!」
口を塞がれたまま、茄子子とマッダラー、そしてウィルドがそれぞれ視線を交わす。前に出ていた茄子子は指を器用に動かして術を発動させると拘束を中和。こっそり解除した上でウィルドへと治癒の魔法を発動させた。
殴りかかろうとしていたアラバミタの錫杖をがしりとキャッチすると、ウィルドが反撃の蹴りを入れる。
その様子に煙男が怪訝そうに眉を寄せる。
「なんだテメェら、仲間割れか?」
「「…………」」
相手の事情をその一言でおおよそ察したイリスとチェレンチィが顔を見合わせる。
祝音は仲間の治癒によって拘束を解かれると、自らの術を使ってまた別の仲間の拘束を解き始めていた。
BS回復の手段を持つ仲間は多く、一人が脱してしまえば復帰は早いのである。
「初めまして。祝音・猫乃見・来探っていいます。みゃー」
口にはりついた煙の拘束もはがしてそう述べる祝音。
「おや、こちらの生臭坊主になにかご用事で?
彼らと敵対しているのでしたら、ひとつ手を結びません? ああ、彼らの味方をするのでしたら諸共倒しますけれどね?」
ウィルドがアラバミタを突き飛ばし、小さく肩をすくめて見せる。
「あちゃあ……」
煙男は頭をがしがしとかき、顔をしかめた。
「わりぃ、テメェもあの意味わかんねー連中の仲間だと思ってたわ。だって同じ船のってんだもん。言ってくれよなー」
「何も聞かずに口を塞いだのではないか」
マッダラーも拘束を解くと、抵抗しようとするアラバミタをがしりと取り押さえる。
相手からの反撃は激しいが、マッダラーのもつ擬似的な不死性は身体に穴を開けられた程度では収まらない。
チェレンチィのナイフとイリスの剣が同時にアラバミタを突き刺し、そして振り払うように海へと放り捨てた。
水柱をあげて落ちるアラバミタ。
一度だけ腕があがったものの、その腕もまたずぶずぶと沈み波に呑まれていく。
「そこの煙の方。貴方は正義ですか。それとも不正義ですか」
茄子子があらためて問いかけると、煙男はビッと茄子子を指さして顔をひきつらせた。
「うるせー! 俺はそーゆー天義っぽいワードと空気清浄機が大っ嫌いなんだよ。今からイカしたカッコイイ台詞を聞かせてやるから待ってろ!」
そう言って、男は尻のポケットらしき場所から小さな手帳らしきものを取り出しページをめくりはじめた。
チェレンチィとイリスが、今度はまた別の意味で困った様子で顔を見合わせる。
「個性的なひとだね」
「敵なのかすらわかっていませんが」
対する煙男がぱらぱらページをめくりながらぶつぶつ言っているのを暫し眺めていたが、弾正は武装を解きつつ問いかけた。
「やぁ、けむ太郎。俺の名は冬越弾正。仲間と共に港の平和を取り戻しに来た」
「おいまてコノヤロー。俺をそのテキトーな名前で呼ぶんじゃねえ」
「利害が一致するなら共闘しないか?狂人にされた時に不殺してくれる味方がいると安心できるだろ、けむお」
「テメェコラ!」
ずかずか詰め寄って弾正の襟首を掴むと、弾正は表情を変えずに彼の顔を見た。
「仇名を付けてみた」
「名乗りたくなければ仮名や偽名でも俺は構わないが、そう認識される事は考慮してくれ
呼ぶべき『名』が無いと困るからな」
横から援護射撃を加えるアーマデル。
「さぁ、珍妙な仇名が増える前に早く名乗るんだ、けむっちょ」
「ここでうっかり面白おかしい偽名を名乗ると、それで一生呼ばれかねないからな?」
「クッ……」
煙男は追い詰められたような表情で弾正から手を離すと、背を向けて数歩離れてから頭をがしがしとかいた。
「……『スモーキー』」
「「え?」」
名前が分からなかったせいで上がりに上がったハードルを容易に潜る名前が出てきたことで、弾正たちがつい聞き返してしまった。
すると、煙男あらためスモーキーはその場で地団駄をふんだ。
「くそァ! ミステリアスでカッコイイ登場を予定してたのにくそがよー!」
最後に頭をかきむしりながらのけぞり大空に叫ぶと、大声を出したことでかえって冷静になれたのかフウと息をついて紙巻き煙草をくわえなおした。ゆっくりと煙を吸い込み、ハアとため息のように煙を吐く。
そして指にはさむように煙草をもち、おそらく幾度も練習したであろう華麗なターンでこちらへ振り向いた。
「俺はスモーキー。流れの探偵だ。ゼノグラシアの裏を追ってる。テメェら、何かしらねえか?」
煙の軌道から声色からその立ち振る舞いまでどこまでもハードボイルドだったが、先ほどまでのやりとりがあるせいで全然頭にはいってこない。
とりあえず笑いをこらえつつ、弾正たちは彼と自己紹介を交わすことにした。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
流れの探偵を名乗るスモーキーと知り合いました
GMコメント
幻想側へ侵入しつつあるアラバミタとその軍勢を撃退しましょう。
●フィールド
船で接近し戦闘することになります。
そのため船を近づけるまでは長~遠距離攻撃を主とし、船がくっついたら相手の船に乗り移ったり乗り移られたりしつつ近接戦闘を主とすることになりそうです。
自前の船があれば多少有利にことを進められます。
※船の操作について
小型船相当のアイテムを装備し持ち込んでいる場合、それに乗って作戦にあたることができます。
その場合『操作しながらの戦闘が充分に可能である』ものとします。
また、戦闘不能時の操縦交代については今回は考慮しなくてよいものとします。(戦闘不能時にも継続して運転だけはできるものとします)
●エネミー
・アラバミタ
錫杖を握った天義の僧侶です。明らかに過去に死んでいる人間であるらしく、おそらく影で出来た『致命者』と呼ばれる存在でしょう。
影の軍勢を率いているとみられています。
・影の僧侶たち
別名『影の天使』と呼ばれるモンスター群です。今回はアラバミタと同様の僧侶のような姿をとっています。
●???
・煙男(名称不明)
敵か味方か正体不明。
今回の件に首を突っ込んでいるっぽい人間です。今回の戦闘中に遭遇する筈です。
見た目からして男っぽいので男と表記していますが、実は性別もわかりません。
常に煙を纏っており、噴き出した煙を固めて相手を拘束する能力があるらしいことだけわかっています。
『煙男』だと印象が悪いので、今回でせめて名前は聞いておきましょう。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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