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シナリオ詳細

<クリスタル・ヴァイス>銀閃の乙女といつかの恩義よ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 『麗帝』ヴェルス・ヴェルク・ヴェンゲルズが敗れ、新皇帝バルナバスが誕生して暫く――
 混迷する鉄帝では六つの派閥が天を競っていた。
 各派閥は各々の影響力を徐々にではあるが拡大させていきつつあった。
 そんな彼らの前に立ちはだかるは鉄帝の冬――『フローズヴィニトル』とも呼称される、伝説の狼になぞらえた大寒波。
 そんな最中、イレギュラーズはそれが実在する事、そしてその確保を新皇帝派が狙っていることを知った。
 各派閥はそれを阻み、帝都への道を繋ぐため、あるいは補給線を確保するためにフローズヴィニトルの気配を感じる地下道へと進もうとしていた。
「……なるほど、いい町だ」
 銀色の髪を撫で付けるような雪に溶かして白を基調とした軍装に身を包んだ女性――ユリアーナはアルマルクの景色に寂しそうな微笑を見せる。
 ユリアーナは鉄帝の南西部に位置するザルパドナヤ・ベロゴルスク都市圏で自警団長をしていた。
 警察機構が解体された際、奇襲気味に受けた新皇帝派の軍人、リボリウスに監禁、拷問され、イレギュラーズの手で解放され早3ヶ月。
(やはり、少し時間を取りすぎた。こうして解放された町を見ればそう思わざるを得ないな)
 口にこそ漏らさずも嘆息することを止められなかった。
(人の身体を好き放題に切り刻んでくれたおかげで、こちらは3ヶ月も身動きが取れなかったぞ、リボリウス)
 監禁の際に受けた拷問は外科医療と3ヶ月の絶対安静を余儀なくされた。
 そっと拷問の際に受けた傷口に触れて思わず自嘲する。
(それとも、私を拷問した結果として、数ヶ月も足止めさせたことを見事な手腕とほめてやったほうが良いのか?)
「……なんて、らしくないな」
 らしくない皮肉だとは、自分でも思う。
(存外、私はムカついていたのか?
 ……あるいは、絶対安静が長すぎて久しぶりの自由に気が急いてるのか?)
 自己分析しながら、ユリアーナは小さく笑った。
「……まぁ、何にせよ……故郷を取り戻す前に、まずは恩を返さねばな」
 ユリアーナの言葉に部下達が歓声を上げる。
「……一宿一飯どころではないが、そこはそれだ。
 今回ばかりは、それでも許してもらう」
 小さく笑って、ユリアーナはイレギュラーズのいる方へ歩みを進める。


 イレギュラーズはユリアーナを友軍に地下道を進んでいた。
 徐々に気温が下がり、冷たい風が吹き始めたかと思えば、やがて路線が凍てついた部分が姿を見せつつあった。
 凍てついた路線と鍾乳洞の如く垂れさがった複数の氷柱に満ちているその空間の向こう側からは冷たい風が吹いていた。
 そして――風を背に立つ軍人たちの姿が目に入った。
 先頭に立つのは、白髪と白髭を持った50代の男だ。
 冷たい風が銀色の髪を靡かせる中、ユリアーナは槍を握る手に力を入れた。
「……このような場所でお会いすることになるとは思いませんでした」
 口に出した声は反響して独特の響きを残して消えていく。
 向かい合う先に立つ軍人は白の混じり始めた特徴的な髭を撫でるようにして触れる。
 見知った仕草と癖は目の前に立つ彼が間違いなくその人なのだと理解させてくれる。
 それ故に――懐かしくもあり、ひどく悲しくもあり、納得もする。
「久しいな、ユリアーナ君」
「ええ、本当に……お久しぶりです大佐……何年ぶりでしょうか」
「君が自警団をお父君から引き継ぐと軍を職を辞して以来だね。
 懐かしいものだ……そして、酷く悲しい」
「そうですね……懐かしく悲しいことです。
 貴方は今も、体制(そちら)側におられるのですね」
「わしは軍人だ。この国への忠誠を誓った。この国の体制に、忠誠を誓ったのだ。
 先帝陛下が亡くなり、今上が正当なる方法で立たれたのなら……ただ新たな体制に尽くすのみ」
 目を閉じて男――クラウゼンは静かに腰に佩いた剣を抜いた。
 それに合わせるように、彼の周囲に立つ軍人たちも臨戦態勢を取る。
「……ヴェルス帝が亡くなるとは思えませんが」
「例え生きておられようと、本当に死んでおろうと『麗帝』の時代は一度は終わった。
 故に、わしは『賊徒』を討たねばならぬ」
「……貴方は、そういう人だ。
 私はそういう貴方を尊敬しているし、故に会いたくなかった」
 ユリアーナは思わずぽつりと呟いて、それにクラウゼンが口元を緩めて笑ったのが分かった。
「……本当に。わしもそう思うよ、ユリアーナ君。
 故に、リボリウスをけしかけ君を監禁させておいたのだが」
「彼に階級を与えたのは貴方でしたか……命じたのも」
「ローレットの手助けがあったとはいえ、無事に逃亡するとは思ってもみなかった。
 良い友人を得たのかな」
「ええ、良い友人も……例え友人でなくとも、彼らは私を助けてくれたとは思いますが」
 ユリアーナは笑みを返す。
「ふっ、ローレットとは良いところなようだね。総員、構えよ――」
 剣を振り上げたクラウゼンに応じるように兵士達が構えを取る。
「――諸君、彼は、強いぞ……見た目50代の壮年でも油断は出来ん」
 それに続くようにユリアーナが構えを取り――戦端が苛烈が開かれた。

GMコメント

こんばんは、春野紅葉です。
<クリスタル・ヴァイス>アーカーシュで1本やらせていただきます。

●オーダー
【1】クラウゼン隊の撃破

●フィールドデータ
 アルマルク地下の地下鉄の一角です。
 不自然に凍りついた路線との先にあった氷の空洞です。
 奥の方から風が吹いているように思えます。
 天井には幾つもの氷柱がぶら下がっており、時折水滴が音を立てています。

 どうやら路線同時の交差地点の類らしく、非常に広い空間が広がっています。
 部隊規模での戦闘、乱戦に適していますが、遮蔽物の類は見られません。

 特に何もなければ双方の間に20mほど感覚が開いた状態から開戦となります。

●エネミーデータ
・『温かき謀将』ツェザール・クラウゼン
 新皇帝派の鉄帝軍人です。
 白髪と白髭が特徴的な50代ごろの壮年男性。鉄騎種。

 ユリアーナが自警団長を父から継承する以前、鉄帝軍に属していた頃の上官に当たります。
 ユリアーナ曰く、『体制の味方』とのこと。
 例え皇帝が冠位憤怒であろうとなかろうと鉄帝の流儀に則った継承である以上、新皇帝に尽くすことを選んでいます。
 数ヶ月ほど前、ユリアーナが監禁・拷問を受けた際に裏で糸を引いていたようです。

 幅広な長剣と鉄拳を武器とする近接アタッカーです。
 本質は知略を駆使した謀将ではあるものの、鉄帝人らしく個人の武勇も侮れません。
 くれぐれもご注意を。

・クラウゼン直隷部隊×10
 内訳は重装槍兵3人、重装銃兵2、軽装剣兵×3人、軽装弓兵×2

 重装槍兵は重装甲の鎧に大盾と大槍を装備しています。
 重装銃兵は大槍の代わりにライフルを装備しています。

 主に戦線を形成し、タンクのように前線を維持する他、攻勢時の突撃役を担います。

 軽装剣兵はパワードスーツに身を包み、長剣を装備しています。
 軽装弓兵は長剣の代わりに強弓を装備しています。

 軽装剣兵は積極的にイレギュラーズ陣営へと突撃し主に撹乱や牽制、アタッカー役を担います。
 軽装弓兵は後方から矢を射かけて前線の支援を担うような動きをしてきます。

■戦闘開始時敵布陣図

軽剣    強弓 強弓

重銃 重銃 重槍 重槍

      クラ


20m


イレギュラーズ側

●友軍データ
・共通項
 皆さんの作戦行動に素直に従って行動します。
 信頼できる戦力です。存分に使い倒してください。

・『銀閃の乙女』ユリアーナ
 鉄帝の南西部に位置するザルパドナヤ・ベロゴルスク都市圏にて自警団長を務めてもいた鉄帝軍人です。
 鉄帝が分裂した初期の頃の警察機構解体に伴い自警団長を解任され、
 ザルパドナヤ・ベロゴルスク都市圏制圧を狙う新皇帝派のリボリウスに監禁・拷問を受けていました。
 イレギュラーズの手で解放されアーカーシュへ避難し、外科医療と絶対安静の状態となっていました。

 今回の地下鉄探索ではこれまでの4ヶ月間で受けた恩を返そうと参加しています。
 なお、当シナリオの成功後は故郷奪還のため、アーカーシュを離脱して帝政派への転属を予定しているようです。

 普段であればクールな姉貴分といった雰囲気の女性ですが、
 4ヶ月にも及んだ絶対安静期間からの解放もあって割とテンションが高めです。

 かつての上官との再会ではありますが、
 その精神性を理解しているからこそそれほど動揺はしてないようです。


 反応型のEXAアタッカーです。
 ほっといてもある程度いい感じに動きます。
 何かあればプレイングで指示してください。

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <クリスタル・ヴァイス>銀閃の乙女といつかの恩義よ完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年02月04日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)
鏡花の矛
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
祝音・猫乃見・来探(p3p009413)
優しい白子猫
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
ニャンタル・ポルタ(p3p010190)
ナチュラルボーン食いしん坊!
メリーノ・アリテンシア(p3p010217)
そんな予感
リドニア・アルフェーネ(p3p010574)
たったひとつの純愛

リプレイ


「国の体制に忠誠を誓う、か。それも一つ筋の通った在り方だ。
 しかし俺達とて魔種が国を荒らしてるこの現状は認められない。
 異常な冬を越えるため、ここは引き下がれない。……押し通る!」
 高らかに告げる『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は魔導銃を構えた。
 星月夜を秘めた美しき魔導と科学の調和を果たしたそれは、実弾にも魔弾にも耐えうるもの。
 構成するは宵闇の静寂を宿す魔術。
 静かでありながら美しき魔弾の旋律はきっと洞窟の向こうまで届くだろう。
 放たれた魔弾は戦場に反響音を奏でる。
 紡がれたメロディは優美にして恐るべき魅了の魔術。
「やってみるとよろしい、若人よ」
 奏でられた音色に耳を傾け頷いていたクラウゼンがその特徴的な髭を撫でつけて微笑する。
「ま、ようはとにかくぶっ飛ばせって事でしょう?」
 揺れる煙草の煙を消して、『『蒼熾の魔導書』後継者』リドニア・アルフェーネ(p3p010574)は拳をキュっと握ってみる。
 単純明快、的を射たそれは真理といえよう。
「だとしたら話は簡単ですわ。
 全員、残らず生きて此処から出れると思わない事ですわね」
 刹那、その姿がブレるようにして消え、撃つは薔薇黒鳥。
「そのご自慢の防御、どこまで貫けますでしょうか?」
 極小の蒼い炎が戦場を抜けて重装槍兵の装甲を穿つ。
「厄介な上司を持ったものねぇ、でもユリアーナが元気になってくれてよかったわ。
 それはそれとして張り切りすぎてこけないでよ?」
「ふふ、あの厄介さが、かつては頼もしかったのだよ。
 あぁ、少しばかり気が急いているが、これも久しぶりに恩師に遭ったからだろうさ」
 冗談めかして笑う『木漏れ日の優しさ』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)に、ユリアーナからそんな返答が返ってくる。
「ま、心配はしてないし、そうならないように相手の足並みを思いっきり乱してやるのがかわいい妖精の悪戯なんだけど!」
「心強いな、妖精の悪戯が手助けしてくれるのなら」
 ふふんと笑い、熱砂の精へとアプローチしながらオデットが言えば、ユリアーナから微笑が返ってくる。
「そうだね、エンリョ無くアバレてイイよ!
 元気になったみたいだし、復帰戦にはイイ塩梅の敵じゃないかな!」
 オデットに続けて『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)がいっそ朗らかに笑う。
「信念が違えば敵味方別れることはあるよね!
 少なくともゼシュテル人の戦士なら負けたままにはしておけないだろうし、
 今度は逆に捕虜にしてやろうよ!」
「――ふ、まさにその通りだ。
 そう簡単に捕虜になってくれる人ではないが……それぐらいの心持で行くとしよう」
 イグナートに短く頷いたユリアーナの闘志は燃えている。
「じゃあ、少し後で!」
 それだけ言って、イグナートは走り出す。
 向かう先は重装備に身を包んだ銃兵達、肉薄してエゴールの呪腕に力を籠める。
 高鳴る鼓動と合わせてスパークを爆ぜる黒き拳が銃兵達の警戒を呼び起こす。
「さてどうしたものかね、体制の味方といえば聞こえは良いけど。
 結局それは思考停止しているだけなんじゃないのかい?
 従うだけのイエスマンなら、今時子供だって出来ることだ」
「手厳しいね、成程たしかにそうとも言える。
 だが、この国で一人の皇帝に忠誠を尽くす意味はなく。
 万民に忠誠を尽くすには――否、辞めておこう。
 君達はそういう問答をしに来たんじゃないだろうからね」
 手厳しく告げる『月夜の蒼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)に、クラウゼンはただ笑む。
「解っていて尚、新皇帝派を名乗るなら。
 文字通り力で持って押し通るとしましょう」
 その手にある星灯の書が淡く輝きを放つ。
「譲れないものがあって、信念を貫くというなら別に止めもしないけど、
 あなたはそう決めた事を後悔はしないのね? クラウゼンちゃん。
『そちら側』にいるのなら、刃を向けなければいけないの 此方側に来てもいいのに、ね」
「わしがもう20年は若ければそれも考えたかもしれんな」
 そう語る『特異運命座標』メリーノ・アリテンシア(p3p010217)にクラウゼンからは静かな言葉が返ってくるだけだった。
「そう、それならいいわ。寒いのは好きじゃないの。早く終わらせましょう。
 ねえ、クラウゼンちゃん。体制に忠誠を誓うのは美しいことね?
 形のない、制度そのものを肯定するだけでいいんだもの、簡単だわ」
 すらりと愛刀を抜いて、構えたメリーノの痛烈なる皮肉にも男は何も返さぬ。
「ま、それはそれ、これはこれじゃ!
 我等にも目的があり、目標もあるのじゃしな。今回はそれがぶつかるだけよの!」
 絶望の大剣を抜き放ち、『ナチュラルボーン食いしん坊!』ニャンタル・ポルタ(p3p010190)が言えば。
「ふむ、結局はそういうものだ。何の問題もありはしない」
 クラウゼンもまた、そう静かに言うばかり。
 その言葉を聞きながら、ニャンタルは一気に最前線へ飛び込んだ。
 放つ斬撃は前線を穿ち、一瞬でも長く突き崩すように。
「ほほう。素晴らしい突撃力だ。まるで騎馬隊の如きだね」
 驚いた様子を見せるクラウゼンが、そのまま怪しく目を細める。
 動き出した戦場、オデットはもう一度ユリアーナへと声をかける。
 既に飛び出す準備の出来た友人にはもう少しだけ待ってもらいながら。
「そうそう、それとムカついちゃったなら、憂さ晴らしに暴れるくらいいいと思うわよ。フォローも出来るしね?」
 それだけ伝えて、オデットは熱砂の精に暴れていいと許可を出す。
 戦場を飛翔した熱砂の精は、戦場の兵士達へ有り得ざる砂嵐を吹き付けて行く。
「『体制の味方』…良い体制にも、悪い体制にも……って事だよね。
 あの軍人のおじさんは、今は悪い体制の味方。
 部下達共々、殲滅……はさすがにユリアーナさんが可哀想だし、おじさん達は全部倒すよ」
「別に構わないさ。殲滅させてくれるような人でもない。
 寧ろそれぐらいの気持ちでいた方が勝てるだろう」
 保護結界を張り巡らせながら言う『祈光のシュネー』祝音・猫乃見・来探(p3p009413)に答えたのは外ならぬユリアーナだ。
 それはかつての上司と、彼が鍛え上げたであろう敵への、ある種の信頼であろうか。
「そう言うなら……分かった
 おじさん……体制の味方なら、体制に殉じて倒されるのも覚悟してるよね……!」
 こくりと頷いて、祝音は魔道具に魔力を籠める。
 方陣が描かれた円盤状の魔道具が淡く白い光を放ち、無数の紐状の魔力が迸る。
 光の魔糸が斬り裂いて傷を生み、縛り上げた者を拘束していく。
「もちろんだとも」
 対して、問われたクラウゼンは静かに口元に笑みを刻んでいた。


「おじさんの仕業だったんだね……僕は、許さないよ」
 祝音は邪悪なる怨霊をクラウゼンへと嗾けた。
 邪悪なる怨霊はその強大な爪を振り払い、クラウゼンを呪わんと痛撃を叩きつけて行く。
 それだけではさほどの痛みでもない爪は、刻み付けられた数多の傷を疼かせ、苦しませる呪いの追撃を生むものだ。
「……わしの仕業、ふむ? 君とは初めましてのはずだが、
 わしのしたことに関わった事があるのかね?」
 怨霊が淡く白い光に包まれて浄化されゆく最中、クラウゼンからそんな疑問が飛んできた。
「報告書を見たよ。僕の知り合いが救出依頼に参加してたから」
「あぁ、なるほど、それで……うむ。
 ユリアーナ君にはわしのやり方を骨の髄まで教え込んでね。
 彼女に動かれると――わしのやろうとすることが筒抜けになってしまう。
 そういった相手は封じておくに限ると思わないかね?
 拷問するようにとまでは命じなかったのだが……」
 祝音の言葉に、クラウゼンは淡々とそう答える。
 そこには悔やんでいる様子も驚いた様子もない。
 それは『命じてはないがやることは想像がついていた』とでもいうようだ。
「少しだけ、大きなのも呼んでみるわ!」
 暖かく、時に恐ろしき陽の光の子、オデットはその手に魔力を籠め術式を起動する。
 呼び起こすは四象、その一端たる権能。
 思い浮かぶ四神に似たる、けれどあまりにも暴力的な権能の暴威が降り注ぐ。
「そろそろ、いいかな? 纏めてぶっ飛ばすよ!」
 銃弾をばら撒きながら肉薄してくる重装兵へ、イグナートは少しばかり腰を落とす。
 深呼吸と共に気を練り直して、全身から闘気を揺らめかせ、地を蹴り飛ばす。
 一気に肉薄する突撃は周りの重装兵達を一気に削っていく。
「後衛火力を甘く見てると足元掬われてろくでもないことになるからねぇ。
 けれど、いやはや固まってくれてどうもありがとう、まずはプレゼントだ」
 ルーキスは一層強く輝いた星灯りの書から魔力を引きずり出す。
 空中に開いた穴より零れ落ちるは混沌の泥。
 開いた空間より溢れだした泥は兵士達の天運を呑み貪っていく。
「俺とユリアーナさんが相手だ。ローレットの力を見せようか!」
 続けるようにイズマが魔導銃を構えなおす。
 放たれる凶弾は冷たく恐るべき一条の尾を引いて空を切り、クラウゼンへと駆け抜ける。
 優れた抜群の精密狙撃により放たれた弾丸がクラウゼンの身体を貫き、ずきりとした痛みがその動きを微かに抑え込む。
「なるほど、いうだけはあるようだ」
 受けた弾丸にも男は余裕を隠さない。
 敵の体勢が立て直される頃、ニャンタルは重装槍兵とぶつかっていた。
(何をされるか分からん、一瞬でも気を逸らせればそれで良い!)
 握りしめた絶望の剣が黒い竜の姿を帯びて行く。
 放つ斬撃が膨張した龍の顎となってクラウゼン目掛けて飛翔する。
 天運を掴んだ斬撃はクラウゼンを半ば程喰らい、傷を与えて消えていく。
「制圧するなら何事も効率よく、かつ的確にさ」
 柔らかく、美しい笑みを浮かべたルーキスが線を空へ躍らせた。
 詮はやがて美しく整えられ、魔法陣が描かれた。
「汝、資格ある者よ、宿縁よ。彼方からの呼び声を聞け。――《クラウストラ》」
 紡がれた魔術が兵士達の身動きを封じ込め、捻じ曲げる。
 開かれた定めを捻じ曲げて、魔導師は微笑する。


「どんな信念があって新皇帝派に与しているのかシラナイけれどね!
 人民を守らないで体制は保てないんだよ!」
 イズマと入れ替わるようにして前に出たイグナートが拳を握りながら告げる。
「人民を、この国が守った事があったかね?
 ――いや、止めておこう。そういうのは」
 イグナートの拳より走り出した栄光を掴む一撃、その後ろに潜めた虎爪の構え。
 掌打と共に打ち出される爪は指先より伝えた気を以って抉り取る。
 雷撃を纏うイグナートの腕は強烈にクラウゼンの身体を食む。
 ニャンタルはクラウゼンへと絶望の剣を振り下ろした。
 壮絶なる鉄拳が振り抜かれ、絶望の剣と触れあった。
「重いのう……じゃが!
 一瞬でも食い止め――いや! 弾き返してみせる!!」
 強烈な金属音が洞窟の内部に響き渡り、剣を握る手が衝撃に震えた。
「若人よ、その意気や良し――」
 ギリギリと競り合う中、ニャンタルはクラウゼンの瞳とかち合った。
 その瞳はどこか羨むような色がある気がした。
「ん? 遠距離だけが取り柄だろうって? はい残念でした☆」
 肉薄してきた敵兵目掛け、そう言って笑うのはルーキスだ。
 その手に構成されたるは禍剣、美しくも恐ろしい宝石へと凝華された魔力は仮初の剣となり。
 肉薄してきた敵兵へと振り払えば、刹那に放たれるは最大火力の暴発。
 爆発した魔力は指向性もなく、ただ接した存在を破壊する。
「第八百二十一式拘束術式、解除。
 干渉虚数解方陣、展開。蒼熾の魔導書、起動――!」
 両手に収めし蒼穹の魔導書。
 起動した術式は深い蒼と暗い碧の炎を纏い、揺らめいた。
 交じり合い描くのは澄み渡った蒼穹陣。
「痺れ、燃え尽き、果てを見よ。
 ――これが、アルフェーネの正義の剣」
 荒れ狂う炎と雷に満ちた拳を握りなおして、リドニアは敵を見据えた。
「貴方にも仕えるべき正義があるのなら、それを否定はしませんわ。
 されど、仕えた相手が悪かったですわね。せめて誇りを抱いて逝きなさい」
 リドニアの言葉に対して、クラウゼンは静かなものだ。
「美しいな、だからこそ恐るべきというべきか。
 蒼熾の魔導書、というのかね。
 アルフェーネの……ふむ、天義の武か、なれば油断できんか」
 目を瞠ったクラウゼンが剣を握る。
 飛び込んだリドニアの一撃は美しくも烈しい拳がクラウゼンに致命的なまでの一撃を叩き込む。
「くっ、ふっ――」
 ずるりと足を落としかけた男は、それでも立ち上がる。
 微かにクラウゼンが後退する頃、リドニアの術式は再び封印の向こうに息を潜めている。


「民草が凍えて死のうが、飢えて死のうが、
 あなた達はきっと、暖かい部屋で美味しい食事にありつけるものね。
 国民がいなくなった国で、一体何を護るのか」
 いや、メリーノの見据える眼前の男の瞳は確かに何かを抱いていた。
 それは背筋が凍るほどに冷たく深い闇のような何かだった。
「この寒さ、あなたの骨身にも凍みるでしょうねえ……
 強い軍人達でもそうなのに、強くない女子供やなんかはどうなってもいいのね?
 それが忠義だとそういうことね」
 刃を構えて詰めるメリーノは、競り合うクラウゼンの視線が自身を見たのに気づいた。
「――あぁ、そうだとも。
 結果として潰えるのであれば、それに殉ずるのが、わしのような老木だ。
 それほどにいうのであれば、君達の手で変えると良い。
 目の前の老木1つ切り倒せぬというのなら、あまり吼えるなよ、小娘」
 今までの穏やかさが嘘のようにクラウゼンの全身から覇気のようなものが溢れ出して、急速にしぼんでいく。
「いや、言いすぎてしまったね、済まない。
 ……さて、そろそろ時間も良い頃合いだね。
 君達はこの向こうに用があるのだったか。であれば、行くと良い」
 クラウゼンはそういうと部隊を纏めて冷気の吹き付ける道とは別の場所からその場を立ち去っていく。
「俺達は新皇帝を引きずり降ろし、鉄帝国を変える。
 クラウゼンさんが忠誠を誓うに相応しい国にするから、楽しみにしててくれ!」
 イズマが叫ぶように言えば、クラウゼンが一度立ち止まり、こちらに向かって振り返る。
 そのまま薄く笑みを浮かべ、目を伏せた。
「楽しみにしておくとするよ。恐らく、わしはそれを見ることは叶わんとは思うがね。
 ――また会う事になる者もいるかもしれないが、失礼するよ」
 くるりと踵を返して、彼は再びその場を立ち去っていく。


「アーカーシュから別の派閥に行くとしても、ちゃんと仲間なの忘れないでね?
 困ったことがあったらいつだって声をかけてくれたらいいんだから」
 クラウゼン隊が立ち去った後、オデットはユリアーナへと声をかけていた。
「あぁ、もちろんだとも……それに、恐らく頼むまでそう長くはかからないだろう。
 その時に手が空いていたら君の手も借りれると嬉しい」
 こくりと頷いたユリアーナが突如としてひときわ強く吹き付けた風に髪を躍らせた。
「ところで……敵の生存者はどうする?」
「君達の好きにするのが良いと思うが……
 敢えて言うのなら、とどめを刺す理由はあまりないだろう。
 それよりも先に進んだ方が速いさ」
 倒れ伏して撤退に応じれなかったクラウゼン隊を見下ろした祝音が問うと、ユリアーナからはそんな返答があった。
「そうだね……おじさんたちを倒しただけで僕達の目標はもっと向こうだよね」
 こくりと頷いて祝音は顔を上げた。
「軍人とは悲しき者よな……
 自由が効かぬ中でも己のルールを曲げられぬ真面目で厳しい者程、特に……」
 立ち去っていったクラウゼンの方角を見ながら、ニャンタルはぼんやりとつぶやく。
 彼が何を思い、何をするためにこちらを防いでいたのか、それはよく分からなかった。
「帝都に向かって寒くなるのかな?」
 吹き付ける『フローズヴィニトル』の寒波にメリーノは小さく呟いた。
 こっそりと仲間達から外れて、遥か向こうに想いを馳せた。

成否

成功

MVP

メリーノ・アリテンシア(p3p010217)
そんな予感

状態異常

イズマ・トーティス(p3p009471)[重傷]
青き鋼の音色

あとがき

お疲れさまでした、イレギュラーズ。

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