PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<咬首六天>鉄帝地下道マッピング

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

「似てる似てる。巧いわね」
「そりゃどうも」
 依頼人であるリリスの言葉に、ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)は肩をすくめるように返す。
「こっちが本業……だからな」
 何か思う所があるのか、愛用の銀のスキットルの蓋を開け喉を潤すと軽く息をつく。
 その匂いに酒の香りはしなかったが、リリスは余計なことは言わず、手にした似顔絵を見て満足げに言った。
「これなら十分よ」
 ベルナルドが描いたのは、手配師と呼ばれる男の顔だ。
 クルィーヴという名の三十代の男だが、混迷する鉄帝の情勢を利用して立ち回り、盗品や強奪された物品を流通させていた。
 裏の世界の流通屋といった所だが、新時代英雄隊のような軍隊に物資を流したり、そこで得た伝手を使って物資の横領や横流しまで手を染めている。
 リリスは実際に会って顔を見たこともあったが、口頭だけで他人に伝えるのは不便なので、ベルナルドに力を貸して貰ったのだ。
 素人では断片的な情報から使い物になる似顔絵を作るのは無理であったが、画家でもあるベルナルドのお蔭で、役に立つ似顔絵が作られた。
「それで、そいつを使ってどうするんだ?」
 自分の作品がどう使われるのか気になったベルナルドが訊くと、リリスは応える。
「手配師は、まだ動き回ってるみたいだから、この似顔絵を使って聞いて回ろうと思ってるのよ。他の線から手繰るのは難しそうだし」
「そうなのか? なんか黒幕っぽいのがいたみたいだが、そっちから手繰るのは無理ってことか?」
「ええ。だから手繰れそうなのから進めようと思って」

 そのあと、似顔絵を手に入れたリリスは聞き込みを始める。
 鉄帝の街や村に物資を届け協力関係を結ぶという事業もしていたので、そのついでに聞いて回っていたのだが、その中のひとつで証言を得た。

「土木作業員を集めようとしてたってこと?」
「ああ」
 リリスに応えたのは、とある村の長だった。
「作業に行った若いもんから聞いた話じゃ、目隠しをされてどこか知らんが地下に連れていかれ、そこで壁を刳り貫いたりしたそうじゃ」
「目隠しってことは、作業した場所を分からないようにしてるってことかしら?」
「そうじゃろうな。『場所を知られたら殺さなきゃいけないから移動中の目隠しは取るな』と言われたらしい。じゃから若いもんは、どこで作業させられていたかは知らんみたいじゃ」
「そのあと、作業した人達は戻って来たのよね?」
「幸いな。約束通り、報酬の燃料やら資材の支払いも終わらせてな」
「そういう所は約束守るのね」
「アレは、そういうヤツじゃからな」
「前から知ってるの?」
「ああ。元々ヤツは孤児じゃったみたいじゃが、ガキの頃から物を流すことが巧くてな。何度か取り引きしたことがあった」
「なら今回は、渡りに船ってことだったのね」
「そうじゃ。今年の冬は今までになく厳しい上に、国がグチャグチャじゃからな。手段なんぞ選らんどられん。売れるモノがあれば売る。ヤツの情報じゃろうとな」
「それに関しては、便宜を図らせていただきます」
 リリスに代わり、同行していたヴァンが言った。
「村が管理している遺跡を調査する権利を証券化して必要な資金は用意します。それを元に食料を発注いただければ、追加で搬入します」
「そうしてくれ。それで、他に聞きたいことは無いか? あるなら答える。冬を越すのに、売れるもんは多い方がいい」
「なら、土木作業員を集めた以外に、手配師が求めて来たことは無いか教えて貰える?」
 リリスの問いに、村長は応えた。
「土木作業をしていた地下の探索をしないかと誘われたらしい。地図を作って新時代英雄隊に売りつけたいみたいじゃ。まぁ、そちらは断ったがな」
「そうなの?」
「下手に関わって殺されちゃ叶わんからな。新時代英雄隊まで関わるんじゃ、いつ殺されるか分かったもんじゃない」
「そうなるわよね。ま、だいたい分かったわ。それじゃ、この後も追加で食料とかは持って来るから、今後手配師に協力を求められても断ってね」
「そのつもりじゃよ。アンタらが、儂らに便宜を図ってくれる間わな」

 などということがあったことを聞いたベルナルドは、リリスに尋ねた。

「それで、どうするんだ?」
「手配師のしてることを、一部真似るわ」
「どういうこった?」
 聞き返すベルナルドに、リリスは応える。
「鉄帝の地下道の地図作りをしようと思うの」
 今リリスが口にした鉄帝の地下道とは、少し前に行われた鉄道施設攻略戦で発見された大規模な地下道のことだ。
 古代において地下鉄として使用されていたのでは? と推測されているが明確な使用目的は分からず、けれど有用性が各勢力により取りざたされている。
「手配師は新時代英雄隊とのコネを作るのに利用しようとしてるみたいだけど、こっちは帝政派とか、他の所とコネを作るのに使いたいわね」
「地図作りとかの下請するから、コネを下さいってことか?」
「そういうこと。あたし達は幻想の商人だから、いまいち鉄帝の権力中枢とは縁がないのよね。村や街とかの小さな単位なら連携取れるぐらいには割とコネ作りは出来てんだけど、そこからが難しくて」
「営業掛けるみたいだな」
「商人ですもの。殺し合いよりは好みよ」
「なるほど……で、地図作りは分かったが、土木作業云々の話はどうするんだ?」
「そっちは一先ず棚上げね。罠を張るための物かもしれないし、ひょっとしたら地下道を利用した秘密基地みたいなの作ろうとしてるのかもしれないけど、そっちまで細かく探る余裕はないし。確実に出来ることからしていくわ」
「そうか。それで、いつから始めるんだ?」
「ローレットに依頼を出して、すぐにでもするつもりよ。その時は、もし良かったら力を貸して」
「余裕があれば、考えておくよ」
 静かに応えるベルナルドだった。

 その頃、鉄帝地下道で、手配師は新時代英雄隊に媚を売っていた。

「それじゃ地図作りは任せて下さい」
 揉み手をする勢いで、地下道探索をしている新時代英雄隊のリーダー格に下手に出る。
「お役に立ちますんで。その代り――」
「上に便宜を図ってくれってことだろ? 分かってるよ」
 にやにやと笑みを浮かべながら、リーダー格の男は応える。
「俺らも地下の探索なんて陰気くさい仕事、早く片付けたいからな。上から急げって言われてるが、面倒だし」
「ひひっ、大変ですね」
「ああ、大変だ大変だ。だからまぁ、よろしく頼むぜ。上に取り入ったあと、俺らにも分け前が出るぐらいによ」
「分かってますよ。でもまぁ、ちょいと時間は掛かるかもしれませんぜ」
「あ? なんでだよ」
「ローレットのイレギュラーズですよ。地下道を探れって依頼が出てるみたいで、かち合ったらこちとら荒事はからっきしですからねぇ」
「あー……分かった分かった。じゃ、そっちはこっちでどうにかするよ。どのみち俺らも探索はしとかないとサボりだ何だ言われて懲罰食らいかねんからな。俺らが見つけたら、殺っとく」
「ひひっ、頼りにしてますぜ」
 手配師はそう言うと、鼻薬とばかりに金貨の入った小袋を渡す。
「お、悪ぃな」
「とんでもない。これからも御贔屓に」
「おお、任せろ」
 そう言うとリーダー格の男は、部下を率いて他の場所の探索に向かった。
 それからしばらく経ち――
「行ったぜ」
 手配師は壁のひとつを軽く叩く。すると壁が内側から開き――
「気付かれなかったみたいだね」
 紳士然とした男と青白い顔をした男、そして魔種の男が現れた。
「ひとまずは成功、ってことかねぇ?」
 手配師の問い掛けに、紳士然とした男――犯罪組織を作って広めているモリアーティが応える。
「完璧にはほぼ遠いが、ひとまず欺瞞用の魔法は成功したようだ」
 モリアーティが言っているのは、地下道の壁を刳り貫いて作ったスペースに自分達が隠れていても、新時代英雄隊に気付かれなかったことを示している。
「前にイレギュラーズを賞金稼ぎが襲った時よりも精度は上がっているよ」
 それは少し前、地下道に訪れたイレギュラーズを賞金稼ぎに襲わせたことがあったのだが、その時も同じように地下道の壁の一部を刳り貫きバレ無いように細工していた。
「あの時は、賞金稼ぎがイレギュラーズを殺せるなら上々。無理でも、索敵を防ぐ欺瞞用魔法のデータを手に入れるつもりだったが、そこそこデータが手に入ったので良かったよ」
「でも完全にバレ無いのは無理だったんだろ?」
「そうだね。だがそれは少しずつでも進歩させればいい。巧く進めていけば、完全に不意を突けるようになる、かもしれないね」
「そこは断言して欲しい所だけどな。で、俺は今まで通り進めりゃいいのか?」
「頼むよ」
 モリアーティは悪巧みを口にする
「ひとまず鉄帝地下道の全容は知りたい。地図にして、それを新時代英雄隊に渡してコネクションの取っ掛かりにしても良いし、こちらが利用するのに使っても良い」
「その間に、そっちは鉄帝地下道の一部を改造して秘密基地を作る、と。何に使うんだよ、そんなの?」
「さて?」
「決めてないのかよ」
「先の情勢が読めないのでね。元々は鉄帝の戦争が広がってくれれば便乗するつもりだったが、計算したら無理だと解が出たのでね」
「あ、やっぱ無理だと思うか?」
「そりゃあね。私達が言えたことでは無いが、どうにもこうにも、この戦争は胡散臭い。戦争は手段ではあるが、その先の目的がね……やれやれ、推理はアレの性分であって私の本分は計算なんだがね……」
 ため息をつくように言ったあと、モリアーティは続ける。
「とにかく、鉄帝地下道の探索と地図作製を頼むよ。なにかしら役に立つかもしれないからね」
「へいへい。でも俺は戦うの嫌いだから、何かあったらすぐ逃げるぜ」
「そうしてくれ。私達もここに殺し合いに来た訳じゃないのでね。何かあればすぐに逃げるよ」
 そう言うと、手配師とモリアーティは分かれるのだった。

GMコメント

●目的

鉄帝地下道の探索をして地図を作る。

●方法

鉄帝地下道の探索をしながら進みマッピングしてください。

道中は、進行度によって以下に分かれます。

1 調査済みのルート

既に地図として記しているルートです。

進行でアクシデントが起こる可能性は低いです。弱い敵が出る、かも?

2 未調査のルート(序盤)

まだ探索されていないルートです。

アクシデントが起こる可能性は中です。そこそこの強さの敵が出るかもしれません。

3 未調査のルート(暗部直前)

進んでいくと、他の場所とは違い明かりがついてないルートの近くまで辿り着きます。

明かりもなく不穏なため、今回はその直前まで進んで依頼は完了になります。

アクシデントが起こる可能性は高です。多少強い敵が出るかもしれません。

●敵

以下の敵が出る可能性があります。

1 魔物

今回出て来るのは、いわゆる雑魚敵です。

2 新時代英雄隊

鉄帝地下道の探索を命じられた部隊のひとつです。

そこそこの強さです。

3 手配師と仲間達

プレイングで遭遇する内容を書いていただくと、何処かで出てきます。

今回の目的は、あくまでも『鉄帝地下道の探索をして地図を作る』ことですので、こいつらと遭遇しなくても目的は達成できます。

戦闘になったとしても、基本は逃げます。

現状、様子見で動いているので、殺しに来ることは無いです。

強さは不明ですが、魔種がパーティ内にいます。

●鉄帝地下道

鉄帝の遥か昔に存在した古代文明の名残と思われる場所。

鉄帝の各勢力が、補給路や不意討ち用の経路として使えないかと画策している。

今回進む範囲では、明かりがあるので用意する必要はありません。

複数で戦闘するのに支障のない広さがあります。

●特殊ドロップ『闘争信望』

当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。

●情報精度

このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

それでは、少しでも楽しんでいただけるよう、判定にリプレイに頑張ります。

  • <咬首六天>鉄帝地下道マッピング完了
  • GM名春夏秋冬
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年01月27日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)
アネモネの花束
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)
策士
リコリス・ウォルハント・ローア(p3p009236)
花でいっぱいの
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色

リプレイ

 鉄帝地下道のマッピング依頼。
 仲間と共に探索しながら、『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)は壁に触れて確かめる。
(素材は何だろ? コンクリみたいに見えるけど)
 冒険者にして探検家、或いは研究者てもあるゼフィラとしては、依頼でなくとも調べたい気持ちがある。
(学者の端くれとしては、是非ともこの遺跡を保全しつつ学問的な調査を行いたいところだけれど……ま、現状では軍事行動に使われるんだろうねぇ)
 仕方ないと理解は出来ても残念ではある。
(この状況だから文句は言えないが、嘆かわしいことだ)
 だからこそ、現状打破に貢献できればいいとも思っていた。
(遺跡を守るためにも、早い所この動乱を終わらせなければね)
 意気込みながら探索を続け、ゼフィラはマッピングしながら仲間と共に進む。
 彼女のように意気込んでいるのは仲間も同様だ。
(なにがでるかな、なにがでるかな)
 ダンジョンアタックを楽しみながら進むのは、『若木』寒櫻院・史之(p3p002233)。
(ふふっ、腕が鳴るよ)
 強化したエコーロケーションで周囲を索敵していく。
 少しでも違和感がある場所は重点的に、壁の厚みを探り不意討ちにも警戒しながら先頭に立つ。
 後方でマッピングしてくれている仲間の様子を窺いながら進行速度を調整し、分かれ道では壁に傷をつけてどの道へ行ったかわかるようにしておく。
(総当りしらみつぶしにしないとね。マッピングって、そういうものだし)
 史之のように、マッピングに抜けが出ないよう注意して進む人物は他にもいる。
(良い地図を作れるよう、努めたいですね)
 2体のファミリアーを斥候と後方警戒に配置しながら、『比翼連理・攻』桜咲 珠緒(p3p004426)はマッピングをしていく。
(地下道の地図は、現状どの勢力でも欲しいものですし、役に立つ筈です)
 それは戦いだけでなく、鉄帝の厳しい冬から人々を助けられないかという思いも込めている。
(寒波が地下から来ている状況ですと寒さ除けにはなりませんが、それでも雪が積もらない流通や移動経路と考えると重要です)
 鉄帝の人々の生活も考え、マッピングに集中していく。
 瞬間記憶で纏めた情報をギフトで投影し、時折仲間のマッピングも確認し精度を上げていく。
 集中して進む珠緒だが、それだけに自分の周囲への警戒は低下せざるを得ない。
 けれど不安は無い。
 なぜなら、恋人でもある『比翼連理・護』藤野 蛍(p3p003861)が隣で守ってくれているからだ。
「足場が悪いから気をつけて」
 珠緒が安心して作業に集中できるよう、段差や足元に注意していた蛍が声を掛ける。
 しかしマッピングに集中していた珠緒は反応が少し遅れ、体勢を崩しそうになったが――
「珠緒さん!」
 蛍が支えてくれる。
「ありがとう」
 笑顔を浮かべ礼を言う珠緒に、支える時に手を取った蛍は照れたような笑みを返しながら気合を入れる。
(このまま集中して続けていかないと)
 マッピング作業は単調な作業の繰り返しではあるが、先々のことを考えれば重要なことだ。
(地道な作業こそが最終的な勝利に繋がるのよ。縁の下の力持ち、ってね。地下だけに)
 堅実に進めていく。
 その甲斐もありマッピングは順調に進むが、懸念が無いわけではない。
(手配師が地下道にいるかもしれねぇんだよな)
 卓越した技量で地図を記しながら、『鳥籠の画家』ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)は思う。
(一度ぐらいツラは拝んでおきてぇよな)
 人伝に特徴を聞いて似顔絵を描いたベルナルドだが、それが巧く描けたか画家として気になる所だ。それに――
(色々とやらかしてるヤツみたいだし、どんな顔してるか直接見てみてぇ)
 生きてきた軌跡は顔に出る物だ。今後の人物描写に役立つかもしれない。
 とはいえ今は、マッピングに集中する。
(珠緒が情報をまとめてくれるから、描くのに集中できて助かるぜ)
 どうしても足りない情報は自分で補いながらマッピングを進めていった。
 そうしてマッピングを進める者もいれば、戦闘に重きを置きながら進む者もいる。
(この辺りの壁は――問題ないな)
 壁を注視しながら、『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)探索を続ける。
 それには明確な理由がある。
(奴等はまだ地下通路で何か企んでるのか)
 少し前、鉄帝地下道に賞金稼ぎを誘導し、イレギュラーズと戦わせようとした者達。
 手配師も含めたそいつらは、地下道の壁に細工して不意討ち用の部屋を作っていた。
(奇襲ポイントなんか作られたら面倒な事になる)
 地下の安全を確保したいのに、そんな物を作られてはたまらない。
(ともあれ地下通路の全容把握を目指したいな。情報を集めよう)
 ファミリアーも使い、可能な限りの能力を駆使しマッピングしていった。
 マッピングだけでなく、手配師などの不埒な相手への対処も怠らない。
 特に、『ノブレス・オブリージュ』シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)は、悪辣な者達が起こす悪事の連鎖を止めるべく意気込んでいた。
(手配師絡みの依頼ということで今回も参加してみたが……可能ならここで捕えたい所だな)
 色々と画策し動いている手配師一派であるが、それだけに放置は出来ない。
(ここで奴のやっていることを一部真似るのは良いが、もしかしたら手配師の方もまた同じことをやる可能性もあるな。だが――)
 望む所だというように、意志を固める。
(そうなったら僕としてはむしろ好都合だ。今度こそ奴を捕まえて、ここまでの連鎖を止めてみせる!)
 強く決意しながら、同時に仲間の助けになる様にマッピングの補助も行っていく。
 そして特に問題は起らず進む。
 すでに未到達地に入っていたが壁などに不審な個所は見当たらずマッピングも進んでいる。
 平穏すぎる中、『お師匠が良い』リコリス・ウォルハント・ローア(p3p009236)は、仲間とは違う観点から周囲を探り進んでいた。
(不意討ちで使うなら……この先の十字路が匂うな)
 既にフードを被り狩人と化したリコリスは、能力を十全に使いながら、むしろ経験と直感に従い周囲を探る。
 それは狩人にして、獣の如き嗅覚を武器にしているかのようだった。だからこそ――
(あるとしたら……ここ)
 それは十字路になっている通路の、少し手前。
 十字路で視界が開けておらず、状況確認のために一端動きを止めた時、後方から不意討ちが出来る場所。
 そこはスキルを駆使しても何の変哲もない壁にしか思えない。
 だがリコリスは、狩人にして獣たる人狼が如き直感に促されるようにして、壁に手を当て体重を掛けて押し――
「隠し通路だ」
 壁にしか見えなかった扉を開けた。
 緊張が走る。
 その中で、ゼフィラは好奇心を浮かべ声を上げた。
「いやはや、心が踊るね」
 アナザーアナライズで解析を試み、推測も含め仲間に伝える。
「さっきまでは認識できなかったけど、今ならスキルも使わずに扉があることが分かる。痕跡は残ってないけど、これは使いきりの術式なのかな? 違和感があること自体を認識させない認識阻害の術式。スキルやギフトに対抗するための物だろうけど……こんなことを言っていられる情勢ではないけれど、何れはしっかりこの地下道を調べたいものだね」
 ゼフィラの推測では、スキルやギフトの類も騙せる術式であり、その代り一度でも気付けば効果が無くなるというもの。
 解析するための痕跡すら残らない使いきりの術式で、総当たりで壁を調べて行けば発見は可能だろう。とはいえ――
「それには時間が恐ろしく掛かる。時間を掛けさせること自体が目的の可能性もあるし、面倒な術式だよ」
 そんな術式の掛けられていた扉だが、その先は通路になっており、他の地下道に通じているようだ。
 扉の中を皆で確認する中――
「……音が聞こえる」
 聴力を強化し集中していたイズマが、隠し通路の先で戦闘音が聞こえて来るのに気付く。
「敵か? 手配師もいるかもしれない。行ってみる?」
 イズマの提案に皆は頷き隠し通路を進む。
 念のため、イズマや珠緒がファミリアーを使い安全を確認しながら進み、他の地下道へと出る扉を開け皆は一斉に出る。
 そこでは、手配師と数人が多数の魔物と戦っていた。
「は? 誰だ!?」
 突如姿を見せたイレギュラーズに慌てる手配師。
 その隙を突き魔物が噛み殺そうとするが手配師は避け魔物に軽く触れ、少し離れた途端魔物が爆発する。
(今の攻撃は――)
 手配師を注視していたシェヴァリエは気付く。
(振れた箇所に爆弾のような物が現れ爆発した。魔法か?)
 恐らく接触箇所から魔力を流し込み爆弾を具現化させ爆破させる魔法だ。
(近接能力の程度が分からない以上、距離を取って戦うべきか?)
 捕縛を考え先制攻撃を考えていたが、そこに魔物達が襲い掛かってくる。
 やむを得ず戦うイレギュラーズ達。
 危なげなく戦い、手配師達とほぼ同時に戦闘を終える。
 お互い向かい合う中、リコリスは倒した魔物の一部を引き摺りながら目を爛々と輝かせ、魔物の血で化粧した血塗れ赤ずきんの姿で威圧する。
「うひっ、怖ぇなおいっ」
 ビビったように後ずさる手配師。そんな彼にリコリスは――
「聞きたいことがあるんだ。欺瞞魔法や、そいつらの詳しいこと」
 手配師の仲間にも威圧するように視線を向けながら言った。
「ほらほら、知ってること全部吐き出しちゃって楽になろうよ」
 人食いの人狼が如き凄味を見せる。
「キミは今、人喰い狼の前に喉笛を差し出している状況なんだよ?」
「勘弁してくれっ」
 仲間を盾にするように隠れる手配師。そこに――
「よぉ、俺が描いた似顔絵は気に入ってくれたか?」
 ベルナルドが手配師に声を掛ける。
「情報通なアンタなら、もう見てんだろ」
 すると手配師は――
「あれアンタが描いたのか!」
 仲間の影に隠れながら声を上げる。
「良い腕持ってんなアンタ。なぁ贋作とか描かねぇか?」
「……勘弁してくれ」
 ため息をつくように返しながら、ベルナルドは抜け目なく動く。
 手配師達の視線に合わせ、仲間の動きがバレないようドリームシアターを使う。
 合わせて動くのは、珠緒と蛍。
 珠緒はファミリアーも使い周囲の索敵をしながら背後を取る様に進み、蛍は連動して挟み込むような位置に向かう。
 2人は息の合った連係を見せながら、手配師の捕縛を狙う。 
(手配師とは特に面識無いけど、新皇帝派にも力を貸してるのよね?)
 気付かれていないか注視しながら、蛍は思う。
(昔から言うように、敵の味方は敵! ここで身柄や情報を確保できたら言うこと無しだし、捕縛を狙いたいわ)
 欺瞞魔法に対抗するべく、使える物は全て駆使し手配師本体を把握し配置につく。
(珠緒さん)
 視線を合わせる蛍に、珠緒は頷くと、手配師捕縛に向け気合を入れる。
(手配師にはまず足を止めてもらいませんと、文字通りお話になりません。蛍さんと協力して逃げられないようにしないと)
 退路を断つための包囲は彼女達2人だけでなく、ゼフィラも動いている。
 人数が増える分、ドリームシアターで幻影を作るベルナルドの負担が重くなるが、それを軽くするため史之も手配師達に声を掛け注意を引く。
「やあ、やっと会えたね」
 所作と儀礼は相応の物を感じさせながら、同時に挑発するように言った。
「あれえ、そっちの魔種には見覚えがあるような気がするよ」
 これに魔種の男、ジャックは笑顔で返す。
「ひょっとして、呼び声を使わないか警戒してるのかな? 心配なくても、望まない者に私は使わないよ。望まない相手を魔種にしても楽しくないじゃないか。大体キミ、旅人だから反転しないだろ?」
「反転しなくても呼び声の持つ毒性に耐性があるわけじゃないよ。あの旅人の国練達だって、魔種の呼び声で狂気に駆られた人が大量に出たくらいなんだからさ」
「ははっ、少なくともここで私達は、する気はないよ。モリアーティは、少し考えてたみたいだけどね」
 これに犯罪組織の長であるモリアーティは続けるように言った。
「戦争の只中で呼び声を使うことで、平時と、どの程度差があるか試そうかと思ってね。だが私達がわざわざする必要も無さそうだから止めたよ」
 たわいないお喋りをするように話すモリアーティ。
 その間に、退路を断つべく配置が終わり――
「素晴らしい。手際が良いな」
 手配師の仲間の1人、青白い顔の男が感嘆するように手を叩いた。
「威圧や会話による意識誘導と幻影による騙し、連動して動く人員配置。見事だ」
 退路を断つべく動いていた珠緒と蛍だけでなく、ゼフィラやシェヴァリエに視線を向け青白い顔の男は言った。
 そこにゼフィラが呼び掛ける。
「まあ待ちたまえよ。キミ達の商売には興味がないが、この地下道の情報があるなら教えて欲しくてね」
「ふむ」
 青白い男は面白げに小さく笑みを浮かべると、モリアーティに言った。
「折角だ、話を聞こうじゃないか、モリアーティ」
「機嫌が好さそうだね、カール」
「有能な人物は好きだからな。それに見合った平等公平な応えを返すべきだ。戦争と同じく」
「そうだね」
 モリアーティは頷くと、イレギュラーズ達に向け言った。
「話をしたいことがあるかな?」
 これにイズマが返した。
「まず言っておきたいことがある」
「何かね?」
「これは新皇帝と鉄帝国の戦いであり、決着は俺達が勝つか鉄帝国が滅ぶかだ。……未来があるのはどちらだろうな?」
 手配師に視線を向けイズマは言った。
「そちらが新時代英雄隊とのコネを作ろうとしているのは分かっている。だが、それは全て潰す。コネを作るのは不可能だ」
「言いたいことはそれで終わりかね?」
「いや、その上で提案がある」
「ふむ」
「貴方達が持ってる情報が欲しいな。ついでに俺になら賞金稼ぎを手配しても構わないから」
「それはどういう意図があるのかね?」
「取引だ」
 清濁併せ飲むようにイズマは言った。
「仲間や派閥を不利にしない範囲で賄賂をやるよ。だからこちらとコネを作れ」
「ふむ」
 楽しげ笑みを浮かべモリアーティは手を叩く。
「良い提案だ、興味深いね。だが残念ながら、時間切れだ」
 モリアーティの言葉と同時に――
「助けてくれ! イレギュラーズだ!」
 手配師が叫ぶ。その視線の先には、まだ距離はあるが、新時代英雄隊の一団が駆けて来るのが見えた。
「さて、では逃げるとしよう」
 逃げようとするモリアーティと手配師達。そこに――
「逃げるな、手配師」
 すでに狙いをつけていたシェヴァリエが呪詛の刃を放つ。
 不可視の刃が手配師を斬り裂こうと襲い掛かり――爆発した。
(呪詛の刃を爆破して防いだ?)
 驚きつつも冷静に分析するシェヴァリエに、手配師は顔をひきつらせ叫ぶ。
「勘弁してくれ! 魔力喰うから使いたくねぇんだよこいつは!」
 そう言って逃げようとする手配師に、シェヴァリエは距離を詰め追撃。
 呪詛を纏った強烈な蹴りを叩き込むが、当たる直前に爆破が起り防がれる。
(こちらにダメージは無い。完全に防御特化の技か)
 魔力消費も大きいようなので仲間と連続攻撃すれば押し切れそうだ。だが――
「死ねや!」
 手配師達が抵抗している間に新時代英雄隊が接敵。
「悪いが、君たちに構っている気はないんだ」
 新時代英雄隊を捌きつつシェヴァリエは手配師を追おうとするが、混戦になり難しい。
 それは他の仲間も同じだ。
「今はキミ達と戦う気はないんだけどね」
 ゼフィラは、手配師追跡の邪魔となる新時代英雄隊に痛打を与えていくが、混戦時状態で巧くいかない。
(下手に追い駆けたら後ろを取られる。それよりも皆の援護に動いた方が良さそうだ)
 状況を見定め回復役として動く。
 そこに纏まった数の新時代英雄隊が襲い掛かろうとするが、イズマが魔力で作り出した泥で捕え、魔空間に飲み込み押し潰す。
 数人が戦闘不能になるが、敵数が多い。
 しかも数を頼みに恐れず襲い掛かってくるので無視も出来ない。
「珠緒さん」
「はい。任せて下さいです」
 僅かに言葉を交わすだけで意図を理解し合い、蛍と珠緒が連携して敵を叩く。
 蛍が先行して前に出ると、光の花弁を舞い散らせ敵を引き付け、珠緒が魔剣で斬り裂く。
 次々倒されていく新時代英雄隊。
 それを加速するように、蹂躙するように暴れるのはリコリス。
 敵の鮮血で赤く周囲を染め、血風を思わせる勢いで倒していく。
 仲間が倒され及び腰になる者が出るが、史之は逃がさない。
「お役目ご苦労さま。こんな仕事してるくらいだ。遺書くらいは書いてるよね?」
 殺しはせず、けれど容赦もせず。
 数多の斬撃から衝撃波を生み出し、敵を纏めて戦闘不能にしていった。
 この時点で敵は怯み始め、それを後押しするようにベルナルドが戦闘芸術を描き上げる。
 空間に描画された絵図が現実へと具現化し敵を撃ち据える。そこに――
「無駄に怪我させる気はねぇ。降伏を勧めるぜ」
 ベルナルドが降参するように言うと、残った者達は不利を悟り降伏した。

 敵を倒し、だが混戦を利用した手配師達は姿を消していた。
 追い駆けようにも、捕縛した新時代英雄隊を放置も出来ないので、明かりがついてないルートの近くまでマッピングを終え帰路につくイレギュラーズ達であった。

成否

成功

MVP

リコリス・ウォルハント・ローア(p3p009236)
花でいっぱいの

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様でした!
皆さまのお蔭で、鉄帝地下道のマッピングは進み、その成果は鉄帝の幾つかの派閥に渡されコネを作る取っ掛かりとなったようです。
手配師は逃げましたが、交戦したことで戦闘手段が一部判明しています。もし次に戦うことがあれば、少し有利になるかもしれません。

それでは、最後に重ねまして。
皆さま、お疲れ様でした。ご参加、ありがとうございました!

PAGETOPPAGEBOTTOM