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シナリオ詳細

女海賊の島・捕らわれの【小鬼飼い】ネミアディア

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 潮風に揺れるサトウキビが美しい音を奏でている。
 目に沁みる青い海、木々の緑、熱い日差し。木漏れ日の中の鳥や魚。潮の香りと輝く陽光に包まれる楽園のような島の風景も、いまのネミアディアの心を明るくしてくれない。
 豊穣へ向かう航海の途中で女ばかりの海賊船に襲われて、この島に無理やり連れてこられてからもう二年近くが過ぎようとしていた。
 女性のように綺麗だった手も、島の暮らしが長引くにつれて垢切れだらけの荒れた手になっている。その皮膚は拳法家なみに硬い。
 少女のように線の細い顎の左下には、うっすらと青あざもあった。男だとばれた時に、女中頭に殴られた痕だ。
 ネミアディアはため息とともにちぎりとった日記の一部を瓶に詰め、コルクで栓をした。
 余白に「助けください、女海賊の島に捕らわれています」と書いて入れられたらいいのだが……。
 筆記用具のたぐいは捕らわれた時に取り上げられ、また『奴隷女』には不要なものとだとされて新たに入手することもできないでいる。
 何処かの浜にこの瓶が流れ着き、たまたま好奇心旺盛なものが拾って中に入っている紙を読み、親切心からラゴルディアに知らせてくれることを願って海へ投げた。
 もちろん、いまが引き潮であることを分かっていてのことだ。瓶は沖へ沖へと流され、黒潮にのって遠くの大陸、あるいは他の島へ運ばれていくだろう。
(「猶予はあと半年。考えるだけでおぞましいことですが、首領の娘をすぐ孕ませたとして十か月……ダメだ、絶対にダメ。明日の夜までに助けがこなければ、体より先にぼくの心が壊れてしまう!」)
 捕らわれた男たちはのこらず海賊女たちと子作りすることを余儀なくされ、半年たっても子を成せなかった場合は殺されて海に捨てられる。
 子をなしても殺される。生まれた赤子が女でも男でも。
 赤子が男の子だった場合は、父親ともども日が変わる前に海の藻屑だ。
 捕らわれた女たちは奴隷として、海賊女とその子供たちの世話をさせられる。ケガをしたり病気になっても手当てはされず、死んだらそれまでの使い捨てだ。
 それでも男よりは女の方が生き残れる確率が高い。
 襲われたときには知る由もなかったことだが、ネミアディアは捕えた男たちのまたぐらを掴んで品定めする女海賊たちに恐れをなし、とっさに女を騙った。
 シックスパックに割れた腹筋、丸太のように太い腕、悪魔のように見える背中の筋肉。枯れた太い声に鋭い眼光、咥えて体や顔に無数に走る古傷は、エルフでないことを差し引いたとしても女のものではないと。
 すくなくともネミアディアの常識では、女というものは柔らかく華奢で守ってやらなくてはならない存在(あくまでエルフの女性に限定される)なのだ。
 そろそろ戻らなければ抜け出したことがバレてしまう。
 いやいや足を内地へ向けると、明日行われる婚礼の儀の唄が微かに聞こえてきた。海賊女たちが首領の一人娘の婚礼を祝うため、この島独自の弦楽器を鳴らして練習しているのだろう。
(「ああいやだ、いやだ。あんなバケモノみたいな女と無理やり番わせられるぐらいなら、いっそ殺された方ほうがましというもの」)
 それでも死ぬわけにはいかない。自分は『時に鎧われし心』の継承者にしてエルフを守るもの。ゴブリンと馴れ合うようになった腹違いの兄に助けられてでも、生き延びて元の世界に戻らねばならぬのだ。

 ネミアディアはその場に膝から崩れ落ちると、何の変哲もない杖に偽装した『時に鎧われし心』にすがって泣きだした。


「奇跡的に生きてとある島に流れ着いた男の話によると、そいつら全員、スーパーレッドとかいう巨大イカの海種らしい」
「イカなのか?」
「いかにも」
 グドルフ・ボイデル (p3p000694)はキドー・ルンペルシュティルツ (p3p000244)の額をぴしゃりと手で打った。
「誰がうまいことを言えといった」
 いてぇな、とキドーが手で額を押さえれば、どちらからともなく、ゲハハ、ワハハと笑いだす。
 何がそんなに可笑しかったのか、二人は脇腹が痛むまで笑い続けた。
「それで、おれさまにについてきて欲しいってか。その女海賊退治に」
「ま、そういうこった。が、なにも張り切って退治することはねぇ。こっちはネミアディアを連れ戻せればいいんだ。襲われるのは連中の船より小さい船だけらしいしな」
 そんなわけで、大人数で出かけるつもりはないとキドーはいう。
 椅子に縛りつけられたラゴルディアが、口に噛まされている布越しにウーウー唸った。
「なに言ってんだ、こいつ?」
「自分1人で十分とか言ってんだろ。うちの社員たちが調べたことをうっかりしゃべったら、たった一人で行こうとした」
「なるほど。たった一人でね。バカなの?」
 派遣会社ルンペルシュティルツに所属する者たちが方々の港で集めた情報によると、女海賊の島には戦えるイカ女が二十人、引退した、あるいはまだ成人していない非戦闘員のイカ女が60人はいるという。
 そこに外から連れて来た奴隷女や種男を含めるとかなりの人口だ。
「奴隷女や種男たちは、俺たちの邪魔をするかもしれないし、協力してくれるかもしれない。イカ女たちが劣勢になった時点でちゃっかり俺たちの側につくと思うがな」
 ラゴルディアが体を激しく揺すって椅子ごと倒れた。その拍子にくつわが外れる。
「誰がバカだ、この腐れゴブリンども!!」
「あ? おまえは弟を助けて欲しいのか、欲しくねぇのか。どっちなんだ!」
  グドルフが大きな眼をぎょろりと剥いて怒鳴りつけると、ラゴルディアはとたんにおとなしくなった。
 しおしおと項垂れて呟く。
「……助けてくれ」
「あ? そこは『助けてください』だろ、クソエルフ」
「……助けてください。ってこれでいいか腐れゴブリン!」
「最後が気に入らねぇが、まあいい。金も船もオマエが出すんだしな」
 とりあえず、キドーとグドルフはラゴルディアを床に転がしたまま、イカ女海賊退治に協力してくれる仲間を探しに行くことにした。


「左舷45度にカモを発見! 総員、ダイブ準備!」
 頭領の命令を受け、赤い髪をたなびかせたイカ女たちが三叉の槍を片手に海賊船の左舷に並ぶ。
「今夜はマーガレット様の婚礼だ。あたしたちのお楽しみのためにも、いい男がいるといいねぇ」
「婿はアレだろ。女に化けてた優男。この襲撃でいい男がいたら、そっちを取って優男はポイっとすてるんじゃない」
「女に化けていたぐらいだから、竿も玉も極小だって噂だよ。乗り換えは十分ありうるよ」
 手下たちのお喋りに感づいた頭領が、だみ声を張り上げた。
「お黙り! 今日は女も絶対殺すんじゃないよ。娘の婚礼の手伝いが足りてないんだ。いいね」
「イエス、マム!」
「わかってんならいいよ。さっさと行って狩ってきな」

GMコメント

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●成功条件
 ・ネミアディアを保護し、島をでる。
 ・ラゴルディアも生きて島を出る。


 リプレイは捕虜として頭領の主屋敷に連れてこられたところから始まります。

 時刻は昼を回ったところ。
 男性は武器を取り上げられて、鍵のかかる大きな座敷牢へ。種男たちもそこにいます。
 ※花婿のネミアディアは座敷牢にはいません。
 女性は台所へ連れて行かれます。奴隷女たちと一緒に婚礼の儀で出される料理を作るように命じられます。

 ※海上で襲われるシーンはありません。全員、わざと女海賊たちに捕まっています。
 

●場所。
 女海賊の島。とある南海にある孤島。一番近い島でも船で三日かかる。
 島の広大な森には少なくとも小高い山が二つ。その間には川や渓谷、果てはつり橋のようなものまで見える。
 平地こそ少ないが水には恵まれた島のようだ。
 婚礼の儀が行われるのは頭領の主屋敷。島のほぼ中央を走る渓谷にある。
 日が暮れると、頭領の主屋敷の大広間でネミアディアと頭領の娘マーガレットの婚礼の儀が執り行われます。

●敵1 女海賊たち/20名(女頭領とその娘含む)
 全員、スーパーレッドという品種のイカの海種です。父親の種族がなんであれ、生まれた女の子はみなスーパーレッドの海種になる模様。
 彼女たちはシックスパックに割れた腹筋、丸太のように太い腕、悪魔のように見える背中の筋肉の持ち主で、枯れた太い声に鋭い眼光、体や顔に古傷がたくさんあります。
 髪を伸ばしたいかついオッサンにしかほぼ見えません。
 身長は2メートル。小兵でも170センチはあります。
 武器は三叉の槍、防具の類はつけていません。
 槍を使った攻撃や肉弾戦を得意としています。
 ※女頭領のみ、ダイダルウェーブを使ってきます。

●敵2 老若イカ女たち/60名
 体が弱って戦えなくなったイカ老婆や、まだ成人して実践を経験したことがない若イカ女たちです。
 彼女たちは敵の戦力になりませんが、イレギュラーズの邪魔をしてきます。

●その他
・種男……子づくりと夜のお楽しみの為だけに生かされている男たち。気の毒なほど生気がない。
 戦いが始まると、イレギュラーズに声援を送ってくれます。ただそれだけ。
・奴隷女……イカ女たちの身の回りの世話をさせられている。
 イレギュラーズが負けそうになると、とたんにイカ女たちの側に回って妨害してきます。
 逆にイレギュラーズが勝ちそうだと思ったら、イカ女たちの邪魔を始めます。

●NPC【小鬼飼い】ネミアディア
 エルフ。キドーの元いた世界の貴重なアーティファクト『時に鎧われし心』の所有者。
 ラゴルディアの腹違いの弟。
 豊穣へ向かう航海の途中で女海賊たちに襲われ、捕まりました。
 最近まで女だと偽って過ごしていましたが、ふとしたことで男とばれ、無理やり頭領の娘と結婚させられることになっています。
 特別に調合した薬などを使ってゴブリンを使役する事に長けていますが、一緒に連れて来たゴブリンは襲われたときにすべて殺されています。
 いまは心身ともに疲弊している状態で、戦力としては期待できないでしょう。

●NPC【小鬼狩り】ラゴルディア
 ネミアディアの腹違いの兄。
 ダークなファンタジー世界出身の狩人エルフ。弓とナイフを用いて戦うフィジカル系エルフ。金色の髪と透けるような肌を持つ。
 ローレットの依頼を数多く受けており、実力は一線級です。
 本依頼では自作の大弓を武器にしています。
 『チェインライトニング』をもとにしたオリジナルスキルのほか、
 回復や攻撃系のスキルをバランスよく活性化しています。


 よろしければご参加ください。
 お待ちしております。

  • 女海賊の島・捕らわれの【小鬼飼い】ネミアディア完了
  • GM名そうすけ
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2023年01月26日 21時45分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)
波濤の盾
キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
※参加確定済み※
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
グドルフ・ボイデル(p3p000694)

※参加確定済み※
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
モカ・ビアンキーニ(p3p007999)
Pantera Nera
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
郷田 京(p3p009529)
ハイテンションガール

リプレイ


 『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は耳を澄ませた。
 打弦楽器の響き、イカ女たちの楽し気な歌、踊りの拍子にあわせて手を叩く音が、暗い廊下の先から聞こえてくる。
「島中のイカ女たちが頭領の娘の婚礼を祝っているようだな」
 冗談じゃない、と強く言葉を吐いたのは『小鬼狩り』ラゴルディアだ。
「ミネラルディアは聖樹を守るエルフ御三家の一角を継ぐ者だぞ。あんな……あんな……」
 ラゴルディアは格子を両手で掴むと、腕の筋肉を盛りあげて揺すり始めた。
 擦り切れた畳に胡坐をかく『社長の視察』キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)が止める。
「落ちつけクソエルフ。てか、ピクリとも動かせてねーじゃねえか」
「これが落ちついていられるか!」
「捕まっちまったもんは仕方がねェだろ。そもそもなんでお前ら兄弟なのに、お互い素直に頼れないような状況になってんの?」
「そ、それは」
「ま、いいや。座れ。作戦会議だ」
 キドーは仲間に呼びかけて円座を組んだ。座敷牢の奥隅で固まっている『種男』たちのことはとりあえず無視する。
 牢番はいない。
 武器を取り上げられているとはいえ、舐められたもんだ。だが、おかげで声をひそめることなく堂々と話し合える。
「俺とラゴルディアはミネラルディアを探す。できればイカ女たちと戦うことなく、ミネラルディアをつれて逃げ出すつもりだ」
 『有翼の捕食者』カイト・シャルラハ(p3p000684)は取り上げられた武器の探索と、脱出ルートの確認に手をあげた。
 日が暮れかかっている。途中、原生林のような場所を通った。自分たちを乗せてきた海賊船は、切り立った崖に大きく口を開けた洞窟に入っている。
 だから空から道を探すという。
「あと船も探さねえとな。海賊船のほかにもあるはずだ」
 カイトは少し首を後ろへ回し、座敷牢の隅にいる男たちを一瞥した。
「見つけても全員で島を出られるかどうか……」
 『若木』寒櫻院・史之(p3p002233)が「俺も」と手をあげる。
「自分の血の匂いをたどって取り上げられた武器や防具を探すね。もう血も乾いている頃だと思うんだ」
 史之はイカ女たちに武器を取り上げられる前にこっそり指を切って、自分の血をつけていた。
(でも、これは取り上げられなくてよかった)
 心の中で妻に深く詫びつつ、爪で桜鶴の魔石を外してしまわないように気をつけながら、結婚指輪につく乾いた血を擦る。
 指輪がきれいになると、一緒に武器を探しましょうとイズマを誘った。
 史之は、腕を組んで目をつむる『波濤の盾』エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)にも声をかけた。
「エイヴァンさんはどうします?」
「同行する。先ずは装備を探さないと話にならんしな」
 エイヴァンは腕組を解くと懐に手をいれた。
 取り出したのは紅蓮のコンパスだ。
「おとなしく捕まってよかったな。ろくに検閲されずにすんだ。こいつがあればここがどんなに広くて複雑でも迷子にならずに済む」
 『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)がパンと手を打ち合わせると、乾いた音が座敷牢に大きく響いた。
「よし、おめぇら頑張れ」
「あん? なにいってんだグドルフ。オマエはどうすんだよ」
 グドルフはキドーの問いかけにガハハと笑って立ち上がる。
「おれさまか? 山賊らしく、大騒ぎしたついでにイカ女どもが溜めこんだお宝を頂くぜ!」
 豪快に言い放つと、グドルフはずんずんとたった二歩で種男たちに近づいた。
「おい! このまま死ぬのを待つだけか? ま、いいさ。うずくまってるだけのやつを助けてやる義理も無いんでねェ。おめえらみてえなモヤシどもは盾にもなりゃしねえ。だがよ──そんなてめえらでも出来る仕事がある」
 悪人面をニィと歪めて語るのは、種男たちによる陽動作戦だ。
 屋敷のどこかでボヤ騒ぎを起こして、イカ女たちを動揺させるという。
「慌てふためくイカ女たちを尻目にずらかろうって寸法だ。どうだ、うまくやりゃ生きて帰れるかもしれねえぜ?」
 イズマも魔眼で種男たちをそそのかす。
 乗り気になった種男たちがもぞもぞと体を動かし始めた。
 中の一人がひび割れた唇を開く。
「そ、それで、どうやってここから出る?」
「ん? 鍵ならそこにいる『社長』さんが、ちょちょいと開けてくれるさ。なあ、キドー? それともおれさまがぶち破ってやろうか」


 台所では『ハイテンションガール』郷田 京(p3p009529)と『Pantera Nera』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)が料理の腕を振るっていた。
 奴隷女たちと打ち解けるのは思いのほか容易く、また早かった。
「ええっとぉ、アタシたちは――って!?」
「京、下がれ!」
 イカ女たちの足音が遠ざかると、あっという間に囲まれた。
 騒ぎを起こしたくはなかったがこうなってはしかたがない。
 モカと京は阿吽の呼吸で背中合わせになり、固めた拳を胸の前で構える。
 ――と。
「ねえねえ、どこからどこへ行く途中で襲われたの?」
「大陸ではいまどんなことが流行ってる? グルメは、ファッションは?」
 矢継ぎ早に飛ばされる質問に圧倒され、モカと京はしばし呆気に取られた。
 島の暮らしが長いせいか、奴隷女たちは情報に飢えていたのだった。
 コンロからは熱気が噴きだし、剥きだしの炎の上では鍋がぐつぐつと音を立ている。
 京は包丁を持つ手の甲で、額に浮かんだ汗を拭った。
「意外に食材も調味料も揃っているね」
 モカは高く燃えあがる炎に大きなフライパンをかけて、炒め物を手際よくこなす。
「今夜のためというより、普段から襲った船の食料や香辛料を溜めこんでいたんだろうな」
 奴隷女たちとお喋りで聞きだしたところによると、鳥や豚、牛は強奪したものを島に運び入れて繁殖させ、果物や野菜も島の気候に合ったものは栽培しているという。
 調理器具もなかなかいいものが揃っていた。すべて強奪品だ。
「でも、あの独特な形をした楽器はイカ女たちが作っているんだってね」
 京が鍛えた体を見込まれて大量のお膳を大広間へ運んだ時、ちらりと目にしたのは独特な形をした打弦楽器だった。豊穣の三味線と似ているが、イカ女のサイズにあわせて大きい。その音色は意外に柔らかくしっとりと耳に響く。
 モカは仕上げに溶き卵を入れてさっと炒め、完成した『白菜と海老のチャンプルー』を大皿に移す。
「楽器もだが、この島、意外と豊穣の影響を受けていないか? 屋敷の作りも和洋折衷だし」
 少なからぬ影響は、近年になって絶望の海が開け、豊穣船が往来するようになったためだろう。あるいは絶望の海があった時代にも、この島に豊穣の難破船が流れ着いていたのかもしれない。
 京が茹でたジャガイモを包丁の腹で潰していると、後ろからだみ声が飛んできた。
「サボるんじゃないよ」
 奴隷頭だ。
「うわ、あんた……なんていうか、奇抜な料理を作ってるね。でもいいさ。どうせイカ女たちは酔っぱらって料理なんて見やしないだろうよ。どれ」
 そう言って京が作っている料理をつまみ食いする。
「ふむ。味は悪くないね」
 他の奴隷女たちもつまみ食いした。
 それを見たモカが呟く。
「やっぱり痺れ薬は酒とかスープに入れよう」


 まずは武器だ。
 史之は鋭敏になっている鼻で血の匂いを辿り、一行を先導する。
 曲がり角にさしかかったところで、イズマは小声で史之を止めた。
「敵がいないか確かめよう」
 召喚したヤモリを先行させ、自らは透視とエコーロケーションを駆使して探る。
「よし、いない。……渡り廊下の先に倉があるな」
 イズマはヤモリの目を通して得た情報を仲間に伝えた。
「血の匂いは角を曲がったところから強く香ってきている。それに――」
 史之は壁の下隅を指さした。
 カイトが身を屈めて見る。
「キドーのサイン……確定だな」
 一行が角を曲がり、渡り廊下にさしかかると、座敷牢の方角からグドルフの大声がした。
「オイオイオイ!!! オンナだらけと聞いたしイイ島じゃねえかと思ったら──バケモンだらけじゃねえか!! クソァ!! 冗談じゃねェぞ!!」
 おれさまは逃げる、という大声のあとにずしんと重い音が、金属のこすれ合う嫌な音を伴って聞こえる。
 イズマと史之は揃って顔をしかめた。
「派手にやりすぎじゃないか?」
「イカ女、3人は行ったな」 
 グドルフの大声にいくつもの不明瞭な声が被さった。グドルフと駆けつけたイカ女たちがもみ合っているようだ。
「嫌だァ~~イヤだああああ~~おれさまにヒドイ事するつもりでしょう!? どっかの本みてェに!!」
 ユーモラスな台詞回しに揃って吹き出したところで、後ろからカイトに呼ばれた。
 振り返ると自分の武器を手にしたカイトとエイヴァンが倉の扉の前にいた。
「鍵はキドーが開けてくれていた。俺は脱出ルートの確認と船を探しに行く、後は頼むぜ」

 その頃。
 キドーとラゴルディアは木の陰に身を潜め、屋敷の西の一角を窺っていた。
 黒い格子に囲まれた座敷牢が、月明かりにひっそりと照らし出されている。捕らわれているのは、雪のごとく白い装束をまとったエルフだ。宵闇にぼんやりと浮かぶその出で立ちは、死装束のように見える。
 キドーは助けに走ろうとするラゴルディアを止めた。
「焦るな、クソエルフ。アイツがフリーになるチャンスは仲間たちが作ってくれる。その時を待て」
 武器は取り戻したが、いかんせん花婿を囲むイカ女の数が多い。ミネラルディアが戦力にならないことを考慮すると、二人だけで襲撃するのは無謀だ。
 純白の花婿衣装を纏ったミネラルディアはイカ女たちに囲まれて大広間へ向かった。


「あれが頭領の娘……若いのに世紀末覇者の風格があるな」
「アタシ、ウェディングドレス着て胡坐をかいてる花嫁を初めて見た」
 モカと京が奴隷女たちと杯に酒を注いで回っていると、するすると奥の襖が開いて三叉の槍を持ったイカ女が現れた。
「花婿を連れてきました」
 奥座敷からイカ女たちに囲まれて進み出て来たのは、白装束をまとったエルフだった。整った顔は青白く、諦めからくる白けきった冷たさを漂わせている。
「花婿は和装か」と呟きつつ、モカは奴隷女たちにただちに逃げるよう目配せをした。
 京がそつなく花婿に付き添ってきたイカ女たちに痺れ薬を混ぜた酒やスープを振舞う。
 頭領が杯を片手にふらつきながら立ち上がった。
 三叉の槍は足元に置かれたままだ。
「皆、娘が丈夫な女の子を授かるよう祝ってくれ。お前たちにも今夜――」
 頭領の祝杯の言葉を断ち切るように、「火事だ」と口々に叫ぶ男たちの声がした。
「男の声? まさか、脱獄したのか」
 頭領が「武器を取れ」と命じると、イカ女たちが脇に置いてあった槍に手を伸ばす。
「わ、煙が! 本当に火事だ」
 外から入ってきた煙が、大広間の床に薄く広がっていた。
 驚いた非武装のイカ女たちが腰をあげようとしたがあげられず、次々と横倒する。
 現役の女海賊たちも痺れが回って思うように体が動かせない。
 膳が倒れ、食器が割れる中でモカと京はハイタッチした。
「そこの奴隷女! 殺してやる。おい、何をしている。さっさと立て!」
 イカ女たちは肢体に力を入れて立ち上がった。
 武器を持たないモカと京を取り囲もうとしたその時、廊下側の襖が派手に吹っ飛んだ。大広間の真ん中に気絶したイカ女が三人ゴロリと転がる。
「ガハハハ、おれさま参上!」
 額から鮮血を滴らせたグドルフが笑いながら現れた。肩に締め縄のようなものをかけている。
「そこそこ楽しめたぜ。こいつらが油断してなきゃ、もうちょっと手こずったかもな」
「お、お前。まさか、祠を!?」
「おう、お宝があるんじゃねーかと思って開けさせてもらった。おっと、心配するな。こう見えても元は神職者だ。ご神体には触れてねぇよ」
 口をパクパクさせる頭領に代わって娘が指揮を執る。
「祠はあと。まずは賊を叩きのめす。お前たち、やっちまいな!」
 攻撃をかわすモカと京の後ろで襖が開き、二人の武器を持ったイズマと史之たちが大広間に入ってきた。
「受け取れ!」
 モカと京、グドルフに武器を投げ渡す。
 エイヴァンが雄叫びをあげながら手近なイカ女を殴ると、たちまちのうちに大乱闘になった。

「行くぞクソエルフ!」
 大乱闘が勃発するやいなや、キドーとラゴルディアは庭から大広間へ駆けあがった。
「しっかりしろ!」
 ラゴルディアはへたり込んだミネラルディアを叱咤すると、腕に抱きかかえた。そのまま一目散に逃げ出す。
「待て!」
 キドーは槍の突きをかわすと、ククリで柄の真ん中から切り落とした。頭突きを娘の腹に入れて転倒させる。
 グドルフがライトヒールで自分の傷を癒しながら叫んだ。
「おめぇも行け、キドー! 道はカイトが教えてくれる」
「恩にきるぜ。オマエたちも適当なところで切り上げろよな」
 キドーは謎の男が率いる狩猟団を呼び出した。勇猛な猟師、八本足の馬、黒い犬が、角笛の合図とともにイカ女たちに襲い掛かったのを見て踵を返す。
 縁側から庭へ飛び降りると、ラゴルディアを追って走った。
 史之は居並ぶイカ女たちに向かって優雅に微笑んだ。
「これでも俺、タフな方だからさ。お嬢様がたの夜のお眼鏡に叶うんじゃないかな?」
「お嬢様? そ、それ、アタイたちのことかい?」
 そうだよ、と受けたのはイズマだ。
「俺は鉄騎種でな、精強さには自信がある。お楽しみなら好きなだけ付き合うよ。……場所を変えようか、皆まとめておいで?」
 テスタメントをかけられたイズマの赤い瞳が蠱惑的に輝くと、イカ女たちは膝からふにゃふにゃと崩れ落ちた。
「おやおや、寝顔は……そうでもないか」
「強くて傲慢な女は好みではあるけれど、彼女たちはちょっとね」
 二人で顔を見合わせて苦笑する。
 アーム・ガンの音が響いた。
 モカがラフィング・ピリオドで、イカ女の頭領とガチで殴りあうグドルフを支援したのだ。
 頭領が怯んだ隙に、京がミヤコ流の打撃を繰りだしながら二人の間に割って入る。
「く……小娘。その動き、技、なかなかやるな。だがしかし!」
 頭領は京から飛び下がって距離を取ると両腕をあげ、どこからともなく大量の水を呼び寄せた。
「喰らえ!」
 壁のようにせり上がった水が、倒れていたイカ女たちも巻き込んだ津波となってイレギュラーズに襲い掛かる。

 ――バカヤロウ!

 グドルフは波を割って飛び出すと、頭領の左頬を思いっきり張り倒した。
「頭領のくせして味方まで巻き込むんじゃねぇ!」


「その岩の裏側に海の洞窟へ降りる階段がある。キドーたちは先に海賊船に乗ってくれ」
「カイト、どこへ行く?」
「みんなを連れてくる」
 カイトは翼を広げると、夜空へ飛び立った。
 屋敷へ戻る途中で奪われた花婿を奪還すべく、修羅のごとき顔で駆ける花嫁を見つけた。
 頭領の娘はよたよたと走る種男たちにまもなく追いつこうとしている。
「まずい」
 カイトは上空で旋回すると、頭領の娘の前に回り込んだ。
 大声を出し、「生き残りたいなら死物狂いで走れ! 船に乗れたら船乗り仲間として助けてやらあ!」と種男たちを叱咤した。
「鳥、そこをどけぇぇい!」
 ごうっと音を立てて剛腕が飛んできた。
 カイトは体を浮かせて拳をかわした。空で三叉槍を回転させ、矛先を頭領の娘に向ける。
「種を搾り取ったら、頭から食ってやる」
「ごめんだね。俺には素敵な奥さんがいるんだ」
 カイトは頭領の娘が三叉の槍を空へ突きだすよりも早く、三叉槍を流星群のごとく繰りだした。
 ウェディングドレスを赤く染めてうずくまった頭領の娘に猛禽の笑みを向ける。
「屈するのも悪くないだろ?」
 おーい、と呼ぶ声がして振り返ると、駆けてくる仲間たちの姿が見えた。


 落雷のような大音響が轟いたのは、沖に出てしばらくしてのことだった。
 イズマははっとして首を振る。
 島から黒い影のような煙が立ち上っていた。よく見ると島の形が変わっている。津波が来るかもしれないと慎重に舵を切った。
 モカと京が、曳航するボートに大波の警告をしに船尾に向かう。
 ラゴルディアが下の船室から上がってきた。
「いまのはなんだ?」、と船べりにもたれかかるキドーに聞く。
「知らん。それよりミネラルディアは?」
「………」
「聞く耳もたねぇか。ま、ヤツの気が変わったらいつでもウチで雇ってやるよ。なんたってわが社の相談役の弟だしな」
 大変だ、といいながら史之が見張り台から降りてきた。
「津波がくる。かわしても……ボートの破損は免れないよ。転覆しなくても、そのうち沈んでしまう」
 並走する小型船からグドルフが海賊船に飛び移ってきた。
「そういってもな。こっちやイズマの小型船に全員は乗せられねぇぜ」
 結局、別の船は見つからなかった。イカ女たちは押収した船を沈めるか、島で解体して海賊船の修繕や改良に使ったのだろう。
 空からカイトが降りて来た。
「そのことなら心配ない。半日もたたずに海洋の艦隊と合流できる」
 カイトは肩越しに親指をやって、並走する小型船にいる白熊を示す。
「俺たちで事前に掛け合った。あとから迎えに来てくれって」
 一人を除いてその場の全員が笑顔になった。
 キドーは浮かない顔のラゴルディアの腰を思いっきりどやしつける。
「戻ったらミネラルディアと三人で酒を飲もうや」

成否

成功

MVP

グドルフ・ボイデル(p3p000694)

状態異常

グドルフ・ボイデル(p3p000694)[重傷]

あとがき


 皆さんの活躍でミネラルディアを無事救出、ついでに種男と奴隷女たちの解放にも成功しました。
 女海賊の島がラストでなんかエライことになっていますが、一体何が起こったんでしょうね……。

 ご参加ありがとうございました。

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