PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ビスクドールとチョコレート

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

・パティシエールはお人形

 レンガ造りの建物が並ぶ街には、冬の頃になると甘い香りが漂う。街の中央には大きなチョコレート工場があり、そこからチョコレートの香りが広がっているのだ。

 チョコレートはバレンタインの時期に欠かせないものだ。想い人に愛を伝えるため、近しい人に感謝の気持ちを伝えるため。用途は様々、使う素材も様々であれど、やはりチョコレートは多くのお菓子に使われる。だから工場で多くのチョコレートが作られ、その香りが街中に広がっている。

「でも私、チョコの匂い、分かんないんだよね」

 街の外れにある、小さな家のキッチン。フリルのエプロンを身に着けた少女は、溶かしたチョコレートを一口スプーンですくう。それを口に運んで、それから眉を寄せた。

「みんなバレンタインらしいねって喜んでるけど、私には分かんないや。味も分かんないし」

 少女は人形だった。意志を持ち、自由に動き、人のように過ごす魔法のかけられたビスクドール。

「あーあ、何で私のご主人、味覚も嗅覚もつけてくれないままどっか行っちゃったのかな」

 彼女は未完成だった。人形師にお菓子を作る人形であれと願われたのに、自分でお菓子を楽しむための機能は、まだつけられていない。そして今後も、つけられることはない。

「私はお菓子を作る人形だから、味が分かんなくたって作るよ。そういう風に作られたからね」

 少女の記憶に蘇るのは、人形師の声。「おいしいお菓子を作って、みんなを笑顔にさせてあげるんだよ」
 優しい声だったと思う。だからきっと自分は未完成のまま捨てられたのではないのだと、思いたい。

 お菓子を作り続けて、誰かを笑顔にさせることができれば、人形師が戻ってくるかもしれない。帰るのが遅くなってごめんね、願いに応えてくれてありがとう、なんて言って、少女に足りない機能をつけてくれるかもしれない。そう願って、少女はひとりでお菓子を作り続けている。

「作ったお菓子がおいしいか、私じゃわかんないからさ。誰か食べてよ」

 少女は願う。自分のお菓子が誰かを幸せにすることを。人形師が戻ってくることを。
 いつかの夢を見て、少女は外の誰かに手を伸ばした。


・あまい甘いチョコレート

「バレンタインの時期が近付いてきたわね」

 境界案内人のカトレアは抱えていたお菓子の本を置き、人形の絵が描かれた本を手に取った。

「この街は冬になるとバレンタイン一色になるのだけど、お人形さんにはそれが分からないんですって」

 魔法で作られた人形は、人と同じように話し、自由に動く。しかし未完成の彼女には、味覚も嗅覚もない。だから、肝心のお菓子の味が分からない。

「お菓子を作り続けて、みんなを幸せにできれば、人形師が戻ってくるかもしれないと期待しているみたい」

 少女の作るお菓子は、非常に美味しい。だけど、彼女はその判断ができない。

「だから食べてくれる人を探しているの」

 彼女のお菓子、食べてくれる? カトレアはほんの少し首を傾げて、ゆったりと微笑んだ。

NMコメント

 こんにちは。椿叶です。
 ドールが作ったお菓子を食べる話です。

世界観:
 街の中心に大きなチョコレート工場がある街です。バレンタインに合わせてチョコレートの製造を盛んに行っているため、この時期はチョコレートの香りで街が包まれます。

目的:
 人形の少女が作ったお菓子を食べて、「おいしい」と伝えることです。
 少女には自分一人で動き、意志を持つための魔法がかけられていますが、嗅覚や味覚をはじめとするお菓子を味わうために必要な機能が欠けています。彼女のお菓子作りの腕は確かなものですが、彼女は自分が作るお菓子のおいしさが分からないようです。

人形について:
 魔法がかけられたビスクドールです。「お菓子を作ってみんなを幸せにすること」という人形師の願いを叶えるためにお菓子を作り続けています。人形師の願いを叶えれば、どこかにいなくなった人形師が戻ってきて、自分を完成させてくれるのではないかと期待しているからです。
 味覚も嗅覚もつけられていない未完成のパティシエールの人形ですが、人形師はすでに亡くなっているため、彼の手によって完成させられることはありません。少女はそれを知らないため、一縷の希望に縋り、創造主の温もりを求めてお菓子を作っています。
 少女にまだ名前はありません。「お人形さん」と呼んでもいいですし、話しかけるときに困るようであれば呼び名を考えても良いかと思います。

できること:
・お菓子を食べること
・一緒にお菓子を作ること


サンプルプレイング:
 この子は完成はしないんだね。それは何て言うか、気の毒なのかもしれないけど、今はこの子の作るお菓子を美味しく食べたいな。それから、言葉を尽くして褒めてあげたいな。
 え、好きなチョコのお菓子? ガトーショコラ、かな。作ってくれるの? わあ、ありがとう。


 作りたいお菓子や食べたいお菓子があれば記載していただければと思います。よろしくお願いいたします。

  • ビスクドールとチョコレート完了
  • NM名椿叶
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2023年01月23日 22時05分
  • 参加人数4/4人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

回言 世界(p3p007315)
狂言回し
鏡禍・A・水月(p3p008354)
鏡花の盾
マリオン・エイム(p3p010866)
晴夜の魔法(砲)戦士
プエリーリス(p3p010932)

リプレイ

・チョコパフェとガナッシュタルト

 既に亡き人物を待ち続けるというのは、物語ではそれなりに定番ではある。ただこうして対面すると、哀れというか滑稽というか、やはり同情を禁じ得ないものだ。

 まったく、涙が出てきちゃうぜ。そう小さく呟いたのは『隠者』回言 世界(p3p007315)だ。この状況に対して他の奴等が何を思いどう動くのか。チョコでも食べながらじっくり観察させてもらうとしようと、出されたばかりの皿を見つめた。

「これはフルーツタブレットだよ」

 ドライフルーツが埋め込まれた板チョコレートだった。オレンジやイチジク、イチゴなどがふんだんに使われたそれからは、甘い香りに紛れて果物の爽やかな香りがする。一切れ割って口に運ぶと、果物の酸味がアクセントとなった濃厚な甘さが広がった。

「ふむ、なるほど」

 料理はレシピ通りに作れば完成するらしいが、まさしくその通りだと言える。

「ど、どう?」

 不安そうにこちらを見つめるビスクドールに、世界はもう一口お菓子を齧ってみせた。

「味は申し分ない。ああ、つまり美味しいってことだな」

 彼女はほっとしたように笑みを浮かべ、何か食べたいものはあるかと尋ねてきた。聞けばチョコ関係なら何でもリクエストして良いらしい。ならば、それはもうチョコ尽くしのパフェが食べたいと言うと、彼女は嬉しそうにキッチンへ向かっていった。するとキッチンが何だか騒がしくなって、ここに来る前に『嵐を呼ぶ魔法(砲)戦士』マリオン・エイム(p3p010866)と交わしたやりとりを思い出した。

 マリオンがチョコを作って渡してくると言っていたはずだ。大丈夫だろうか、消し炭を出されたり砂糖と塩を間違えたやつを食べさせられたりしないだろうか。
 期待は最小にして――いやゼロにして――出てきたものを頂くとしよう。


 チョコパフェとマリオンのお菓子を待ちながら、ホットチョコを飲む。
 人形師の事に対して、皆が一体どういう反応を見せるか、知りたい。真実を告げるか、優しい嘘の言葉を吐くのか、或いは無難に触れないようにするのか。自分一人なら即座に真実を告げるところだが、自分はそんなことをしない程度には空気が読めて、大人だ。恐らく今回は、本当のことを伝えるのは無粋だろうから。
 ホットチョコでリラックスしつつ、世界は周囲を眺めた。


***


 キッチンでは、マリオンが腕まくりをしていた。チョコ作りなので、今のマリオンは女性モード。ビスクドールと共にチョコ作りだ。

 まずはチョコパフェ作りを手伝いながら、彼女とお喋り。名前があった方が話しやすいから、「クララ」と呼ばせてもらうことにした。友達への愛称とか、そんな感じだ。

「クララか、なんか可愛いね」
「どこかの言葉で、『達成する』っていう意味があるらしいです!」

 正式は名前は創造主につけて欲しいだろうなと思ったから、愛称だ。だけどクララは与えられた名前に嬉しそうに繰り返した。

「マリオンは何のお菓子作りたいの?」
「嘘つき眼鏡ひねくれ優しい回言・世界に友情の友チョコ!」

 マリオンの言葉にクララは優しく笑って、一緒に作ろうと言った。

 チョコパフェを世界に届けてから、お菓子作りの始まりだ。本日の友チョコメニューはガナッシュタルト。生地はベーシックなアーモンド生地で、ガナッシュ部の中にクラッシュアーモンドを混ぜたものだ。世界はクララのチョコを食べた後で、かつ今チョコパフェを食べているところだろうから、食べ飽き防止に香ばしさをアクセントにしている。

 今まで腕を振るう機会が無かっただけで、実は調理スキルは取得済みだ。更に今回、クラスはコックでエスプリは焼き物。これで調理もチョコとタルト作りに必要な重要な温度管理もばっちりだ。
 タルト台を作るところからできたし、ガナッシュを冷やし固めるのだって、クララに手伝ってもらいながらやれた。つまりこのチョコは。

「さあ、世界!」

 ホットチョコを飲んでいた世界に、ガナッシュタルトを差し出す。

「マリオンさんの友情の限りを込め尽くした、必ず殺すと書いて必殺の友チョコ! 殺さないけど!」

 彼が何とも言えない顔をして、ホットチョコを置く。

「その口で味わった瞬間、諦めて友情を感じると良いと思います! はなまる!」

 ガナッシュタルトを咀嚼した世界は、特に表情を変えずに呟いた。「まあ、普通」


 キッチンの片づけをしてから、クララが作ったミルフィーユを食べる。さくさくとした食感と、優しく香ばしい香りが合わさって、ほっぺたが落ちてしまいそうだった。

「美味しいね!」
「気に入ってもらえてよかった」

 さくさくとマリオンの口に消えていくミルフィーユを眺めて、クララは嬉しそうに表情を崩した。

 食べすぎると太ってしまうけれど、手が止まらない。困ったけれど、美味しくて幸せだからいいのだ。


・トリュフ

 嗅覚と味覚がない、人のように動く魔法がかけられたビスクドールか。なんだか昔鏡の中にいた頃の自分に少しだけ似ている気がする。そう思ったのは『守護者』水月・鏡禍(p3p008354)だ。

 ビスクドールの手は、普通の人間と同じように動いて、トリュフを作っている。指の球体関節は彼女が人ではないと伝えてくるけれど、お菓子を作るためにある手であることも同時に教えてくれる。
 彼女には、お菓子を作る役目があるのだ。そして、自身の完成を待っている。それは、自分とは違う。そこに対して何も思わないわけではないけれど、今は彼女の望みの手伝いをしたい。これが慰めになるかは分からないけれど、ほんの少しでも力になればいいと思った。

「でも僕もそんなにチョコレートに詳しくないんですよね」

 強いて言うならトリュフが一番印象に残っていると言うと、彼女は興味津々といった様子で身を乗り出してきた。

「去年に恋人さんからもらったんです」
「良いなぁ。どんな味だったの」

 彼女の問いに鏡禍は曖昧に笑って、首を傾げた。彼女もつられて首を傾ける。

「それが覚えてないんですよね。ただトリュフだったことだけ覚えているので」

 だからビスクドールがこうして作ってくれるトリュフが、ある意味で味をしっかり覚えているトリュフになるかもしれない。そう伝えると、彼女の目がどこか真剣な様子に変わって、それから静かに頷いてくれた。

 チョコレートと生クリームを混ぜ合わせたものを冷やして、一口大に丸めていく。彼女が真剣に、そして心を込めてトリュフを作っていくのを、鏡禍は側で見つめていた。

 できあがったトリュフはカラフルなものだった。基本のチョコレートの色のものだけでなく、白や赤に色づけられたものもあり、賑やかで可愛らしい見た目になっている。

「わぁ、いろんな種類のトリュフを作ってくれたんですね」

 トリュフは口の中でコロコロと転がって、齧った場所から溶けていく。それが楽しくて、柔らかな甘さが舌の上に広がっていくのが美味しくて、幸せな気持ちになる。

「ありがとうございます、お人形さん」

 僕にトリュフの味を教えてくれて。

「いつかお人形さんの願いが叶うように祈っていますよ」

 そう微笑むと、彼女は与えられた言葉を噛み締めるように頷いて、それから微笑み返した。


・フォンダンショコラ

「こんにちは、こんにちは。可愛らしいお人形さん」

 キッチンに『ファーブラ』プエリーリス(p3p010932)は顔を出し、ビスクドールの手をそっと握った。

「私のことはプエリーリスと呼んでちょうだいな。貴女の名前は?」

 少女は迷うように顎に手を当てた。呼び名はいくつかあれども、名前という名前はまだないらしい。ならば、パティシエールのパティと呼ばせてもらおう。

「よろしくね、パティ」

 笑いかけると、パティは照れ臭そうに頷いた。

 フォンダンショコラ、ガトーショコラ、それからチョコレートのタルトがいいと伝えてみると、パティは嬉しそうに表情を崩した

「さすがに欲張りじゃない?」
「うふふ、そうね。でも折角だからお願いよ、パティ」

 可愛らしく両手を組んで、「お願い」のポーズをすると、彼女は分かったと笑った。


 出来上がったお菓子はどれも繊細で綺麗な見た目をしていて、思わず歓声を上げていた。

「素敵だわ」
「えへへ、ありがとう。でも味はどうかな」

 パティは眉を下げて、プエリーリスをじっと見つめている。

 フォンダンショコラをスプーンですくうと、熱々のチョコレートがとろりと垂れる。ふわりとした表面とやわらかな内側が口の中で合わさって、チョコレートの香りを広げていく。

「うふふ、大丈夫。おいしいわ。とてもおいしいわ」

 ガトーショコラもしっとりと濃厚な味わいが美味しくて、チョコレートのタルトも、さくさくのタルトとチョコレートの組み合わせが、甘過ぎず苦すぎず丁度よかった。

「私も自分でお菓子を作ることはあるけれど、こんなにおいしいのははじめてだわ」

 すごいわね、パティ。にっこりと微笑むと、彼女は顔を赤くした。

「だからもっと自信を持っていいのよ」

 匂いが分からなくても、味が分からなくても、それは些細なことだ。喜んでくれますように、笑顔になってくれますように。そんな風に、食べてくれる人を想うことが、きっと一番大切なのだ。

「ねぇパティ、私の顔を見て? どんな顔をしているかしら?」
「幸せそうだね」
「ええ! ええ! 私、とっても幸せなのよ! 貴女のおかげだわ!」


「ありがとうパティ」

 お礼にハグをしてもいいかと尋ねると、彼女は頷いてくれた。

「嬉しいことがあったとき、私はそれを家族と共有するの」

 抱きしめた身体に体温はなかったけれど、それでも温かかった。

「ありがとう。おいしかったわ。うれしかったわ。貴女に会えてよかったわ」

 きっとまたどこかで会いましょうね、素敵なパティシエールさん。その言葉に、パティはもちろんと微笑んだ。

成否

成功

状態異常

なし

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