シナリオ詳細
浮上した侵略者
オープニング
●巨大貝の猛威
ローレット本部内の、とある一室にて――。
ユリーカ・ユリカ(p3n00002)は、応接用テーブルを挟んで向かい側のソファーに腰を下ろしている中年男性と若者のコンビと視線を交えていた。
ふたりはいずれも浅黒く日焼けした精悍な顔つきを見せているが、その身なりはお世辞にも綺麗だとはいい難い。厚手の生地のそこかしこには、乾燥して凝固した塩の粒が染みのようになって張り付いていた。
中年男性の方はヒース・ブリドー、若者の方はロメル・フィンツと名乗った。いずれも海洋(ネオ・フロンティア海洋王国)からわざわざこの幻想まで足を運んできた、小さな漁業調査船の乗組員だった。
ふたりはこのローレットに、ある依頼を持ち掛けてきていた。
「えぇっと、それでは簡単に整理するのです……おふたりのご希望は、メガロナイトとかいう大きな貝の化け物を撃退する人材の紹介、ということで間違いないでしょうか?」
「もう少し突っ込んだいい方をすると、メガロナイトを操っている亜人の排除ですね」
ユリーカの言葉に、ヒースが説明を付け加えた。
メガロナイトというのはどうやら、数メートルから十メートル前後にもなる巨大なオウムガイ属の怪物ということらしく、海洋の中でも地方の漁港などではここ最近、このメガロナイトによる物的及び人的被害が相次いでいるのだという。
「別に珍しい生き物って訳じゃあねえんだが、ここ数カ月、一部のメガロナイトが恐ろしく攻撃的っちゅうか、凶暴になっちまってるんだ」
ロメルが海洋全体を描いた簡単な海図をテーブル上に広げ、×印の入った幾つかの地点を指差した。
凶暴化したメガロナイトの被害は一部の漁港や港湾基地に集中しているが、海洋という国家全体から見ればその被害は軽微である為、国軍はまるで動く気配が無い。
いってしまえば、被害を受けている各地方で何とかしろ、というスタンスなのだろう。
そこで被害地域内の漁業組合は独自に調査し、実態の解明に着手した。
その結果、凶暴化したメガロナイトは本来海洋の領海内には存在しない筈の海底亜人が操っている、というところまでは判明していた。
つまり話は単純で、メガロナイトを操っている亜人を撃退すれば良いということになる。
尤も、大きな港町や港湾基地ならば十分な人員や装備も揃っているだろうが、ヒースとロメルが住む田舎の漁港ではそうもいかず、危険を顧みずに亜人を撃退出来るだけの人材は極めて不足していた。
「成程……そこでイレギュラーズの出番、ということなのですね」
尚、予算はふたりが住む漁港だけではなく、周辺の漁港からも用意されているらしい。つまりこれは、幾つかの漁港から成る複数の漁業組合からの合同依頼という訳であった。
「承知しました。どうかこのユリーカに任せるのですッ!」
ユリーカは立ち上がり、誇らしげに胸を張った。
●ひとならざる影
夜明け前の、とある漁港にて――。
「何じゃあれは……」
ばりばりと音を立てて破壊されてゆく木製の桟橋の前で、年老いた漁師が驚愕の表情を浮かべ、全身を硬直させたまま動けなくなっていた。
数メートルにも及ぼうかという長大な蛇か何かの怪物が群れとなって、桟橋や小さな漁船を次々と絞め潰しているところだった。
先端に開く十字の口の奥には無数の牙が並び、胴部には硬い鱗のようなものがびっしりと張り付いている。
海面上には、硬質性の滑らかな何かが見え隠れしていた。それが巨大な貝殻の一部だと気づいた時には、桟橋はあらかた水中へと引きずり込まれた後だった。
そして年老いた漁師は、更に別の何かを見た。
下半身が蛇、上半身は人間、しかし首から上は角の生えた爬虫類か何か。まるで形容し難い不気味な影が、桟橋や漁船を破壊した謎の化け物と共に、海の中へと消えていった。
「あれはもしかして……噂に聞く海底の亜人ラミールか」
老漁師は小さく呟いた。
漁業組合からの発表によれば、遠くの海底火山噴火で生活圏を失ったラミールの一部が、海洋の領海内に侵入しつつあるのだという。
- 浮上した侵略者完了
- GM名革酎
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年01月21日 21時15分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●陸の激闘
濃い霧が立ち込める漁港の一角。
ねっとりとまとわりつくような湿気と、潮の香りが複雑に混ざり合うべたついた空気の中で、複数の巨大な木材がばりばりと音を立てて破壊されていた。
不意に、獣のような咆哮が木材の破壊音を鋭く切り裂いた。
次いで金属同士が打ち合う、硬質の音色。
二合、三合と続いた激しい剣戟の後、『山岳廃都の自由人』メルト・ノーグマン(p3p002269)は石畳の床を転げるようにして回避運動を取り、敵との間合いを十分に広げてから膝立ちの姿勢で得物を構え直した。
「怪我は?」
「大丈夫、まだ全然余裕。へーきへーきッ!」
傍らに素早く移動してきた『特異運命座標』ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)の問いかけに、メルトは笑顔を返した。
ならばとゲオルグは、他のイレギュラーズの攻撃を受けて更に激しく怒りの咆哮を響かせている正面の海底亜人との間合いを詰めるべく、猛然と駆け出していった。
近接戦闘では盾役として体を張ることを選んだゲオルグの、ここからが真骨頂である。
と、その時。
「護衛一体、そちらへ向かいましたわッ!」
数メートルほど右手から、『宿主』サングィス・スペルヴィア(p3p001291)の凛と響くような警鐘がイレギュラーズ達の鼓膜を痛烈に刺激した。
その華奢な体躯からは想像も出来ないほどの勇猛にしてしなやかな戦闘を繰り広げていたサングィスだが、敵もさるもの、サングィスに二体の護衛ラミールが全力で攻撃を仕掛け、残る二体の護衛が他のイレギュラーズに矛先を変えるという戦術を取ってきた。
だがその直後、メルトの背後から乾いた炸裂音とともに、目にも留まらぬ速度の衝撃が濃密な闇を裂いて、サングィスから離れようとしていた護衛ラミールの一体を盛大に弾き飛ばした。
「一丁上がりでありますッ!」
どこからか、敷島・和泉(p3p000425)の勝利を確信した声が聞こえてきた。が、当の本人はまるで姿を見せようとはしない。
曰く、
「開けた場所は怖いであります」
ということらしいのだが、これだけの狙撃の腕があればそこまで周囲を恐れる必要もないでしょうに、とサングィスなどは思ってしまう。
しかしながら和泉には和泉なりの考えというか、行動様式というものがあるのだろう。
兎に角、一体は仕留めた。残る護衛ラミールは三体。
だがそれも、すぐに数が減った。
サングィスが巧みなステップで全力攻撃を仕掛けてくる二体の護衛ラミールの刃を紙一重でかわし、返す刀で反撃を叩き込む――と見せかけ、離脱したもう一体に対して背後から痛撃を加えたのだ。
これが相当な打撃となり、バランスを崩したところでメルトが放ったとどめの一撃によって、その護衛ラミールは頭から冷たい石床に突っ伏してしまったのだ。
「残り二体は、私とサングィスで何とかしよう」
「操師は、お任せします」
ゲオルグとサングィスが残りの護衛ラミールを引き受ける格好となった。
となれば、メルトと和泉が果たすべき役割は自ずと決まってくる。
陸に上がった操師の確実なる打倒だ。
「さぁ寄ってらっしゃい見てらっしゃい。この自由人が相手してあげるよ」
「自分は寄りたくないので、ここで十分でありますッ!」
気合が入りかけたメルトだが、和泉の妙に空気を読まない溌溂とした宣言に、がっくりと肩が崩れそうになってしまった。
●海に踊る
一方、海上では『蛸髭』オクト・クラケーン(p3p000658)の操舵する漁船の甲板上で、もう一体の操師を相手に廻した死闘が展開されていた。
「かかかッ! 船の上ではこっちに分があるッ! そんな攻撃じゃあ俺の髭一本も落とせんぜッ!」
背後から切りかかる操師ラミールの攻撃を身をよじってかわしながらも、オクトは舵から手を離そうとはしない。
操師ラミールからすれば、オクトは舵の前に張り付いている格好の的の筈だ。それなのに繰り出す攻撃は全く命中する気配すら見せない。
それはオクトの船上に於ける身体能力の賜物でもあったろうが、同時に他のイレギュラーズからの援護もあったればこそだ。
「オクトさんを傷つけはさせません……ッ!」
上空から『白き旅人』Lumilia=Sherwood(p3p000381)の奏でるバラードが、激しい戦闘の場に似つかわしくない静かな旋律を穏やかな波のように漂わせる。
最初のうちは、戦いの場にバラードは合うのだろうかと内心で小首を傾げていたオクトだったが、Lumiliaの放つメロディーを聞いているうちに、これはこれでありなのかも知れんと妙に納得するようになっていた。
が、感心してばかりもいられない。船尾の遥か後方からは、メガロナイトの絶望的な破壊力を誇る触手の群れが今にも襲いかかってこようとしているのだ。
時折後方を振り返って操師ラミールに反撃しつつも、オクトは操舵に集中力の大半を費やさねばならない。
(俺もこの蛇トカゲ野郎と盛大にドンパチしたかったが、今ここで舵を握れるのは俺だけだ……ま、仕方あるめぇ)
勿論、オクトやLumiliaだけが船上の操師ラミールを倒そうとしている訳ではない。
今回のラミール討伐に於いては基本戦術を考案した『自称カオスシード』シグルーン(p3p000945)と、Lumiliaと同じく上空からの遠距離攻撃で援護に廻っているリジア(p3p002864)の両名が、船上の操師ラミール討伐に全精力を傾注していた。
「矢張り、予想通りだな……操師は然程に身体能力が高いという訳ではなさそうだ」
あらゆる角度から硬軟織り交ぜた多彩な攻撃で操師ラミールを翻弄していたリジアが、半ば確信に近い思いを言葉に乗せて吐き出した。
この操師ラミールにとって失敗だったのは、護衛を陸上に残したまま、オクトの操る漁船に喰らいついてしまったことだろう。
結果として、シグルーンの練った基本戦略にまんまと引っ掛かる格好となり、船上で孤立無援の苦戦を強いられることとなっている。逆にいえば、この展開こそシグルーンの計画通りという訳なのだろうが。
「やれやれ……そんなに船長さんの背中が好きかい? 折角シグが相手してあげてるんだから、もうちょっと気を遣ってくれても良いんじゃないかな?」
魔弾とナイフ、或いは時折逆再生を叩き込みながら操師ラミールの注意を引こうとしていたシグルーンだが、相手に背中を見せてしまっているオクトの方が、操師ラミールにとっては狙いやすいということなのだろう。
それでも戦闘中のおよそ七割近い時間で、操師ラミールの矛先を自らに向けさせているのだから、シグルーンの技量も相当なものであろう。
だが、船尾から少しばかり離れた位置にはメガロナイトが猛然と追いすがってくる白波が不気味に泡立っている。長期戦は、間違いなくご法度だ。
リジアとLumiliaはシグルーンの攻撃タイミングに合わせて、間隙を縫うようにしてそれぞれの技を敵に叩き込んでゆく。
その連携の効いた攻撃に苛立ち始めたのか、操師ラミールは次第にオクトから他の三人に攻撃の主目標を切り替え始めている様子が窺えた。
改めて操師ラミールと甲板上で対峙したシグルーンは、小さな溜息を漏らした。
「やっぱり、ここは嫌な場所だ。怖くて仕方ない……こんな仕事はさっさと終わらせよう」
シグルーンの幾分アンニュイな雰囲気を漂わせる呟きはしかし、リジアとLumiliaの両名には届かない。ふたりは揃って三点包囲の位置を取ると、シグルーンとタイミングを合わせての波状攻撃を仕掛ける態勢に入っていた。
「物が正しい役割を果たせないのは極めて不愉快だ……早々に終わりにして貰うぞ」
「私も戦いは苦手ですが……でも、困っているひと達が居る以上、放ってはおけませんッ!」
リジアもLumiliaも気合満点だ。
それだけに、内心で若干やる気が欠けているシグルーンは、自分自身に対して苦笑を禁じ得なかった。
●仕込みは十分
時間を遡ること、三時間前。
まだ西の空が微妙に明るい夕暮れ時に、イレギュラーズ達は待ち伏せの舞台となる漁港に姿を現した。
「あ、待ってたよ。拠点はもう完成してるから」
情報収集とラミールの行動原理を分析する為に先乗りしていたメルトが、ヒース、ロメルの両名と共にイレギュラーズ達を出迎えた。
メルト曰く、ラミールの行動にはある一定のパターンがある、ということらしい。
「操師は攻撃対象を間に挟んで、必ずメガロナイトの反対側に現れる、か……」
「うん。これは推測だけど、操師は攻撃を指示しているんじゃなくて、攻撃対象にメガロナイトが食らいつくように誘導しているんじゃないかな」
腕を組んで考え込むシグルーンに、メルトは何か確証を得たかのような表情で頷き返した。
メガロナイトを凶暴化させているのは間違いなく操師なのだろうが、細かい制御は出来ていないのではないかというのが、得られた情報から導き出された推論だった。
「そういうことなら待ち伏せは容易だな。メルトの作った拠点を中心に、正面班は岸壁から内陸側、挟撃班は岸壁に近い建物の陰に潜伏するというのでどうだろう」
ゲオルグが見取り図を石畳の上に広げ、その傍らにしゃがみ込んでシグルーンを振り仰ぐ。シグルーンにも、異論は無かった。
すると、その横にオクトものっそりと腰を落として膝立ちとなり、ヒースとロメルを手招きして作戦会議に加わるよう促した。
「ここに囮の漁船を浮かべるから、俺達の乗り込む挟撃用の漁船は桟橋の突堤付近に配置だ。舵と帆は任せて良いな?」
本格的な戦闘経験は皆無のヒースとロメルだが、オクトの言葉を受けて、ふたりは緊張しつつも大きく頷き返してきた。勿論オクトとしてはふたりを戦闘に巻き込むつもりなどさらさら無く、緊急時にはふたりを船から降ろし、自分ひとりで対処する腹積もりでもあった。
「狙撃と遠隔攻撃担当の初期配置を決めておこう」
不意にリジアが見取り図を持ち上げ、やや寂れた雰囲気のある漁港をぐるりと見渡した。
正面班の中で前衛を任されるサングィスと、攻撃支援のLumiliaは岸壁に繋がる通り中央で良いとして、残るリジアと和泉は効果的な配置を前もって決めておかねば宝の持ち腐れに等しい。
「あ、自分はあそこの物見櫓を希望するであります」
狙撃担当の和泉は、敵が如何なる配置であっても射線を遮られない高度を確保出来るとして、火事や津波など有事の際に利用される物見櫓の上を狙撃位置に決めた。
高さも然程ではなく、接近しての射撃支援が必要となれば、基礎付近の木箱を足場にして飛び降りることも出来るだろう。
一方のリジアは、岸壁沿いの漁業用具倉庫の屋根の上を選択した。正面班としては側面攻撃の位置となるが、こちらも中距離からの攻撃位置としてはベストな配置だった。
「逆に私達は、敵から丸見えの堂々たる位置ですね」
サングィスは苦笑するが、Lumiliaはいささか不安げな表情を隠せない。しかしマーチとバラードの効果を確実に味方全体へ届ける為には、サングィスと同じ位置はどうしても避けようがなかった。
「が……頑張ります」
「安心して下さい。序盤の演奏中は、ちゃんと守ってみせますから」
サングィスはそういって請け合ってくれたが、実際に戦闘が始まってみないことには、何が起きるか分からない。そういう意味では、Lumiliaも覚悟を決める必要があった。
全員の配置が決まった。後は実際にそれぞれが責任を全うするだけだ。
「じゃ、始めようか」
シグルーンの静かな号令に、全員が黙然と頷き返す。いずれの面にも、緊張と同時に穏やかなる闘志の如き強い決意が滲み出ていた。
●破壊の代償
天が数多の星瞬く漆黒に覆われた直後、敵は姿を現した。
合計六体に及ぶ異形の海底亜人が岸壁を登って漁港内に姿を現し、海面上にふたつの大きな貝殻と思しき巨影がうっすらと見え始めたところで、作戦開始となった。
当初は計画通りに正面班と挟撃班で上手く主導権を握りかけていたが、操師の一体が挟撃用漁船の存在に気付いた為、戦陣は一気に崩れた。
「拙いね……ちょっとあっちの援護に廻るよッ!」
シグルーンが漁船側に足を向けたことで、陸上の戦闘は各人の判断に委ねられることとなった。
一方のオクトは、操師が一体、猛然たる勢いで突進してくる様に幾分の危機感を覚えた。
囮の漁船を攻撃しようとしていたメガロナイトも、その操師に引っ張られる形でこちらに向かってきているようだ。
「かかかッ! 幽霊船にもビビらねぇってか。良い度胸してやがるッ!」
豪快に笑ってから、オクトは恐怖に震え上がっているヒースとロメルに振り向いた。既に帆は一杯に張り終えてあり、後は錨を上げさえすればいつでも操舵可能な状態となっていた。
「方針変更、今からこの船が囮だ。お前らはすぐに降りろ。なぁに、あの化け物の狙いはこの船だ。お前達にゃあ見向きもしねぇよッ!」
オクトの指示を受けたヒースとロメルは、浮き板を抱えて漆黒の波間へと一斉にダイブした。
錨が上がり、航行可能となった漁船の舵を握ったオクトだが、そこへ滑り込むような形でシグルーンが駆け込んできた。
「かかかッ! お客さん、駆け込み乗船は危険なのでおやめください、ってな」
「もうひとり、駆け込みのお客が乗り込んでくるよ」
直後、左舷側の海面から真っ白な水柱が屹立し、数メートルにも及ぶ巨大な海蛇に似た影が甲板上に躍り上がってきた。
オクトは舵を握らねばならない為、事実上シグルーンと操師ラミールの一騎打ちかと思われたその時、海面上の低空を滑空してきたリジアとLumiliaも甲板上の戦闘に加わってきた。
岸壁側の戦力が激減したことになるが、どうやらラミールは陸上では動きが随分と鈍くなるらしく、残り四人の面子だけでも十分に対処出来ると判断してのことらしい。
「こっちは船の上で足場も悪い。おまけにメガロナイトの追跡もある。護衛が一緒に来なかったのは、意外といえば意外だったが」
「でも戦局的に厄介なのは間違いなく、こちらの方ですね」
リジアとLumiliaが岸壁を離脱すると決めた判断には、明確な根拠があったのだ。
そして、現在。
陸上ではサングィスとゲオルグが尚も護衛ラミールを相手に一進一退の攻防を続けているが、その間に操師への攻撃はいよいよ終幕に迫りつつあった。
操師はもともとがそうなのか、或いは陸に上がったことが影響しているのかは不明だが、近接戦闘の技術はお世辞にも高いとはいえなかった。
至近距離で射出式の銛を無駄撃ちしたり、肌がすり合う程の接近戦であるにも関わらず短槍で応戦しようとしたりするなど、どう見ても不得手な戦士としか思えない節がある。
だがそれでもメルトは手加減しない。油断こそが最も恐ろしい敵であることを、彼女はよく理解していた。
そして、小刻みな連撃で操師の意識を自らに集中させておいて、メルトは左手を上げた。
今だという合図である。
直後、和泉が放った必殺の一撃が操師ラミールの側頭部を砕いた。
長大な海蛇の下半身をのたうち回らせてから、和泉の狙撃で頭部を破壊された操師ラミールは石畳の上にどっと倒れ込んだ。
操師が倒されたことに動揺したのか、残っていた護衛二体に隙が生じた。
それまで盾役として前面に立っていたゲオルグの背後から、サングィスが一気に勝負をかけ、回避運動もままならない護衛ラミール二体をほとんど瞬間的に仕留めた。
操師に続いて昏倒した護衛ラミールどもに、サングィスは冷ややかな視線を叩きつける。
「身の程をわきまえたかしら?」
一方、オクトが舵を取る漁船側でも決着の時を迎えようとしていた。
リジアの変幻自在な攻撃に対応出来ず、打撃が蓄積し続けていた操師ラミールだったが、遂にシグルーンの逆再生で決定的な一打を浴びた。
巨体がぐらりと揺らぎ、横倒しに倒れる。
角の生えた爬虫類の如き頭部は、丁度舵を握っているオクトの傍らにあった。
オクトはとどめの一撃を加えようかとも思ったが、やめた。
既にリジアとシグルーンの攻撃で、操師ラミールは絶命していたのだ。これ以上の無駄な駄目押しは、リジアとシグルーンに対しても失礼な話となろう。
「メガロナイトが、消えました」
船尾に降り立ったLumiliaが、船の後方に残る白波の間をじっと凝視しながら静かに声をあげた。
更に岸壁側にも視線を走らせると、先程まで桟橋を攻撃していたもう一体のメガロナイトも、いつの間にか姿を消している。
どうやら向こうでも、勝負が決まったようだ。
●そして帰還へ
打ち倒した六体のラミールを岸壁から投棄する様を、ゲオルグは呼び出した羊さんをもふもふしながら何とはなしに眺めていた。
作戦は成功したが、敵を埋葬するという提案は漁民達の感情的には受諾出来なかった模様。
逆にシグルーンが見せしめにラミールの頭部を斬り飾ってはどうかと提案したが、怖いから嫌だとの理由で受け入れられなかったのも仕方のない話だ。
結局のところ、事後のことは彼らに任せるのがベストだろう。
仕事は、終わったのだ。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
本シナリオを担当させて頂きました革酎です。
このたびはご参加頂きまして、誠にありがとうございました。
今後ともどうぞ宜しくお願い致します。
尚、全体のまとめ役として良い働きをされておられましたシグルーンさんを本シナリオのMVPとさせて頂きました。おめでとうございます。
GMコメント
はじめまして、このたびGMとしてお仕事させて頂く運びとなりました革酎です。
皆様の楽しい冒険ライフをお手伝い出来れば幸いです。どうぞ宜しくお願い申し上げます。
以下は、本シナリオの補足情報となりますのでご一読下さいませ。
●依頼達成条件
・メガロナイトを操るラミールの排除
●メガロナイト
外観は巨大なアンモナイトで、先端に十字形に開く口を持つ二十数本の触手を持っています。
一体当たりの戦闘力は数名のイレギュラーズでやっと倒せる程度です。
基本的には大人しく臆病な生物ですが、攻撃的で凶暴となった個体は相当に手強い怪物ですので、迂闊に手を出さない方が無難です。
尚、凶暴化したメガロナイトは海上では漁船を、沿岸では桟橋や停泊している漁船を優先して攻撃する傾向にあることが分かっています。
●海底亜人ラミール
凶暴化したメガロナイトを操っているのが、海底亜人ラミールです。
下半身はヒレを持つ海蛇で、上半身は屈強な人間、首から上は角を持つ爬虫類という外観です。弱肉強食且つ冷酷非情な性格で、海洋の国民とは決して相容れません。本来の生活圏は海洋の領海外である為、海洋国軍も静観を決め込んでいます。
メガロナイトを操ることが出来る個体(操師と呼ばれています)は、ヒースとロメルが住む地方では二体しか確認されておらず、この二体を撃退出来れば依頼達成となります。
短槍と小剣で武装していますが、加えて長大な射程を持つ射出式の銛を携行しています。
あまり集団では行動しない種族ですが、操師には常に二体の護衛ラミールが傍についています。
●発見方法
ヒースとロメルの住む地方でまだ攻撃されていない唯一の漁港に張り込んでの待ち伏せとなりますが、他に良い案があれば、そちらへの作戦転換も可能です。
●同行NPC
漁業調査船船長のヒースと乗組員のロメルが同行します。彼らはイレギュラーズほどの戦闘力は見込めませんが、自分の身を守る程度の戦闘技術や逃走能力は持っています。
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