シナリオ詳細
執事&メイド喫茶~憩いの止まり木~
オープニング
●きっかけ
「執事&メイド喫茶『ゼーレンフリーデン』?」
アレン・ローゼンバーグ(p3p010096)は単語の響きを確認するように舌の上で転がした。
「有名な店?」
「うーん。なんて言ったらいいんだろう。知ってる人は知ってるお店」
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)は依頼書の地図を見た。
練達、エリア777のアラハバキストリート、薄い本専門ショップやいまだ現役のゲームセンターが並び、グッズやトレカが盛んに取引され、そしてメイド喫茶や執事喫茶が集まるソレ系のお客様御用達の通りだ。
「この通りのね、すみっこにあるこじんまりとしたお店だよ。でもお店につきものの看板は一切出してないんだって」
「看板を出していない、ということは、見た目は民家ということでしょうか」
フラーゴラの説明に、白ノ雪 此花がふしぎそうに問う。
「うん、幻想風のレトロかわいい二階建てのお店。看板を出していないのは、お客さんの数をセーブして応対品質をキープするためだとか」
「なるほど、ということは……裏を返せば超人気店ということだね?」
フラーゴラの追加説明に、アレンは状況を看破した。
その後の話によると、なんでもゼーレンフリーデンは、メイド喫茶黎明期から存在し、美味な紅茶と料理、そして洗練されたサービスだけを売りに、口コミのみで着々と人気を獲得した店なのだそうだ。店舗が小さい分、一度にさばけるお客の数は少ない。しかして回転させることを目的とはしていない。言うなれば、止まり木のような隠れ家のような、表の喧騒に疲れたお客がそっと休みに来る、そんなお店だ。
「で? そのお店が僕たちへなんの用事なんだろう?」
「お店へ新しい風を吹き込むために、イレギュラーズの人たちの行動からヒントを得たいらしいよ」
「つまりサービス向上を目指して、私たちへ、手本となる執事もしくはメイドをしてほしいということでしょうか?」
「そういうこと」
アレンと此花の言葉へ、フラーゴラは満足げに微笑んだ。
「隠れ家的名店の執事&メイド喫茶か。姉さんにいい土産話ができそうだね」
アレンは依頼書を手に、よし、と意気込んだ。
●ゼーレンフリーデンにて
「温故知新と申します」
店長を称するその美麗なメイド長はやわらかな笑みを浮かべた。
かなりの年齢だが、その所作はきびきびとしており、たるんだところが一切ない。なにより、人を安心させるようなオーラをまとっていた。
「当店は幻想風のクラシカルな雰囲気を提供する店でございます。貴族のような、とまではいかずとも、訪れた方が心の安らぎを得てほしいと願い、喧騒よりほんのすこし離れた非日常をサービスすべく、日々精進しております」
店長はそう語る。
「ここを訪れるお客様はなにかに疲れていらっしゃることがほとんどです。どうぞあなたのその仕草や存在でもって、お客様へひとときの夢を見せて差し上げてくださいませ。具体的には衣装を着ていただいて、執事あるいはメイドとして接客をしていただきます」
やり方はまかせると店長は言う。その目は伝統を大切にしつつも、お客のためにより多くの学びを得たいという真摯な情熱であふれていた。
●おだやかに時は来たれリ
衣装は各自好きなのを着て良いとの店長の言葉ではある。
では普段はというと、清楚な長いロングスカートがこの店のメイドたちの定番だ。フリルたっぷりの白いエプロンが黒のメイド服へ映え、ブリムはなめらかな絹の輝きを帯びている。
執事たちは燕尾服をきっちりと着こなし、あえてはずした遊び心あふれるネクタイに、ぴかぴかのニッケルみたいな輝きの革靴。清潔感を感じる髪型は執事としての誇りか。
両者とも、笑みをたやさない。
一流レストランで扱うのと同じ紅茶は香り高く、季節のショートケーキやタルトは派手すぎず小ぶりながらもたしかな満足感、定番のオムライスへはケチャップでハートマークを。
今日のあなたはこの店でメイドとして執事として、かろやかに鳴るドアベルへ向けてこう言うのだ。
「おかえりなさいませ、ご主人さま」
そしてあなたは手を引くなりひざまずくなり、好きにしてよい。今日のゼーレンフリーデンはイレギュラーズの手によって運営される。あなたは無数でたったひとりのお客の心をつかみとってみせるだろう。
- 執事&メイド喫茶~憩いの止まり木~完了
- GM名赤白みどり
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2023年01月23日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費150RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●
からんとドアベルが鳴り、本日最初の客が店内に入ってきた。
「いらっしゃいませ、ご主人さま」
客はぽかんと口を開けた。出迎えた『母なるもの』夜摩 円満(p3p010922)があまりに神々しかったので。ちらほらと漏れるは後光。あふれだすママみ。思わずその豊満な胸に埋もれて「ばぶー」なんて口走ってしまいそうになった。そんなアホな妄想を蹴飛ばし、客は正気に返った。黒地へ赤い花々の染めを散らした着物の上にエプロンドレスを着用した円満。頭にはこれまた和風うさみみ。和二ーまではいかないが、清楚な雰囲気はじゅうぶんに客を魅了した。
(うさみみ付けて接客してほしい。あとで写真もお願い、と先生から言われましたが。私のなんか見てどうなるというのでしょう。なにかお考えあってのことでしょうか)
円満はそう考えていることなどおくびにもださずスマイルを浮かべる。
「さあ、どうぞお寛ぎくださいませ」
その名の通りのふっくりした笑みは客の心へてきめんに響いた。素直に席まで案内され、椅子へ腰掛ける。メニュー表をながめて思案顔の客に対し、円満はおしつけがましくならない程度に申し添える。
「私からのおすすめは和紅茶と白玉餡蜜のセットです。小腹がすいているならおにぎりはいかがでしょうか。私手ずから握ったものになります。具は梅と昆布です。いかがでしょう?」
客は一も二もなくおにぎりを選んだ。この母性の塊のような女性が作る手料理と聞いて食いつかない訳にはいかない。おにぎりというのは、シンプルだからこそ力量の差が出る。ちょっとした力加減で形が崩れたり大きさが不揃いになったり。
しばらく待ったのち、客へ供されたのはこぶりで形の整ったおにぎり。円満は手を消毒してみせると、おにぎりを手に取り客の口元へ。慈愛の笑みを浮かべて。
「はい、あーん」
客は喜んで食べている。ぺろりと平らげる。そんな客を円満はハグしながら頭を撫でた。
「頑張りましたね、お客様はいい子です」
すぐさま和紅茶と餡蜜のセットを追加注文。客はまだまだハグして欲しいようだ。
(私……癒し系になれてるみたいですね。よかった……)
店内へチラホラと客が座るようになった。また新たな客が入り口のドアを開ける。ちょっと背伸びしたクラロリを着た少女だ。
(えーと、こういう時は確か……こやって言うんよね……)
「おかえりなさいませ、お嬢さま」
少女は雷に打たれたように『暁月夜』蜻蛉(p3p002599)を見つめた。それほどまでに蜻蛉の男装姿は魅力的だった。しきりに感嘆のため息を漏らす少女へ手を伸べ、蜻蛉は口を開く。
「お外は寒かったと思います。あたたかな飲み物とお食事で、あたたまって下さいませ」
こくこくとせわしなく首肯する少女から上着を受け取り、ハンガーにかけて壁へ飾るように。クラロリ少女の幻想風なコートは店を華やがせる。そこまで意図して、蜻蛉は動いていた。
薫り高いダージリンの最後のドロップがティーカップへ波紋を描く。さらに蜻蛉は「香屋《ファム・ファタル》」で入手したすてきなものを机上へ置く。
「メルティハニー言います。お砂糖もええけど、こちらは如何でしょう? 寒い時期は喉にもええし、ひとすくいどうですやろ」
蓋を開け、ハニーディッパーを手渡すと、うながすように蜻蛉はうなずいた。
「使い方はこうなになります」
ディッパーの使い方を教えると、少女は感心したように蜂蜜をすくい取った。ダージリンへ黄金が溶け落ちていく。ゆったりした時間を、蜻蛉と少女はおしゃべりして過ごした。
「ええ、そやね。普段はイレギュラーズをしとります。あちこち行くことも多いですよ。豊穣までワカサギ食べに行ったり、ゼシュテルでチャリティしたり、シレンツィオでマンハッタン飲んだり。カクテル言葉って知ってはります? 花言葉みたいなものです。マンハッタンの意味は……ご勘弁くだしゃんせ」
はにかんだ蜻蛉の笑みに、少女は好奇心を踊らせ、直後口をつけたダージリンの香りに目を見開いた。
「蜂蜜の中にほんのり香るお花の匂いで、お花畑におるみたいでしょう」
茶菓子はパンケーキ。ほかほかのそれに少女は喜んでメルティハニーをたっぷりかけている。帽子を取って去っていく客に気づき、蜻蛉は深々と頭を下げると、無事を祈るおまじないをする。去る客はうれしげに目を細めた。
「ゼーレンフリーデンへお越し下さり。ありがとうございました。また、いつでもいらしてくださいね」
花瓶にいけられたノースポール。練達ならばいつの時期の花でも手に入るが、あえてこれを選んだのは寒い冬こそ満喫してほしいという『オリーブのしずく』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)の気遣いだ。
「おかえりなさいませ、ご主人さま」
ぎこちないなりに精一杯微笑む。その初な笑みに客は微笑を誘われた。
「こちらへどうぞ。お座りくださいませ。ごゆっくりなさってください」
てきぱきと動くフラーゴラは、若草色のランチョンマットを敷く。机上へ草原が広がった。
「ワタシのおすすめはお茶会のスコーンとショートケーキの香りの紅茶だよ。どちらもギルド『アンチャーテッド』から直で買い付けてきたんだ。えへへ、とても美味しいからご主人さまにも食べてほしくて」
にこにこと同意した客の前へフラーゴラは茶器と皿を並べる。
「ミルク派? レモン派? それともストレート?」
客の好みを聞いたフラーゴラは、急いでミルクを用意すると、適度に茶葉を蒸らしてティーカップへ注いでいく。ショートケーキの香りなら、味も甘いものをというリクエストだった。だから星型の角砂糖を3つ、紅い海へ沈め、最後にミルクを入れてくるりと金色のスプーンでかきまわす。
「いいことありますように、いいことありますように」
角砂糖が溶け切るまでフラーゴラは歌う。ゆっくりとかきまぜられた紅茶は甘い香り。ミルクの風味と合わさって、本当にショートケーキのよう。そのとなりではクロテッドクリームとベリージャムを従えたスコーンが出番を待っている。紅茶を一口ふくんだ客は深く甘いため息を吐いた。
「疲れている時は無理しなくていいんだよ。目一杯休んじゃおう」
スコーンへ手を付け始めた客へ会釈をすると、フラーゴラは店内をまわる。
「少食なアナタもいっぱい食べるアナタも、自分のペースで食べてね」
愛らしいメイドの一言へ、客たちはそれぞれの反応を返した。
『もふもふしたい時は一声願います』
名札代わりにそう書いてあるのは『永炎勇狼』ウェール=ナイトボート(p3p000561)だ。
「おかえりなさいませご主人さま、可愛らしいお嬢さま」
やってきたのはその道のプロらしいソリッドなオタクファッションの客と、娘だ。アニメキャラのぬいぐるみを、大事そうに抱えている。
「ポチとでもシロとでもお好きにお呼びください。お嬢さまにはこちらの椅子をどうぞ」
子供用の足の長い椅子を用意し、席へと誘う。客は鋭い目でメニューを眺め、娘の方はウェールに興味津々だ。ウェールは押し付けがましくない程度にミルクティーとタルトのセットを勧めた。季節のタルトふたつと特製ブレンドのミルクティーふたりぶん。それが客の注文だった。
「かしこまりました、ご主人さま、お嬢さま」
キッチンへ注文を通すうやうやしい態度とは裏腹に尻尾はぶんぶん。娘はすっかりウェールのとりこだ。大事なぬいぐるみを机上へ座らせ、ウェールにもふもふをねだっている。ウェールは肉球付きの手を差し出した。ちゃんと朝シャンして直前には肉球の谷間まで消毒してある。客がその道のプロなら、こちらは何でも屋イレギュラーズのプロだ。肉球をぷにぷにしている娘に、客は態度を軟化させた。
「お嬢さま、頭も撫でてみますか?」
騎士のように片膝をつくウェールに、娘は声を立てて喜んだ。すぐさま父である客から叱責が飛び、娘は縮こまった。ウェールは娘をぎゅっと抱き上げると、あえて父の頭を撫でた。ハイテレパスで語りかける。
(お嬢さまは充分に躾が行き届いております。ご主人さまは頑張ってて偉いです。ですから、此処では息抜きしていいんです。自分でよければ、人に聞かれること無く念話でお話を聞くことができますとも)
父はしばらく黙っていたがやがて念話に応じた。父として娘にどう接するのが正解かわからないということだった。
(正解は残念ながらないものと思慮します。共に成長していく豊かな時間を、ご主人さま自身が楽しむことが重要ではないでしょうか。でも今日この時は頑張らずに甘えていいんです。犬はご主人さまと一緒に居られるだけで嬉しいのですから)
それはウェールがもらったぬくもりのおすそわけだった。
「おかえりなさいませ、お嬢様」
そう呼びかけるのは男装の麗人か、否、『茨の棘』アレン・ローゼンバーグ(p3p010096)だ。中性的な顔立ちは性別不明にも似た美しさがある。OLは恐縮している風だ。かろやかに微笑みながら手を引き、アレンはOLを席まで案内した。ガラス細工のポットへひとつ、ふしぎな塊を入れる。己の「箱庭の園」で作り上げたものだ。それへ回しかけるようにお湯を注いでいけば、ゆっくりと薔薇が花開いていく。
「薔薇の工芸茶だよ。どうかな。綺麗だからねぇ。のんびり見るといいかもよ?」
OLはうっとりと薔薇を眺めている。控えめな水色が開きつつある薔薇を彩っている。
「ラズベリーのスコーンがおすすめかな。おひとついかが?」
はいと答えたOLに応じて、アレンはキッチンへ注文をかける。美しいものは人を幸せにする。だがOLの表情はどこか曇りがちだ。
「僕でよければお話を聞くよ。人に聞いてもらって嬉しいこと、離せば楽になることもあるでしょ? そういうの、聴かせてほしい。だいじょうぶ、秘密は厳守。きちんと最後まで聞くからね」
OLは不意をうたれたように黙り込み、やがて職場への不満をもらし始めた。がんばってもがんばっても認められない、しょせんはただのお茶くみだとOLは自嘲した。
「それは……つらいね。自分の時間を切り売りして奉公して、なのに正当な評価が得られないなんて、僕ですら考えただけでぞっとする。お嬢様はがんばっているんだね」
がんばっているのかどうかすらもわからないとOLは顔を伏せた。
「……心が疲れているときのためのゼーレンフリーデンだよ。他人の僕が軽々しく転職をすすめるわけにもいかないけれど、お嬢様がここに居るかぎり、僕は誠心誠意尽くすからね」
さあローズティーをどうぞと、アレンはきれいな笑みを見せた。OLは人心地ついたようだ。腕時計を見て、残念そうな顔をする。
「そう、帰るんだね。厳しくも素晴らしい現実へ向かって羽ばたく君へ祝福を」
アレンは指を鳴らした。その手には5本の薔薇の花束。生花の香気がふわりと漂う。
「5本の薔薇は『この出会いに心からの喜びを』という意味だよ。……喜んでもらえたら嬉しいよ」
OLは驚き、そして頬を染めて受け取った。きっとその花束は窓辺へ飾られるだろう。ドライフラワーにだって、なるに違いない。
「行ってらっしゃいませ、お嬢様」
客の前に出されたのは青いスープの湯圓(タンユエン)。
練達において中華はラーメンだのシャオロンパオだのといったものが主で、本格的な中華料理は高級レストランに行かないと出会えない。「ダンデリオン」で買い求めたブルーマロウのブレンドハーブティーで色付けしたスープは、香り高く、コクが有る。客は物珍しそうに銀製のスプーンを手に取った。『特異運命座標』白ノ雪 此花(p3p008758)が事前にていねいに磨いておいたものだ。つかみは上々。あとは胃袋へどこまでアプローチできるかだ。客は小さな団子を咀嚼すると、音を立てて飲み込み、うまいとつぶやいた。此花は会心の笑みをこぼす。
(新しい名物にいいですね)
あとでアレンのメモ帳を借りて、レシピを店へ残していこう。此花はそう決めた。もともとが紅茶と料理の美味さで売っている店だ。変わり種があれば喜ばれるだろう。
「レモン果汁をどうぞご主人様。ええ、そうです、スープへ数滴落とせば……」
蒼が鮮やかな桃色へ変わる。客は子供のようにはしゃいでいる。これで味の方も保証されているのだから、ついつい手が伸びるというものだ。あちらからもこちらからも湯圓を頼まれ、此花は笑顔を振りまいた。さりげなくレジへも気を配る。
レジカウンターの脇には、じゃまにならず、かつ目が届く距離へ、小分けした茶葉やティーバッグが並んでいる。持ち帰り用のクッキーは見た目へもこだわり抜いたもので、バターがたっぷり。お茶請けにぴったりだ。此花が見る限り、土産は順調に減っている。追加を足した此花は、本棚へ足を向けた。
大きな本棚の前では、『闇之雲』武器商人(p3p001107)がゆっくりと本を読んでいる。雰囲気がそうなだけで、実際の手元は速読そのものだ。パララと紙がたなびくかすかな音が耳に快い。
「武器商人様も本へ興味がお有りで?」
此花は声をかけた。武器商人は速読しつつも此花へ視線をやる。
「せっかく多くのニンゲンとこの本(コ)達が縁を結べるのだし、活用しないのはもったいないからね」
「さようですね。武器商人様は何をなさっておいででしょうか」
「あァ、軽く分類をしておこうと思ってね」
「同じことを考えておりました」
此花は薔薇のセットを取り出した。茶器にローズティー、ジャム。
「これらと共に薔薇に関する本を並べれば、よい結果につながるやもと思いまして」
「いいものだね。他にも案はあるかい?」
「そうですね、冬などいかがでしょうか。そうそう、グラオ・クローネも近づいてまいりましたし、そちらも忘れてはなりませんね?」
「いいねぇ。今年のグラオ・クローネは我(アタシ)も楽しみにしてるんだ」
武器商人は最低限の動きでまたたくまに本棚を整理し終えた。きっちりと揃えられた表紙がぴかぴか光ってみえる。
さっそく客が集まってきたのを、此花と武器商人は笑顔で出迎えた。
ゴールデンルールはシンプル故に難しい。
武器商人は紅茶をいれると、「こちらをどうぞお嬢サマ」とさしだした。その銀幕へだって出れそうな美貌に、客はのぼせている様子だった。
「冷める前にどうぞ、お嬢サマ」
はっと我にかえった客は、恥ずかしがりながらも紅茶へ手を付けた。無造作に置かれた彼女のカバンからは薄い本といっしょに幾冊かの文庫本がのぞいている。察するにかなりの読書家。好みは時代物、あるいはファンタジー。そう洞察した武器商人は、客へ水を向けてみた。
「グラオ・クローネのおとぎ話はご存知で?」
客は当然のように首を縦に振る。
「では異世界のグラオ・クローネについてはいかがか?」
客は「?」マークを顔に浮かべている。練達は旅人の国。グラオ・クローネの呼称ひとつとっても千差万別だ。
「とある世界ではグラオ・クローネは聖人が極刑に処された日が起源とされている。ヒヒ、そう怖がるもんじゃない。命を賭した美談だとも。興味があるならぜひ、こちらを」
客は本を受け取り頭を下げた。
「礼には及ばないよ。この本(コ)たちの出会いが広がるのならば喜ばしい。……もちろんお嬢サマの人生に彩りが増えることも」
「お帰りなさいませ、お嬢様」
店内が混んできた。『はじまりはメイドから』シルフィナ(p3p007508)は優雅さは忘れず、一方できりきりと立ち回る。
「季節のタルトにはこの時期が旬のイチゴとキウイを盛り付け、スターフルーツを飾っております。当店自慢の特製ブレンドティーはストレート用、レモン用、ミルク用と三種類ご用意してございます」
おすすめを聞かれたシルフィナは、メニューの一点を指さした。
「わたしからはこちらの凰花桃のレアチーズケーキをおすすめいたします。チーズの酸味と凰花桃の優しい甘さのバランスが逸品です。ドリンクはアールグレイなどの柑橘系の紅茶がよく合うことでしょう」
客は喜んでシルフィナおすすめセットを頼んだ。
忙しく早歩き、だが足音はこそりとも聞こえない。静かに、おだやかに、黒子のように。場に溶け込み、背景の一部となる。それがメイドオブオールワークスの心得だ。まるで居ないかのように振る舞うことのなんと難しいことか。それでいて客一人一人へのケアも忘れない。求められれば笑顔とともに商品説明。ときに返却する本を受け取り、ときに上着を渡し、あわただしい時間を縫うように泳ぎ抜ける。店内はさらに混み合っていく。それでもシルフィナは客へ寄り添い、その純情可憐で、潔癖な笑みと動作で客たちを癒やしていく。客たちの嗜好を読み取り、それに合わせたメニューをおすすめする。お土産をさり気なく勧めるのも忘れない。
仲間たちが客相手の時間をとるサポートもする。簡単だ、人の倍以上働けばよい。そして言うは易し行うは難しだ。だがそれを軽々とやりおおせるところにシルフィナの凄さがある。
(よく見かけてはいましたが……こういう喫茶店もあるのですね、知りませんでした。ですが、メイドとしての心得はここでも同じなのですね)
ドアベルが鳴り、シルフィナは疲れ知らずの明るい笑顔を向ける。明日も明後日も、ここは盛況だろう。それはたしかに、イレギュラーズの功績だった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
おつかれさまでしたー!
あのねほんとはね開始前の意気込みとか心情とかなによりかっこかわいい服装とかハアハア言いながら書いてたら……3000字削るはめになったでござる。ごめんしゃい。
MVPは薔薇づくしで癒しの空間を提供したあなたへ。
またのご利用をお待ちしております。
GMコメント
みどりです。ご指名ありがとうございました!
執事&メイド喫茶ですよ。衣装も役割も、性別にかかわらず好きな方を選んでいいです。このシナリオでは戦闘が起きません。
やること
1)ホール メイドもしくは執事として、接客をします。初めてくるお客様から常連さん、男女問わず若い人を中心に子供連れから老齢まで幅広い世代が来ますが、基本的にお客は物静かでどこかちょっと疲れています。あなたの笑顔や仲間との掛け合い、そしてあなたの提供する美味しい紅茶や食事が何よりの活力になるでしょう。
もし、参照してほしい衣装のイラストがあれば、プレイングで指定してください。
2)キッチン これはメイドも執事もしっくりこないあなた向けの役割ですので、むりに役割分担する必要はありません。オムライスやサンドイッチ・カレーなどの軽食を作り(1)の人へ託します。
●戦場?
執事&メイド喫茶 ゼーレンフリーデン
幻想風のレトロかわいい建物。
二階は倉庫や事務室、更衣室など、スタッフ専用ルームですので、一階がお店になります。
店はこじんまりとしており、カウンターとテーブル席で分かれています。
オークブラウンの床は歳月を超えて磨き抜かれ、ぬくもりともる暖炉や、おごそかなざらついた壁へは、スタッフとお客様の交流を写した写真がさりげなく飾られています。
本棚もあり、自由に持ち出し、持ち込みが可能です。返却期限はありません。返したい時は返せばいいし、もしすばらしい本と出会えたならお持ち帰りしてもいい、あるいは自分の好きな本をおいていってもいい、そんな本棚です。
なお、TOPの背景は便宜的にバーを使用していますが、アルコールの提供はありません。
●注意
ゼーレンフリーデンは、喧騒よりほんのすこし離れた非日常、を提供するクラシカルな店です。
与太へ全振りするとがっかりするのでやめたほうがいいです。
みなさんでわいわい明るくお客様をお迎えしましょう。また来たいな、そうおもってもらえるように。
ちなみに、イチャイチャや交流・絡みは大歓迎です。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
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