シナリオ詳細
錆び付いた蔵の奥で
オープニング
●
カンテラの明かりが照らし出す空間に生物は存在しなかった。
単純に考えても広大な内部構造の迷路。無辜なる混沌において、未だ大陸北部に眠る古代文明の遺跡は全て解明されている訳ではない。踏み出す一歩も慎重になるというもの。
一体何が出て来るのか、想像もできない。
「罠らしき物も見当たらないな、狭い通路が延々と枝分かれしながら続いているだけだ。
敵の索敵はどうだ? 何か分かれば直ぐに言うんだぞ、横に並んでも三人が限界なんて狭いところで挟撃されたらひとたまりもないからな」
並び進むリーダー格の男は先頭の斥候役の仲間に指示を出して、その目に意識を集中させる。
視線の先に映る光景が手元へと近付いて来る感覚、それは超視力とも呼ばれる技能だ。加えて彼の視界に補正をかけるのは機械的なゴーグルだ。明瞭とまで行かずとも暗視効果の見込める道具である。
彼は最奥までは見えないが、相当先まで続く通路の途中八ヶ所に横道がある事を確認した。
「……脇道だけか、正解はそちらなのか。このまま進むか。
まあいい。各自前後に気を付けろ、ここからは先より横合いに通路が出て来るようだ。念の為テレパスで会話を」
「了解」
「このまま奥へ向かうが、囲まれる事は避けたい。『式』を横道に配置して見張りを」
「了解」
男達は奥へと進んで行く。
彼等は『鉄宰相』の命を受けて編成された調査班だ。
時には攻略の困難なダンジョンへ潜り、過酷な環境下に置かれた遺跡や施設への潜入も任されて来た鉄帝国内で数少ないプロフェッショナルである。
今回彼等が調査に当たった遺跡は、砂嵐の酷い荒野部で見つかった。それまで人も住んでいない様な土地の地表から金属扉を露出させているのが、偶然通りかかったラサの商隊によって明らかとなったのだ。
古代文明から出土する兵器の数々は、時に現行で出回っている武器や兵器を遥かに上回る強力な物がある。
加えて、虫の居所悪い事この上ない鉄の宰相バイル・バルオンにこの話が届いたのだから。「全力で是を調査しろ」となるのは自然の成り行きだった。
何しろ……今回の遺跡は何故か地中に隠されているという造りからして、強大な兵器が埋まっている可能性があった。
『後方、異常なし。以後、壱点に俺の式を配置します』
『同じく、弐点異常なし』
『進むぞ』
手慣れた様子で土塊の人形を細い脇道の入口に置き、屈強な鉄斥候達が足音を殺して進んで行った。
リーダー格の男は道中、通路の天井部に四角い仕掛け扉らしき部位を見つけて示したが、押してもずらそうとしても開かなかった。
『条件式か……おい、見てくれ』
『看破できません。“透かして見る”のも試してますが、暗くて何も……ですが逆に言えば空洞があります。天井全体が一つの通路の様だ』
『不吉な予感がします』
『下手に触るのは止めるか、よし進行だ』
正確に、精悍に、彼等は強かに一つ一つの不確定要素を除き。常に先手を取るためにそれぞれの技能を駆使して行った。
彼等なら『果ての迷宮』が存在する幻想においても一級冒険者以上に並みのダンジョンを攻略できるだろう。
だが、しかし。
全ては順調だと感じられたその瞬間。土台から誤っていた認識が現実によって崩される時が来る。
『これは……随分大きいな、攻城兵器でも納めていたか?』
『扉の厚さ、透視不可範囲です』
『腕力で開けば良いが。行くぞお前達』
八人の鉄戦士達が機械腕と脚を金属扉に引っ掛け、音を殺そうとしながらも錆びた金属が内部で悲鳴を上げ、小さくない軋む音が鳴り響いて左右へ開かれた。
男達はゴーグルの中で目を見開く。
扉の向こうに広がっていたのは、果たして武器庫などでは無かった。もっと冷気の漂う悍ましい空間だった。
例えるなら、其処は。
「これは……墓所か!? なんだ、『コイツ等』は……!!」
「くっ、何が兵器眠る遺跡だ。俺達の装備じゃ分が悪い、下がれ! 退くぞ!」
視界の先で広がっていたのは蟲のような機械生物らしき怪物が無数に蠢き、多くの仲間の残骸を一ヵ所に集めて回っている姿だった。
虫型の数だけで十は下らない。その上奥では見るからに強力な武装をしている人型の巨躯を揺らす機械兵器も見えた。
それだけだ。錆び付いた広大な空間の中にはそれしかない。
放棄された機械生物達が朽ち逝く仲間を弔っているだけだった。
一目散に撤退する男達の声や音を感知した『スクラップ』が一斉に飛び立ち、人型兵器は背中の噴射機構を吹かして追いかけて来る。
幸運だったのは、潜入した男達は機動力が高かった事で間一髪逃れる事が出来た点だった。
●鉄の墓所へ踏み込め
馬車の時間までにもう一度依頼の説明をしたいと、『完璧なオペレーター』ミリタリア・シュトラーセ(p3n000037)はイレギュラーズに告げた。
「今回の依頼主は『鉄宰相』バイル・バルオン様。彼の宰相からのオーダーはこれから向かって頂く鉄帝北部の荒野地帯、そこで発見された古代遺跡での討伐任務です。
敵は古代文明で兵器運搬、または雑兵の仕事をしていた甲虫型機械生物が十一機。推定三メートルの人型機動兵士が三機。
いずれも本来なら脅威ですが。遺跡内部の保存状態が悪く経年劣化により錆び付いた彼等は、皆様にとってそれほど苦戦する事は無いでしょう」
ただし、遺跡の内部には他にも無数の枝分かれした通路が存在しており。事前調査による情報から、幾つかは崩落していたものの【奥の大扉】以外に七ヶ所の通路先に似た様な空間がある事が分かっていた。
オーダーは『内部で未だ起動している機械達の掃討』である以上、他の通路も行かねばならないだろう。
「推定戦力は遺跡内部の劣化から、恐らく事前調査時に判明しているものと大差ないかと思われます。
既に配布してある事前調査時の報告書を基に、皆様に攻略はお任せ致します……
……ああ、ですが先にも言った通り。『火力担当は必要である』という言葉は覚えておいた方が良いかも知れませんね?」
- 錆び付いた蔵の奥で完了
- GM名ちくわブレード(休止中)
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年09月20日 22時35分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●出迎えに来た。
『観光客』アト・サイン(p3p001394)が張った縄を慎重に跨ぐ。
彼等は一様に息を殺し、その足音を抑えて自身が歩く通路を一分の隙間無く警戒していた。
(遺跡探索、か……『先進的な古代兵器』を生でみるのはこれが初めてだ)
鉄錆の臭いが微かに鼻を衝く。
アトが先頭へ出て行く姿を見送りながら、『魔闘士』メリッカ・ヘクセス(p3p006565)は機械ゴーグル越しに映る光景に関心を示した。
上も下も、金属の壁と天井だけで構成される空間に置かれる機会などそうは無い。
無論それは他の者達も同じであり、今更それで狼狽える事は無かったが。
「……そこ。軋むようだから気をつけてくれ、先遣隊はこんな中をよく無音で歩き抜いたな……
あ、リゲル君。そこで少し肩を貸して欲しい、そうだ、また仕掛け扉がある」
既に通路も深まって来た。現在までに天井部を念入りに観察しながら警戒してきた結果、彼等は実に三ヵ所の天井に見える仕掛け扉へ『鳴子』を取り付けていた。
ここでもそれを見つけたアトは『死力の聖剣』リゲル=アークライト(p3p000442)に肩を借りて、縄の網目を起用に解いた糸で錆び剥がれた壁部に括り付けて行く。
「……」
とても冷たい場所だ、と『Tender Hound』弓削 鶫(p3p002685)は思う。
鉄錆に混ざる外気の乾いた土の香りが薄ら血の臭いを彷彿とさせるからだろうか。命を拒絶するような空気に微かに目を細める。
(それにしても……
天井にあり、横に梯子などが無い以上、人が使う扉では無いですよね。注意書きかマーキングの様なものがあれば推測できそうなのですが)
通路天井を見上げる度に鶫は首を傾げて辺りを見回す。少なくとも、赤く錆び付いた壁や床にヒントとなる印は見つからなかった。
「鶫さん、何か見つかったの?」
「いえ、まだわかりません。……! 皆さん、前方から何か来てます」
『溶融する普遍的な愛』Melting・Emma・Love(p3p006309)が後ろから顔を覗き込んだ直後、一度息を飲んだ鶫が声量を変わらず抑えて警告の音を上げた。
想定していた通りである。全員音も無く隊列を入れ替わり、予め相談していた構えを取った。
(数は───?)
(……一機)
静かに武器へ手を伸ばしつつ視線を向けて来たリゲルへ、『守護者の末裔』シエラ・クリスフォード(p3p004649)は獣耳を忙しなく動かしながら指を一本立てて見せる。
暗視効果の見込めるゴーグル越しでも見えない位置。
恐らくは彼等が今回目指している最奥部から出て来たのだろう。急いで撤退に走った先遣隊が律儀に扉を閉じている暇があったとも思えない。
「例の『虫』、ですね」
鶫の眼が遂にその姿を捉える。
ゆっくりと羽根を羽ばたかせて飛行している、一角の機械甲虫が向かって来ていた。
一同の視線が交差し、このまま戦闘に移るかどうか迷う。
あちこちが崩落しているのだ。遺跡の内部を手元で地図として描き取りながら戦闘に向いている場所を精査していた『幻想乙女は因果交流幻燈を夢見る』アイリス・ジギタリス・アストランティア(p3p000892)も、静かに首を振ってここで事を起こすは得策ではないと示していた。
ではどうするか。
「……えっ?」
だが、その瞬間。思わず素の声が出た鶫を合図に、通路の奥で唐突にバチバチと音が鳴ってから大きく弾んだ金属音が幾つか鳴り響いたのである。
彼女は見えていたが故に、分かっていた。
それは機械虫の羽根が折れて墜落した音だったのだ。
慎重に近付き、実際に触れて見たアトは何度か虫の頭部を覗き込んでから首を横に振った。
「壊れてるよ。落ちた衝撃に耐えられなかったんだ」
「……何だか本当に今日まで動いていたのが不思議だね」
静かな緊張が解れた様子で『雲雀』サンティール・リアン(p3p000050)は小声で笑う。
アトはそれに頷いた。
「──うん、僕もそう思うよ」
手の中で崩れる鉄屑の塊を、指でなぞりながら。
●“足跡”
あれだけ大きな音が鳴ったと言うのに、その後は何も来なかった。
どんな仕掛けを何で作動させてしまうか分からない以上、警戒を緩めるわけには行かなかったが……イレギュラーズ達にとって好都合だったのは確かだった。
半分程開いていた大扉から内部を何度か確かめた彼等は一息に中へと飛び込んだ。
「誇り高き機械戦士達よ! 我が名は『リゲル=アークライト』、貴方達と死線を交える最後の騎士だ!」
先頭へ立つリゲルの武器が光り輝き、彼の眼前で蠢いていた物の正体が明らかにされる。
話に聞いていた通りの機械虫、その数は凡そ十。
彼等が群がっていた屑鉄の山の背後から姿を現した機械戦士、その数 “三騎” 。
駆け込んで来たイレギュラーズの『音』に反応した機械達は一斉にその場から飛び立ち、駆けだして距離を詰めて来る。
【……ッ…………ッ、ッ……】
大部屋。或いは格納庫か、その場に途切れ途切れの雑音が走る。
本来は何らかの音声か警告音でも流れる筈だったのだろうか。その役目は果たされる事なく、ただ後方から狙撃銃のスコープに目を通す鶫やシエラに首を傾げさせただけであった。
「まずは私が」
抜き撃つ様に杖を瞬時に翳したアイリスから一気に猛毒の霧が噴き出す。
リゲルに向かって飛び立っていた虫達が半数近く霧に飲まれ、渦巻く有毒ガスによって錆び崩れつつあった羽根が次々に限界を迎えて地に墜ちて行った。
その様子に、僅か上空に逃れていた甲虫達が接近する動きを止めて地を這う仲間の様子を見始める。
間髪入れず。動きを止めた虫ごと後方から接近して来ていた機動戦士を鶫が撃ち貫く。
回避もままならぬ間に頭部を破壊された機械兵士は武装を床に滑らせその場で爆散した。
「すごい! さすが、僕も負けてられないね!」
「どうも……──?」
「はぁ───!」
サンティールが鶫へ称賛の声を送りながら地面を這っていた虫を破壊したのと同時、リゲルが跳躍する。
その手の中にある武装の機構を起動させた彼は、猛烈な駆動音と共に光り輝く破壊の渦を巻き起こす。光に招き寄せられた虫達はその脆い機体を木端微塵に散らし、爆風すらその暴風によって消し飛ばされたのだった。
ここまで僅か十数秒。機械甲虫は全滅した。
【……ッ、…………!】
続く機動戦士達は一騎がサンティールへ突撃し、もう一機が爆散した仲間の機銃を拾い上げて追走する。
背部の噴射機構が急激に火を噴いて重厚な機体を高速移動させる様は、それが体当たりして来ただけで相応のダメージを受ける事を予想させた。
「だが、そう長くは保たない……だろ?」
「さっきから聴こえているだけでも可哀想な音が出てるみたいですからね」
メリッカとシエラの魔弾が迎え撃つ。
彼女達の魔弾を機動戦士達は大きくブーストを吹かして回避しながら、返す刃にイレギュラーズへ弾幕の雨を降らせた。
「っと……痛ゥッ!!」
リゲルより後ろで待機していたアトに集中砲火が襲う。
咄嗟にその場から飛び退くアトを火花と跳弾が降りかかる最中も、外套の中から抜き放った機械剣で防ぎながら抜き撃ち射撃で応戦する。
複数の弾幕と閃光が格納庫内で飛び交い、跳ね回る。
戦場の全てが金属で覆われているがゆえに殆ど全域で火花が飛び散っていた。
刹那、シエラの放ったマジックミサイルがブーストの切れた機動戦士の胸部に着弾し、爆散させた。
【……!】
二丁の機銃で乱射していたもう一騎もその末路は同じだった。
無様に地面へ墜落した所へサンティールがひとっ跳びで近付いて淡いブルーの剣戟が機体を粉々に吹き飛ばしたのである。
「おっと、大丈夫かい?」
後ろから駆けて来たリゲルが爆風からサンティールを庇う。
「わわ、ありがとう!」
「何だか思ったより早く片付いてしまったね、さっきのは少しヒヤリとしたが」
静かになった格納庫を見回してリゲルは不意に寂しさを覚える。
彼等の戦闘は一先ず終わったのだ。
●
格納庫の中央に聳え立つ鉄屑の山。
その中腹で10フィート棒を使って漁っていたアトは暫くその作業を続けた後に仲間の方へ振り向いた。
「これはただの『スクラップ』だね。頭上を見て貰って分かった通り、ここに集めているのに理由は……多分ないだろうね。
もしかしたらかつては何か意味があったのかも知れないけど、こんなに朽ちるまで放置する意味が分からない」
ふう、と。穴の開いた外套をチラと見ながら溜息を吐いた。
「怪我はもう平気?」
「ありがとう、もう大丈夫さ」
戦闘後に治療してくれたLoveへ手を振り、アトが鉄屑の山から飛び降りる。
そこへ、リゲル達から声がかかった。
「アトさんもこっちに来て貰っていいですか」
「何か見つけたのかい」
鶫やサンティールが集まって話し示すのは彼等が格納庫へ入って来た際に通った大扉の真上。見覚えのある面積幅を持った扉、錆びながらも頑丈に閉じられているハッチがそこにあったのだ。
鶫がアイリスからカンテラを受け取って照らしたのは。扉から十字方向へ伸びる無数の細い『溝』だった。
「何に見えますか?」
「……道標かな。それも大きい、“線路”なんてものを連想するくらいには」
「壁や天井を行く大きな物。もしかするとこの存在が彼等機械達に残骸を集めさせていたのかもしれません」
人では無い者、そう聞けば今この場にいる者達は先ほど戦った相手を思い浮かべるだろう。
これだけ施設内が老朽化しているのだから、そちらの存在が未だ健在なのかは不明だが。それでも新たに仮想敵として警戒しておくに越したことは無いだろう。
いずれにせよ他に回るべき場所は多い。
「……とりあえず行こう。『彼等』を弔うかどうかはその後に考えるとしてさ」
不意に、サンティールは初撃で破壊された仲間を見て動きを止めた機械虫を思い出した。
●錆び付いても
一同が格納庫から出た後、更に警戒を強めていた。
それは仮想敵の存在によるものではなく。道中に出くわした『朽ちた虫』が、彼等が戻って来た時既に残骸や破片も残さず消えていたからだった。
そして。
「念の為に休憩を挟んだのは正解でしたね」
身を屈めたリゲルの上を飛び越したシエラがその手を羽根の様に軽く振る。刹那、彼女の内にある力と魔力によって覆われた無数の糸が指先を通して辺りに舞う。
彼女が一言起動を告げた直後、暗闇に包まれた通路先で複数の火花が散った後に紅蓮の炎を伴って連続で爆散して行く。
他の格納庫から出て来たらしき虫が通路奥から湧いて来ていたのだ。
始めに訪れた最奥部から近い通路上でイレギュラーズはこれを撃破し、辿り着いた先でやはり残骸の山と『扉』を見つけた。
「……さっきの機動戦士はいなかったけど。崩落してない場所にはまだ動ける機械がいるみたいだね」
「まだまだ油断は出来ないみたいだ、みんな気を引き締めて臨もう」
一通り内部を捜索したアト達が戻って来て互いに頷く。
●
───激しい銃撃の中でメリッカとサンティールの魔力弾が飛び、機兵の翼を破壊する。
「リゲルさん、あぶないっ」
「く……ッ!」
横合からパイルバンカーを打たれ吹き飛ぶリゲルを見たLoveが叫ぶ。
彼等が次に辿り着いたのは機動戦士が最初の倍、未だ動いている格納庫だった。虫の数こそ少なく、相手が如何に脆くとも倒すまでにダメージは必須だった。
ぷるんと震えるLoveが放った式符から飛び出した白鴉が一矢として機動戦士に突き刺さり、動きを止めた。
必然、その隙を狙い撃ったメリッカのマジックミサイルがトドメを刺した。
「なんでか僕もやけに狙われるけど、リゲル君も結構やられるなぁ……」
「まさか、何か見た目で選んでるとか?」
「機械がそんな事するとは思えないけどね」
真っ二つにした機銃を肩に担いだアトに手を借りて起き上がったリゲルは、視界の隅で転がる機動戦士の腕を見た。
何か、左手の指に違和感を覚えたのだ。
(……なんだろう、何か着けている……?)
「少し休んだら次へ行こう。さっきシエラが妙な事を言ってたんだ」
「どうしたんだい?」
頬の煤を拭いながらアトは答えた。
「『何処かで大きな物が動いている気がする』ってさ」
●
───ギュィィィン!! と鳴り響くドリルの音と共に黒い液体と破片が辺りに飛び散る。
アイリスが先に召喚していたアンデッドの『なりそこない』へ二体の虫が高速回転する角を突き立て、その返り血が撒き散らされる刹那に大きく振り被って投擲した毒液の瓶が炸裂する。
ジュウと凄惨な音を立てて崩れ行く虫達を傍目に、アイリスは数歩下がってLoveと並ぶ。
「聞こえてますか? この『音』」
「音、って?」
Loveが白鴉を放って虫を叩き落とす。
「ずっと、私達が入った後の部屋で耳に触るような雑音が流れてるみたいですね。もうこれで五ヶ所になりますか……さっき私も気付きました」
鉄屑の山から一斉に飛び立つ機械虫。
リゲルやサンティールから光弾が乱れ飛び、それらを撃ち落とす度に哀しい破壊の音が連続して遺跡の中を響き渡って行く。
●
───残す所後は入口近くから伸びていた通路となった頃。鳴子が一斉に鈴の音を響かせた。
「この音……一機じゃない!」
「虫、それから機動戦士が複数来てます!」
アトとシエラが告げた言葉に頷いた鶫とメリッカが前へ出る。
「適当に撃って当たるだろうか、この距離……?」
「適性の距離に入り次第、狙い撃ちます」
言葉を交わしつつも既に引き金は引かれている。通路に轟く発砲音を起点に続く爆発音、閃光。
熱風と鉄錆の臭いが吹き荒れる中、彼等はその場から敵の動きに応じて前進と待機を繰り返して、その都度前方から来る敵へ迎撃を行う。
時には一機の虫が距離を詰めて来るが。
「行かせない……!」
壁を蹴って躍り出るリゲルがこれに応じ、瞬時に彼の持つ武器が防ぎ。直後に高速回転した彼のドリルが虫の角を巻き込み粉砕する。
五機、八機。迫り来る機械生物を迎え撃ったイレギュラーズは最後の格納庫へ辿り着いた。
「ここも……同じだね」
サンティールは残骸の山へ近付いて朽ちた機動戦士の腕を持ち上げて見つめる。
鉄が錆びているのとは明らかに違う。異なる金属による異種の腐敗。
この遺跡にはそんな機械生物達が長い間そんな中で大人しく外に出る事も無く、長い時を過ごしていたというのだ。
そんな最中、彼女の思考を凄まじい音色が妨げた。
「な、なにこれ!?」
「この音……嘘だろう。一体何が引き金になって……!」
記憶に思い当たる物があったアトが天井を見上げる。
そもそも足を踏み入れた時点で最初から鳴っていたのだとすれば、気づきようが無い。これは施設全体へ危機を促す『警告音』だ。
何が引き金となっていたのか、それを探る時間も暇も無い。
あちこちで一斉に鈴の音が更に鳴り響く上で、ただ一つ分かっている事は───
「デカいのが来るぞ……!」
瞬間、アトの怒号より先に彼等が入って来た大扉の上から突き出て来た巨大な鉄の杭を前に全員が固まる。
否。
それは杭では無く、腐敗して朽ちかけた。脚部の殆どが折れてしまったムカデ型の巨大な機械虫だ。
機械虫はギシリと全身を軋ませ、鳴き声の様に轟かせた。
「破ァ─────ッ!!」
弾かれたように挑むはリゲルと鶫の二人。
飛び出して格納庫の中央へ這いずり回る巨体へ同時に全力の攻撃を加えた彼等は、その一撃によって未だ残っていた脚部を全て破壊して切断する。
たとえ大きくとも、その脆弱性は変わらない。勝てない敵ではない。
それが分かったイレギュラーズはそのムカデへ怒涛の攻撃を浴びせた。
【……ッ! …………ッ】
雄叫びの様に響く機体の悲鳴が、文字通りの悲鳴に変わる。
「ッ……~~! まだ動くぞ、気をつけるんだ!」
暴れ回る巨体に吹き飛ばされたアトが叫ぶ。
しかし……その声に一同が頷いた時にはいつの間にか巨体の動きが止まっていた。
中央に積み上げられた残骸の山に寄り添い、護る様に長い体で包んだ巨大機械虫は駆動音すら止めて停止していたのだ。
「……こいつ、もう……」
●錆び付いた蔵の奥で
地上へ戻って来たイレギュラーズは、そこで鉄帝の軍人達と合流した。
「ご苦労だった、どうか今は休んでほしい」
彼等が言うにはこの遺跡は構造的にも老朽化の度合いからしても、イレギュラーズが討伐を終えた今は埋め立てるしかないという事だった。
リゲル達は互いに顔を見合わせて、静かにそれに頷いた。
「……? どうかされたのかな」
「いえ! 僕たちも埋め立てるのが良いと思います」
サンティールは微笑んで首を振った。
弔いはした。
なら、あとはどうか静かに眠らせてあげたいと誰かが思ったのだ。
(今度の世界ではもっと愛されますように)
屈強な作業員達が集まっているのを見ながら。
(長い年月を過ごした『もの』にだって、こころが宿る。僕は、そんな気がするんだ)
もう踏み荒らされる事の無い、錆び付いた墓所の奥で。
誰かが添えた花が最後に看取り続けて行くだろう。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でしたイレギュラーズの皆様。
本依頼は成功です。
GMコメント
ちくわブレードです、皆様宜しくお願いします。
以下情報。
●依頼成功条件
遺跡に残っている機械達を全て破壊する
●情報精度B
何らかの想定外の事態は起きる可能性があります、
依頼の成否に関わる内容ではありませんが注意してください。
●古代遺跡
錆びた金属の臭いが立ち込む地下施設、どうやら鉄錆の臭いのせいで【超嗅覚】が機能しないようだ。
通路は狭く、高さ12m、幅4mという空間になっており。並ぶだけなら三人は容易だろうが戦闘時は一列にならねば満足に戦えないだろう。
【奥の大扉】や【他の大扉】先に広がる格納庫だったと思しき空間では四方100m、高度30mまでの広さの中戦闘が可能な様子。
錆び付いた格納庫施設でも、何かの仕掛けは残っているのが見受けられ……果たしてそれらを作動させた時どうなるかはわからない。
『敵』
機械虫:錆びた金属甲虫、ドリルの様な角で刺してくる。飛行能力や機動力は低くなっている。
機動戦士:錆びた騎士型兵器、物至単での【飛】効果のある中威力攻撃、物遠単【連】での機銃攻撃。
高機動による移動と回避も確認されており、ただし回避行動をそう何度も繰り返せる状態には見えなかった様子。
以上、皆様のご健闘を祈ります。
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