PandoraPartyProject

シナリオ詳細

新春、ツチネコ捕獲隊。或いは、UMAに体を張れ…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●UMA
 蛇のようだが頭が大きく、胴体は太く、短く、それから「にゃー」と鳴くという。
 そんな風な奇怪な風体をした体長50センチ前後ほどの生物が、ラサのどこかにいるらしい。
 名を“ツチネコ”というその生物は、これまで幾度か目撃されており、そしてこれまでただの1度も捕獲に至ることはなかった。目撃者曰く、ツチネコは非常に俊敏で、またぬるりと液体のように形を変えて岩と岩の間などに身を潜り込ませたという。
 また、その跳躍力も特筆すべきものがある。ツチネコは体をバネのようにして跳ねることで、軽々と4~5メートルほどの高さを跳び越えたというのだ。
 なお、これまでの目撃情報を総括すると、どうやらツチネコは雨が少なく、サボテンの群生している地域に生息していることが予想される。また、ツチネコが多く発見される地域では、ツチノコやスナネコという姿のよく似た生物が生息している。そのことから、私はツチネコとはツチノコおよびスナネコの変異体か、両者の雑種生物であると考えた。
 そして、万が一、ツチネコを発見しても決して好奇心で近寄ってはいけない。
 運よくツチネコを発見し捕獲を試みた者の中には、ツチネコの吐く【必殺】の【致死毒】により命を落とした者もいるのだ。
 ラサの金持ち、好事家の中にはツチネコに多額の賞金をかけている者もいるが、懸命な読者諸君には迂闊に手を出さないことをおすすめする。

ツチネコ、謎に包まれたその生態/地獄の釜出版『M2-56の動物王国』より

●ある大商人の依頼
「というわけで皆さんには“ツチネコ”の捜索に行ってもらいたいっす」
 そう言ってイフタフ・ヤー・シムシム(p3n000231)は、手元の資料をぱらりと捲った。
 そこには目撃情報を頼りに描かれたツチネコのイラストや、今回、ツチネコを捜索することになる地域の地図、それから依頼人の名前などが記されている。
「依頼人はパンタローネさんという大商人っすね。とある好事家に頼まれて、ツチネコの捜索を続けていたそうっす」
 今回、イレギュラーズに依頼が来たということは、ツチネコを発見できたのだろう。
 けれど、パンタローネ商人やその部下たちの手では、捕獲にまで至らなかったらしい。
「サボテンの群生地ということもあり、捜索は難航しているみたいっすね。話では、人が通る隙間もないほどに大量のサボテンが群生しているそうっすよ」
 300メートル四方ほどのサボテン群生地が今回の捜査区域となる。イフタフは“人が通る隙間もない”と言ったが、それは正確ではない。最もサボテンが密集している場所はそうだが、それ以外の場所であれば相応に人の移動できるスペースはあるのだ。
 それでも視界が良くないことには変わりないのだが……。
「ツチネコの生態については、とある書籍から抜粋した上記の情報しかないっす」
 イフタフ曰く、今回イレギュラーズが赴くことになる区域には、以下の生物が生息しているという。
 1つはツチネコ。
 蛇のようだが頭が大きく、胴体は太く、短く、それから「にゃー」と鳴く猫と爬虫類の中間といった姿の生き物だ。
 1つはツチノコ。
 姿形はツチネコに似ているが、こちらは頭部が蛇のようだという。遥か昔に豊穣から渡ってきたとされているが、真偽のほどは不明である。
 1つはスナネコ。
 別名「砂漠の天使」とも呼ばれる猫科の動物で、ツチネコの頭部はこのスナネコによく似ているらしい。
「似たような生き物が多いんで、よく観察しないとツチネコは見つけられないっす。それに、ツチネコは俊敏で、跳躍力に長け、毒を持っているっすからね」
 相手は小さな生き物だ。
 だからといって油断しては、大怪我にもつながりかねない。
 深刻な顔をしたイフタフは「最後に」と前置きしてから、指を1本、立てて言った。
「予算と天候の都合上、現地に滞在できるのは半日だけ……日中か夜間かはお任せするっすけど、あまり悠長にはしていられないことをご理解くださいっす」

GMコメント

●ミッション
“ツチネコ”の捕獲

●ターゲット
・ツチネコ
蛇のようだが頭が大きく、胴体は太く、短く、それから「にゃー」と鳴く体長50センチほどの生物。
俊敏かつ高い跳躍力を誇り【必殺】【致死毒】の性質を持つ毒液を吐くという。

●ターゲット以外の類似生物
・ツチノコ
ツチネコによく似た姿をした生物だが、こちらはツチネコと違い頭部が蛇のそれである。
俊敏かつ高い跳躍力を誇り【必殺】【致死毒】の性質を持つ毒液を吐くという。

・スナネコ
顔はツチネコによく似ているが、こちらには四肢がある。
別名「砂漠の天使」と呼ばれるほどに愛らしい姿をしているが、肉食であり、鋭い爪を備えている。

●フィールド
ラサ。砂漠のどこかにあるサボテンの群生地。
300メートル四方ほどのサボテン群生地で、ところによっては人が通る隙間もないほどにサボテンが密集して生えている。
ツチネコ、ツチノコ、スナネコは非常に背が小さいため何の問題もなくサボテンの群生地を移動するが、人にとっては視界や移動を遮る障害物として機能する。
サボテンの大きさはマチマチ。大きいものは2メートルに近い。

●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 新春、ツチネコ捕獲隊。或いは、UMAに体を張れ…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年01月17日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚
ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
アルトゥライネル(p3p008166)
バロメット・砂漠の妖精
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
レイン・レイン(p3p010586)
玉響

リプレイ

●ツチネコを探して
 ツチネコ。
 猫の頭に、太く短い蛇の身体を持つというUMAだ。
 ツチネコが生息しているのは、ラサの砂漠にあるという、とあるサボテンの群生地である。
 特徴的な外見ゆえ、発見は容易……と、そう考えるのも無理はない。だが、棘だらけのサボテンを掻き分け、素早く動くツチネコを捕獲するのは存外に大変だ。ツチネコが未だUMA……未確認生物として扱われているのは、その捕獲難度の高さゆえのものである。
 そのため、ツチネコには多額の懸賞金までかけられている始末。
 また、ツチネコの生息するサボテン群生地には、他にもツチノコおよびスナネコといった類似生物が生息していた。ツチネコおよびツチノコは毒を持つこともあり、一攫千金を夢見て命を落とした者も決して少なくないとか……。
「ツチネコ、ツチノコ、スナネコ……だいじょうぶ? ゲシュタルト崩壊起きてない?」
 時刻は午後。日暮れまであと2時間ほどを残した頃だ。
 燦々と降り注ぐ太陽光を手で遮って『若木』寒櫻院・史之(p3p002233)はサボテンの群生地に視線を凝らす。時折、何かの生き物がサボテンの根元を駆け抜けるが、詳細な姿形を判別するには至らなかった。
「ふむ。じゃああとはスナノコが存在すれば完璧……いや、何でもない」
 そう言って『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)がサボテンに顔を近づけた。サボテン程度なら透視することが出来るはずだが、残念ながら視認できる範囲にツチネコはいない。
 ともすると、人の気配を敏感に察知し群生地の奥へと逃げ込んだ可能性もある。事前情報には無いが、猫と蛇、両方の特徴を備えた生き物なのだから、どちらかと言えば臆病な性質なのかもしれない。

「情報元が怪しいが、姿を見たというならそこは信用しよう。しかしまた奇怪な生き物がいたものだな? というか、記憶違いでなければツチノコとやらも都市伝説の類だったはずでは?」
 サボテンの群生地から少し離れた岩陰に、簡易な拠点が築かれていた。パラソルを広げて作った日陰の下で、『努々隙無く』アルトゥライネル(p3p008166)は事前に入手した資料に目を通している。
 描かれているのは、目撃者の証言をもとにしたスナネコ、ツチネコ、ツチノコの似姿だ。ツチネコが爬虫類と哺乳類のどちらに分類されるかは不明だが、捕まえてみれば分かるだろうか。
「陸の知らない動物とか……植物とか……実際に見ると面白いね」
 まるでウニのようではないか、と。
テーブルに乗せた小さなサボテンを指で突いて『玉響』レイン・レイン(p3p010586)はくすりと笑う。頭に帽子を、手には網を持ち、肩からは籠と水筒、そしてカメラを提げた姿はまるで夏休みの子供のようだ。
「陸地は大変危険な場所ですの」
 ゼラチン質の尾に付着した砂を手で払い除けながら、『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)は同じ海の住人として、レインに幾つかの注意点を話して聞かせる。
 例えば、陸にも海の生物よろしく魚を好物とする種がいること。
 例えば、砂や土というのは思っているよりぐんぐんと水分を吸いとること。
「ネコは魚を好むそうですの。であればスナネコはもちろんのこと、ツチネコも魚にひきつけられるでしょう」
 そう告げるノリアの足元には、2匹の黒猫がすり寄っていた。その2匹は『荒くれ共の統率者』ジェイク・夜乃(p3p001103)が使役する黒猫だ。
 ノリアに何か報告することがあるのか、それともノリアを餌の類と見ているのか。
 或いは、鶏肉を茹でた香りに惹かれて寄って来たのかもしれない。
「茹でたとりのささみの用意もある。ツチノコもスナネコも肉食故、ツチネコも恐らくそうだろう」
『灰想繰切』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)は、試しにささみをひときれ砂の上へと放った。放物線を描いて舞う肉片は、あっという間に黒猫によって奪われる。
 そう、まさに、猫まっしぐら。

 一方そのころ、サボテン群を前にして奇妙なほどにテンションを上げる者たちがいた。
「未知の生物を捕まえるってのはやっぱ男のロマンだろ!」
「同感だ。昔から一度は体験したいと思ってたぜ……幻の生物、ツチノコの捕獲をな」
 ジェイク、そして『隠者』回言 世界(p3p007315)の2人である。
「ツチノコって焼いてステーキにしたら美味そうじゃね? 爬虫類は大概美味いからな」
「ツチノコか。ツチネコと生態が似ているらしいが……あぁ、過去の目撃情報は夜のはじめぐらいに多いな」
 手元の資料に目を通し、世界はツチネコおよびツチノコの目撃情報についてを調べていた。目撃情報が多いのは夜の始まり。まだ少しだけ辺りが明るい時間帯に集中している。
 その次は午前と夕方近く。
「……夜行性、には間違いないと思うが」
 夜になれば動きが活発になるというだけで、サボテンの群生地から外に出て来るとは限らない。
 虎穴に入らずんば虎児を得ず、とも言う。
 どちらにせよ、サボテンの群生地へと足を踏み込むことは避けられないだろう。

●ツチネコ、ツチノコ、スナネコ
 スナネコ。
 別名「砂漠の天使」とも称される食肉目ネコ科ネコ属に分類される食肉類である。通常の猫と違い足の裏は長い毛におおわれているが、これは熱い砂上で十全に活動するためと、足音を消したり、砂に滑ったりしないための役割も持つ。
 要するに、砂漠に生息する小さなハンターというわけだが、それが10匹近くも揃ってノリアに襲い掛かっていた。
「しっぽを無防備にたなびかせていれば、向こうから誘われてくれるとは思っていましたの」
 砂漠の上を滑るように、ノリアはサボテンの間を抜ける。つるんとした柔らかそうな外見に反し、ノリアは硬い。サボテンの棘など何するものぞ、と多少のかすり傷など躊躇せずに右へ左へ蛇行しながら、スナネコたちを誘き寄せていた。
 左右へ蛇行するのは、そうした方が猫の狩猟本能を刺激できると考えたからだ。果たして、ノリアの思惑通りにスナネコたちは一心不乱に我を忘れて、そのつるんとしたゼラチン質の尻尾を追い回す。
 ネズミを追いかけるみたいに、或いは猫じゃらしに興奮するみたいに……。
「サボテンの少ないところまで誘い出せれば……」
 そう呟いたノリアの尾には、1匹のスナネコが噛み付いている。爪を尾に突き立てるが、思いのほか滑るようで、スナネコは若干困惑気味だ。
 ノリアの頭上で、小鳥が鳴いた。
 瞬間、ノリアはその場で停止。尾に噛みついていたスナネコ2匹が砂の上に転がった。
 ビタン、と軽い音が鳴る。
 ノリアの身体が、サボテンを揺らしながら高くへ跳ねた。
 その後を追って、スナネコたちも跳躍し……。
「っと、なかなか活きがいいな」
 高く跳ねたスナネコの身体を、ジェイクは手を伸ばしてキャッチする。
 スナネコは「解せぬ」といった表情を浮かべているが、悲しいかなこれが自然、弱肉強食。スナネコは確かに、砂漠の優秀なハンターだろうが、獲物を追うのに夢中になって我を忘れてしまったのが悪い。
 狩りというなら、ジェイクにも覚えがあった。
 ジェイクの手の中でスナネコは暴れた。指に噛みつき、手の甲を引っ掻き、拘束から逃れようと藻掻いている。その意気や良し、といったところだが、多少の傷で手を離していてはイレギュラーズは名乗れまい。
「別に命まで取りはしない。大人しくしてくれ」
 そう言いながらジェイクは視線をサボテン群生地の奥へと向けた。
 先行させた黒猫たちが、何かを発見したらしい。

 オコジョが1匹、黒猫が2匹。
 都合3匹の獣たちが、音も立てずにサボテンの間を駆け抜ける。
「っ……来るぞ、散開しろ」
 オコジョが喋った。
 否、オコジョに変化したアルトゥライネルだ。短い指示に従って、黒猫2匹が左右へ展開。地面を転がり急停止したアルトゥライネルの目の前に、少し甘い香りのする液体が降り注いだ。
 毒液だ。
 降り注いだ、ということは毒液は上から放たれたものだ。後ろ足で立ち上がると、アルトゥライネルはそのまま後方へ宙返り。
 アルトゥライネルの鼻先を掠め、1匹の蛇が砂上へ着地した。
「ツチノコか。俺はこいつの相手をする。黒猫たちは、アーマデルの方へ残りを追い込め」
 アルトゥライネルの視線が、一瞬だけ地面に向いた。
 そこかしこに残る“何かが這った”痕跡は、ツチノコかツチネコの遺したものだろう。アーマデルの用意したささみ肉の臭いに惹かれ、ターゲットが周囲に集まっているのだ。
 ツチノコがアルトゥライネルに飛びかかる。
 オコジョを獲物と認識したのか。アルトゥライネルはまっすぐにツチノコを見据えたまま、その場に低く腰を落とした。
「悪く思うな」
 一撃。
 短い前脚で放たれた掌打が、ツチノコを後方へと弾く。

 サボテン群生地のそこかしこには、箱型の罠が置かれていた。罠の中には、茹でたささみ。
「蛇も猫も臭覚はヒトより優れているだろう」
 がさり、と遠くのサボテンが揺れた。
 サボテンの根元を、何かが走る。黒く小さな影だが、手足は無かったように見えた。
 それから、黒猫2匹とジェイクの姿。
 獲物を罠へと追い込んでいるのだ。
 この分なら、そう遠くないうちに何匹かは罠にかけられるだろう。
 だが、何事も予定通りには進まない。
「……甘い」
 右へ1歩、アーマデルが身体を移動させる。先ほどまでアーマデルがいた位置に、何かが跳び込んで来たのだ。
 三角の頭部に、短く太い胴体。毒に濡れた牙を剥き出しにし、赤い舌を伸ばしたそれは間違いなくツチノコだ。
 初撃を回避されてなお、ツチノコの行動は迅速だった。着地と同時に身体を捻って、アーマデルの顔面目掛けて跳びかかったのである。
 だが、アーマデルはツチノコよりもさらに高くへと跳んだ。
 ぎょ、っと目を見開いたツチノコへアーマデルは告げる。
「親近感が湧くな。……お前、良ければうちに来ないか? 蛇系には悪くない環境だと思うんだが」
 ツチノコの首を片手で押さえつつ、アーマデルは問いかける。
 なお、傍から見ればアーマデルは「しゃーしゃー」と蛇らしい声を発しているようにしか見えない。

 西の空が赤かった。
 直に日が暮れ、夜が来る。
 地面に長く伸びた影は、細く、そしてうねっていた。サボテンの根元に指先を……正しくは、触手を伸ばしたレインは、やがて薄い笑みを浮かべる。
「なゃーぉ」
 ずるずると引き戻される触手の先には、スナネコが絡めとられていた。
「テレビで見た……箱の中を当てるのみたいで……少し面白いかも?」
 確保したスナネコを顔の横に抱き上げて、もう片方の手でカメラを構えた。サボテン群を背景に、スナネコとツーショット。
 カシャリ。
 スナネコの顔は、恐怖に引き攣っていた。
「少し撫でてみたい……齧られるかな?」
 指をそっと近づける。
 スナネコは鼻先に皺を寄せ、レインの指先に噛みついた。
 むす、っと半分ほど目を閉じて、レインはスナネコを地面に降ろす。嫌がっている猫を撫で続けるほど惨い真似はしない。野生動物には個体に応じた適切な接し方があるのだ。
 脱兎のごとく……猫だが……スナネコはサボテンの中へ駆け去って行った。
 その小さな背中を少し寂し気に見送って、レインは再びサボテンの根元へ触手を伸ばした。何度かこれを繰り返しているが、今のところはスナネコとツチノコしか見つかっていない。なるほど、流石はUMA。そう簡単には捕まらない。

 一迅、吹いた冷たい風が世界の髪を靡かせた。
 風のざわめきに耳を傾け、世界は顎に手を当てる。サボテンの群生地を飛ぶ精霊たちが、ツチネコらしき影を見つけたのだ。
「温度知覚と聴力、嗅覚を総動員して周囲の様子を窺っているのか。臆病というか、慎重な気質らしいが……日が暮れるな」
 空を一瞥。
 あと数分で辺りは闇に包まれる。
 ツチネコがいかに警戒心の強い性質だろうとも、餌にはありつきたいはずだ。
 となれば、そろそろ行動を開始するはず。
「捕獲は不得手だしな。イズマ、史之、そろそろ出番だ」
 そう言って世界が指で示した先へ、イズマがそっと移動する。
 それから彼は、乾いた空気を肺いっぱいに吸い込んで、唇を窄めた。
「行くぞ……“にゃぁ!”」
 イズマの唇から零れたのは、スナネコの鳴き声だった。
 突如、背後で聞こえた声に驚いたのか、サボテンの影でツチネコがビクリと跳びはねた。
 それから、ざざと地面を這う音。
 逃走を開始したツチネコを追いながら、イズマは言った。
「にゃぁ!」
 訳するなら「怖くないよ、逃げないで! 撫でるし餌もあるよ!」と言ったところか。
 だが、ツチネコは止まらない。
 その警戒心の強さと判断力、そして行動の速さこそがツチネコをUMAたらしめる要因だ。延々に人の手から逃げ続けることが出来なければ、未確認生物ではいられない。
 未確認生物として不動の地位を築くのも楽じゃない。
「あっ、こいつがツチネコか! 逃がすか……!」
 サボテンが疎らな区画に追い込んだことで、ツチネコの姿が目視できた。
 だが、流石に動きが素早い。
「くっ……!」
 右腕を掲げて、サボテンの棘から顔を庇う。
 足を止めた一瞬の間に、ツチネコはさらに遠くへ逃げた。このままでは、そう遠からずツチネコの姿を見失う。
「問題ない。臭いは覚えたからね!」
 イズマの頭上を飛び超えながら史之が叫んだ。
 史之の肩には、小鳥が1匹止まっている。小鳥の視た光景を頼りにジェイクが声をあげていた。
 ジェイクの指示に従って、群生地の各所からイレギュラーズが集まって来る。徐々に狭くなる包囲網。ツチネコの逃げ場は失われていく。
「それにしても、ラサにしては自然豊かで生物にあふれた地だね」
 サボテンを回避し、史之は一段、高度をあげた。
 黒猫が2匹と、ツチノコが1匹、史之の抜けた穴を埋めるようにツチネコを追う。
「んに“ぁ”ぁ“!」
 ツチネコが鳴いた。
 どうやら向こうにも余裕がないようだ。
 タン、と地面を叩く音。
 包囲網を突破すべく、ツチネコが高くへ跳びはねた。
 それと同時にツチネコが吐いた毒液が、進路を阻むノリアの顔面に降り注ぐ。毒液程度で被害を受けるノリアではないが、視界ばかりはどうにもならない。
 その隙にツチネコは、ノリアの頭上を飛び越えるつもりだ。
 けれど、しかし……。
「こっちだよ!」
 夜闇の中に飛ぶ影へ、史之が声を投げかける。
 ツチネコの紅い瞳が史之を視た。
 ツチネコは、史之から視線を外せない。
「悪いね」
 パチ、と。
 前に翳した史之の両手で火花が散った。
 刹那、目には見えない何かに弾かれるように、ツチネコが2度、後ろへ向かって弾かれる。衝撃で意識を失ったのだろう。
 弧を描いて、地面に落ちるツチネコをレインが触手で受け止めた。

●ツチネコの捕獲
「にゃぁお」
 と、ツチネコは鳴いた。
 鳴き声は猫そのものだ。頭部はスナネコと瓜二つ。けれど、首から下は太く短い蛇のそれである。
「奇妙な姿だ」
 そう呟いたアーマデルの肩には、1匹のツチノコが座っている。激闘の果てに友誼を結んだツチノコだ。
「奇妙な……いや、ツチノコも大概」
「そいつ……食うわけにはいかないよな。ちょいと名残惜しいが」
 アーマデルの肩に座ったツチネコを見ながら、アルトゥライネルとジェイクがひそひそと言葉を交わした。
 アーマデルの仕掛けた罠には、スナネコやツチノコが数匹捕まっていたのだが、既に逃がした後である。キャッチ&リリースというやつだ。
「まぁ、仕方ないさ。生態系は守らないとな?」
 空になった罠箱を手にイズマは言った。
 必要なのは、ツチネコだけなのである。サボテンの群生地は、スナネコやツチノコ、ツチネコたちの住処である。この場において、異物は人の方である。
「この子……捕まえた後は、どうなるんだろう」
「大切に、幸せに育ててもらえるよう祈りますの」
 捕獲したツチネコは、パンタローネ商人の手を介して好事家の元に送られる。そこでせめて、幸せに生きてほしいと願わずにいられないレインとノリアであった。
「こうして世の中から“未確認生物”が1種減ったわけだが……まぁ、楽しかったからいいか」
「だね。ま、乾杯といこう。アラックなんていかが?」
 もうじき、パンタローネの使いがイレギュラーズを迎えに来るはずだ。
 それまでの間、しばし砂漠の夜を楽しもうと世界と史之は砂の上に腰を下ろした。2人の横に置かれた箱が、ガタンと何度か揺れていた。
 箱の中身はツチネコだ。
 怯えながらも、与えられたささみは完食している辺り、なかなか図太い性格をしているのかもしれない。

成否

成功

MVP

ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様です。
無事にツチネコは捕獲されました。
依頼は成功となります。

この度は、UMAの捕獲にご参加いただきありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼にてお会いしましょう。

PAGETOPPAGEBOTTOM