シナリオ詳細
<革命の聖女像>焔、赫赫と<美しき珠の枝>
オープニング
●雪雲
びゅうと吹いた風が、白い雪を運んでいく。
されど運んでも運んでも、その白は視界から消えてはくれない。
この鉄帝という国の大地は既に白に覆い尽くされているのだから。
「寒いところまで、ご苦労さま」
モッコモッコに着込んだ劉・雨泽(p3n000218)が片手を上げ、豊穣経由でわざわざ呼び寄せたイレギュラーズたちに挨拶をした。
「簡単に文を出させてもらったから、解っていると思うけど」
何人かは自らの足で、そして何人かはローレットへ調査依頼を出していた件があった。一応再度伝えておくね、と笑顔の仮面を被ったまま雨泽が口を開く。
「鉄帝で『それらしき人物』を見かけた、との情報があったよ」
幾つかの特徴が一致していると言うだけで、それが本人であるかは解らない。
「情報は確かではないよ。この雪の世界だ。情報は捻れている可能性もあるし、情報提供者の見間違いや寒さの見せる幻覚……っていう線だってある」
でも、と一度言葉を切ってから雨泽は雪雲のような瞳を開き、静かに君たちを見た。
「それでも君たちは、行く、よね?」
返る声は肯定ばかり。「良い返事」といつも通りの作り物の笑みで笑った雨泽はそれじゃあねとギアバジリカ内のとある部屋で紙を広げた。
それは、難民キャンプの位置が記された地図だった。
「情報があったのはこの辺りで……」
厚みのある手袋をした指先が、幾つかの難民キャンプの印を内包する円を描いた。縮尺が幾つくらいの地図であるかの定かではないが範囲は広く、『そのどこかで』くらいの不確かな情報しかない。
「とりあえず近いところ――」
「大変です!」
近いところから調べていこうか、と提案しようとした声が、急遽室内へと飛び込んできた僧兵の声によって阻まれた。
「至急、救援をお願いします!」
息も切れ切れな僧兵から事情を聞くと、各地で難民キャンプが襲われている、とのことだった。
ローレットのイレギュラーズにかかった懸賞金と冬を越えるだけの大量の備蓄。その両方が難民キャンプに集まることから今難民キャンプは、釈放された囚人たちにとって宝の山という認識になっている。
鉄帝内に難民キャンプを行っている派閥は幾つかあるがクラースナヤ・ズヴェズダー革命派による難民キャンプは、ラド・バウ難民キャンプよりも武力平均が低く難民規模も大きいために集う物資も多い。成功率と旨味があるのは何方かは……考えるまでもないだろう。
雨泽は彼を休ませ、それから君たちへ振り返る。
「来てもらったばかりだけれど、ごめんね。そういう訳だから行ってくれるかな」
幸い――と言って良いのは解らないが――僧兵が救援を求めている難民キャンプは先刻雨泽が指で囲った難民キャンプのひとつである。
「最近はグロース将軍率いるグロース師団が天衝種(アンチ・ヘイヴン)にまで武装をさせているそうだから、気を付けて」
防寒具等のサポートはできるからと言い置いて、雨泽は君たちを見送るのだった。
- <革命の聖女像>焔、赫赫と<美しき珠の枝>完了
- GM名壱花
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年01月09日 22時05分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 10 人
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参加者一覧(10人)
リプレイ
●赫赫
イレギュラーズたちが到着した時、既にそこは赤に染まっていた。
赤く赤く、なお赫赫(かくかく)に。
辿り着く前から見えていた黒い煙と焦げ臭い香りに急いだイレギュラーズたちの白い世界ばかりを映していた瞳に鮮烈な、そして濃厚な赤と赫が映り込む。同時に臭覚に訴えかけるのは、木材だけではない何かの焦げる嫌な匂いと、冬の澄んだ空気に混ざる確かな血の気配。
「……随分と荒れてやがるのう」
「……此処でも火の手が、ってェのは何の因果だってんだ」
遥々豊穣から情報を追ってきた『天を見上げる無頼』唯月 清舟(p3p010224)と『瞑目の墓守』日向寺 三毒(p3p008777)は眉を顰めて赤と煙を視界に入れた。チッと吐き捨てたくもなる。何の因果か近頃火が絡む事件に何度か遭遇していた。煙の香りによって呼び起こされる記憶はいつも赫赫として、鮮明だ。
イレギュラーズたちは眉を潜めながらそこそこの広さのあるキャンプ地へと足を踏み入れた。
キャンプ地と名称がついているが、革命派難民キャンプの元からあるキャンプ地はルシチョフカ型集合住宅を用いている。街の建物よりはしっかりとはしていないが、身を寄せるには十分の広さと強度があり、5階くらいの高さもあるものだから多くの人々が棲家としていた――はずなのだが、それらの多くが穴を空けていた。
視界に、何かが転がっている。
瓦礫もあるが――瓦礫ではない。もっと丸みをおびたモノだ。
白い雪を赤く染め、踏みつけられて泥に塗れたそれは――襲撃前までは確かに生を刻んでいたモノ。21gと抜け出た血潮分軽くなった、人の死骸だった。
「ふざけるなよ……!」
怒りが、爆ぜた。『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)の周囲でバチンと空気を稲妻が焼いた。
こんな状況だ、生きるために奪うのは――それしか道がないのなら、目を瞑らねばならない時もある。しかし、命を奪っていい理由にはならない。肩を寄せ合って暮らす難民たちに、何が出来ただろう。襲撃という暴力の嵐の前で、彼等はただ震えながらそれが過ぎ去るのを待っていただろう。仲間たちの為に危険を承知で抗う者もいただろう。けれど、それでも――命を奪ってもいい理由にはならないのだ。喪われた命は、帰っては来ないのだから。
「……マリィ」
静かに寄り添った『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)がマリアの手をそっと握り締め、神に祈るように睫毛の影を頬へと落とした。
「助けられるヒトたち、まだいるのかな」
不安そうに『灰雪に舞う翼』アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)がポツリと声を落とし、すぐさまかぶりを振る。
「ううん、まだいるはず! 助けないと!」
「こんなに広いところだもんね。難民さん達も大勢いるだろうし……」
防寒具でもこもこになっている『魔法騎士』セララ(p3p000273)がきょと、と視線を巡らすも、炎ばかりで人は見えない。
けれど――。
「助けを求める人の声が聞こえます!」
耳を澄ませた『散華閃刀』ルーキス・ファウン(p3p008870)は、確かにくぐもった声を捉えた。
ルーキスが「あそこからです」と指をさし、仲間たちとともに大きな瓦礫の元へと向かう。ルシチョフカは『まるで大きな何かが崩したような』穴が空き、それによって崩されたルシチョフカの外壁がごろりと転がっていたのだ。
「おい! しっかりしろ!」
瓦礫の影に倒れている人を見付けた『怪人暗黒騎士』耀 英司(p3p009524)がしゃがみこんで声をかける。手を握り、死ぬな死ぬなと必死に願う。
「今、回復を!」
「あぁ……たす、けが……き……」
アクセルが祝福を与えんとする寸前、英司の手の中で血まみれの手は微かに動き――動かなくなった。とうに寒さに熱を奪われていた身体は、命のぬくもりさえ元からなかったのだ。
――間に合わなかった。
その思いが英司の心を黒く塗り潰す。
イレギュラーズたちには何ひとつ落ち度は無かった。頼まれて、出来るだけ急いでやってきた。最善を尽くし――更に今からも最善を尽くすつもりだ。
しかし、間に合わなかった。
英司の中で密かに悲しみと怒りが爆ぜた。
(……英司様?)
静かに遺体を横たわらせる英司に『花嫁キャノン』澄恋(p3p009412)は違和を覚えるが、確信には至らない。それよりも気になることがあり、澄恋は炎へと意識を移してしまったから。
(嗚呼、この熱にこの赫……心当たりしかありません)
恋する乙女のように、どくりと血が沸き立った。
(ここに、いるのでしょう?)
まるで地獄のような、悲惨な地。
揺れる炎と血の赤に染まる、静寂な銀世界とは程遠い、誰かが白いキャンバスに悪戯に赤を塗りたくったような景色。
(焔心様――……)
あの魔種に堕ちた鬼人種が、何処かでせせら笑っているように思えてならなかった。
「……新皇帝派の犬ども、まだいるみたいだな」
殺意の感情で探れば、一番近いのはマリアだろうが、そこかしこから感じ取れた。きっとそこに仲間や家族を殺された難民も混ざっているであろうことも考えられるため、確認していく必要はあるが――何となくの方向や大きさが解るだけでも救える命が増えるはずだ。
(救助とは……少し小難しいですね)
敬虔な神の使徒の装いで困ったような顔で首を傾げながら、『あいの為に』ライ・リューゲ・マンソンジュ(p3p008702)はそんなことを思った。聖職者の装いを纏えど、その姿は見せかけだけ。嘘にまみれたライは、救助活動は得意ではないのだから。
「生きてぇか! 生きたきゃ立て! 走れるもんは走れ! 隣で震える奴を叱咤しろ!」
物陰に隠れていた難民を清舟が叱咤する。このまま彼等がここに隠れていても、そのうち炎に飲まれることだろう。
しかし難民たちは顔を困ったように合わせた。何処に逃げればいいのか解らず、闇雲に走ってはただ新皇帝派の兵に見つかって殺されるのがオチだと言うことが解っているからだ。
「オイラたちが連れてきた馬車を外に止めてあるよ」
不安そうに顔を見合わせる難民にそう声を掛けるのはアクセルだ。燃えているキャンプ地内に入れることは出来なかったが、安全な場所に馬を繋いであること。そして、そこから此処まで危険な人物には会わなかったから安全に向かえるはずだと告げた。
「馬車はアッシュっていう金髪の女の人が守ってくれているから安全だよ」
「トラコフスカヤちゃんもおりますわ」
「うん! VDMランドのマスコットの子だよ」
知っているかと問えば「ああ、あの」と難民たちが頷いた。きっとトラコフスカヤちゃんは『避難民の皆さま落ち着いて下さいまし! 避難場所はこちらですわー!』と手を振って誘導してくれるだろうし、新皇帝派の兵たちが来たとしても酒瓶を振りかぶって彼等を守ってくれることだろう。
「私のファミリアーについていってくださいまし」
ヴァレーリヤが召喚した雷鳥がふわりと飛ぶと、礼を告げて難民たちは雷鳥を追っていった。彼等はきっと、アッシュとトラコフスカヤちゃんが保護してくれるだろう。
「……生存者もまだ多いようだ」
感情の探知をやめて助けを求める反応を拾った英司が、感情を押し殺したような声で告げる。救える命がまだあるのだという喜びと、その生命がまた目の前で喪われるのではないかという焦りが彼を突き動かす。
「……っ、悲鳴が!」
今にも消えそうな小さな悲鳴を捉えたルーキスが息を呑み、イレギュラーズたちは数名ずつ別行動をしてひとりでも多く救おうと頷きあった。
その時だった。
「何か! 来ます!」
――Grrrrrrrrrrrrrrr!!
高機動で遠方から何かが来る音をルーキスが耳で捉えるのと、低い獣の唸り声と共にイレギュラーズたちの直ぐ側のルシチョフカに『穴が開く』のは、同時だった。
「なんじゃ!?」
「皆、大丈夫!?」
吹き飛んできた瓦礫に素早くアクセルと清舟が反応し、仲間たちを庇う。ガラガラと開いた壁穴からは瓦礫が溢れるように落ち、弾け飛んだ雪とで少しの間視界が遮られた。
その中に、巨体と言っていいシルエットが浮かび上がる。
まるでマグマを獣のような形にしたような魔獣――新皇帝派が従えている『天衝種』狂紅熊(ギルバディア)だ。
ギルバディアはイレギュラーズたちを視界に入れると、けたたましい咆哮を上げた。瞳のあるべき場所にぽっかりと開いた眼窩の奥には、怒りの感情が燃えている。
「ここはボクたちに任せて! 皆は救助を!」
「ええ……ええ……多くの命を救う為。この戦いは、神もお許し下さることでしょう」
もこもこフォームでも元気にセララが前に立ち、ライが敬虔な信者が如く胸の前で手を組んだ。その心中はほぼ真逆だが、ふたりが口にしている意味は同じ『ここは任せて』だ。
「このような大きな方が暴れては被害が広がりますよね」
「儂ゃ殴る方が気が乗るわ」
鋭い爪に、フルシチョフカですら穴が開く突進力。
この難民キャンプの惨状の一端が知れた。
あれに襲われては、難民なぞひとたまりもないだろう。
放置して暴れさせるわけには行かないことを誰もが瞬時に理解し、ひとりまたひとりと率先して抑えに回ると進み出てくれる。
「そういうことだ、行ってくれ」
この場に残ることを選択した三毒がそう言うと、時間も惜しいイレギュラーズたちは「この場は任せた」とキャンプ地内に散っていく。
「何やら不釣り合いに仰々しいものをお持ちですね」
「うーん、出来れば外したいところかな!」
ビタミン剤とドーナツは仕事開始の合図。
人間だろうと熊だろうと、やることは変わらない。
難民やイレギュラーズへ敵対行動を取る相手が眼前に立ったならば、力いっぱい殴るか、弾を打ち込むか、キラキラしいエフェクトとともに剣を突き立てるか。シンプルな話、ただそれだけだ。
『Grr……』
難民救助のためにその場を離れていったイレギュラーズたちの方へと向けられる。魔獣とは言え獣。逃げる獲物を追いたがるのは性か。
「そうはさせん」
ギルバディアの動きを読んだ三毒が道を塞ぐかたちで距離を詰め、ごうと空気を揺るがす実直な一撃を叩き込む。全ての生者へ怒りを向けていたギルバディアの空虚な眼窩は三毒を捉え、涎を滴らせながら咆哮した。
近距離からのつんざくような怒りの咆哮に鼓膜に痛みを覚えるが、三毒は行かせじとその場を離れない。
「ひ……」
しかしその咆哮で、然程離れていない物陰に隠れていた難民が腰を抜かした。
「危ないので、出来るだけ下がっていてくださいね」
出来れば自力で逃げてほしいが、逃げてる間に新皇帝派に襲われる可能性もある。後からお送りしますからと声を飛ばした澄恋は二次災害を防ぐために保護結界を張り――炎にあまり効果が見られないことに少し妙だなと感じながらも――ギルバディアへ挨拶代わりの殺気を向けた。
ギルバディアの怒りの矛先は三毒と澄恋に向けられることになった。
「……ぐっ」
後退してマークを解いたギルバディアが三毒へ突進し、吹き飛ばすとともにイレギュラーズたちから大きく距離を取る。
吹き飛ばされる度にイレギュラーズたちは距離を詰めねばならず、マークすることが叶わない。早めに動きを鈍くすべきだと、セララと三毒、澄恋は顔を見合わせた。
やれることを、やれるだけ。
キャンプ地に散ったイレギュラーズたちは疾く駆けた。
「――危ない!」
今まさに剣を打ち下ろされんとしている難民と新皇帝派兵。
アクセルの翼が空を切り滑り込むと、そのまま閃光を放って新皇帝派兵を引き剥がす。
「大丈夫!? オイラたちが来たよ!」
もう大丈夫だと告げる声に、死を覚悟して目を瞑っていた難民が恐る恐る瞳を開いた。彼等の瞳にはきっと、イレギュラーズたちが希望の光と見えたことだろう。
しかしその閃光に、ぞろりと新皇帝派が集ってくる。
兵たちが握る剣は血に濡れ、炎に照らされ、赤く染まっている。ああ、同胞たちが斬られたのだ。助けに来てくれたこのひとまでも……と難民の心は容易く絶望に染まりなおる。
だが、救助に駆けつけたイレギュラーズは、アクセルだけではない。
「ただ人を殺める為にこの場に残るとは……下衆が。そんなに血に飢えているならば、俺が相手になろう」
すらりと刀を抜いたルーキスがアクセルよりも前へと立ち、下ろしたバンダナの下から鋭い眼光で兵たちを睥睨する。
お前たちの相手は俺だとわかりやすく示してやれば、兵たちの剣の切っ先はルーキスへと定められた。
「……アクセルさん、お願いします」
難民を陸鮫に乗せるようアクセルに託し、ルーキスは駆けてくる敵の中心へと踏み込んだ。パッと炎とは違う赤が散り、兵のひとりが倒れ伏す。
襲いかかる剣は複数。しかしそれも承知の上。己が傷つくことで誰かを守れるのなら、ルーキスは迷わずその手段を選ぶ。
「ハッハー! 怪人H様だ! どいつもこいつもエサに夢中でやり易いったらねぇなァ!」
感情探知でいくつもの殺意が近くにあること、そして広域俯瞰やファミリアーで近くの敵の所在は知れている。ルーキスが注目を集めている隙きに見つからないように兵たちの側面へと回った英司が金色の稲妻を纏う二刀の暗黒のエネルギーとともに突っ込んだ。
「くそ、まだいたか!」
「……随分景気よく立ち回ってくれるじゃないか」
「っ! ああっ」
イレギュラーズたちの立ち回りに焦りを滲ませるも、兵たちも引く気はない様子。新たな兵が姿を見せると――陸鮫に乗せられた難民が悲鳴を上げた。
兵が首に剣を当てたまだ幼い少女をひとり連れていた。知人なのだろう。陸鮫の上で難民が手を伸ばすと、少女は声を殺してボロボロと涙を零した。腫れ上がった頬は声を出して泣けば――または隠れている難民を誘き出すために殴られた痕なのだろう。
略奪を主とした襲撃は実に醜悪だ。強姦も殺戮も、全て、奪う者は平然と行う。
英司はそれを知っていた。
腹の底が煮えたぎる。
「手前ぇでデッドウェイトを抱えてくれるたぁなぁ!」
けれどもそれを表には出さない。
ヒールを演じ、荒い言葉で俺には関係ないと言ってやる。
大丈夫だよと、アクセルが陸鮫に乗せた難民だけに聞こえる声で口にする。必ずオイラが守るから。仲間に合わせ、飛び立つ準備は出来ている。
「俺ぁ他の奴等とは違う。アンタ等をぶっ殺せればいいんだよォ! 新皇帝派のワンコロ共!」
人質をものともせず英司が斬撃を放つ。
驚いた兵が少女の首を掻き切るのがワンテンポ遅れた。
「ほら、大丈夫だ」
死を覚悟した少女はアクセルによって素早く救い出され、その腕の中で気絶した。
「ちっ……まあ熊を相手に9mmはね。熊撃ちといえばライフルでしょう」
三毒と澄恋がギルバディアの怒りを引き受けているため、ライへは向かわない。それに焦れて本心を少しばかり見せてやれば、ギルバディアは牙持つ頭を大きく振り、自身に接敵しているライと三毒を吹き飛ばした。
ギルバディアの動きは、鈍くなっている。
集中的に狙われた装備は外されて地面に落ちたただの障害物になり、身体も次第にまるで雪の中に埋もれていくかのように重くなっている。
それでも足掻く。
藻掻くように足掻いて、眼窩の奥の怒りの炎が消えぬ限り眼前の敵を屠らんとする。
イレギュラーズたちもまた、既に傷を大きく負っている。一撃一撃が重く、膝を付きそうになる場面もあった。けれどもギルバディアに接しているイレギュラーズたちは諦めない。この熊は必ず此処で仕留めねばならなかった。
「これくらいの痛み、なんともありません!」
襲撃に会った無辜の民や……亡くなった鬼の子に比べたら。
膝を付く前に、澄恋が率先して庇い、自身の怪我を試みずに献身的に回復に回った。
「全力全壊! ギガセララブレイク!」
セララが煌めかせながら幾度も聖剣を振るい、ライも50口径の祈りを両手に携えて打ち込んだ。
三毒の攻撃によって、ギルバディアの出血が激しい。
後少しだと解った時、距離を取って斬撃でギルバディアの体力の多くを削っていた清舟が真っ直ぐに駆けていく。
「死に晒せぇぇい!」
唐竹割りじゃあぁぁぁぁぁ!
大きめの瓦礫の影で震えている難民をヴァレーリヤのファミリアーは見付けた。難民は必死に口を抑えていることが視認でき、周囲へとファミリアーの視線を向けさせれば、新皇帝派の兵たちが「どっちへ行った」「探せ!」等と言いながら彷徨いている。安全な場所を探していたところを見つかってしまったのだろう。
「マリィ、申し訳ないのだけれど、ちょっと手伝って頂いてもよろしくて?」
パチリとした気配は、いつだって彼女と繋がっている証。
ヴァレーリヤがそう口にすれば、すぐにヴァレーリヤに応じる声が返る。まるで、すぐ側に居てくれているように。
「勿論さ! ヴァリューシャ! 援護はまかせて!」
ヴァレーリヤが伝えてきた敵の数なら、ふたりで大丈夫そうだ。側に居たルーキスへヴァレーリヤの元へと向かうことを告げ、マリアはヴァレーリヤが指示した地点へと素早く駆けた。
「弱き人々の命を散らすなんて、そんなこと!」
許せない、させない!
向かう際、見かけた数名の兵へと落雷をお見舞い。さすればきっとマリアの雷に気がついたルーキスや英司が、動きを鈍らせた兵を刈り取ってくれるはずだ。
指示されたポイントでは識別できない落雷を打ち込むことは出来ないから、ひとりずつ。丁寧に、然れども可及的速やかに雷閃葬華の連撃で打ちのめす。
難民を支えているヴァレーリヤの姿を捉える。
彼女の後方から新皇帝派兵が迫っていた。
ヴァレーリヤはマリアを信じているから、難民の救出に専念する。
「お待たせ、ヴァリューシャ!」
パリリと空気を焼く雷とともに彼女を通り越し、兵を打ちのめす。
「助かりましたわ、マリィ」
流石ですわねと微笑うヴァレーリヤに、煤で頬を汚しながらもマリアはとニッカリと笑った。
雪と泥の中に、巨体がどうと倒れた。
ギルバディアの死を確認してふうと息をついたイレギュラーズたちは汗を拭い、難民たちの救助をと炎へと視線を向けた。
「よォ、嬢ちゃん。イイ顔してんなァ」
唐突に。上空から――否、フルシチョフカの上から、声がかかった。
炎の照らされて戦っている間に空には月が昇り、月を背にした赤い着物が焔が如く揺れていた。
「えん――」
片方が折れた角に、無造作の髪。伝え聞いた姿に一致する。
邂逅は一瞬。遊ぶように存在のみを知らしめて、三毒が名を呼ぶ前に焔心は背を向けた。
「わたし……強くなりましたから!」
その背にすかさず澄恋が叫んだ。一等気を引くであろう言葉をずっと用意してきた。そしてそれが言葉だけにならぬよう、悔いを力へと変えて。
炎がフルシチョフカ屋根で爆ぜ、焔心は姿を消す。しかしその寸前、澄恋にはあの鬼人種が振り返って笑ったように思えた。
「……あんの野郎」
額に青筋を浮かべた清舟は苛立ちから舌を鳴らした。相変わらず逃げ足が早い。フルシチョフカの反対側まで回ったとしても、既にその姿は無いだろう。
「……熊は倒した。オレたちも救助に回るゼ」
三毒は清舟の肩を叩き、仲間たちにそう告げた。
やるべきことは、まだたくさんある。
ひとりでも多くの命を救い、保護をし、怪我の手当。落ち着けるように声を掛けてやる必要もあるだろうし、傷がひどくならないように衛生環境も整えてやりたい。
――それに、喪われた命を弔わねばならないのだから。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
人数配分、役割、ともにバランスが良く大変よかったと思います。
敵兵を倒し終えた後、遺体は回収しました。
遺体は遺族が顔を確認後、引き取るか埋葬。埋葬は革命派の共同墓地等、埋葬する場所の決まりがあると思いますのでそちらに埋葬されたはずです。
お疲れさまでした、イレギュラーズ。
GMコメント
ごきげんよう、壱花です。
アフターアクション結果と鉄帝での略奪のお話になります。
●目的
逃げ遅れている人々を救う
敵勢力を難民キャンプから追い払う
●シナリオについて
優先付与されている方たちは行方をくらました魔種を追いかけて鉄帝に来ました。が、目撃されたと思われる難民キャンプの内のひとつが襲撃にあっています。
現地に駆けつけると、そこは火の海です。あちらこちらで助けを求める人の声、天衝種に襲われる悲鳴等が聞こえてくることでしょう。そして敵の手の者等も跋扈している様子。
あなたたちは逃げ遅れている人々の救出、新皇帝派の手の者等の撃退、それらを同時に行わねばなりません。上手に役割分担し、人々を救いましょう。
フレーバーですが、普段とは動きが違うRPも楽しいかもしれないので。
鉄帝はとても寒く、防寒具等の支給はされていますが、その分動きづらいかもしれません。現地では火災が発生しているので、凍傷等に気を付けられるのなら程々に脱いでも良いかもしれませんね。
●フィールド:革命派難民キャンプ
安くて早く建設できるフルシチョフカ型集合住宅(日本で言う団地のようなもの)が並ぶエリアです。
人が密集して暮らしている場所のため、大規模な襲撃によって防衛ラインが突破された今住民は慌てて避難を行っています。
フルシチョフカは急いで建造されたものなのでやや脆く、そして密集されているので戦場も建物によって区切られるようになるでしょう。
崩れそうになっている場所や、崩れた際に巻き込まれて逃げられない人、炎に巻かれ何処に行けばいいのか解らない人、襲われて命の危機に瀕している人等が大勢居ます。
●エネミー
・『狂紅熊』EXギルバディア 1体
大型のクマ型の天衝種(アンチ・ヘイヴン)です。
凄まじい突進能力があり、フルシチョフカの壁に穴も開けられる程の力を持っています。また、敵を吹き飛ばす様な一撃や、鋭い爪で出血を与えるような能力も宿しています。
グロース師団から蒸気エンジンのような物を武装させられており、これにより突進能力や機動力等が跳ね上がっています。
これを押さえるためには、イレギュラーズたちが最低でも4名は必要になるでしょう。凄まじい突進能力で抑えの人を吹き飛ばし、包囲突破もします。
・グロース師団兵 20名
新皇帝派の軍人達です。武装し訓練された人間達で、グロースの思想に深く共感し、グロース将軍のために勇猛に戦います。
既に食料庫等への襲撃は終わっており、物資は運び出された後です。搬送のために部隊を分け、無辜の人々を殺すために残ったのが20名です。
難民キャンプ内に散らばっており、逃げ遅れている人々の命を奪おうと探しては仕留め廻っています。
●行方をくらました魔種
<美しき珠の枝>で出てきている憤怒の魔種です。
しっかりとした救助や対処が行われていた場合、最後に出てくる『可能性』があります。その際、戦闘は発生しませんし、会話が発生したとしても全体で一言二言です。すぐに居なくなります。
●EXプレイング
開放してあります。文字数が欲しい時等に活用ください。
可能な範囲でお応えします。
●特殊ドロップ『闘争信望』
当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran
それでは、イレギュラーズの皆様、宜しくお願い致します。
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