PandoraPartyProject

シナリオ詳細

英雄、堕つ――

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●英雄、堕つ――
「やめろ……、やめてくれ、もう悪いことはしない、後生だ! 頼む」
 裏路地に追い込まれ、後ずさる男の背中には石壁が無情にも立ちふさがる。
「いつもそうだ。お前たちはいつも同じことを言う。そうしてまた罪を犯す」
 目の前の白銀の鎧の男が幅広の剣を真っ直ぐにこちらに向けてくる。逆光で顔ははっきりとは見えないが端正な顔立ちが悲しそうに歪んでいた。
「いや、本当だ! 泥棒稼業からは足を洗う! 本当だ!」
 声の限りに叫ぶ男に向かって剣が振り上げられる。
「頼む! たすけて……っ! ごヒッ」
 銀の光が自分の身体を貫き、取り返しのつかない風穴を開けて、石壁に血の華を咲かせた。
「たの……、あ、あ……」
 まだ助かる道はあるのだと、白銀の鎧の後ろからさす陽の光をつかもうと男はもがく。だが残酷な現実(はくぎん)は、それすらも許さないというように、男から抜いた剣を横一閃すれば、哀れな犠牲者の首は一つ跳ねて石畳に転がり落ちた。
「何が悪いのかといえば、それは悪の心だ。一度芽生えたそれは、人を蝕み、何度も、なんどもなんどもなんどもなんどもなんどもおなじことを繰り返す」
 在りし日の彼は命乞いをする盗賊を助けた。心を入れ替えてくれたのだと嬉しかった。その数日後彼は間違いに気づく。愛しい妹がその盗賊によって、乱暴され、陵辱された上に殺された。
 自分は間違っていたのだ。悪人が心を入れ替えるなんていうのは、勇者の冒険譚にしかない幻想だ。
 彼はその盗賊を殺した。また命乞いをしたが、今度は聞き入れなかった。彼は復讐をあっさりと、あっという間に、何の苦もなく遂げてしまったのだ。
 彼に残ったのはただただ広がる虚無感。だれが言ったのだろうか。復讐は何も生まないなどという戯言を。
 ――そのとおりではないか。今の俺にはなにも、生まれてこない。喜びも悲しみも達成も――罪悪感も。
 だから彼は求めた。自分を埋める何かを。それは悪人を殺すこと。
 奴らは改心などしない。まるで獣のように欲望を露わにして善人を殺す。
 だから俺がすべての悪人をなくしてやる。
 白銀の鎧の男は剣についた血液を振り払うと踵を返して歩き始める。
 ――悪人をこの世からすべてなくすために。そう誓いをたてた妹のために。

●望まれない、英雄
「やあ、依頼だよ。正義の騎士を殺してほしいんだ」
 ローレットの酒場の片隅にいる君たちに向かって『黒猫』ショウ・ブラックキャット(p3n000005)は話しかける。少々……いや、相当物騒な話に面食らって君たちは彼を見つめて、続きを促した。
「ローレットとも親交がある盗賊ギルドからの依頼なんだ」
 盗賊ギルドからイリーガルな仕事を斡旋されることはよくある話だ。
「彼らのギルドメンバーがね、『白銀の騎士』に殺される事件が今、頻発しているんだ。まあイリーガルなことをやってるんだからリスクはあるとは言え、狙い撃ちにされたら流石にそれは話が違う」
 ショウははぁ、とため息をつく。
「っていうわけで、ローレットにヘルプの打診だ。行ってくれるかい?」
 ショウの言うとおり、悪党を殺す。それは正義の騎士なのであろう。だが世界には必要悪という概念はある。この世界は清濁併せ呑む世界だ。調律というものは必要になってくる。
「彼は、もともとは、人々に望まれた英雄だったんだ。でも今は人々が彼を疎み、死んでほしいと願う。正しいっていうのは何なのだろうね」

GMコメント

 英雄、乙。
 お世話になっています。鉄瓶ぬめぬめです。彼はまさしく英雄でした。
 掛け違えたなにかは彼を蝕み、狂気にも近い妄執となりました。
 

 成功条件は『白銀の騎士』の殺害です。

 よろしくお願いします。


・敵さん 
『白銀の騎士』
 二十代半ばの端正な顔の青年です。金の髪に青い目。白銀の鎧に幅広の剣とまさに伝説にでてくるような騎士の姿です。
 温厚で品行方正、人々に愛される英雄でした。
 彼は悪人を許せません。
 一人で盗賊団を相手にできる手練です。
 盾をつかった攻撃や、範囲に及ぶ音速の剣での衝撃波。一刀両断の渾身の刃でダメージの高い攻撃もしてくる上に少量ではありますが、回復もできます。
 

・ロケーション
 昼間、路地裏。足場は特に問題ありません。光はさしているので暗所でもありません。
 悪人であるスリの少女を見つけ、成敗しようとしているところです。(OPの彼ではありません)
 スリの少女の生死は問いません。
 近隣の建物に潜んで不意打ちをすることは可能です。(その場合は少女は確実に殺されるでしょう)

 皆様の思いをこめたプレイングをお待ちしています!

  • 英雄、堕つ――完了
  • GM名鉄瓶ぬめぬめ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年01月28日 21時40分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

セレナ=スノーミスト(p3p000428)
幻夢
ティバン・イグニス(p3p000458)
色彩を取り戻す者
刀根・白盾・灰(p3p001260)
煙草二十本男
アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女
アリソン・アーデント・ミッドフォード(p3p002351)
不死鳥の娘
サブリナ・クィンシー(p3p002354)
仮面女皇
雪原 香奈美(p3p004231)
あかいきつね
ハロルド(p3p004465)
ウィツィロの守護者

リプレイ


「――君もあの盗賊ギルドの一員だね。すまない。死んでもらう」
 白銀の騎士は断言する。その言葉に淀みはない。スリの少女は思い出す。最近自分の盗賊ギルドの構成員を襲う白銀の英雄がいると言うことを。
 先程、間抜けそうな恰幅のいい貴族から財布を抜き取り、路地裏で戦利品の確認をしているところだった。
「……まじかよ」
 白銀に隙はない。まっすぐに向けられた剣は数瞬後の自分の死を決定づけている。あー、こんなことなら、今日の昼飯は奮発するべきだったと少女は思う。
 自分をみつめる白銀の目は、まるで聖者のように透き通っていた。こういう手合は知っている。自分の正しさしか受け入れない。何を言っても無駄だと言うことを。
「ほんと、運がないってのはこういうことっすね」
「逃げて――ッ!」
 突如横合いから、銀色の閃光が飛び込んでくる。少女は目をぱちくりとして、その背中を見つめた。
 ギィン……っと金属音と火花を散らし、白銀の剣とアルテミア・フィルティス (p3p001981)の盾と白銀の刃が噛み合う。ややおくれて【元エルトライン皇国女皇】 サブリナ・クィンシー (p3p002354)の魔力弾が白銀を狙えば、彼は即座に距離を取り剣を構えると甲高い金属音を立てて、魔力弾を撃ち落とした。突然の妨害に眉を顰めた白銀は自分を囲む闖入者をみつめ眉をひそめる。
「貴女は更生できると信じているから今は助けてやる!」
サブリナは決意を込め、女皇の仮面(ペルソナ)をその身に宿し、少女に普段の彼女とは思えないようなほど凛とした声で告げた。
 少女は、一瞬その王たる風格にたじろぐが、しめたものだと咄嗟に判断し、サブリナをすり抜けて駆け出していく。
「っしゃ! 後はよろしく!」
「ちょっと! 貴女っ! そのっ、足掻いてダメならローレットと言うギルドを探せ、そこに居る私達が“また力になってやる”」
「はいはーい! ありがと! 愛してる! イレギュラーさんっ! その気になったらねっ!」
 強かにも少女はこの難局を乗り越えることができたことに、イレギュラー達に調子のいい感謝を告げると、あっという間に逃げだした。
 捕縛ができなかったことに、不満を覚える者もいたが、もともとはこの依頼は構成員を殺されることで、人材不足に困る盗賊ギルドからのイリーガルな依頼だ。憲兵が関われば盗賊ギルド自体も少々面倒な状況になり、それを理由に報酬を渋られては元も子もない。彼らは気持ちを切り替えると、白銀に向き合う。
 【あかいきつね】 雪原 香奈美 (p3p004231)のご近所づきあいのコネクションと、事前の聞き込みによって、白銀の居場所はすぐに判明し、 『聖剣使い』ハロルド(p3p004465) のハイセンスも相まって、効率的な挟み撃ちの体にすることは、それほど難しいことではなかった。とは言え、少女を助けることができたのはギリギリの瀬戸際だ。香奈美は心の中で一息をつくが、本番はこれからだと構える。相手は一人とはいえ、数人を相手取ることもできる手練だ。油断はできない。
 正面側にはハロルド、アルテミア、 『屑鉄卿』刀根・白盾・灰(p3p001260) 、サブリナの4人。後方側に【不死鳥の娘】 アリソン・アーデント・ミッドフォード (p3p002351)、香奈美、『幻夢』セレナ=スノーミスト(p3p000428) 、そしてこのパーティの回復を一手に担うティバン・イグニス(p3p000458) の4人が配置する。
(悪事に小さいも大きいもないと言われたら、そうかもしれない。悪事に対して平等な裁きは一つの正義のカタチなのかもしれないっすけど……)


「どういうつもりだい? 彼女は盗みを働いた。逃がせばまた盗みを働く。それだけじゃない。非合法なことをする可能性だってある。誰かを殺すことだってあるかもしれない。悪を誅することは、正義だよ」
 心底疑問の面持ちの白銀を後方側から香奈美は叫びながら牽制攻撃を仕掛け、自由に移動出来ぬようその場に留める。
「……がう……。……違う!こんなの私が信じて目指す正義とは違うものっす!」
 香奈美の背負う罪は『正義』。正義とは主観と客観でひっくり返るような曖昧なものだ。香奈美本人の正義だって間違っているかもしれない。だとしても。彼女は自分の想いに従って正義を貫く、そんな強い意思を込めた視線が白銀に突き刺さった。
「御大層な大義名分を掲げているようだが、結局は自分の空虚を埋める“何か”が欲しいだけだろう?我欲で人を殺す」
 正面班の最初の盾役、 ハロルドが盾を構え、アリソンと共に挟み込むように白銀に詰め寄っていく。
「そうか、君たちは俺のことを知っているのか。空虚を埋めなければ人は生きていくことができない。エゴの何が悪い? 悪人を殺し続けることの何が悪い? 迷惑を被るのは悪人だけだ」
「……それだよ、なあ、それは、アンタの言う“悪人”と何が違う?」
 ハロルドは容赦なく弾劾する。
「アンタは殺したいから殺し、俺は戦いたいから戦う。似た者同士仲良く殺し合おう!」
「ははっ、そうか、そうだな。似た者同士のようだ俺達は。なぁ、人殺しの君」
 白銀もまた、壮絶な笑みを浮かべ、ハロルドに答えた。
「何が間違っているか、正しいかなんて事は私には分からないけれど……」
 大切な人を失ってしまった憎しみは痛いほどにわかる。にくくて、にくくて、世界すらも憎かった。不死鳥の焔のように焦げつくこの憎しみは消えることはないだろうとまで思っていた。しかし出会いがアリソンを変えた。だから私も白銀を変えてあげたい。……復讐の刃が誰かの大切な人の命を奪う事が無いように。
 強い思いを込めた、焔が白銀の鎧を焼く。
「戦うしかないようだね」
 ため息をついた白銀の、音速の剣がハロルドとアリソンを打ち据えた。防御に専念しているとはいえ、少なからずの裂傷が二人の身体に刻みつけられた。
「後ろに仲間が居るのだもの…倒れる訳にはいかないわねッ!」
 アリソンは痛む身体を無視して、立ち続ける。それが自分の挟持だといわんばかりに。
(綺麗ね。影すらも一切許容しない厳格な白色。けれど、白だけでは世界(ゆめ)は美しく彩られないの…残念ね)
 セレナは、儚げな笑みを浮かべながら、アリソンのフォローをするように、神秘の親和性を高め足元を狙い生命を逆再生するが、部位狙いは少々精度が下がってしまい破壊力が減退してしまう。とはいえ、パーティのうちでも高火力を誇る彼女の攻撃はじわりじわりと、白銀の体力を削っていくのだった。
 戦況を冷静に俯瞰し効率的な動きを模索し、灰が味方達を克己させる指示をだしていく。それは彼が臆病だからこそ持ち得る観察眼。少々頼りない口調ではあるが、冷静で確実な指示は彼らの連携を徐々に高めていった。
(どうすれば良かったかなんて、俺はしらねぇ。事情がどうであれ、あんたのやってることは踏みにじるだけの行いはもう正義じゃねえよ)
 ティバンには過去の記憶がない。だが、イライラしている自分を感じる。これが過去に起因することかどうかはわからない。ただただ、腹立たしいのだ。もっと他に道はあったのだ。そうは思うがアドバイスが出てくるわけでもない。する義理だってない。なのに、考えてしまうのだ。『どうすれば良かったか』を。
 傷ついた仲間を回復させる間もその答えのない問いが胸をよぎる。ティバンの中では答えはもう既に出ている。にもかかわらず、つい考えてしまうことに苛立ちは募る。
 一旦下がったアルテミアは身体のギアを速度重視にスイッチすると、鋭く踏み込み肉薄戦を仕掛ける。彼女はずっと違和感を感じていた。話に聞く白銀の騎士の性格を思うと妹を殺されたとはいえ一連の残虐ともいえる行動に疑問を感じている。言葉を、刃をかわせば交わすほどその違和感は深まるばかりだ。
「良い剣筋だ、だが、甘い! 何かを迷ってるようだね」
 アルテミアの思考の隙を看破し、白銀が深く間合いに踏み込み渾身の刃を打ち込まんとする。
「チッ……!」
 ハロルドは舌打ちすると、その間に盾をねじり込むように飛び込めば、振り下ろされた刃が彼の左肩を切り裂き、鮮血が飛沫をあげる。ティバンは冷静に、回復を施すが、大きくうけた傷を回復しきることはできない。
「ハロルド君!?」
「一旦、さがれ! ハロルド」
「ハロルド殿、交代ですぞ!」
「夢より出し、幻のかいなよ。泡沫の救いを……!」
「下、右下、右っ、ぱんち!」
「呪え、世界を、滅びの足音よ。“被害者”である軽犯罪者まで手にかけ悪徳を為し、あまつさえ騎士を名乗るなど騎士の位階が地に落ちるわ不届き者めが」
 灰の声に反応し、白銀はハロルドを追い詰めようと歩を進めるが、前後からのセレナと香奈美、サブリナの牽制攻撃の対応に防御を強いられる。その僅かな隙を縫って、屑鉄の騎士が前に出た。イレギュラーズの隙のないスムーズな交代に白銀は小さく舌打ちをした。彼らの連携は一枚岩のように厚く、そう簡単に突破はできそうにもないと評価する。
 ギィンッ……!
 灰は押し付けられる剣圧に耐える。ぎりぎりとオールドワンの機械の身体が軋みをあげた。
(なんて強さなのでしょう、あぁ死にたくない! 死にたくない!)
 灰という男は小心者だ。騎士になるための、英雄になるための努力は欠かしたことはない。なのに戦場に出れば自分はこんな風に暴力に対して恐怖している。現実というものは物語のように美しくも無ければ都合など本人のお構いなしだと不貞腐れてしまったこともある。それでも、それだからこそ、この場に立ち仲間の盾になるという挟持だけは捨てることはできない。ここで折れてしまえば日々の努力が無駄になる。
「ハロルド殿、いまのうちに。白銀の騎士殿、ここは同じ騎士の誼で、見逃して、くれるわけないですよねぇ」
「ああ、当然だ」
「ところで、妹さんはどのように殺されたんですか? 殴られた? 蹴られた? それとも……!」
「黙れっ!!」
 嬲るような灰の挑発に白銀の端正な顔が怒りで歪む。にぃっと灰は笑い、かかったとほくそ笑んだ。明らかに先程までとは攻撃の精度が落ちている。激高して、周りが見えていないのだ。それと引き換えに灰は攻撃を集中して受けることになる。狙い通り上出来だ。あとは仲間がやってくれる。
 中距離からの味方の攻撃が白銀に降りかかっていくが彼は避けない。ただ、目の前の灰を屠らんがために剣を振り下ろしつづけた。その猛攻により、灰は防御を固めていたとは言え、回復も間に合わず、意識を手放すことになる。


(おかしい、なにかがおかしい)
 ずっとそう思っていたアルテミアだけが気づいた、真実。
「悪人を粛清し続けるのは誰の為? 弱者の為? 死んだ妹の為?……違う、貴方自身の為ね」
 静かな声に、血まみれの白銀が目を向ける。白銀の鎧は所々が砕け、紅く染まっている。
「違う! 俺は、妹のために!」
 白銀はまるで駄々をこねる子供のように、音速の衝撃波を放ち続ける。近くに寄るなといわんがばかりに。
「それに、貴方自身その誓いが無理難題であるという事を理解していない訳が無いでしょ」
 悪人はいくらでもいる。大悪党からこそ泥まで。それをすべて個人が倒すことなど、神でもなければ不可能だ。いや、神であっても難しいかもしれない。貴方はどこまでできると思っているの? と言外でアルテミアは糾弾した。
 衝撃波が美しいかんばせを切り裂いてもアルテミアは前に進むのをやめない。剣を構え、一気に肉薄し刹那の攻防の後、白銀の胸を貫く。
「……本当は死に場所を、自分を止めてくれる人を探していただけじゃないの?」
 顔と顔が触れそうになるような至近距離で、白銀にだけ聞こえるようにアルテミアは呟く。彼女の腹部もまた、白銀の剣が貫いていた。
「アルテミア!」
 仲間が悲鳴をあげる。意識を手放し倒れたアルテミアをハロルドが抱き上げると、ティバンは必死に回復術式を魔力の限りに練り上げ処置を施す。
「ああ、そうか、俺は、死んでもよかったんだ。復讐を遂げたその時に。……随分と長く生きすぎたものだな」
 胸を貫くその致命傷はどくどくと、かれの生命の源を流れ出させている。彼の生命はあと幾ばくもない。気づいてしまったのだ。アルテミアの言葉が自らの真実であると。だからこそ、曇りのない晴れやかな顔を――透き通った目をイレギュラーたちに向ける。
 妹の復讐を遂げた時点で「白銀のロッドバルト」は、英雄として堕ち果て既に死んでいたようなものだったのだ。終わらぬ復讐、終わらぬ憎しみは彼を修羅に変えた。妹のためでもない。自分の空虚を埋めるために人を裁いていた。そんな悪魔のような英雄はとうの昔に英雄などではなくなっていたのだ。
 こほり、口元から吐血し、笑みを浮かべる。この抜け出すことはできないと信じていた袋小路に差し込んだ光達に向かって。
「そうか、そうだ。俺は、死に場所をただ探していただけだったんだな。それが、今日の今だった。感謝するよ。特異運命座標たち。俺はずっと、この地獄から、抜け出したかったんだ」
 白銀は言って、その場に崩れ落ちた。
「この、馬鹿野郎……」
 ティバンは白銀を終わらせると決めていた。だからこれで間違ってなんかいない。それでも、悪態は口をついて出る。
 私しかできない役割だからと、幻夢人セレナは倒れた白銀の頬を優しくなでると、柔らかな声で語り始めた。
「貴方が殺されないといけなかった理由…それは、貴方の中にある忘れていたものが教えてくれるでしょう……私のギフトで、貴方に最期の……「忘れていた、大事な気持ちを思い出せる夢」を送りましょう……」
『それでは……良い夢を』
「ああ……」
「……じゃあな、『英雄』」
「ああ、あとは頼んだ『英雄たち』」
 はたりと、ハロルドに向かって伸ばされた白銀の手が落ちる。
(天国や地獄なんてものが天国や地獄なんてものがあるか分からないっすけど)
あかいきつねは祈る。おまじないなんて、眉唾だ。だけれどもその優しい願いは祈りは、きっと叶うだろう。
(せめて、せめて、あの世で妹さんと再開できますように……)


 白銀の騎士の遺体は盗賊ギルドからの引き渡しを強く望まれたが、彼らはそれを拒否し、妹の墓の隣に埋葬されることになる。
 高い丘の集合墓地に並ぶ二つの墓には誰が供えたのかはわからないが白い花が二輪、風に揺れていた。
 

成否

大成功

MVP

アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女

状態異常

なし

あとがき

英雄、堕つ――の参加ありがとうございました。
 みなさまの優しいお気持ち、ありがたく受け取らせて頂きました。
 実は白銀の真実はわからないまま終わるのかなと思っていたのですが、見事見抜いた貴女にMVPを。
 プレイングを拝見させて頂いた時にやられたーと思いました。
 それ以外にも卒のない作戦で、白銀君これ、逃げれないし後衛に攻撃届かないしどうしようもないなと思いました。
 交代タイミングもバッチリでございました。貫通攻撃を入れればよかったのです……!
 それではこのお話があなたの心にのこったのであれば幸いです。

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