シナリオ詳細
<咬首六天>真夜中の機械兵団。或いは、実戦投入実験…。
オープニング
●M2-56の研究成果
新皇帝派組織『アラクラン』――その総帥たるフギン=ムニンの策謀により、イレギュラーズの首に賞金がかけられた。
城塞バーデンドルフ・ライン郊外。
月のない夜、闇に紛れて荒野を進む者たちがいる。
明かりも持たず、夜も遅くにノックも無しにドアの前に立つ類の輩である。どうせ碌な連中ではない。しかし、秘密裏に行動するにしては、彼らの行軍は些かうるさすぎるのだ。
地面を打つ蹄の音。
興奮した荒い呼吸に、夜空に響くノイズ混じりの悍ましい咆哮。
それは獣の行軍だ。
どこかの国では“スタンピード”とも呼ばれるそれだが、それにしたって動物たちの様子がおかしい。何しろ動物たちの身体には、機械で出来た装甲が取り付けられているのだ。
その数はおよそ20体。
鋼鉄の腕を持つゴリラが2体に、刃のたてがみを持つライオンが4体。赤熱する角を備えた牡鹿が6体。そして鋼の牙や爪、四肢が鋼の狼が8体という編成だ。
そして最後尾には、馬車で運ばれる檻が1つ。
「うん。いい感じだ。しっかり命令も聞くし、流石はM2-56だ。研究の成果は動物たちの機械化と運用に大いに役に立っている」
そう言ったのは異形の男だ。
下半身は獅子のそれだ。頭部があるはずの箇所から、人の上半身が生えている。その両腕はゴリラのように太く、その背にはヤマアラシの棘が生えていた。頭部から伸びているのは、山羊か何かの角である。
異形の怪物。だが、動物のそれに似た箇所は全て鋼で出来ている。おそらくは、自身の身体を改造した鉄騎種なのだろう。
「こんなことは止めてくれ。動物たちを戦争に使うのは止めてくれ!」
檻の中で男が叫ぶ。
白い髪に、モノクル型の両目、年齢は50代ほどだろう。名をM2-56という、鉄帝国生まれの動物研究家である。
「止めろって言ってもな、うん。こっちも仕事でやってんだ。それに、動物たちは既に改造済だからな。頭の機械を外したら、あっという間に死んじまうよ」
なんて。
鋼の獣に似た身体を持つ男性は、獣のように大口を開け、呵々と笑った。
●実戦投入
ゴリラの両腕に取り付けられたのは【飛】の効果を持つミサイルだ。
ライオンのたてがみは【失血】【ブレイク】を備えた無数の鋸である。
牡鹿の角は【炎獄】の効果を備え、狼たちの牙や爪に裂かれれば【感電】を受けることになる。
「数は20と少ないですが、たぶん量産途中なのか、実戦投入実験の一環なのか。バーデンドルフ・ラインを落とすには戦力不足っすからね」
地図を指でなぞりながらイフタフ・ヤー・シムシム(p3n000231)はそう言った。獣の群れは、まっすぐに城塞へ向かっている。おそらく、城塞に対して【怒り】を抱いているのだろう。
「頭部に埋め込まれた装置によって洗脳状態にあるみたいっすね。装置を外せば動物たちはおそらく息絶えるっすけど……生かし続けるよりは、そっちの方がいいかもっす」
少しだけ、イフタフは悲しそうな顔をした。
動物たちのと遭遇は、敵の進行を阻むべく設けられた鉄門の辺りになるだろう。動物たちから100メートルほど後方に、檻を乗せた馬車と指揮官らしき男が控えている。
「男の名前も役職も不明。動物を参考に体を改造しているみたいっす。檻に入れられているのは、動物研究家のM2-56さんっすね」
きっとM2-56の研究成果を参考に、動物たちを改造したのだ。動物の生態、習性、体の仕組みなどを細かく調査し、記録していたことが仇となったのである。
だが、わざわざM2-56を前線に連れて来た理由は分からない。
だが、きっと何か意味があるはずだ……と、イフタフは予想していた。
例えば、動物たちを制御するにはM2-56が必要、などだろうか。
「……動物たちへの対処は城塞の兵士たちに任せてしまってもいいかも知れないっすね。その場合、イレギュラーズはM2-56の救助に回ってもらうっす」
荒野に遮る者は無い。
当然、イレギュラーズの接近は敵に気付かれるはずだ。
「名称不明の男性は、きっと動物たちよりも強いっす。十分に気を付けてくださいね」
- <咬首六天>真夜中の機械兵団。或いは、実戦投入実験…。完了
- GM名病み月
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年12月26日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●煙る城塞
山積みになった唐辛子。
城壁の周囲で燃える篝火の中に、兵士たちがそれを次々投げ込んだ。周囲に濛々と漂う煙には、唐辛子らしい刺激臭いが混じっていた。
煙を嗅いでか、押し寄せていた獣の群れがその勢いを鈍らせる。
鋼鉄の腕を持つゴリラに、刃のたてがみを持つライオン。赤熱する角を備えた牡鹿と、鋼の牙や爪、四肢を持つ狼による改造された動物たちの軍勢だ。
「おぉ、本当に効いている!?」
「燃やせ燃やせ! 片っ端から唐辛子を火に投げ入れろ!」
「明日から夕食が味気なくなるな!」
「明日の夕食を食えなくなるよりマシだろう!」
城壁の上で兵士たちが声を上げる。
攻め込んでくる獣は合計20匹。改造により強化されてはいるものの、兵士たちでも時間をかければ殲滅することは可能だろう。
「確かに動物達はそれぞれ優れた特長を持つが、それを盛り合わせれば完璧になれるとでも思ってるのか? 利点の数だけ弱点があるのが世の常だろうに」
「とはいえ強力な敵には違いない。新皇帝派の戦力増強を指を咥えて見ているわけにはいかんし、それ以上にこんな形で懸命に生きる命を利用する連中を許してはおけんぞ」
城壁から跳び下りて『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)と『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)が並んで地面に着地した。
かと思えば、2人はそれぞれ別の方向へ向かって駆け出す。
「動物達は城壁を狙ってるから、横や後ろから攻めれば被害を減らせるはずだ。頭を狙って洗脳装置を壊すんだ!」
光を纏ったイズマはまっすぐ、獣たちの来た方向へ駆けていく。
そうしながらも、跳びかかって来た狼の頭部へ細剣の一撃を見舞う。イズマの剣は狼の頭部を包む機械を破壊できなかったが、命令系に異常が出たか僅かにその動きが鈍った。
「何を斬り何を斬らぬか、事前にはっきりしているのは良いことですネ」
「無駄口を叩いている時間はありません。1秒でも時間が惜しいですからね」
敵の指揮官は体を改造した鉄騎種の男だ。動物たちの後方100メートルほどの位置に、その姿は見えている。
余計な行動と思考をする時間を与えてはならない、とばかりに『刹那一願』観音打 至東(p3p008495)と『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)が大地を駆ける。
当然、敵の指揮官も2人の接近には気が付いているだろう。
ゴリラが大地を腕で叩いた。
否、叩いたのではない。両腕から発射したミサイルの反動で、大地が激しく揺れたのだ。
煙の尾を引き、2発のミサイルが城塞へ迫る。
だが、しかし……。
「ぶはははは! 行きがけの駄賃って奴だ!」
「動物を改造して兵器にする、か。胸糞悪い話だな。おまけに趣味が悪い」
2発のミサイルは、城壁から跳び下りて来た『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)と『絶海』ジョージ・キングマン(p3p007332)の手により弾かれる。
2人が拳を横に薙ぎ払ったのは同時。
真横からの衝撃を受け、ミサイルは明後日の方向へ飛んでいく。
城壁から幾らか離れた地面に落ちたミサイルが爆発。爆炎と暴風、粉塵が吹き荒れる中をゴリョウとジョージが駆け抜けていった。
「なんというか……悪趣味なやり方だね」
そう呟いた『征天鉱龍』ェクセレリァス・アルケラシス・ヴィルフェリゥム(p3p005156)の眼下では、敵指揮官とオリーブ、そしてイズマの2人が打ち合っている。
指揮官が纏うのは金属製の装甲だ。
獅子の脚で大地を踏み締め、ゴリラのように太い両腕を振り回す。イズマとオリーブの斬撃を、山羊に似た鋼の角で受け止めて、かと思えば背後から切り込む至東を背負った棘で牽制するのだ。
「M2-56は……檻の中か」
指揮官が背に守るのは、鉄製の檻を乗せた1台の馬車だ。檻の中にはM2-56という動物学者が捕らわれている。
彼の研究結果をもとに、動物たちは改造を施されたのである。今回、城塞に攻め込んだのはデータ取りのためだろう。
「自分の研究成果をこんな風に使われて、さぞ辛い思いをしているだろうね……あの指揮官は生かしてはおけない」
なんて。
そう呟いたェクセレリァスは、高度を下げて馬車の方へ近づいていく。
斬撃に次ぐ斬撃。
それを鋼の拳で受けて、指揮官は両腕を振り回す。
殴打を受けたイズマと至東が地面を転がった。がら空きになった胴体へ、肉薄するのは右腕に紫電を迸らせる『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)だ。
「あの機械アニマルズはメンドウだからね! ここらでちょっと供給を止めるキッカケをもらいたいところだね!」
踏み込みと共に渾身の殴打。
衝撃が指揮官の胴を貫いた。
だが、指揮官は鋼の四肢を大地に突き刺し堪えて見せた。
「実戦は初めてだが、なかなかどうして悪くないな、うん。生身の身体は痛むが、動けなくなるほどじゃない」
「……いいの入れたと思うンだけどね」
そう告げたイグナートの両肩に、赤熱する2本の角が突き刺さる。
●M2-56の研究成果
姿勢を低くしたオリーブが、指揮官の真横を駆け抜ける。
その肩に剣を担ぐように構えた姿勢だ。疾走の勢いを乗せ、すれ違いざまに一撃を叩き込む心算である。
放たれるは急所狙いの高速の斬撃。
回避か、防御か、迎撃か。
選択肢はそのいずれかだろうと踏んでいたが、指揮官の男は敢えて鉄の下半身でオリーブの斬撃を受け止めた。
「おっと、そのまま後ろに駆けていくかと思ったぞ、うん」
獅子の脚に裂傷が刻み込まれているが、姿勢を崩すまでには至らない。
「よほどに研究家さんが重要と見えますね」
「M2-56か? うん、アイツほどに動物に詳しい奴はいないな」
片腕でオリーブを牽制しながら、指揮官は視線を右前方へと移した。
そちらに立つのは、黄銅色の鎧を纏った巨躯の男性。鋭い眼光は今も指揮官を捉えて離さない。
加えて、全面に構えた大盾もある。
「それ、ミサイルで砕けると思うかい?」
「ぶはははッ! やってみやがれ!」
ゴリョウの挑発に乗ったのか。
それとも、改造された己の身体を試したくて仕方がないのか。
指揮官の男は両の腕を高く振り上げ、地面に向けて叩き下ろした。
轟音。
そして爆炎が吹き荒れる。
放たれた数発のミサイルが、ゴリョウ目掛けて飛んでいく。
粉塵を押し退け、ゴリョウが前へと歩を進めた。
鎧や盾には焼け焦げた痕と、幾らかの傷。衝撃によるダメージも決して軽くはないが、まだまだ倒れるほどじゃない。
「見た目通りタフだな、うん。何発耐えられるか……」
獣のように大口を開けて指揮官は笑う。
追撃を見舞うためか、彼は再び両腕を頭上へ振り上げた。
刹那、キィンと弦を弾くような音色が響き渡った。
「なに……っんが!?」
粉塵に小さな穴を穿って放たれたのは飛ぶ刺突。
イズマの放った突きを眉間に受けた指揮官は、盛大に後ろへ仰け反った。獅子の脚が踏ん張るおかげか、転倒するには至らない。
その背を叩くオリーブさえ無視して、指揮官は視線を左右へ巡らす。
不意打ち気味に撃ち込まれた一撃に指揮官は機嫌を損ねたらしい。
獣のような形相で、顔面を血で染めながらイズマを見据え、口を開いた。
「何してくれるんだ? あん?」
「何って、戦っているんだろ? それにしても、随分と不格好な武装だな」
「あん? 格好いいの間違いだろ? 死んだぞ、てめー」
「改造した力がどの程度か見せてもらおうか?」
細剣を体の前に立て、イズマは腰を低く落とした。
獣の四肢で大地を蹴って、指揮官は疾走を開始する。
その時、指揮官の意識はイズマ1人に向いていた。
だからこそ、彼は気づかない。
「まっすぐ死線を引きましょうや、それら総ての喉首こえて」
すぐ真横にまで、至東が迫っていたことに。
一閃。
至東の放った斬撃が、指揮官の腕に裂傷を刻む。
その刀身は眩しいほどに光っていた。当然だ。至東の扱う得物はビーム刀。銘を楠切火忌村正という。
真横からの衝撃に、指揮官は僅かに体制を崩す。
「隙を見せたらもう一閃、見せてなくとももう一閃!」
斬撃に次ぐ斬撃が、鋼の腕に叩き込まれた。
だが、指揮官もただ黙って斬られ続けるつもりはない。両腕で顔を庇うようにして、背中を丸めた。背に負う鋼の棘が逆立ち、至東の肩や腹に突き刺さる。
血を吐きながら至東は数歩、後ろへ下がった。
にぃ、と歯茎を剥き出しにして笑った指揮官は、視線を再びイズマへ向けて……。
「生身を鍛えなきゃ意味がねぇだろ」
その顔面に、ジョージの拳が突き刺さる。
馬は元来、臆病で警戒心の強い動物だ。
そして非常に耳もいい。
「すっかり怯えて、お前も可哀そうになぁ。おぉ、よしよしよしよし! 怖くない、怖くないですよ! お前はなーんにも悪くない。心配なんていらないからな!」
M2-56が檻の中から馬を宥める。
動物学者だけあって、M2-56にとって馬を宥める程度は造作もない。
だが、幾らか馬は落ち着いたが、一定の方向を向いたまま警戒心は緩めていなかった。
「うん? そっちに何かいるのかい?」
M2-56が視線を向けた方向には、暗がりだけが広がっていた。
けれど、ザリ、と土を踏む音がして、馬が前脚を跳ね上げる。
「おぉ! 落ち着け落ち着け! よーしよしよしよしよし! 怖くない、怖くないからねー!」
馬を宥めつつ、M2-56は暗がりを視た。
「すまない。驚かせたようだ」
現れたのはエーレンとェクセレリァスだ。
「よかった……馬は改造されていないみたいね」
馬を落ち着かせるように、両手を挙げてェクセレリァスがゆっくりを近づいてい来る。檻の中で身を竦め、M2-56は眉をしかめた。
「君たちは、味方……と思って良いのかな?」
「挨拶が送れた。俺はイレギュラーズ、鳴神抜刀流の霧江詠蓮だ」
挨拶もそこそこに、エーレンは馬車の御者席へと跳び乗る。
「少し無理をさせることになるが、頼む」
馬にそう声をかけ、エーレンは手綱を手に取った。
走りはじめた馬車を横目に、指揮官の男が吠え猛る。
「うん!? 別動隊……いや、向こうが本命か!」
鋼の拳でジョージとオリーブを薙ぎ払い、指揮官は両腕を頭上へ掲げた。
接近してくるゴリョウとイグナートの姿も見えるが、防御や迎撃に裂く時間は無い。
「生きてりゃいいんだ! 馬も馬車も吹っ飛ばしてやる!」
両腕の装甲が展開し、無数のミサイルが顔を覗かせた。
体の扱いにはまだ慣れておらず、正確に狙いを付けることも、威力を調整することも難しいが、それでもある程度遠くにまで届く攻撃手段が他にないのだ。
ここに来て、イレギュラーズが指揮官を動かさないよう戦っていた理由が分かった。
遅かった、と歯噛みするのは後でいい。
馬と馬車を吹き飛ばす。最悪、M2-56が生きていればいい。
「何も五体満足でなくってもいいんだ。うん。頭と心臓が動いてりゃあな」
両腕を地面に叩きつけるのと同時、6発を超えるミサイルが馬車目掛けて飛び出した。
飛来するミサイルの1つは、至東が斬った。
もう2つは、ゴリョウとイグナートが身体を張って受け止める。
3度に渡って響く爆音。
爆炎の中から、残る3発のミサイルが迫る。
「しっかり捕まっていてくれ学者先生、舌を噛むなよ!」
エーレンが手綱を手繰ると、馬車が大きく傾いた。
馬が走る速度を上げるが、ミサイルから逃れるには足りない。
けれど、しかし……。
「馬車は死守するよ……エーレンは逃げて!」
空気を引き裂く矢が1本。
ミサイルを射貫き、地面に落とした。
爆発により地面が揺れる。
残るミサイルは2発。
飛翔するェクセレリァスがミサイルと馬車の間に割り込んで、体を張ってミサイル1発を受け止めた。
背後で爆発。
ェクセレリァスの身体が地面を転がっていく。
横目でそれを視たエーレンは、しかし馬を止めはしない。
残るミサイルは1発。
「たった1発……不甲斐ない姿は晒せない」
手綱を手放し、エーレンは腰の剣を引き抜く。
御者台に起立した彼は、背後を横目で見ながら跳躍した。
一閃。
馬車から跳び下りながら放った斬撃が、ミサイルを真っ二つに斬り裂いた。
●M2-56の奪還
戦場は遥か後方だ。
城塞では、未だ獣と兵士たちとの戦いが続いている。
「先生の安全はこの身に代えても守り抜くので、教えて欲しい。あの動物たちを解放するにはどうすればいい?」
檻から解放されたM2-56へ、エーレンは問うた。
地面に膝を突いたまま、M2-56は項垂れている。肩を震わせ、泣いているのだ。
彼は決して城門の方へ視線を向けようとはしない。
それが答えた。
「……やはり、そうか」
呻くようにそう呟いて。
エーレンは、M2-56の肩に手を置く。
爆発に次ぐ爆発。
指揮官が滅多やたらにミサイルをばら撒いているのだ。防御はもはや捨てている。
「よくもやりやがったな! これじゃあ、動物たちの兵器化が進まなくなっちまう!」
その攻撃のほとんどは、ゴリョウとイズマに向いていた。
隙だらけの背へ向かって至東とオリーブが大上段からの斬撃を見舞う。
「所詮は造り物の装甲。一度壊せば、再生はしないようですね」
連撃を受けた背中の棘が砕け散る。
指揮官の纏う装甲の中でも、各段に脆いのだ。おそらく、鋭く尖らせた分、厚みが不足しているのだろう。
とはいえ、オリーブも至東も全身に無数の傷を負っている。肩や腹には鋼の棘が突き刺さり、角で刺された胸部は焼けただれていた。
何度の爆発を受けただろうか。
地面に転がるェクセレリァスは【パンドラ】を消費し立ち上がる。
震える手で弓を構え、矢を番えた。
キリリ、と弦が引き絞られて……。
「初対面だがお前は嫌いだ。その首、もらい受けるよ!」
粉塵の舞う中、ジョージの目には敵の位置が見えていた。
高温を発する2本の角を、ジョージの目が見失うはずはない。
衣服はすっかり焦げている。
あばらは何本か折れただろうか。
けれど、ジョージは歩みを止めない。ミサイルを回避し、時に直撃を受けながらも前へ前へと歩み続けた。
その隣にはイズマが並ぶ。
2人より少し前方に、大盾を構えるゴリョウの影が見えていた。
「前へ出てぇ。無理をさせるが、注意を引けるか?」
ジョージの問いに首肯を返し、イズマは疾走を開始した。
イズマの刺突が指揮官の肩を貫いた。
粉塵の中、細剣を構えたイズマの姿を視認する。
赤熱する角を前へ突き出し、四肢で地面を踏み締めた。全速力の疾走と、続く角での殴打でもってイズマを仕留めてやろうというのだ。
だが、体が前に動かない。
「よぉ、背中の棘はもう使い物にならねぇよな」
赤熱する角は、ジョージの両手で掴まれている。
粉塵に紛れて肉薄を許した。獅子の脚力を持ってしても、ジョージの身体を振り払うことは出来ない。
手の平が焼けるのも構わず、ジョージは両の腕に一層の力を込めた。
脚が滑る。
指揮官の身体が後退する。
「生身の上半身を狙うには、その角が邪魔だったんだ」
力比べは拮抗している。
四肢で踏ん張っている分、指揮官の方が優勢か。
当然、そんなことはジョージだって理解していた。
「ヴォオオオオオオオオオッ! 野生のチカラ! ここに示す時!」
粉塵が吹き飛ばされて、気勢をあげるイグナートの姿が顕わになった。
裸の上半身。
ゴリラのように量の腕で胸部を叩く。
「ワイルドキングストリーム!」
咆哮と共にイグナートが疾駆する。
鋼の拳に紫電が走った。
「ま、やめ!」
ハンマーのように振り下ろされた鋼の拳が、指揮官の角を殴打する。
2本の角がへし折れる。
その様子を見ながら、イズマは自身の胸部に手を押し当てた。
「生物は再生するが、ただの金属にそれはできないだろう?」
淡い燐光が傷を癒す。
そんな彼のすぐ背後で、ェクセレリァスが矢を放つ。
右の腕が上がらない。
肩に刺さった矢のせいだ。
「うん。これは……駄目だな」
残る武装は左腕だけ。
これ以上の戦闘は無意味だ。動物ベースの強化外装、その実戦データは十分に採取できただろう。
振り上げた拳で、指揮官は右の腕を殴りつけた。
瞬間、内部に仕込まれていたミサイルが爆発する。右の腕の装甲が爆ぜ、爆炎が辺りに吹き荒れた。
右腕は完全に失われたが、これで多少は身軽になったことだろう。
悔しさに歯を食いしばりながら、指揮官は逃げ去って行った。
爆炎を防いだゴリョウの盾が、黒い煙を上げていた。
「やろう……なりふり構わねぇな」
そう呟いた彼の背後には、傷だらけの至東の姿。
彼女は遥か後方を見て、エーレンとM2-56が無事に逃げおおせていることを確認する。
安堵の吐息を零した至東の口元には、僅かに笑みが浮いていた。
「かのM2-56さんの著作は、偶然ですが読んだことがありましてネ。複数の意味で、敵方に置いていてはならぬお人。奪還できて何よりです」
城門付近の戦闘も、もう間もなく終わるだろう。
犠牲になった動物たちと、それを目にしたM2-56の心の安寧も考えれば、慰霊碑でも立てた方がいいかもしれない。
なんて。
肩に刺さった鉄片を抜きつつ、ゴリョウはそんなことを考えていた。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
改造された動物たちは討伐完了。
敵指揮官は重傷を負い撤退、M2-56は無事に救助されました。
救助後、M2-56は自分の研究施設へ帰還するようです。
依頼は成功となります。
この度はご参加いただき、ありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。
GMコメント
●ミッション
動物たちの殲滅or動物学者・M2-56の救助
●ターゲット
・動物の軍勢×20
鋼鉄の腕を持つゴリラが2体に、刃のたてがみを持つライオンが4体。赤熱する角を備えた牡鹿が6体。そして鋼の牙や爪、四肢が鋼の狼が8体。
城塞に対して【怒り】を抱いている状態にある。
アームミサイル(ゴリラ):物中範に中ダメージ、飛
メインソー(ライオン):物近単に小ダメージ、失血、ブレイク
ヒートアントラーズ(牡鹿):物近単に大ダメージ、炎獄
エレキハント(狼):神近単に大ダメージ、感電
・名称不明の指揮官×1
動物たちの指揮官らしき鉄騎種の男性。
身体を改造しているのか、強化外装を装備しているのか外見は異形のそれである。
下半身は獅子。獅子の頭の代わりに人の上半身が生えている。
その両腕はゴリラのように太く、その背にはヤマアラシの棘が生えている。
頭部からは、山羊に似た角が生えている。なお、動物に似た箇所は全て金属製である。
アームミサイル:物遠範に大ダメージ、飛
ニードルアーマー:物近単に小ダメージ、失血、ブレイク
ヒートアントラーズ:物近単に小ダメージ、炎獄
・M2-56
動物研究家。
名称不明の指揮官に囚われ、動物の兵器化に協力させられていたようだ。
現在は檻に囚われ、指揮官に同行している。
●フィールド
城塞バーデンドルフ・ライン郊外。
荒野からの外敵侵入を阻む鉄門の手前。鉄門には城塞バーデンドルフ・ラインの兵士たちが詰めている。
動物たちは鉄門のすぐ傍に、その後方100メートルほど離れた位置に名称不明の指揮官とM2-56がいる。
月のない夜のため視界は不良。
荒野に遮る物はなく、姿を隠すことは出来ない。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●特殊ドロップ『闘争信望』
当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran
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