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シナリオ詳細

<咬首六天>賞金稼ぎを返り討ち

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

 鉄帝地下鉄。
 鉄道都市ボーデクトンや鉄道都市ゲヴィド・ウェスタン、そして帝都中央駅ブランデン=グラードの施設付近で発見された大規模な地下道だ。
 仮称で『地下鉄』と呼ばれているが、どのように使われていたかは明確には分かっていない。
 恐らく鉄帝の遥か昔に存在した古代文明の名残と推測されるが、各派閥で探索が始まっている。
 理由は、新皇帝派との戦闘を有利にするためだ。
 この場所を利用すれば、新皇帝派が跋扈する地上を利用することなく、補給線や他の地上出口を探れるのではと期待されている。
 そのため地下鉄の調査、並びに敵対的な存在、例えば魔物や一部の新皇帝派の排除をイレギュラーズに依頼する動きが始まっていた。
 地下鉄は狭い洞窟が延々と続いている様な場所なので、大軍を動員するよりも少数精鋭のイレギュラーズが適任な訳だ。
 そこに寒櫻院・史之(p3p002233)は、依頼人のリリスとヴァンと共に、少しばかり異なる理由で訪れていた。

◆  ◆  ◆

「ここを右に曲がって――うん、証言通りの場所に出たよ」
 史之は地図を広げて確認しながら、リリス達に言った。
「嘘は言ってなかったみたいだね」
「みたいね。帰ったら、少し待遇をよくしてあげましょう」
「あ、待遇良くしてやるんだ」
「ええ。賞罰必須でやった方が、管理コストが低くなって良いもの」
 いま2人が話しているのは、少し前に捕獲した新時代英雄隊のことだ。
 ボーデクトン攻略作戦が行われる中、補給を行う部隊を、史之を含めたイレギュラーズの一団で襲撃し制圧した。
 それはボーデクトン攻略作戦に協力する、という意味合いもあったが、それ以外の理由が大きい。
 補給部隊が貯めこんでいた資材は、鉄帝の街や村を襲って手に入れた物であり、手配師と呼ばれる人物が納品していたのだが、それをリリス達は追っていた。
 生憎と、手配師は勘の良さで事前に逃げていたが、制圧し捕獲した新時代英雄隊から証言を得て追跡を続けている。
 それが何故、鉄帝地下鉄にいるかと言えば――
「こんな所に横領した資材を隠したりする余力があるなら、もっと他に使えなかったのかな」
 史之が零したように、横領した資材が保管されているのだ。
 制圧した補給部隊は、手配師を介して補給物資をちょろまかしていた。
 その内の幾らかは嗜好品や金品でやりとりしていたが、早々すぐに手配できるものでもない。
 なので、ちょろまかした資材を一時的に保管する場所として、地下道を使っていたようだ。
「偶々入口のひとつを見つけたみたいだけど、保管庫として使うぐらいにしか考えない子達で良かったわ」
 リリスは周囲を警戒しながら言った。
「ここ、ヤバいわよね」
「ですね。移動経路としてもですが、要塞化でもされたら落とせませんよ」
 技術者でもあるヴァンは、周囲の建材を調べながら応える。
「毒ガスやら流し込む方法もありますけど、これだけ広いと量が膨大になる。それ以外の正攻法だと、罠やら敷いて待ち構える相手と戦わなきゃいけない。戦力がどれだけ要るか、想像したくないですね」
「要塞化か……」
 少し考えて、史之は言った。
「これから向かう保管場所が、そうなってるってことは――」
「恐らくは無いと思います」
 ヴァンが応える。
「手配師、クルィーヴは、基本は個人で活動しているようですから。それに戦うよりも逃げることに重きを置く人物のようですし、やられたから待ち構えて復讐する、というのは考え辛いですね」
「うん、それはそうだと思うんだけど――」
 リリス達から聞いた、手配師『クルィーヴ』の調査報告書から得た人物像を思い描きながら、史之は続ける。
「報告書からすると、今まで鉄帝だけで活動してたんでしょ? なのに今回の騒動で、幻想から仕入れた武器を野盗とかに売ったりしてる。そっちの伝手が急に出来たと考えるのは不自然だから、誰かが関わってるんじゃないかと思うんだ」
「それって、黒幕がいるってこと?」
「うん。そういうのが、いるんじゃないかなって」
「黒幕……」
 思案したあと、リリスは応える。
「黒幕かどうかは一先ず置いておくとして、幻想からの武器搬入ルートを持った誰かが協力してるのは確かね」
「そっちの調査は進んでるの?」
「武器の製造先までは掴んだんですが、そこからの搬入ルートは、まだですね」
「ほら、なにしろ幻想でしょ? お金が儲かるとなったら、ほいほい手を貸す貴族とか探せば山ほどいるし」
「……そうだね。幻想だと、そうなるよね」
 などと、げんなりと史之が返した時だった。
「――」
 史之を含めた三人が、ぴたりと動きを止め、リリスとヴァンは少し下がり支援準備に入る。
「加速の加護を掛けます」
「すぐに逃げられる準備はしておくわ」
 支援特化のヴァンとリリスの言葉に、史之は小さく頷いて返し、少し先の曲がり角に向けて言った。
「出て来なよ。そこにいるんでしょ?」
「うぇ、バレてら」
 どこかおどけた声で出て来たのは、三十代の男。その顔は――
「手配師、クルィーヴだな?」
 史之の呼び掛けに、クルィーヴは楽しげに応える。
「うあ~、オレ名前までバレてんのかよ。こりゃ本格的に手仕舞いした方が良さそうだな」
「逃げるつもりなら、今ここで捕まえるよ」
 刀を抜いた史之に、クルィーヴは大袈裟に怯えるようにして後ろに下がる。
「うひっ、勘弁してくれ。戦いは嫌いなんだよオレ。だから、ジャック先生! 頼みます!」
「モリアーティに聞いた通り、イイ性格してるね、キミ」
 クルィーヴに盾にされるようにして、男が1人出て来る。それを史之は見て――
「気をつけて。こいつ魔種だよ」
 今まで以上に警戒する。
「お知り合いで? 先生?」
 尋ねるクルィーヴに、魔種の男――ジャックは応えた。
「彼は、私が今の生活をする切っ掛けを作ってくれた人だよ」
「それってぇと、あれですよね? 幻想の領主の立場利用して犯罪組織を裏で操って美味い汁吸ってたのにバレちゃったからトンズラこいたっていう」
「そんな感じだよ。その時は、カマを掛けられただけなんだが、どのみちバレずに領主生活するのは無理だと思ってね。それならあとは好きに生きて死ぬかー、って思って今に至るわけさ」
「ひひひっ、結構行き当たりばったりしてますな、ジャック先生」
 一触即発の状況で軽口を叩く2人を見て、史之はカマを掛ける。
「余裕だね。どうせ、まだ他にも仲間が近くにいるんでしょ? 出て来なよ」
「やれやれ――」
 史之の呼び掛けに応えるように、紳士然とした男と青白い顔をした男が新たに出て来る。
「根拠のない推論でも看破されたら出て来ないといけないのは、自分の性質ながら面倒だよ」
「難儀なことだな」
 軽口を叩くように言葉を交わす男2人を見て、リリスが警戒を促すように言った。
「もう1人は知らないけど、気取った格好してる方はモリアーティよ」
 それは犯罪組織を作って広げているという人物だ。
 史之は、モリアーティに視線を向け尋ねた。
「あんたがクルィーヴの黒幕ってわけだ」
「黒幕では無く、単なる協力者なんだがね」
 さらりと、状況を語るモリアーティ。
「私達が鉄帝に来たのは、人材確保と戦争の拡大が起きるかの見極めだよ」
「……訊かれても無いのに素直に話すんだね」
「私は推理小説の悪役の不出来な模造品だからね。看破されたり条件が整えば、話さずにはおれないんだよ」
 空想架空が実体化する世界から転移してきた、ウォーカーであるモリアーティは言った。
「だから話すが、鉄帝での戦争が大きくなるようなら、幻想も巻き込んで戦争をさらに拡大できないかとも思っていたんだよ。幻想から鉄帝に武器を供給していたのは、そのためだ。とはいえ、あまり戦火が広がるようには見えないのでね、そちらのプランは適当にすることにしてるんだよ」
「世界大戦ぐらいになれば良いのに。まったくもって、つまらん」
 青白い顔をした男が、心底つまらなそうに言った。それを聞いた史之は――
「よく分かったよ。あんた達が、ろくでもないってことは。それで、これからどうするつもり?」
 戦闘体勢を取りながら、史之は言った。
「この場で戦り合う気があるなら――」
「その気はないよ」
 モリアーティは応える。
「今日来たのは下見だからね。少なくとも今、君達と戦う気はないよ。私達は」
「その言い方だと、誰かを唆せて戦わせるつもりなんじゃない?」
「正解だ」
 モリアーティは史之に応えると、手帳を投げて寄こす。
「それには私達が調べた範囲の、鉄帝地下鉄の地図が記されている」
「……それをこっちに渡してどうするつもり?」
「速やかに戦いが始まるようにしたいんだよ。君達イレギュラーズと、賞金稼ぎのね」
「何を企んでる?」
 鋭さを増す史之の言葉に、モリアーティは応える。
「いま君達イレギュラーズには、新皇帝派組織である『アラクラン』に賞金が掛けられているのは知っているね?」
 それはアラクランの総帥たるフギン=ムニンによる策謀だが、それをモリアーティは利用するつもりだ。
「賞金稼ぎは、君達イレギュラーズを捜しているが、そうそう巧く出会えるとは限らない。だから教えてあげようと思ってね。鉄帝地下鉄に、イレギュラーズが来ると」
「そんなこと言われて、俺達が来ると思ってる?」
「来なければ、鉄帝地下鉄の把握は進まない。それに、新時代英雄隊が横領しようとしていた物資を幾つかに分けて保管してある。それを要らないというなら別に良いが、放置していると賞金稼ぎが先に見つけて持ち帰る。そうなれば賞金稼ぎは装備を整えるから、後々面倒なことになるだろうね」
 言うだけ言って、モリアーティ達は一斉に逃走する。
「逃げ足速いな」
 史之は追い駆けるか一瞬迷うが、伏兵がいる可能性も考え諦める。
「どうする?」
 リリスとヴァンに尋ねると――
「ひとまず今日は戻りましょう」
「物資が保管してあるというなら、それを確保するために後でローレットに依頼を出すつもりです」
「もし良かったら、その時は力を貸してくれると助かるわ」
「分かった。都合が合えば力を貸すよ」
 周囲を警戒しながら返す史之だった。

GMコメント

おはようございます。もしくはこんばんは。春夏秋冬と申します。
今回は、アフターアクションでいただいた内容を元に作った物になります。

そして、以下詳細になります。

●成功条件

鉄帝地下鉄と仮称されている地下道を進み、保管されている資材を持ち帰る。

●戦場

地下道ですが、ある程度の人数が混戦しても支障がないぐらいの広さがあります。

足場も平坦なので問題ありません。

明かりも用意する必要はありません。

●道程

途中までは依頼人が調べた地図で問題なく進めます。

途中から、犯罪組織の人間が渡した手帳を元にした地図に沿って進みます。

道中、罠などがあるかは不明です。

1時間ほどで、資材が保管されている場所に到着します。

●敵

イレギュラーズを狙った賞金稼ぎが襲撃してきます。

どこで襲い掛かられるかは不明です。

人数や強さは、ご参加いただいた皆さまのレベル帯を見て調整します。少なくとも、難易度NORMALを上回る敵は出てきません。

賞金稼ぎ以外の敵は、今回は出てきません。

倒した賞金稼ぎをどうするかは、自由に決めて下さい。

プラン内容次第で、シリアスな賞金稼ぎが出てきたりするかもしれませんし、愉快な賞金稼ぎが出てきたりするかもしれません。

●NPC

リリス&ヴァン

支援と回復要員です。

おもちゃの兵隊×32体

鉄帝の遺跡から得た遺物を解析し、練達の科学者が作ったロボットです。それなりに強いです。

遠距離からの攻撃・回復・バフデバフを分担します。

後方支援と、資材を見つけたあとに持ち帰る作業員枠です。

●特殊ドロップ『闘争信望』

当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

●情報精度

このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

それでは、少しでも楽しんでいただけるよう、判定にリプレイに頑張ります。

  • <咬首六天>賞金稼ぎを返り討ち完了
  • GM名春夏秋冬
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年01月01日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

武器商人(p3p001107)
闇之雲
咲花・百合子(p3p001385)
白百合清楚殺戮拳
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)
アネモネの花束
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
夢野 幸潮(p3p010573)
敗れた幻想の担い手
リヴィア=フォーレンティア(p3p010856)
堕ちた姫君

リプレイ

 広大な地下通路を移動するに当たって、『敗れた幻想の担い手』夢野 幸潮(p3p010573)の申し出が非常に役に立った。

「てれれれってれー」
 リズミカルな掛け声で――
「運搬手段~」
 用意してくれたのは二台の運搬車両。
「説明しよう!」
 びしっ! と示しながら教えてくれる。
「我にはイスカンダルとゼトロスという二台の運搬車両があるのだ! こちらでおもちゃの兵隊さん達には待機してもらおう」
 わらわら集まってくる、おもちゃの兵隊。
「のて、いい?」
「わくてか」
 訊いてくるおもちゃの兵隊に、幸潮は応じる。
「何、壊れないようにする為の措置さ。気にしなくても構わんよ。移動で無駄に燃料切れられても困るしね」
 喜び勇んで乗り込む、おもちゃの兵隊。

 かくして準備を整えていく。

「リリスさん、ヴァンさん、援護をお願いね」
 気安い声で頼む『若木』寒櫻院・史之(p3p002233)にリリス達は返す。
「ええ、もちろんよ」
 意気込む2人に史之は言った。
「ふたりとも強いのは知ってるけど、俺達の為に無理はやだよ?」
 今回は色々と仕込みかあるかもしれないので注意を口にする。
「賞金稼ぎと、どこで遭遇するかわからないからね。奇襲されるかもしれないから、とにかく先手先手とっていくことを意識していこう」
「そうよね」
「向こうの思惑が分からないですからね」
「だよね。3バカのことは気になるけれど、今は置いておいて、襲撃の対処に集中しよう」
 この会話に、『白百合清楚殺戮拳』咲花・百合子(p3p001385)が加わる。
「何やら込み入った事情のようであるが、つまり襲ってくる敵を全部返り討ちにすればよいのであろう?」
 リリス達を安心させるような力強い声で言った。
「吾、そういうの得意故頼られるがよいぞっ!」
「助かります」
「頼りにしてるわ」
 ありがたいと言うように、ヴァンとリリスは素直に頼っていた。

 そして出発。
 しばらく地下道を問題もなく進む。

「地下道のワリには灯りがヒツヨウないくらい明るいのは助かるね!」
 皆と進みながら、『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)は明るい声で言った。
「これで変な連中が出てこないロケーションならもっとイイんだけれどね!」
 周囲の気配を探りながら、わざと挑発めいたことを口にする。 
(特におかしな気配は無し。この辺りには居ないか……気配を完全に殺せるぐらい強いのが居るかもだけど、それよりも罠が張られてないか気を付けた方がいいかな?)
 罠を意識し、狭い通路や扉や障害物のカゲを注意しながら進む。
 他のイレギュラーズ達も慣れた様子で警戒しながら進んでいく。
 ベテランと言ってもいい所作に、まだ新人の『堕ちた姫君』リヴィア=フォーレンティア(p3p010856)は、自身と仲間との力量の差に緊張するように震えていた。
(明らかに私が実力不足ね……)
 緊張と共に怯えた様子を見せる彼女は、何処か誘うような隙も見せている。
 それは蜜を湛えた花のようでもあり、拒絶と共に期待を滲ませているかのようだった。
 粗野な男であれば、理性のタガが外れるようなリヴィアの在り様に――
「ヒャッハー!」
 頭モヒカンな世紀末風の輩が突如襲い掛かってくる。それも――
「「「ヒャッハー!」」」
 数人まとめてだった。
「ひっ!」
 いきなり襲いかかられ、怯えたように声を上げるリヴィア。
 しかしギフトの影響で、身体は逆に期待と興奮で濡れた吐息を漏らす。
(ダメ、ダメなのに……)
 リヴィアが拒絶と共に、迎え入れたい欲求に堕ちそうになり――
「ぎゃー!」
「ぐえっ!」
 思いっきり、ぶっ飛ばされるモヒカン達。
 イレギュラーズ達は戦闘態勢を取っているので、即時対応が出来たのだ。
 結果として、リヴィアが敵を誘い出し引き付けた上で、その隙を仲間が突いた形となった。そのあと――
「壁に細工師してるねぇ」
 モヒカン達が隠れていた場所を『闇之雲』武器商人(p3p001107)が確認する。
「中を刳り貫いて隠れてたみたいだねぇ。音とかも漏れないよう細工してある」
 武器商人は、モヒカン達を尋問する。
「これ、キミ達の細工かね?」
「ち、違う」
 ボコボコにされ、怯えてべらべら喋るモヒカン。
「ここで隠れて待ち伏せてると襲うの楽だって」
「手配師の野郎に言われたんだ」
(ああ、手配師ねぇ)
 美しくも刃物めいた笑みを浮かべ武器商人は思う。
(最近は随分と派手にやっている様だね。ま、どういう思惑であれ物資は奪っておくのが吉だ)
「せいぜい上手に踊るとしようじゃないか。ヒヒ」
 凄味のある笑みを浮かべる武器商人に怯えるモヒカン達。
 そこに、幸潮も簡易尋問に加わる。
「汝らの他に、誰かいるのか?」
「し、知らねぇ」
「早いもん勝ちって聞いたから」
 話を聞くと、物資入手やイレギュラーズ襲撃は、早い者勝ちと言われていたようだ。
「功を焦って前に出たと――」
「何か思いついたのかい? 幻想讃歌」
 武器商人に声を掛けられ、幸潮は返す。
「囮みたいなもんだろうぜ」
 通路の先に視線を向けながら続ける。
「罠や待ち伏せがあると思ってたが、ここで襲われたことで確定した。でも、こっちが気付けないよう細工できるのに襲撃して来たのがこれじゃ、お粗末すぎる」
「本命がこの先にいるってわけだねぇ」
「そういうこと」
 どうやら色々と準備をしているようだ。
 それだけのことをするには手配師だけでは足らないが協力者も手伝っているのだろう。
 そこまで推論し、『鳥籠の画家』ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)は溜め息をつくように思う。
(手配師の裏に黒幕ねぇ。どんどん胡散臭くなってきやがったな。とはいえ――)
 色々と思惑が乱れているようだが、だからといって今はやるべきことをするだけだ。
(俺はただの画家。軍事だ何だって話はサッパリだ。隠してるモン全部暴くまで叩き潰して追いかけるまでさ)
 ベルナルドのように割り切りつつも、憤りつつ静かに闘志を燃やすのは『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)。
(話を聞く限りだと、黒幕は戦禍を広げたいらしいし気に食わないが……資材のためなら罠だろうと行くまでだし、敵を捜す手間が省けると思えば悪くない)
 襲撃されるリスクはあるが、それを恐れはしない。
(勿論そう簡単に首は渡さない、罠なんて壊して返り討ちにするさ)
 イズマと同じように、皆の戦意は高い。
 皆は、モヒカン達を拘束し車両に乗せ移動を再開。しばらく進み――
「今の所地図に間違いは無いようであるが……」
 用意されていた地図を確認しながらマッピングをしてくれていた百合子が、警戒を促すように言った。
「ここから先は未確認の場所だ。今まで以上に気を張って進むとしよう」
 百合子の言葉に皆は応じ、周囲の索敵に集中しながら進む。
 その状態で進み続け、十字路になっている場所に差し掛かった時だった。
(――今の音は)
 一際優れた聴力で僅かな物音を聞き取ったイズマが、仲間に警戒を促すように、十字路の壁際に向け声を向ける。
「そこにいるのは分かってる。隠れてないで出てきたらどうだ?」
 イズマの誰何の声に合わせ、皆は即座に戦える配置につく。すると――
「……」
 無言で十代後半の女性が壁際から現れた。
(……ひとりだけ?)
 重ねた戦闘経験がイズマに警鐘を鳴らし、敵の意図を見抜く。
(これは――囮か!)
 盾役を自身に課していたイズマは、後方の仲間を庇うように動き、ほぼ同時に銃声が響く。
「スナイパーだ!」
 イズマは飛んで来た魔力弾を細剣で斬り裂きながら受け止め、後方へ届かないよう身体を張る。
 傷を受けるが即座に回復。
 外気と内気双方を操り循環させ身体を修復し、盾役として積極的に動く。
 次々飛んでくる魔力弾。
 それをイズマは文字通り盾となり受け止めながら仲間への被害を防ぐ。
(まだまだ受け止めてやるぞ、この程度で倒れてなるものか!)
 イズマの献身のお蔭で、皆は余裕を持って戦いに挑むことが出来る。
「ロボくん達、見せ場が来たぞ」
 幸潮は物語を紡ぐようにロボ達に声を掛け、応じるようにロボ達は動く。
 イレギュラーズ達の動きを援護するように強化や回復を掛け、新たに出現した敵を牽制するように援護射撃。
 十字路左右の壁から十人以上の新手が現れたが、幸潮の指揮の元ロボ達が牽制し動きを封じる。
 そこに百合子が追撃を掛ける。
「美少女に小細工は効かぬぞ!」
 百合子は物質透過を発動しながら、壁の一部に突進。
 そこはモヒカン達が隠れていたのと同じく、中がくり貫かれ伏兵が隠れていた。
 モヒカン達の例があるので、透視で周囲の壁を確認していた百合子は伏兵に気付き、不意を突くように突貫したのだ。
「いざ、尋常に勝負!」
「!」
 虚を突かれた相手が反応しようとするが、百合子の初手の方が速い。
 拳撃の間合いに踏み込むと、瞬速三連打。
 三か所の急所をひと息に叩き込み、体勢を崩した所で連撃。
 全身の動きを連動させた渾身の一撃を放ち、敵を沈める。
 だが、そこで止まらない。
 さらに後方で控えていた伏兵に間髪入れず襲い掛かる。
 放たれる拳は、ひとつ。
 だが同時に、流星雨の如く無数の拳打で撃ち据えた。
 並行世界の可能性を束ねた一撃に耐えられず、敵は沈む。
 百合子が伏兵を倒し奇襲を防ぐ。
 しかし敵の数は多い。
 気配を消して隠れていた敵が、次々現れる。
 それを翻弄するように捌いているのは武器商人だ。
「ヒヒ、惜しい惜しい。ほら、こっちだよ」
 挑発するように笑みを浮かべ、武器商人は敵の動きを誘導。
 敵の内、数名の若い者が挑発に乗り襲い掛かって来るが、武器商人の動きを捕えきれず、距離を見誤り踏み込んでくる。
 そこにカウンター。
 敵が固まっている所に、放たれる神聖なる光。
 まともに敵は食らいよろめくが、怒りを浮かべさらに突進しようとし――
「隊列を崩すな! 挑発に乗らず訓練通り動け!」
 敵リーダー格の男の檄で立て直す。
 連携し距離を取り、じわじわと攻めてくる。
(これは拙いねぇ)
 仲間を庇いながら武器商人は判断する。
(スナイパーと連携して攻めて来られるとキツい。先にスナイパーを崩す必要があるねぇ)
 現状は、武器商人とイズマの2人が仲間を守るように立ち回っているのでイレギュラーズがやや有利だが、敵の数が多くスナイパーの狙撃も厄介だ。
 何かの拍子に壁役の武器商人とイズマがスナイパーからクリーンヒットを受けると不利に傾きかねない。だからこそ――
(エゴロヴィチの旦那)
 ハイテレパスでイグナートに事態の打開を頼む。
(ここは引き受けるからスナイパーを頼む)
(分かった!)
 イグナートは引き受けると、魔力弾の飛び交う中、突進。
 速度を落とさず瞬く間に距離を詰め、そこからさらに加速。
 空気を撃ち振るわせ、音を響かせるほどの勢いで、自身を弾丸と化し当たり。
 スナイパーの1人を吹っ飛ばし戦闘不能にする。
 だが敵は怯まず、まだ残っているスナイパーと、護衛役の剣士達が構える。そこに――
「これはケイコクだけれど、死にたくなければ投降すればこれ以上は痛い目に合わずに済むよ!」
 イグナートは提案するように言った。
 これに剣士の1人、二十代前半の女性が応える。
「それを決めるのは隊長なんでね」
 そう言うと連携を取って襲い掛かってくる。
 単身、捌いていくイグナート。
 お蔭でスナイパーからの狙撃が無くなり、その隙を逃さずイレギュラーズは攻勢に出る。
「攻撃は一点集中! 1人ずつ確実に削って!」
 史之は、壁役のイズマを援護する形で敵を捌きながら、おもちゃの兵隊に指示を出す。
 指示に従い、集中攻撃。
 敵は拙いと思ったのか回避に動こうとするが――
「逃がさないよ!」
 史之は一気に踏み込み距離を詰めると乱撃。
 多数に傷を与え動きを鈍らせる。
 そこにおもちゃの兵隊が一斉掃射。
「その調子!」
 史之は敵への攻撃の手を止めず指示を出し続けると、脅威を感じた敵が襲い掛かってくる。
 だが、全てを回避。
「遅いよ」
 敵の集中を乱すように挑発しながら敵を斬り伏せていく。
 普段よりも動きが速いが、それはリリスとヴァンによる加速の加護の重ね掛けも効果を見せている。
 疾風の如き速さと軽やかさで敵を翻弄するように戦っていた。
 傷を受けた敵は態勢を立て直そうと一端退こうとするが、そこにベルナルドが追撃を掛ける。
(即興作画にしちゃ、まぁまぁの出来だな)
 空間をキャンパスに、終焉の帳を描いたベルナルドは幻想を現実へと描き上げる。
 紫色を示す破壊の波が周囲に広がり、仲間を避けて敵だけを薙ぎ払う。
 薙ぎ払われた敵は反撃に動こうとするが、ベルナルドの筆の方が速い。
 最後のひと筆を描き終ると同時に邪悪を祓う神聖なる光が具現化、敵を撃ち据えた。
 敵は傷だらけになりながら、それでも攻撃を止めない。それを見たベルナルドは――
「殺さねェから、これぐらいにしとけ」
 降伏を促すように言った。
「史之が優しくてよかったなァお前ら」
 筆は止めず牽制しながら提案する。
「俺達を狩るのは諦めて、生活が苦しいんならリリス達んとこに合流させてもらったらどうだ?」
 それを敵リーダー格は耳にしたのか、拘束されているモヒカン達を一瞬見た。
 何か考えるように眉を寄せるが、その間も敵は攻撃の手を止めず、イレギュラーズは交戦する。
「もう、これ以上はダメです」
 リヴィアは熱い吐息を漏らしながら、誘うように踊る。
 ステップを刻むごとに意識を蕩けさせるような匂いが広がり、抗えなかった者達を引き寄せた。
 蹂躙しようとするかのように押し寄せる者達に、何処か悦びを浮かべリヴィアは壁に突き当たる。
「ぁ……」
 逃げ場が無くなり崩れるように座り込む。
 服は乱れ、汗などで水けを滴らせながら上目遣いで見上げる。
 そこに一斉に敵がなだれ込もうとした所で――
「ドッカーンといくぞー!」
 幸潮の盛大な突っ込みが入る。
 タライ桶での突っ込みのように、鉄の塊がズガンッ! と命中。
 まともに食らった敵は、ダメ出しを食らった芸人の如く、落とし穴にボッシュートされるような錯覚と共に意識を落とし沈んだ。
 次々敵を倒し優勢になった所で――
「雪の中に埋まりたくなければ俺達に協力してもらおうか?」
 攻音を放ち敵を纏めて吹っ飛ばし昏倒させたイズマが、敵リーダー格に切っ先を向け通告。
 それを受けたリーダー格は、仲間が誰も殺されていないのを確認してから――
「分かった、降伏する」
 武器を降ろし部下にも抵抗をやめるよう指示した。

 その後――

「思ったけれど、意外とこれは人手不足解消のチャンスなんじゃないかな?」
 イグナートが賞金稼ぎとリリス達に提案する。
「こっちに協力しなよ。帝位をダッカンしたら次は新皇帝派が賞金クビになるんだからね!」
「……そっちについた方が稼げると?」
「それもあるけど、まともに稼ぎたいなら今からこっちに協力しておいた方がオトクだよ?」
「……」
 悩むリーダ格にリリスも加わり交渉。
 イレギュラーズが力を見せつけたお蔭もあり交渉は纏まった。

 そこからは事がスムーズに進んだ。
 賞金稼ぎは手配師達から資材置き場の地図を渡されていたので、それを元にサクサク進む。
 途中で他の賞金稼ぎに遭遇したが、引き込んだ賞金稼ぎが間に入り交渉。
 リリス達が定期報酬を払うことでさらに引き込んだ。
 そして資材置き場に到着。

「じゃあ、これをお願いね?」
 リヴィアが資材をおもちゃの兵隊に渡し、次々運搬車両に積み込む。
 それを手伝うベルナルドは効率よく運びながら、同時に中身を確認。
「あの手配師が用意した代物なんだろ? 取り扱いに注意しなきゃいけねぇモンもあるかもしれないからな」
 ベルナルドのお蔭で、巧く分類しながら詰み込める。
 賞金稼ぎ達も手伝うので、手早く進む。
 それを見ていた百合子は興味深げに言った。
「食うに困って賞金稼ぎになるものも居ると聞くが……貴殿らは違うのか?」
「俺達は軍人崩れだからな。工兵してた奴もいる」
「色々いるのだな。吾が出会うのは概ね盗賊に毛が生えたようなのばかりであったからなぁ……」
 引き込んだ賞金稼ぎ達は話せば通じるタイプのようだった。なので――
「あのね、俺達イレギュラーズを狙うとこうなるよって、よーく触れまわっておいてね」
 史之が頼む。これに賞金稼ぎは――
「払うもん払ってくれれば知り合いには話をしとく」
 交渉してくる。
 これに史之が仲介する形でリリス達と交渉成立させた。
 そうこうして資材を詰み合わったあと――
「しっかりと、罠を仕掛けておいたよ」
 ヒヒ、と笑いながら武器商人は言った。
 置き土産もしていくイレギュラーズ達であった。

 そして帰還。
 車両に乗り帰り道は楽に進む。
 その中で、イズマはファミリアの小鳥と視覚を共有していた。
(手配師と合流するかな?)
 捕縛したモヒカンの1人が逃げていたのでそれをファミリアに追わせていたのだが――
(――!)
 モヒカンがバラバラに切り裂かれる。
 それは魔種と思われる男の一撃。
 魔種の男は、ファミリアに向け「覗き見はダメだよ」とでも言うように指を振ってみせたあと姿を消したのだった。

成否

成功

MVP

イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様でした。

皆さまのお蔭で、無事資材は確保され、困窮する村や街に提供されることになります。
また、殺さずに引き込むことの出来た賞金稼ぎは、村や街の護衛役として雇われるようです。

それでは最後に重ねて。
皆さま、お疲れ様でした!

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