PandoraPartyProject

シナリオ詳細

双子星の軌跡

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 インクブルーの夜空が広がる深夜。
 耳が赤くなる程に冷える冬の日。12月14日。
「今日は双子座流星群が極大を迎えるそうですよ」
 aPhoneの画面を差し出した『掃除屋』燈堂 廻(p3n000160)は朗らかな笑みを浮かべた。
「へえ……そうなんだ」
『煌浄殿の主』深道 明煌(p3n000277)は画面をじっと見つめ、何かを思い出したように部屋を出ていく。
 しばらくして戻って来た明煌が抱えていたのは、大量のブランケットと古びた教科書。
 廻はそれを受け取って「いつのだろう?」と首を傾げた。
 教科書の表紙には天体の写真と掠れた文字で『4年2組深道あか月』と書いてある。

「星を見にいく」
「え?」
 教科書をパラパラと捲っていた廻は明煌の言葉に顔を上げる。
 その瞬間、廻の上にブランケットが被せられた。次に赤い縄がそれをぐるぐる巻きにする。
「ちょ、明煌さん何、何!?」
 簀巻きにされた廻は荷物のように抱えられ、気付けば車の後部座席に放り込まれていた。

 ――――
 ――

 双子星の妖精は大忙し。
 聖夜までに地上に留まった精霊や夜妖たちを迎えにいかないといけないから。
 舞い散る雪をひらりと避けて、双子星の妖精は夜空を駆ける。
 きっと、精霊達は昇りたくても昇れない。
 このままでは大地に囚われてしまったまま、いつか澱んで化け物になってしまう。
 だから、双子星の妖精は走り回る。
 けれど、二人だけのちからではどうしようも出来ない。
 そこで思いついたのは、地上の人々に助けてもらうこと。
 自分達が流れ星になって輝けば、地上の人々は空を見上げてくれるはずだ。
 これで聖夜までに精霊達を空へ送る事が出来る。

「……だから双子座流星群はクリスマス前に極大になるんですかね?」
 ブランケットの簀巻きを解かれた廻は、車内からガラス越しの星空を見上げた。
「まあ、関連性があるかは分からないけど、星は綺麗だね」
 教科書から顔を上げた明煌はムーンルーフのガラスを開ける。
 一気に流れ込んで来る冷気の向こう側に、流れ星が煌めいた。
「あ、明煌さん見ました?」
「見たよ」
 ムーンルーフから顔を出した廻が、瞳いっぱいに星を映す。
 右から左へインクブルーの夜空を駆け抜ける光。
 二つの流星が尾を引いて頭上を飛んで行った。
「ふふ、双子星の妖精が迎えに行ってるのかな?」

「…………二人で昇ればずっと一緒なんか」
 流星を見上げていた明煌は、ぽつりと零す。視線の先は夜空よりも遠い場所を見ているのだろう。
 廻はひどく寂しい気持ちになって、しばらく何も言わずに星空を見上げていた。
「くしゅ……っ」
 小さなくしゃみをした廻に、明煌はブランケットを被せた。
 ムーンルーフから引っ込んだ廻は、車に積んであった水筒からココアを注ぐ。
「ココアあたたかいですね」
「そうだな」
 鼻を赤くした廻はココアの温かさにアメジストの瞳を細めた。


 凍てつく風が頬を割くような北の大地ヴィーザルの冬。
 荒れ狂う横風が雪を連れてやってくる。
 ガタガタと音を鳴らす窓の軋みは夜になってようやく静かになった。
 12月14日。双子星の妖精が舞う夜。
 シャイネンナハトが来る前にやってくる妖精は地上に彷徨う精霊たちを導くとされている。

「少しでも夜空が見えるといいのだが……」
『翠迅の騎士』ギルバート・フォーサイス(p3n000195)は窓の外に見える空を見上げた。
 ランタンを下げて、ゆっくりと雪道を往く。
 温かいマントを羽織っていても、頬に吹き付ける風は冷たかった。
「このぐらいなら大丈夫そうかな」
 ギルバートはヴィーザル地方のドルイドの血を引いている。
 精霊達の声を聞くギルバートは、双子星の妖精達の導きを大切にしていた。
「大地に縛られたままでは、苦しむ精霊も居るから送ってやりたい」
 空へと昇りたいという想いを持った彼らを双子星の妖精に託すのが今夜の役目。
「君も手伝ってくれるかい?」
 イレギュラーズへと振り向いたギルバートは優しげに微笑んだ。

GMコメント

 もみじです。クリスマスも近づく12月14日のお話。
 宝石を散りばめたみたいな夜空に流星群を見に行きましょう。

●目的
・流星群を見に行く
・双子星の妖精へ夜妖たちを託す
・双子星の妖精と星空を散歩する

●ロケーション
 各国の星の見える場所。
 聖夜も近づく12月14日のお話です。
 温かい恰好をして行きましょう。

A:練達
 希望ヶ浜や再現性京都から車で一時間程走った場所です。
 車の外で望遠鏡を覗いてもいいですし、車内でムーンルーフを開けて寝たまま星を見上げても良いでしょう。
 温かいココアとブランケットがあります。
 雪が舞うこともあります。

B:鉄帝
・ローゼンイスタフ
 雪が降っています。夜空が見える事があるかもしれません。
 ローゼンイスタフ城下町近郊の見晴らしの良い丘。
 とても寒いので温かい恰好をしていきましょう。

・アーカーシュ
 空の上から見渡す星空は宝石箱を散りばめたみたいです。
 双子星の妖精と一緒に夜空の散歩も楽しめます。

C:豊穣
 高天京の近くにある山中の神社です。
 見晴らしが良く、地上には高天京の明りが灯ります。
 雪が舞うこともあるでしょう。

D:ラサ
 砂漠の中のオアシスです。
 ラサといえど夜は冷えますので温かい恰好をしていきましょう。
 空気が乾燥している分、星がよく見えます。

E:海洋
 映し鏡の空と海に囲まれる海洋の夜。
 船の上で幻想的な星空を見上げてみてもいいでしょう。
 ゆらゆらと揺られて楽しいです。

F:幻想
 南部の妖精の住む森の中で夜空を見上げる事が出来るでしょう。
 妖精の森にはオレンジのまあるい顔が特徴的なものもいます。
 よく見かける妖精かもしれません。

G:天義
 神聖天文台の望遠鏡を覗き込んで本格的な天体観測をしてみましょう。
 天文台には天体に関する知識を集めた書物が蔵書されています。
 静かに夜空を眺めながら星の物語に思い馳せるのもいいですね。

H:覇竜
 小さな星見の窓から降り注ぐ光はとても美しいでしょう。
 昇りたくてものぼれない、そんな精霊たちが辺りにいるようです。
 星見の窓から双子星の妖精に託しましょう。

●プレイング書式例
 強制ではありませんが、リプレイ執筆がスムーズになって助かりますのでご協力お願いします。
 特にサポート参加の方は迷子になってしまいますのでご指定ください。

 一行目:ロケーションから【A】~【H】を記載。
 二行目:同行PCやNPCの指定(フルネームとIDを記載)。グループタグも使用頂けます。
 三行目から:自由

例:
【A】
【星廻】
明煌と廻と一緒に流星群を見上げる

【B】アーカーシュ
マイヤ・セニア(p3n000285)
一緒に夜空を散歩する

●NPC
○双子星の妖精
『――聖夜までに空へ送ってあげなくちゃ!』
 そんな事を言いながら双子星の妖精は空を飛び回っています。

 夜空に昇りたいと願う精霊や夜妖たちを導く星の妖精です。
 大きなソリに乗って空を駆け回っています。その姿はまるで子供のサンタクロース。
 聖夜が近づく冬の夜に双子星の妖精は現れます。
 けれど、精霊や夜妖は沢山いて双子星の妖精だけでは手が回りません。
 イレギュラーズや人々が一緒に星を見上げてくれれば、その思いが彼らの手助けになります。

 彼らと一緒に夜空を散歩する事も出来ます。
 ソリに乗ってもいいですし、一緒に飛んでみてもいいでしょう。
 双子星の妖精はキラキラと輝いています。

○精霊や夜妖
 星を見上げているのはイレギュラーズだけではありません。
 願いを込めて、或いは、想いを託しその場に彷徨っています。
 みんな一様に空へのぼりたいと思っています。
 祓ってしまうのは簡単ですが、一緒に星を見上げる事で見送る事が出来ます。
 見上げて送り出せば、それを双子星の妖精が導きます。
 空に昇った彼らは聖夜に星となって降り注ぐでしょう。

○その他
 もみじが所有するNPCを連れて行くことが出来ます。
A:練達は明煌、暁月、廻、龍成、テアドール
B:鉄帝はギルバート、アルエット、アンドリュー、マイヤ
C:豊穣は遮那、朱雀
D:ラサはキアン
E:海洋はバルバロッサ
 ラビ、ファンについては何処でも大丈夫です。

  • 双子星の軌跡完了
  • GM名もみじ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年12月29日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

(サポートPC16人)参加者一覧(8人)

ラズワルド(p3p000622)
あたたかな音
ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
ジェック・アーロン(p3p004755)
冠位狙撃者
鹿ノ子(p3p007279)
琥珀のとなり
ムサシ・セルブライト(p3p010126)
宇宙の保安官
ユーフォニー(p3p010323)
竜域の娘
ジェラルド・ヴォルタ(p3p010356)
戦乙女の守護者
水天宮 妙見子(p3p010644)
ともに最期まで

リプレイ


 冷たい群青の空と数え切れないほどの星々の欠片。
 星の海を渡る双子星の精霊は、煌めく尾を散りばめながら世界中を飛び回っていた。
 空に浮かぶ浮遊島アーカーシュにも双子星の妖精は訪れる。
「双子座流星群に、双子星の妖精さん達……星空好きな僕としてはすごいわくわくする!」
 嬉しそうに『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)は笑顔を零した。その傍らのフローエも柔らかな体躯を揺らす。
「にゃー! ヨゾラー!」
 ヨゾラはお気に入りの夜色のマントをはためかせ、ふわりと空へ浮かび上がった。
「アーカーシュから見渡す星空も綺麗だけど、星空を飛ぶのもいいよね、星になったみたい!」
「にゃー!」
 ヨゾラと一緒に空を飛ぶフローエも嬉しそうに回転する。
 星空を猫や妖精と自由に飛ぶことが出来る……元の世界では考えられなかったことだ。
 この満天の星に心の中で歌が自然と流れ出した。
 ――流星群降る星空のような、涼やかな煌めきと願いの歌。
(想い集めたる 双子星(ジェミニズ)の――)
「……竪琴、持ってくればよかったかな」
 心の中で響く声に旋律を乗せれば、この星空を飛び交う双子星に届けられたのに。
 目の前を飛んで行く双子の星がヨゾラの瞳に映り込む。
 彼らと友達になれるだろうかと考えて。悩んでも仕方が無いとヨゾラは駆け出した。
 優しい気持ちでお互いを思い遣ればきっと友達になれるはずだから。

「そういえば、2人に名前はあるの? 君達それぞれの、固有の名前」
 一緒に飛ぶヨゾラの問いかけに双子星の妖精はお互いの顔を見合わせる。
「名がないなら……ジェムさんとミニズさんとかどうかな?」
「わあ! 良い名前だね!」
「ジェムとミニズかぁ! ふふ、僕達の名前だぁ!」
 嬉しそうにヨゾラの周りを回る双子星の妖精は「君の名前は?」と首を傾げた。
「僕はヨゾラ。綺麗な夜の空に憧れて自分で名をつけたんだ。フローエさんの名前も僕がつけたよ。
 フローエ・シャイネンナハト!って感じ。練達ならメリークリスマス! だね」
「にゃー! フローエ、りゅーせいぐん! フローエ、聖夜を守る。ふたごさん達も聖夜を、空を守ってる、すき。にゃー!」
「待ってフローエさん、長く話すの初めて聞いたよ!?」
 友人がそんなにも沢山の言葉を話しているのを聞いてヨゾラは「撫でたい」と頬を染める。
「じゃあ、次の場所に行くね。名前ありがとう!」
「うん、君達や星々の願いが叶いますように、そして……来年もまた会おうね!」
 ヨゾラに手を降って去って行くジェムとミニズは、嬉しそうに群青の空へと瞬いた。

 いつも一緒のドラネコたちとマイヤ・セニアの元へ訪れたのは『ドラネコ配達便の恩返し』ユーフォニー(p3p010323)だ。
「マイヤさんこんばんは! みんなで星空を見たくて遊びに来ちゃいました」
「わあ! ユーフォニーもドラネコたちも! 歓迎するわ!」
 地上よりも空に近い場所アーカーシュ。そこから眺める星空はきっと美しいのだろう。
「星空を見るのにおすすめの場所ってありますか?」
「あるぞ……魔王城の最上階だ」
 ユーフォニーたちに手を振りながら歩いて来るのはルーファウスとモアサナイトだ。
「お二人ともお久しぶりです! クロスクランチさんとフローライトアミーカさんも!」
 マイヤのお供のゴーレムもユーフォニーを囲むように集まってくる。
「大勢で眺めると双子星の妖精さんの力になれるみたいですので……」
「ああ、では城の兵士も集めよう」
 ルーファウスの言葉にユーフォニーは嬉しそうに青い瞳を細めた。

 沢山の仲間を引き連れて、ユーフォニー達は魔王城の最上階へとやってくる。
 石のアーチをくぐった先に広がるのは宝石箱の中を散らしたような満天の星空。
「わあ……! 地上から見るより星がすごく近いような……!」
 ルビーにサファイヤ、シトリン、エメラルド、ダイヤモンドの宝石みたいに輝く星々にユーフォニーは笑顔で目を瞬かせた。
「ふふ、手を伸ばしたら届きそうな気がしちゃいますね。風の音、木々の音、みなさんの声、大気に溶けこんだ無数の何かの音…星空と合わさって、星屑の散りばめられた特別な万華鏡みたい」
 綺麗だと手を掲げるユーフォニーの指の隙間に群青の空と幾筋もの流れ星が見える。
「あっ、流れ星! 私、初めて見ました……! たしかお願いごとをするんですよね」
 三回願い事を唱えるのは難しいとユーフォニーはマイヤに振り返った。
「マイヤさんたちは何をお願いしますか? あっ、言ったら叶わなくなってしまうんでしたっけ」
 しいと唇に人差し指を置いたマイヤにユーフォニーは微笑む。
「ふふ、じゃあ内緒ですね」
 双子星の妖精が煌めく夜空に願うは――みんなで過ごすこんな時間が、ずっと続きますように。

 ジョシュアは星が見たいと再びアーカーシュの地を踏んだ。
 見上げる空に浮かぶ星は地上よりも随分と近くて思わず手を伸ばしてしまう。
「ここにも夜空に昇りたい精霊がいるのでしょうか?」
 辺りを見渡せばぼんやりと空を上げている青灯の精霊を見つける。
 毒の精霊である自分がその役目を負えるのかは自信が無いけれど、それでも力になりたいと青灯の精霊に近づく。この美しい精霊が澱みになるのは嫌だから。
 ジョシュアが傍に居てくれることに気付いた青灯の精霊は僅かに微笑んだ。
 きっと其れだけで、この精霊は救われたのだ。
「あなたの光が僕や誰かを照らすのでしょうね。星を見る時はきっとあなたを思い出します」
「ありがとう」と囁いた精霊を行ってらっしゃいとジョシュアは送り出した。

「アルヤン! あなたも来てたのね!」
「一緒に夜空の散歩でもどうっすか?」
 喜んでとマイヤはアルヤンの帽子をちょんと触る。
 空を見上げることはあれど、見下ろす事なんて中々無いとアルヤンはコードをくるんと回した。
「寒かったら自分に言ってくれれば暖かい風とかも送れるっすよ」
「えっ! アルヤン便利ねぇ!」
 温かい風をふわり、マイヤに送るアルヤン。それにしても随分と星が輝いている。
「こんな星空を、マイヤと一緒に歩けて良かったっす」
 自分も、と微笑むマイヤへ真正面から向き合い。
「マイヤ、またこうしてデートに誘ってもいいっすか?」
「ええ、嬉しいわ!」
 星空みたいな満面の笑みでマイヤは頷いた。


 鉄帝の寒い冬。白い暴力のような吹雪が吹き荒ぶ。
 それでも、その日の夜はいつもより空が見えていた。
「んじゃ、行くか」
 手を差し伸べた『二花の栞』ジェラルド・ヴォルタ(p3p010356)にアルエットはこくこくと頷く。
「アンタと話しながら歩けば丘なんてすぐだろう。あれから何か情報は得られたか? いやまぁ……トラウマの苦しさの方がつえーか?」
 ジェラルドの飾らない物言いは誠実さの現れだ。アルエットにとってそれは信頼に繋がるもの。
「大丈夫なの」
「無理し過ぎるなよ、アンタには過酷な場所だろ、ここ。まぁそれでも頑張りたいなら手伝うさ、俺はアンタのダチだろ?」
 繋いだ手が温かい。アルエットは返事の代わりに手を握り返した。

 星が瞬く夜空を見上げ、ジェラルドは「すげぇな」と声を漏らす。
「こんだけ星が降ってるなら……アンタの願いも叶えられそうだな。まぁ……アンタの手を汚すくらいなら俺が代わってもいいけどよ。なんてな?」
 ジェラルドはアルエットを真正面から見つめ言葉を紡ぐ。
「……アンタは堕ちんなよ」
 堕ちるとは反転することを指すのだろう。もしそんな状況になれば、友人達の声を思い出せとジェラルドはアルエットの頭をふわりと撫でる。
「俺も勿論引き止めるさ、アンタには行かせねぇ。俺の傍に居てくれよ、な」
 思わず口に出した言葉にジェラルド自身が驚き、僅かな恥ずかしさが胸に広がる。
 それでもアルエットが嫌そうでは無かったから安堵を覚えた。
「うん、アルエットは……私はジェラルドさんのお友達だもの」
 そう微笑む少女にジェラルドはぽつりぽつりと『自分のこと』を話し出す。アルエットの過去を知ったから自分もフェアでありたいという思いから出た言葉。
「まぁ俺のはそんな大それた話じゃない。……母親が病気で死んで、父親がそん時から人が変わっちまったぐらい。母さんが死んで親父があんなに変わるなんて信じられなかったから。俺はその時親父に何も出来なかったがよ」
「そうなのね、ジェラルドさんも大変だったね」
「アンタを明るくしたかったのに暗ぇ話ばっかになっちまったな?」
 この手の話しは苦手なのだと照れた様に視線を逸らすジェラルドにアルエットは笑みを零した。

 リースリットとギルバートは丘から群青の夜空を見上げる。
 大丈夫だと精霊の背を押して空へと送るのだ。
「うまく、やれたでしょうか?」
「ああ……大丈夫だよ。ありがとう」
 ヴィーザルの風習は深く精霊と結びついているのだとリースリットは興味深く観察する。
「こんな素敵なものを、ありがとうございます」
 双子星の煌めきを瞳に写したリースリットはギルバートへ感謝を紡いだ。
 大地に縛られ苦しむ精霊を天に還す。それはまるで鎮魂のようにも見える。
 だから、リースリットは祈るのだ。
 星に導かれた精霊達が清らかなるものとなり。
 その加護で翠迅の騎士を――ギルバートを守ってください、と。
 願いの流れ星が一筋夜空を駆け抜ける。

 ジルーシャは森に住む妖精や精霊と星空を見上げる。
「はーっ……見て見て、息が真っ白。寒いものねぇ……アンタたちは大丈夫かしら?」
 精霊たちに向かってジルーシャは膝をぽんぽんと叩いた。
 小さな精霊達が集まって何だか温かいような気がする。
 空気の冷たさは星を美しくみせるカーテンなのだろうか。
「……そうだ。ね、この星空にぴったりの、とびっきりのBGMはいかが?」
 竪琴を奏でるジルーシャの指先。その音色は森中に響き渡る美しい旋律だ。
「迷子の精霊たちがアタシたちの所へ辿り着けるように」
 集まって来た妖精や精霊と一緒にジルーシャは双子星の軌跡を見上げた。

 双子星の輝きはフーガの瞳に軌跡を描き消えていく。
 精霊達の想いはきっと、夜空の星となり聖夜に降り注ぐだろう。
 美しき星空を見上げていると手を伸ばしたくなるとフーガはギルバートへと振り返った。
「星の群れに交ざりたいってな。けど今はこの地で大事な人達が沢山出来ちまったから早々にいかねーよ」
 大事な人という言葉にギルバートも頷く。
「ギルバート、いつもお姫様のような子と一緒にいるだろ?
 アンタは清く凛々しい王子様のような騎士様で……だらしない衛兵のおいらには騎士様にも姫様にも縁がないと思ってた。でもそんなおいらにも友と呼べる騎士様とも……姫様と呼べる人とも巡り会えた」
 機会があれば紹介したいと笑顔を向けるフーガ。
「楽しみにしているよ」とギルバートもつられて笑みを零した。

「そういえば双子星のお話を遮那君は知っていますか? 私も最近、存在を知ったばかりですが」
 朝顔の言葉に遮那は首を横に振る。いつまでも二人一緒の双子星。それは素敵なお伽話のようで。
「だから少しごっこ遊びをしませんか?」
 夜空に舞い上がり、星の海を二人で飛ぶ。
「発光で光れば、なんちゃって双子星! 光る事出来るのは私だけだと思うので!」
「うわ!? 向日葵!?」
 遮那を抱えた朝顔が夜の空を駆け抜けた。
「高天京の明りが地上の星空みたいで……此方もとても綺麗ですよ!」
「本当だな! 街の灯りも夜空も美しいのう」
 朝顔の言葉に遮那は嬉しそうに目を輝かせる。
 地上と星空に散りばめられた星の間を二人は楽しげに飛んでいた。

 大地に縛られる精霊が澱みになる前に空へと還す。雲間のラピスラズリの空に双子の流星が煌めいた。
 隣の翠迅の騎士は笑顔の裏に時折陰りを見せる。
 ジュリエットは手袋をつけたまま彼の頬をそっと包み込んだ。その手をギルバートが優しく握る。
「……ご無理をされておいでですよね?」
 今の戦況でノーザンキングスとの停戦共闘を断る事は難しい。だからギルバートの表情も曇っていた。
「貴方の気持ちは分かって居ます。それでも私は……」
 一緒に居て欲しい。何処にも行かないで。そんな言葉で縛り付けるなんて出来はしない。
 翠迅の冴えを曇らせる訳にはいかないとジュリエットは指先に力を込めた。
「少しだけ、こうしていていいかい?」
「はい」
 ギルバートにとってこの一時は心の支えである。彼の苦しみも精霊達のように解いてあげられたなら。
 せめて、今宵だけは。この温もりが彼の心を溶かしますようにとジュリエットは願った。

「来てくださってありがとうございます。遮那さん」
『涙の約束』鹿ノ子(p3p007279)は神社の境内へと姿を現した遮那に手を振った。
 星がよく見える暗がりの椅子に二人で腰掛ける。寒かろうと遮那は鹿ノ子の肩に羽織を乗せた。
 その羽織を握り鹿ノ子は話したい事が沢山あると瞳を上げる。
「本当は分かっていたんです。いつか話した”あの夢”の、歌声の主が那岐がだったって」
 殺人鬼と邂逅した夜に記憶を取り戻し、彼が幼馴染みで自分にとって兄のように大切な存在だったこと。
「泣き虫だった僕を、那岐はいつも慰めてくれていました」
 引き取り先が既に見つかっていた那岐とはいずれ離れて暮らす事が分かって居た。
 だから、彼は鹿ノ子に『いつか大人になったら迎えに来る』という約束をしたのだ。
「でも、その直ぐ後に孤児院が襲撃されて、那岐は皆を救うために魔種の呼び声に応えてしまったんです。
 僕はその事実が受入れられなかった。だから逃げ出して……」
「記憶を失ったのだな?」
 遮那の問いに鹿ノ子は悲しげに頷く。
 その後那岐の行方は掴めないまま、鹿ノ子は孤児院の支援者に引き取られ今に至るのだ。
 涙を流せない鹿ノ子のギフト。それはきっと那岐の祈りや願いの形であったのだろう。
「あの約束が、ずっと彼を縛り付けていたんです。僕は逃げたのに。なのに彼はずっと僕を悲しみから守っていてくれたんです」
 だからこそ、自らの手で終わらせねばならないと思った。
 遮那を、豊穣を巻き込む訳にはいかないと思った。

「……嘘を、つきました。ひどいことを、たくさん言いました」
 遮那へ告げた言葉が後悔と共に脳裏に蘇る。
「離れようとしたけど、忘れようとしたけど、でも、だめでした。すきです、遮那さん。
 記憶を取り戻しても、あなたへの恋心は、どうしたって捨てることができませんでした」
 鹿ノ子の瞳から涙が一つ零れ落ちる。次々に溢れる涙は不安と後悔と願いの結晶。
 身勝手な振る舞いだった。罰も怒りも全て受入れるから。どうか許してほしい。
 ――もう一度、あなたと共に行きたい。
「お願いです。どうかお傍に、どうか隣に、居させてください。
 ……愛して、いるんです。遮那さん」
 紡いだ言葉に遮那は鹿ノ子の顔を覗き込む。瞼が触れあいそうな程近く、琥珀の瞳が見えた。
 遮那は少女の涙をそっと指で掬う。僅かに目を瞠る鹿ノ子に、心配そうに微笑んで。
「其方の涙は私が掬おう。だから、もう離れるでないぞ」
 耳元で囁かれる言葉は縋るような色を帯びていた。


「はいはいお邪魔しまーす。猫1匹分詰めてねぇ」
 車のドアを開けて入ってきたのは『流転の綿雲』ラズワルド(p3p000622)だ。
「何で……」
 明煌が怪訝な顔をして眉を寄せる。
 外は寒くて暖かい車の方が良いに決まっている。断じて二人っきりで天体観測とかなんか仲良そうで羨ましいとかそういう理由ではない、とラズワルドは明煌を睨み付ける。

 ドアの向こう側を見ればヴェルグリーズが運転してきた大きな車から見知った顔が何人も下りて来た。
「こんばんは明煌殿に廻殿、あと標殿も。今日の星見に是非ご一緒させてほしいな」
「今日は双子座流星群の日なんだってねぇ、わたしもぜひ見てみたいなぁ……という訳できたよぉ廻君~! 明煌さんもこんばんは、絶好の星見日和で良かったねぇ~」
 和やかな笑顔のヴェルグリーズとシルキィに廻は満面の笑みを零す。
「で、なんでこんな寒い中で星を見るって話になったのかなぁ?」
「星見の為に遠出とは提案者は廻殿かな?」
 ラズワルドとヴェルグリーズの問いかけに廻は首を振った。
「いえ、明煌さんにぐるぐる巻きにされて、気付いたらここにいました」
 廻の言葉に明煌に視線を向けるヴェルグリーズ。
「明煌殿は星が好きなのかな? それならとても素敵なことだね」

「あっ、ココアいただきます、ね」
 ふうふうと温かいココアを掴んだメイメイは、廻のオレンジ色の猫耳パーカーが可愛いと目を細める。
 皆もこもこの温かい恰好をして、明煌の車の中にぎゅうぎゅうになれば何だか押しくらまんじゅうみたいで温かいと祝音は微笑む。
「あったかい毛布につつまれて、みんなで夜空を見あげるとこわくないかも」
 リュコスは隣で震えているチェレンチィに毛布を掛けた。
「大丈夫? さむい?」
 夜の暗い森は怖いイメージだったけど、こうしてにぎやかにしてれば全然平気だとリュコスはチェレンチィが寒くないように一緒にあたたまる。
「ええ。寒いの苦手なんです。温かいココアを頂けたら、もう少し暖まりますかねぇ……?」
 ガタガタと震えるチェレンチィにメイメイがココアを渡した。
「はい、ふうふうしてくださいね」
 受け取ったココアをちびちびと啜るチェレンチィ。
 寒がりの猫舌では大変そうだとメイメイは眉を下げる。

 ムーンルーフから見上げる星空は何時もより煌めいて見えた。
「めぇ……たしかに双子星さまは大忙しのようですね」
 けれど、星の軌跡が綺麗だとメイメイは明煌へと視線を向ける。
「明煌さまは以前にも、この場所にいらしたことがあるのでしょう、か」
「うん。一番上の兄に連れて来てもらった。暁月と一緒に星を見たよ」
 兄である暁月の父と、明煌と暁月の三人でこの場所に来たことがあるのだという。
「素敵な場所、ですね。教えていただいて、ありがとうござい、ます」
 メイメイと明煌の会話を聞いていたシルキィは僅かに安堵を覚える。
 正直な所、これまで明煌には思う所があった。廻が預けられた当初は明煌の事を怖がっていたから。
 廻が泣いていたのも知っている。けれど、きっともう大丈夫なのだろう。明煌と廻、何方の雰囲気も柔らかくなったと感じるから。だから、シルキィも一緒に星を見上げるのだ。
「流れ星には、消えちゃう前に三回願い事をすると叶うっていうけれど
 ……流星群なら願いたい放題かもねぇ、なんて」
 シルキィは隣の廻の手を握りながら、彼の横顔を見つめる。
 けれど、シルキィが願うのはひとつだけ。
 ――『大切な人が幸せでいてくれますように』という願いだ。
「シルキィさんは何をお願いしましたか?」
「えへへ、ナイショだよ~」
 心の中で何度も何度も唱えるから。だからどうか、叶えてほしいとシルキィは祈った。

「綺麗だね……お星さま。願い事、叶えてくれるかな」
 祝音は猫耳パーカーを被った廻と一緒にムーンルーフから夜空を眺める。
 廻も暁月も……ついでに明煌も幸せになりますようにと祝音は願いを込めた。
「寒いの苦手ですが、ボクだって流星群を見たいのです」
 チェレンチィはリュコスと毛布に包まりながら上を向く。
「夜空に昇りたい精霊たちと、それを叶える双子星の妖精。綺麗な流星群を見上げたら、妖精の手助けも出来るなんて、何だかロマンチックですよね」
 じっと星空を見上げるチェレンチィの瞳に一筋の流れ星が瞬いた。
「あっ、今あそこで流れ星が……! あっちにも!」
 仲睦まじく煌めく双子星の妖精へチェレンチィは「いいな」と手を伸ばす。
 二人で昇ればずっと一緒。それは、とても暖かそうで、ちょっぴり羨ましいと思うのだ。
「流れ星に三度お願いごとをとなえると願いが叶うって聞いたことがあるけどお空に上がった夜妖たちにお祈りするのは変かな?」
 自分の事ではなく夜妖達が正しい場所へ昇れますようにと。
 リュコスの問いかけに明煌は「いいこ」だと子供へするように頭を撫でた。
「あとで写真お土産に、するね。暁月にもみせるよ」
「おい」
 撫でていた頭をぐるぐると回す明煌。
「Uuuー」

 車の周りに小さな夜妖たちが集まってくる。空に昇りたい精霊なのだろう。
「双子星の精霊さんが、君達を導いてくれるからね」
 祝音は手を上げて双子星の妖精を指し示す。
「心細い、ですか? 大丈夫。あなた、は、ひとりじゃないです、から」
 メイメイも精霊の手を握り温かさを分け与えた。
「いってらっしゃい、ませ。善き、旅を」
「これで君達もお空に行ける、星になれるね……いってらっしゃい」
 ほろりと零れる涙と共に、祝音は聖夜に降り注ぐ星へなれますようにと祈った。
「星はいいよね、なんだか時間も距離も越えてとても遠くを見つめている気になれる」
 離れている大事な人とも同じ空で繋がっている気になれるとヴェルグリーズは明煌と廻に顔を向ける。
「……うん、俺にとってやっぱり星は特別なものだよ。二人は何か星に託すような願いはあるのかな」
 こうしてこの夜を共に過ごすのも何かの縁。願いが叶うようにヴェルグリーズは祈りを捧げた。
「そういえば明煌殿はお酒は飲む方かな? 今度キミとも是非お酒をご一緒出来ればと思うのだけど」
「まあ……それなりに」
 呪物には酒を好む者も多い。それを相手にする明煌は『そうとうに飲める』のだろう。

 そんなやり取りを車の外で見つめているのはウシュだ。
(あ、明煌くんと星空デート? そんな恥ずかしすぎるよ! まだあんな事やそんな事もしてないのに!)
 密室で明煌と一緒なんて動悸が激しくなりすぎて身体に悪いのだ。
「星に願いを、かあ。いや妖精にだっけ? まあ俺は神様にも星にも妖精にも祈るべき願いは持ってないんだけど。まあでも……明煌くんともっとお近付きになれたら、それはそれで嬉しいかなあ」
 他の皆と押しくらまんじゅうみたいになった明煌を見つめウシュは微笑む。
「まあ、自分で努力もするけどね!!!! 自分の力で達成した時の喜びたるや、だからね」
 夜空にウシュの高らかな宣言が響き渡った。

 サファイヤにルビー、ダイヤモンドの宝石箱みたいに輝く夜空の星々。
 冬の空は空気が澄んでいて綺麗な煌めきが散りばめられている。
 双子星の妖精の力になって『お手伝い』をしたいとチックは燈堂家までやってきた。
 ここなら人も多いし多くの精霊達を送ってやれると思ったのだ。
 マフラーを揺らし、暁月達と共に星空を見上げるチック。
「……きっと、あの星みたいに。君達も、皆から愛される星に……なります、ように」
 チックも昔親友から名前に願いを込められたことがあるのだ。
 だから、彼らが幸せでありますようにと、祈りを捧げた。
「チック君は優しいね。……ああ、そうだこれをあげよう」
 暁月は青年の手に小さなチャームを乗せて、柔らかな笑みを零した。

 テアドールの研究所から見える星空も美しく光輝く。
「こんばんは、ニルさんいらっしゃい」
 以前からニルはテアドールに会ってみたかった。同じ秘宝種だと聞いていたからだ。
「ニルはおほしさま見るの、とってもとってもたのしいです。テアドール様もたのしいですか?」
「はい、ニルさんと一緒だからいつもよりもっと楽しいですっ!」
 可愛い少年がふたり。ブランケットにくるまりながら温かいスープを分け合う。お出かけの時に冷えるからと持たせてもらったものだ。その「温かい」と「おいしい」も誰かと一緒なら、とても嬉しいものになる。
 だから双子星の妖精にも温かくて美味しいものが降り注ぎますように。


「ニルは早く廻様が元気に戻ってきたらいいなって思っていたのですけど。廻様が戻ってきたら、明煌様がさみしくなっちゃうのでしょうか?」
「そうですね、今度本人に聞いてみるのが一番かもしれませんね」

 ――――
 ――

「流星群綺麗ですね……」
「確かにそうだけど」
 こんな日に出かけるなんて自分一人なら絶対しないとラズワルドは廻の傍に寄る。
「だって、星に願いをかけてもお腹は膨れないしねぇ?」
 ラズワルドは明煌を見遣り、彼もそんなタイプなのではないかと考えた。信用した訳では無いし、警戒はするけれど。いまは嫌な音では無いような気がする。
「まぁ、わりと最近は誰かと一緒なら悪くないかなぁとは、僕も思うけどさぁ」
 ブランケットを一緒に被る廻へぎゅっと抱きつくラズワルド。
 ココアを冷ましている間に「そういえば」とラズワルドは顔を上げた。
「方角知る方法とか以外でちゃんと星座知らないかも。ふたりは知ってる?」
 夜は誰かの声がする方がいいのだ。静かだと余計な事を考えてしまう。
「僕もあんまり知らないですね」
「……」
 明煌から無言で差し出された教科書に目を瞬かせるラズワルド。
「……ん、なにこれ教科書? へ? 暁月さんが小学生の時の? なんでそんなのがここにあるワケ?」
 タイムカプセルで掘り返したのではない。後生大事に仕舞って置いたのを引っ張り出してきたのだ。
「ふぅん?」
 ラズワルドは星座の教科書をパラパラと捲ってラクガキを探す。
「暁月センセーの悪ガキ時代とか、絶対おもしろいじゃんねぇ?」
 剣を持った勇者みたいな少年とモンスターが所々に描かれていた。ゲームや漫画を模したものだろう。
 ラズワルドは教科書を閉じて廻の膝に頭を乗せる。
「廻くん連れて来てくれた感謝はしてもいいけどさぁ……譲らないよ?」
 柔らかい膝枕はラズワルドの特等席。いつものように丸くなれば、心地よい廻の音が聞こえてきた。
 あたたかくて安心する音。お酒が入ってないのに眠くなる。
「ちょっとだけ、ねてもいい? ……やっぱり、めぐりくんがいないと、あんみんできないんだよ、ねぇ」
 目を閉じたラズワルドの頭を廻は優しく撫でた。

 明煌の耳にバイクの音が聞こえてくる。更に『聞き慣れた』騒がしい声も。
「わぁ……! 流星群であります……! こうして地上から眺めると格別というか!」
 顔を見なくとも『宇宙の保安官』ムサシ・セルブライト(p3p010126)がやってきたのが分かる。
「何でいるんだ?」
「明煌さんが出掛けたと聞いてバイクで飛んできてみたでありますが……まさかこんな素晴らしい景色が眺められるとは……!!」
 ムサシは和やかな笑顔で明煌の元へ駆け寄った。
 双子星の妖精。混沌のお伽話にムサシは親近感を覚える。
「……空に煌めく星になって、誰かを導いてあげる。そして、その光を標として、集まっていく。
 自分とおんなじだな、って思いまして」
 元の世界にいたときに宇宙保安官になろうと思ったのも、この混沌に来て誰かの命を救える存在、ヒーローになろうと思ったのも、輝く星のような人達がいたからこそ。
「自分もああなりたい、あの星に届きたい……それが、自分の根底にあるものであります」
 ムサシが思い描く純粋な心は、明煌にとって眩しすぎるもの。けれど、それはあの教科書を持って幼い頃に此処へ来た明煌が持っていたはずのものだ。
「……だって、そんな輝き見ちゃったら……その光を追いかけたいって思っちゃいますから」
「飛んで火に入る……」
「む、虫みたいとか言わないでくださいでありますよ???」
 騒がしいムサシの頭をグッと掴んで揺さぶる明煌。
「ホラ!!!! 明煌さんにだって小さい頃とかでもいつでもいいので憧れてる人とかそうなりたいなって思う人いるでありましょう!!!??? 結構恥ずかしい話しちゃったんでありますからほら!!!!」
「……」
 ぐるぐると頭を揺さぶられたムサシが何かに気付いたように勢い良く振り返った。
「そうだ!!! 紹介したい人がいるんであります!!!」
 ムサシと明煌の会話を見守っていた『北辰より来たる母神』水天宮 妙見子(p3p010644)がおずおずと前に歩み出る。
「明煌様、ですね? よくムサシ様からお話を聞いておりますよ」
「今回の流星群が出てるのを教えてくれた妙見子さんであります!!!
 ゆっくりとお辞儀をした妙見子は柔らかな笑みで明煌を見遣る。
「というわけでご紹介に預かりました。水天宮妙見子と申します、普段はローレットに所属しながら豊穣で神社の神主兼御祭神を……は? 神に見えない? ハッハッハ、よく言われますね……」
 何かを言う前に自虐に走って行った妙見子を明煌は困惑した瞳で見つめた。ムサシと同じような賑やかな性格をしているのだろうか。どういう対応をしたらいいか、明煌は距離を測りかねている。――のが妙見子には手に取るように分かってしまう。何故なら自分も『コミュ症』であるからだ。否、そう思っているのは自分だけだろうか。ああ、分からない。妙見子には他人の心が分からない。何か、何か反応してください、無言でこちらを伺うのは止めて下さい。割と目つきが悪くて怖いんで!
「一緒に神社建てたりした一応……? 神様……? らしいであります!!!
 こうして偶然出会えたのも会えたのも何かの縁! 彼女とも、仲良くしてあげてくださいであります!」
 ムサシが明煌の手を取って妙見子に向ける。
「まあ、よろしくね。妙見子ちゃん」
「はいっ! よろしくお願いします」
 手を握り合った明煌と妙見子は内心ほっとした。

「流星群……こちらに来てから始めてみましたが向こうの空も混沌の空も変わらずに美しいですね」
 星空を眺めていると元の世界を思い出す。星の観測者として人々の暮らしを見守ったり、国を傾ける事に躍起になったり。そういう時間が長かったと語る妙見子。
「人のために働いて、人の営みを肌に感じて、こうして同じ空を見上げることが嬉しくて……穏やかな時間を過ごすのも悪くはないなと…そう思うことが多くなったのですよ」
 妙見子は無為の神であった。ただ其処に在れと、望まれたモノ。孤独でいることは慣れている。されど、少しだけこの生活を惜しむようになってしまった。
「……ところでムサシ様に乗っかるような形で申し訳ないのですが……明煌様!」
 妙見子が勢い良く強い眼差しで見上げてくる。これはムサシと同種の輝きだと明煌は困った顔をした。
「ほら! 好みの女性のタイプとか! 男性でもいいですよ! そういう浮ついた話は!
 妙見子はそういう人が恥ずかしがる話がだぁいすきなんですから!」
「好みの女性のタイプとかは無いかな……それで、妙見子ちゃんは? 俺にそれを聞いて来たって事は、少なからず想い人が居るんだろう。俺だけに話させて自分は話さんとか、意地悪やで?」
「え、……い、いやぁ。その……ふふ、秘密です、ふふ」
 悪い顔をした明煌から視線を逸らした妙見子。心に灯る『想い人』の顔。彼とこの星空を見られたなら何れだけ素敵な思い出になるだろうか。想像しただけで顔が赤くなる。
 手で顔を覆った妙見子と、眩しい笑顔を向けるムサシ。明煌はとりあえず、ムサシにヘッドロックをして心を穏やかに保つ。人とのコミュニケーションは難しいと腕に力を込めながら思ったのだ。

 双子星の流星群が車のフロントガラス越しに映り込む。
 彼らはただ綺麗なだけじゃなくて、きちんと目的があって輝いているのだと『天空の勇者』ジェック・アーロン(p3p004755)はルビーの瞳を瞬かせた。
 手伝ってあげたいと思うけれど、見上げているだけでいいのだろうか。
 もっと空へ近い場所へと連れて行ってあげた方がいいのではないか。
 広い駐車場の、明煌の車の一つ開けた隣へジェックは停車する。
「ひゃあ……」
 ジェックの長い髪が冷たい風に揺れる。
「おや、ジェックちゃんも来てたんだ」
「うん。いま来たとこ。外はやっぱ寒いね。明煌は丈夫そうだけど……廻が風邪ひかないといいな。ほら、あんなに線が細くて……体壊しやすそうじゃん」
 車の中で眠そうにしている廻を見遣り目を細めるジェック。

「見上げるだけじゃなくて、飛んでもいいのかな?」
「大丈夫だと思う。誰も来ないし」
 上空を見上げれば双子星の妖精が手を振っているのが見えた。
「そっか、じゃあ……空にのぼりたい皆、こっちにおいで!」
 小さな夜妖たちが一斉にジェックの元へ集まってくる。彼らを頭や肩に乗せたジェックはふわりと浮き上がった。自分の力では地上から離れられない夜妖たちも、これなら双子星の元まで行く事ができる。
 その先は夜空のサンタにお願いして。ジェックは何度も空と地上を行き来する。
「明煌もさ、見てるだけじゃなくって。祓う以外の触れ合い、してみない?」
「んー?」
 ジェックの言葉に明煌は悩ましげな顔を向けた。
「ふふ、寒いと車から出たくないかな? 動いてれば案外気になんないよ。これ食べたら飛べるようになるからさ、ね? 廻は……また今度、寒くない時にね」
 掌に置かれた『クッキー』に見えるものを口の中に入れる明煌。浮き上がる足に慌てて草履を履いて。

 夜妖をたくさん乗せたジェックと一緒に空へと駆け出す。
「ね、明煌、どう? 自分が関わる星空も、綺麗で……良いものでしょう」
「うん、そうだね……めちゃ寒いけど」
 夜妖を双子星に渡すため、二人は星屑の軌跡を追いかけた。
 空気抵抗を真正面から受ける明煌に「身体を少し倒した方がいいよ」とジェックは笑みを零す。
「ジェックちゃんは空飛ぶの慣れてるね。空に近い子なんだ」
 輝くものに近づける。だから、きっとそんなに眩しいのだろうと、明煌は寂しげに笑った。

 満天の星空を双子星の妖精が駆けていく。
 地上に澱む精霊達と人々の願いを沢山乗せたソリで、星屑の軌跡を引きながら――

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした。如何だったしょうか。
 双子星の妖精は夜空に瞬いていることでしょう。
 ご参加ありがとうございました。

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