シナリオ詳細
<咬首六天>主よ、私は気付いてしまった
オープニング
●グロースの激昂
参謀本部に置かれた上質な木製デスクが、たったいま真っ二つに破壊された。
怒りにまかせ机を殴りつけたグロース・フォン・マントイフェル将軍によってである。
「もう一度言って見ろ」
「は……ルベンが、革命派に占領されました。オースヴィーヴル領は、彼らと、協力関係を結んだ、ようです」
ルベンは鉄帝北西部にある主要な駅であり、首都との連絡を繋ぐための重要施設でもある。
その首都ブランデン=グラード駅はおろか、不凍港やボーデクトン、ゲッヴィド・ウェスタンも各派閥に奪われたという。忌々しいことにそれらの派閥は目標や思想によって別れてこそいるがイレギュラーズを介してなかば協力的な立場をとりあい、新皇帝派に対して強い抵抗を見せているということだ。
「やはり潰すべきは革命派か……『バルナバス』をもたぬ弱者の群れ蔓延っている。なんという醜悪!」
割れた机を蹴り飛ばし、粉砕するグロース。
伝達にやってきた兵は震え上がり、扉に背をつけた。
「兵を向かわせろ。地表と発掘した地下通路を使って散発的にだ」
「閣下、それでは――」
「『ルベンを取り返せ』と言っているのではない。連中がこれ以上余計な力を付けぬよう邪魔をしておけと言っているのだ。ルベンの地下には奴らの役に立ちそうなものがゴロゴロしているからな」
「は!」
まるで逃げ出すように部屋から出て行く兵士。
グロースはそれを無視し、爪をかむ。
ルベン内部には未だそれなりの数のモンスターを残し、兵も多少は残っている。隠し通路やその他諸々を使って突入させればよい邪魔になるだろう。
ひとまずはそれでいいが。
「他に、何か手は……」
●ルッソのために
壊れた歯車兵たちが運び出され、負傷したクラースナヤ・ズヴェズダー僧兵やオースヴィーヴル領の戦士たちもまた搬送、あるいは自力で歩いて後方拠点への列車へ乗り込んでいく。
ここは鉄道施設ルベンの表層部。つまりは駅だ。
施設の占領を終えた革命派は早速列車を出し、施設の充実したギアバジリカへ傷付いた味方を輸送することにしたのだった。
「すぐに使えるようになって、良かったですね」
「全くだ。線路への破壊工作も未然に防げたのだろう?」
呟くアミナに答えたのは領主オースヴィーヴルであった。
革命派とオースヴィーヴル領は、激しい戦いの末に和解し、協力関係を結ぶことが出来ていた。
――皆。私にもう一度ついてきてくれるか。革命派に加わろう。彼らと共に、真の敵を見つけ出し、戦おう。ルッソの死を、私は無駄にしたくない。
そう呟いたオースヴィーヴルの表情を、アミナは忘れていない。
「アミナ! それに、イレギュラーズの皆も残っているか?」
声に振り返ると、後衛拠点にいた司祭ムラトが馬車でやってくるところだった。駅の車庫から出た列車を見て、おおと声を上げている。
「無事に作戦は完了したようだな……。できることならこの列車で帰りたいところだが……馬車を置いてはいけん」
苦笑すると、ムラトは真面目な顔になってアミナ、そしてイレギュラーズたちへと向き直った。
「この地に新皇帝派の軍が接近している。紋章からしておそらくグロース師団の手のものだろう。我々がルベンを手中に収めることがよほど気に入らないらしい。
部隊の数は少ないが、迎撃作戦に加わってもらえるとありがたいな。その上で……」
「遺跡の追加調査をするのだろう」
オースヴィーヴルがどこか覇気のある声で言う。
「グロース師団の狙いは散発的な襲撃による調査の妨害と見える。ならば、迎撃作戦には我々の戦士たちも対応しよう。その間に、早速遺跡内の調査に当たってくれ」
「……いいのですか?」
恐る恐る訪ねるムラトに、オースヴィーヴルは破顔する。
「いいも悪いもない。怒りと悲しみに囚われ貴君等に刃を向けた、せめてもの罪滅ぼしだ。幸い戦士達もみな無事に残っているのだからな」
●主よ、私は気付いてしまった
この世界に罪なき人はいないと聞きました。
しかし望んで得る罪と、望まざる負う罪があるのです。
私は望みました。ルッソというそれまで顔も知らなかった兵士を殺し、生き延びることを望んだのです。
オースヴィーヴル様とわかりあう彼らに。
苦難の中でも戦い続ける彼らの姿に。
そして未来に、希望が見えたから。
『聖女』さま、きっと私も、あなたのように。
「アミナ、大丈夫ですの?」
ルベン地下遺跡は複雑に入り組み、ただ歩いて回るだけでも一苦労の大きさである。地上での戦闘にはあまり役に立たないだろうとアミナは探索チームに加わっていた。
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)がランタンを翳し、アミナの顔を覗き込んだ。
「ええ……同志ヴァレーリヤ」
微笑みをかえすアミナ。しかしその表情は見るからに青ざめていた。
ルベンでの戦いの中で、オースヴィーヴル領の戦士たちのほとんどは無事であった。ただ一人、ルッソという戦士の死を除いて。
アミナへ襲いかかった彼に抵抗する形で起きてしまった、いわば『仕方の無い死』だ。
領主オースヴィーヴルもそれを納得し、アミナを許している。それでも……なのだろう。
(思えばこの子がひとを手にかけたのは、これが初めてでしたわね……)
共に遺跡を探索する中で、話す機会もあるだろう。そのなかで……。
- <咬首六天>主よ、私は気付いてしまった完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年12月20日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●主よ、私は気付いてしまった
(アミナの事ですもの。放っておくと思い詰めてしまいますわよね。何とか元気づけてあげられれば良いのだけれど……)
『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)はルベン地下遺跡を進みながら、仲間に囲まれる形で同行するアミナをちらりと振り返った。
ヴァレーリヤの視線をうけ、にっこりと笑いかけてくるアミナ。しかしその目尻には涙のあとが残り、どこかやつれているようにも見える。
彼女は賢い子だ。スラムの生まれでありながら勉学を急速に修め、今ではヴァレーリヤが目を剥くほどの学力をもち、聖典の内容に至っては暗記すらし、複雑で多様な解釈すらもマスターしていた。聖職者、あるいは精神療法士としては抜群の能力を持っているといっていい。それゆえに期待が集まるのだが……。
(きっと、重ねてしまっているんですのね……)
責任と、そして『聖女』への憧れ。アミナに対し次なる聖女へという期待が集まっているのは誰もが肌で感じてる。それ以上にアミナ自身がそうなろうとしていることも。だが、かの『聖女』にあってアミナに無かったものは――。
「皆、気をつけて! この辺りにはまだモンスターが残っているよ!」
『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)が元気よく言った。まるで空気を変えようとするかのように。
そして、ヴァレーリヤへと優しい視線を向け、小声でささやきかける。
「ヴァリューシャ、平気かい? あまり無理はしないでおくれ。私は君にも自分を大事にして欲しいと心から願う。私で良ければいつでも頼って。私は君の剣であり盾であり、いつでも立ち止まって心休める止まり木でありたい」
ヴァレーリヤはマリアの囁きを受けて『ええ、わかっていますわ』と優しく返す。
まるでいつもの二人、のように見える。
ため息をついていた『革命の医師』ルブラット・メルクライン(p3p009557)だったが、彼も小さく首を振って毅然とした態度をとりもどしている。
どうやら隊の空気は回復しつつあるようだ。
「敵意へのサーチは続けているが、まだ反応はないな。安心したまえ、不意打ちはない」
一方で『ファイアフォックス』胡桃・ツァンフオ(p3p008299)がばんざいの姿勢をとって笑ってみせる。
「寒波の方も予断を許さぬし、わたしとしても引き続き手を貸していきたいのよ」
胡桃の口調は優しく、それでいて明るい。
和ませるかのように炎の子狐を召喚すると、随伴していた歯車兵の頭にちょこんとのせてやった。
「おつかれさま。こっちの道をお願いするのよ」
胡桃がそう命令すると、歯車兵は命令に従って移動を開始する。子狐を頭にのせたまま。
べつに胡桃も歯車兵を可愛くするためだけにのっけたわけではない。子狐を通して五感を共有しするためだ。何匹も召喚できないが、今回は二チームだけに分かれる計画だったので丁度良い。
場の空気が和んだところで、『純白の矜持』楊枝 茄子子(p3p008356)がゆっくりと頷いた。
(罪なき人は居ます。私がそうですから)
言葉にこそ出さないが、そして彼女の『慧眼捏造』というギフト能力によって、彼女の本心が真に露呈することはない。思うことと述べることは違い、そしてそれを巧みに信じさせるのだから。
(アミナも、別に罪は犯してないでしょう。咎められる事など何一つ無いですし、気に病む必要も無いと思いますが……まぁ、あの戦士は、面倒なことをしてくれました、ね)
「遺跡内では精霊もまだ穏やかなのでしょうか。操作を受け付ける精霊が残っているようですね。やや上位の精霊も見つかりましたよ」
茄子子が思っていることとまるで違うことを言って、精霊に周囲の警戒を求め始める。
「さ、先へ進みましょ。こんな所で立ち止まってる場合じゃないもの」
『願いの先』リア・クォーツ(p3p004937)がアミナに対して手を差し出した。
きょとんとするアミナにリアが一歩あゆみ寄り、アミナを連れて歩き出す。
聞こえる。アミナの酷く乱れた『旋律』が。
一度は平静を取り戻したように見せて、それでもまだ……という所だろう。人はいつも自分の力だけで立ち直ることなどできないものだ。
(まあ、それは、そうよね……)
人を殺して平気な人間なんて、そういない。強いていえば『慣れる』だけだ。今まで他人に怪我をさせたことすらなさそうなアミナなど、仮に血を見慣れているとしても……。
リアは、そして同時に仲間達は、アミナになんて声をかけようかと考えながら遺跡内の通路を進む。
先ほど別れた歯車兵。その左右を挟むように『想光を紡ぐ』マグタレーナ・マトカ・マハロヴァ(p3p009452)と『超合金おねーさん』ガイアドニス(p3p010327)が歩いていた。
「か弱いニンゲンさんが生き足掻くのは罪じゃないのだわ」
アミナたちと離れてから暫くして、話し声も聞こえなくなった頃にガイアドニスがそう呟いた。
マグタレーナは目を閉じたまま、こくりと頷く。
「元より人は他者の命を奪わねば生きる事は侭ならぬもの。
であればこそ、せめて人が人の命を奪う事のない世を目指すべきなのか。
その為に、時に人と人が争うのは矛盾であるかも、ですが……」
「そうね。けれど、死んじゃったのはニンゲンさんがか弱いからで誰のせいでもないわ」
ガイアドニスの超然とした考え方に、しかしマグタレーナは共感した。
「人はいずれ死ぬ。たとえそれが……」
途中まで言いかけ、マグタレーナは言葉を止めた。言う必要のないことだ。
「アミナさんのメンタルケアはヴァレーリヤさんやリアさんにお任せしましょう。若い方々には悩みながらも歩み続けて欲しいものですね」
ふふ、と笑うマグタレーナ。
「そうね、ニンゲンさんはそうでなくちゃね」
弱さは罪ではないと、ガイアドニスは考える。
なにせ、クラースナヤ・ズヴェズダー(革命派)の教義は弱者救済。『罪なき弱者』を救うのだから。
●罪が罪であることが最大の罰
「アミナ、下がって!」
リアはアミナの腕を引っ張って自分の後ろに回すと、片手で構えた剣によって飛来する炎の球を切り裂いた。
銀の奇跡が斜めに走り、炎が散って花のように広がる。
リアの剣を持つ手を炎が焼いたが、体表を包み込むように広がる旋律が燃え広がることをおさえているようだ。
「リアさん、腕が――」
「大丈夫、平気よ」
リアは腕のひとふりで炎を払いのけた。すました顔をしているが、ダメージがないわけではない。ダメージを『見せたくない』だけだ。
「皆さん、お願いしますね」
茄子子はそんなリアたちを治癒しながら、マリアやヴァレーリヤたちに呼びかけた。
「無論だ」
ルブラットはミゼリコルディアを逆手に握ると、『敵』めがけて走り出す。
赤い大蛇のようなそれは、新皇帝派が遺跡内に放っていたとおぼしき天衝種だろう。
先ほどリアたちに吹きかけた炎の球を再び放つべく大きく息を吸う動作に入っているが……。
「やらせんよ」
ルブラットは風のように大蛇の側面へと迫ると、その喉めがけミゼリコルディアを突き立てる。堅い鱗によってその先端しか食い込むことはなかったが、それで充分だ。塗り込んだ毒が大蛇の血管を通し全身へと廻っていく。
ルブラットは目の奥でギラリと怪しい光りをみせると、素早くその場から飛び退いた。
「こやんふぁいあ〜、ぱんち」
蒼き炎をあとにひき、胡桃が燃える拳を叩き込む。
殴りつけた拳は大蛇を燃やしこそしないものの、回った毒をより深いものへと変えていく。
自分が何をされたのか察し、大蛇は胡桃を振り払おうと暴れはじめるが、胡桃とてそんな動きは予想済みのようで。
「ほっ」
相手のスイングが来る直前に素早くバックスウェーで回避してしまった。ぶんぶんと首を振るが、大蛇の症状は更に増していく。炎を吐き出そうにも、出るのは血ばかり。
胡桃によって真に『燃やされた』のは大蛇の身体ではなく、その内部に持っていた魔力そのものだったのである。
そうなればもはや、大蛇など恐るるに足りない敵だ。
マリアが紅雷の出力を最大限に、いや最大を振り切って引き上げ、自らに乗せる形で『発射』した。
宙返りをかけ、大蛇の身体に蹴りを叩き込むマリア。続けて、至近距離から電磁投射砲を連続発射する。
魔力袋を燃やされた大蛇は激しく血を吐き、瀕死になった所へヴァレーリヤがついにトドメの一撃を叩き込む。
「どっせえーーい!!!」
頭を見事に叩き潰したところで、ヴァレーリヤはふうと安堵の息をついた。
「さあ、先へ進みましょう。利用可能な遺物もいくつか見つけましたし……あとで歯車兵に運び出しを頼みましょう」
「そうだねヴァリューシャ!」
楽しいピクニックでもするように、どこか不敵に笑いながら先頭をゆくマリア。
「アミナ、楽しいかい?」
背を向けたまま、そんなことを尋ねた。『マリアらしからぬ』問いだ。
アミナもヴァレーリヤといつも一緒にいる彼女を知っているので、そのことに気付いてきょとんとしたのだが……今の自分の状態を自覚して言葉に詰まった。
「アミナ君、きっとこれから君は様々な困難や苦難、そして難局を経験することだろう。
だけど忘れないで。少なくともここにいる者達はきっと君が助けを求めなくたって、君が助けを必要としていることを知れば飛んでいくだろうさ。勿論私もね。だから一人で苦しまないで」
背を向けたまま、マリアはそう続けた。一見して突き放しているようにも見えるが、寄り添っているようにも見える。最大限に誠意をもちつつ、しかし相手の課題には踏み込まない、そういうスタンスがあるようにも見えた。
移動を続ける、その足取りのなかで。
ルブラットは『先を越されてしまったな』と肩をすくめ、そしてアミナの横に並んで語りかけることにした。
「アミナ君。……すまなかった。
私がもっと警戒していたら、あるいは駆け寄るのがもう少し、あと数秒でも早かったら、もしかすると……。君達が気苦労を負わずに済んだのに」
「そんな」
アミナは一秒ほど言葉を選んで、そしてルブラットの仮面を見る。
「私は自分の身を守っただけです。そのために短剣を持っていたのですし、なにより、これまでも私達は敵の命を少なからず奪ってきたのですから。
ルブラットさんが気に病むようなことはありません」
「……慰める予定だったが」
人の心を治療するのは難しいな、とルブラットは僅かに顎をあげる。苦笑しているようにも、みえた。
「君の職次第では歩を止めていいと言えるが、私達への召命ではそうはいくまい。
あの時目にした数多の屍と、シヴィル・ルッソという男の美しい、いや――勇敢な死に様を忘れずに、我々も共に歩き続けるとしよう」
そう述べたあと、ルブラットは顔をうつむけた。
「彼らの血の色に意味を見出さなければ、彼らも報われないだろうから」
「血の色の、意味……」
「貴女が抱えた罪は楔となって貴女の心に突き刺さり、その痛みは決して消える事はないわ」
言葉を続けたのはリアだった。
残酷に聞こえるが、その声色には優しさとひとつまみの悲しみがあった。
「わかるのよ、あたしも罪を抱えているから」
ある少年の全てを奪ったという罪。
そしてそんな罪を、誰もが少なからず持っていた。
リアは本人に聞こえないように声をひそめる。
「ヴァレーリヤも同じよ。あいつ、あんなに明るいけど、時折とても苦しそうな旋律が聴こえるの。きっとそれは……」
「『聖女』さまのこと、ですね」
言葉を濁した先を述べられて、リアは一瞬だけ驚いた。
それもそうだ。リアは『同じ』だからこそ分かる。
彼女は、アミナは、『聖女』を……。
「そう。この痛みがあたし達の決意を曇らせない。
だからアミナ、貴女にも罪の楔がある限り、人を正しく慈しみ、救う事ができるわ。
これまでの貴女の歩みは、今の皆の笑顔に繋がっている。
自分の道が見えなくなったり、間違ったり、迷ったりした時は、それを思い出して」
誰もが抱える痛み。誰もが歩む道。
道で転んだことのない子供は、夜の帰り方がわからない。暗くても、寒くても、前に進めるのは、その痛みを知っているから。
「あっそうだわ! これから暫く一緒に寝ましょうか!」
「い、いっしょに……?」
「あら、いいですわね。これから随分と寒くなりますし」
声をわざと大きくしたことでヴァレーリヤに聞こえたのだろう、彼女がくるりと後ろ向きに反転し、後ろ歩きをしながら話に加わった。
「リアは湯たんぽとして優秀ですわよきっと!」
「だれが湯たんぽよ」
「近くに居るだけで熱気を感じるんですのよ。サイン会の時だって……」
「あれはあたしじゃねえ」
くすくすと笑うヴァレーリヤ。
「私、気休めは言いませんわ。誰を助けて、誰を助けないか。
きっとこれからも、同じ選択を迫られることになるでしょう」
そして笑顔のまま、続けるのだった。
「でも先輩として……いいえ、友達として言わせて頂戴。
アミナ、貴女の事が心配ですの。
皆を助けようと必死に頑張ってきたのに、誰かの命を奪うことになってしまってショックでしたわよね。
優しい貴女の事ですもの。自分を許せない気持ちで一杯なのでしょう? 抵抗しなければ良かったのではないかと」
「そんなこと――」
反論しようとして、アミナは言葉を詰まらせた。
嘘の下手な子だ。ヴァレーリヤは苦笑する。
「私は、アミナが助かって良かったですわ。これ以上、親しい人を失うだなんて考えたくもありませんもの」
その言葉の意味するところは、言わなくてもわかる。
「大丈夫です『同志ヴァレーリヤ』。私は死んだりしません。守られてばっかりですし、危険な場所にだって出向けませんしね」
などと言うアミナ。ならばこの探索はなんなのだ、と問われれば困ってしまうだろう。彼女なりの罪滅ぼしがしたかったのかもしれないし、誰かと話す時間が欲しかったのかもしれない。
いずれにせよ……と考えて、ヴァレーリヤはふと気付いた。
アミナは最近ずっと、自分を『同志ヴァレーリヤ』と呼ぶ。そんな風に呼ぶ人間はあまりいない。アナスタシアだって……と考えたところで、彼女が表ではそう口にしていることを思い出した。なんだか、複雑な懐かしみだ。
「これから、沢山の人が死にます。無血革命なんて所詮は絵空事。少しのすれ違いでも、血は流れます。革命なんて、その最たるものです」
茄子子が言葉を続ける。
「アミナ様自身が、再び手をかけなければならない場面も、訪れるかもしれません」
それが嫌なら……と言いかけて、茄子子はその必要がないことに気付いた。
もう、彼女の目に迷いを感じない。
(『革命派の象徴』は、未だ健在……か)
「支えますよ。これからも」
(まだ見ていたいので)
話の流れが穏やかになったことを察したようで、胡桃がアミナに寄り添うようにもふりはじめた。
「わたしには、罪があるの。
もはや数えきれず、かえりみることさえされぬ罪が。
ならば、罰は何なのかと考えることもあるの。
きっと、その答えを探し続けているの」
「そう、ですね。『罪』とは、なんなのでしょうね……」
一方。
「あちらは『済んだ』頃でしょうか」
マグタレーナは新皇帝派の兵士達を魔術によって打ち倒し、ぱしぱしと手を払っていた。
ガイアドニスが縄を使って抵抗する兵士達をぐるぐると拘束し、指揮官らしき男も一緒にぐるぐる巻きにしていく。
「あちら?」
「アミナさんですよ。皆、色々と話したそうにしていましたから」
「それで、こういう敵の出そうなエリアを先行していたのね。賢いじゃない!」
ガイアドニスがぎゅっとロープを引っ張ると指揮官らしき男がぐええと声をあげた。
アミナを励ます。あるいは立ち直らせる。そのための時間を彼女たちは作っていた。
敵を見つけ、先行し、時には罠を張り、おびき寄せ。
そういった作業にはマグタレーナとガイアドニスのコンビは優れていたのである。
なにせ、アミナの話を邪魔したり、あまつさえ更に大きなショックをあたえるような状況にはしたくなかったのだ。
「仕事は済んだし、合流しましょうか。本当ならずっと一緒にいてニンゲンさんたちを守ってあげたかったし」
ガイアドニスがそう言うと、マグタレーナは何か言いたげに兵たちへ振り向いた。
「?」
「いえ……何か言ったような」
尋問や拷問というものは不得手だが……やってできないことでもあるまい。
マグタレーナはつかつかと歩み寄り、指揮官の男を蹴倒した。
纏めて縛っていた兵たちも一緒に転倒したが、殆どはガイアドニスが気絶させた兵だ。何も文句は言わない。
「今言ったことを繰り返しなさい」
「はぁ? 誰が貴様のような」
「くり返しなさい」
メイスを高く振り上げ、魔力を溢れさせるマグタレーナ。
流石に死ぬよりはマシだと思ったようで、男は舌打ちして話し始めた。
「革命派の難民キャンプを襲撃する計画が、ある……既に防衛戦力は把握済みだ。それ以上の戦力をぶつけることなど、グロース将軍には容易い」
そして話したということは、もう『手遅れ』だということだ。
マグタレーナはハッとして振り返り、ガイアドニスと頷き合う。
「急ぎましょ」
判断は速かった。早く知らせなければ――。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
アミナはショックから立ち直り、元の姿を取り戻しました。
一方で、革命派の難民キャンプが襲撃されるという情報を掴んだようです。
GMコメント
●オーダー
ルベンの制圧が完了したことで、地下遺跡の探索が可能になりました。
既に展開している調査用の歯車兵たちが次々に情報を持ち帰ってくれているので、その中でも直接行かないといけなそうな案件にちょこちょこ手を付けていきましょう。
・歯車兵
戦闘用に3割、調査用に3割という数を投入しています。
ちょっとした戦闘や、まあまあ役立ちそうな小物の持ち出しは歯車兵たちがこなしてくれているので、皆さんは歯車兵では処理しきれない程度の戦闘が必要なエリアへの探索を行う事になります。
●戦闘の発生
遺跡内には未だ残っていたり外から入ってきたグロース師団の兵士やモンスターたちがおり、戦闘が発生することがあります。
皆さんにとっては難易度相当の敵ですが、歯車兵たちはそこまで強くないので皆さんに戦闘を任せ牽制のみを行っているようです。
そうした、あちこちに発見された調査ポイントへ向かい遺跡の調査を進めましょう。
チーム分けはしてもしなくても構いません。一緒に行きたい人がいたらそこに加わるというスタイルでOKです。
●同行者
・司祭アミナ
調査メンバーとして同行しています。【アミナと一緒に行く】を選ぶと自動的にアミナ同行チームに入ることになるでしょう。
前回の戦いで人を殺めてしまったことをまだ若干引きずっているようです。話を聞いたりして立ち直る機会を与えるのもいいでしょう。
●特殊ドロップ『闘争信望』
当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
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