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シナリオ詳細

<総軍鏖殺>ゼルゲン解放作戦

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●アントーニオのオーダー
「よく集まってくれた。早速、君たちに解決して貰いたい問題がある」
 鉄帝における政治家にして、芸術を愛する貴族。アントーニオ・ロッセリーノは大きなテーブルにつくローレット・イレギュラーズたちを見回し満足げに頷いた。
 帝政派の拠点サングロウブルクから補給路のひとつであるヴェッテンバーグ街道第二休憩地へのルートを確保、構築する作戦が彼の根回しによって進んでいるのはローレットにも伝わっていた。
 そしてこの作戦は次なる段階へ進んだことを、この会合は意味している。
「ヴェッテンバーグを経由した小さな街、ゼルゲンへのルート構築が完了しつつある。途中のモンスターの『露払い』は済ませておくつもりだ」
「露払い?」
 不穏な単語にイズマ・トーティス(p3p009471)が顔をしかめるが、この作戦に個人的に深く携わっていた桜咲 珠緒(p3p004426)と藤野 蛍(p3p003861)の二人はことの次第を知っていた。
「ゼルゲンは首都にも近く、小さな鉄道停留地もある。鉄道網が掌握された段階で新皇帝派の襲撃を受けて占領されてしまっているの」
「住民は新皇帝派の支配を受け、強制的な生産労働につかされているのです」
「なるほど……読めた」
 ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)はこのあとにするべきこと、そして『今』である意味を理解した。
 アントーニオはベルナルドのパトロンであると同時に鉄帝でも珍しい優れた政治家だ。そして『優れたアーティストは優れたトラブルシューターである』という持論をもって、今まで様々なトラブルの相談をお抱えのアーティストたちにしてきた男でもある。
「今回は、ゼルゲンの街を奪還してほしい……ということか。各主要駅にローレットが襲撃を仕掛けているタイミングだ。その正否がどうなるにしても、新皇帝派はおいそれと鉄道網を使うことができなくなる」
「特に、ボーデクトンの制圧が完了した場合新皇帝派勢力が立て籠もり作戦に出たり、街の人々を人質にとるなどの動きもありえます。攻め込むなら、確かに今が最適ですね」
「そういうことだ。説明がいらなくて助かる」
 アントーニオはまたも満足げに頷き、そして手元の代用コーヒーに口をつけた。

 アントーニオの作戦はこうだ。
 彼の雇っている部隊を通じてゼルゲンへの突入ルートを確保。速やかに街へと突入したローレットチームは街を巡回する新皇帝派の兵たちを倒し、街を奪還するのだ。
 最重要目標となるのは街の占領と住民の支配を担っているゲッテル少佐という人物だ。
「この作戦が成れば、街を無傷で開放できる。頼んだぞ」

●ゲッテルと手中のゼルゲン
 新皇帝派の将校ゲッテル少佐は焦っていた。
 帝国鉄道の主要駅であるボーデクトンに帝政派が、ブランデン=グラードにラドバウ独立区が襲撃をかけ占領作戦を展開しているという情報が伝わってきたためだ。
 その情報が一足送れて伝わったというのが何より彼を焦らせる。つまりは中央参謀本部の悪魔と畏れられるグロース将軍は、現時点で自分を切り捨てる選択をしつつあるということなのだ。
「おのれ! せっかく上官を殺してまで魔種についたというのに……!」
 彼には元々パウルテンという上官がいた。彼は武人であると同時に人格者であり、このゼルゲンという街の発展に深く寄与し慕われた人物でもある。ゆえにこの街を知り尽くしており、軍の支配下に置き生産拠点化する命令に反抗した。
 パウルテンが自分達は帝政派につき新皇帝派と戦うのだと主張し始めた……その時。ゲッテルはクーデターを起こしたのだった。
 パウルテンを背中から撃ち殺し、事前に息をかけていた兵達と共にパウルテン派の兵を拘束。監禁してしまったのだ。
 こうしてはれて新皇帝派となったゲッテルはパウルテンの代わりに少佐の地位へと昇格。首都参謀本部のグロース将軍から直々にゼルゲンの支配と生産力向上を任されたのだ。
 が、それも過去のこと。ここでしくじれば死が待っている。
「なんとしても、なんとしても生き延びるのだ……! おい、中尉! 中尉はいるか!」
 怒鳴りつけると扉が開き、部下であるシュルツ中尉が入ってくる。
「お呼びでしょうか」
「生産施設の効率を200%にあげろ、今すぐだ」
「いますぐ、とは……」
「女も子供も働かせるんだよ。働けないと泣いた者は銃殺して吊せ。見せしめだ!」
 シュルツ中尉は一瞬だけ顔をしかめたが、すぐに敬礼し『ただちに!』と応じた。
 出て行こうとするシュルツ中尉を呼び止めるゲッテル少佐。
「まて、拘束した連中はどうしてる」
「……まだ恭順の意志をみせません」
「クソッ」
 パウルテン派の兵士も暫く閉じ込めておけば反省し自分の部下になると思ったが、どうやら彼らの意志は固いらしい。
「何人か痛めつけてやれ。それでも従わないなら殺していい。邪魔なだけだ」
「……」
 今度こそシュルツ中尉がしっかりと顔をしかめた。
「返事はどうした」
「は、ただちに……」
 シュルツ中尉が出て行くのを途中から無視して、ゲッテル少佐は机を蹴った。
「なぜうまくいかない。クソッ、クソッ……! なんとしても生き延びてやる。最低でも、この俺だけは……!」

GMコメント

●オーダー
 新皇帝派のゲッテル少佐によって支配されているゼルゲンの街を解放しましょう。
 ゼルゲンは小さな街ですが、生産拠点化することで新皇帝派に物資を送り続ける役目を担っていました。
 しかしその実体は住民達を奴隷のように酷使するというもので、支配権を握ったゲッテルも上官を殺し反発する兵を監禁するという強引な方法をとったようです。

●解放にむけて
 ゼルゲン周囲に展開しているモンスターは既に倒され、皆さんは安全にゼルゲンへ入ることができます。
 ゼルゲン内は少数の兵によって暴力支配が行われているため、それにさける人手もやはり少ないようです。
 生産設備に少数、脱走を防ぐために巡回する兵が少数。いざというときに放つモンスター『ラースドール』が多少格納されていますが、彼らは柔軟な行動ができないため戦闘時にしか出てきません。
 なので解放にはいくつかの方法があるでしょう。

 ひとつはこっそりと侵入し、兵をすこしずつ倒して行くという作戦。
 これは先行する担当といざ戦闘になったら即座に終わらせる担当で2~3人ずつのチームを組むことで迅速に進めることができます。
 もうひとつは派手に突入してどかどか倒して行く作戦。こちらはラースドールが思いっきり投入されるので戦闘難易度が上がります。

●解放するべき施設
・生産施設
 住民がとらわれ強制労働をうけています。放っておくと見せしめの虐殺もおきてしまうので、どこかのタイミングで解放に動いたほうがいいでしょう。

・監禁施設
 帝政派につこうとした兵たちが監禁されています。
 彼らは拘束され痛めつけられており、このままだと何人か殺されてしまうでしょう。
 解放が早ければ早いほど彼らは皆さんの味方として戦ってくれます。
 あとまわしにしても結構耐えてくれますが、その場合は戦闘力としては期待できないでしょう。

・ゲッテルの中央指令施設
 中央指令施設と名付けた町長の家です。大きく豪華な家なので彼が横取りしました。
 ゲッテルの身柄を確保、あるいは殺害することでこの街の解放を宣言することが可能です。
 その際他の施設も開放できていると、出る抵抗(つまりは民への被害)が減るでしょう。
 実質最後に解放する施設になります。

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

  • <総軍鏖殺>ゼルゲン解放作戦完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年12月25日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼
ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)
アネモネの花束
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
ユイユ・アペティート(p3p009040)
多言数窮の積雪
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
郷田 京(p3p009529)
ハイテンションガール
ガイアドニス(p3p010327)
小さな命に大きな愛

リプレイ

●ゼルゲン解放作戦
「二児の父として子が家族と笑顔で暮らせない日々には虫唾が走る。
 他者を踏みにじって生きるのならば、誰であろうと躊躇う必要は無いな」
 そう呟き、建物と建物の間をすり抜けるように移動する『永炎勇狼』ウェール=ナイトボート(p3p000561)。
 巡回している兵が通り過ぎる気配がしたところで、彼はぴたりと止まって息を潜めた。
 目指すはこの町ゼルゲンの中央施設。新皇帝派に与するゲッテル少佐が詰めている場所だ。彼をおさえることができれば町の開放ができる。生きたまま捕らえられれば情報も手に入るだろう。
 問題は、利己的かつ決断力のあるゲッテルが自分の周りの守りを疎かにはしてくれていないという所だ。『こっそり背後まで近づく』ができるなら、今頃誰かが暗殺してくれている頃だろう。
 故に、近づけるポイントには限りがある。
「兵隊さんは行ったわ、ついてきて」
 ここで頼りになったのは『超合金おねーさん』ガイアドニス(p3p010327)である。
 器用に気配や足音を消し、町中に仕掛けられたであろう罠を見つけてそっと回避する手際を見せた。
 このパートを担当しているのはウェールとガイアドニスの二人だけ。しかしこの二人で全てを成し遂げる必要はないのだ。
「おねーさんたちは『アレ』を見つけられればチェックメイトにできるわ。ニンゲンさん……いいえ、仲間達を信じましょ」
「ああ、そうだな……彼らも、そろそろ取りかかる頃のようだ」
 ウェールは別の仲間達にもたせておいた使役動物の視覚から情報を得つつ、満足そうに頷いた。

 ゼルゲンを無傷で攻略するには、先に抑えるべきポイントが二つある。
 一つは生産施設。この町の主要な生産拠点であり、ゲッテルの新皇帝派への貢献値として機能している施設でもある。
 住民がその前職に問わず、更に言えば女子供かまいなく作業人員として投入され、鉱石の製錬や加工といった作業を行っている。
 休憩時間はないに等しく、過労死寸前の者が大量に出始めている頃だ。
「立て。さもなくばお前の娘を貴様の代わりに働かせるぞ」
「お願いします。それだけは――」
 すがりつこうとする痩せ細った男を、軍服を着た兵が鞭で叩く。
「かけられる慈悲はない! 娘を酷使されたくなければ働け! 今すぐにだ!」
 そんな声が、施設の半開きになった窓から漏れ聞こえる。
「無辜の民に強制労働を強いるなんて絶対許せないわ!
 一刻も早く圧制者ゲッテルを倒して、街の平和と自由を取り戻しましょう!」
 『比翼連理・護』藤野 蛍(p3p003861)が怒りに燃えた様子で呼びかけると、『比翼連理・攻』桜咲 珠緒(p3p004426)が深く頷く。
「恐怖政治的な抑圧は組織行動の効率を著しく低下させます。
 そのため強制労働は捕虜等の反抗意欲を削ぐ用途の認識でしたが。
 理解が薄いのか、破滅願望でもあるのか……。
 どうあれ住民の方々が巻き込まれてよい道理はないでしょう」
 二人のそんな、熱くも冷静な判断に『ハイテンションガール』郷田 京(p3p009529)がなるほどと言った様子で小さく頷いた。
「新皇帝の為に頑張ったって得なんてないでしょうに。むしろあるの? 得」
「少なくとも現在の皇帝に恭順するわけですからね……それ以外の派閥が社会的に見れば『レジスタンス』『テロリスト』『過激派集団』ということになってしまうのです」
「そんなバカな」
 京は皮肉げに笑ったが、しかしそういう不合理なことがおきてしまったのが新皇帝即位事件なのだ。事変と述べても良いほど状況は変わってしまった。皇帝に与する者は安全な首都で贅沢な暮らしをしているのだろうか。法の機能しない今、充分ありうる話である。
 バルナバスの真の狙いはまだよくわからないが、少なくともこのゼルゲンの町を平和にしてやろうというつもりはさらさらない筈だ。
 故に、自分達がやらねばならない。
「まあなんにせよ、やらかした事の責任は取ってもらわないとね?」

 鎖のじゃらりと転がる音。そして鞭が幾度も打たれる音。
 雪降りしきるこの季節だというのに窓は開けられ、室内にいる者はよほどの厚着でもしていないことには凍えてしまうだろう。
 そしておそらくは、そんな優しさがかけられる様子はまるでない。
「恐怖で人を縛り付けたって、そいつは長く続かねぇ。だってのにこういう馬鹿は定期的に沸いてくるもんだよな……」
 今にも飛び込みたい気持ちを抑え、『鳥籠の画家』ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)は兵が監禁されているという施設の裏手へと忍び寄っていた。
 ゲッテル少佐は人望があったというわけでもないらしく、パウルテンという元上官を抹殺した際にパウルテン派の兵たちが反抗したそうだ。そんな彼らを拘束監禁し、恭順の意志を示すまで痛めつけるという作業が今まさに行われているのである。
「これからもっと寒くなるのに、わざわざ人の手で地獄を作らなくてもいいのにね。寒くて辛い状況なんて、なくていいよ」
 そんな風に軽々と言う『多言数窮の積雪』ユイユ・アペティート(p3p009040)。
 なんとはなしに『施設の裏手に忍び寄った』などと言っているが、それができたのもユイユが丸暗記した地図と彼の透視能力による警戒のおかげだ。
 全く遭遇せずに済んだというわけではないが、三人がかりで素早く無力化してゴミ箱に突っ込むなどしてやりすごしたのである。
 そういうときに役立つのはやっぱり『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)だろう。彼は素早く奇襲をしかけ相手をボコボコにするという手際がうまかった。
 一方でゲッテルの部下は数が少なく、少人数で広い町を警戒せねばならないということで仲間を呼ばれるリスクも少なかったというのもこちらに都合がよかった。
 『町の完全支配』なんていうことを軍事力だけで行おうとし、その軍事力も減少しているのだからさもあらん。
 ゲッテルは事実上詰んでいたのである。さっさと制圧しなかったのは、もし大きく動けば彼のバックについていた『グロース将軍』とやらが動きかねないし、それ以前にそこまでのルートを確保するのにも手間取っていたという理由がそれぞれある。
 駅を奪還し新皇帝派もゼルゲンという町ひとつのために軍を動かしている場合ではなくなった今こそが、奪い時なのだ。
「これ以上住民が痛めつけられるのは望まない。取り戻そう、この街を」


 半裸にさせられた兵士が鉄の細い柱に抱きつくような形で拘束され、その背に鞭をぶつけられている。
 馬ようのものでは断じてない。細く長く、ともすれば人体を切断することも可能なほどしなる鞭である。
 更に述べるなら、鉄騎種なうえ鍛え抜かれた軍人であるという前提条件がなければこの環境下に数分おかれただけで瀕死の状態になりかねない。
 だが、鞭を打たれる兵士達の目に絶望や諦観はなかった。魔種に与して国民を虐げるくらいならばこのまま飢え死にする方がマシだと彼らの目は黙して語っている。
 それが、人心を察することに長けたユイユには手に取るようにわかったのだった。
「なるほど、ねえ……」
 人間とは実に不合理だ。手柄を欲するあまり全てを台無しにする選択をしたり、生き残るための手段よりも誇りや信念といった過去の己のとの約束を優先したり。
 とかく人間は苦労をしたくなくてもしてしまう生き物なのである。
(ボクならこの状況を『利用』するけど……ま、目指すところは一緒かな)
 ユイユはこともあろうに真正面から。それも壁際に繋がれている兵士の目の前に現れるように壁を透過して出現した。
「な――ッ!」
 兵を拷問していた新皇帝派の軍人はそのことに驚き、手にしていた鞭を振るおうと構えるが――今まさに拷問していた兵が邪魔で攻撃できない。回り込もうとする彼を、兵は全てを察したかのように足を動かすことで差し止めた。
「協力どーも」
 翳した手をにぎにぎとさせるユイユ。その瞬間、扉の鍵がドアノブごと破壊され内側へと蹴り開かれる。
 ユイユをどう対処しようかと苦心していた兵士にとって最大の奇襲であり、対応するだけの『手数』が残っていないことに絶望する。
 ベルナルドは小さく笑うと絵筆を宙に走らせ、鮮やかな星を描き出す。
 星は魔力をもち、兵の腕と脚へと突き刺さりその精神を侵していった。
「ナイスな陽動だ。しかし詐欺師と音楽家と画家のパーティか……胡散臭ぇ組み合わせだな!?」
「まてまて、音楽家に胡散臭いイメージはないぞ? 画家にもないが!」
 ベルナルドに意識をそがれた兵士がなんとか抵抗を試みている間、イズマは素早く兵士へと詰め寄り相手の襟をとった。
 更に脚を払い、強引に地面へと投げ落とす。固い地面へこれを行うということは、要するにくそでかい鈍器でぶん殴ったのと同じことがおきる。流石に鍛えられた帝国軍の兵だけあって気絶することには耐えたが、頭から流れる血を抑えることまではさすがにできない。
 手にしていた鞭を握りしめ、ユイユとイズマ、そしてベルナルドによって囲まれたことを察した。
「敵だ! 誰かいないか! こっちを手伝え!」
 兵士は叫ぶが、答える声はない。
 ベルナルドとイズマは顔を見合わせ、そして肩をすくめた。
 それが何を意味するのか察してしまった兵は青ざめ……。


「かけられる慈悲はない! 娘を酷使されたくなければ働け! 今すぐにだ!」
 兵が激昂し、男の頭を拳銃のグリップで殴りつける。
 その瞬間には既に――『それ』は始まっていた。
「弱い者イジメは楽しいか? お?」
 男の側頭部を打つはずだったグリップが、空中で停止している。
 なぜなら京の高く振り上げた脚が兵の手首を押さえる形でつっかえているためだ。
 人体はその構造上、ものを抑えるのに最も適した部位は脚だ。踏みつける、蹴りつける、あるいはそれに類するあれこれが自然に行われるのはそのためで、しかし可動域の問題から腕による攻撃を脚で抑えるという常識はない。
 そして、『常識から外れている』のが京である。
 脚をしなやかに動かし、まるでバネ仕掛けのように兵の腕を突き飛ばすと時計の針のごとく柔軟に脚を回してスタンと直立姿勢をとった。
 兵としては、こんな行動をおこす人間を放っておくわけがない。仲間を呼びつけて囲んで叩きのめすべきだ。
 べきだが、京のあまりに美しい脚線とその非常識な柔軟さに見とれ、数秒声をうしないごくりと息を呑んでしまった。
 たった数秒。されど数秒。
「隙だらけ、ですね」
 珠緒が血色の刀を振り抜き、蛍が教科書のページを連ねた剣を振り抜いた。
 交差する攻撃をうけ、兵士はがくりと膝をつく。信じられないという目をしたままうつ伏せに倒れ、動かなくなった。
 蛍が恍惚を付与し珠緒が狂気と致命を付与し、流れるよううに二人がかりで切り捨てるという、理屈で説明すると単純だが、二人のコンビネーションがあまりにも洗練されたがために兵士にはなにをされたのかすら理解できなかったのである。
「案外ヨユーだったわね」
「強制労働を強いられている皆さんは一旦解放しておきますが……」
 珠緒がコフッと咳払いをしながら赤いハンカチを口元に当てる。
 蛍がその背をさすりながら頷いた。
「うん。まだ解放したことは中央に知られないほうがいいよね」
 彼女たちは生産施設に忍び込み一人また一人と見張り(主には労働者の監視)の兵たちを始末しては大きなダストボックスにしまっていったのである。
 兵のメモから定時連絡の仕様については把握できている。
 次の連絡が来るまで、中央のゲッテル少佐は施設が解放された事実を知らずに日常をすごしているのだ。
 自分の立場が危険になったことは自覚しているはずなので、よもや贅沢にくつろいではいないだろうが、奇襲をしかけるには解放をしらないほうが都合がよい。
 珠緒はちらりと窓から外の様子をうかがい、目を細める。
「ラースドールを動かした様子はありません。監禁施設の制圧も問題無く完了したようです」
「OK、それじゃあ仕上げといきましょうか」
 蛍はにやりと笑い、それに同調するように珠緒と京もにやりと笑う。その視線の向く先は……。


 ゲッテル少佐にとって、今日は最悪の日だった。
 生産力を向上させ自分の価値を示せばグロース少佐からの目こぼしを得られると踏んだ彼は、部下に命じて早速施設の稼働力を引き上げた。
 今さえしのげれば逃げる時間だって稼げるかもしれない。
 部下たちがついてこなかったとしても、借り受けたラースドールを使えば多少の護衛にはなるし、なにより自分一人だけでも生き延びれば新皇帝即位による混乱のドサクサでどうにでもごまかせる。そう考えたのだ。
 しかし全ては裏目に出た。
 生産施設の監視に兵を割き、監禁していた兵の拷問に人員を割き、結果として待ちそのものの警備が疎かになっていたのだ。
 結果としてローレットのイレギュラーズたちの侵入を許し、過剰な負担をかけていた兵たちはそれぞれの施設で始末されてしまっていた。
 『定時連絡です』と言いながら入ってきた兵が見慣れぬ背格好をしているなと思った矢先、流れるように突入してきたローレット・イレギュラーズによってたちまち包囲されてしまったのである。
「だが、これで終わる私ではないぞ! ラースドールを起動して、奴らを囮にしてこの街からおさらばだ!」
 執務室の裏に隠してあった脱出通路から素早く逃れたゲッテルは、建物の裏に煉瓦の壁に偽装しておいた出口を開き外へ――。
「よう」
「お疲れ様」
 そこには、ウェールとガイアドニス。
 そして監禁していた兵たちが武装した状態で並んでいた。
「あ――」
 偽装出口が見破られたのだと察したゲッテルの胸ぐらを、ガイアドニスはむんずと掴む。
 そして彼を細くちいさな通路から引っ張り出すと、相手を自分の顔と同じ高さまで持ち上げた。
 ゲッテルは身長のそこそこ高い男だったが、ガイアドニスほどではない。宙に浮いた脚がぱたぱたと揺れる。
 腰から拳銃を抜き彼女に突きつけようとするが、拳銃を抜いたその瞬間には手首に鋭い痛みが走っていた。
 何事かと手を上げてみると、手首から先がない。
 拳銃はと言えば、足元に右手と一緒に落ちていた。
「お前はやり過ぎた。過剰に痛めつけるつもりはないが……せめて情報源にはなって貰おう」
 ウェールは手にしたナイフをゲッテルの頬へと近づけ、ぺちぺちとナイフの腹で顔をたたく。
「ごめんなさいね、ニンゲンさん。けど、ニンゲンさんをいじめるのはよくないわよ」
 ガイアドニスは子を叱る母のように『めっ』と言うと、ゲッテルを掴んでいた手を離した。
 地面に崩れ落ち、『腕が』と言いながらのたうちまわるゲッテル。
 出口に罠をしかけてしまう計画もあったにはあったが、やらなくて正解だったかもしれない。狭い通路でのたうち回られたら変に頭をぶつけるなりして自滅してしまったかもしれない。
 作戦がここまで上手くいったのなら、彼にはまだ生きていて貰ったほうがいいのだ。


 その後、ゲッテルの執務室(と本人)からは様々な情報を得ることが出来た。
 この町を生産拠点として利用していたグロース・フォン・マントイフェル将軍の存在。そして新皇帝派にかなりの物資が供給されていたであろうという推察。
 それを持ち帰った所、アントーニオ・ロッセリーノは実に渋い顔をした。
「帝政派はいまヴェルンヘルやアラクランとの戦い、そして地下通路の探索にかかっている状況だ。影響が小さいとはいえ、グロース将軍による介入を許すわけにはいかんな……かといって派閥に持ち込む大きさではない」
「つまり、『トラブルシューター』は未だ必要……ということか」
 ベルナルドの言葉に、苦々しく頷くアントーニオ。
「そうだな。この件は我々で解決する必要があるだろう。もう暫く、付き合ってもらうぞ」
 アントーニオの信頼をこめたまなざしをうけ、ベルナルドたちは頷きを返すのだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete

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