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シナリオ詳細

ひとりぼっちのヘパルドン

完了

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●よいオーガのはなし
 人が見上げるほどの体躯に、女性の腰ほどはあるかという太い足。
 少ない体毛と赤い肌。豚に似た形の耳。
 オーガと呼ばれる種族であるヘパルドンにはあだ名があった。
 それが、『ひとりぼっち』のヘパルドンである。
 彼の好きなものは人間で、苦手なものも、人間だからだ。

 場所はラサ。首都からずっと南にいったウキヨという街には、首都ほどではないが大きな露店場がある。誰が始めたのか露店を出し始め、それが集まり食料品から武具に至るまでなんでも売られる町一番の露店場となった。
 キの字に交差する大きな通り全てが露店として使われるスペースであり、日用品を買に来るものから、中古の武具を掘り出しにくる冒険者まで幅広い客で賑わっている。
 そんな場所に。
「お、おで、おで……」
 地面を鳴らして、一体のオーガが現れた。
 そのみるからにモンスターといういでたちに一般客たちは勿論露店を開いて林檎を売っていた男も慌てて飛び退き、露店場につきものなトラブルを仲裁するために巡回している街の兵までもが驚き身構えた。
「あ、あの、おで……」
 何かを言い出すオーガに、兵隊のひとりが槍をつきつける。
「何が狙いだオーガ! 冬眠前に人を食いに来たってか!?」
「お、おいいきなり刺激するな! 危険だぞ!」
 慌てて駆けつけてきた兵も彼をフォローするように槍を構え、騒ぎを聞きつけた兵隊や自衛と野次馬を兼ねた冒険者たちが集まりオーガを取り囲んでいく。
「なんだこいつ、見たことない種類だな」
「クリムゾンオーガだ。上位種だぞ知らねえのか」
「知性があるみたいだ。ただのモンスターだと思うなよ」
「かかるときには一斉にだ。逃げるなら追うな、犠牲が出る」
「背中になにか持ってるぞ」
「デカい動物の毛皮だ。人間でも浚ったのか?」
「くそっ、醜いオーガ野郎……!」
 口々にあちこちからものを言われ、オーガはきょろきょろと挙動不審に見回す。
「おで、あの……あ、あ……」
 そして何も言えぬままぐるりときびすを返す。
 突然振り返ったことに兵隊が驚いて飛び退くと、その隙間を抜けるようにしてオーガは走り出し……そして一目散に逃げ出してしまった。
「ふう……戦いにならなくてよかった。あんなモンスター、ローレットにでも依頼しねえと処理できねえよ」
 飛び退いたひょうしにしりもちをついた兵隊が浮かんだ汗を拭って立ち上がる。すると、道ばたにころんと落ちた何かを見つけた。
「ん、なんだコレ?」
 それは、布で作られた手のひらサイズの人形だった。子供向けの玩具のようなそれは、少し不格好ながらよく出来ている。
 露店商か一般客の誰かが落としたのだろうとポケットに入れる兵隊。
 だが彼は……いや、この場の誰も知らない。
 あのオーガ――『ひとりぼっち』のヘパルドンがその人形を袋一杯に詰めて、人間に売りに来たのだという事実を。

●オーガの人形
 ウキヨから少し離れた洞窟の奥で、『ひとりぼっち』のヘパルドンはしくしくと泣いていた。
「おで、人間に、会いたかった、だけ。人形、作って、う、うう……」
 見上げるほどの巨体のオーガが両手で顔を覆って泣く姿はなんとも異様だが、周りには裁縫道具と人形の材料。そしてできあがったなんともブサカワで愛嬌のある人形が並んでいるのを見ると恐怖だけは湧いてこないものである。
 ユリーカもこれが危険なオーガではないと確信できたのか、洞窟までローレット・イレギュラーズを案内してきたのである。
「このひとは依頼人のヘパルドンさん。こういう次第で、人間に人形を売ってあげてほしいのです」
 商売の代行か、といイレギュラーズの一人がいうと、しくしく泣いていたヘパルドンが手を下ろして頷いた。
「おで、人間、好き。けど、人間、おでのこと、嫌い。だけど……人形、好きだから」
 ヘパルドンはその巨体で起用にもブサカワな人形を沢山作っては人間にプレゼントする日を夢見ていたそうだ。
 ただ配っても怪しまれるので、露店に出して安値で売れば人の手に届くだろう……と、そう考えた次第である。
 ユリーカはぺこりとあたまをさげた。
「依頼料はヘパルドンさんが狩ってきたモンスターの素材を換金したり、人形の売上をそのまま渡したりすることでまかなえるのです。おねがいします、なのです!」

GMコメント

 『ひとりぼっち』のヘパルドンが作った人形をウキヨの露店で売ってあげましょう。
 売り方は自由。売る相手も自由ですが、ヘパルドンの要望としてはできるだけ多くの人の手に渡って欲しいそうです。

 人形はブサカワでなんだかシュールな見た目をしています。
 動物やモンスターがモチーフになっていて、見てると和む不思議な中毒性があります。
 子供は勿論ですが、疲れた大人がぶら下げててもよさそうな品です。

・露店場
 ウキヨの露店場には一応ルールがあります。
 暴力沙汰はおこさない。恐喝をしない。他の商人を押しのけない。
 要は強引な商売はやめましょうというルールです。
 この露店場は広くてとにかく賑わっているので、一箇所に集まって人形を売るよりあちこちに散らばって売る方が効率はよいでしょう。
 場所取りに関してはユリーカが手配してくれるようなので、そこそこ良い場所をとって露店を開くこともできるはずです。
 また、暴力的でなければ売り方と問うつもりは特にないらしいので、その辺を歩いて買いそうな人を捕まえてアピールするというスタイルも有効です。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • ひとりぼっちのヘパルドン完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2022年12月09日 22時05分
  • 参加人数6/6人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(6人)

イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)
キラキラを守って
ハンナ・シャロン(p3p007137)
風のテルメンディル
三國・誠司(p3p008563)
一般人
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
ギュスターブくん(p3p010699)

リプレイ

●ヘパルドンと六人のイレギュラーズ
 ラサの広大な砂漠地帯は、12月という季節にあってもまだ暑い。
 高い太陽と渇いた砂。細かく舞った砂なのか、空気の香りも独特だ。
 遠くに陽炎が揺れるのを眺めながら、一体のオーガは荷車を引いている。
 大きな木の板と魔獣の皮、そしていくつかの骨を継ぎ合わせて作られたそれは馬車よりも大きく、そして砂漠を進むオーガの足取りはパカダクラのそれより力強く、いつまでも歩けるように見えた。
 実際クリムゾンオーガなる上位種のモンスターは持久力が高く、砂漠を飲まず食わずで歩いたとしてもウキヨまでたどり着くだろう。
 だがその目的は、あくまで荷車に積んだ人形を売ることなのだが。
「一緒に乗せてくれて、ありがとうね~」
 ギュスターブくん(p3p010699)が荷車の中に座り、ヘパルドンを見上げる。
 どこかずんぐりとした体型の、ワニ型ブルーブラッドのギュスターブくん。彼はおやつにしていたパンを口に放り込むと、それをもぐもぐとしながらもう一個をヘパルドンに差し出すように掲げた。
「あ、お、おで、平気。力、強いから」
 照れたように返してパンを受け取るヘパルドン。指に乗っかるのではと思うほどのサイズ感だが、どこか嬉しそうに口へパンを放り込む。
 確かに、戦う力をもたない者や、そもそも戦いに関わらない者からすればこの巨大なモンスターは脅威でしかないかもしれない。人間をとって喰うといわれて信じてしまうのもやむなしだろう。実際、そういうオーガはいるのだから。
 けれど、『陽だまりに佇んで』ニル(p3p009185)はヘパルドンがそんなことをするとは思えなかったし、なにより怖いとは思わなかった。
 ニルなりの表現をするならば、『おいしそう』である。
「ヘパルドン様が、たくさんたくさん思いを込めたお人形……」
 革袋に包まれた人形のひとつを手に取って、ほっこりとした気持ちで見つめるニル。
「その想いが伝わるといいなって思うのですよ」
「う、うう、でも……」
 警備兵たちに槍を突きつけかこまれたことを思い出したのだろう。ヘパルドンは顔を片手で覆ってしょんぼりと背を丸める。
 これだけの巨体と怪力だ。兵士に槍で突かれたくらいで恐怖もなにもないだろうが、人間と争うことが、それによって嫌われてしまうだろうということが怖いのだ。
 ニルにはその気持ちが、ふしぎと分かる気がした。
「みんなが、仲良くなれるといいですね。その一歩目がこのお人形屋さんになるといいのです」
 だから、とニルは人形を掲げポケットからコインを取り出した。
「この子をニルにくださいな」
「え、おでの、人形?」
 驚いたように振り返るヘパルドン。それまで一度も止まらなかった歩みがぴたりと止まる。
 ニルはこっくりと頷き、人形のひとつを自分の頬にあてた。
「あっ僕も僕も! 二つ売ってくれよ。一つはカルネきゅんのおみやげにするからさ」
 『一般人』三國・誠司(p3p008563)も人形を二つ見繕って両手にもって掲げる。
「あ、あ……え、えへへ」
 自分の頭と顔をなで、照れくさそうにするヘパルドン。
 先述したように無力な者からすると脅威なのかもしれないが、誠司たちからすれば脅威となるようなモンスターではない。そのせいだろうか、彼らはまるで物怖じする様子はなかった。どころかヘパルドンのことを理解し、接する余裕があったのである。
「お金、いらない、プレゼント……したい」
「ホント? それじゃあお言葉に甘えて」
 誠司は人形を二つ鞄にしまった。人形を売るというのも、元はと言えばただで配り歩いても誰も受け取ってくれないと思ったがための手段である。人の手に渡るだけでも、ヘパルドンは嬉しいのだ。
 『オフィーリアの祝福』イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)はそんな様子ににっこりと笑い、膝にのせていたオフィーリアをなでた。
「俺もこの子がほしいな。
 この子にお店のお手伝いをして貰いたいんだけど、それだけじゃなくて、君が作ったこの子を本当に素敵だって思って。ずっと大切にするからお迎えさせて貰えないかな?」
 未だ照れくさそうにするヘパルドンに、人形を一個掲げてみせるイーハトーヴ。
「お、おで、嬉しい……こんなに、人間と、喋れた、初めて」
 人形を作ってよかった、なんて顔を手で覆いながら呟くヘパルドンに、イーハトーヴは苦笑する。
「まだこれからだよ。この子はなんていうお名前なの?」
 どうぞというジェスチャーをするヘパルドンに、イーハトーヴが問いかける。
 ヘパルドンは再び荷車を引いて歩き出すと、人形をひとつひとつ指さした。
「皆、ほんとは、名前、ある。ジョニー、ペンス、マーマ、それで、その子は……『ボボ』」
「ボボっていうんだね。よろしく、ボボ」
 ちょっとシュールでブサカワで、なんだか見てると和む人形。モチーフはなんだろうと思ったが、どうやらヘパルドンからみた人間をイメージしているようだ。麻の布と綿で作られたそれはなんだか肌触りもよい。

 ヘパルドンのひく馬車はパカダクラ馬車よりもずっと速い。
 遠い砂漠の景色が流れていくのを見ながら、『風のテルメンディル』ハンナ・シャロン(p3p007137)はのんびりとした様子で呟いた。
「モンスターにもいろんな種類が居るとは聞いていましたが、ヘパルドン様のような方もいるんですね」
 人形をひとつ手に取って、うっとりと見つめる。
「ヘパルドン様が心を込めて作った人形達に良い出会いがありますように。……頑張りましょうね」
「うんっ」
 『星月を掬うひと』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)はゴラぐるみを膝に乗せ、暑い砂漠の気温をやり過ごしていた。
「どんな人達に売ろうか。やっぱりメインターゲットは親子連れだよね!
 子供はもちろんだけど、大人が持っててもいいしね」
 ゴラぐるみが売れた経緯を考えながら、フラーゴラはそんなことを話し始めた。
 疲れた人がこれに顔を埋めてうっとりしているさまを見たことがある。人というか、精霊すら。
「あと疲れた人と言えば……ラサの肉体労働者の人の集まるとことか。露店があるなら、安価でかきこめる回転率のいいご飯やさんの前に持っていけば目につきそうだよね。
 観光客もいるかも! あっ、この観光客はアトさんではなくて……えへへ」
 フラーゴラは他にもこんな人とかこんな場所とか、と例を出してハンナたちと話し合う。
 その話し声を聞いていたヘパルドンが、街にまだつかないあたりでピタリと止まった。
「あれ、どうしたの?」
「おで、ここで、いい」
 問いかけるフラーゴラに、ヘパルドンが荷車をおろして振り返る。
「行くと、人間、怖がる」
 頭を手で押さえ、弱った表情をするヘパルドン。
 そういうことなら! とフラーゴラは背負っていた大きな鞄から何かを取り出して見せた。

●『ヘパルドンのお人形屋さん』
「こんにちは、ぼく、ギュスターブくん。
 今日はラサのウキヨってとこに来たよ、お客さんがいっぱいいるねえ~。
 今回は、この厄除け!ヘパルドン人形のご紹介をするよ。
 鉄帝やら幻想やら、社会の情勢が不安定なこのご時世、不安な事って多いよねえ~。
 このお人形は厄除けのご利益があるってラサで流行ってるらしいよお~。あっ!」
 ギュスターブくんが自撮りをしながら振り返り、カメラを向ける。
 そこには巨大なウサギ(?)の着ぐるみが地面にどかっと座って居た。
 目の焦点が合っていないなんともいえないシュールなウサギだったが、抱えた巨大な看板には『ヘパルドンのお人形屋さん』と書いてある。
「いらっしゃいませ~。『ヘパルドンのお人形屋さん』でございます!ぜひ見ていってください!」
「寄ってらっしゃい、見てらっしゃい。お店の名前はその名も『ヘパルドンのお人形屋さん』……!」
 その左右ではもふもふとしたウサギのみみをつけたハンナとフラーゴラが手を振っている。
「おで……」
 着ぐるみの中から、ヘパルドンが声を出した。
「しぃ~、いま動くと、びっくりさせちゃうからねえ~」
 ギュスターブくんがそっと近寄って声をかけると、ぴくりと動いた巨大なウサギ……もとい薄い着ぐるみに包まれたヘパルドンは看板をもちなおした。
 このウサギが巨大な荷車を引いて現れる様にはウキヨの警備兵たちもギョッとしたが、ニルや誠司たちが露店の販売許可書を出してみせたら『なんだローレットか』で通してくれた。ローレットをなんだと思ってるんだと一瞬思った誠司だが、言われて見ればへんなの沢山居たな……と勝手に自分で納得もした。
「ねえ、へぱるどんってなあに?」
 呼び込みをするハンナたちの前に子供が立ち止まり、看板を指さす。
 イーハトーヴとフラーゴラの合作で彩られた看板にはファンシーなフレームイラストが描かれ、赤い人型のマスコットキャラクターが添えられていた。
「ヘパルドンの紙芝居をやってるよ。ほら、こっちの絵本も」
 フラーゴラが差し出した絵本を手に取る子供。
 印刷所に発注して作った絵本は丁寧な装丁で、それを受け取った子供が何気なくページを開く。
 そこには赤い人型のマスコットが描かれていて……。
「あるところに、ヘパルドンというオーガがいました」
 絵本から顔をあげると、誠司が紙芝居を始めるところだった。
 露店に家族ぐるみで遊びにきたはいいもののショッピングを楽しむ歳でもないというそんな子供達が暇つぶしがてら集まり、その様子を保護者が遠巻きに見つめるという様子になっている。
 紙芝居はイーハトーヴが、絵本はフラーゴラの作である。
 ハンナがトンッと子供の背を軽く押して、「はじまりますよ」とシートに座るように促した。

 紙芝居のタイトルは『ひとりぼっちのヘパルドン』。
 人間が好きで、仲良くなりたいオーガのヘパルドンが人形を作って子供にプレゼントするお話。
 ちょっとした脚色も交えて、誠司たちはこう説明した。
「これは幸運を呼ぶ人形なんだよ」
 子供達はよくくいつき、大人たちはそれをよくある商売文句だなと冷静に眺めていたのだが……次におこったことに目を見開いた。
「紙芝居の次はお人形さんのダンスなのです」
 ニルが手を空に掲げると、ドーム状の幻影が展開された。
 絵心豊かなニルによって描き出されたファンシーな背景があたりを包み込み、その中心にはひとつの円形の台。
 台の上には人形がひとつ。
「ボボ、さあ踊ろう」
 イーハトーヴがそばでささやきかけると、人形操作の魔法を発動させた。
 すくっと立ち上がった人形が、まるで眠りから目覚めたかのように伸びをしたのだ。
 その繊細で愛らしい動きには子供達は勿論、大人達も注目する。
 すると、フラーゴラが歌をうたいはじめた。
 ミュージカル調に演出されたその歌は、紙芝居の内容をなぞったものだ。
 ハンナは隣でオカリナを吹き始め、ギュスターブくんがその様子を撮影する。
 ニルはにっこりと笑い、歌と演奏に合わせて幻影を切り替えていく。
 誠司が作った絵本の、これは豪華版である。まさかここまでと思っていなかった大人達も拍手を送り、その様子をヘパルドンはじっと見つめていた。

 それから、六人は手分けをしてあちこちで宣伝をした。
 イーハトーヴは路上で人魚のボボを踊らせて、ハンナはオカリナを吹いて人の目を引き、誠司は紙芝居を、フラーゴラは歌と絵本を、そしてニルは幻影のショーを、ギュスターブくんは動画をとりながら宣伝を。
 彼らのファンタジックなプロモーションは子供達のみならず、大人達の心もつかんで人形はとぶように売れた。
 日が暮れる頃には、袋一杯に詰めてきた人形は全て売り尽くしてしまうほどだった。
 そして……。

 星空の光る砂漠の夜は、昼間の熱気が嘘のように冷える。
 そんななかでも、ヘパルドンは平気な顔で荷車を引いていた。
 ほくほくとした表情の彼を見れば、感想など聞くまでもないだろう。
 毛布を被って荷車にのるイーハトーヴたちの表情も、またほくほくとしたものだ。
 冷たい風に白い息をはきながら、にこやかに語り合っている。
「ボボのダンス、どうだった?」
「えへへ。可愛い、踊り、だった」
 自分のようなオーガが『可愛い』と口にするのが照れくさいのか、ヘパルドンは自分の頭を撫でながら言う。
 ギュスターブくんはそんな様子を眺め、『よかったねえ~』とのんびり呟いた。
「お客さんのわくわくした顔、たくさんみられたのです」
 ニルが満足そうに言うと、ヘパルドンもそれに小さく頷いた。
 彼が着ぐるみのなかから子供達の笑顔や人形を買って帰る親子の様子を眺めていたのを知っている。表情はわからなかったが、それが胸をあつくさせるものだとも。
「そうだ、人形を貰ったお礼にこれをあげるね」
 フラーゴラはヘパルドンにゴラぐるみを手渡した。
 いいのか? という顔で受け取るヘパルドン。そのふわふわとした感触と香りにうっとりとする。
「また着ぐるみをきて売りに来ればいいよ。そのうち中身がオーガだと分かっても警戒されなくなるさ」
 誠司がそう言うと、ハンナが『そうです!』と強く続けた。
「ひと(?)は外見だけで判断できないのがこの混沌世界なんですから。いつか素顔でお人形屋さんができますよ」
「えへへ……そう、なったら、いいなあ」
 帰りの荷車にのせた革袋は空っぽ。
 けれどヘパルドンは、胸いっぱいに温かい気持ちを詰め込んでいるようだった。
 きらきらとひかる星の下。彼らは今日の人形劇で歌ったうたを口ずさみながら、砂漠を進む……。

●そして、いつかの後日談
 場所はラサ。首都からずっと南にいったウキヨという街には、首都ほどではないが大きな露店場がある。誰が始めたのか露店を出し始め、それが集まり食料品から武具に至るまでなんでも売られる町一番の露店場となった。
 キの字に交差する大きな通り全てが露店として使われるスペースであり、日用品を買に来るものから、中古の武具を掘り出しにくる冒険者まで幅広い客で賑わっている。
 そんな場所に。
「お人形ください!」
 子供がひとり、コインを手にやってくる。
 それを受け取って、巨大なウサギの着ぐるみをきたヘパルドンは優しく人形をつまみあげ、子供へと手渡した。
 それを受け取り、『わぁ』と嬉しそうな声をあげる子供。
 駆けていく彼は一度振り返り手を振った。
 ヘパルドンもそれにこたえて手を振り、そして後ろの看板を振り返る。
 ファンシーな絵がかかれたそれには、こうある。
 『ヘパルドンの人形屋さん』

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――happy end

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