PandoraPartyProject

シナリオ詳細

古い時代の歴史を作ろう。或いは、“地獄の釜”は開かれた…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●出版社・地獄の釜
 ラサのとある街の外れにそれはある。
 横に長い黒い煉瓦の建物と、カタギには見えない警備員。出入りをするのは、ラサの各地を駆け回る敏腕……或いは、奇特な記者や作家や写真家ばかり。
 出版社・地獄の釜。
 変人・奇人御用達と一部のマニアの間では広く名前の知られる会社だ。
 そして、此度の物語は“地獄の釜”の一室、編集長室から始まった。
「マニアの間で愛読されている『月刊“ヌー”』に、シージ・スキャンパー先生の異色の恋愛小説『馬車とドラゴン』を初め、数多くの奇書を発行する“地獄の釜”……風変りな社員たちを纏め上げる、いわば地獄の長とも言えるお方が、わざわざ私のような、いち配信者を呼び出して……何の用事です?」
 薄暗い部屋の真ん中で、エントマ・ヴィーヴィー(p3n000255)はそう言った。
 窓は全部締め切って、光源と言えば壁にかかった燭台が1つだけ。
 なお、雰囲気作りのためにそうしているだけなので、息苦しくて仕方が無かった。
「いやぁ、なに。意見が欲しいんだ。ラサの砂漠のことならば、俺らは何だって知っていると自負している。だが、ラサの外となれば話は別だ。詳しいんだろ? そういうの……伝手もあるだろ?」
 ローテーブルを挟んだ向かいに座る男が、囁くようにそう言った。
 それから彼は……編集長、カザリ・ブルームはテーブルの上に数枚の書類を放り出す。
 鍔の広い帽子に、丸サングラス、毛皮のコートを身に纏った長い灰色髪の男だ。オカルト雑誌を始めとした、奇書を発行する社の長というだけあって、見るからに怪しい男である。
 なお“世間からそう見られている”ことを理解したうえで、期待に応えるためにそういう恰好をしているに過ぎない。室内で帽子なんて被っても意味はないし、薄暗い部屋でサングラスなんて前が見にくくて仕方がないし、ラサの砂漠で毛皮のコートなんて着込むのは、もはや何かの拷問だ。
「資料……企画書かな? じゃあ、失礼して」
 投げ出された資料を手に取り、エントマは紙面に目を走らせた。
 部屋は暗いが、文字を読み取る程度は辛うじて可能だ。
「んー? シャイネンナハトの新常識ぃ?」
「あぁ……そうだ。要するにだな」
 身体を前に乗り出して、カザリは口角に笑みを浮かべた。
 そして彼は言い放つ。
「トレンドは作れる。俺たちがトレンドを作る」
 
●ラサ流
 シャイネンナハト。
 それは毎年12月24~25日に訪れる、混沌において戦いの禁じられる日のことだ。
 輝かんばかりのこの夜に、人々は星に願いを捧ぐ。
 ある者は己が冒険の成功を祈り、ある者は恋の成就を祈り、ある者は平和を祈り、ある者は過ぎた1年を思い起こして歌を奏でる。
 そんな夜をどう祝うのか。
「ラサっぽい企画を考えて“古い時代のシャイネンナハト”を復活させよう……そう言う企画らしいんだよね」
 “古い時代のシャイネンナハト”とエントマは言うが、もちろんそんな事実は無い。オカルト雑誌『月刊“ヌー”』の増刊号にて特集を組んで、オカルトマニアたちの間に流行らせるのだ。
 曰く「トレンドは作る。俺たちがトレンドを作る」。
 ついでに「存在しない歴史も作ろう」ということらしい。
「神をも畏れぬ所業だと……私はそう言ったんだよね。でも、カザリ編集長はこう言い返した。“神も作ったことがある”」
 なんとも出鱈目な話である。
 そして、今回イレギュラーズが集められたのは「ラサ流“古い時代のシャイネンナハト”」のネタ出しをさせるためだった。
 エントマは、テーブルの上に1枚の地図を広げた。
 砂漠のどこか。
 つい最近“地獄の釜”が発見したという地底湖までの地図である。
「地底湖には“古い時代の遺跡”があった……ということになるよ。遺跡は今、それっぽく作っているんで心配いらないってさ。そして、この遺跡から“古い時代のシャイネンナハト”に関する歴史的な資料が発見される……発見するのも、準備するのも皆だね」
 そしてエントマが、その様子をカメラで撮影するのである。
 なお、地底湖が最近発見されたものであることは事実であるため、危険な生物などが住み着いていない保証はない。現在のところそれらしいものは発見されていないが、もし存在した場合は“非常に隠密性に優れた生物”であるはずだ。
「さぁ、皆……作るよ、トレンド!」
 人はそれを捏造というが、エントマは妙に乗り気であった。

GMコメント

●ミッション
ラサ流“古い時代のシャイネンナハトの祝い方”を捏造する

●依頼人
・カザリ・ブルーム
出版社“地獄の釜”の編集長。
「トレンドは作れる。俺たちがトレンドを作る」という信念のもと「今までにない“古い時代のシャイネンナハトの祝い方”」を世に発信しようとしている。
必要なフェーズは以下。
・古い時代のシャイネンナハトの祝い方を捏造する。
・地底湖遺跡で、古い時代の資料(要作製)を発見する。
なお、映像および写真撮影はエントマ・ヴィーヴィーが担当する。
今回の依頼の結果はオカルト雑誌『月刊“ヌー”』のシャイネンナハト増刊号に掲載される。

●フィールド
地底湖遺跡。
つい最近“地獄の釜”が発見したという地底湖。
直径80メートルほど、水深40メートルほどのただの地底湖だが、現在“古い時代の遺跡”を急ピッチで建造中。
危険な生物が生息していないとも限らない。もしも生息している場合は“非常に隠密性に優れた生物”であることが予想される。

●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • 古い時代の歴史を作ろう。或いは、“地獄の釜”は開かれた…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年11月28日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

志屍 志(p3p000416)
天下無双のくノ一
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
カイン・レジスト(p3p008357)
数多異世界の冒険者
リースヒース(p3p009207)
黒のステイルメイト
秦・鈴花(p3p010358)
未来を背負う者
月瑠(p3p010361)
未来を背負う者
フロイント ハイン(p3p010570)
謳う死神
リヴィア=フォーレンティア(p3p010856)
堕ちた姫君

リプレイ

●“地獄の釜”を開く
 薄暗い部屋。
 すっかり古びた木製デスクに腰かけて、カザリ・ブルームは眉をひそめた。
「なんだ、これ……?」
 手にした紙面に大きく書かれた「請求書」の文字。
 カザリは視線を対面に座るエントマへ向けた。
「あぁ……えっと、キャスティング?」
 請求書には以下の名前が記されている。
 
 ・キャスティング
 ラサのシャーマン『紫の花』:『冥焔の黒剣』リースヒース(p3p009207)
 シャイネン族:『宝食姫』ユウェル・ベルク(p3p010361)
 シャイネン族:『友人/死神』フロイント ハイン(p3p010570)
 ナハト族:『パンケーキで許す』秦・鈴花(p3p010358)

 リポーター:『堕ちた姫君』リヴィア=フォーレンティア(p3p010856)
 探検家:『数多異世界の冒険者』カイン・レジスト(p3p008357)
 探検家:『隠者』回言 世界(p3p007315)

 撮影補助:『遺言代行業』志屍 瑠璃(p3p000416)
 撮影者:エントマ・ヴィーヴィー

「というわけで、どうぞ仕事の成果を見てってよ」

●古い遺跡の物語
「じゃあ、撮影始めるよー。はい、3、2……1、スタート!」
 エントマの回すカメラには、3人の人物が映されていた。マイクを手にしたリヴィアと、探検者らしい装いの世界、そしてカインである。
「えー、初めまして。リポーターのリヴィアよ。今日は、つい先日に発見されたばかりの古代遺跡に来ているわ。あぁ、安心して頂戴……もちろん、遺跡に立ち入るにあたってその道のプロを呼んでいるから」
 そう言ってリヴィアが、隣に並んだ世界とカインを指し示す。
 マイクを突き付けられた世界は困惑するが、視界の隅にスケッチブックを手にした瑠璃が現れた。スケッチブックには「何かしゃべって」の文字。
 あぁ、と眼鏡を押し上げて世界は、慌てて言葉を紡ぐ。
「えぇっと、探検家の回言 世界だ。今回、俺たちが入る遺跡は相当に古いものとなる。それこそ、これまで資料の類がほとんど発見されていないような……な。つまり、歴史を変える大発見も期待できるということだ」
 世界は横目で、隣のカインに助けを求めた。
 一つ頷いたカインは、懐から何かを取り出してカメラの前に掲げて見せる。それはどうやら、獣の牙か何かで作った装飾品のようである。
「これが何か分かるか? これはワニの牙だ」
 牙の根元には小さな穴が空いている。おそらく紐を通すために空けられたものだ。
「ワニと言えば姿形や生態から危険な生物という印象が強い動物、当然付近でも犠牲者は多かった筈」
「え、もしかして、遺跡で見つかったものなの?」
 驚いた、という様子でリヴィアは言った。
 カインは静かに首を振る。
「これが見つかったのは、遺跡の外で……だな。だが、この牙も相当に古いものであることは間違いない。そして、力ある動物を神聖視し、あやかろうとするのは珍しくもない事だ」
 嘘である。
 ワニの牙は、つい先日に急いで用意されたものだ。それっぽく汚すために、瑠璃がわざわざ1度、土に埋めている。
 厳かに告げるカインの言葉に、リヴィアは思わずといった様子で唾を飲み込む。
 ゴクリ、と喉が鳴るのを見て、瑠璃は「ナイス!」と小さな声で賞賛を送った。

 古い遺跡だ。厚く積もった埃と土砂に、岩壁に刻まれた象形文字と、何かの壁画。
 長い間、人が踏み込むことの無かった場所だ。ランプの明かりに照らされて、空気さえ煙って見える。
「今日はもう1人、案内人が来てくれているはずよね?」
「あぁ、それなら……」
 あっちだ、と世界は遺跡の壁際を指し示す。そこにいたのは、褐色の肌に白い髪をした中性的な黒衣の人影。カメラに気付いた人影は、ほんの少し頭を下げて礼をする。
「聞け、霊の声を……私は古の英知を継ぐもの、ラサのシャーマン『紫の花』ぞ」
 リースヒースだ。
「我は無名の伝承者。失われた歴史を代々受け継ぐ砂漠のミステリアス美女」
「それが何だって、ワニの頭蓋を被ってるんだ?」
 カメラの前に歩み出たリースヒースは、頭にワニの頭蓋を被っていた。世界の問いに、リースヒースは深く頷き、言葉を紡ぐ。
「万物はワニより始まった。死を司る黒きワニ恐竜、生を司る白きワニ恐竜。愛し合いながらも宿命故に滅ぼし合う大恐竜神。それによって毎年洪水が起きたりピラミッドが出来たりした」
「つまり、この遺跡は古き時代のワニによって作られたもの……ということか」
 リースヒースの背後の壁をランプで照らして、カインは言った。
 壁に描かれているのは、巨大なワニと、それを挟んで争う2つの部族の絵だ。
 絵の周囲には、けれど不思議と黴や埃が付着していない。
「手入れがされているようだ。もしかしたら、この遺跡には誰か住んでいるのかもしれない」
 世界はそう呟いて、リースヒースへ視線を向けた。
 けれど、リースヒースは無言で首を横に振る。近隣に長く暮らすシャーマンにとっても、この遺跡は未知なのだ。

「ワニって現代に生き延びた恐竜の子孫みたいで格好いいですよね」
 そう言って瑠璃が拾い上げたのは、1本のワニの牙だった。その大きさは手の平ほど。土に塗れて、変色している。長い年月、土の中にあったのだろう。
「……私が埋めたものじゃありません」
 声を潜めて瑠璃は言う。
 
 ランプの小さな明かりを頼りに、一行は遺跡を先へと進む。
 なだらかな斜面を下るにつれて、辺りに湿気が満ち始めた。リヴィアは襟元に巻いたスカーフを緩め、鍔の広い帽子を脱いで顔を顰める。
 その頬には、細かな汗が浮いていた。
「湿度が高いわね。シャーマンさん、この先には何が?」
「……おそらく地底湖であろう。知っておろう地下空洞説。地下下水道に白いワニ伝説の起源でもある」
 視線を前に向けたまま、リースヒースはそう言った。
 岩肌や土が剝き出しになった粗末な通路だ。けれど、粗末ではあるものの、それは確かに一見して“通路”であると認識できた。
 つまり、人の手が入っているということだ。
「そう、かつてラサの地下には肥沃な大地があったことはファルベライズの伝説にある通り」
「そしてワニ……か」
 ふと足を止めたカインが、カメラで壁を映すように合図を出した。
 エントマがカメラのレンズを壁面に向けた。瑠璃が掲げたランプの明かりが、壁に描かれた古い絵を浮かび上がらせる。
「これは……さっきの絵よりも、先の時代に描かれたものだな。顔料に特徴がある」
 壁画に描かれているのは、巨大なワニと、その周辺で踊る人間たちの姿だ。人間たちの手には槍。何かの儀式か、或いは祭りの様子を描いたものだろう。
 よくよく見れば、人間の恰好には2種類がある。入口の壁画では争っていたはずの2族だが、こちらの壁画においては共同で祭事を取り行っているようだ。
「ワニを祀る儀式か? 古の人達がワニを祀った祭事を執り行ってたのは……ワニを神格化し奉っているのか?」
 そんなカインの呟きが、暗闇の中にポツリと落ちた。
 余談ではあるが、件の壁画は先行しているハインとユウェル、鈴花が用意したものである。

 謎の遺跡の地下深く。
 暗闇の中で、微かな水音が聞こえていた。
 風の流れもある。どうやら、地底湖のどこかが地上へと繋がっているらしい。
「随分と広いな。ここを調査するには骨が折れそうだ」
「簡易な拠点を作るのがいいだろうな。何かしらを見つける度に、地上に戻るわけにもいかないだろう」
 荷物を降ろす世界へと、リースヒースがそう言った。

 リヴィアと瑠璃が、湖の畔に近づいていく。
 光の届かぬ地下深くということもあり、湖の水は氷のように冷たかった。底なんて無いかのように、湖は暗く、深い。
 じぃ、と水面を覗いていると、何かに引き摺り込まれてしまいそうな感覚を抱く。
「こういうところにワニって住んでいるのかしらね?」
「どうでしょうか? ワニの先祖が居た頃は水が豊かだったけど、環境が変わったので地下遺跡に移り住んだ……とか、ありそうですよね」
 冷たい水で手を洗い、リヴィアと瑠璃が言葉を交わす。
 自身のギフトで、作戦会議の記憶を喪失しているリヴィアとは違い、瑠璃は今回の探索がマッチポンプであることを知っている。
 何しろ、この後に発見される予定の隠し部屋と石板は、先だって瑠璃が仕込んだものだ。
(とはいえ……何となく、良くないことが起きる予感が)
 なんて。
 そんなことを想う瑠璃の視界の端に、白い影が揺らめいた。

「何か来てるぞ!」
 世界の叫びと、獣の咆哮はほぼ同時。
 盛大な水飛沫をあげて、現れたのは巨大な白いワニだった。尾の先までの長さは10メートルに近いだろうか。
 巨大な顎とずらりと並ぶ鋭い牙、目は退化しているのか存在しない。
 地底湖での生活に適応したのだ。
 バクン、と閉じられた顎がリヴィアの身体を挟み込む。次いで、ワニは水中で体を回転させた。
「デスロール!?」
 瑠璃の叫びは、飛沫の音にかき消される。
 けれど、急にピタリとワニが停まった。ワニに噛まれた姿勢のままで、リヴィアが顎を魔力で編んだロープで縛ったのだ。
 次いで、ズドン! と。
 空気の震えるほどの轟音。
 魔力で形成された黒顎が、ワニの喉を抉り取る。

「あ、やば……思わず出て来ちゃった」
 黒顎をワニに撃ち込んだのは鈴花だった。頭に黒いワニの被り物をして、衣服もワニ革制のものに替えている。
 リヴィアがワニに襲われたのを見て、思わず飛び出して来たのだろう。
 静寂が満ちた。
 ワニの顎の間から、水に濡れたリヴィアが這い出す。
「えーと」
 ぐるり、とエントマが辺りを見回した。
 リヴィアの傷も深くない。主要なキャストは揃っている。
 カメラを止めるか、それとも勢いで押し切るか。
「撮影続行!」
 エントマが選んだのは後者だった。

「ガ、ガオー!!」
 倒れたワニの元へ向け、鈴花が全力で駆け出した。
 突如現れた不審者へ向け、リヴィアが思わず腕を突き出す。その手に魔力の光が灯るのを確認し、瑠璃は慌てて彼女の手を引き後ろへ下がった。
 今しがた登場した不審者は身内である。間違っても攻撃を仕掛けるわけにはいかない。
 それに、鈴花を撃退する役は他にいる。
「シャイッ、シャイシャイッ、シャイシャイシャイ!!!」
 威勢の良い掛け声と共に、ハインが姿を現した。腰の辺りで両手を鳴らすその姿は、まさに未知の原住民といった様子だ。シャイ、シャイ! と雄叫びをあげる際、下顎をしゃくれさせているのがポイントであった。
「やー! てーい! ぴかー!!」
 次いで、斧槍を手にしたユウェルの登場。
 なお、ハインとユウェルは白いワニの被り物を付けている。

 翼を広げ、ユウェルが跳んだ。
 まっすぐに滑空すると、すれ違いざまに鈴花の喉へラリアットを見舞う。ユウェルが投げ捨てた斧槍を拾って、ハインがその後に続いた。
 ユウェルの尾と、鈴花の尾が打ち合った。
 衝撃で水面が揺れて、鈴花が体勢を崩す。すかさず、その細い首にユウェルが腕をかけた。
「シャイ! シャイ!」
 煽るようにハインが地面を踏み鳴らす。
 片腕を鈴花の首に、肩と脚を自分の脚で抑え込み、空いた片手をユウェルは天へ向かって掲げた。
「シャイ! シャイ! シャイ!」
 観客のボルテージが上がっていく。
「ガ、オー! って痛い! 痛いわよゆえ関節キメないでくれる!?」
 鈴花が悲鳴をあげる。
 けれど、ユウェルは止まらない。
 翼を広げ身体を浮かす。鈴花の背に跳び乗った。ユウェルの両足が、鈴花の脚に絡みつく。ユウェルの腕は、鈴花の両腕をチキンウィングの形に締め上げる。
 ギシ、と鈴花の肩関節が軋んだ。

「パロ・スペシャル……アレは痛い」
 カメラに映らない位置で、世界はそう呟いた。
 一方、カメラの前ではカインとリースヒースが興奮した様子で何事かを叫んでいる。
「あの2人……ワニみたいな尾が生えているぞ! そうか、この遺跡は、ワニの力にあやかり鼓舞すると同時に、危険なワニに襲われないという平和を祈願し奇跡に縋る信仰の形だったんだ!」
「あれはまさか、シャイネン族とナハト族! 実在していたのか……っ!」
「知っているのか、リースヒース!?」
「あぁ! シャイネン・ナハトの真の姿は! 二氏族の弔いであり混沌の均衡を保つ為の大儀式魔法! このまま祭が行われねばいずれ世界は滅ぶ!!」
 そう霊が言っているらしい。
 そこまで語ったリース・ヒースとカインは、世界の方へ視線を向けた。
「え、あぁ……俺が祭りやんのか。えっと」
「世界さん。あちらに」
 瑠璃が指し示した先には、亀裂の走った岩がある。ワニを模した模様が彫り込まれた岩で、その奥には瑠璃が仕込んだ石板が安置されているはずだ。
「行ってください」
「この争いを終わらせるのよ!」
 瑠璃に背中を押され、リヴィアの声援を受け、意を決したように世界が駆け出した。争うユウェルと鈴花の背後を駆け抜けて、岩へと張り付いた世界は、亀裂の奥から1枚の石板を引き抜いた。
 石板に描かれているのは、手を取り合い、ワニを喰らう2族の姿。
 聖なる夜に争う2つの部族が和解に至ったという、古い歴史の記録であった。
「このままじゃ、ちょっと爆発が足りないよな」
 自棄である。
 石板を頭上へ掲げると同時に、世界は背後へ妖精爆弾を投げ捨てた。
「お前たち、争い合うのはそこまでだ!」
 絶叫。
 そして、大爆発!
 爆炎を背負い、石板を掲げる世界の前にシャイネン族とナハト族は争いを止め、跪く。
 古の時代より今へと続く2つの部族が、長い歳月と幾度もの争いの末……今、この時に再び手を取り合ったのだ。
 それは、今は既に失われた、古い時代のシャイネンナハトの光景だった。

●かくして歴史は紡がれる
 暗転した画面。
 静かな、囁くような声で紡がれるのは、ラサに伝わる(捏造)古い伝承の一幕だ。
 
「昔々、シャイネン族とナハト族というワニの一族がいました。
 シャイネンとは「光る」「輝く」という意味であり、ナハトは「夜」という意味です。
 白いワニと黒いワニは当然のようにライバル関係であり、争いが絶えませんでした。争いは何も生みません。多くの命が失われました。
 そんなある日、戦争の場に1匹の巨大なワニが姿を現しました。巨大なワニを打倒するため、2つの部族は手を組みました。
 ワニは2つの部族の争いを終わらせるために、神の使わした魔獣だったのです。
 かくして争いは終わり、2つの部族は共に繁栄を目指すことを固く誓い合いました。
 その戦いを見た人々が後世に伝えた物語こそが、今に伝わるシャイネンナハトの元型だったのです」
 そうして映像は終わる。
 薄暗い部屋に、音もなくハインが入って来た。ハインは両手で抱えた石板を、カザリの前に差し出して告げる。
「そしてそれらの証拠となる壁画(偽)を、あの遺跡(偽)で僕達が発見したのです」
 どうぞ、と手渡された石板をマジマジと眺め、カザリは感心したみたいな吐息を零した。
「へぇ、こりゃすごい。よく出来てるな……あぁ、ちょっと見た程度じゃ、これが最近作られたもんだって誰にもわかりゃしないだろうよ」
 かくして、映像資料と証拠の石板は“地獄の釜”へと渡された。
 後は、それをいい感じに料理して「月刊“ヌー”・シャイネンナハト増刊号」として売に出すだけだ。
「しかし、いい腕をしてる。どうだ、今度また一緒に歴史でも……」
「いえ。混沌でなければぶん殴られてもおかしくないですから」
 お断りします。
 と、そう言って、ハインは部屋を出て行った。

 それから暫く。
 月刊“ヌー”・シャイネンナハト増刊号の発売日。書店の前に、小さな屋台が出来ていた。
 屋台ではワニの肉が焼かれている。
「商売に絡めた事業計画書……に、添って屋台を出してはみたものの。これ、本当に私が作ったものなの?」
 紙の束に視線を落とし、リヴィアはしきりに首を傾げる。
 そんなリヴィアを放置して、鈴花とユウェルは一心不乱に、ワニの肉を焼いていた。あの日、地下遺跡で使ったのと似た、ワニの仮面を頭の上に乗せている。
「古来シャイネンナハトにはこのようにワニを食べる文化がありまーす。そして、出来たのがこちら!」
 ローストされたワニである。
 スパイスで味付けされたワニ肉が、食欲を促進させる香りを周囲に漂わせている。
「ワニがご用意できない方は何でも肉を焼いて、ワニお面を作ってしばいてから食べましょ」
「それにしてもワニと戦ってお肉食べるなんてラサのシャイネンは不思議だねー」
 もちろん、ユウェルと鈴花が狙うのは、本屋に並ぶ「月刊“ヌー”」の愛読者たちだ。特別号の記事を読んだ彼らはきっと、ワニの肉を食ってみたいと思うはず。
 その日以来、ラサの一部では「シャイネンナハトにはワニ肉を!」という、謎の文化が急速に広まり始めたと言う。

成否

成功

MVP

フロイント ハイン(p3p010570)
謳う死神

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様です。
皆さんの活躍により「月刊“ヌー”・シャイネンナハト増刊号」は無事に発行されました。
依頼は成功となります。
ラサの一部地域では、シャイネンナハトにはワニを食べる、という文化が徐々に広まり始めました。

この度はご参加いただき、真にありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。

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